コメディ・ライト小説(新)
- Re: 元勇者、居候になる ( No.5 )
- 日時: 2020/08/11 23:29
- 名前: 蒼星 ◆eYTteoaeHA (ID: j9SZVVec)
#幕間 夜の魔王様
仙李に浴室の使い方を教えた後、独り先に入浴してすぐ様あがる。その後仙李と交代し、雪永は眠りにつこうとするが……大学の友人______白口仁愛から雪永の携帯電話に着信がきたので、仕方なくリビングのソファに座る。仁愛はただの友人ではなく、雪永の前世が魔王エーデルである事を知っている人物だ。尚、仁愛は前世の記憶は無い、ごく普通の一般人である。
「もしもし、仁愛?どうしたの、こんな時間に」
『いやー、今春休みじゃん?最近会えてないからさ、声くらい聴きたいなーって』
電話越しに居るであろう仁愛に問い掛ければ、そんな子供っぽい返答が帰ってきた。その声色は少し暗く、こんな遅くに電話をかけてきた罪悪感があるように感じた。
「それは嬉しいよ!とはいえ来週には始業式だよ?」
『解ってるよー!でも我慢できなくて』
「仁愛らしいね」
天真爛漫な彼女の声にクスッと笑みが溢れる。そして、いつも彼女と会話するノリで話し初めてしまった。今日は仙李が居ることを忘れて______
数分後。
「雪永、まだ起きてたのかい?」
リビングの扉が開かれるのと同士に、パジャマ姿の仙李がやって来た。パジャマは雪永自身のものなのでやや小さいようだ。
「あ、うん。友達から電話……あ、電話はさっき話した遠距離会話の機械ね。
それがきたから、少し話してて」
これはマズい、非常にマズい。
雪永は非常に焦っていた。無理に笑みを浮かべては吃りながらもなんとか仙李に説明をする雪永。
何がまずいかって。仁愛に今現在男と一緒に居るのをバレると、後日話題のネタにさせるからである。聴かれては困るので通話を終了しては携帯電話をソファに埋める。
「そうか。この世界の友達か……
友達がいるのはいい事だ。お邪魔だろうし私は先に休ませもらうよ」
「う、うん。お休み」
「ああ。お休み、雪永」
『え、なに!?え、え!
ちょ、なに起こってる!?』
何か意味深な事を言っては寝室に向かった仙李。彼の性格からしてただ単に雪永に友達がいる事を嬉しく思ってるだけであろう。そして、それよりも……終了したと思っていた通話は終了しておらず、会話は仁愛に筒抜けだった。
バタン、という扉が閉まる音で仙李が完全に寝室に入った事を確認すると、雪永は再び電話を握った。なんとかして言い訳しなければ、と焦りながら。
「えっと、あのね仁愛」
『雪永ー、雪永さーん!今のどういう事なの!?なに、今の声彼氏!?彼氏宅!?しかも泊まるの!?』
雪永は仁愛に話そうととするが、仁愛からの質問攻めにあい言い訳する隙がなかった。しかし、雪永にはまだ話題のネタ化を回避する方法は残っていて。
「自分の家だし相手勇者だよ!勇者が転生してきたの!」
が……雪永は焦りから判断力が低下しており、自ら地雷を踏みに行った。戸籍上の関係をいい事に言い訳をすれば回避ができたのだが。
『え?勇者って雪永が話してた勇者イキシア?
もうそれ実質彼氏じゃん』
「いやいやいや!何でそうなるの!?」
ガチトーンで呟く仁愛に必死に否定する雪永。だが、仁愛から追い打ちが掛かる。
『何度も夜中にわたしに電話かけてきてさ、勇者に会いたい、勇者来て欲しいって言ってたのどこの誰かな?』
そう。地雷の理由はこれである。仁愛に勇者関連を何も話してなければ地雷ではなかったのだが、魔王が転生してから勇者が転生する前の期間、仁愛が言った通りの事を何度も彼女に言っていたのである。何故言ってしまったのかは雪永自身にもわかならない。その時不思議と勇者に会いたくなったから、という事しか。そして勇者の事を仁愛と話すと、必ずと言っていいほど心がモヤモヤするのだ。
『それで好きじゃないわけないよね?
勇者さんも好きまでとはいかなくてもこうして泊まるんだったら脈アリだよね?
ならもう彼氏でよくない?』
「バカッ……!」
痛いところを的確に突いてくる仁愛。雪永は羞恥で顔が赤く染まっていた。
『照れてる?照れてる?
……好きならそんでいいじゃん。恥ずかしい事じゃないよ?』
仁愛は揶揄い気味に問い掛けては、少し間を空けてから真剣な声で述べて。
「好きかどうかは、正直よく解らない……。恋を経験した事ないから、この恥ずかしさがどこからきてるのかのも」
『そっか。好きなようで憧れや親愛、って事もあるからね。でも、おいおい解るよ。折角再開できたんだから、勇者さんと過ごしてその気持ちの正体を解いてごらん』
余り気持ちを言葉に出来ないが、自分なりに言葉を纏め、ゆっくりと伝える雪永。その言葉を聞いた仁愛は優しく諭すように返した。
「ありがと。……そろそろ私は寝るね。考え整理したいし」
『わかった。こんな夜遅くにありがとね。お休み。
それと……勇者さん絡みの事はわたしと雪永の秘密にするよ。それと悩みにも乗れるだけ乗るよ。雪永は根は繊細だから……ネタにしていい事と駄目な事は解ってるつもりだし。じゃ、また始業式で』
「うん。お休みなさい」
仁愛の気遣いに感謝してはお休みと眠りの挨拶を告げて通話を終了した。
こうして話してできた心のモヤモヤ。今暫くは消えそうでなくて。いつか解る日が来るのだろうか。そう思いながら寝室に移動し、毛布に潜り込み瞼を閉じた。
これから始まる勇者との新たな生活。これで何か解るような、そんな予感を感じながら。