コメディ・ライト小説(新)

元勇者、居候になる ( No.0 )
日時: 2020/08/24 19:34
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: 4mrTcNGz)

>>16(途中報告)


「転生……?つまり……?」

元勇者は、現代に転生していた。
それは、元魔王も同じで。

「そう!勇者も私も転生したの!この平和な世界に……!
って訳でもう勇者の家は無いから、私の家に住んじゃえ!」

元勇者は倒れてた所を元勇者より数年先に転生した元魔王に拾われて。

「すまない、何言ってるか解らない」

現代に馴染んた元魔王の家に、転生したての元勇者は居候する事になり______




このお話は、慣れない世界で試行錯誤してく元勇者と、そんな彼と楽しく過ごすのは、現代慣れした元魔王。平和な日常、偶にトラブル有りな、二人の少年少女によるラブコメディ


________________________
_________________

嘘です。構想段階でシリアスどんどん出てきました。そもそも過去設定が重いです。ラブコメディもするけどシリアス多めです。特にあるキャラのシリアス度合いがヤバくなりそうです。なので地雷な方は回れ右を。




お久しぶりです。覚えてる方はいないかと思いますが、蒼星という者です。
長らく(数ヶ月)失踪しておりました。申しわけありません。

コメライ板『不良部長と私の空想科学部』、二次総合板『クロスな日常物語』を執筆していた者です。
小説に対する熱意が半端なモノだったので(なりきりと平行……というよりなりきり優先だった)ネタが思い浮かばず失踪に至りました。今度は真面目にやります。が、執筆速度は自分のペースでいきます。日常物語みたいにかなりの速度で書いてて失踪になりたくないのでね。それとなりきりは止めときます。失踪したくないので。高校始まって忙しいのでね。
そんなこんなですが、それでも良いという方は宜しくお願いします!









#目次(ちょくちょく配置変わってすいません)

>>0- (一気に見る人用)

>>1 プロローグ
>>2 キャラ説明No1(仙李&雪永)
>>15 キャラ説明No2(勇里、春香、菖蒲、仁愛、優糸)

Episode1
>>3-4 大切な思い出
>>5 幕間 夜の魔王様

Episode2
>>6-13 注目を浴びる
>>14 幕間

Episode3
>>17- 予期せぬ出会い

Re: 元勇者、居候になる ( No.1 )
日時: 2020/08/10 19:34
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: 69bzu.rx)

【注意#元勇者達の過去はシリダク板くらい重いです。ここまで重いのはここだけなので許してください。転生後もちょくちょくシリアス出てきます】


#プロローグ

「すまない、すまない……魔王。
私は貴方に何もしてやれなかった……恩返しが出来なかった……」

とある世界の魔王城。大広間で手向けられた花々の前で涙を流し、永遠のように謝罪を述べる一人の人物が居た。
その人物は勇者である。

勇者。それは人類の希望?人間の道具?
______否。優しき心を持ち意思を持つ道具である。





数年前。

人間は自分達と違う者を恐れる。自分達より強く姿が違う魔族を恐れる。彼らは魔族を排除しようと勇者を“造り上げた”。

しかし。勇者は人間達の思考通りには動かなかった。何故なら、本来人工人間として無い筈の感情が生まれたから。

勇者に感情が生まれた切っ掛けが……魔族達である。魔族達は家族のように互いを大切にしていた。魔族の女王たる魔王は、勇者の『道具として造られた』という事実を悲観し、魔族を攻撃をしてきた勇者を許した。どう生きるか自分の意思で選んでほしい、それでも自分達と対立するならそれで構わないから、と。それまでは味方でいるから、と。
魔族も魔王も、とても優しかった。勇者はそんな彼女らの温もりに触れて、感情が芽生えたのである。彼女達を守りたい、恩返しがしたい、と。

しかし。魔王は人間の何者かによって卑劣な手段で命を落とした。





______そして現在に至る。
手向けられた花は魔王への供え物。勇者の涙の訳は魔王の死。

「次があるとすれば、その時は平和な世界で、貴方と笑い会いたいものだ」

勇者は1輪の赤い花を手向け、そう呟いたのだった。





____________
______


あれから幾つの年月が経ったのだろうか。
つい先月。勇者は身体の劣化______人間で言う寿命による老衰で命を落とした筈だ。
なのに……

「身体が動く、だと……!?意識もはっきりする、が。ここは一体どこだ……?」

勇者は見知らぬ場所で目覚めたのである。痛みや苦しさはなかったが、尋常じゃない身体への違和感があった。
混乱していたが、摩擦音で部屋の扉が開こうとしてるのに気づき音がした方向を見る。そして、開かれた扉から何者かが部屋に入ってくる。

その人物は……

「あ、勇者!目覚めたんだ!」

死んだ筈の魔王であった。

Re: 元勇者、居候になる ( No.2 )
日時: 2020/08/13 19:15
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: Xr//JkA7)

#キャラ説明No1


清水しみず仙李せんり

本作の主人公。
草津雪永の家に居候する高校3年生の男子。不器用だが優しく真面目で、恩に報いる……というより恩は倍以上にして返す。礼儀正しい性格だが機械音痴で世間知らず。
そんな彼の前世は異世界の勇者『イキシア』で、前世の記憶持ちである。意志無き人間の道具として造られるも魔王達の温もりにふれ感情が芽生える。それ以降、魔王に言われた『味方でいるから』という言葉を胸に、味方、仲間を大切にする。魔王本人にはそれ以上の感情を抱いてるが、本人でもその感情に気づいていない。道具である以上スペックが高く物覚えがよく、それは転生後も適用されている。
容姿は中性、身長は170オーバー。前世では150後半と低め。髪は男では長めのミディアムで黒色。釣り目で瞳は黒だが前世では赤銅色、髪も赤みがかかった黒だった。仙李としての現在の年齢は17歳なのはイキシアとしての没年が16歳だから。
モチーフ花はイキシア(槍水仙)





草津くさつ雪永ゆきな

本作のメインヒロイン。大学3年生で20歳の女性。仙李が居候してる家の主。ポジティブなコミュ力お化けだが内心は繊細。
前世は魔王『エーデル』。魔王といっても悪さをしてる訳でなく、強く信頼が厚い(数重なる人間との戦いによる魔族の減少もあったが)から当時15歳という若くして王と認められたのである。魔族だからと人間から嫌悪されてきたが、理解のある人間とは親しかった。仙李曰く『前世と今では口調が違いすぎる』との事。
童顔で、身長160ちょい、前世はこちらも170オーバー。髪は亜麻色のウェーブポニテ。丸目で瞳は栗色。
モチーフ花はエーデルワイス(西洋薄雪草)





イキシアとエーデルが居た世界は剣と魔法のファンタジー世界で、両者とも相当の実力者だった。現代では魔法は一定より弱い魔法なら使える。

Re: 元勇者、居候になる ( No.3 )
日時: 2020/08/11 09:05
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: T/Qtp4km)

Episode1

#大切な思い出-1


「あ、勇者、目覚めたんだ!」

そんな、聞き覚えのある明るい声の主は……死んだ筈の魔王だった。多少容姿は違えど、魔王を見間違える筈は無かった。勇者にとって魔王とは、何度も剣を交わした良き好敵手でもあれば、人の温もりを教えてくれた恩人であり、己が守ると決めた存在だから。

「ま、魔王、なのか……?」

有り得ない筈の現実に、恐る恐る問いかける。
その問いかけと平行して、脳裏にある1つの予測が立った。
______私も死んだのだから、ここは所謂あの世なのではないか
と。

「うん。私は魔王……いや、今は元魔王って言った方がいいかも」
「元……?やはりここはあの世なのか?」

長い亜麻色の髪を右手の指にくるくる巻きつけながら、勇者が現在座っているベットに座る魔王に再び質問する。このベット、一見魔王城でみた豪華な物とは程遠い質素なものな筈なのに、少し指でさわれば品質は魔王城のと同等……いや、それ以上の物なのはすぐ解った。

「んー……あの世とはちょっと違うかな。
言うならば別世界。勇者は“転生”って聞いた事ある?」
「ああ。一度死んだ者が魂はそのままで違う者として生まれ変わる事だろう?それがどう関係が……?」

勇者は、魔王の問いかけは少し的外れな質問に感じた。転生は死者は不死の魔物のアンデットにならない限り必ず起こる。だけど記憶保持は不可能とされており、転生後は赤子からのやり直しになるから、今回の謎の現象とは別物だと思うからだ。

「なら……勇者もユーリは覚えてるでしょ?
異世界からやってきて、その世界の記憶を持った青年の事」
「勿論さ。ユーリさんには色々とお世話になったからな。……って、ちょっと待ってくれ。ユーリさんが異世界から来た……?そんな事聞いてないぞ?」

ユーリは人間の数少ない魔王の良き理解者であり、諜報と魔法を得意とし知識が豊富な策士である。人当たりが良く世話焼きな面も持っていた為に、勇者も彼から色々世界政情について教えてもらったのは記憶に新しい。しかし、異世界から来たという事は初耳だった。

「あ、なら勇者には話してないんだね。ともかく、そういう特殊なケースもあるって訳なの。で、それも“転生”って呼んでるんだ」
「なる程。特殊な転生……?つまり……」

ここまできて漸く納得がいった。
転生での記憶保持が不可能というのは嘘で、実際は可能だという事。先程魔王が転生について尋ねてきたのは、勇者達はユーリと似たような転生をして今に至るからであり、的外れでは無かったがのだ。


「そう!勇者も私も転生したの!この平和な世界に……!
って訳でもう勇者の家は無いから、私の家に住んじゃえ!」

「すまない、何言ってるか解らない」


______急に同居とか何言い出したんだこの魔王は。

漸く勇者の理解が及んだというのに、魔王は決定事項のように唐突に物事を決めるから理解が再び追いつかなくなってしまった。

「えー!?さっき納得したような顔してたのに!」
「納得したような顔ってなんだ。
転生については理解した。異世界だから家がないのも承知だ。だが……何故そこで同居になる」

驚愕の声をあげる魔王だが、こっちが驚愕してると言わんばかりに言い返す勇者。
魔王城で泊まった事があるが魔王と二人きりで同居になれば話は別である。

「むぅ……勇者は私と住むのは嫌……?」
「そういう事ではないし、嫌ではない。だが……今の私は転生したばかりで無一文だ。同居というよりこれでは居候だし、転生した訳だからこの世界の身分も無い。色々と問題が起こらないか?」

上目遣いをする魔王に、現実的な観点から要員を述べる勇者。
世界によって差はあるかもしれないが、部屋を見ただけでかなり文明は発達してるのだから身分制度や通貨はあるだろうと勇者は考える。勇者個人としてはこんな美少女で性格も良い魔王と暮らせるのならこの上ない幸福だが、恩人にまた恩が増えるのは避けたいという気持ちもあった。

「それなら問題無いよ!勇者の今着てる服のポケットの中身出してみて」

勇者にとって、この魔王の言葉はまたも必要性が解らないが、埒も開かないので素直にポケットの中身を出してみる。この時に勇者は気づいたが、今着てる服は見知らぬモノだ。視界に入る髪の色も変わってる気がするし、視界も高く……つまり自身の身長が高くなっているように感じる。これは転生による影響だろう。

ポケットの中身は革でできた大きめの財布らしきものと『通帳』と書かれたメモ帳。財布の中身は数桁の数字と『口座の暗証番号』という文字が書かれた紙切れ、文字が書かれた薄いカードが沢山。ぱっと見ただけなので詳しくは解らないが、直感でこれはとても重要な物だと気づいた。

「これって……」
「身分証明書……勇者の場合は学生証に保険証、通帳とか諸々だね!他の重要書類は勇者の近くに落ちてたから私のほうで保管しておいたよ。色々説明したいけど……端的にいうと、勇者のこの世界での身分は学生で、お金は通帳に書いている金額全部勇者のもの!」

勇者の直感は見事的中したのだった。
恐る恐る通帳というものを開けば残高数千万という数字。勇者にはこの世界の物価はわからないが、決して安くないだろうと考えた。

「なぁ魔王……この金額ってどれくらい価値があるんだ?」
「取り敢えず数年は遊んで暮らせるね。勇者は年齢的に高校生だからか私より少し金額少ないけど」
「!?!?!?」

物価を知るために尋ねれば驚愕の回答が帰ってくる。これでも魔王より少ないとなると魔王は幾らなんだと頭を抱える勇者だった。

「ね、問題無いでしょ?すごいでしょ!」
「いや普通は怖いぞこれ!!」

Re: 元勇者、居候になる ( No.4 )
日時: 2020/08/13 18:29
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: Xr//JkA7)

#大切な思い出-2

それからというのも。勇者は魔王から物価についてやこの世界での最低限の常識や、この世界についてを教わった。

「ふむ……人間だけが支配する世界か。それでこの国は『日本』と。科学技術が進歩して『機械』という道具が満ち溢れてて文明は元の世界よりかなり上で生活水準も高い、魔法は超常現象扱いと。私達は使おうと思えば弱い魔法なら使えるが人前ではなるべく使わないほうがよさそうだ」

