コメディ・ライト小説(新)

Re: カオスヘッドな僕ら ( No.55 )
日時: 2022/10/02 23:20
名前: むう (ID: cClyX.aV)

 お久しぶりです。なんとなんと、約3カ月ぶりの更新になりますね。
 書いた本人が、お話をほぼ忘れてしまいました……PC直ったのに()
 ちょくちょく頑張りますのでよろしくお願いいたします。
 あとイラストも描いているのでそれも頑張ります。
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 〈朔side〉
 さっきのは一体なんだったんだろう……?と俺は首を傾げる。
 俺たちがいる場所は天界の管理局という、いわゆる天国の市役所のような場所だ。上司から呼び出しを食らってしまったクコちゃんたちにつき合って、俺-百木朔ももきさくも観光がてらついてきてしまった。
 
 俺たちを12階の室長室まで案内してくれるのは、天界の警察である保安課ほあんかの2番隊員である、セシルという天使の男の子だった。
 歳は同じ位だけれど、見た目の割に幼い言動をよくとる。いつもニコニコしていて、誰に対しても愛想がいい。

 だがしかし怒るときは、その笑みがフッと失われていた。
 彼の先輩である、保安課4番隊副隊長のルキアに自分の失態を見られてしまい、エレベーター内は一時期一触即発の修羅場になろうとしていた。

 だってだって、あのお二人どう考えてもビジネス不仲なんですもの………っ。
 ルキアはルキアで真顔で「仲良くない」とバッサリ切り捨てるし、セシルはセシルで怒られている時に彼と視線を合わせなかった。

 絶対仲良くないじゃん……。
 なのになぜ、セシルはルキアにありがとうと言ったんだろう………。
 苦手な先輩の怒りを少しでも鎮めるためだろうか。それとも意外と空気が読める子なのかな。
 あーあ。ここにチカか八雲ちゃんがいれば、すぐに答えを教えてくれるのに。
 
 釈然としないのはみんなも同じだった。クコちゃんは虚空を眺めて考え事をしているし、紗明も珍しく腕組をしている。ユルミスは、さっきから何も話さない。気まずそうな顔で後ろ側に立っている。

 しいんとした空気にしびれを切らしたのか、セシルが苦笑いを浮かべながらこちらを振り返った。

「もうみんな、そんな顔しないでよ」
「………あんたが悪いんやろ。こっちは巻き込まれてんのや」

 低いトーンでクコちゃんが告げる。さっきの騒動で、彼女の取り柄である明るさはごっそり持って行かれてしまったらしい。下からセシルを睨みつけるその視線も、いつもに増して鋭かった。

「こっちは給料も減ったし、後輩は解雇なったし、ついでに上司に今から怒られんのやぞ。それに仲間がついてきてくれるっちゅうことだけでも気分悪いのに、それにあんたたちのやり取りが上乗せされたら、うちもう悪魔に堕ちるかもしれん」
「……お前が悪に堕ちる想像が出来ませんね」

 紗明が呆れて言う。確かに俺の中でも、クコちゃんは絶対に闇落ちしないという確信があった。あんなに自由奔放に動いて、チカのお世話もちゃんとやってくれて、毎日笑いを届けてくれるこの天使が悪魔になるなんて信じない。

「あぁあぁパイセン闇落ちしないでくださいぃぃぃぃ」
「悪魔のあんたに泣かれても説得力ないんよ、ユルミス」

 ユルミスがクコちゃんの身体に腕を回す。
 その力が強かったので、クコちゃんは「うわっ」とバランスを崩しかけた。

「だってえ、近代の悪魔は人を呪ったりしない善良な悪魔ですからぁ、昔とは違いますしいいい………でもパイセンが古代の悪魔になるならそれもそれでカッコいいなぁ」

 おぉぉぉおいユルミス!? 君止める側じゃなかったの!?
 聞き捨てならない言葉に、俺は目を丸くする。このうえなく綺麗な手のひら返し。間違いなく殿堂入りだと思う。

「悪かったよ。俺とルキアはいつもこういう感じで、そりが合わないんだ」

 エレベーターのボタンが埋め込まれた壁に寄りかかっているセシルが、肩をすくめる。その表情には、少しばかりの寂しさが混ざっていた。
 泣きそうなのをこちらに悟られないように、セシルはマントの袖口で顔を覆う。

「俺が保安課に入ってからずっとこんな感じ。いっつもあの調子だよ。あいつは真面目だからね。ズボラな俺とは違うのは、分かってはいたんだけど」

 会議がある度にお互い眉をひそめ、廊下で会ったら顔を背け、腹を割って話そうとしたら意見は食い違う。どんな手を使っても全く関係は改善しなかったらしい。
 セシルはルキアと仲良くなりたいという意思がある一方で、ルキアは彼と一切かかわりたくはないという考えのようだ。聞いていて胸が締め付けられる。

「………ルキアは、強がってるだけだよ。本当は君と話したいと思ってるはずだよ」

 落ち込んでいる彼にどんな言葉をかけていいか分からなかった。でも、勝手に口が動いていた。
 俺はチカみたいに考えてから喋ることが苦手で、行動が先の人間だから。

 二人は、心の底からお互いを嫌っているというわけではない気がしたんだ。
 決して、大嫌いと決めつけてはいないという謎の確信があった。嫌いだったら「ありがとう」とか、「悪かった」とか、そういうセリフは出てこないはずなんだ。

「そうだと、いいね。………ありがとう、慰めてくれて」

 セシルはまたごしごしと顔を袖で拭う。そして、まだ右手に持ったままだった杖をマントの中に隠した。四次元ポケットか何かだろうか。どんな構造なんだろう……聞いていいのか。

 ウィィィィィンと、エレベーターの扉が再度開かれる。扉の外の廊下には、皇室でよくあるような、朱色の絨毯が敷かれていた。さっきまでの階にはなかったのに。

「ついたよ。室長室」