コメディ・ライト小説(新)
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.30 )
- 日時: 2021/03/04 18:27
- 名前: むう (ID: mkn9uRs/)
〈チカside〉
おかしい。僕は何度も心の中で首を傾げる。
先ほどから必死に札狩について議論を交わしているクコたちの会話は、僕にとってはあっさりと空気に溶けていったも当然だ。考えすぎてついにくらくらしてきた体を必死に真っ直ぐに戻し、油を売ったことが気づかれないように相づちを打つ。
「――で、思うんやけど、いつ敵が来るかも分からへんから……」
「連絡取ったほうがいいかもしれないってことですね!
私紗明パイセンと個室でオハナシしたいです!」
……個室?
個室って、LINEで言う所の個別チャットっていうことでいいのだろうか。
何故そう言う単語を天界の人間が知っているのかはもうスルーしておくことにしよう。
世界は広い。そういうことにしとこう。
「ということで八雲。百木くんと交換しておいで」
「うん!」
「ふぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!??」
思わず大声を上げた僕に、みんなの視線が一気に集中した。
真っ赤になって慌てる兄をしり目に、朔はくすくすと含み笑いをしていたずらっ子のような目で言う。
「もしかしてチカって、八雲ちゃんのこと好きなの??」
「ち、ちがっっっ」
「ブ――――――ッッ ゴホッッ ゴホゴホッッ」
一階から持って上がったオレンジジュースを口に含んでいた八雲が、盛大に液体を吹き出す。
幸い彼女は部屋の隅っこにいたので他の人の服が汚れることはなかった。
犠牲は淡い桃色のカーペット。
サスペンスの殺人現場のように、敷物の上にじわりとオレンジ色が滲んでいく。
「っっっ!?? ごめん、すぐ拭く―」
「あ、僕が―――」
二人同時に机上に置かれてあった濡れ布巾に手を伸ばすと、自分の手のひらの上に八雲のほっそりとした指がつんと触れた。
その柔らかい感触を改めて感じ、僕は。
「っっっっっ!???」
「……ご、ごめんね、ささ、すぐに拭かなきゃっ」
とっさに横に視線を逸らすと、彼女も恥ずかしさを隠すように慌ててカーペットを拭き始める。
お互い、頬をほんのりと赤く染めて。
僕の様子にしびれを切らしたのか、クコがゆさゆさと肩をゆすってくる。
あまりにも力が強いので、僕の首はブランコのように前後に揺れた。
「ほらほらー。好きなんか? 八雲ちゃんが好きなんか??」
「分かるよ俺。八雲ちゃんって可愛いし、なんかこう守ってあげたくなるよね」
「せや。髪からもいい匂いするし、気遣いできるし、いい嫁さんやん」
と朔と一緒にどんどんと精神を攻撃してくる。反論しようにも、彼らの言葉一つ一つをしっかりと呑み込んでしまい、ますますいたたまれなくなる。
動け口……! 違うんだよ、ホントに違うんだよ。ホントだってば!
「ちょ、やめ…………タンマ………!」
いい加減我慢の限界になり、白旗を上げると、朔とクコはつまんなそうに口を尖らした。
こいつらは完全なるS族である。警戒せよ! 了解大佐!
と頭の中で唱えたところで。
ずっと黙って成り行きを見守っていた(と言うか完全に引いてた)バキュン先輩が、僕の頭にポンと手を当てる。それは多分、僕を安心させようと……。
「大丈夫だよ百木くん。だっていいものじゃないか☆ koiwazuraiって☆」
してませんでしたね。アーメン。