魔王に教わった事を簡潔に纏めては復唱する。
世界はとても広く、国によっては戦争が起こってたりもするが、勇者達の元世界よりかは圧倒的に平和だ。その中でも現在居る日本という国はとても平和らしいし、魔王曰く物事が便利になってて過ごしやすいとの事。

「その言い方は誤解を招きそうだけど、大体その認識で合ってるよ。あ、それと言葉はね……話そう、書こうとする国の言葉を思い浮かべながら話したり書いたりすれば自然と変換されるよ。聴くときは私達の語源に変換されるし」
「はぁ……もう何が来ても驚かないぞ……」

そんな魔法のような現象をついでのように説明する魔王。
転生といい身分証明書といいお金といい驚愕の連続なので、勇者は半ば諦め気味に全てを受け入れる事にし、溜息を吐く。

「次はこれからの生活についてなんだけど……勇者は来週の前期始業式から近くの高校に転校生として転入する事になってるみたい。手続きはもう済んでるし、私が大学入った時はすんなり入れたよ」
「転生後の用意が周到すぎるだろ……」
「更に言うと戸籍上では私と勇者は親戚扱いになってるみたいだから、誰かに関係を聞かれたら『訳あって親戚の家にお世話になってる』って答えといて」
「あ、ああ。了解した……」

勇者にはここまで来るとまるで誰かが準備したように思えてくる。でもこれは転生による世界の理による変化らしい。
勇者の世界にも学校はあり、勇者は学校に行った事は無いが存在は認知してるし、魔王にこの世界の常識を教わった時に一緒に教わっている。

「まぁ……気にしたら負けだよ。私は家も貰えたけどいいに越した事はないし。
んで……話変えるけど……これで最後ね。
この世界での私達の名前は元の世界とは違うの。さっきの身分証明書、それ見てみて」

流石の魔王でも転生後の境遇の良さには苦笑いをしては、強引に話題を変える。勇者は言われた通り身分証明書を出してはそれを一瞥する。そこには自分によく似た……恐らくこの世界での己の姿が写った写真というものに、生年月日等の文字、そして『清水しみず 仙李せんり』という名前。これがこの世界での勇者の名前なのだろう。

「清水仙李……清水が姓で仙李が名なのだな」
「へぇ、センリ……いい名前じゃん!
あ、私は『草津くさつ雪永ゆきな』って名前だから宜しくね!間違えて人前で魔王とかエーデルとか呼ばないでよ?」
「雪永だな。覚えた。間違えないよう善処するよ」

少し冗談っぽく言ってくる魔王こと雪永に勇者……仙李は真に受け止めて真剣な表情で返せば、雪永は冗談と受け取ってもらえないのが嫌だったのか顔を顰めるも、「転生しても真面目だなぁ」と溜息をついてはすぐ様何事も無かったかのように表情を柔らかい笑顔によする。

「んーともかく、これでやっと終わりー!!
明日からは高校のレベルを合わせないといけないから勉強と……とはいえ不思議な事に知識は既に頭にあるは程度あるから一通り通すだけで問題も解けるようになるから気に負わなくても大丈夫。
それより、ここ周辺の探索や学校やお店の場所を覚える為のお出掛けのほうが優先かな」

気に負わなくても大丈夫だと雪永は言うが、表情を見るにそもそも心配をしてない様子。なんせ仙李は元は高スペックの人工勇者だから。彼女が言った様に既に不思議な力で知識があるのなら、それを活用できるようになるのはあっという間だろう。それ故に彼女の言葉通り、知識も土地勘もない周辺地域の散策をするべきだ。少なくとも来週から通う高校の場所は覚えなくてはいけない。

「色々忙しいと思うけど、大変なのは最初だけだから頑張ろ!私もサポートするからさ!」
「ありがとう。精一杯頑張るよ」

明るい声で応援してくれる雪永を心強く思い微笑みながら感謝を述べては、早いとここの世界に馴染もうと決心する仙李。

「どういたしまして。
ふぁ……そろそろ夜遅いしお風呂入って寝よっか……お風呂の使い方教えるから仙李も来てー」

頷いて感謝の言葉を受け取る雪永だが、大きな欠伸をする。その後入浴を提案し、仙李の返答を聞く前に浴室がある方向と思わしき方向へ歩きだす。仙李は彼女の後をついて行こうとするも、ここで今で流されてきた事を思い出し、それを口にした。

「……私がここに居候するのは決定事項か?」
「え?違うの?」
「いや……まぁ宛がないし流石に家を買う程裕福では無い。暫く居候としてお世話になるぞ」
「暫くと言わずずっと居なよ。
……ともかく今はお風呂お風呂!」

驚愕の表情を浮かべる雪永にこれは決定事項なんだと察し折れ、浴室に向かう雪永を追う仙李。
しかし、仙李はこれを嬉しく思っていた。

______道具ではなく人として接してくれ、何度も殺しにかかった自身を許してくれて。己が唯一守りたいと思えた人達の主であり、この世界でも、己を気にかけてくれ優しくしてくれる私の恩人。彼女や魔族達とは城で共に過ごした事もある。そんな、沢山の大切な思い出をくれた貴方の隣で笑い合うのは、私の叶わない筈だった望みだから。

「この世界でも、貴方との大切な思い出を築きたいな」

小さな呟きは仙李の新しい望み。
今日は驚きの連続だったが、望みが叶ったのが一番の驚きであり幸福だ。転生後の人生の運を使い切ったのではと思うくらいには。

「何か言ったー?」
「いいや、なんでも」

呟きが聴こえたのか振り返る雪永に、仙李は微笑んでそう誤魔化す。

______これを貴方に伝えるのは恥ずかしいから。今は私だけの秘密にしよう。





***

Episode1終了です!情報過多ぇ……でもグダグダ解説にもしたくないからすんなり終わらせました。情報過多はどう考えても技量不足だな……改善したい。
これは序章に当たるので短いです。この後幕間を挟んで学校が始まってから本番。

Re: 元勇者、居候になる ( No.5 )
日時: 2020/08/11 23:29
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: j9SZVVec)

#幕間 夜の魔王様

仙李に浴室の使い方を教えた後、独り先に入浴してすぐ様あがる。その後仙李と交代し、雪永は眠りにつこうとするが……大学の友人______白口しらぐち仁愛にあから雪永の携帯電話に着信がきたので、仕方なくリビングのソファに座る。仁愛はただの友人ではなく、雪永の前世が魔王エーデルである事を知っている人物だ。尚、仁愛は前世の記憶は無い、ごく普通の一般人である。

「もしもし、仁愛?どうしたの、こんな時間に」
『いやー、今春休みじゃん?最近会えてないからさ、声くらい聴きたいなーって』

電話越しに居るであろう仁愛に問い掛ければ、そんな子供っぽい返答が帰ってきた。その声色は少し暗く、こんな遅くに電話をかけてきた罪悪感があるように感じた。

「それは嬉しいよ!とはいえ来週には始業式だよ?」
『解ってるよー!でも我慢できなくて』
「仁愛らしいね」

天真爛漫な彼女の声にクスッと笑みが溢れる。そして、いつも彼女と会話するノリで話し初めてしまった。今日は仙李が居ることを忘れて______



数分後。

「雪永、まだ起きてたのかい?」

リビングの扉が開かれるのと同士に、パジャマ姿の仙李がやって来た。パジャマは雪永自身のものなのでやや小さいようだ。

「あ、うん。友達から電話……あ、電話はさっき話した遠距離会話の機械ね。
それがきたから、少し話してて」

これはマズい、非常にマズい。
雪永は非常に焦っていた。無理に笑みを浮かべては吃りながらもなんとか仙李に説明をする雪永。
何がまずいかって。仁愛に今現在男と一緒に居るのをバレると、後日話題のネタにさせるからである。聴かれては困るので通話を終了しては携帯電話をソファに埋める。

「そうか。この世界の友達か……
友達がいるのはいい事だ。お邪魔だろうし私は先に休ませもらうよ」
「う、うん。お休み」
「ああ。お休み、雪永」
『え、なに!?え、え!
ちょ、なに起こってる!?』

何か意味深な事を言っては寝室に向かった仙李。彼の性格からしてただ単に雪永に友達がいる事を嬉しく思ってるだけであろう。そして、それよりも……終了したと思っていた通話は終了しておらず、会話は仁愛に筒抜けだった。

バタン、という扉が閉まる音で仙李が完全に寝室に入った事を確認すると、雪永は再び電話を握った。なんとかして言い訳しなければ、と焦りながら。

「えっと、あのね仁愛」
『雪永ー、雪永さーん!今のどういう事なの!?なに、今の声彼氏!?彼氏宅!?しかも泊まるの!?』

雪永は仁愛に話そうととするが、仁愛からの質問攻めにあい言い訳する隙がなかった。しかし、雪永にはまだ話題のネタ化を回避する方法は残っていて。

「自分の家だし相手勇者だよ!勇者が転生してきたの!」

が……雪永は焦りから判断力が低下しており、自ら地雷を踏みに行った。戸籍上の関係をいい事に言い訳をすれば回避ができたのだが。

『え?勇者って雪永が話してた勇者イキシア?
もうそれ実質彼氏じゃん』
「いやいやいや!何でそうなるの!?」

ガチトーンで呟く仁愛に必死に否定する雪永。だが、仁愛から追い打ちが掛かる。

『何度も夜中にわたしに電話かけてきてさ、勇者に会いたい、勇者来て欲しいって言ってたのどこの誰かな?』

そう。地雷の理由はこれである。仁愛に勇者関連を何も話してなければ地雷ではなかったのだが、魔王が転生してから勇者が転生する前の期間、仁愛が言った通りの事を何度も彼女に言っていたのである。何故言ってしまったのかは雪永自身にもわかならない。その時不思議と勇者に会いたくなったから、という事しか。そして勇者の事を仁愛と話すと、必ずと言っていいほど心がモヤモヤするのだ。

『それで好きじゃないわけないよね?
勇者さんも好きまでとはいかなくてもこうして泊まるんだったら脈アリだよね?
ならもう彼氏でよくない?』
「バカッ……!」

痛いところを的確に突いてくる仁愛。雪永は羞恥で顔が赤く染まっていた。

『照れてる?照れてる?

……好きならそんでいいじゃん。恥ずかしい事じゃないよ?』

仁愛は揶揄い気味に問い掛けては、少し間を空けてから真剣な声で述べて。

「好きかどうかは、正直よく解らない……。恋を経験した事ないから、この恥ずかしさがどこからきてるのかのも」
『そっか。好きなようで憧れや親愛、って事もあるからね。でも、おいおい解るよ。折角再開できたんだから、勇者さんと過ごしてその気持ちの正体を解いてごらん』

余り気持ちを言葉に出来ないが、自分なりに言葉を纏め、ゆっくりと伝える雪永。その言葉を聞いた仁愛は優しく諭すように返した。

「ありがと。……そろそろ私は寝るね。考え整理したいし」
『わかった。こんな夜遅くにありがとね。お休み。
それと……勇者さん絡みの事はわたしと雪永の秘密にするよ。それと悩みにも乗れるだけ乗るよ。雪永は根は繊細だから……ネタにしていい事と駄目な事は解ってるつもりだし。じゃ、また始業式で』
「うん。お休みなさい」

仁愛の気遣いに感謝してはお休みと眠りの挨拶を告げて通話を終了した。
こうして話してできた心のモヤモヤ。今暫くは消えそうでなくて。いつか解る日が来るのだろうか。そう思いながら寝室に移動し、毛布に潜り込み瞼を閉じた。

これから始まる勇者との新たな生活。これで何か解るような、そんな予感を感じながら。

Re: 元勇者、居候になる ( No.6 )
日時: 2020/08/13 11:30
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: SDPjcky.)

