コメディ・ライト小説(新)

Re: カオスヘッドな僕ら ( No.17 )
日時: 2020/09/25 15:22
名前: むう (ID: 9Yth0wr6)

 〈チカside〉

 
 やばい、やばい、やばいやばいやばいやばい。
 これは本気でヤバい。
 
 僕は耳まで赤くなり、目の前の相手を直視することも出来ずに視線を漂わせる。
 胸の鼓動がどんどん高くなり、息をするのも苦しくなり、初めての感覚に振り回される。

 あれから一日後の土曜日の朝。今いる場所は、とある子供部屋の一室。
 淡い色合いのカーテンやら、ベッドのわきに置かれてあるテディベアやら、床に敷かれてあるフワフワのカーペットやらからやたらと甘い香りがする。
 その香りをかぐたび、僕の心はちょっぴりくすぐったくなる。



 「も~緊張しすぎじゃのー、おモチくん」
 「だ、だだだだだ、だって………」
 「ほらほら、そんなところで固まっとらんと、こっち来て」


 ここは八雲の家であり八雲の自室である。
 幽霊の僕は、行くところもなく低迷していたんだけど、八雲が家に招待してくれたのだ。
 それについては物凄く嬉しいんだけど、なんというか、その……、その………。


 「なあなあ、うちの言った通りやったろ?」


 八雲の頬についている白札を取れば、収入も入るし仲良くなれる。
 そう言ったクコが二ヒヒッと愛嬌のある笑みを向ける。
 確かに、普段なら女子と必要最低限の会話しかしない僕が、こんな簡単に青春ぽいことを。
 感謝していいのか、どうなのか、複雑な気もち。

 
 「ホ、本当に、良かったの? お母さんとかは……」
 「ああ、いいのいいの。うち、父子家庭だから」


 あ、そ、そうなんだ……。
 急に聞いて、悪いことしちゃったな。
 そう言うと、「気にしないで」と八雲はニッコリとほほ笑む。
 笑うとえくぼが出来て、僕はそんな彼女がとてもかわいいと思った。


 「うちのお父さんは写真家で、ずっと外国にいるんだ」
 「え、ってことは一人暮らしなの?」
 「ううん、あんちゃんと、妹と、紗明との四人暮らし」


 あ、そっか。八雲って、妹がいるんだっけ。
 あんちゃん、ってことは、もしかして妹が二人いるの?


 「ああ、違う違う。あんちゃんっていうのは、お兄ちゃんってことだよ」
 「あ、あんちゃんって、そういう意味か」
 「そうそう。方言っていろいろあるけん楽しいよね」

 八雲の妹ちゃんは、かのんちゃんというらしい。
 漢字でどう書くのかと尋ねたら、『叶愛かのん』と書くようだ。キラキラネーム、恐るべし。
 ちなみにお兄さんの名前は『かける』。
 地元広島に住んでいたのだが、大学受験して今はこっちの大学に通っているらしい。

「おモテくんは、兄弟おる?」
「うん、同い年の弟が1人」
「双子ってこと? いいなあ、憧れるわー」

 双子の弟がいるのは別に嫌じゃない。
 ただ、生前、朔ー弟に何も返せなかった。
 朔、今何をしているんだろう。悲しんでないといいな。


 あれ、というか………紗明は、どこ行った?
 いつもなら、「おーゴキブリ。アルジ様に何か言ったらマジ許さねえかっな」とか言うのに。
 彼が家にいるなら、まさにライブハウス並みにうるさいと思ったんだけど……。


 むしろ、凄く静かだ。
 あれ、紗明、もしかして逃げた?


 「ちゃうちゃう。あそこにおるよ」


 そう言ってクコが一角を指さす。
 そこ―部屋の隅にいたのは、なぜか体育座りをしてズッド―――――ンと落ち込んでいる死神。
 

(あ、あれ、こいつ本当にあの紗明か?)

