コメディ・ライト小説(新)

Re: カオスヘッドな僕ら【復刻】 ( No.56 )
日時: 2022/10/02 21:33
名前: むう (ID: cClyX.aV)

 久しぶりです。むうです。
 なんと……カオスヘッドな僕ら、復刻します!!
 理由としましては、時間の空きが出来たこと、もう一度カキコでやってみたいと思ったことです。
 なお、作者は学生ですので、不定期更新はお許しください!
 ではでは、復活後も楽しくカオスに狂って行きましょう!

 …………………………

 〈クコsaid〉

 セシルが指差したその場所はの先には、重たい木の扉があった。
 横の小椅子には花瓶が置かれてあり、名前は分からんけど、大層立派な水色の花束がいけられている。
 うちが前にいたときは、こんなものなかったはずやけど……あの人模様替えでもしたんかいな?

 そう、なにを隠そうと、この扉は天界管理局の代表・ネートル室長の執務室だ。
 彼は全身が骨のちょっと、いやかなり変わった風貌をしとるけど、その実績は確か。
 数ある課を取り締まるお偉いさんでもあり、うちことクコ、そして沙明、ユルミスの上官でもある。

 まあ、付き合いが長いので、上司と言うよりかはおじいちゃんの方が近い。
 おじいちゃん(的な人)に会いに、人間界から戻ってきた。うちらの状況はこの一言で充分だ。

 ただ……室長に呼び出された理由っちゅーのが結構痛い。
(職務怠慢、仕事放棄、既読無視、挙げ句の果てには給料ダウンか)

 全て、うちが自分でしてしまったことや。怒られるんはしゃあないと思う。
 逆に簡単に許されたりしたら、このままずるずるとサボって生きていくことになるだろう。

 でも。
 でもや。

 …………………………知り合いの前で叱られるんは、ほんまに勘弁してほしい。
 ズタズタに引き裂かれるプライド、しおしおになった顔面。向けられる同情の眼差し。
 想像しただけで、胸の中に黒いものが溜まっていく。
 

「パイセン、どうしたんですか? 入るときは3回ノックですよ」

 ドアノブに手を伸ばした姿勢のまま固まる天使に、後ろにいた後輩の悪魔・ユルミスが首を傾げた。
 しばらくぶりだから、扉の開け方を忘れたと疑っている。

 腑に落ちない表情で、彼女は横に並ぶと、さも当然かのように扉を手の甲で3回コンコンコンと叩いた。

「ば、馬鹿!! 何しよるん!??」
「え? なにって、入らないんですか? 部屋」

 入らなきゃいけんのは知っとるけど、怖いもんは怖いやん!??
 大声でこう叫べたら、どれだけ楽になるんだろう。
 流石に年下の前で弱音を吐くわけにもいかん。変なところで、ムキになる自分がおった。

「ははあ、さては怖いんだね。お説教が。
 気にすることはないよ。誰だって叱られるのは怖いさ」

 セシルがのんびりと言う。
 さっきまでのやり取りで少しは気分が落ち着いたのか、仕事モードから素の顔が見えつつある。
 マントの懐から出した右腕をひらひらさせ、彼はニヤリと不敵に笑った。

「……試しにここから逃げてみる? 
 この俺に捕まらないと言い切れるなら、見逃してあげてもいいよ」

「無理無理無理無理!!!」
「清々しいほど潔いね君」

 出来るわけがない。相手は保安課の、副隊長様だ。
 入隊条件の一つであるテストの合格比率は、エリート団体である守人もりびとのおよそ30倍。
 人間で言うところの、藝大みたいなもんや。

 高い知能、高い身体能力、高い統率力。
 今、よういどんでダッシュしたとしても、数秒後彼の手はうちの肩の上にある。
 あと、セシルは武器の杖。エレベーターで感じたあの殺気は尋常じゃなかった。
 

 フルフルと首を振ると、ちえっとセシルが口を尖らす。
 小声だったけど、確かに「鬼ごっこしたかったなあ」と聞こえた気がするんやけど、空耳??
 この子に捕まえられるくらいなら、大人しく怒られた方がマシだ。もう諦めよう。


 その時。

 ずっと黙って成り行きを窺っていた朔くんが、まっすぐにこちらを見つめ、恐る恐る口を開いた。
 一言一言、噛み締めるように、逃さないように。
 丁寧に、丁寧に床へ落とすようにして。

「く、クコちゃん。
 クコちゃんはしっかりやっているって、俺知ってるから。だからきっと何とかなるよ。絶対に」

 恥ずかしかったんだろう。
 えへへ、と力なく口の端をあげる朔くんは、そのまま、プイッと顔を逸らしてしまった。
 
「‥‥…ごめん、急に。図々しかったかな」

 なわけない。
 言葉の力ってすごいなあって改めて確信したわ。
 大丈夫、のたった3文字で、あっという間に不安を取り除けるんやもん。たった3文字やで。
 なのに、心をじんわりとほぐしてくれる。暖かさを感じられる。凄いなあ。

 彼の言葉に被せて、うちは感謝を伝える。

「おおきに、朔くん。おかげで肩の力が抜けたわ。ほんまにありがとうな。
 うち、ちゃんと怒られるわ。みんなの前で、自分らしく生き恥晒すわ」


…………………………


 ネートル室長。こんにちは、久しぶり、元気にしとった?
 うちはまあ、ぼちぼちやな。

 たっくさんのストレス抱えながら、呑気に馬鹿やって過ごしてるわ。
 生憎、ストレスの原因究明にかかる時間には困らないものでね。

 元はと言えば、あんたが与えた任務なんやで。あんたが勝手に減らしとんで、うちの給料。
 最初はあんなに褒めて、持ち上げてくれとったのに、いきなりなんやねん。もしやツンデレか?

 なあんて叫びたい気持ちもなくはないけれど。
 うちは散々無礼をしてきたし、頭は良くないし、体力もないやんか。



 でも一つだけ、めちゃくちゃいいもんを持っとるで。
 仲間っちゅうもんや。
 同僚とかと一緒にしてくれちゃ困るで。仲間は、何者にもかえれんものだから。


 あんたがいくら、馬鹿やら阿呆やら怒鳴ろうと、周りの人たちは決してそんなこと言わんねん。
 友達のお説教にわざわざついてくるじゃじゃ馬や。
 決まりだの規則だのが大好きな、真面目なネートル室長の嫌いなもんよ。


 見せたるで、今から。
 この案内人天使のクコ様が持てる最強のカードを。