Episode2

#注目を浴びる-1


元勇者……仙李の居候生活が始まってから数日後。この数日間は雪永に様々な事を教わり、必要な日用品や衣類等を買いに行ったりしてある程度はこの世界の事も知れた。とはいえ機械というものについては、便利だが異世界から来た仙李からすれば複雑なものでありとても使いこなせるものではなくて。銀行という場所で通帳を使ってお金を引き出すのにも一苦労である。数日前には携帯電話……スマートフォンというモノを購入したのはいいが、機能が如何せん多すぎるのだ。雪永も全て教える事は難しいらしので、特に重要な機能である遠距離会話機能______通話とメッセージ機能辺りのみ教わったのである。



そして今日。

「いってきまーす!」
「行ってらっしゃい、雪永。くれぐれも気をつけて」
「はーい!」

明るい声とともに手を振る雪永を、仙李は笑顔で見送った。雪永は嬉しそうに微笑んでは、大きな鞄を背負い家を後にする。
どういう事かというと、今日は雪永の通う大学の始業式なのだ。そして、仙李の高校の始業式は翌日。なので今日は1人で過ごす事になる。

「さて……今日はどうしたものか」

1人になった部屋で、仙李は小さな溜息を吐いた。この世界に来てから初めての1人で過ごす日。正直言って、仙李はどうすればよいか解らないでいた。
何も決まらないままウロウロと部屋内を歩き回っていたら、部屋に配置されていたタンスに小指が当たって。仙李の痛みによる呻き声が漏れると共に、衝撃によりタンスの上から何かが落ちてきた。仙李はしゃがみこみ、落ちてきたものを拾う。

「合鍵か……そういえば先日雪永に貰ったな」

落ちて来たものはこの家の合鍵だった。先日、1人の時でも出かけれるようにと雪永が用意してくれたのだ。

「……そうだ。入学前日なのだから道の確認でもしておこう」

鍵を見つめていれば、仙李の脳内にひとつの案が思い浮かぶ。そうと決まればと、即行動を初め出かける準備をする。
部屋着から私服に着替え、携帯電話に財布と鍵をズボンのポケットへ入れる。髪を整え戸締まりを確認しては、ほぼ新品である靴を履いた仙李は家を後にした。



家から出ると、爽やかな風で髪が揺れて。風が顔に当れば、程良い涼しさで心地よい。
今は4月。この世界は春夏秋冬と季節が別れており、現在は春に当るらしい。

「天気もいいし、これが絶好のお出掛け日和というやつか。人通りもあって賑やか。平和だな」

道を歩いていれば、親とはしゃぐ子供や数人で楽しそうに話ながらすれ違っていく学生等、沢山の人物が視界に入る。そんな人々の様子を見て、この世界の平和さを実感する。
視界に入るのは勿論人間だけでなく、雲一つなく太陽が輝く青空に、道端に家々。道を走る車という移動用の機械。
ど荒んだ世界に居た仙李にとってはどれも新鮮だった。

暫く先日雪永と共に行った時と同じ道を歩いていくと、途中で一つ問題が起きた。

「通行止め……だと……」

道の隅に縦長の看板が置かれており、それを見た仙李は顔を顰める。
どうやら、この道の先は工事中のようだ。前回来たときは予告と書いてあったが、仙李はそれをすっかり忘れてた。

「どうしたものか……他の道は知らないし……」

額に頭を当て、大きく溜息を吐く。これは困ったぞ、と悩む。
そうして立ち止まる事数分。突如として機転が訪れた。

「そこのキミー!もしかしなくてもお困りかな?」

抑揚の有る声で話掛けられて。声のした方向へ振り返れば栗色の長い髪にきらびやかな格好でお洒落をした女性がいた。顔立ち等を見るに仙李と歳の差はそこまでないだろう。

「は、はい。明日から近くの高校に転校する事になってて、今日は事前に道の確認に来たんですけど……この道を通る予定だったのが、この通り通行止めで、どうすればいいのか困っている所です」

苦笑いをしながら仙李は女性に対し簡潔に説明をしてみせる。相手は初対面だし容姿が派手なので仙李への印象は悪い。
そんな印象は知らない女性は真剣に仙李の説明を聞いては、両手を叩いてある提案をしてきた。

「ならアタシが迂回路を案内するよ☆
アタシさ、その学校の卒業生だからここら辺の道詳しいんだよね」

はにかむ女性に、仙李はこの人は良い人そうだと感じて「お願いします」と案内を依頼する。
彼女は「任せておいてよ!」と快く承諾してくれた。一見仙李にとって苦手なタイプかと思ったが、この世界でも人を見た目で判断してはいけないようだ。

女性が早足気味で歩きだし、その横を仙李は歩く。

「キミ、転校生って言うけど、さっきの感じ的にこの町に来たのも最近が初めて?」

歩いている途中、女性はこちらを向いて首を傾げながらそんな問い掛けてをしてきた。

「はい。数日前来たばかりです。なので土地勘が殆ど無くて……」
「そっかぁ。アタシも数年前ここに引っ越してきたんだけど、来たばかりの土地だと戸惑うよねー」

土地勘が無いので少し恥ずかしく、話す声も小さくなってしまった仙李だが、女性はそんな仙李に気づいたのか、遠回しで『引っ越し時は誰もが通る道だよ』と言ってくれる。その気遣いに仙李は気づき、少し嬉しくなり、今度は仙李から質問をする。

「先程数年前引っ越してきたばかりと仰いましたが、貴方は何故この町に……?」
「あー、アタシの場合は親の都合。前はど田舎に居たんだけど親が転勤になって家族諸々引っ越した訳。キミはどうなの?」
「私も似た感じです」

女性は初対面の仙李相手でも気にする事無く質問に答えてくれた。良い人なので、彼女のオウム返しの質問に本当の事で答えたかったが、勇者云々は信じて貰えないだろうからと、仙李は罪悪感を感じつつ嘘を吐いた。



「っと……ここの横の道が工事してるとこから繋がる道ね。右曲がればすぐ学校だよ。ほら!」
「本当だ……ありがとうございます」
「困った時はお互い様って言うし、いいってことよ☆」

暫く会話しながら歩いていたら、女性は横断歩道で足を止めては右を指差す。そこには高校があって。仙李がお礼を述べれば彼女は笑顔で返す。

「じゃ、アタシはこの後用事あるからこの辺でー!じゃあね!」
「はい。ありがとうございました!」

歩行者用の信号が代わり、女性は手を振りながら別れの言葉を伝えてきて。仙李も再度感謝の言葉と共に笑顔で手を振りながら見送った。

「さて、目標は達成したし帰るか……!
それより……今の女性、優しくていい人だったな…………」

女性の姿が見えなくなると、手をおろしてはそんな事を呟きながら仙李は帰路についた。

Re: 元勇者、居候になる ( No.7 )
日時: 2020/08/13 14:14
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: GuSqVW3T)

#注目を浴びる-2


仙李が1人で通学路の確認をした翌日の朝。

「おはよう、雪永」
「おはよ、仙李。もうじき朝ご飯できるから早く食べて学校行こっか」
「ああ。いつも朝食の準備感謝するよ」

仙李が欠伸をしながらもさっと制服に着替えて寝室から出ると、フライパンを使って料理を作ってるエプロン姿の雪永が居た。醤油が焦げる香ばしい匂いが仙李の食欲を掻き立てる。

「今日は洋食か。元の世界でも似たようなモノは食べてたが、この世界に来てから食べる食事のほうが美味しく感じるよ」
「嬉しい事言ってくれるじゃん!そう言われると作り甲斐があるよ。
はい、かんせーい!」

仙李が素直な感想を述べれば、雪永は焼けた目玉焼きをトーストの上に載せながら、嬉しそうに口元を緩める。
今日の朝食のメニューは、目玉焼きと焼きベーコンのトーストに野菜をふんだんに使ったサラダ、そしてコンソメスープだ。

「いただきまーす!」
「いただきます。
……ふむ……やはり、雪永の料理は絶品だな」
「ふふー、そうでしょー?」

両手を合わせてこの国の食事の挨拶をしては、トーストを手に取りそれに齧り付く。ベーコンのしょぱさにトーストの香ばしさ、目玉焼きの控えめの甘さが癖になりそうだ。
仙李の反応を聞き得意げな顔をする雪永。
雪永は魔王時代、短い自由時間で趣味として料理を作っており、腕はかなりのものだった。仙李もそんな彼女の手作り料理を何度かご馳走になった事がある。そんな彼女の腕と、品質が元の世界より段違いに良いこの世界の食材がかけ合わさる事により、勇者達が居た世界の者からすれば普段の食事より比べ物にならない程の絶品の料理となるのだ。
そんな具合なので、仙李は雪永が振る舞う料理が毎度楽しみにしているし、一度食べ出すと一心不乱に食べてしまう。

「そんなに慌てて食べなくても大丈夫だって。時間は一杯あるんだし」
「…………もぐ、ごくっ。
ゆっくり食べてたらおかわりが出来ないだろう!」
「はいはい」

雪永に話掛けられた仙李は、行儀良く食べ物を飲み込んでから真剣に返した。それを見た雪永は軽くあしらうが、声調はとても嬉しそうで。

元の世界では娯楽が少なく、魔王エーデル達と合うまで感情の無かった上に、魔王達と親しくなってからは彼女らを守る為に力を付けるのに時間を費やしていた仙李……勇者イキシアからすれば、あの世界での娯楽は料理だけ同然であり、欲が少ない勇者でも食欲だけは強くなったという経歴がある。その食欲は仙李として転生した今でも衰えるどころか強くなっていた。




十数分後。食事を終え、二人で食器を洗い始める。

「もう、今日から学校なんだから手伝わなくていいのに」
「学校なのは貴方も同じだろう?お世話になりっぱなしは性に合わなくてね」

雪永の言葉に、仙李はさも当然ように返した。これまでの学校がない日は仙李が料理以外の家事をやっていたし、居候の身なので家事位はやらせてもらわないと、それこそタダ飯食らいなので、人としてそれは避けたかった。仙李が今日から通う高校の生徒は学校側に申請すれば働く事ができる……所謂バイトが可能な高校なので、近いうちに申請して働くつもりだ。因みに雪永も将来の事を考えて働いているのだと本人が言っていた。

「そういえば……今更なのだが、雪永は昔とは話し方が違うよな?何か理由があるのか?」

ふと、そんな些細な疑問が脳裏によぎり、食器を洗う為のスポンジを持つ手を止めてはそのまま雪永に尋ねる。その質問に、雪永は明らかさまに嫌そうに顔を引き攣らせた。

「あ、いや。少し気になっただけだから嫌なら答えなくても大丈夫だ」

その顔にマズいと感じた仙李は、無理はしなくても良いと慌てて伝える。その言葉を聞いた雪永は「ううん、大丈夫」と苦笑いして。

「ただね……この世界に来たばかりの頃いろんな人に変な顔で見られてね……その時仲良くなったばかりの仁愛に聞いたら『その話し方は中二病に見られるから辞めたほうがいいよ』って……それで辞めたの。ま、あの高圧的な話し方も派手な格好も魔王の威厳の為にやってたみたいなもんだから、今のほうが気軽だしね」
「そうか……」

恥ずかしそうに語る雪永だが、仙李は話の内容がはっきり理解できなかった。『この世界にはそういう特殊な病気があるのだろか?』と考察する。魔王時代の彼女は高圧的で、王としての威厳を感じさせる話し方や華やかなドレスだったのだが、今はどこにでもいるような女性であり、今の彼女が元魔王と言われても、この世界の人間は勿論、元の世界の人であっても仙李や側近のリコリスを始めとする親しい人物以外は全く信じることはないだろう。

「なぁ……私は今のままで大丈夫だろうか?出かけ先とかテレビとかで聴いてると『私』を遣う男性は少ないみたいだが……」
「大丈夫大丈夫。男の人のその1人称は畏まった言い方なんだからむしろ好印象じゃない?」
「それなら良かった」

今の話で少し気になったので、仙李は自身について尋ねると、雪永は全然問題無さそうに話しているのでそれを見て安堵する。王の威厳の為に高圧的な話し方をわざとしていた雪永と違い、仙李は記憶がある限りずっとこの口調なので変えるにしても簡単な事ではないからである。
そんな他愛のない雑談をしていると、あっという間に皿洗いは終了し、やがて学校へ向かう時間になった。

「そろそろ行ってくる」

仙李は必要なものが諸々入った鞄を背負い玄関へ向かうと、靴を履いては見送りにきた雪永にそう伝えた。

「行ってらっしゃーい!あ、言い忘れてたけど初日は職員室ってとこに寄らなきゃいけないみたい!」
「了解。じゃあ、行ってきます」

雪永の言葉に頷いては、一度振り返って小さく手を振り、家を後にしたのだった。

Re: 元勇者、居候になる ( No.8 )
日時: 2020/08/15 11:04
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: A3jnu3NM)

#注目を浴びる-3


*** *** ***


「了解。じゃあ、行ってきます」

そんな言葉と共に、仙李は家を後にした。

仙李が居なくなり、家で1人きりとなった雪永はリビングに戻ると、慣れた手つきで携帯電話を操作して、ある人物に電話を掛けた。

『もしもーし、魔王様どうしたの?学校じゃないの?』

暫く機械特有のコール音が鳴り響くも、突如とひて陽気な声が電話越しから聴こえる。
相手は男性だが、一瞬女性に聴き間違う可能性があるくらいには独特で高い声だ。

「もー、この世界で魔王様呼び辞めてって言ってるじゃん。学校だよー、もう少ししたら家出るよ」
『あー、ゴメン、転生前からの癖でねー』

意地悪っぽく雪永が言えば、声から冗談なのを察したであろう相手は、声の調子を変えること無く冗談に乗る。

「それよりさ……そっちに今日転入生行くでしょ?あれ勇者だから宜しくね!」
『やっぱりか。オーケーオーケー、……確か今の名前は仙李、だっけ?書類見て魔王様が保護者だから何となく察したけど。まさか勇者様までこっちに来るとはねー。
それより、ちょっと調べたんだけど、お二人さんが戸籍上親戚になった方が驚きましたよー』

雪永が軽いノリで言えば、相手は半ば呆れが混じったような溜息を吐くと、そんな軽口を叩いて。

「うん、清水仙李ね。
親戚になってるのは私もびっくりしたよ。世界の理云々の影響とはいえ」
『清水君ねー、りょーかい。転入生なら職員室来るのが自分達の学校のルールだから、そん時に接触しとく。
でも合法的に同居……悪く言うと現段階は居候か。勇者様に会いたいって言ってた魔王様からすれば嬉しんでしょ?』
「ちょ……!そ……そんなこと……」

