コメディ・ライト小説(新)
- プロローグ ( No.1 )
- 日時: 2020/08/24 00:46
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「もう、終わりか……。」
俺は誰に話しかけるでもなく呟いた。そう、今日は大人気MMORPG『サタナス』のサービス終了日。そして俺は、サタナスのプレイヤーの一人「K」こと、佐藤 ケイ!……いや、まあ、何のひねりもない名前だっていうのは自覚してるんだけど……。ま、まあ、これでもサタナスでは最強だったし?ランキングでは常に高順位をを保って、サタナス内じゃ結構有名なプレイヤーだったんだぜ?
ああ懐かしいなぁ、サタナスでの日々。スタンピード のときは自作の魔法で味方ごと吹き飛ばして、またある時はどのランクのボスまで「一撃」で倒せるか競い合って(ラスボスまで一撃で倒せたときは虚しさしか残らなかったが……。)、暇つぶしに街にウイルス持ち込んでパンデミック 起こして──
……よくよく考えてみるとロクなことやってねーな、俺……。い、いや最近は戦いにも飽きて、拠点に引きこもってるしセーフだろ! うん、そうだ。俺の持ってるレアアイテム狙った来たヤツ返り討ちにして、なんやかんやで戦争になったけどアウトよりのセーフだわ!
「はぁ……。こんなことになるなら別のアカウントでも作って平和に暮らすんだったな……。何か俺のゲームライフ、争いばっかだった気がする、というか争った記憶しかないな。」
「汝、平和を望むか?」
「そうだなー、次このゲームやるんなら平和な国でも作って、ほのぼの暮らすのも……、って今の声何?」
「ふむ……。王になることを望むか。……よし、決まりだな。」
「へ?」
謎の声と共に、突然パソコンの画面が光りだした。
「おわ! な、何だ、演出か⁉」
光はどんどん強くなっていき、俺は思わず目を閉じた。
そして目を開けると……
「は?」
そこは知らない部屋で、俺の前には黒いローブを着た誰かが立っていた。
- 第一話 召喚された……、魔王として。「は?」 ( No.2 )
- 日時: 2020/08/24 00:49
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
待て待て待て、どうなってる?これどういう状況?つーか、コイツ誰──
「──初めまして、そしておめでとうございます! あなたは邪神様に選ばれし『魔王』となるべき御方。我々はあなたを歓迎します!」
「ま、魔王?」
「そう、魔王です! 闇の根源にして、絶対悪。魔族を従え、凶悪な魔獣と共に世界へ牙をむく、まさに天災! あなたにはそうなるべく、邪神様から遣わされたのですよ。」
「ごめん、何言ってるか全くわからん。」
邪神? 魔王? 何言ってんだコイツ。開幕早々ヤバいヤツに会ってしまった。コイツは絶対関わっちゃいけないヤツだ、空気として扱おう。うん、そうしよう。
「あれ?おかしいですね……。『異世界』から来たとは言え、言葉は通じる筈なのですが……。」
ん?……空気が音を出しているようだが気にしな──
「ちょっと待て、今の空気 の言い方だと……、ここが『異世界』……俺のとことは違う世界みたいに聞こえるんだが?」
まさかなー、なんかネット小説で読んだ「異世界転移」ってやつにすげー似てるけど気のせいだろ! というか気のせいであって下さい、お願いします。
「ああ、言葉は通じましたか! ええ、そうですよ。ここはあなたのいた世界とは別の世界! 邪神様が魔王の素質のあるあなたを『召喚』したんですから! ……というか私のこと空気って……。」
「はぁぁぁぁぁ⁉ ふざけてんのか、テメェ‼ 」
「いえいえ。受け止めきれないのは分かりますが、れっきとした事実ですよ。」
待って待って一旦落ち着け俺。そう、心をクリアに──
「……そ、そうだ。夢だ、夢に違いない。大体こういうの夢落ちで済むんだよ。うん、これしか無い。というかこれじゃなきゃ無理。」
「お言葉ですが……、このような現実的な夢を見たことがお有りで?」
そう言って空気 は手を開き、魔法陣を展開した。え、ホログラムとかだよな? そうだよね?
「な、何だソレ?」
「まぁ、見てて下さい。」
そう言って、アイツは掌から……炎をだした。
「……それって、サタナスのスキルの『着火 』だよな……。」
一連の動作は『着火 』の動作と全く一緒だった。あれを手品で再現できるとは思えないし、そもそも現在進行形で掌に炎が浮いてる事自体おかしいのだ。
「あぁ、そういえば、あなたはこの世界の知識を持っていらっしゃるんでしたね。」
「この世界の知識っつーか、ゲームのだけど。」
「げーむ?よくわかりませんが、これで信じていただけましたか?」
……取り合えずほっぺたをつねってみる。
「普通に痛い。」
「納得いただけましたか?」
「ぐぬぬぬ……。」
正直、絶対納得したくない。こんなん夢だと信じたいし、死んだら覚めんじゃねとか思ってたりもする。が、それで本当に死んだらシャレにならんので……
「とりあえず、ここが異世界だと仮定して話を進める。」
「分かりました。それでは簡単にご説明させていただきます。」
「うん。」
「まずは、あなたを召喚した邪神様の目的ですが……。」
「そう、それが知りたいんだよ!」
「それはもちろん……、魔王様になっていただくためです!」
「うん、とりあえず黙れ。」
「理不尽⁉」
- 第二話 とりあえず邪神とやらはぶん殴る ( No.3 )
- 日時: 2020/08/24 00:52
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
ふー、やっぱ空気 はダメなヤツだったか……、大体魔王って何だよ。普通こういうのって王女様が待ってて「勇者になってください!」とかいうもんだろ。それを魔王とかマジで勘弁してくれよ……、
「いいか、そういうのはいらん。事実を話せ。お前の妄想なんて誰も聞いてないから。」
「いえ……、本当に事実なんですって……。」
空気コイツ は冗談のつもりなど欠片も無さそうに言った。
「……マジで?」
「マジです。」
……ヤバい、頭痛くなってきた。どうすんのこれ、つーかもう帰りたい。
「とりあえず、……説明しろ。全部。」
「はい。ではまず──」
……で、コイツから聞いた話を簡単にまとめると、
・俺は邪神とやらに召喚されて、この世界に来た。邪神が俺を選んだ理由は俺に魔王の素質があるから、らしい。ふざけんな!
・邪神の目的は自らの勢力である、魔族の発展。だが、これ以上は「この世界」の者では厳しいと判断し、俺を呼び寄せた。つまり、邪神の目的は、俺を魔王にして魔族をより発展させようということだ。身勝手すぎん?
・で、俺がこれからやることは、魔王を決めるバトルロワイアルへ出場し優勝することらしい。ちなみに、そのバトルロワイアルはルールなんてものはなく皆殺しにしたヤツが勝ちという恐ろしい大会である。ラブアンドピースはどこに……。
「とりあえず、言いたいことはいっぱいあるが一番重要なことを聞く。」
「はい、何でしょう?」
「……俺、帰れんだよな?」
「さあ?」
「……バカか、テメェェェェェェェェェェ‼」
「い、いえ、あなた様を召喚したのは邪神様ですので、帰れるかどうかは邪神様次第でして……。」
「……もう嫌だ。皆バカ。この世界のヤツ皆バカすぎる……。」
「は、はぁ……。」
「……で、どうやったら、その邪神に会えるんだ?」
「んー、魔王になる、位しか私には……。」
「はぁぁぁぁぁ。結局それかよ……。」
とりあえず、メニュー画面開けるかやってみる。
「んー、まぁ適当に、『ステータスオープン』。……あ、出た。」
ざっと見ると、ステータスもスキルもそのままだった。
「まぁ、これならさすがにいけると思うが……。」
「おぉ! では魔王になられるのですね!」
うー、どうしよう。帰るためには魔王にならなきゃいけないわけだが、戦いたくは無いしなー。
「ちなみに魔王にならないとどうなるの?」
「うーん、邪神様のお怒りを買って『死ぬ』とか?」
「よし、魔王になる。」
うん、魔王になろう。それしかない。戦うのは嫌だけど、背に腹は代えられないのだ!
「おお! 分かりました。では、こちらに。」
こうして俺の冒険が今始まる──
ごめん、言ってみたかっただけ。
- 第三話 「全員まとめてぶっ潰す。」 ( No.4 )
- 日時: 2020/08/24 18:24
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「ここが、バトルロワイアルをする、競技場でございます。」
そこは熱気に満ちていた。……物理的に。 よくあるだだっ広い円形のリングと観客席、とまぁここまでは良い……。が、何故かかそのリングの周りは「溶岩」で埋め尽くされてるわけで……
「……お前らがバカってことを一瞬忘れてたわ。」
「はぁ……。」
「場外負けもありってことかよ……。」
「はい! あれは例え、熱に耐性のある魔族だろうと浸かれば即死! 敗者には死を与える、まさに理想のリングでございます!」
「ダメだ、コイツ……。」
などと話しいると、出場選手の紹介が始まった。
「え……。紹介 って俺もやんの?」
「えぇ、もちろん! あなた様にふさわしい名文をご用意しております。」
「うわぁ……。絶対ダメなヤツだ、コレ……。」
~十分後~
「それでは最後に、邪神様から遣わされた絶対悪! ケイ‼」
名前を呼ばれて俺は競技場に入る。……俺のメンタルを破壊しに来てる、恥ずかしいアナウンスはまだ続いているが聞こえない、絶対聞こえない。心を無にすれば何の問題もない。
……ってあれ?観客の反応が無い。あのクソすぎるアナウンスにしらけてるのだろうか。
「な、何故人間がここにいる‼」
は?そりゃ、まぁ俺のアバターは人間の設定にしといたけど、それってこっちでも反映されてるんだ──
「殺せー‼」
「そうだ! そうだ!」
「「「我々の人間 を殺せー‼」」」」
……あぁー、そっか。コイツら魔族だったわ。なるほど、人間の敵対種族なわけですか。
「ま、待て! この方は人間ではあるが、邪神様から遣わされた──」
「知るか‼ 人間だろうがー‼」
あぁー、魔族の知能レベルが伺える……。
しっかし、どうすっかなーこれ。魔王にならなきゃ俺死んじゃうかもしないし。でもこの感じじゃ無理そうだよなー。
あー、待てよ?確かサタナス内にも魔族っていたような気がする。
そうだ! 確かアイツらは徹底的な実力主義で、力を示せば主張も通るんだとか。うーん、戦うのは嫌だけど、命には代えられないか……。
「うるせぇ! いいか、文句があんならかかってこい!とりあえず、リングにいるテメェら、全員まとめて相手してやる!」
「何ー⁉」
「ふざけやがって‼」
「人間がー‼」
「ナメんなー‼」
「おぉっと! ケイ選手による、衝撃の発言でリング内は盛り上がっています! ……それでは! レディー、ファイト‼」
- 第四話 目標は世界平和 ( No.5 )
- 日時: 2020/08/24 18:26
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
開始の合図があると、リング内の魔族が俺に向かって攻撃しだす。
……が、その攻撃は遅い、遅すぎる。魔法系のスキルはまだマシなほうだが、物理攻撃に関しては論外だ。ここでサラッと避けるのは手だが……、
「せっかくだし、徹底的にアイツらの心を折っとくか☆」
うん、そうだ。これはれっきとした正当防衛。決して、邪神とやらに勝手に連れてこられた腹いせとかでは無いのだ!
