コメディ・ライト小説(新)

Re: カオスヘッドな僕ら【復刻】 ( No.57 )
日時: 2022/10/09 14:52
名前: むう (ID: 61pjZFPE)

 PCがやっと治りました!一年ぶりにPC執筆です。
 書いた記憶のない文章が次々と発掘され、とても恥ずかしいです。

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 〈セシルside〉

 クコがコンコンコン、と重たい木の扉を三回ノックすると、「どうぞ」とくぐもった声が中から響いた。
 オレは一度身を引いてお客人であるクコたちを先に室内に入らせる。
 彼らはやや緊張した面持ちで、ごくっとつばを飲み込んだ。慌てすぎたのか、百木朔ももきさくが右手と右足を一緒に出したので、笑いをこらえるのに数分必死になる。

 室長室には、『ボスの部屋』という言葉がしっくりくる、高級感満載の家具が置かれてあった。
 入り口の横の棚には、外にあったのと同じ花瓶。床には、赤い絨毯。中央には、木製のワークデスクがドデンと構えている。

 仕事机の後ろには三段もある本棚が設置されているけれど、それでも収まりきらなかったので、残りの蔵書は全て隣の書庫に管理されている……らしい。

 そんな、厳格な雰囲気の漂う室内の中央に、彼—ネートル室長は立っていた。
 身長は、オレの腰くらい。140から150の間らへん。
 黒色のモコモコしたマントを羽織っており、俯いているので表情は確認できない。

「じ、爺さん、ひ、久しぶりやね! 模様替えしたん? 見られんもんがぎょうさんあるわ……な、なあ紗明?」
「はっ、はい、そ、そうですね、ええ」

 明朗快活がウリのクコも、今回ばかりは声が震えた。
 話を振られて、紗明の肩が跳ねた。
 後方にいた親友は、いつの間にか自分の背中にぴったりくっついて、歯を鳴らしている。

「ちょ、ちょっと離れッ ちょ! 流石にかっこ悪いじゃないですかそれは! 見て下さい、朔さんもユルミスも引いてますよ!」
「く、クコちゃん、ちょっとそれはないかなあ……」
「ほらほら、声に出してますから!! オイ! 離れろこのアホ天使!!」

 動揺しすぎて、朝モードのはずの紗明の性格がすでにブレブレだ。
 服の裾を引っ張ってどかせようと試みるが、手のひらに吸盤でも付いているのか、クコは一向に離れない。

 あ、あの。ついでに保安課も引いてるよ。
 数分前にエレベーターでひと騒ぎを起こしちゃったけど、ひょっとして相手を間違えちゃったかな……。

 やっぱり、誰だって上司の前では取り繕っちゃうものだよね。相手の方が立場が上って考えちゃうと、どうしても身体に力が入っちゃって。
 うんうん、そうだよ。笑ってはいけない。これは人間の本能なんだから。うんうん。

「……ふっ、ふふふふふふw あ、ダメ、くっw」
「オイ聴いてるかクコ!? 俺に蔑まれ、保安課に笑われるとか相当だぞ!??」

 紗明が声を荒げ、くるりと振り替えようとした、その時。
 コツコツと足音が響き、中央で微動だにせず会話を見守っていたネートル室長が、俺達の方に向かって歩いてきた。

「……全くおぬしらは。毎度毎度、散々ワシの予定を狂わせおって」
 ほとほと呆れた、とため息をつき、ネートル室長はマントのフードをとる。

 あらわになった彼の素顔は、一言でいえば、まんま『ガイコツ』だった。スケルトンっていう種族らしい。落ちくぼんだ目と鼻のあな
 骨なので、心臓はなく全てがスッカスカだ。

「が、が、ガイコツ………?」

 人間にとっては、ガイコツを見るなんて初めての経験。
 悲鳴は出さなかったけど、朔は何度も瞬きをしている。
 普通の人間なら、今の場面は失神するのがオチだが、天使とか死神とかとの付き合いで、だいぶ感覚がマヒしてるみたいだね。
 
「ほっほっほ。お前が百木朔か。はるばるご苦労じゃったな。調子はどうかね? もしどこか痛むようなら、薬を持ってくるが」
「い、いえ、結構です、ありがとうございます……」

 朔のセリフが小さかったのか、断ったのにも関わらず室長は、マントの懐をまさぐって、彼の手にいくつかの果物を置く。
 え、ただのマントだよね………? ど、どうなってるんだろう……。

「え、えっと、これは、レモン? ミカン? と、いちじく……ですか?」
「? 何言ってんの? ロヤアとムキアとウツヅキだよ?」

 瞬間、朔くんはお腹にグーパンチでも食らわされたかのような、愕然とした表情を浮かべた。
 あれ? なにか間違ったことを言っただろうか??
 単に、果物の名前を教えてあげただけなんだけど。

「き、きっもちわるう………」と腑に落ちない顔をされたが、こっちも彼の飯能が分からない。

「ちなみにロヤアはビタミンCが豊富で、実は野菜の仲間。ムキアは冬に食べると美味しい。ウツズキは、お腹の調子を整えてくれるよ」
「知ってる。知ってるんだけどさぁ。ええ? じゃ、じゃあもしかして、セウキっていう夏の果物や、ヤヤっていうピンクの果物もあるの?」

 そんなの、もちろん。
 オレは腰に手をあてながら、真顔で返した。

「あるに決まってるじゃん」
「きっもちわるう…………」