揶揄うような相手に雪永は図星を突かれしどろもどろになる。
雪永の魔王時代は信頼できる仲間が沢山居たとはいえ、対等な関係で接して……自身を『守りたい』と言ってくれたのは勇者だけだ。それに自身達がきっかけで彼は自身の意思を持つという成長を見せてくれたのだし、彼と居ると魔王としての威厳なんて忘れて肩の力を抜いて楽しく日常を送れた。その出来事があり、雪永は彼とは実際に過ごした短い時間よりもずっと前から一緒に居たような、そんな錯覚をしていた。それ故に彼が居ないと寂しく感じてしまうし、彼と共に過ごせれば嬉しく思う。

『わかりやすいなー。
あ、でも勇者様の性格的にバイトしそうだし、バイト始まれば居候じゃなく同居だね』
「確かにしそうだけど居候のままじゃないかな?
保護者が居るのにバイトでお金稼ぎ過ぎると扶養控除適用外になるからそうならない様にお店側もシフト組むだろうし。それ以前に勇者のお金は貯金させて生活はそれ以外のお金でできるよ」

そんな相手の軽口に、本気になって説明を始める雪永。転生時に貰ったお金は自身と仙李の分合わせて1億は越える上、こう見えて雪永は副業でかなりの時間働いているので、贅沢さえしなければ10年ちょいは、仙李が全く働かなくてもそれなりに良い生活が可能なのだ。

『さいですか。え、なに?魔王様は勇者様を養いたいの?』
「んー、ちょっと違うかな。
恩返しだよ。あの世界で人間と対立してまで私達を守ってくれた事の恩返し?的な。
それと仙李との生活は楽しいし、あの世界では道具として苦しんでた彼の笑顔を見ると嬉しくて」
『そっか。昔っからだけどホント魔王様いい人だよ。……魔王様が嬉しいならそんでいっか。
……あ、やばっ……』

若干引き気味の声による質問を、雪永は相手の声を気にする事なく正直な気持ちを述べれば、穏やかな声が電話越しから聞こえた。その後すぐ相手の声のトーンが下り、電話越しから慌ただしさが解るようなくらい物音がして。

「え、どうしたの!?」
『ゴメン、魔王様!勇者様……仙李らしき人来たから切るね!』
「わ、わかった!」

心配と戸惑いに煽られた雪永が尋ねれば、相手は申し訳なさそうに、だけど状況が状況なのか早口で謝ってはそのまま通話を終了させた。

「……これで学校のほうも大丈夫そうだね。
じゃ、私も学校行こっと!」

通話終了が表情された携帯電話の画面を眺めてた雪永は、その後鞄を右手に期待を胸に、家から外へと駆け出した。

Re: 元勇者、居候になる ( No.9 )
日時: 2020/08/14 08:34
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: o/NF97CU)

#注目を浴びる-4


*** *** ***

「学校に着いたはいいが……職員室はどこだ……?」

雪永が通話をしてるのと同時刻。
仙李は学生が大勢いて賑やかな学校の敷地内で彷徨っていた。職員室に行くのは雪永から聞いていたが、肝心の場所を聞いてなかったのである。
暫く彷徨ってると、人だかりもどんどん減っていって、敷地内も静かになっていた。場所は解りそうでは無く途方に暮れかれたので、一旦玄関らしき場所へと向かうと、そこに1人の長い黒髪で、凛とした佇まいの女性が立っていた。制服を着ているのでこの学校の生徒で間違いないと思い、困り果てていた仙李は彼女に話しかけた。

「すいません。ここの学校の職員室の場所を教えていただけませんか?」
「どなた?……制服……場所解らないとなると新1年生の方ですか?申し訳ありませんが入学式は午後からで……」
「あ、いえ、私は3年生で転入生です」

女性は何か勘違いしたのか、お辞儀をして謝ってきた。仙李はそれに困惑し、彼女の勘違いを訂正しようと、言葉を付け足した。

「あ……転入生の方でしたか。すいません、私とした事が勘違いした上に決めつけてしまって」

仙李の言葉で勘違いに気づいたようで、彼女は羞恥で顔を赤くしながら額に手を当てては、再び深くお辞儀をしながら謝罪の言葉を述べた。

「あ、頭を上げてください。勘違いは誰にもありますから……!」
「そう言っていただけると助かります。ありがとうございます」

特に悪い事をした訳でもない女性が自身に頭を下げてるとなると、それを申し訳なく感じた仙李は頭を上げるように言えば、女性は今度は感謝を述べて。
この女性の様子に、仙李は前の世界の事を思いだす。勇者として人間の道具とされていた一方、人間に造られた事等何も知らない一般人からはそれそこ『人類の希望』としていつも感謝されたり頭を下げられたりしてた。あの頃はまだ魔王達に会う前……感情が芽生える前なので記憶は朧気だが、見てみぬふりをしてたか、軽くあしらっていた可能性が高い。その可能性が脳裏に浮かんだ事もあり、それと今の女性が重なって心の底から申し訳無くなって。

「あ、すいません。職員室の場所を……」

このままでは空気が悪くなってしまうし、仙李はこの可能性を思考から抹消したいからと強引に話題を逸らす。女性はあっと思い出したような顔をすると、「解りました。案内しますね」と歩き始める。

まず玄関に入り、そこから上履きに履き替える。そして校舎と渡り廊下を通り、もう一つの校舎へ。移動途中に話を聞いたのだが、この学校は北と南で校舎が別れており、北校舎に職員室や保健室、実験室や図書室等の特別教室と1年生の教室が、南校舎に2,3年生の教室があるそうだ。
途中、互いに自己紹介をした。女性の名前は黒須くろす春香はるかというそうだ。3年生で生徒会長だそう。女性こと春香は「生徒会長と言ってもただの堅物ですので。皆さんとは距離を置かれてるんです。そんな人間、リーダーとして相応しくないんですよね」と苦笑いをしながら卑屈になっていた。そんな彼女に掛けるべき言葉は仙李には解らなくて。ただ眺める事しか出来なかった。



「清水さん、着きましたよ。
では、私はHRがあるのでこれで」
「はい。ありがとうございます、春香さん」
「いえ。生徒会長として困ってる生徒を放っておけませんから。それでは」

数分後。職員室前に着いたので、春香にはお礼を述べて別れる。そして、その足で職員室の扉を軽くノックした。

「おはようございます。どんな御用ですか……?」

扉はすぐに開かれ、儚く、優しい声と共に、どこか既視感のある白衣を羽織った若い女性の先生が出ていた。

「はじめまして、おはようございます。
私は本日から転入生として来た者で、清水仙李と言います。職員室に来るようにとの事なのでこちらをお訪ねしました」
「転入生の子ですか……。私は養護教諭なのでその辺りのお話は解りませんので、他の先生を呼んできます。少し待っててくださいね」

仙李が要件を簡潔に纏めて伝えると、先生は柔らかい笑みを浮かべては、小さくお辞儀をしては扉を閉めて室内へ戻っていった。

先生の言葉通りに仙李は待っていると、すぐさま室内からドタドタと激しい物音が聞こえる。暫くすると物音は収まって、その後再び扉が開かれると、これまた既視感がある、黒髪で小柄な男性の先生が出てきた。

「いやー、待たせちゃってゴメンね?清水君で間違いない?いや______


勇者イキシア様、かな?」
「ッ!?」

はじめは飄々と、だが突如として先生の目つきが鋭くなり、先生と仙李意外聞こえないであろう小さい声で、耳元に囁いてきた。
雪永達、限られた人しか知らない筈のその名前が呟かれ、驚愕した仙李は反射的に身構える。この世界なので武器は当然持ってないが、元の世界ならば常備していた剣を抜剣していただろう。

「あー、構えなくても大丈夫。
落ち着いて、よーく先生を見てみて」

先生は少し困惑したように仙李から離れ、敵意が無いと伝えたいのか両手を上げる。
初めは仙李には先生の言葉は理解出来なかったが、少しずつ冷静になってくると徐々に意味が理解できてきた。

「もしかして貴方は…………」
「そう、多分そのもしかしてで間違いないよ。
ま、こんなとこで立ち話もなんだし、転入についての話も、あっちの話もしたいから移動しよっか。
……ついてきて」

仙李の言葉を遮った先生は、茶化すようにそう言っては、そのまま歩み初めて。彼の1歩1歩は大きく、仙李は彼を早歩きで追った。

そして、すぐさまとある部屋に入っていく。仙李も部屋に入った事を確認すると、先生は部屋に鍵をかけると、仙李の前に立った。

「よし。こんで邪魔は入ってこない筈。
……という訳で改めまして。お久しぶり、こっちでははじめましてだね。
諜報員ユーリ改め高校の教頭、栖川すがわ勇里ゆうりでーす!」

少しお巫山戯気味にドヤ顔をしながら名乗る先生こと勇里。
そう。彼こそが魔王の数少ない人間側の理解であり、諜報と魔法に長けた策士ユーリが転生した姿だった。

Re: 元勇者、居候になる ( No.10 )
日時: 2020/08/15 11:09
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: A3jnu3NM)

#注目を浴びる-5

「ユーリさん……いや、栖川先生。まさか貴方もこの世界に来てるとは……」
「あはは。驚いたでしょ。まあ自分も君がここに来てると聞いて驚かされたんだけど。
まぁ取り敢えず座って」

仙李の言葉に、勇里は手で頭を掻きながら呟いては、部屋の奥から2つの椅子を引っ張りだしては座るように催促するので、仙李は素直に座る。その後勇里ももう1つの椅子に深く腰掛けた。

「驚きましたよ。
ついこないだ雪永に勇里さんが私と出会ったときには既に転生していたって聞いたばかりで……という事は、2度目の転生なんですか?」

途中まで喋るも、仙李は自身が話した言葉でふとある疑問が浮かび、その事について勇里に尋ねる。

「そう言うとことになるね。
自分でも驚いてる。2回記憶を保持して転生したこともあるけど、なにより……この世界さ、あっちの世界に転生する前の世界と同じ世界なんだよ。探したら過去の自分の家もあったし。ただ当然死んだ事になってる……それに、あっちの世界に居た時も時間は進んじゃってたから戻れないけどね」

勇里は頷くと、小さく笑みを浮かべた。けれど、傍から見ればどう見えも無理に笑っているようにしか見えなくて。
______家族に会いたくても会えない、あったとしても信じようもないし、今更戻ったとて迷惑だから。彼が遠回しでそう言ってるような、そんな気もした仙李だが、久しぶりにあった人が軽い気持ちで踏み入っていけない領域なのも同時に理解し、彼の事も考えて話題を逸らすことにした。

「そういえば勇里さん、私に合う前から転入生が私だって解ってったような口ぶりですが、そのところどうなんですか?」
「なんでって言われると……そりゃ保護者が親戚扱いの魔王様……雪永だから察せるよ。それに今さっき雪永と通話してたし」
「なる程。雪永とはここでも知り合ってたんですね」
「うん。結構前に偶然会ってね」

仙李が尋ねれば勇里はいつも通りの声調に戻って軽口を叩く。その様子を見て内心安堵した。

「あ……
それとね。この学校にもう1人、転生した人がいるよ」

勇里は何かを思い出したように呟くと、そんな大事な事を軽いノリで伝えてきた。

「なんと……誰ですか?」
「それは秘密って事で。近いうちに会う事になるだろうから。まぁそれは置いといて、そろそろ本題進もっか。時間も限られてるからざっくり説明するよ」

仙李が尋ねても勇里は意地悪っぽく笑うと、彼の鞄から書類を取り出す。
近いうちに、という事は同じ学級か担任か教科担任の教師だろうかと考察する。

「この学校の事は事前にある程度雪永に教えてもらったと思いたいから置いといて。
これ、1日のスケジュール」

勇里から差し出された紙を受け取ると、時間割の話……50分授業が1日6時間形式の事や、転入する教室は3年B組であること、この学校の校則、部活動やバイトの申請とバイト可能な職種についてなど必要な話を簡潔にしてもらった。彼の説明は、仙李がイキシアだった頃に世界情勢を教えてもらった時のように解りやすくて、すぐ憶える事ができた。

「これでおしまい。えっと、今の時間は……始業式中かぁ。
……教室入るのは次の学級活動からでいいからちょっとお話してかない?」
「え……?大丈夫なんですか?」

話が終わると、勇里は彼の腕時計を確認しては、ニコニコしながらそんな提案をする。授業中なのだからいけないのでは?と思い尋ねるも……

「ヘーキヘーキ。本来説明にこの時間丸々使う予定だったし。仙李の物覚えがいいから早く終わっただけ。最悪何か言われても権力で誤魔化すよ。校長先生は会議かなんかで居ないし」

そんな返答がきた。現在の勇里の地位である教頭は学校のトップの校長の次に偉いので、悪い方向に事が進んだら職権乱用するつもりらしい。それこそ駄目だろう、そう思う仙李だったが、そもそもこの時間は丸々説明に割く予定だったのなら大丈夫かと思い直す。