「『ルリス・シャイン』」
スキルが発動した瞬間、巨大な魔方陣が展開され──
俺の視界が、白く、染まった。
全方位に放たれた白い光はリングを氷漬けにするだけでは収まらず、周囲の溶岩にすら届き、溶岩は蒸気を上げながら白く凍り付く。そしてその蒸気すらも小さな氷の粒となり、光を受けてキラキラと輝いている。
そして…………、リング内に立っているのは数多の氷像と、俺一人のみだった……。
野次を飛ばしていた観客は、すっかり黙り込んでしまった。ふぅ、……どうすっかなこれ。いやー、沸点が低いのは俺の欠点なんだよねー。サタナスやってたときも、暴言が過ぎる悪質プレイヤーをボコボコにしたりして……。反省はしてるし、前よりはマシになってると思うんだけど。まぁ、コイツらにはこれが一番有効そうだし、このスタンスでいこう。
「じゃ、これで俺の優勝だろー?」
「え、えぇ、まぁ……。」
「よぉし。じゃあ、魔王 の方針は──」
俺は言葉を失ってる観客達を見回して言葉を繋ぐ。
「世界平和だ‼」
「「「「「…………はぁぁぁぁぁ⁉」」」」」」
「殺し合いは厳禁。争い自体、できるだけしないで話し合いで解決が理想だな! あぁ、それと、人間との戦争もなし! それで──」
「ふざけるな!」
「何を腑抜けたことを!」
「これだから人間は!」
観客の不満が一気に爆発する。つーか面白いなこいつら、コロコロ顔変わって。リアクション芸人目指せそう。
まぁ、それはそれとして俺はちゃんと言ってあるのだ。
「言ったろ?『文句あるやつはかかってこい』って。不満があんならかかって来いよ。まとめて相手してやっから。」
「「「「「…………。」」」」」
ほー、いくら魔族とはいえ、命は惜しいらしい。まぁ初っ端からあのスキルをみせられたら、さすがにいくらバカでも──
「それなら、俺達の相手をしてもらおうか。」
あぁー、いたわバカ 。
- 第五話 VS四天王 ( No.6 )
- 日時: 2020/08/24 01:00
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「それなら、俺達の相手をしてもらおうか。」
その声と共に四つの人影が現れる。
「えーっと、どちら様で?」
「ふっ、俺は魔王軍四天王が一人、邪竜ヴェルザード!」
「……ククッ。我の魔眼が解き放たれしとき、世界は滅びゆく……。」
「…………。」
「えーっとねぇ、リーチェはリーチェ! よろしくなのだ!」
「うわー。」
「や、やめろ! 俺をかわいそうな人を見る目で見るな!」
「強く生きろよ……。」
「や、やめろー‼ その目で見るな‼ ……というかお前ら打ち合わせ通りに喋れよ‼ 俺がヤバいヤツみたいじゃないか!」
「ククッ、我に指図するなど愚の骨頂! 我を束縛するというなら、世界は死に包まれるであろう! フハハハハハ!」
「…………。」
「うーん、リーチェに難しいことはわかんないのだ!」
ふむふむ……。
騒いでる紫髪のイケメン青年が邪竜。
思春期特有の病を抱えている青髪君は見た目人間っぽい……ってことはアンデッドかな?
んで、一切喋らない銀髪美女は耳と肌を見た感じダークエルフ。
最後のアホそうな赤髪幼女は尻尾生えてるし獣人か。
で、俺が分析を終えた後も騒ぎまくってるわけですか。はぁ……。
「とりあえず、俺と戦うんだろー?」
「そ、そうだ! お前のような腑抜けたヤツが魔王になるなど、認めん! 俺達、四天王が叩き潰してやる!」
「よーし、じゃっ四人まとめて相手してやっからかかってこいよー。」
「……っ!」
俺が臨戦態勢になると、四天王達は一瞬で身構えた。うん、最低限の実力はあるっぽいな……。
──っと!
「ってえい!」
さて……。まずは、獣人ちゃんが飛び掛かってきたが……、うーん四天王っていうぐらいだし、実力ぐらい把握しときますかね。 戦うのは嫌だけど、こういう面倒なことは思い立ったときにやっておきたい。
「『ガルム・ナーゲル 』」
俺の手は光に包まれ、狼の爪の形をかたどる。それを一振りすれば、辺りに衝撃波が吹き荒れた。
「ぐっ!」
獣人ちゃんは後方へ吹き飛ばされるもダメージは少なめ。他の三人も防御態勢を取っているし、大体防いだっぽい。
「恐ろし攻撃なのだ……。」
「まさかこれ程とは……。」
「まだまだ、本気じゃないんだけどな……。」
「…………っつ! 良いだろう、俺の本気を見せてやる!」
- 第六話 竜の本気 ( No.7 )
- 日時: 2020/08/24 17:53
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「本気、ねぇ……。」
「──っ『竜化 』!」
スキルを発動させた邪竜くんは人型から竜本来の姿へと戻っていく。
「ほー。」
「グォォォォォーーーー‼」
完全に竜へと戻った邪竜くんは口を開け──
「『咆哮 』か。」
刹那、その口から紫色の閃光が迸る。その光は魔力を凝縮させた破壊の権化。圧倒的速度と破壊力を持ったソレは、いかなる魔法障壁でも防ぎきれないだろう。
まぁ、だからどうしたという話なのだが。
「『フェイルノート 』」
俺の手から放たれるのは一本の光の矢。その矢は邪竜くんの咆哮 を巻き込み、咆哮 ごと相手へ突き刺さる。
……見た感じダメージは結構受けてるけど、死んでは無さそうだな。
「お前らは戦わないのか?」
とりあず、傍観していた残りの二人に問いかける。
「…………別にいい。」
「ククッ、我は封印を受けている身でな……。戦うのは少々面倒だ。」
えー、お前ら何のために出てきたんだよ?
「で、獣人──リーチェはどうすんだ?」
「うーん、リーチェももう良いのだ。あんたには勝て無さそうなのだ。」
うーん、実力が見たかったがしゃあないか。無理強いする事でもないし。
そして、コイツらが降参ってことは……、
「ってことは、俺が魔王で良いってことかな?」
観客席を見渡すと、皆目を逸らして黙り込む。沈黙は肯定ってことだぜ?
「さーて、とりあえず何すっかなー。」
~二時間後~
俺の目の前には四天王がキッチリと立っている。一応、俺のことを王として認めたらしい。
ちなみに邪神とやらにはまだ会えてない。空気曰く、魔王として貢献すれば会えるのではと勝手なことを言っていた。めっちゃ面倒だが、俺はまだ死にたくない。
まぁ、これは俺の推測なのだが、召喚されたとき「汝、平和を望むか?」とかいう声が聞こえたし、邪神も好戦的な魔族を何とかして欲しいのだろう。そうじゃなきゃ争いに疲れた俺を呼ぶ理由も無いし。もっと強くて好戦的なヤツならサタナス内にもいた筈なのだ。
この二時間ぐらいで、コイツらから人間と魔族について聞いた結果、『平和』という方針にすることにした。ちなみに具体的ではないのは魔族の知能レベルに合わせているからだ。
「さて、繰り返すが俺の目標は『平和』だ。分かったか?」
「……はい。」
「ククッ……。」
「…………。」
「分かったのだー。」
そんでもって、とりあえずの目標は『人間と魔族との間の不可侵条約』だ。ただ、問題はコイツらが納得するかどうかだが……、
「じゃ、そういうわけでこれからは人間とも仲良く……とまではいかなくても不可侵条約ぐらいは結びたいんだが──」
「魔王様!実はそろそろ、即位の儀式が始まります。」
「へー、そんなんあるんだ。ちなみにそこで何すんの?」
「はい! 人間の王女を捕えてあるので邪神様への生贄に捧げ──」
「ちょっと待て! お前俺の話聞いてたか?」
「え? まぁ……。」
「嘘つけぇ! 聞いてたら絶対そんなこと平然と言わねーよ! 俺、人間とは平和にって言ったよな?お前頭のネジはずれてんじゃねーの⁉」
「し、しかし──」
「言い訳無用! その王女は丁重に送り返し……、いやお前らじゃ無理そうだな。俺がやるか。」
- 第七話 王女の夢 ( No.8 )
- 日時: 2020/08/24 01:05
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
ごねるクロ(名前覚えんの面倒だから、適当につけた。由来は竜になったとき鱗が黒かったから。)をぶん殴り、王女のとこまで案内させる。
「……テンプレかよ……。」
……王女は牢屋に閉じ込められていた。金髪に碧眼の美少女は、その古びた牢屋に鎖で繋がれていて、完全にテンプレ。誰だよこれやったヤツ。
なんて、不謹慎な事を考えていると、王女はゆっくりと目を開け、そしてその目を見開いた。
「誰⁉」
「あぁ、いや──」
……待てよ? 俺、魔王だよな。解放しに来たって言われても信じるか?
……どうしよ。信じてもらえなくても、事実をを全部話すっていう手もあるが「頭のおかしいヤツ」って思われるのがオチな気がする。それだけならまだしも変に勘繰られて、人間との関係が悪化するのは避けたい。どうすっか──
「喜べ、人間! 貴様は虫けらの分際でありながら、我らが魔王様に拝謁できたの──、ギャ!」
俺は目の前のバカを全力でぶん殴る。
「何お前、余計な事言ってんの⁉」
「だ、だって……。」
「だってじゃねぇ‼ お前バカ! 本ッ当、バカー‼」
「ま、魔王⁉ 一体何故……? はっ、まさか私を傀儡として送り込み、国を内部から崩壊させようと⁉」
「ほら、見ろぉ! テメェのせいで変な勘繰りされてんじゃねーか!」
「べ、別に人間からどう思われようと構わないのでは?」
「構うわ! テメェ本ッ当、人の話聞かねぇな⁉ 『人間と仲良く』って言ってんだろうがーー‼」
「に、人間と仲良く……?あなたは魔王なのよね……? ──というか、その姿は……人間⁉」
「うっ! どうすんのこれ……?」
~十分後~
俺と王女は竜化したクロの背中に乗って飛んでいる。さながら気分は飛行機だ。
……え?王女への説明はどうしたのかって?
…………沈黙である。つまり、俺は一切王女と会話してない。王女からすれば意味不明でしかないだろう。急に牢屋から出されたと思えば、無言で竜の背中に乗せられ、空を飛ばされているのだから。
だが、沈黙は金、雄弁は銀である。誰だって皆、話したくないことの一つや二つあるのである! 決して、三次元の美少女と話すのはゲームオタクの俺にはハードル高すぎる、という理由は無いのである!
