コメディ・ライト小説(新)
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.41 )
- 日時: 2021/10/02 20:22
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: Wg4W7im6)
〈クコside〉
「すごいで百木くん! ほらもうこのサイトに名前が載ってるやん!」
「……なに? 今忙しいんだけど……」
シュコー………。
ブロロロロロロロ………。
狭い室内に掃除機の音が響く。
八雲ちゃんたちが家を留守にしている間、うちと百木くんは八雲ちゃんの代わりに家事をしたり、町内をパトロールしたりして着々と仕事をこなしていた。
そんななか、ついに今日、札狩で高収入を収めた人の名前が記載されている天界のサイトに、〈Angel・Hunters(エンジェルハンターズ)〉に、百木周の名前が記載されたのだ。
興奮してアイパッドを突き出すも、掃除中だった百木くんは掃除機片手に渋い顔。
眉尻をさげて、触れたくないものに触れた時のようにシッシと右手を払う。
「どうせロクなもんじゃないだろ。クコのことなんだから。分かってるって」
「なんや! だいたいうちがいなきゃ、あんた今頃悪霊に食べられとんねんで! ちょっとはこの可憐な美少女に感謝しィやっ!」
最近の百木くんは言葉遣いがなっとらん。
外見こそこっちの方が年下に見られがちやけど、こちとら300年以上生きとる天使様やで。
まあ少々ポンコツなのは認めるけど、そんな簡単にあしらっていいような相手じゃないんや!
鼻息荒く憤慨すると、彼は謝るどころかしかめっ面になり、プイッと顔を背ける。
猛烈に腹が立ったうちは、慌てて彼の肩をつかまえると、その顔にぐいぐいとパッドを突きつけてやった。
「むぐぅ! もぉ何だよっ!」
「ちゃんと見てみい! 百木くんはこの一週間だけで20万も稼いでんのや! これは人間で言ったら登録者0人のYoutuberが一週間で登録者1万になったのと同じなんや。……多分」
「………マジ?」
「ほら、ここ! ここ!」
指で指し示した収入比較の表の一番下に、きちんと自分の名前が書いてある。その横には「20万」とも。
ようやく現実を認めたのか、百木くんの眼がキラキラと輝きだす。
(しょせん幽霊とはいえお子ちゃまやな)とうちは心の中で溜め息を一つ。
「ほんとに快挙。チカはすげーって思う! そしてそれはパイセンも同じことです!」
「まあなー。うちにかかればこんなもんよ。えへへへへ」
なぜか八雲家に居候している朔のパートナー、ユルミスの甲高い声が隣の部屋から聞こえて来た。
その後に、陽気なRPGのBGMも。
どうやらこの悪魔、所有者がいないのをいいことに勝手にゲームで遊んでいるらしい。
「ま、ここまでくれば、あの口うるさい室長もなんも言わんやろ。どう思うユルミス?」
「……その通りだと思います。ネートルお爺は昔っから、パイセンたちには甘いですもん」
「そんな、お孫大好き爺ちゃんみたいなことにはならないだろ……」
という百木くんのコメントをあっさりスルーし、盛り上がる会話。
うちが所属する天界管理局……いやゆる人間界で言うところの市役所のようなもんやな。
そこの室長…つまり一番のお偉いさんのネートル室長は、怒るとただでさえおシワが多いのに、血管まで手首に浮き上がらせて怒鳴ってくるから嫌なんだよな……。
「そういやユルミス。あんた、アカシックレコードの管理しとったやん。あんな精密機器ほったらかして、こんなところに居ってええん?」
アカシックレコードは、宇宙のあらゆる情報が記されている記憶媒体だ。
巨大な水晶の形をしていて、過去・現在・未来、すべての物事をこの水晶によって調べることが出来る。
とてもデリケートなものなので、普段は優秀な『守人』と呼ばれる管理者が管理している。ユルミスはその管理者の一人で、室長のお気に入りでもあるのに……。
「………減俸(げんぽう)ですよ、減俸。それと、勘当」
部屋に入ってきたユルミスが、きまり悪そうに頭をかく。
減俸というのは、お給料が減ること。勘当とは、部屋から追い出されること。
………なにをしたんや、一体。うちは、開いた口が塞がらない。
「室長の指示でパイセンの元へ向かう前に、ちょっと寄り道をし過ぎて、つくのが遅くなったのがバレたのと……あと、ヴィンテージの件で色々」
「………ヴィンテージ?」
ヴィンテージとは、札狩をよしとしないものの総称だ。
なんでも、昔は天界に住むものたちでチームを組んでいたようだけど、最近では人間と協力して活動しているっていう噂も聞く。
「ヴィンテージがアンタとどう関係が?」
「………ヴィンテージの幹部って、誰か知ってますか?」
斜めからうちを見上げる後輩は、どこか泣きそうな顔をしていたように思う。日の反射の具合で、はっきりとした表情はわからんかったけれど……どことなく疲れたように見えたんや。
「幹部? 確か………プリシラ・ローズベリやろ。ヴィンテージ以外にも、様々な事件をおこしてるって有名やん。そんな子が取り締まるんだから、ヴィンテージも大した奴はおらんのやろな」
発した言葉に対して意味はなかった。
類は友を呼ぶということわざのように、反札狩の集団が問題を犯しているというそれだけのことだと考えとった。別にユルミスを傷つけようとか、そんなそぶりはない。だけど。
「…………そ……………っかぁ」
ユルミスは笑った。泣きたい気持ちを噛み殺しながら笑ってるというような、そんな感じの痛々しい笑顔だった。
「そっかそっか」と彼女は明るく頷くけど……なんでそんな苦しそうなのか、馬鹿なうちはわからんかった。……考えようとしなかったんや。
早くに気づくべきやったんやと思う。そしたら多分、ヴィンテージのこともユルミスがなぜ勘当となったのかということも、短時間で解明できたのに。