「でも話って言っても、何するんですか?」

説明が終わったのだから、もう話すこともないだろう。そう予測し尋ねれば、案の定勇里は「あ」と呟き、そういえば……と言わんばかりに視線を逸らす。
そのまま暫く沈黙が訪れてしまい、彼は痺れを切らしたようで溜息を吐いては頬杖の体制をとり……

「清水君、話題はないかな?」
「私に振らないでください」

開き直って仙李に話題提供を求めてきた。
それに対し仙李は即拒否する。

「あーもー、仙李はノリ悪いなぁ」
「そう言われても……」

子供のように頬を膨らませる勇里に苦笑いを浮かべる仙李。仙李のその言葉を聞いた勇里は「だよねー……仙李はこの世界来たばかりだもんね」と右手で頭を掻く。

「あー、なら……この世界に来たばかりの仙李に色々教えるよ。雪永は成人済とはいえ学生の立ち場だから、自分より持ってる情報少ないだろうし。それでいい?」
「はい。それでお願いします」

その後、勇里が妥協案を出してきたので、その案を飲んだ。

勇里の話は、大方雪永から聞いた話と似たような事だが、彼が言った通り知らないこともそれなりにあって、仙李にとっていい収穫だった。



「そういやさ、ふと思ったんだけど……
職員室の場所よく解ったね?事前に雪永に伝え忘れたから知らなかったと思ったんだけど……」

話初めてから暫くして。勇里がこちらに人差し指を向けながら首を傾げる。

「ああ、その事ですか。それなら、親切な方に案内して貰ったんです。確か……黒須春香さんという生徒会長に」
「……!」

仙李が親切な女性の名前を思い出しながら話せば、勇里は突然目を見開いては固まったように動かなくなり。心配して彼の名前を呼べば、彼は「大丈夫」と返す。が、とてもそんなようには見えなかった。

「……大丈夫じゃないですよね。どうしたんですか?もしかして、春香さんと……」

少し前の無理につくった笑顔といい今の事といい、流石に仙李は彼を放っておけなくて問いただそうとする。
しかし、次の言葉を言いかけた途中で、授業の終了を知らせるチャイムが校舎中に鳴り響いた。

「ほ、ほら始業式終わったし、教室に行く準備しなきゃ!遅れちゃうよ」

そのチャイムをいい事に、勇里は話をはぐらかした。とはいえ彼の言う事は正しいので、仙李は問いただすのを止めて、生徒証などを仕舞い準備をする。

______もう時間は無いが、やはり今の勇里さんは心配だ……春香さんと関係がありそうだから、彼女に会えたら心当たりがないか聞いてみるか。

そんな事を考えながら部屋を出ると、勇里が「待った!」と引き止めてきて。

「どうしたんですか?」
「こういう2人きりの時は今の呼び方でいいけど、自分達の前世の事知らない人の前では『清水君』って呼ばせてもらうから」
「はい、解りました。ならば私も『栖川先生』と呼んだほうが……?」

勇里からのお願いに2つ返事で了承する。確かに生徒と教師が下の名前で呼び合ってたら……他の生徒でも平等に名前で呼ぶなら別だが、そうでない場合何か関係があるのではと疑われる可能性がある。

「うん、そっちのほうが助かるよ。これだけの為に引き止めてごめんね」
「いえ、お気になさらず。では、いってきます」
「うん!初学校頑張ってね!」

部屋の出口で勇里に向かってそう挨拶をすれば、彼は手を振り応援をしてくれた。彼に見送られながら、仙李は廊下に出て、その足で教室に向かった。

Re: 元勇者、居候になる ( No.11 )
日時: 2020/08/16 13:00
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: YjkuwNYn)

#注目を浴びる-6

勇里に書類諸々渡された時に一緒に貰った校内地図を右手に、仙李は3年B組に向かって歩いていく。
仙李が教室に着いた頃には既に学級活動が始まってたようで、教室から教師らしき人物の声がした。

教室のドアを軽くノックすると、担任の先生であろう人物はこちらに気づき教室から出てくる。

「あ、貴方が転入生の清水さん?」
「はい」
「来て貰った早々で悪いけど、今は学級で話ししてるので少しだけ待っててくれる?その間自己紹介とか考えてね」
「解りました」

先生は言うだけ言うと、教室に戻っていく。廊下に残された仙李は1人悩んでいた。

______自己紹介ってどうすればいいんだ……!?

前世の事も入れるのなら山程話す事があるが、今の仙李はこの世界に来たばかり。話す事が無さ過ぎるのだ。そもそも仙李が元の世界での自己紹介といえば、名前と地位……自身でいう勇者の肩書のみ。この世界での……否、学校での自己紹介については雪永からなんとなく聞いたものの話す事が無いのでどうしようもない。
そんなこんなで悩んでいると、もう時間切れなようで、先程の先生から「入ってきて良いよ」と言われた。
時間切れなのならば仕方ない、と観念して教室に足を踏み入れる。
教室に入ったとたん、何やら教室が騒がしくなる。

「こら、静かに!
……清水さん、黒板に名前書いて自己紹介して」

けれど、先生の一喝で教室は静かになり、先生から白く太くて短い棒状のものを渡される。
______確か……これはチョークだな。で、黒板が後ろの黒い板か?先程勇里さんに聞いた知識がもう役に立つとは。
心の中で勇里に感謝しつつ、黒板にチョークを使って大きく自身の名前を書く。そしてチョークを先生に渡した。

「はじめまして、今日からこのクラスで勉強することになりました、清水仙李です」

取り敢えず挨拶をして名乗った。
しかし、この後どうすれば……そう悩んでた仙李に助けて舟が来る。

「緊張しなくても大丈夫。
適当に得意教科とか趣味とか頑張りたいこととか言ってくれればいいから」

緊張は殆どしてないのだが、困惑で引きっつた笑顔になってた今の仙李を、先生は緊張してると勘違いしたのだろう。だが、勘違いだろうと助かったのには変わりない。

「は、はい。
えっと……得意教科は特に無いですが運動については自信があります。趣味……趣味とは少し違うかもしれませんが食べる事が好きです。まだまだ知らない事が多いので、ここで沢山の事を学んでいきたいです。宜しくお願いします」

そう言い切っては軽くお辞儀をする。運動については自信はある。これでも元勇者なのだから、走る事は勿論、泳ぐ事や幅跳びその他、身体を動かす事全般を仙李は得意とする。実際、仙李の身体能力は勇者時代の全盛期よりは衰えているが一般人の高校生より圧倒的に上である。
お辞儀をすると、生徒達が一斉に拍手をした。反応を見るにこれで正解のようだ。

「はい、ありがとう!
清水さんの席はあららぎさんの隣ね。あ、蘭さんは……」
「ここです」

先生に座席について言われ、位置について言うとしたら、窓際の後ろの席に座ってる1人の女子生徒が挙手をする。恐らく彼女が蘭という名の生徒だろう。

「ありがと、蘭さん。
清水さん、あそこね」
「解りました」

仙李は頷くと、蘭という女子生徒の隣の席に座る。

「はじめまして、清水さん。あららぎ菖蒲あやめです。宜しくお願いします」
「こちらこそ。宜しくお願いします、菖蒲さん」
「はい」

座ってすぐ、蘭こと菖蒲が名乗りあげてきたので、こちらも名乗り手を差し出すと、菖蒲はその手を握り微笑んだ。
その後、先生が話し始め、これからの事等の話しを終えこの時間の授業は終わった。


そして、休み時間。暇なので適当に本でも読んでようとしたら、いつの間にか仙李の周りには沢山の生徒が集まっていた。

「ねぇ清水さん、前の高校はどこ?」
「ああ、それは……」
「清水君、運動得意なら陸上部こない?」
「すまない、部活に入るつもりは……」
「それより、食べるの好きなら料理研究部に来なよ!」
「ちょ……」
「仙李君はどっから通ってるの?電車、バス?」
「まっ……」
「清水さん______」
「仙李______」

「すとぉぉぉぷ!」
「「「「「「!?」」」」」」

360°から質問攻めに会い、回答が追いつかず慌ててたところに、菖蒲の静止の声がかかる。

「清水さんが困ってるでしょ」
「「「「「すいません……」」」」」

菖蒲に注意された人達が罰の悪そうにしながら散っていった。

「清水さん大丈夫でしたか?」
「はい、お陰様で。ありがとうございます」
「どういたしまして」

心配そうに菖蒲が問いかけてくるので、大丈夫だと頷く。
その人達には少し申し訳無いが、このまま質問攻めされたら仙李の処理能力が持たないので今は菖蒲に感謝する。何かお礼をしなくては、そう考えた時には次の授業の開始を告げるチャイムが鳴ってしまった。先日の女性といい朝の春香さんといい時間のせいでお礼が出来なかったし、最近は何かと時間に邪魔されてばかりだな、と思う仙李であった。

「次は……確か数学でしたね。清水さんが前に居た学校はどうだったか知りませんが……この学校は始業式の日でも通常授業もあって、いつも通り6時間授業があるんですよ」
「そうなんですね」

菖蒲は数学の教科書を出しながら説明してくれた。仙李にはこれが普通なのか解らないので取り敢えず相槌を打つ。
そんなタイミングで、教室の扉は開かれ、数学の教科担任である教室が入ってきて。生徒達は授業開始の挨拶をし、数学の授業が始まった。

Re: 元勇者、居候になる ( No.12 )
日時: 2020/08/17 15:57
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: 0nxNeEFs)

#注目を浴びる-7

あれから2時間後。午前中の授業が終わり昼休み。
昼休みは50分あり、基本自由時間だが、大抵の生徒は昼休みの半分程を昼食をとる時間に使う。
それは、仙李も例外ではない。

昼食は弁当の持参か、学校のラウンジに隣接している購買で買うかの2択であるが、仙李は弁当を所持してないので購買で買う事にし、購買へと向かおうとする。その時……

「清水さん、お昼はどうされるんですか?」
「購買で買うつもりです」
「私もです!よければ一緒に行きませんか……?」

菖蒲に尋ねられたので素直に答えると、同行のお誘いが。

「いいですが……
私なんかでいいんですか?まだ出会ったばかりなのに……」
「はい。午前中仙李さんと一緒に授業受けて、いい人そうだと感じたので仲良くなっておきたいと思って。それと、昼食後の時間にでも校内を案内しようかと」
「そういう事ならご一緒させていただきます」

いい人そう、そう言われ気分が良くなった仙李は頷いて誘いを承諾する。いい人というイメージを持って貰えるのは普通なら気分が良くなるものだ。

「ありがとうございます。なら、向かいましょうか」
「はい」

彼女は鞄を背負い、教室から出て早歩きで購買へと向かい、仙李もその隣を歩いていく。


到着すれば、既にラウンジに沢山人がいて、購買も行列ができていた。

「すごい人数だな……」
「ですよね。
この購買のカレーパンが人気なんですけど、数に限りがあるのでみんな買う為に急いきてるんですよ。私もこのカレーパンは好きなんです」
「へぇ……それでこんなにならんでるんですね。……買えたら私も買ってみます」

人の多さに圧倒され、ポツリと呟くと菖蒲は苦笑いをしては、この行列の理由を教えてくれた。仙李はカレーパンというものは解らなかったが、そこまで人気なのならばさぞ美味しいことだろう、と思い、自分の番に残ってたら買おうと決めては列に並ぶ。

数分後、自分の番が回ってきた。

「あ、カレーパン残ってる!
すいません、カレーパンとサンドウィッチください!」

仙李がどんなものがあるか見ていると、菖蒲のそんな嬉々とした声が聞こえてくる。余程カレーパンを買えたのが嬉しいようだ。
そんな彼女を横目に、視界に入ったメロンパンというものが気になったので、カレーパンと一緒に買う事に。

「すいません、これとカレーパンを1つずつ」
「はいよ、メロンパンとカレーパンね。360円よ」
「解りました」

店員さんに注文してはお金を支払ってパンを受け取る。
そのパンを持って、先に支払いを済ませてラウンジで席を確保していた菖蒲が座ってる場所に行く。

「清水さんも無事に買えたようですね。お水持ってきておきました」
「はい。ありがとうございます」

席に座ると、菖蒲から水が入った紙コップを貰う。後で知った事だが、この学校はウォーターサーバーというものがあり、生徒は水は飲み放題だそう。
早速食べよう、そう思ったところで、購買の方から店員さんの声が聞こえた。