「ねぇ! 説明ぐらいしたらどうなの⁉」
「言語が理解できない。」
「嘘! 絶対理解してる! そんな冷や汗ダラダラ流して言っても、説得力無いから!」
「……現在この番号は使用されておりません。」
「適当な事言って、誤魔化そうとしたって無駄だから!」
「……魔王様。この人間、この辺りで振り落としても良いのでは?」
「……お前の頭に『学習』って機能ついてんのか?」
「……分かりました。」
「やっぱ言葉通じるじゃない! ねぇ!」
「だぁー、もう! 俺は何も話す気は無い! お前は家に帰す! それで良いだろ!」
「むぅ……。でも、私はあなたと話がしたいの!」
「話? 何を話すっつーんだ?」
「……あなたはさっき、『人間と仲良くしたい』って言ってたよね?」
「まぁ、そうだな。」
「私も! ……私も同じ夢を持ってるの!」
「夢?」
俺は僅かに目を見開く。
「そう! 魔族も含めて、全ての種族が手を取り合っていければ……、世界はもっと幸せになれると思うの!」
見開れた目は興味深げに細められる。
「手を取り合うねぇ……。」
……本当にテンプレ王女様だ。高潔で素晴らしい理想を掲げている。そして、その理想のために動く行動力まで持っているとは……、
「だから、魔王のあなたがその気なら、王女の私が、国王様に進言して──」
──だが、その理想は遠い、遠すぎる。
「無理だな、間違いなく。お前の理想が叶う日が来る事は無い。」
「…………え?」
- 第八話 無理だよ ( No.9 )
- 日時: 2020/08/25 19:08
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「そ、そんなこと、やってみないと──」
「無理だよ。お前の夢は理想でしかない。」
「な、何で! 何でそう言い切れるの!」
「いいか? 俺の夢とお前の理想は違う。俺の夢はあくまで『争いを無くす』ことだ。けど、お前の理想はその先、『人間と魔族が協力しあう』。争いをやめるのと協力するのじゃわけが違う。」
「けど、それは……。」
「いいか、お前の夢は──」
「嫌! 聞きたくない! ──っ何で皆、わかってくれないの……。」
きっと、この少女は優しいのだろう。いや、優しすぎると言ってもいい。それはまるで、『あの時の自分の』ようで──
「……俺は人間と魔族の間にどんな因縁があるのか知らん。でも、これだけは言える。」
「え?」
「どれだけ優しかろうが、どれだけ賢かろうが、どれだけ力があろうが、多くを望みすぎれば、できるものもできなくなる。何かを成し遂げるために必要なのは力じゃない、『見極め』だよ。自分が本当に守りたいものは何なのか、そして……、
──守りたいものを守るために、何かを削ぎ落とす『覚悟』だ。」
そうだ、『あの時の自分』にそれさえあれば……
「なっ……!」
「誰だって全知全能の神じゃないんだ。何かを成し遂げようと思ったら、どこかで妥協しろ。その覚悟が無いなら、お前は必ず何かを失う。…………俺みたいにな……。」
そう、彼女はもう二度と──
「人間と魔族の協力は望みすぎだと、言うのですか……。」
「ああ、そうだよ。どちらかが裏切ったときのリスクが大きすぎる上に、必要な事が多すぎる。成立する筈の無い夢物語だ。」
「それは……。」
……って俺は子供に何言ってんだか。ついつい、『あの時の自分』を思い出して余計な事を口走ってしまった。
「……ま、別に夢を見るのは自由だし、好きにすれば良いだろ。」
「…………。」
「…………。」
……急に無言にになられると、気まずいんだけど。どうしよ。まぁ、俺の自業自得ではあるんだけど……。
「魔王様、そろそろ人間の領地に近づきます。」
「あぁ、わかった。」
そして俺は目立たないところにクロを降ろさせ、街道まで王女を送った。
「空からみた感じ、あっちに行けば関所があったから。」
「……えぇ、分かりました。」
「お、おぅ。じゃ、俺は帰るからー。」
「……それでも私は、諦めませんよ。」
「は?」
「私は、私の夢が叶う日が来ると、信じます。」
王女の目には強い光が宿っていた。あの日から何かを諦めた俺の目とはまるで違う目。現実を突きつけられても、折れない心を持った目だ。
「どーにも、複雑だな……。」
「へ?」
「何でも無い。ま、頑張れよ、王女様。」
「……王女なんて名前ではありません。私の名前は『レノ』です!」
「う、うん……。」
「じーっ。」
「わ、分かったって、頑張れよ、『レノ』。」
「はい!」
- 第九話 法律?何それ、美味しいの? ( No.10 )
- 日時: 2020/08/24 18:16
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
で、俺は帰ってきたわけだが……、
「何で、お前らケンカしてんの?」
「……どうやら、魔王様の即位式をどうするかで、揉めたようですね。」
「バカなん?」
「そう言われましても……。」
わけがわからないの一言に尽きる。コイツらの辞書に「話し合い」という言葉は無いのか?
「とりあえず、おまえら 集合。」
------------
「で、さっきの状況はどう説明する気だ?」
「ククッ、答えを求めるならば、世界の深淵を覗くのだ。全ての真実はそこにある……。」
「…………。」
「うーん、魔王様、怒ってるのだー?」
ダメだ、コイツらと同じ言語を話してるとは思えない。精神を病んでる最初のヤツは特に。
「まさかとは思うが……、さっきの大惨事 を見て何も思わなかったのか?」
「あの血の宴か……。なかなか素晴らしかったな……。」
「…………。」
「むー?何かダメな事、あったのかー?」
「ダメだー、コイツら。」
俺は頭を抱える。そうだった。コイツら、皆バカだったわ。
「はぁ……。とりあえず、価値感を変えさせないとな……。」
うーん。しかし、価値観を変えるっていうと……。そうだな、共通の価値観を示す……、そう! 『法律』だ!
「なぁ、魔族に法律……、ルールみたいなものってあんのか?」
「必要ですか?そんなもの。」
「我は何者にも縛られん……。」
「…………。」
「皆、『力がルール』って言ってるのだー。」
「想像以上にヒデぇ……。」
あー、これからやるべきことは法律、まぁ、魔族の知能レベルに合わせたルールを作る、かな。
「そんじゃ、やってきますかね。」
~三日後~
「できたー。」
魔族用に、極限まで分かりやすくした法律が完成した。さらに、法律を守らせるための、警備ゴーレムを魔族領内に配置することにした。魔族は領地も人口も少ないから、必要なゴーレムも少なくて済むのだ。まぁ、それでも大変なのだが。
「俺、魔王って名前の社畜になりそうな気がする……。」
過労死するかも、と思う今日この頃である。
- 第十話 ゴーレム作成1 ( No.11 )
- 日時: 2020/08/24 18:18
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「で、警備ゴーレム作ろうと思うんだが……。」
「はい……。」
俺はクロに大事ぃーなことを聞く。
「材料の備蓄とか無いよな?」
「何故、あると思うのですか?」
とりあえず、クロは吹き飛ばしておく。壁に大穴が開いた。どうしてくれんの、クロォ! (理不尽)
~十分後~
「何か御用でしょうか、魔王様。」
「ククッ、漆黒の風が我を呼ぶ……。」
「…………。」
「何するのだー?」
「ん、集まったなー。じゃ、これからゴーレムの素材集めをする!」
いやー、資料も少ないから、調べんの大変だったわ。本当、魔族って未来を考えて資料残すとかしないからなー、ま、バカだからしゃあないか☆(諦め)
「はっ! 仰せのままに。」
「ククッ、傀儡の血肉を望むか……。」
「…………。」
「ごーれむ?わかんないけど頑張るのだー!」
うんうん、それではレッツゴー!
~二十分後~
で、現在俺達はクロの背中に乗って、目的地まで行く途中だ。
「そういや、まだちゃんと自己紹介してなかったな。」
「そういえば、そうでしたね。」
「我の存在意義 を問うか……。ククッ。」
「…………。」
「おぉ! そうなのだ!」
そうだった。クロとリーチェ以外名前も知らないからな。
「ちなみにこの世界での自己紹介ってどんな感じなの?」
「え?そりゃぁ、名前、種族に得意なスキルあたりですかね?」
「うわー。生々しいな、異世界ファンタジーなのに。なんか夢壊れた気がする……。」
「な、何を言っているので?」
「気にするな。独り言だ。……まぁ、まずは俺から……。」
やべぇ、ちょっと緊張してきた。ま、まぁ、こういうのは簡単に済ませれば良いんだよ。
「種族は人間、名前は佐藤ケイ。得意スキルは戦闘系全般。」
「…………あとは?」
「以上だけど?」
「短すぎなのだー。」
「やめろぉ! ハードル上げようとすんじゃねぇよ! ゲームオタクの俺にはこれが限界なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」
逆ギレした俺にあっけにとられる四天王。が、俺は何も見ていない。心の目を閉じてるから何も見えない!
「ほ、ほら! 早くお前らもやれ!」
「……竜族のヴェルザード。得意スキルは広範囲殲滅系。」
「お前も、変わんねーじゃねぇーか!」
「い、良いのですか?魔王様のに合わせた方が良いと思ったのだすが……。」
「お、お前、イケメンの自己紹介とかしたら許さねぇからなぁぁぁぁ!」
「な、なぜ、それ程荒れているのですか?」
「うるせぇ! オタクのトラウマなめんなよ!」
「は、はぁ……。」
「……つ、次だ、次!」
「ククッ、我が名はガオン! 闇の使徒にして──」
「あ、うん。もう良いから。クロー、コイツの種族と得意スキルはー?」
「え、ちょっ──」
「種族はアンデッド系最強の、不死皇帝。得意スキルは 死霊術 ですよ。」
「わかった。」
「ガオンの言ってることは難しすぎてリーチェには良くわかんなないのだー。」
「安心しろ。あのバカが俺達と同じ言語を喋る日は来ない。」
「魔王様の目がとっても冷たいのだー。」
「……気のせいだ。さ、次だ。」
「…………シア。ダークエルフ。弓スキルが得意。」
「あ、はい……。」
「おー、次はリーチェなのだ! リーチェはリーチェ! えーっと、じゅ、獣人?で、スキルはぶん殴るのが得意なのだ!」
「ぶん殴る……?あ、あぁ、格闘系ってことか。」
「多分そうなのだー。」
と、そうこうしてるうちに目的地に着いた。適当なところにクロを降ろさせ、四天王に今回やることを説明する。
「さて、これからやることは──」
- 第十一話 ゴーレム作成2 ( No.12 )
- 日時: 2020/08/26 23:17
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「さて、今回やることはズバリ、『ゴーレム狩り』だ!」
「ゴーレム狩り?」
「そう、ゴーレムを作るために必要なものは大きく分けて二つ。ゴーレムの核と人形 (生物でいう肉体)。
で、今回はゴーレムが大量に湧くケトラ岩山地帯に来たから、ここでゴーレムを狩って、核 を取り出して再利用しよう、って話。ついでに、ここの鉱石を採掘して、人形 の材料も手に入れて一石二鳥ってわけ。質問は?」
「わざわざ採掘しなくても、野生のゴーレムの人形 を再利用すれば良いのでは?核 を取り出され、動かなくなったあとも人形は残りますし。 」
「それじゃあ、強度が足りないんだよ。」
「へ? ……お言葉ですが、ここで湧くのはミスリルゴーレム。一対一では、中級の魔族でも苦戦しますし、複数でかかれば上級魔族でも、無力化できるのですよ?」
「だから、それじゃあつまらん。」
「え?」
「せっかくだから、ゲーム知識をフルに使ったチートゴーレムを作りたい。一対一でも、四天王 に勝てる、えげつないヤツ。」
「……四天王 、ゴーレムに負ける予定なんですか……。」
「ヴェルー、目が死んでるのだー。」
「傀儡との一騎打ちか、面白い、ククッ。」
「ま、とにかくやるぞー。」
----------
現在俺達とガオン、シアはゴーレムを着々と倒し、核 を集めている。
リーチェとクロは鉱石を採掘してる。あれ、アイツら素手で採掘してる。ツルハシ渡したよな?
……アホだと思っていたが、ツルハシを使う知能も無いとは……。魔族の脳ってどうなってんの?
