コメディ・ライト小説(新)

Re: カオスヘッドな僕ら ( No.33 )
日時: 2021/03/31 19:19
名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: mkn9uRs/)


 「……ふんふん、ああ、OKOK。ちゃちゃっとやるから、うん」

 日にちは変わり、一週間後のある日のこと。八雲家から徒歩10分程度の場所にある【きらら駅】。その構内にあるクレープ店の前に彼らはいた。

 中学3年生くらいの背丈の、男の子と女の子の組み合わせだった。

 女の子の長い黒髪は高い位置でツインテールにしてある。
 今時流行りの短いスカートと、ブランド物の裾がふわっとなった黒地に猫のプリントがされたパーカー、丈の長い紺のソックスのファッション。
 前髪はこけしかと思うほど綺麗に短くそろえられていた。

 男の子の方は、学校の制服なのだろう。
 白いカッターシャツに、ほどよくアイロンの行き届いた黒いズボン。


「……どうだった、連絡取れた?」


 男の子が、電話を切った女の子の方に視線を向けた。
 女の子は男の子と目が合うと、いたずらっぽく頬に人差し指を当てて微笑む。


「バッチリだよ。だからキョーちゃんも心配しなくて大丈夫」
「……そう。それならいいや」


 キョーちゃんと呼ばれた男の子は、満足そうにニッコリ笑う。
 笑うとえくぼができる彼の優しい表情が、女の子は好きだった。


「ウチらって結構仲良さげ?」
「知らないけどそうなんじゃないの。御影みかげとは付き合い長いしね」
「まぁね~」

 二人は並んで構内を歩いていく。
 傍から見れば、二人はお似合いのカップルのように見えたかもしれない。
 しかし彼らの関係は、そんな簡単な言葉では表せないものだった。

 男の子—佐倉享介さくらきょうすけと女の子—御影月菜みかげるなの付き合いはまだ浅く、出会って2カ月にも満たない。中学は別々、幼馴染でも、習い事で一緒なわけでもない。


 でも彼らは、『ある目的』でコンビを組んでいる。


「ほんと嫌になっちゃうよね。パディほったらかして姿消すなんてさ、悪魔もよくやるよね」
「……御影が使えないんじゃないの。そもそもコスメ系YouTuberなんて、数カ月もすればネタもお金も尽きて、そのうち飽きるのが落ちなんだよ」


 お金の関係で買えなかった苺クレープが並んでいるショーケースから未練がましく離れた月菜は、享介が怒らないのをいいことに愚痴を言いまくる。
 享介はそんな彼女を別に咎めたりしない。うるさいなくらいは多少思うけれども、「この頃の女子はみんなそうだし」と父親的な精神状態になるタイプだった。


 月菜は最近人気の中学生YouTuber&ティックトッカ―で、大手人気YouTuberともコラボ動画を上げてるほどの実力家だが、メディアに疎い男子代表キョーちゃんにはそのすごさがいまいちわかっていない。
 いつもこうやって鼻であしらわれるが如し。


「それまでに沢山ネタ集めてフォロワー増やすもんね」
「もうすでに50万突破の人間が良く言うよ。だいたいなんで君がこんなことやってんのさ。ただのじゃじゃ馬? それともエゴ? かっこつけ?」


 亨介はかなり口が悪い。本人は自覚がないが、その静かな攻撃は徐々に乙女の心をえぐっていく。 
 月菜は肩眉をひそめると、たいして悪びれていない男をギッと睨んだ。


「……あんたには関係ないでしょ。そもそもウチは今の状況に満足してるしね」
「………僕らは黒側だよ。それ分かってる?」


 諭すように、低い声で亨介が告げる。反対に、月菜はニンマリと口角を上げる。彼女は何か特別な考えがあるときや、質問の答えが分かったときなど、こういう顔をよくするのだった。


「札狩たちの敵……ヴィンテージQ班。グループコード名『ゼノ』。ウチらはヴィラン(敵)」
「……ま、札狩も、よもやヴィンテージの中に人間がいるとは考えないだろうね」