コメディ・ライト小説(新)

第弐話「図書室のサボり魔」 ( No.3 )
日時: 2020/08/05 16:22
名前: むう (ID: 9Yth0wr6)

 〈図書室〉

 少女は図書室の中で、脚立に腰かけて本を読んでいた。
 ここは静かで誰もいない。実に落ち着く。

 そう思っていたら、騒がしい音を立てて入り口が開いた。
 誰? 
 本を閉じて、肩に力を入れて身構えると、何やら話し声がする。

「まさかあんな罰ゲームだとは、俺も思わなかった」
「お前笑いすぎ! ホント躾がなってねえよ!」

 読者にはもうわかっただろうか。
 中に入ってきた無礼者は、何を隠そう高町筑波とその使い魔、利犬である。

 今は人間の姿の使い魔は、俺より十センチくらい低い背丈で、腹を抱えて笑い転げている。

 ここ、本当に誰もいないだろうな。
 あの部室に居たくなくて逃げて来たんだが、利犬は霊感が強い人には見えるかもしれないから、大声で騒ぎ立てるのはちょっとダメだな。
 注意しようと口を開きかけたとき……。

「ここは図書室です。騒ぎ立てるなら帰ってください」

 涼やかな声音が聞こえると同時に、一人の少女が姿を見せた。
 うちの学校の制服の、セーラー服っぽい黒いブレザーと、灰色と黒のチェックのスカート。

 上履きの色から、一年生だと分かった。
 黒い髪をショートボブにした、長い前髪とまつ毛が特徴な少女だった。

「ごめんな、お前は見える系か。こいつ、色々とうるさくってさ。ごめんなちゃい」

 両手を合わせて謝ると、少女の眼が鋭くなる。

 うわ、警戒か軽蔑されているな。
 ひょうひょうとしていたのがマイナスだったかもしれない。

 少女は脚立に腰かけると、抱えていた本を読み始めた。
 随分分厚い本だ。

 その姿を見て、はたと思い当った。
 学校で噂になっている、一年生の女子がいる。
 なんでもサボり魔で、授業に出ないだけではなく、図書室に引きこもっているとか。

 もしかしてこの子のことか?

「こんにちは。俺は利犬という。君の名前は?」

 おい利犬! しれっと、一年生ナンパしてんじゃねえ!
 しかも少女の右手をそっとつかんで、何しでかす気だ! 

 こんなんじゃ俺の使い魔は誰にでもナンパする奴だと思われても当然だ。

「……二階堂由良にかいどうユラです。あなたはかなり強い妖気を持っていますね。そちらの方とは、どういった関係で」

 由良は、鋭かった眼を少し丸くした。