「……王よ、傀儡の宴が始まった。」
「は?」
「闇より出でし、漆黒の傀儡達が徒党を組みだしたのだ!」
「だから、何言ってるかわか──」
その時、耳鳴りのような甲高い音が鳴った。さらに、視界には、尋常では無い数のゴーレムが現れる。
「これは⁉」
「傀儡の軍団か……。」
「…………!」
「ヤバそうなのだ!」
「あぁ、ヤバいな。ゴーレム限定の魔獣暴走 ──」
「「「「魔獣暴走 ⁉」」」」
「──最っ高のボーナスタイムだ!」
「「「「は⁉」」」」
- 第十二話 ゴーレム作成3 ( No.13 )
- 日時: 2020/08/26 23:38
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「な、何故、嬉しそうなのですか?魔獣暴走 は災害。慌てこそすれ、喜ぶ要素など──」
「バッカ! お前、この状況を喜ばないでどうする⁉ ゴーレム倒して核集めようって時に、向こうから来てくれたんだぜ! さぁ、狩りの時間だぁ! ヒャッホーゥ‼」
ゲーム内でも、 魔獣暴走 は災害扱いだが、それはドロップアイテムを巡ってプレイヤー間の戦争が勃発したから。プレイヤーのいないここでは魔獣暴走など、ただのボーナスタイムでしかない!
「いや、さすがにこれは……。」
「無理っぽいのだー。」
「ククッ、血が滾る。」
「…………無理。」
……情けないヤツらめ。まぁ、良い。怖気づくならこっちにも考えがある。
「……お前ら、やれ。」
命令と共に俺から、黒いオーラが流れ出す。そう、これは日々、魔族 に悩まされている俺の恨みの念。殺気とも言えるこのオーラを流しながらの命令は、ほとんど強制みたいなものである。
「ウグッ……。わかりました。」
「凄まじき闇の念……。」
「魔王様怖いのだ……。リーチェ、頑張るから許してほしいのだ。」
「…………コクコク。」
……ちょっとやりすぎたか。日々、恨みの念が溜まってるからな。傍から見たらそれは凄まじいんだろう。今度、どっかでリフレッシュしよ。
あ、ゴーレムすぐそこまで来てる。
「ウゥゥゥゥゥゥゥゥ‼」
「あ、後、核 傷つけると困るから、スキル禁止な。」
「「「「え゛」」」」
「じゃ、レッツゴー!」
----------
スキルを使わずに戦うように言ったため、四天王も大分苦戦している。
「ぐっ!」
「うわ! し、死んじゃうのだぁー。」
「冥府の門が見える……。」
「…………ッ!」
が、皆の苦労のお陰で、核 は大量に集まってる。
「も、もう核は十分なのでは…… 。」
「まぁ、確かに、これで十分かね。じゃ、スキル解禁で。核ごと吹き飛ばしていいぞ。」
「や、やった! 『竜化 』!」
早速、竜化したクロは今までの憂さ晴らしとばかりに特大の咆哮を放つ。あ、地形変わった。撃つ方向考えてるのかな、アイツ。
他のヤツらも俺の言葉を聞きスキルを使い始める。
「『黒死泥沼 』」
「『獅子王咆哮 』」
「『大森林根縛 』」
四天王達のスキルの連発で辺りは凄まじいことになってる。
あるところは真っ黒の泥沼ができ、周囲の岩が『腐っている』。
またあるところでは竜巻が横向きに吹いたような跡ができ、ねじ切れたゴーレムがあちこちに散らばっている。
さらにあそこでは文字通り『森』ができている。説明しようにも何も見えない。なんか根っこっぽいのがうねうね動いてる。ホラーかよ。
……これだけ大惨事になったのに、まだゴーレムが残っている。つまり、『アレ』が出現してる可能性が高い。
「面倒な……。」
- 第十三話 VS ゴーレム生成機 ( No.14 )
- 日時: 2020/08/26 23:40
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「面倒な……。」
「どうしたのです?」
「どこかに傀儡巨兵 がいる。」
「 傀儡巨兵 ⁉」
「ヴェルー、傀儡巨兵 って何なのだ?」
「いや、知らないが?」
「え、クロお前、さっき驚いてたじゃん。」
「空気読んで、驚いたふりを。」
「その頭をもっと別のとこで回せ……。傀儡巨兵は簡単に言えば、『ゴーレム生成機』だ。」
「「ゴーレム生成機?」」
「そ、傀儡巨兵 のスキルは『無命騎士団』ゴーレムを無限に生み出せるチートスキルだよ。ついたあだ名が『ゴーレム生成機』。本体も結構強いから、俺が行って倒してくるしか無いな。……ついでに日々の恨みをぶつけてこよ。」
うん、仕方ない。これは不可抗力、恨むなら俺じゃなくて邪神 を恨むんだなァ!
……ヤバい、結構重症だな……。俺、平和主義者だったのに……。
「で、では、ここは俺達にお任せを! 今、戦ってる二人にも伝えておきますので!」
「魔王様、頑張れなのだ!」
「おう! じゃ、行ってくる。……『飛行 』!」
「……サラッと、空飛んだな、あの人……。」
「気にしたら負け、ってヤツだと思うのだ。」
「……そうだな。」
----------
「居やがったか……。」
俺の目の前には、全長十メートルはあるであろう金属の巨人『傀儡巨兵』 が立っていた。
「さて、どうしたもんか……。」
傀儡巨兵を形成している金属は、ただの金属ではない。魔力でアホみたいに強化されたその金属は生半可な物理攻撃は通じず、魔法系のスキルに至っては論外である。
……まぁ、普通の魔法スキルならって、前提付きだが。
俺に使える魔法スキルの中には傀儡巨兵 に通用しそうなスキルも心当たりがある。物理攻撃系のスキルの方が簡単なのだが、それじゃあ憂さ晴らしにならない──じゃなくて、大魔法使って手早く倒した方が良いかなーって。いや、ホントに。
「ウゥゥゥゥ!」
──っと! 向こうも俺に気づいたらしい。
「まぁ、いきますか!」
使うのはアレ、俺の使える最大最強の魔法。さぁ、いくぜ!
- Re: 平和主義の魔王は今日も頭を抱える~戦いたいとかお前らバカなん ( No.15 )
- 日時: 2020/08/27 12:09
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
俺はアレを使うために詠唱を始めた。
「──我、原初より生まれし奈落の王にして、無の根源に命ずる。わが敵を黒きその身に幽閉せよ──」
俺の詠唱に合わせて放出される膨大な魔力に、大気が、大地が、空間がビリビリと震える。
誰かがその光景を見たら、天災の前兆のように感じるであろう。そしてその解釈はあながち間違っていない。なぜなら、俺が今引き起こすのは、魔法という名の『天災』なのだから。
「──終わりなき終焉を、苦痛を、彼の者を、終わりすら無き『無』へ誘え──」
「ウゥゥゥゥ!」
「『 奈落 』」
──詠唱が終わり、魔法が発動。
──ヒビが入った。『空間』にヒビができ、ドンドンと広がってく。裂け目からは得体の知れない、『闇』が顔を覗かせ手を伸ばす。
「ウ⁉ ウ、ウゥォォォォ!」
感情を持たない筈の傀儡巨兵 すらも、その光景に恐怖を覚えたのか『無命騎士団』を発動し、ゴーレム達に手を伸ばす『闇』を攻撃させる。
──ゴーレム達は消えた。いや、正確には、『飲み込まれた』。飢えた『闇』にとって、傀儡巨兵 もゴーレムも変わらない。目の前にいるのは等しく──エサ。
──すでに、ヒビは傀儡巨兵 を囲む程に広がっている。
その状況に危機感を覚えたのか、傀儡巨兵は奥の手である『 巨兵宝炎』を使う。
凄まじい爆炎と、溢れ出る閃光が 辺りを包み込む──
──筈だった。その爆炎も閃光も全て、『闇』が飲み込む。もっとエサが欲しいとばかりに『闇』は手を伸ばし、土を、岩を、山を、
── 傀儡巨兵 を、……飲み込んだ。
----------
「どうしよ、これ。」
俺の目の前には、何故か知らないが大穴が開いてる。土砂すら残ってないその大穴はまるで、何かに飲み込まれた跡のようだ。俺は何も知らないが。
周囲には大魔法を使ったあとのように膨大な魔力の残滓が残っていて、魔力の波長も俺のに似ている。俺は何も知らないが。
……断じて俺は何も知らない。そのスタンスでいく。
それに俺には素晴らしい解決策がある。
「……なるようになるだろ!」
現・実・逃・避☆ 先人は偉大な格言を残したのである。そう、「なるようになる」!
- 第十五話 ゴーレム完成 ( No.16 )
- 日時: 2020/08/28 00:48
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
俺達はゴーレム狩りを終えて帰ってきた。ちなみに『奈落 』については何も聞かれなかった。
……俺が戻ってくると何か質問したげな顔してたから、黒いオーラ垂れ流したら口を閉じた。いやぁ、アイツら、何を聞きたかったんだろ! 俺にはさっぱりわかんないわ! (確信犯)
まぁ、そういうのは置いといて、ゴーレム作成始めるぜ!
----------
「で、できたー!」
遂に完成した! ゲーム知識使った、チートゴーレム! いやぁ、夢だったんだよなぁ知識無双、戦わなくて良いし。
「おぉ! すごいのだ! 見た目が滅茶苦茶カッコイイのだ!」
「だろ! 見た目、めっちゃこだわったんだよ!」
デザインは悩みに悩んだ結果、半機械の人型に決定。機械の武骨な感じと、人型のスタイリッシュさを兼ね備えた、まさに芸術のフォルム! デザイン考えるだけで、十徹した甲斐があるってもんだ! 異世界ファンタジー、ぶち壊しだけどな☆
……ちなみに某ロボットアニメを参考にしたのは内緒だ。
「ほぉー、これが魔王様の作ったゴーレムですか……。何やら見慣れない姿をしていますが……。」
「あー、見た目は気にするな。ま、性能は確かだから、そこは信じて良いぜ!」
「フム……。我らよりも強いという話だったな。」
「おぅ! もちろん四天王と戦わせるぜ!」
俺の言葉を聞き、四天王が慌てだす。
「ガオン! お前、余計な事を!」
「ヤバそうなのだ!」
「…………(無言の圧力)。」
楽しそうで何よりだ! さぁ、勝利確定戦、始めるぞ☆
----------
「第一試合、始めるぞー。」
最初の生贄 はガオンだ。四天王達に押し付けられてた。後で慰めてやろうかな。
「ガオン、死ぬなよー。」
「頑張るのだー。(死なないように)」
「…………(尊い犠牲は忘れない)。」
アイツ、死ぬ前提なの?いじめられてるのかな?