Re: カオスヘッドな僕ら ( No.18 )
日時: 2020/09/25 15:23
名前: むう (ID: 9Yth0wr6)

 〈チカside〉

 僕が近くに来たのが分かると、体育座りをしていた紗明がフッと顔を上げた。
 その表情にはいつもの元気がなく、目はとろんとしたいた。
 え、っと……。これは一体どういう………。


「あ、おはようございます! チカさん」
「ブ――――――ッッッッッ!」


 キョトンとしていた僕に、紗明が超絶爽やかスマイルを向けて来た。
 八雲から渡されたカフェオレが、数メートルの記録更新。
 待て待て待て待て待て待て。一言突っ込ませろ。

 キミはあの紗明だろ?
 ドMでパリピで、口調の端々にやたらと英語が入る独特の喋り方をするロリコン死神の。
 そんな、学校の生徒会長みたいな敬語で、それもあの死神がっ!?


「本日は、お日柄もいいですが、チカさんは何をなさるおつもりで?」
「…………ワンモアプリーズ」
「本日は、お日柄もいいですが、チカさんは何をなさるおつもりで?」

 一言一句間違えることなく、紗明が言葉を繰り返し伝える。
 なんだこりゃあ……。
 開いた口が塞がらない僕は助けを求めようと、横にいるクコたちに視線を移した。


「言ったやろ。コイツ、二重人格者やから、朝は大体こんな感じ」
「そうそう。コケコッコーでもうこの人格なん。『夕焼け小焼け』の曲流れたら、あっちの人格」


 ………君、結構めんどくさい性格してるんだな。
 褒めてるのか、けなしているのかと聞かれたら、間違えなくけなしてるよ。
 だって、はっきり言って………かなり迷惑。

 
「あ、でもコイツのことが好きな子は、おるねんで」
「マジっ!??」


 コソッと耳打ちしてきたクコの言葉に、驚きを隠しきれない。
 こんな、うざい・うるさい・胡散臭いの3U死神のことが好きな人なんているの?
 だ、だ、誰?


「ユルミスっちゅう、うちの後輩。悪魔族の可愛い子やった」
「へぇ。悪魔って、実在するんですね」
「どーゆーわけか、あの子めっちゃ紗明のこと好いてんで。もうわけわからん」


 そうは言いましても、恋愛は人それぞれだし、恋は盲目って言うし。
 まぁ、彼のどこに惹かれたのか、尋ねてみたい気持ちもなくはないけれど。
 
 でも、朝夜変わるたびに性格チェンジされちゃ、こっちがかなりしんどい。
 朝目覚めるたびに飲み物を吹き出さなきゃいけないとか、地獄だ。
 生きている時、受験が人生の地獄だと思ってたけど、それとはシャレにならないね。


 と、その時。
 ガラッッと八雲の部屋の扉が外側から開き、ドアの隙間から猫の模様の可愛いスリッパが見えた。


「八雲ォ。今日は叶愛かのん迎えに行った方がいいな?」
「あ、あんちゃん! こっちこっち、今日お客さんが来とるん」
「ほぉ。お前のお客っつーと、いっつも人間じゃねえが今回はちゃんとヒトの形してんだろーな?」


 入ってきたのは、大学生くらいの男の人だった。
 その容姿に、僕はポケーッとだらしない表情のまま固まってしまう。
 服装も百均の安いTシャツだし、着飾ったところもなにもない。
 だけれど彼の仕草からは妙に艶っ気があって、なんというかキラキラしてて……。


 でも。


 なんですか、その奇妙な会話のやり取りは。
 八雲、キミお兄さんにどんな子を紹介してんの?
 いっつも人間じゃないって……。しかもそのヒト(?)たちお兄さんにバッチリ見えるって……。
 あなたの家族、霊感ありすぎじゃないですか?



「こっち、おモチくんこと百木周くん。幽霊なんやけど、私と一緒に札狩しとる」
「………あ、どうも。百木です」

 
 話の速い展開に脳が追い付かない僕は、紹介されるがままにお兄さんの前でペコリと頭を下げる。
 八雲のお兄さん―かけるくんは、ふうんと鼻を鳴らすと、そっと手を差し出して来た。

「翔です。よろしくね、チカくん☆」


 そう言って、手をピストルの形にすると、僕に向けてバキューンと鉄砲を撃つポーズを取った。
 その瞬間から僕の頭の中には、『翔くん』という単語が『バキュン先輩』と変換されてインプットされる。この先、多分絶対翔くんではなく、バキュン先輩と呼ぶだろう。