「ごめんなさい、今日のカレーパンは完売しました!」

その声と共に悲痛の声が列に並んでた生徒達からした。列から離れる生徒も一定数いて。その中には仙李が見覚えがある人物もいた。

「あ、春香さん!」
「あら、清水さん」

そう。生徒会長の清水春香である。
名前を呼べば彼女もこちらに気づいたようで近づいてきた。

「え、生徒会長……?清水さん、生徒会長とお知り合いなんですか……?」

菖蒲は驚愕した様子で、仙李と春香を広告に見ては小さく呟く。

「はい。今朝職員室に案内をしていただいて。
春香さん、その節はありがとうございました」
「いえ、お気になさらず」

菖蒲に簡易的に説明しては再度春香にお礼を言うと春香はそう返して。そんな彼女の視線は、仙李のカレーパンと菖蒲のカレーパンを行ったり来たりしていた。

「……春香さん、よければ私のカレーパンを譲りましょうか?先程買えなかったようですし」

春香は先程カレーパンを買えなく、彼女の表情からも明らかに欲しそうであるので、仙李はそんな提案を持ちかけてみる。

「い、いえ、それは清水さんが並んで、それで自分のお金で買ったものですし……それを食べる権利は清水さんのものなので……だから、私の事は気にしないで食べ…………食べてください」

口では断る春香だが視線はカレーパンから離れる事はなく、目は貰えるかもという期待で満ちているし、落ち着きがないのか指で髪を触ったり、そわそわしていた。実にわかりやすい。

「私は別にたまたま買えただけなので。中途半端な気持ちの人が食べるより、春香さんみたいに欲しがってる人が食べるべきですよ」
「いえ。生徒会長たるもの、生徒から物を譲ってもらうなんて……」

そこに追い打ちをかけると、春香はピクッ、と背筋を伸ばす。それでも生徒会長としてのプライドが勝ったようで断られる。が、彼女の口から僅かに涎が垂れていた。ここまでくると可哀想に見えてきて、どうにかして受け取って貰いたいと思う仙李。

「どうしたものか……
なら、今朝の案内のお礼、という事で受け取ってください。それならば代価という事になるので譲ったとは違いますし」
「そこまで言うのなら……いただきます」

お礼、という言葉を使って、このカレーパンを渡す理由を変えれば、春香のプライド的にも許容できたようで、仙李は彼女にカレーパンを譲った。その時の彼女の表情は堅物とは程遠い子供っぽさすら感じる笑顔で。その隣では菖蒲が、「あの生徒会長が……」と驚いた様子で呟いていた。

「あ、でも代金は支払いますね」

これでひと段落かと思えば、財布を取り出してそんな事を言う春香。それには流石の仙李も驚くし、菖蒲に至っては「やっぱり生徒会長だ」と色んな感情がせめぎあった、そんな感じだった。

「いえ、お気持ちだけで結構です。笑顔を見れるなら、これしきの出費なんて些細な事ですから」
「……解りました。ありがとうございます」

仙李がそう言えば、春香は代金を支払うのを諦め、近くの席に座っては幸せそうにカレーパンを食べたした。

「……なんですか、今の言い回し。もしかして生徒会長に気があるんですか?」
「え、どういう事ですか……?」

幸せそうな春香を見つめていた仙李だが、菖蒲に冷たい視線で睨まれた。彼女の言葉の意味が解らなく尋ねると、菖蒲は溜息を吐いた。
その溜息の意味が解らず仙李は首を傾げる。なんせこの発言は善意のみによるものだから。どれだけお金があろうとも魔族と人間の戦争を止められず、魔族の笑顔と魔王達を守れなかった仙李からすれば、大切な人や知人の笑顔が見れるならパン1つのお金なんて安いものなのである。

「なら聞きます。生徒会長以外の人が今の生徒会長と同じ状態だったら譲ってたんですか?」
「はい。……流石に知り合いに限りますけど」

鋭い視線を向けてくる菖蒲の質問に、困惑しながらも答える仙李。その答えを聞いた菖蒲は、小さい声ながらも笑い声をあげる。

「な、何変な事言いましたか……?」
「いえ。ただ……清水さん、面白い人だなって」
「えぇ……?」

首を傾げる仙李に、面白可笑しく笑う菖蒲。菖蒲に面白い人だと言われ困惑の声を漏らせば、彼女はクスっと笑う。

「なんなんですか?」
「いえ、何でもないです。さ、あんまり喋ってると校内案内の時間が無くなってしまいますよ」

もう一度尋ねればはぐらかされたので、仙李は仕方なくメロンパンを食べるも、暫くの間この事について、何故菖蒲があんなに笑っていたのかとずっと考えるのであった。

Re: 元勇者、居候になる ( No.13 )
日時: 2020/08/20 16:46
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: yLoR1.nb)

#注文を浴びる-8

昼食を取った仙李は、菖蒲に校内を案内してもらう予定なので、まだ食べてる彼女が食べ終わるのを待っていた。
そんな時、丁度食べ終えた様子の春香が話し掛けてきた。

「清水さん。カレーパン、ご馳走様でした。とても美味しかったです」
「それは良かったです」

彼女は律儀に感謝を言いに来たので、仙李は微笑んで。春香は「それでは、私は生徒会の仕事がありますので」と立ち去ろうとするが、仙李はある事を思い出して彼女を引き止めた。

「あの……ひとつだけ、お聞きしたいことが」
「はい……?構いませんが……」
「栖川勇里先生について、何か知っている事はありませんか?」

彼女が承諾してくれた事を確認し、仙李は質問をする。今朝勇里と話した時に彼は春香の名前に反応したような気がし、彼女ならば何か知っているのかも知れないと考えて尋ねようと思ったのを、たった今思い出したのだ。

「栖川先生といえば……教頭で化学の3年生担当の……?栖川先生の授業は受けた事は無いのでどんな方かはご存知ありませんが、生徒からも保護者からも評判は良いようです。彼がどうかしましたか?」

春香は顎に手を当て考えながらは答えてくれた。表情を見るに何かを隠してるようには見えない。これは考察が外れたか、と少し悔しい仙李だった。

「あー……今朝、この学校について栖川先生に説明してもらったんです。良さそうな方だったので、どんな先生か気になりまして」
「なるほど、そういう事でしたか。では、私はこれで……」
「はい。引き止めてすいません」

何故、と問われれば、前世に関わる事は隠して答える。これで通せたようで、春香は納得したように頷くとラウンジを去って行った。

「その事なら私に聞けばよかったじゃないですか。隣の席なんですし」
「そうでしたね。ふと思い出した事なので……」

春香が去ったラウンジで、菖蒲は少し不満気に頬を膨らまして言ってきた。春香に聞いてこそ意味のある質問なのだが、それを言うとややこしい事になるだろうと感じ、それっぽく返しておく。

「そうですか、それなら仕方ないですね。
では……そろそろ校内案内、行きましょうか」
「はい!」

菖蒲はそれで納得してくれた様子で、鞄を持って立ち上がった。仙李も彼女に続き立っては、2人でラウンジを後にした。



ラウンジを後にした2人は、先ずはラウンジがある南校舎の1階を歩いていく。美術室、資料倉庫はここにあるようだ。そして、1階の端まで来ると階段で2階、3階へと登っていく。

「南校舎は1階以外は通常教室です。2階は2年生が、3階が私達ですね。2階には生徒指導室が、3階には生徒会室があります」

「なるほど……これは覚えるまで少し迷いそうですね。生徒指導室と生徒会室が……」
「その2つは紛らわしいですからね。毎年間違える1年生がいるんですよ」

用途は全く違う生徒指導室と生徒会室だが、何せ名前が似ている。これは間違えないように特に注意しなくては、と頭の片隅に置いておく。
次に、渡り廊下を渡って北校舎へ向かう。
北校舎に入ってから少し歩くと、菖蒲は足を止めた。

「ここが音楽室です。
実は……私、こう見えて軽音部のギター兼ボーカルやってるんです」
「ほう……」

彼女は苦笑いをしながら、そう説明する。
音楽について詳しくない仙李なので、こう見えてと言われても解らないので、相槌を打つ。少し解らない程度なら教えてもらうのもいいが、根本から解らないのは変人に見られてしまうから。
が、世間一般からすれば菖蒲は容姿も黒く艶のある髪を1つに束ね、年不相当な大人の顔立ち……所謂大和撫子であるので、意外と感じる人もそれなりにいるだろう。そこにしっかりとしてて、教室では比較的大人しい部類なのも、彼女がボーカルである事に意外性をもたせる。
そんな彼女は、廊下に貼ってある一枚のポスターを指さした。

「再来週の昼休み、新入生歓迎でライブをやるんです。よかったら清水さんにも私達の演奏を聴きに来てください。みんなで曲から作っているので、ここでしか聴けない曲なんですよ。それに、とっても楽しいライブにしますから」
「解った。是非とも行かせてもらうよ」

ポスターは軽音部ライブのお知らせだった。菖蒲の誘いを特に断る理由も無いし、菖蒲があまりにも嬉しそうに語るので、仙李はそのライブに興味を持ち、2つ返事で承諾したのだった。




その後、2人で校内を周り、丁度一周してラウンジに戻ってきて。
昼休みが終わる10分前となった。

「今日は案内ありがとうございます、菖蒲さん。お礼、と言ってはなんですが……何か私からもしてあげれませんかね……?」

歩き疲れたのでお互い近くの椅子に座り、水を飲んでる菖蒲に仙李はそう話し掛けてきた。

「お礼なんて…………なら……よかったら、私の友達になってくれませんか?」
「私で良ければ喜んで」
「はい……!」

彼女は一度吃るも、少し考えては、恥ずかしそうにそんなお願いをしてきた。それに微笑んで答えると、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。その笑顔はどこか幼さが感じられ、それに対し仙李はどこか懐かしさを感じて。

「あの……少し、変な事言っていいですか?」
「はい、大丈夫です」
「私……貴方に会ったのは今日が初めての筈なのに、ずっと前に会った事がある、そんな気がするんです。
いつもは自分から知らない人に話しかけるようなタイプじゃないのに、こんなにも気楽に話せるのは貴方が初めてですし」

「おかしな話ですよね」と苦笑いを浮かべる菖蒲に、「自分もそんな感じします」と伝える。
先程の彼女の笑みの懐かしさといい、この話といい、仙李もまた、彼女には会ったことがあるように感じるのだ。

「……!偶然、ですね。
そうだ。これからは敬語じゃなく、普通に話さない?貴方とならもっと仲良くなれる、そんな気がするの」
「それはいい案です……だな」

菖蒲はパン、と両手を叩き、仙李の前に移動してきてはしゃがんで手を差し出してきた。彼女の言葉通り、彼女となら仲良くなれる、そんな気がした仙李は笑顔でその手を握った。

「決定ね。改めてよろしく、仙李君!」
「こちらこそ。……菖蒲!」



***
Episode2終わり!
明日辺りに幕間を出してから勇里達のキャラ設定出せば一旦区切りです。幕間で残りキャラ出せばEpisode3開始前までにメインキャラを一度でも喋らせるというノルマが達成する。
キャラ設定出した後からは更新頻度が遅くなります。

Re: 元勇者、居候になる ( No.14 )
日時: 2020/08/22 22:20
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: AwgGnLCM)

明日辺り(明日とは言ってない)
……すいません。ただただ忘れてました。あ、シャニマスでプロメッサ咲耶とくら峰のtrueENDできましたありがとうございます。開始から約半年初truやぞ!
では幕間スタート!

***

#幕間 気ままな教師


無機質な電子音がメールの着信を知らせる。
その音に気づきいた若い男性は、資料を纏める手を止め、机のスマートフォンを手に取った。

「雪永からかー
………………へぇ、ナルホドねぇ」

送り主は草津雪永。男性の知り合いだ。男性はそのメールを読むと、楽しげに口元に笑みを浮かべる。
その後もマジマジとそのメールを眺めていると、彼にとって聞き慣れた声が聞こえた。

「あ、やなぎ先生じゃないですかー☆
どうしたんです?何か嬉しい事でもあったのー?」

柳先生……男性の事をそう女性は、ニヤニヤしながら彼の顔を覗き込んだ。
彼はとある大学の教師であり、女性は彼が担任のクラスの生徒である。

「うぉぅ、確かお前は……紅林くればやしか……」
「ちょ、その反応は傷つくんですケド……でもアタシ、昨日の午後入学したばっかなのにでよく名前覚えれましたね?」

男性が明らかさまに嫌そうに女性の名前を呼べば、紅林と呼ばれた女性は首を傾げて。

「いやー……お前みたいなザ、ギャルみたいな奴そうそういないし。しかも根はまともそうだし。
あと教え子が隣に居たら誰だってびっくりするっしょー」
「いやまぁそうですけど」

半ば冗談っぽく笑えば、女性は苦笑いで返す。その後、女性が「で、話題逸らされてたんですけど、結局何かあったんですかー?」と聞いてきて。

「ちょっとねー……親しい奴がこっちに引っ越して来たって連絡があっただけ。お前も嬉しそうだけど何かあった?」

スマートフォンの画面を見られないように、画面が下になるように机に置いては、人差し指を女性に向けて尋ねる。

「わります?だって念願の大学生じゃないですかー☆……ってのもあるんですけど。
昨日の午前中……入学式の前に、最近引っ越して来たばかりな男の子を高校に案内したんですよ。それが昔のアタシと重なって懐かしいなーって思って」
「ふーん……もしかしてボクの親しい奴と同じ奴だったりして」
「まさかー!それはないですってー」