「ま、とにかく、第一試合……始め!」
始まりの合図と共に、ガオンはスキルを使う。
「『幽冥魔手 』」
魔法陣が展開され、数えきれない程の黒い手がゴーレムへ伸びる。使われた魔力の量からして、かなりの大技。先手必勝ってヤツだろう。しかし、俺の作ったゴーレムにこの程度では、まだ足りない。
「『 掃射 』」
「ガチャリ」、とファンタジーとは思えない金属音とともに、魔法陣から現れたユニットが変形し、機関銃のような形状へと変化した。
発砲音が鳴り響き、弾丸が黒い手を食い破り、敵へと向かう。
- 第十六話 VSゴーレム ( No.17 )
- 日時: 2020/08/29 01:32
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「──っ! 『死天使加護 』!」
見慣れない銃による攻撃に、ガオンは驚きながらもスキルを発動し、防御しようとする。
ガオンの使った、『死天使加護』によって放たれた黒い靄に触れたものは、あっという間に朽ちていく。
勿論弾丸も例外では無く、何発かかすったものの、ほとんどは靄に触れて防御された。
「……ダメージを確認できません。『戦神魂 』、発動。」
『戦神魂』 を発動すると、ゴーレムの体から、赤い光が漏れ出し大量の魔力が放出された。
「こ、これは⁉」
「説明しよう! 『戦神魂 』とは、体内ではなく体外、つまり、周囲の生物から魔力を吸収し、自らの魔力源とする、チートスキルなのだ!」
いやー、一回やってみたかったんだよ、こういう解説役。やっぱ、制作サイドとしては、説明する義務があると思うんだよな! なんて、だれかに言い訳してみたり……。
「ちょ、何ブツブツ言ってるんですか⁉」
「ん?なんだよ、クロ。」
「いや、さっき『周囲の生物から魔力を吸収』って言ってましたけど、本当なんですか⁉」
「そうだよ。内臓とかが無いゴーレムだからこそできる荒技だけどな。」
「それが本当なら、えらいことになりすよ!」
「確かに……。お前らこのことは内緒な。」
「多分、そういう軽い感じで言っていいことではない、と思うのだ。」
「…………(コクコク)。」
「……多分、魔族達にバレたところで、アイツらに使い道、思い浮かばないだろ。バカだし。」
「否定できないのが、悲しい所ですね。」
「うぉぉぉ! な、何だこれは⁉ 死ぬ! 冥府の門が見えるー!」
俺達が話してる間、ガオンは必死で逃げ回ってる。『戦神魂』を使うと、魔力は勿論、攻撃力、防御力などの全ステータスが跳ね上がるからな。まぁ、結構無茶なことしてるから、長時間は持たないのが欠点だけど。
出力が足りないと判断したのか、ゴーレムはさらにユニットを展開し、スキルを発動する。
「『全門砲射 』」
数えきれない程の機銃が出現し、弾丸の雨がガオンに襲い掛かる。
「し、死ぬー‼」
余りの量に迎撃を諦め、必死に避けるガオン。どこまで持つかな☆(外道)
「アンデッドが『死ぬ』って言うと、説得力ありますねー。」
「何か、もう、どうにでもなれって感じなのだ……。」
「…………。」
「おーい、君達、何で無表情なのかな?悟りでも開いたようなオーラ出してるけど。」
「うぁぁぁぁぁぁ‼」
澄み切った青空に、哀れな犠牲者の叫びが響き渡った……。
「いい感じにまとめてないで、助けてくれー‼」
- 第十七話 魔王の仕事 ( No.18 )
- 日時: 2020/08/30 11:25
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「なぁ、魔王の仕事って何なの?」
ゴーレムを作り、各地に配置し終わった俺は暇だった。ひたすらに暇だった。
魔族はバカだから、デスクワークなんてものは存在しないし(書類を書く知能が無いから)、自給自足の生活を送ってるようだから、食料問題なども起きないし。
つまり、暇。仕事が無いもんだから、四天王にオセロ教えて遊んでる。魔王だよ俺? 一応、王様なんだよ? あ、角取った。
「うーん、魔王様、角取るの上手すぎです。……って、あぁ、魔王としての仕事ですか? うーん……。」
「…………魔王軍の『作成』と指揮。」
「作成?」
「あぁ、そうでした! 魔王様には魔獣を作り、魔王軍として使役してもらうという使命があるのですよ!」
「は?ま、待てよ。俺、魔獣なんて作れないぞ?」
「…………専用の魔道具を使う。」
「へぇー、そんなのあるんだ。」
「えぇ、そうでした! 大量の魔力を消費するのですが、魔王様なら大丈夫でしょう。」
「マジか! 早く、やろうぜソレ! 暇だし。」
「では、こちらに。」
---------
「これが魔獣を作る魔道具『原初母 』です。」
それは一言で言うなら、でかい結晶だった。十メートルはありそうな結晶に管や何かの部品がくっついている。
「これ、どうすりゃいいの?」
「作りたい魔獣をイメージしながら、結晶に触れるだけですよ。」
「え……。そんな簡単に作れんなら、ゴーレム作んなくてもこれ使えば良かったんじゃね?」
「…………魔獣は知能が低いから、ゴーレムの代わりにはできない。」
「へー。」
「まぁ、とにかく、やってみてはいかがです?」
「おう! じゃ、いくぜー。」
俺は作りたい魔獣をイメージして、結晶に触れる。
- 第十八話 とりあず、クロは処刑だ☆ ( No.19 )
- 日時: 2020/08/30 11:26
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
俺が結晶に触れると、結晶が光りだした。
「おぉ! すごいな、コレ。」
光はドンドンと強くなり、溢れ出る光は、何かを形作るかのように集まっていく。
そして、光は収まり、そこには数匹の竜ドラゴンがいた。
四メートル程の体に銀色の鱗、俺のイメージ通りに出来ている。
「おぉ! 素晴らしい!」
「…………すごい。」
二人は目を見開き、驚きを見せる。
「そんなにすごいのか、コレ。」
「えぇ、普通なら魔力を根こそぎ吸われて『死ぬ』っていうのに、こんな見事な魔獣を作り出せるなんて素晴らしいの一言よ。」
無口なシアが珍しく、長文を口に出した──
「って、これ、普通なら、死んでたのかよ!」
「…………えぇ。」
「ヲイ、クロ……?」
「あ、あぁー、……魔王様ならできるって信じてましたから!」
「よし、死ぬ覚悟はできてるな。」
「うぁ、ちょ、それは無理です! そんなの受けたら、塵も残りませんか──」
「問答無用ーーーーー‼」
「うぁぁぁぁぁぁぁ!」
----------
クロの処刑を終えた俺は、魔獣作りに勤しんでいる。死ぬかもとか言われたし、あんまりやりたくはないんだけど、人族がいつ攻めてくるかわからないとのことだったので、仕方なくやってる。
人族と争いたくはないが、向こうがかかってくるというなら、降りかかった火の粉ははらうまで。俺は平和主義者だが、何かされて黙ってみてる程優しいわけではないのだ。
「うぉぉぉ、そろそろ死ぬって、コレ。魔力切れそう。」
「…………もうやめたら。」
「うーん、じゃあ、これで終わりで!」
俺は最後とばかりに、結晶に大量の魔力を『注ぎ込む』。なんか、魔力吸われすぎて、魔力の操作みたいなものができるようになったんだよね。でも、こんなこと出来ても、何かの役に立つ──
「だ、ダメです! 『原初母』は、触れるでけで良いのです! 魔力を注ぎ込むと誤作動を──」
「え、それを早く……。」
急に俺の視界が暗くなる。何かに沈み込んでいくような感覚を覚え、意識が飲み込まれて…………。
- 第十九話 ぼくのせいぎ ( No.20 )
- 日時: 2020/08/30 13:53
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「正義とは何か。悪とは何か。あるいは、この世に正義も悪も無いのか。……ケイはどう思う?」
少女はまだ幼いケイに問う。
「うーん、ベルのいってること、むずかしくてわかんない。」
「……そう。」
少女は諦めたように笑う。金色の髪をかき上げ、その紫の瞳を地面に向ける彼女の姿にケイは罪悪感のようなものを覚える。
「ベル……、おこってるの?」
「いいえ。ただ、あなたらしいと思っただけ。」
少女が向けた瞳に、吸い込まれそうになる。その整った顔立ちに浮かべる表情は、確かに怒りでは無い。あえて言葉にするなら、無邪気な子供を見守る母親といったところだろうか。ただ、その瞳には、別の感情も見えていて──
「ベル……、かなしいの?」
少女は驚いたように目を見開く。
「私が、悲しい?何で?」
「だって、今のベルは、泣くのをこらえてるみたいだよ。」
少女は確かめるように自らの顔に触れる。
「ねぇ、ベルはかなしいの?」
「い、いいえ。そんなことは無いわ。」
「むりしてそう……。ぼくが、さっきのしつもんに答えなかったから?」
ケイは少女の瞳を覗き込む。ケイの表情には、自分のせいなのかという不安が映っていて、少女に罪悪感を覚えさせる。
「本当に違うのよ、ケイ。あなたのせいではないから。」
ケイは、何か考え込んだ後、真剣な目で少女に尋ねる。
「……ねぇ、さっきのしつもん、もう少し教えてよ。」
「あなたのせいでは──」
「いいの! ぼくが知りたいだけだから!」
「……そうね。……仮に天国に行きたくて、善行を重ねてる人がいたとしましょう。善行を重ねるという行動だけ見たら、その人は善人、いわゆる『正義』と言えるでしょう。でもその人は自らが天国に行きたい、という利己的な目的を持って行動してる。果たして、それは正義なのでしょうか?」
「…………いいことしてるなら、いいんじゃない?」
「…………そうね。」
少女は何とも言えない目でケイを見る。しかし、考えるのに夢中なケイはそれに気づかない。
「なら、人を百人殺した悪人がいたとしましょう。その人を殺すのは正義なのか、悪なのか。あるいはその人を助けるのは悪か、正義か。」
「うーん、わるい人かー。…………難しいなー。」
「そうでしょう。答えはどれか、あるいはそもそも答えなんて無いのか。考え出したら、キリが無い。そういう話よ。」
「……ベルって難しいこと考えてるんだねー。」
「……ついつい、考えてしまうのよ。正しいことは何か、何が間違っているのか。……私は正しいことをしているのか。……いいえ、きっと、私は間違っているのでしょう。だから──」
「そ、そんなことないよ!」
「え?」
「……ベルの言ってることはむずかしくてよくわかんないけど、きっとベルはまちがってなんかない!」
「……ありがとう。」
ケイの言葉を受けても少女の表情は明るさを取り戻さない。焦ったケイは必死に言葉を紡ぐ。
「…………ベルの言ってるせいぎとかはわかんないけど、ぼくは……。」
少女は怪訝そうな顔をする。
「ぼくのせいぎはベルだよ!」
「へ?」
「ベルが笑ってくれたらうれしいし、ないてたらかなしい。だから、ぼくのせいぎはベルが笑ってくれることで、ベルをなかせるヤツがあくだ!」
少女はあっけにとられたような顔をした後、思い出したかのように拗ねた表情を見せる。
「……ケイのスケコマシ。」
「すけこまし?」
「ふんっ! もう、私、帰るから!」
「ふぇっ、ベル、おこってるの⁉」
「ケイの女たらしー‼」
そっぽを向いて走り去る少女の横顔は──
確かに、笑っていた。
- 第二十話 王女の苦悩 ( No.21 )
- 日時: 2020/08/31 15:41
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
目を開くと四天王達が俺の顔を覗き込んでいた。
「えーっと、何してんの?」
「おぉ! 魔王様が目を覚ました!」
「心配したのだー!」
「黄泉の住人とならなかったことを祝おう。」
「…………よかった。」
んー、そうだ、確か結晶に魔力を流し込んだせいで、魔道具が誤作動を起こしたんだっけ。それで意識が無くなって──
「あれは、何だったんだ?」
「どうしたのだ?」
「いや、意識を失ってる間、昔の知り合いと話してる夢みたいなものを見てな。夢にしては現実味があったような……。」
「ふーむ。それは、魔王様の記憶では?」
「記憶?」
「えぇ、おそらく、『原初母』に魔力を流したことで誤作動が起き、なんやかんやで魔王様の脳に干渉したのかもしれません。」
「なんやかんやって、お前適当すぎんだろ! ……というか、もしそうなら俺の体大丈夫なんだよな?」
「良くわかんないけど、魔王様の体に異常は無いらしいのだ。」
「そうか……。まぁ、何もわかんないし、考えても仕方ないか。」
「えぇ、目が覚めた事を喜びましょう!」
~sideレノ(王女)~
「レノ様、失礼ながら、お気は確かですか?」
「まぁ、そうなるわよね。」
王女──レノは考えていた。
魔族によって連れ去られるも、帰ってきたレノを国王や臣下達は泣いて出迎えた。そして、「お礼がしたい」と言って、しきりに誰に助けられたのかを聞いてくるのだ。
しかし、まさか、「魔王に助けられた。」などと真実が言える筈もなく、「記憶がはっきりしない」と苦しい言い訳をしていたのだ。
だが、いつまでもそんな言い訳を続けるわけにもいかない。それに、自分は魔王に「夢を叶えて見せる」と言ったのだ。それで、一番信用できるメイドのアリアに事実を話してみたのだが……。
「で、でもね、人族が魔族を嫌ってるからって、向こうも私達を嫌ってるとは限らないじゃない! だから──」
「お言葉ですが、レノ様は嫌ってる相手と仲良くしたいと思いますか?というか、魔族と人族は幾度となく争っています。今更、好き嫌いも無いかと。」
「あ、はい。」
正論である。レノに反論の余地は無く、再びどうしようかと考え始める。しかし、それではふりだしに戻ってるということをレノは知らない。
- 第二十一話 知識チート ( No.22 )
- 日時: 2020/08/31 19:18
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「王様っぽいことがやりたい!」
急に叫びだした俺をガオンが困惑した顔で見つめる。
「……どうしたのだ王よ。そなたは、すでに王の座についているであろう。」
「違うんだよ、そうじゃないんだ!」
「何が違うのだー?」
「俺はもっとラノベ感溢れる、現代知識でチート無双がしたいんだよ‼」
「ちーとむそう? 王のいた世界の言葉は我には理解できないな。」
ガオンの冷静な切り返しにヒートアップしていた俺は少し落ち着く。
「コホン……。うん、いや、俺の世界での知識を使い、魔族をより発展させたいという話だよ。」
「魔王様、目を逸らしてるのだー。」
「え?な、なな、何を言ってるのやら! 言いがかりは──」
「じーっ。」
「…………。」
「じーっ。」
「しょ、しょうがないだろ! 俺だって、現代知識で無双して、ウハウハになる願望くらいあるもん! 戦うのは嫌だけど、知識チートやってみたい願望はあるもん!」
「別に誰も責めてないのだー。」
「う、うるさぁぁぁぁい‼」
「王よ、さすがに理不尽では……?」
「…………とにかくやるぞー。」
「無視……。」
----------
で、俺は考えた。現代知識で何か使えそうなものがないかめっちゃ考えた。
「魔王様、頭から湯気が出てるのだー!」
うーん、何か無いかな。魔族の知能を考慮すると、どうしても選択肢が少なくなるんだよなぁ。
「湯気、湯気出てるのだー‼ ガオン、ガオーン!」
湯気?待てよ、湯気、湯気、湯気……。そうだ! 蒸気機関なんてどうだろう!