「紗明もおはよう」
「おはようございますお兄様。本日は大学へは行かれないのですか?」
「うん。今日は午後から受講すんだ。だから百木くん!!」


 バッッ! そう効果音がついてもおかしくない。
 バキュン先輩はくるりと振り返ると、僕の両手を取る―ふりをして(僕が幽霊だからだ。握ろうとしたら多分すり抜けるだろうからエアで)、イケメンスマイル。歯も見間違いじゃなければ光った。

 
「今からお兄さんと一緒に、オカルトトーク(大人の世界)を勉強しよう!!」



 拝啓、最愛なる弟・朔へ。
 いきなり死んじゃってごめん。元気にしている?
 そっちの用事がなければ、今すぐヘッドホンとスマートフォンを持って、こっちに来てほしい。
 大音量で、デスメタルを流してほしい。


 だから。



 誰か僕をこの世界から連れ出してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!

Re: カオスヘッドな僕ら ( No.19 )
日時: 2020/09/25 15:27
名前: むう (ID: 9Yth0wr6)

 
〈朔side〉

 今日は土曜日なので、俺―百木朔は朝から自室にこもっている。
 下の階ではママのすすり泣く声が聞こえる。
 愛する息子を失った悲しみを、ママはずっと引きずっている。
 そんなママの背中を、パパがさっき優しくさすっているのを見かけた。

 俺の勉強机の上には、写真立てが三つほど置かれてある。
 一番小さいやつには、赤ちゃんの頃のチカとの写真。
 中くらいのやつには、七五三の時神社で撮ったチカとの写真。
 一番大きいやつには、小学校の卒業式の日、友達数人とチカと撮った写真。

 小学校卒業後、頭が良かった彼は近所の公立中学じゃなくて、中学受験して私立の中学へ進学した。
 俺もその中学の入試を受けたけれど、あっさりと落ちた。
 チカと一緒の中学じゃなくても、実際上手くやっていけている。
 それでも、もう少し兄弟で過ごす時間を、満喫したかった。

 チカが幽霊だと知った時、会いにいけることが嬉しかったけど、パパやママはチカにもう一生会えないことに、少なからず胸が痛んだ。
 俺だけ、いいのかな。


『ねーねーチカ! これ、聞いてみて!』
『それ、またデスメタルでしょ。最近の流行りの曲とか、興味ないの?』
『俺の中ではこれが流行りなの! ほらほらー。再生するから感想ちょうだい!』

 
 こんなふうに、兄が参考書とノートを読み比べながら勉強していた時、俺はぐいぐい身を乗り出して、半ば強引におススメの曲を進めることがあった。
 でもチカは失礼な弟を怒ったりせずに、まぁ少し迷惑そうではあったけれど、それでも優しく俺の話を聞いてくれたっけ。


 これは、チャンスかもしれない。
 今までチカには沢山世話になったから、こんどは俺の番だ。
 ここからが、朔ofストーリーだ。ここが、リスタート地点なんだ。

 黒札だろうが、流行に疎い性格だろうが知ったことか。
 俺は俺のやり方で、チカに会いに行くよ。


「というわけで……シアちゃんから盗んできたiPadでチカを探したいんだけど…これ、どうやって使うんだろう……?」

 シアのiPad(悪魔が最新機器を持ってるのもおかしな話だけど)は、可愛い紫色。
 人間が使うものと同じようなつくりだ。
 ホームボタンがあって、長押しすればsiriもとい、『ari』が「コンニチハ」。

 ……天界のグローバル化ってすごい。


「Hey ari。iPadの使い方を教えて」
≪はい。まずは、両足がちゃんと地面を踏みしめているか、確認しましょう≫



 ……………んん?
 何か今、変じゃなかったか?

 

「うん、ちゃんと地面を踏みしめてるけど……」
≪ちゃんと、指はついていますか? 脚は切断されてありませんか?≫
「怖いんだけど!??」

 流石、悪魔のiPad。AIも中々のサイコパス脳だ。
 初めてだよ、四肢が両断されている前提でAIに話しかけられるの。
 万が一そんな状態で、多分操作できるだけの力なんかないよ?

 
「あ、じゃあさ、チカの居場所を教えて」
≪地下駐車場の、web検索結果はこちらです≫

 あ、そーゆーところは同じなんだね。
 滑舌が悪いと、siriがちょくちょく聞き取りをミスるやつ。
 

「百木周の居場所を教えて」
≪かったりーな≫


 …………………んん?
 今、聞き間違いじゃなければ「かったりーな」と聞こえたんですが……。
 おーい電気屋さん、今すぐ返品してもいいですか? 電話の子機はどこ行った?