思い出を語るように女性が話せば、男性は髪を指に巻きながら呟くので、彼女はそれに対し笑って。

「それもそうかー。
で…………なんでお前ここにいんの」

男性はそれに納得しては、真顔でそうを尋ねた。すると、女性は困惑気味の表情を浮かべてながら口を開き……

「いや、ここアタシのバイト先なんですけど。
てか先生こそなんで喫茶店で学校の仕事してるんですか。あと書類退かして貰えないと注文された珈琲置けないんですけど。何時まで持たせるんですか!パンとかもあるから重いんだけど!!」

と述べた。
最後は怒り気味に。
そう。ここは2人が通う大学の近くにあるごく普通の喫茶店なのであり、女性はバイト、男性は客なのである。

「それは悪い事した……今退ける」

怒り気味の女性に、男性は申し訳なくなり机に広げた書類を速やかに鞄に押し込む。綺麗になった机には、ゴトッ、と大きな音と共に珈琲諸々が置かれる。

「もう……高校生からバイトしてる身から……店員の身からすればこういう類はかなり厄介なのでこれからは気をつけてくださいよ?で、注文した商品は以上でお揃いですか?」
「ん。これで全部ある」

女性は溜息を付きながら忠告したり尋ねたりとしては、男性はふた言で片付けて。

「はーい。ではアタシはまだ仕事中なんで戻りますね。どうぞごゆっくりー」
「おう、バイト頑張れー」

女性はそういい残して店の奥へと向かい、男性は励ましの言葉を掛けては再びスマートフォンの画面を見る。
その画面には、先程のメールが映っていた。

______シダー!イキシアがこっちの世界に来たよー!今は仙李っていう高校生の男の子なんだけど、私の家に居候でいるから、何か仙李に伝えたい事があれば家に来て。

という文章。

「……もうシダじゃなく柳優糸なんだがなぁ。まぁ……気が向いたら会いに行くかー」

男性______優糸は、そんなメールを見て呟いた。彼もまた、仙李達と同じく転生した人間なのである。

Re: 元勇者、居候になる ( No.15 )
日時: 2020/08/23 15:14
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: YUWytwmT)

#キャラ説明 No2


栖川すがわ勇里ゆうり
仙李達が通う高校の教頭兼3年生化学教科担任。若い男性である。
人当たりが良く面倒みもいい事から生徒からも他の教師からも人気が高い。が、その反面無理しがちで弱みを隠そうとする面もある。
前世は諜報員『ユーリ』。人間にして魔王側に付き、魔法を得意とする策士である。諜報員をやってるだけあって世界情勢には詳しかったようで、イキシアはユーリに様々な事を教えてもらってきた。尚、実は転生は今回で2回目であり、最初の転生をする前に住んでた世界は、現在彼らがいる世界と同じ世界らしい。
容姿は150後半と小柄で顔立ちも幼い。髪は黒ショートで瞳は黒で垂れ目。前世は身長160強で、髪色は黒と水色のグラデーション、瞳はくすんだ空色。



黒須くろす春香はるか
仙李が通う高校の3年A組の生徒にして生徒会長の女性。
ストイックで堅物、のわりに感情が表に出やすい。自己評価が低く、実際は生徒達に信頼されてるのにも関わらず卑屈になっていたりする。カレーパンが大好物。
容姿は背中に掛かる程長く、若干癖毛で内ハネの黒髪で、ツリ目で瞳は灰色。



あららぎ菖蒲あやめ
仙李と同級生の少女。しっかり者で教室内では比較的大人しい部類だが、芯は強く意見はしっかり持っている、意外とロマンチストでもある。そして軽音部の副部長兼ボーカル兼ギターでもある。
容姿としては、黒く艶のある髪を1つに束ね、年不相当な大人の顔立ち。瞳は墨色のツリ目。



白口しらぐち仁愛にあ
雪永の同級生で友人で日本人とアメリカ人のハーフの女性。陽気で流行に敏感なイマドキ女。だが思いやり深いく、察しが良い。前世の記憶は無いものの雪永の前世について知っている人間で、色々と相談に乗ったりもしている。雪永が転生してから初めて出会った人間も仁愛であり、雪永にこの世界について教えたのも仁愛である。
容姿は生まれながらの金髪のおさげツイン、顔立ちは歳相当。瞳は黒だが、普段はカラコンで藍色にしている。身長は160ちょいでスタイルは抜群。



やなぎ優糸ゆいと
雪永達の大学の世界史担当の若手男性教師。
自由気まま、脱力系省エネタイプ。周りをよく見ており実の所は気遣いは上手いがしないし、空気は読めるが普段は読まない。
前世は人間の青年の『シダ』。表の顔は人間の国の重役であるが、裏の顔はスパイであり、魔王達の味方だった。
容姿はボサボサな焦げ茶色の髪に、ボブに垂れ目。肌は一般的な人達より白い。身長は165センチ程。前世との差異は対して無い。







***
仁愛と優糸も一緒に書きました。どうせ追記するんだから先に書いちゃえの精神。ブロットと本編が乖離しない限り全員追記する事になる。
仙李雪永のようにモチーフ花は書いてませんが、モチーフ花はちゃんとあります。
紅林ちゃんのフルネームは次章解禁なのと、出番はあったけどまだ名前が出てない方が1名。

Re: 元勇者、居候になる ( No.16 )
日時: 2020/08/23 21:18
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: YUWytwmT)

*作業報告*

大まかなプロットが完成いたしましたので報告を。
この物語はEpisode11(+3)+幕間等による構成予定です。
Episode毎の話数はEpisodeによって数話の差が出ると思います。
さてさて、完結までに何年掛かることやら……

ちょっとだけ裏話すると、Episode6が超絶長いので分割の可能性があるのと((+3)はそういう意味)Episode8がプロット段階なのに書いてて悲しくなりました。本編Episode8-EX書いたら多分泣く。それと仰山シリアスパートも出てきましたのでご覚悟を。

のんびり執筆していきますので、拙い文章ですが……今後とも最後までお付き合いの程宜しくお願いします。

Re: 元勇者、居候になる ( No.17 )
日時: 2020/08/24 19:29
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: 4mrTcNGz)

Episode3

#予期せぬ出会い-1

仙李は初登校の日、帰りに勇里にバイト申請をしては、雪永協力のもとバイトする場所を決め、その数日後には面接を受けて、すぐさま採用通知が来し、その後店長さんとシフト等の話もした。

そして翌週末。
学校に慣れてきたこの頃。
今日は休日であり、初バイトの日でもある。

「仙李も今日からバイトかぁ……働かなくてもいいのに」

仙李がバイト先に向かう為に準備をしてると、こちらも仕事先に向かう為に準備してる雪永がそんな風に呟いた。

「貴方だけ働らかせる訳にもいかないよ」
「でも仙李まだ子供じゃん」
「そうだが……私を子供って言うが雪永もまだハタチだろう」
「まぁねー……」

ずっと世話になりっぱなりは性に合わないから、と言う意も込めて述べれば、雪永は年の差を理由にしてくるのてそれに対し言い返す。実際仙李は17歳、雪永は20歳と差はしれている。

「まぁ、仙李が決めた事だし、将来の事を考えればこういう経験も大事だしね。あ……時間大丈夫?」

雪永はスーツの袖に腕を通しながら仕方なさげに呟いては、一旦時計に視線を移して仙李に尋ねる。

「もうそんな時間か……いってきます」
「いってらっしゃーい!」

雪永に言われて時間を見ると、時計の針は家を出ると予定してた時刻を指していた。前もって準備していた鞄を手に取り玄関に向かえば、雪永は学校へ行くとき同様の明るい声で見送ってくれた。



30分程して。
バイト先である、雪永達が通う大学の近くの喫茶店に着いた。
採用通知時に連絡された集合場所……裏口に向かえば、面接時に会ったことがあるこのお店の店長の女性がいた。

「あ、清水さんこっちー」

そんな風に手招きする店長に名前を呼ばれ、店長につていていけばそのまま店内へと入る。
店内には開店前故にお客さんが居ない静かな場所で、それ以外には従業員と思われる人が何人か居た。その中には見覚えのある人がいたが、雰囲気は違ったので気のせいかと思いその場はスルーした。

「はい、みんな集まってください!
今日からバイトで入る清水仙李さんです」
「はじめまして、今日からアルバイトてしてこちらでお世話になります、新人の清水仙李です。宜しくお願いします」

店長の一声で従業員達は一箇所に集まり、店長によって彼らに紹介されたので、その紹介に続き仙李自身からも自己紹介する。この挨拶は雪永受け売りだ。
自己紹介が終わり、お辞儀をした時。従業員の中の1人の女性が「あっ、もしかして……!」と声をあげた。

「あ……やはり、あの時高校の近くで会った……」
「そうそう、先週の!まさかこんな形で会うとは……!」

その声で、先程の気のせいと流した事がが気のせいでは無いと気づき、確認すれば相手も覚えてた様子で。
そう。女性は先週、高校へ行く迂回路を案内してくれた女性なのである。その時のようなきらびやかな格好ではなく、他の人より少し派手な程度だったのが仙李が気のせいだと思った理由だ。

「え、なに?紅林さんこの子と知り合い?」
「あっ……知り合いというよりは一回会ったことがあるだけですけど……」
「なら清水さんの教育係任せていい?」
「構いませんが…………アタシバイトですけど……」
「紅林さんが問題無いならいいでしょ」

仙李の意を余所に、紅林と呼ばれた女性と店長は二人で話が進んでいた。話の流れからして彼女が仙李に仕事内容などを教えてくれる様だ。

「じゃ、清水さんについては決まった事だし……清水さん!向こうに1部屋従業員用の休憩室あるから、そこで紅林さんに業務内容の説明してもらって!他の皆は開店準備!」

「「「「はい!」」」」

気が付いたら店長が話を締め、それぞれが各持ち場へと移動し始める。仙李は休憩の場所が解らないので、自分の教育係らしい先程の女性に声を掛けようとしたら先に声をかけられた。

「新人君ー!休憩室こっちだよー!」
「は、はい……!」

駆け足で先行する女性を後ろから追い、そのまま休憩室へと向かった。



休憩室にて。
後から入ってきた仙李が扉を閉めては室内にあった椅子に両者座る。

「いやー、まさかこんな再開の仕方があるとはねぇ。
こないだ何人かバイトの子辞めちゃったからさ、丁度人手足りなかったから来てくれて助かるよ」
「そうでしたか。なら辞めた方の分も私が頑張ります」
「おっ、頼もしいじゃーん☆」

女性は近くの棚のフックに引っ掛けてあった金具で纏められた紙を取り、それを目で確認しながら呟いていたので、頑張る意思を伝えると期待が籠もった返事返ってきた。

「じゃあ、時間も限られてるから早速説明するね。アタシが教育係になったって事は……新人君はアタシと同じ接客担当かな?」
「はい」
「オーケ、オーケー。それなら説明しやすいや」

仙李は料理も出来ず事務……機械類もさっぱりなので、面接時は接客として応募したのである。
女性の質問に答えれば、女性は頷くと簡単に業務内容を説明してくれた。
接客の時の挨拶のテンプレートや、注文の取り方を始め、バイトの欠席の時などの注意事項や開店前や閉店後にする事等。会計については大雑把に教えてもらい、レジスターという機械を使うからと実践の時に細かく教えてくれるそうだ。その後女性をお客さんに見立て接客のシュミレーションをひと通りしたり、このお店のメニューを覚えるようにという話もあった。
そして開店時間が過ぎた頃。説明が全て終わり、店の制服に着替えている頃。

「いやー、笑顔良し姿勢良し態度良し。物覚えもいいし……これは恐らく即戦力級だねぇ。スゴイや」
「そんな……まだこれからですよ。それに、貴方の教え方が良いですし」

女性にべた褒めされ、仙李は内心嬉しくなりつつも口では謙遜気味に言う。事実彼女の教え方は仙李と相性が良いし、仙李が物覚えもよく礼儀が良いのもこれまた事実である。

「嬉しいこと言ってくれるじゃんこのこのー☆」
「ちょ……まだネクタイ整えてますから……!」

仙李に褒められ気分が良くなった彼女はニヤけながら仙李に近づいて仙李の頬を指で突く。突かれた仙李は身体のバランスを崩してふらつきながらも、なんとか保っては結び途中のネクタイを結びきる。

「あ、ゴメンね?
それと……もう時期仕事始まるけど、わかんない事あったらいつでも聞いてね」
「はい、ありがとうございます…………あの、名前を伺っても?」

彼女は少し離れると、素直に謝っては微笑みながらそう言って。その好意は素直に受け取れば、ふと彼女の名前をまだ知らないのに気付いて名前を尋ねる。尋ねられた彼女は「あ」と、今思い出したような声をあげては少しこちらに顔を近づけて……

「あー、そっか。そっちは自己紹介してくれたけどアタシはまだだったね。
アタシは紅林くればやし一華いちか。これからヨロシク、仙李君!」

そう言っては大きく笑みを浮かべたのだった。

Re: 元勇者、居候になる ( No.18 )
日時: 2020/08/26 11:55
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: YhMlOecY)