「どうした、リーチェ。何が──って湯気⁉」
「なんだよ、さっきから湯気、湯気──ってなんだこれ⁉ え、頭から湯気出てんだけど⁉」
----------
「この世界ってさ、輸送機関みたいものあるの?」
「ゆそうきかん?」
「あぁ、何かを運ぶ道具って言えばいいのか?」
「……馬だな。」
「それ以外はないのか?」
「無い。」
よし。いける! 鉄道作り、ちょうど良い暇つぶし──じゃなくて魔族の発展の礎となる!
- 第二十二話 ガオンはやられ役 ( No.23 )
- 日時: 2020/09/01 09:50
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「鉄道ですか……。」
俺は四天王を集めて自分のアイデアを説明した。
それは、蒸気機関を使った輸送機関。もといた世界でいう『鉄道』をこの世界でも作って、魔族領での人や物資の移動を楽にしようという話だ。
ちなみにこれは魔族のためを思って、やってるのであって断じて俺の暇つぶしのためではない。本当に俺の暇つぶしではない。(大事なので二回言った)
「えぇ、よろしいのではないでしょうか。魔王様も、最近退屈なさっているようですし気晴らしに──」
「ちがうわあぁぁぁぁ!」
「うぇ⁉」
「いいか、俺は魔族のためを思ってやってるんだ。断じて、知識チートやってどや顔したいとか、あまりにも暇だから、暇つぶしとかじゃない! いいな!」
「は、はい……。」
「…………理不尽。」
「聞こえないな。心眼を開いてる俺に、そんな騒音は聞こえない。」
「王よ、言っていることが無茶苦茶だぞ……。」
ガオンの冷静なツコッミにギクッとする俺。……いや別にちょっとしかしてないけどね?(見栄)
というか、精神に病を抱え、わけわからんこと話す君が言うかね?
「お前だけには言われたくはないな。謎の言語を使うのをやめて普通に喋れ!」
「…………逆切れ。」
「なんか、悪い魔王みたいなのだー。」
「いや、一応あの方魔王だからな。平和主義を掲げている、前代未聞の魔王だが。」
「いや、俺は魔族のことを考えて行動してる、普通の魔王だから。」
「…………見栄を張って、それっぽい言葉を並べてるだけ。」
「君、今日は言葉のナイフが鋭すぎません?」
「魔王様ー、ガオンが壁に向かって話しかけてるのだー。」
「……ちょと言い過ぎたか。」
反省。後でリーチェあたりに慰めさせようかな。
- 第二十三話 魔族って── やっぱりバカだ☆ ( No.24 )
- 日時: 2020/09/01 17:56
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「てつどう?何言ってるかわからんなぁ。」
「いや、だからさ、こういう形の箱が動くから、そこに荷物を載せて運ぼうよってことなんだけど。協力してくれない?」
「うーん、相談してくる。」
「頼んだ。」
今俺は、魔族達に鉄道の建設の協力を呼び掛けてる。
めっちゃ大変。マジで。こいつらバカすぎて説明するだけで一苦労なのに、協力してくれるように説得までしなきゃいけない。
ただ、狭いとはいえ魔族領中に線路を敷くのは、さすがに俺一人では無理なので、頑張って説得してるわけなのだ。まぁ、魔王として命令するって手もあるけど、嫌がってるのを無理矢理やらせるのはダメかなー、と思って頑張って説得している。
それに最近は魔族はバカだが、戦闘狂なところを除けば悪い奴では無いと思い始め──
「良いだろ、協力してやったってー!」
「バカ言え、そんなよくわからんことに関わる必要は無ぇ!」
「わからずやが!」
「何-!」
俺が現場に行くと、すでに喧嘩は始まっていた。言い争ってる二人だけではなく、野次馬まで喧嘩に参加する始末。辺りはバカ共による魔法の撃ち合いでひどいことになっていた。
……前言撤回。魔族は良い悪い以前に、ただのバカ。ホントになんであんなこと思ったんだろ。
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「これで、必要な分の協力は得られそうです。」
「はー、長かった。」
途中からは四天王達にも説得を手伝ってもらい、何とか次の段階に進めそうだ。
「そんじゃ、次は材料集めだ!」
「何を集めるのだー?」
「鉱石類はゴーレム作ったときのが余ってるから、集めるのは『魔石』だな。」
「魔石?」
「…………魔石は強力な魔獣の体内にある。」
「そ、だから今回はドラゴン狩りだ!」
「「「「ドラゴン⁉」」」」
- 第二十四話 竜の谷 ( No.25 )
- 日時: 2020/09/02 10:14
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「ドラゴンとは……。確かにドラゴン程の魔獣なら、魔石を持っているだろうが……。王よ、いささか無茶ではないか?」
「いや、大丈夫だろ(多分)。お前らならいける!(と思う)」
「語尾に不穏な言葉が聞こえるのですが……。」
……ちなみに魔獣としてのドラゴンと種族としてのドラゴンは別なんだとか。(クロから聞いた)。両者の違いは知能を持ってるか、持ってないかなんだってさ。え?話をすり替えてるわけじゃないぜ?