 
≪百木周は、身長158㎝、貴方の方が若干小さいですねアハハハハ≫
「二択だ選べ。お風呂に沈められるのがいいか、マンションの48階から落とされるのがいいか」
≪お風呂は38℃設定でお願いします。マンションの階段を登るときは、人にすれ違ったら挨拶を≫


 ああ、もうコイツはダメだ。
 シアちゃん、こんなAIをよく相手出来るなぁ。俺は開始3分でガチギレしたよ。
 こんな調子で、本当にチカに会えるのかなぁ?
 

Re: カオスヘッドな僕ら ( No.20 )
日時: 2020/09/25 15:32
名前: むう (ID: 9Yth0wr6)

 閲覧数400突破! ありがとうございます!
 これからも皆さんの固定概念をメッタメタと破壊しますので( `・∀・´)ノヨロシクです。
 
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 〈朔side〉

 
 そんなこんなで、俺は壊れた(?)iPadをお風呂に沈めようと思い立つ。
 腰かけていたベッドから降りようと、お尻を数センチ浮かしたそのとき。


 バキバキバキバキバキッッ

 
 突然、轟音が轟き、ベッドのすぐ横の窓ガラスに亀裂が走った。
 ……………え???
 俺は状況把握が出来ず、ただ茫然とヒビの入った窓ガラスに視線を移した。



「朔――――? 大きな音がしたけど、大丈夫――――――?」


 そしてその音は、下の階にいたママたちにも聞こえたようだった。
 さっきまで、チカを失った悲しみを拭いされずにすすり泣き、あんなに何十分もかけたメイクをぐちゃぐちゃにしていたママが、今はよく透る野太い声で叫んでいる。


「あ、だ、大丈夫だよママ!」
「朔、今本当に大丈夫なの? ママ上に行こうか?」

 
 それをされると、どれだけ男としてのプライドを傷つけられるか、ママは分かっているのだろう?
 そうじゃなくても、この状況をママがすんなりと呑み込めるとは考えにくい。
 俺は内心冷や汗ダラダラになりながら、それでもなお下にいるママに向かって叫び返した。

「ほ、ほほ、本当にダイジョブだから! ドアに腕打ち付けてヒビ入っただけだから!」
「え、……そ、それなら大問題だけれど……」
「とにかく、俺もう子供じゃないよ! あっち行ってて!」


 俺のその言葉を機に、階段を上がっていた足音が次第に遠ざかる。
『全くこの子はいつもいつも……』というグチは俺の左耳から右耳を通って空気の中へ。
 ふう、と胸をなでおろしたのもつかの間。


 パリンッッッッッッッッ!!


 また、大きな音が響いて、今度は完全に窓ガラスが割れた。
 頭から毛布を被って、破片の落下の衝撃をふさいだ俺は、毛布の隙間からそっと部屋を見渡して。


 そして……見てしまった。
 部屋の中央にいる人物たちを。
 多分、こいつらが窓ガラスを突き破って、部屋に侵入したのだろう(大問題だけれど)。
 でも彼ら、人物と呼べる存在ではない。なぜなら、それはどれも人の形をしていないからだ。


 白いワンピース姿の、長い黒髪の女はテレビでよく見る「貞子」そっくりだし。
 中には地獄の番犬「ケルベロス」にそっくりな、頭が三つもある犬が呻き声をあげているし。
 そして何より、部屋の真ん中で圧倒的な存在感を放っているのは。
 ヘドロ状の体に、無数の目玉が埋め込まれたカイブツの姿だった。


「朔―――――――? ちょっと本当に大丈夫? またドアで挟んだりしたの?」
「そそそそそ、そ、そうだよママ! ちょっと最近疲れてて、PS4足の上に落としちゃった」
「気を付けなさいよー?」



 ……………え、え、これはどういうことだろう。
 夢、だったりするのだろうか。試しにホッペをつねってみるが、赤くはれただけ。
 夢じゃない。じゃあこれは一体どういうこと?