#予期せぬ出会い-2

「宜しくお願いします。紅林先輩」
「!」

笑みを浮かべた一華に、仙李も笑顔を浮かべた。
その言葉を聞いた彼女は、嬉しそうに目を輝かせて。

「ねぇ、今のもう一回、もーいっかい言って!」
「わ、解りましたから手を止めてください……!」

彼女は仙李の両肩を掴んでは、前後に激しく振ってきた。仙李が止めるように言えば、彼女の手はぱっと止まる。

「えっと……宜しくお願いします。紅林先輩
………これでいいですか?」
「うん、ありがとー!
……ねぇ、後輩君、これからも先輩って呼んでくれる?」
「は、はぁ……構いませんが……」

一華は満足気に笑うと、期待が篭った目でお願いをしてきて。余りにも嬉しそうなので断れるものじゃないし、そもそも目上の方への言葉遣いはしっかりとしないといけないらしいこの世界なので、言われなくてもそうするつもりであった。

「やったー!
あー、遂にアタシも先輩の仲間入かぁー」
「……あの、先輩…………そろそろ表に戻ったほうが……」

彼女はご機嫌な様子でボソボソと呟いていたので、何だか話しかけ辛い雰囲気だったが、時間の都合もあるのでと声を掛ける。

「あっ、ごめんごめん
バイトでは初めての後輩だから嬉しくて。じゃ、いこっか」
「はい」

彼女は少し申し訳なく謝っては、優しい笑顔を浮かべながら部屋を出て仙李を手招きしたのだった。




客席に出ては、確認を兼ねて店長と少し会話をしては伝票等を貰う。その後は早速接客が始まった。

「すいませーん!」

席の場所の把握の為に店内を動いていたら、若い男女の2人組の男性に声を掛けられたので、直ぐ様彼らの席の側へ向う。

「ご注文はお決まりでしょうか?」
「オリジナルブレンドと……パンケーキを2つずつ」

先程一華に教わったばかりの言葉と営業スマイルというもので男性に尋ねると、男性はメニューのオリジナルブレンドとパンケーキの写真をそれぞれ指指して、最後に指で2を示す。

「ご確認します。オリジナルブレンドの珈琲とパンケーキ、それぞれ2つずつですね」
「はい」
「畏まりました。少々お待ちください」

仙李は注文を復唱し、手元の伝票に席の番号と注文された商品を書き込めば、お辞儀をしてその場を離れる。
キッチンの方へ向かえば、その伝票をキッチン前の伝票入れのトレーへ置いて「オーダー入りました」と一言。

少しすれば料理はできるので、その間に他のお客さんの注文も受ける。その後キッチン側から「○番席の準備できました!」と聞こえたのでキッチンへ向かい、先程のトレーの隣に置かれた珈琲とパンケーキ、そして先程の伝票を受けっとては客の元へ商品を届け行く。

「お待たせしました。オリジナルブレンドとパンケーキ、それぞれ2つでございます。
ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい」
「畏まりました。ごゆっくりどうぞ」

珈琲とパンケーキをそれぞれ置いては、他に注文はないかと確認をする。どうやら無いようなので、伝票を机の上に置いてはお辞儀をしてその場を去る。
これが注文から届けるまでのひと通りの行程だ。
内心、初めてにしては上手くできたのではないか?と感じ、この調子で頑張ろう、と考える仙李。

そこからはそのまま同じ事の繰り返し。
途中、一度だけ一華と共に会計にチャレンジしたが、これは出来ないどころか完全に彼女の足手まといになってしまう。その様子を見てた他の従業員の人に暫くは空いてる時間に練習するようにと言われてしまった。
機械音痴なのを自覚していた仙李だが、まさかここまでとは思って無かったのでこれは少しショックを受ける。一華に「誰しも初めから上手くできる事はないから大丈夫大丈夫!アタシも練習付き合うから!」とフォローしてもらえたのが救いだった。



数時間後。
バイトの終わりの時間が近づいていた頃。
ここで、仙李にとって想定外の小さなトラブルが起きた。 

「あのー、オススメってありますか?」

仙李よりも年下のような少年にそのように声を掛けられた。

「あ、はい。当店オリジナルブレンドの珈琲はどうでしょうか?」
「あ、珈琲以外で」

それに対しこのお店の珈琲は看板メニューだと教わったのでそれを提示したのだが、なんと条件付き、珈琲は駄目という事だそうで。
それ以外、と言われても解らないかった。メニュー名は覚えていても、それを実際飲んたことなければオススメするのはどうかとも思った。
そんなこんなで悩んでると、仙李の後ろからジュースのページが開かれたメニューの本が出てきた。

「ならば……ソーダーフロートはいかがでしょうか?」

驚いて後ろを振り向けば、一華がお客の少年に向ってソーダーフロートの写真を指し示していた。

「あ……!それでお願いします」
「わかりました。ソーダーフロート1つですね。少々お待ちください」

一華は注文を受けると、慣れた手つきで伝票に注文内容を書き込んで。颯爽と現れてトラブルを解決した彼女だが、何事も無かったようにその場を後にする。

「あの……ありがとうございます、紅林先輩」
「いいって事よ☆困ったときはお互い様だし、後輩を助けるのは先輩の役目でしょ?」

仙李は一華を追い、手助けしてくれた事に対してお礼を言えば、彼女は笑顔でピースをした。
そんな彼女は何だか頼もしく感じ、初日ながらも彼女のような人が自分の先輩で良かったと思うのであった。


「後輩君ってバイトあと30分?」
「あ、はい」
「そっか、なら上がる時間アタシと同じだね。
じゃあ……後少し頑張ろう!」
「はい!」

一華はキッチンに伝票を置いては時計を見て尋ねてきて。問いかけに肯定すれば、彼女は笑顔で励ましてくれたのだった。



***
蒼星は本日から遅めの夏休みです。期間は1週間です。しかもテスト週間と重なってます。鬼畜…………
一華先輩とかいうノリも良くて面倒見良い先輩に勉強教わりたい今日この頃。学校では友達に教える側なんだ…………
Episode2から雪永さん出番少ないけど雪永さんの出番はまだ先だから……

Re: 元勇者、居候になる ( No.19 )
日時: 2020/08/28 20:03
名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: y9FxUFsG)

#予期せぬ出会い-3

30分後。17時過ぎ。時間が来たからと、店長達に一言言ってから休憩室に向かい、制服を脱いで早々と着替える。
まだ一華は来てないようだが、じきに来るだろう。
同じ時間に上がる先輩より先に帰るのはどうかと思い、彼女が来るまで待つことにした。

「疲れたな。でもこの感じなら半月程で慣れれそうだ。
…………自動販売機か。喉乾いてたところだし何か買うか」

少しの間椅子に座っていたが、休憩室の隅に自動販売機が置いているのに気づき、席を立って販売機に近づく。
機械音痴の仙李といえど、この世界に来てから2週間以上経ってるのだ。流石に自動販売機の使い方くらいは解るので、財布から取り出したお金を入れて緑茶を購入する。
ガタン、という落下音と共に冷えたお茶入りペットボトルが出てきたのでそれを手に取れば、キャップを取ってお茶を飲む。

「ほんと、この世界の飲食物はどうなってるんだが……一般的に飲まれるお茶ですら前の世界の高級茶以上に美味しいとはな。値段も格安だし」

少し飲んだ後キャップを締めたペットボトルを眺めて。
転生前の世界とこの世界は科学文明は勿論、食文化のレベル格段に違う。これがこの世界の常識なのだから仕方ないのだろうが、仙李はイマイチ飲食物の品質の違いに関してはまだ慣れないでいた。______まぁ、美味しいからいいのだが。

「……先輩の分も買っておくか」

まだ一華は来ないので、恐らく疲れてるであろう彼女にも何か飲み物を買おうとする。とはいえ彼女の好き嫌いは解らないので、無難に仙李が先程買ったものと同じ緑茶にしておく。

買い終わって再び椅子に座ろうとしたところで一華が休憩室にやってきた。

「お、後輩君お疲れ様ー☆
いやー……今日も疲れたぁー」

一華は汗を流しながら一直線に椅子に座り込んでは、彼女の鞄からタオルを取り出して顔や首を拭いていた。

「お疲れ様です、紅林先輩。よかったらこれどうぞ」
「いいの?」
「はい。お疲れのようですし」
「ありがと!気が利くじゃん」

そんな彼女に、仙李は先程買った新品の緑茶を差し出せば彼女は喜んで受け取りすぐにその緑茶を飲みほした。

「ね、もうじき帰るんだよね?
家ってどっち方面?」
「北ですね」
「お、アタシもそっちの方だよ。
色々話しておきたい事もあるし、途中まで一緒に帰れる?」
「はい。大丈夫です」

そんな風に途中まで一緒に帰る約束をすると、一華は「着替えてくから待っててー」と部屋を後にした。仙李は一華がもどってくるまでただ座っていたのだった。


暫くして。
一華が戻ってきたのでそのまま裏口から店を出ては大通りに出て、そのまま北へと向う。
途中、一華には今日の事のような特殊な場合への対応方法や、もしもという事でクレーマーへの対応なども教えてもらった。

「あ、ちょっとあの店寄っていい?シャーペンの芯切らしてて」
「わかりました。自分もついでに何かないか見ておきますね」

ある程度歩いたところで。一華は道沿いにある文房具屋を指差してはそう言った。特に断る理由も無いし、この世界の筆記用具は種類が豊富なので色々見てみたいという事もあるので頷くと、彼女は「ありがとー!じゃ、いこっ」と店内へと入っていく。そんな彼女を追うように店内に入っていったのだが、入店してすぐ、仙李は立ち止まった。

「雪永……!?貴方もここに来てたのか!」
「あ、仙李ー!偶然だね!」

店内には、なんと雪永も居たのだ。彼女はすぐ様こちらに気づき駆け寄ってくる。

「あ、仙李君ってよく話してる例の子?
はじめまして仙李君!雪永の親友の白口仁愛でーす」
「雪永の親友の方ですか。はじめまして、清水仙李です」

その後雪永の近くに居た金髪の女性もこちらに来て名乗りあげる。なんと雪永の親友のようだ。

「後輩君どーしたのー?……って白口先輩!こんちにはー☆奇遇ですねー!」
「お、一華ちゃん奇遇だねー!」

こちらの様子に気づいた一華も駆け寄ってきたが、途中で仁愛に気づき挨拶する。それに対し仁愛も笑顔で返したどうやらこの2人は認識があるよう。

「え、そっちの子は?仁愛も仙李も知ってる子?」
「どーも、仁愛先輩の大学での後輩で、後輩君……仙李君のバイト先の先輩の紅林一華です。貴方は?」

突然の一華の登場に戸惑う雪永に、簡潔に説明して笑みを浮かべる一華。接客業をやってるからか笑顔は完璧である。

「私は草津雪永。仁愛とは親友で同級生。だから貴方と同じ大学だね。仙李とは親戚で、こっちに引っ越してきた仙李と暮らしてるの。宜しくね、一華ちゃん」
「あっはい!宜しくお願いします!
って、え、暮らしてる……?お二人で…?」

一華の問いかけに答える雪永だが、その回答にさらに首を傾げる一華。隣では仁愛もまた首を傾げていては、「親戚……とは?」と呟いていた。

「うん。そうだよ」
「そ、そうなんですか……彼からは親の事情で引っ越してきたと聞いたので驚きです。
まさか嘘吐いてて、実はこんな美人なお姉さんと住んでたのはねー、雪永先輩に何か変なことしたりしてるの、後輩君……?」

雪永の言葉に目を丸くしては、仙李をジト目で見る一華。それに対し仙李は何もしてないとはいえ嘘を吐いたのには変わりなく気まずくなり目を逸らす。

「あ、こら目逸した!」
「待って一華ちゃん!事情があるのは事実だし仙李はそんな事するような子じゃないから……!現になんにもされてないよ」
「えっ、あっ……ごめん後輩君!!」

仙李が目を逸したのをやましい事をしてると受け取った様子の一華に、誤解を解こうと説明する雪永。それを聞いた一華は困惑させながら口をパクパクし、終いには謝ってきた。

「いえ、これは誤解されても仕方ないので……私こそ嘘吐いてごめんなさい」
「ううん、アタシが悪いから!」
「いえ、私が……」
「違うって、アタシが……!」

元はと言えば事実が特殊故仕方ないとはいえ嘘を吐いた事が原因だからと仙李が謝れば、そんなこと無いと一華も謝りだす。それは互いの謝り合いに発展し、収集つかなくなったところで、仁愛が両者の肩を掴んだ。

「はーいそこまで。今回は仙李君達の事情が特別みたいだから誰も悪くないって。若い男女が一緒に暮らしてるのかそんなに言える事じゃないでしょ?こういう風みたいに勘違い起きるんだから。仙李君も仙李君ね。親戚と住んでるって風なら誤解減るし」
「「は、はい」」
「宜しい!」

仁愛にちょっとした説教されやってしまったと思う仙李と、しゅんとなる一華。それぞれ反省したのでそれを見た仁愛は二人の肩を叩いてはこう続けた。

「よし、じゃあこの話はこんでおわり!ここに来たということは一華ちゃん達も文房具見に来たんだろうから見ないとね!」