「とにかく、ドラゴン狩り行くぞー。」
「「「「おー!(やけくそ気味)。」」」」
うん、いい返事だ!(鬼畜)
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現在俺達は巨大な渓谷の上にいる。その渓谷はまるで大地にできた裂け目のようで、ところどころから魔獣の鳴き声が聞こえてくる。
「着いたぞ。ここが『竜の谷』だ。」
例のごとく少ない資料から、やっと見つけ出したドラゴンの生息地。つか名前そのまんまだな。
「俺の記憶が正しければ、ここは上級魔族も近寄らない危険区域の筈ののですが……。」
「まぁ、ドラゴンの生息地だしな。上級種も生息してんだって。」
「そんな軽いノリで言うことではないのだ。」
「おいおい、さっきの俺の言葉を忘れたのか?お前らならいけるって!」
「…………その後の不穏な語尾なら覚えている。」
「…………さ、行くぞー。」
「ククッ、我が漆黒の一撃で滅ぼしてくれよう!」
-------
「グゥオオオオオオ!」
「『幽冥魔手』」
展開された魔法陣から、大量の黒い手が飛び出しグリーンドラゴンへと食らいつく。
「へー、ドラゴンの鱗を貫通するなんて、あのスキル強かったんだな。警備ゴーレムと戦ったときはよくわかんなかったけど。」
「まぁ、一応あれが必殺技のようですし、それなりには強かったのでしょう。」
「……古傷をえぐるのはやめてもらいたいのだが。」
ガオンのほうを見ると今にも泣きそうな顔をしてる。
「「あ、ごめん。」」
「…………何か、来る!」
シアの警告と共に、竜の谷に咆哮が響き渡る。
「グゥゥゥゥウオオオオオオオオ‼」
- 第二十五話 VSゴールドドラゴン ( No.26 )
- 日時: 2020/09/02 23:55
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
咆哮と共に現れたのは一匹の巨大なドラゴンだった。金色の鱗に四十メートルはありそうな体躯。
深紅の瞳は見るものに根源的な恐怖を感じさせ、四天王達ですら僅かに気圧されていた。
「ゴールドドラゴン……。」
ガオンがポツリと呟く。それに呼応するかのようにゴールドドラゴンは咆哮を上げ、俺達に襲い掛かった。
「させないのだ!『剛鉄拳』!」
鈍い銀色に輝くリーチェの拳とドラゴンの鉤爪がぶつかり合う。
凄まじい衝撃音が鳴り響いた。ドラゴンとリーチェは押し合っていたが、すぐにリーチェが押し負け吹き飛ばされる。
追撃を仕掛けようと魔法陣を展開するドラゴン。
「アイツ、魔獣なのに魔法も使えるのか!」
「マズイ!『竜殺矢』!」
ドラゴンの放った竜巻に俺の放った光の矢が突き刺ささる。竜巻を巻き込みドラゴンへと向かう光の矢は二度目の竜巻によって逸らされた。
「やっぱり強いな、ゴールドドラゴン。ゲーム内でも強かったが、こっちでも変わらないか。」
「……ゴールドドラゴンと言えば、存在するかも怪しい伝説だからな。」
「…………放っておいたら周囲に被害が出るかも。倒すしかない。」
「そうだな。まぁ、でっかい魔石だと思えばやる気も出てくんだろ!」
「いや、あれ伝説──」
「よし! 行くぜ!」
「また無視された……(涙)」
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「『 魂吸収』」
「『一撃決殺』」
ガオンとシアのスキルは尻尾の一振りで阻まれる。
「『黒雷』」
「『岩石弾』」
さらにクロとリーチェの追撃が入り、防御しきれなかったドラゴンは僅かに体勢を崩す。
そこに俺の追撃……
「『破天轟雷』!」
天を割るかの如く降り注ぐ幾筋もの稲妻が、ドラゴンへと突き刺さる。
「グァァァォオオオ!」
ドラゴンは多少のダメージを受け叫び声を上げるも、まだ倒れそうにない。
「これでもたおせないのだ……。」
ちなみにさっきの攻撃は十回以上は繰り返してる。
ゴールドドラゴンの特徴である体力の高さと防御力によって、致命的な攻撃が与えられないのだ。
「ゴールドドラゴンは回復魔法も使えるからな……。さっさと決めないと、同じことの繰り返しになる。」
「王よ、そうは言ってもその決め手はあるのか?」
「あるには、あるが溜めがいるからな……。」
「なら、俺が時間を稼ぎます!」
クロの表情は死を覚悟した者のそれだった。その目には燃えるような忠誠心が宿っている……。
「あ、じゃ、よろしく!」
「え゛」
「いやー、助かったわ! それが一番手っ取り早かったんだよ。さすがに俺から言うのもアレだし、ありがとなー!」
「え、いや、その……、迷いとか、無いんですね。」
「当たり前だろ☆」
クロはさっきの覚悟はどこえやら、今にも泣きそうな顔をしている。
「いや、冗談だって。何というか、ゴールドドラゴンって攻撃力は低めだから、お前なら怪我はするだろうけど死にはしないんだよ。」
「…………俺の覚悟を返してください……。」
「ドンマイなのだ。」
「ま、とにかく行くぞー!」
- 第二十六話 俺の拳 ( No.27 )
- 日時: 2020/09/04 00:49
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「グゥゥァアアアア!」
「まだまだ!」
竜化したクロとゴールドドラゴンがぶつかりあっている。他の四天王達も補助に回り、俺がスキルを撃つための時間稼ぎをしている。ゴールドドラゴンの攻撃では死にはしないだろうが、長引けば大きな怪我ぐらいは負うかもしれない。
「急がないとな……。」
今回使うスキルは『奈落』ではない。あのスキルは強力だが効果範囲が広すぎる。
だから今回はコレを使う。
「『強化』──」
『強化』はただの強化魔法。それだけでは、致命的な攻撃は与えられない。だかそれを『重ね掛け』するとなれば話は違う。十回、百回、千回、十万回、一億回──
何億回、何兆回も強化された俺の拳は太陽の如く白く光っている。
「お前ら、どいてろ!」
四天王達は俺の言葉を聞くと一瞬で場を離れる。よほど俺の大技が怖いらしい。
「行くぜ~!」
ゴールドドラゴンは突然飛び出してきた俺に一瞬戸惑うが、すぐに俺を迎撃しようと攻撃の構えをとる。しかし、俺が拳を降り抜くほうが一瞬早かった。
「『オエントリフ・トレノ』!」
──音は無かった。降り抜かれた拳からは衝撃と呼ぶのも生温い、『嵐』が放たれる。その余波に目も開けられなくなり、慌てて腕で顔を防御する。
──その直後、置いてきぼりにされた破壊音が響き渡る。地上で雷が炸裂したかのような轟音が鼓膜を打つ。
──辺りに吹き荒れる『嵐』の余波も収まり、目を開けられるようになると、そこには──
体のほとんどが吹き飛んでいるドラゴンの死体と、水平線まで続く破壊の足跡が残されていた……。
- 第二十七話 車両完成 ( No.28 )
- 日時: 2020/09/06 12:46
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「よし! 材料は揃ってるな。」
ゴールドドラゴンを倒して十分な魔石が集まったので、鉄道を造るための材料の確認をしていた。
「じゃあこれから、『てつどう』ってやつを造るのだー?」
「おう! まずは車両からだなー。鍛冶スキルもゲームのときのままだから金属加工もお手の物だぜ!」
「ほー、魔王様は鍛冶まで出来るのですか。」
「まぁな! ゲーム内じゃ武器の魔改造がやりたくて、鍛冶スキル上げまくったから──って何だよその目は。」
「…………魔王様らしいと思っただけ。」
「王は変わらぬのだな。」
「どういう意味か詳しく聞こうか。」
「言葉通りの意味では──」
俺の手から魔法陣が展開され、風の弾丸がクロへと向かう。避け切れなかったクロは青空の彼方に吹き飛んでいった。
「魔王様、理不尽にも程があると思うのだ……。」
「あの戦闘狂にはいっつも頭悩まされてるからな。おあいこだ。」
----------
「ここをこうして、ここをくっつけて、ここを曲げるっと、よし出来た!」
ついに車両が出来た。大きすぎるので組み立てはクロに頼むつもりだが、鉄道作成の半分は終わったと言ってもいいだろう。
「よし。クロー、竜化してこっち来てくれー。」
「はい、わかりました!」
竜化したクロがこっちに飛んでくる。相変わらずでかいなー。
「そんじゃ、そこの箱を持ち上げてそこに下ろしてくれ。」
「はい。……これでいいですかね。」
「ん、大丈夫。で次は──」
----------
「しゃっ、完成だー!」
「おぉー、おっきいのだ!」
「ほー、やはり見慣れない形をしていますね。」
「…………大きい。」
「ふーむ。鉄の箱と言ったところか。」
「うーん、苦労した分喜びも大きいねー。」
俺達の目の前には金属の箱が四つ連結した、所謂電車ってやつがある。機構は魔法などで再現してあるが、外見は俺の世界のものと同じ。……日本に帰りたい。
なんて感傷に浸ってる場合じゃねぇな。
「ま、これで終わりじゃねぇし、次進むぜ!」
「「「「おー!」」」」
- 第二十八話 魔族との協力 ( No.29 )
- 日時: 2020/09/06 20:58
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
今、俺達はレールの設置をしている。魔族達にも協力してもらい、魔族領中に鉄道が走れるように、レールを敷いているのだ。
「それはそこに置いて、その機械を隣に置いて。……そうそうそんな感じ!」
「ここはどうすんだー?」
「あぁ、ちょっと待って。今行くから。」
魔族達も物珍しさからか、珍しく喧嘩にもならず協力している。
「だから、ここに置くって言ってたべ!」
「違う、こっちだったぜ! 耳腐ってんのかテメェは!」
「何を!」
「やんのか?」
「やるな、お前らは!」
……訂正だな。喧嘩は少ない。
まぁ、でもコイツらと仕事すんのも、思っていたより悪くは無かった。
----------
「よし、このあたりで休憩挟むぞ。」
きりの良いところまで作業が進んだので、休憩をさせることした。協力してもらっているし、休憩ぐらいはキチンと取らせないとな。
「魔王様ー。俺達、まだいけますぜ。」
「いや、休んでおけ。体壊したら面倒だろ。」
「……魔王様って変わり者ですね。」
「そうか?」
「えぇ。普通なら死ぬまで働け、とか言うもんですけどね。」
「何だ、その魔王みたいなやつ……。」
「いや、魔王ですから。」
「む、そうだった……。でも、こういうのも悪くないだろ?」
「そうですねー。」
~side魔族~
俺達は今、魔王様の『てつどう』作りに協力している。思えば新しい魔王様は控えめに言って『変人』だった。
試合で圧倒的な力を見せて勝ったと思えば、方針は世界平和などと訳の分からないことを言う。
恐ろしく強いゴーレムを作ったと思えば、『ほうりつ』とかいうよく分からないものを守らせるために使う。あれ程強いゴーレムを作れるなら人族と戦ったって勝てるだろうに、「人族とは戦わない」と言う。
挙句の果てに『てつどう』とかいうよく分からないものを造るために、俺達を説得して回っていた。魔王として命令すれば逆らうヤツなどいないのに。全くもって訳がわからない。
……が、悪くはないと思う。「腑抜けたヤツ」とか言ってるのもいるが、そういうヤツは、大体が頭の凝り固まったジジイやババア。俺達みたいな若者にとっては「戦いが全て!」とか言ってた頃よりも全然面白い。
「おーい! そろそろ仕事に戻ってくれー!」
「わかった! 今行く!」
あの魔王についていけば退屈はしない。それで十分、従う理由になるのだ。
- 第二十九話 悪くは、ないだろ? ( No.30 )
- 日時: 2020/09/09 14:51
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「よし、これで仕込みは終わりだな!」
魔王城の厨房で俺は額の汗を拭う。周りには大量の料理や飲み物がギッシリとならんでおり、この状況で俺が魔王だと言われても誰も信じないだろう。
「魔王様ー、そろそろ『てつどう』造りが始まりますよー!」
「おう! 今行くー。」
----------
「今日はこの辺りにレールを敷く。ここを敷き終わったら鉄道造りは『完成』だ!」
「「「「「「おおぉぉぉぉ‼」」」」」」
「しゃぁ! じゃぁまずはそこから行くぜ!」
----------
「そこに置いて、そうそう。で、最後にこのでっかい機械を接続させれば、うん。それで良い。」
「これで良いんですかー?」
「オッケー!それじゃ──」
魔族達の視線が俺に集まる。
「鉄道、完成だー!」
「「「「「「うゎぁぁぁぁぁぁぁ‼」」」」」」
大地を揺らすような歓声が響く。さらに、その歓声に応えるように、車両がこちらに走ってくる。
「すげー! あれが鉄道かー!」
「速いなー。」
「デッケー!」
魔族達は初めて見る車両に興味津々だ。
「魔族って、好奇心がすごいんだよなー。」
「えぇ、そうですね。俺も初めて知りましたよ。普段は戦いばっかりでしたからねー。」
「……だろうな。」
「……俺はあなたが魔王で良かった、と思ってますよ。」
