コメディ・ライト小説(新)

第参話「スーパーにて」 ( No.5 )
日時: 2020/08/05 16:32
名前: むう (ID: 9Yth0wr6)

〈街中、スーパーにて〉

 一度家に帰って、荷物を置いてから、俺は利犬と一緒に近所のスーパーへ来ている。

 いつものことだが両親が夜遅く帰ってくるので、普段は自分で夕食をつくるのだ。

 まあ、夕食をいつも作っているとはいえ、家庭科の成績はいい方ではない。
 不器用だから、一品作るだけでもキッチンは乱雑してしまうのだ。

 今日は、何にしようかな。
 確か昨日は肉料理だったから、魚でもいいかもしれない。
 無難だし、もうさばいてある奴を買えば、手間も省けるし。

「おい利犬、そんな目で見るなよ。そりゃあお前は犬だから、肉好きだろうけど、今日は魚だ、フィッシュ! 二度は言わないからな」

 目を潤ませる犬を見て苦笑い。
 ホント犬だな(いや、人間の姿にもなれるんだけど、相変わらず魚は好きじゃないみたい)。

 と、

「あれ、筑波! お前も買い物?」

 振り返ると、後ろには右手に籠を持ち、隣にいる三人の妹の頭をなでている蓮がいた。
 確かチビッコたちは、長女が小6の空ちゃん、次女が小3の陽菜ちゃん、三女が小1の美穂ちゃんという名前だったはずだ。

 陽菜ちゃんや美穂ちゃんはともかく、反抗期の空ちゃんは頭をなでられるのを猛烈に嫌がっている。

「でっかくなったなー。前会ったのって、俺たちが小学生の時じゃん」

 小さいころは良くお互いの家を行き来していたが、中学生になると部活などがあって、あまり遊べなくなったのだ。
 このチビッコたちを見るのも三年ぶり。

「こんちゃ」

 空ちゃんは軽く頭をさげると、いつまでも頭をなでてくる兄の手を振り払って怒鳴った。

「やめてよ、この馬鹿兄。アホ!!」

 うわー。年頃の小学生って、怖ぁ……。
 そして妹を三人も持つ親友も苦労人だな。
 俺も妖魔を引き連れてはいるが、最近の女子ってうるさいからな。

「お前、人が親切にやっているのに、その言い方はないだろ!」

 蓮も負けずに怒鳴り返す。
 学校にいるときの、キラキラとした王子様オーラはどこ行った! 
 お前に恋している奴が今のお前を見たら、ショック受けそうなほどの変わり身。

「その親切が厚かましいって言っているのよ。ていうか親切なんていらない!」

「ヒドッ。うちの妹はいつの間に口が悪くなったんだよ、なあ筑波」

 俺に聞かれても。
 人様の家の情報をなぜ、他人が知っていると思えるんだよ。

 隣を見ると、利犬が美穂ちゃんをジー――ッと見つめている。

 はっ! このダメ使い魔、またやる気だな。
 つい数時間前に引きこもり一年生をナンパしたばかりなのに、もう違う人にもやるつもりか。

 させるかよ、このご主人様が説教してやるぜ。
 俺は利犬に後ろから忍び寄ると、ゴツンとその頭を一発殴ってやった。

「痛ったぁ! おい筑波、何をするんだよ」
「……お前こそ何してるんだ。ここはスーパーだぞ。親友もいるから静かにしろよ、駄犬」

 言葉に最大級の軽蔑をはらんでやると、利犬は顔を震わせて、怒りを噛みしめている。
 そんな俺らを、チビッコたちは不思議そうに眺めている。

「高町くん、何しているのー?」
「毒でも飲んだ―? お腹壊した—?」
「「「毒飲んだら死んじゃうから!」」」

 俺、蓮、空ちゃんの声がぴったりと重なる。
 その間にも、うちの使い魔は大声で叫んでいた。

「だれが駄犬だ―――――――ッ!!!!!!」