 もしかして、俺が黒札の資格者だから、黒札に引かれて悪霊が集まってきたとか。
 考えがまとまったのと同時に、背中から悪寒が走り、手足に鳥肌が立ち始めた。


 やばいよ………! このままじゃ俺、あいつらに食われて終わりだ。
 なにか、戦えるもの……ないよ!
 チカの部屋だったら、数学オリンピックのトロフィーとかあるけど、隣の部屋だし……!


 神様ごめんなさい! できの悪い人間で本当にごめん! チカごめん、許して!
 生まれ変わったらママとパパに優しくします! ちゃんと先生の言うことも聞きます!
 女子に優しくするし、あぐらかいたり鼻ほじったりしません!


 だから、誰か助けてッッッッッッッッッッッ!!!!!


 俺がそう心から叫んだときだった。



 ――――――――「スターバスト!」



 誰かが鋭く叫ぶのと同時に、部屋いっぱいに閃光が駆けぬけた。
 よく、弾幕ゲームとかでよくある、「ズバァァァン」的な効果音がつく必殺技のような感じ。
 閃光に吹っ飛ばされた貞子(仮)やケルベロス(仮)たちが、「プピャギュッ」と変な悲鳴を上げながら光に呑まれて行った。


 
「……………――?」
「一件落着だな! ほらよー。テメー、このまんまだと永遠に狙われるぞ!」

 
 超絶ロリ声でそう言ったのは、外見年齢15歳くらいの女の子。
 黒を基調としたドレスに身を包み、明るい茶髪の髪はヨーロッパの貴族みたいな縦ロール。
 そして背中には、コウモリっぽい羽がついている。

 
「…………助けてくれて、どうもありがとう。………君は?」
「ユルはユルミス・ローズベリ! あっでもぉ、パイセンたちには『ロリ』って言われてっから、ロリでいーぞ。ユルはただパイセンに会いたかっただけなんだけど、まぁ命救えてよかったー!」


 乱暴な口調ではあるけど、ハイトーンボイスの、それもショタに言われちゃ全てが「可愛い要素」にチェンジ。シアの可愛さはちょっと怖いけれど、この子の可愛さは純粋そのものである。
 あぁぁぁ、尊い……。ギュってしたい。抱きしめたい。


「ん? 君、苗字はローズベリなの?」
「さっきからずっとそう言ってるじゃん」
「いや、君と同じ苗字のシアって子に、つい最近会ったばっかりだから」

 もしかして、家族―だったりするのかな?
 シアも、『姉は札狩の方についたからメーワク』とか言ってたし。
 よくよく見ると、ユルミスの顔はシアにそっくりだ。


「………別に、同じ苗字の人がいただけ。つーかさ、あんたと一緒に逃げようかと思ってんだけど」


 ユルミスは一瞬の間をおいて、視線をそらして言った。

「あ、そ、そうですか」
「パイセンが百木なんちゃらと一緒にいるらしーから、そいつのことも知りたいし」


 ………ん? 百木、なんちゃら?
 百木はよくある苗字じゃない。もしかして!


「その、百木なんちゃらさんは、ひょっとしてチカっていう名前だったんじゃない?」
「おー、よく知ってるなー!」
「その子、俺の双子のお兄ちゃんなんだ。だから、一緒に行きたい!」
「テメー、百崎チカの弟なんだな。ってかよく見ると顔も似てるし。名前、何ていうの?」

 ユルミスさんユルミスさん、いい流れで悪いんだけど一つ突っ込ませてもらうと。
 百崎じゃなくて、百木です。

「朔。百木朔、中3」
「んじゃ、テメーのことは今日から『ももたん』だ! 嫌だとか言ったら魂抜くかんな!」
「ももたんっ………!! 俺死んでもいいかも……! って、魂、抜くんですか?」
「魂のスープ、めっちゃうめーんだよ。お前も飲むか?」


 …………ご遠慮しときます。
 というか、魂抜いたり、身体を両断したり、人間の脚食べたり……。
 天国って、もっとDon’t warry be happyなところかと思ってたんだけど……。


「あ、人間の脚食べるていうのは、悪魔族の冗談みたいなもん。だから真に受けなくていーよ!」
「大分エッジがきいた冗談!!!」


 というわけで、ユルミスという悪魔(?)の少女が、今日から俺の味方となり、一緒にチカを探す手伝いをしてくれるようになったのだった。


 それはいいとして、………………窓ガラス、割れちゃったze☆ 
 ……どうすんだよ、これ。