「は?どうしたよ、急に。」
「いえ……、最初は『戦いが全て』って思っていたんだすがね、気づくと……笑っているんですよ。この戦いも無い平和な日常で。」
俺はニヤッと笑ってクロに聞く。
「悪くは、ないだろ?」
「えぇ、悪くはないです。」
クロもまた笑って答えた。
----------
「ここで、何をするって言うんです?」
理由を聞かされずに、魔王城の前に集めさせられた魔族達は困惑顔だった。
「そりゃぁ、もちろん、一仕事終わった後は『宴会』だろ!」
「「「「「「は⁉」」」」」」
- 第三十話 後は、任せた☆ ( No.31 )
- 日時: 2020/09/09 14:53
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「な、ここは魔王城ですよ⁉ 宴会などに使ってしまえば、魔王様の品位が……。」
「良いの、良いの。俺の評判なんか、平和主義掲げてる時点であってないようなもんだろ?」
「そ、それは……。」
「じゃ、ゴーレム達が料理運んでくるから、好きに食えーー!」
魔族達は最初は困惑顔だったが、ゴーレムが料理を運んでくると、食欲には勝てずバクバクと食い始める。
「うんうん、頑張って料理作った甲斐があるってもんだ!」
「この料理、魔王様が作ったのだー?」
「おう! スキルで身体強化して、超高速で作ったんだぜ?もちろん味に妥協は一切無しだ!」
「王よ、何故そんなこだわりを……。」
「…………美味しい。」
「あ、シア! ここは魔王城なのだから、もっと慎みをもってだな……。」
「ま、良いだろ! だいたいいつもは『戦いが全て』とか言ってるんだから、こんなことぐらい見逃せって。」
「しかし……。」
「良いから、お前も楽しめ! 魔王としての命令だ!」
「……わかりました。」
「よし! じゃ、まずはこの料理から……。」
----------
「さーて、どうすっかなー。この片付け。」
俺の目の前には空の皿やコップが大量に散らばっている。
「楽しそうだから」という適当な理由で宴会をしてみたのだが、片付けのことまでは考えていなかった。
「……これは、大変ですねー。」
クロもこの惨状を目にし、顔を引きつらせている。
そんなクロの顔を眺めていると、素晴らしい案を思いついた。
「クロ、俺に良い考えがあるんだ。」
「何です?」
「俺、用事あるから、後は任せた!」
「へ⁉ って、ちょ、速っ!」
俺はクロに全てを託し、魔王城を去った。ふっ、クロ、お前ならできるとしんじてるぜ☆
「あんた、逃げただけでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
- 第三十一話 人間と歩み寄る第一歩 ( No.32 )
- 日時: 2020/09/10 19:56
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「教育だ!」
「……どうしたんです、急に。」
「教育だよ! 魔族達おまえらに足りないのは教育だ!」
そう、考えてみれば当たり前のことだった。バカに足りないのは教育、教育が足りないのがバカなんだ! (悟り)
「学校なんて魔族には無いんだろ?」
「そうですね……。まぁ、必要無いですし。」
「あるんだよ! お前らのバカさで、俺の、ストレスゲージは、振り切れとるんじゃぁぁぁぁぁぁ‼」
「これは重症なのだ……。」
「いつの間に、ここまで拗らせたのでしょう。」
「と、に、か、く、学校を、作るぞーー!」
「「おー。(棒読み)」」
----------
俺は例のごとく四天王達を集め、『学校』を作ろうと呼び掛けた。(命令)
「…………学校か。」
「ふむ……。だが王よ、それにはいささか問題があるぞ。」
「問題?」
「教師だ。魔族に、教師となれるほど知能が高い個体が、存在するとは思えない。」
「あー、それは解決済みだ。」
「ほう?」
「人間の奴隷を連れてこようと思う。」
「「「「人間⁉」」」」
「あぁ。ゆくゆくは人族と不可侵条約を結びたいと思ってるし、その第一歩として魔族に人間を受け入れてもらおうと思ってな。」
「しかし……、それはあまりにも無茶ですよ……。」
「…………魔族と人族との因縁は深い。いくら何でも無理がある。」
「そいつはどうかな?」
「「「「へ?」」」」
「千人だ。……千人以上が学校を作り、そこに人間の教師を入れることに賛成している。」
「い、一体どうやってその数の魔族達と……。」
「鉄道造ったときに知り合ったヤツらがいてな、そいつらの知り合いから、さらにその知り合いへとどんどん話を広めていって、この数の賛成が集まったってわけ。」
「……むー。だけど、皆が皆賛成ってわけじゃないのだー?」
「そこは、まぁ、ゴリ押しで何とか?あ、一応来てもらった人間には、俺が責任を持って護衛につくつもりだぜ?」
「……安定の理不尽だな。」
「うるさいよ、ガオン。」
「しかし、その人間の奴隷はどうやって集めるのです?」
「そりゃあ、俺が人族の領地行って集めてくるけど?」
俺は何喰わぬ顔をしてクロの問いに答える。
「だ、ダメに決まってるじゃないですか! あなたは人族の宿敵である魔王なんですよ⁉ それを白昼堂々と人族の領地で活動など危険すぎます!」
「いやー、いけるって! 俺、一応種族は人間だしさ!」
「……ダメ。危険。」
「危ないのだー。」
「王よ、浅慮が過ぎると言わざるを得ない。」
むむむ……。思ったより反発されたな……。仕方無い、強硬手段にでるか……。
「『睡眠スリープ』」
俺のスキルで四天王達は抵抗する間も無く崩れ落ちる。
「悪いな……。さすがに魔族のバカさはシャレにならないんだよ。」
俺は用意しておいた置手紙を置き、魔王城を去る。
「さて、行きますか!」
- 第三十二話 ラノベの主人公にはなれないな ( No.33 )
- 日時: 2020/09/11 20:50
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
今俺は森の中を歩いている。スキルで空を飛んでも良いのだが、人間に見つかったら面倒くさそうなので、歩いていくことにした。
「前にクロの背中に乗ったときは、こっちの方角に人族の領地があったと思うんだけどなー。」
はぁ、と溜息をつきながら歩いていると、話し声が聞こえてきた。
「お! 人がいるのか?」
俺は話し声が聞こえてくる方へ走っていった。
「さすがにいつまでも森で迷子ってシャレになら──」
人の気配があったので声をかけようとするが、その光景を見て思いとどまる。別に話しかけるのが怖いからとかそういう理由じゃないんだよ?
確かに人はいたんだよ?本当に人がいるんだけど、盗賊っぽいヤツもセットなんだよ!
「完全にテンプレじゃねぇか!」
俺の目の前には、何かの紋章がついていつ馬車とそれを囲む盗賊っぽいの。あとは馬車を守ろうとしている騎士達がいるわけで……。
「どうしよ、コレ……。」
あいにく俺はどこぞのラノベの主人公のように、こういう場面を見てすぐに助けに入れる程肝が据わってるわけでも、正義感に満ち溢れているわけでも無いのだ。
と、俺が傍観していると、じょじょに騎士達が優勢になっていった。
「よし、ほっとこう!」
俺が手を出さなくても、騎士達が勝手に倒すだろ!
街がどっちかは知りたいところだが、背に腹は代えられない。こういう人間同士の争いに関わると、ロクなことにならないと相場が決まっているのだ!
「さて、別のところに行くか。」
と俺が回れ右をすると、ちょうど目の前に盗賊(の援軍)がいた。
いやー、バッチリ目が合っちゃったね☆ そんなに見つめられると照れるなー。(現実逃避)
「あ、どうもー。」
頑張れ、俺! 爽やかスマイルで乗り切るんだ!
「こっちにもいやがった!」
「殺せ! 皆殺しだー!」
ダメだったー。あれ、こいつら魔族なのかな?いつものやり取りと変わらないぞ?
目の前の盗賊の声に騎士達や戦っていた盗賊までこっちを向く。
それは時間にしてコンマ数秒の硬直。だが、何かもう色々限界に達した俺はその僅かな隙を逃さなかった。
「『稲妻暴雨』」
上空に魔法陣が展開され、その魔法陣から文字通り『雷の雨』が降り注ぐ。
スキルの性質上、俺が敵と認識した盗賊達にしか当たっていないし、当たっても気絶する程度ですむ。さすがにこの年で殺人犯は勘弁だぜ。
そして、雷の雨が降り止み、そこに残されていたのは騎士と俺と馬車に倒れた盗賊達だった……。
「あー、とりあず、こんにちは?」
「あ、あぁ、こんにちは……。」
あの、その化け物みるような目で俺を見るのは、やめてくれませんかね?結構心にダメージ入るから。
- 第三十三話 ドキドキトラベル ( No.34 )
- 日時: 2020/09/13 01:12
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
俺と騎士達がぎこちない挨拶を終えると、馬車の扉が開き少女が出てきた。
「シフォン・アル・リアーネと申します。先ほどの助太刀、感謝します。」
緑の髪と赤の瞳を持った美少女はそう言って俺に頭を下げた。
うーん、あの服装からして貴族っぽいよなー。馬車に付いていた紋章も家紋だとしたら納得がいく。
……よし、関わらんとこ。こういう貴族と関わるとトラブルに巻き込まれると相場が決まってるんだよ。(偏見)
「あー、俺はケイ。……都会に憧れて家を飛び出した田舎者でね。非常識だけどよろしく頼む……頼みます?」
出自とかは適当な設定で誤魔化すことにした。人族での常識とかは知らない可能性もあるが、この設定でどうにか乗り切れるだろ。
「敬語は不要ですよ。よろしくお願いします、ケイ様。」
「あぁ、よろしく。」
「それで……、助けていただいたお礼がしたいのですが……。」
「あー、それなら街に行きたいから、近くにある街の方角だけでも教えてくれないか?」
「街ですか……。それなら私達の目的地も街ですし、ご一緒にどうですか?」
「……じゃあ、お言葉に甘えて。」
----------
「ケイ様は今まで何をしていらっしゃたのですか?」
……「魔王やってました!」とは言えないなぁ……。
「魔獣狩りのようなものを……。」
「なるほど、だからあんなに強いんですね!」
「まぁ、そんな感じだけど……。」
やべぇ、何か話すたびにボロが出そうで怖い。よくよく考えてみたら俺、魔王なんだよな! バレたら殺されるんだよな! (今更)
お願い、お願いだから、早く街に着いてくれ!
「しかし、珍しい服装をしていますねー。」
ヒィィー! ヤバい、早くもボロが出そうに!
「あ、あー、俺の故郷って辺境にある田舎だからなー。」
「あの、なんでそんなに目を泳がせているのです?」
「い、家出してきたから、故郷のこと聞かれると気まずくてねー。」
「あぁ、それは失礼しました。私としたことが無神経なことを……。」
「う、うん……。」
----------
「着きました。ここが私達の目的地。商業都市『キアリ』です。」
「へー、でっかいなー。」
目の前には大きな壁に囲まれた都市があった。壁が高いので中までは見れないが、門の前には多くの人々が並んでいる。
「ここは商業都市ですから、多くの人々が立ち寄るのですよ。」
俺の視線が門を向いてるのを見てシフォンが疑問に答えた。
「まぁ、とりあえず並びましょうか。」
----------
順番が回ってくるとシフォンの顔パスで通れた。あれ、この人ひょっとして結構偉いのか?
「じゃ、ここでお別れで。」
「はい。では、また──」
「あ! あなた、何でここにいるの⁉」
振り向くと見覚えのある少女が立っていた。今一番会いたく無いヤツ。
「何でお前がここにいるんだよ、王女様……。」
- 第三十四話 王女再び ( No.35 )
- 日時: 2020/09/13 21:11
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
レノはシフォンに聞こえないように小声で俺を問い詰めた。
「何であなたがここにいるんですか⁉ あなた、魔王でしょ! 人族の宿敵なんですよ!」
「え、あー、いや、なんかいけるかなー、って。」
「そんなアホな理由で来るバカがどこにいるんですか!」
「……てへぺろっ☆」
「バーカーッ!」
「痛っ!」
レノにぶん殴られた。さすがに言い訳が下手すぎたか……。
「ケイ様ってレノと知り合いだったんですか?」
俺とレノの会話を聞いたシフォンが驚いた表情を見せ、問いかけた。
「あー、まぁ、そんな感じかしら。」
「いいえ、こんな人見たこともありません!(キリッ)」
「しょーもないウソをつかないの……。」
そのやり取りを見てシフォンがクスリと笑う。
「そんなに楽しそうにしているレノを見るのは久しぶりです。」
「へー、……そういえば、あんたとレノは知り合いなのか?」
「はい、私は公爵家の人間ですので、王女様と接する機会も多かったのです。」
「なるほど……、って公爵家⁉」
あれ?爵位とかよく知らないけど、公爵って結構偉いよね⁉ 俺ため口で話してるんだけど……。
「えぇ、偉いわよ。あなたぐらいなら一声で処刑できるぐらいには。」
俺の表情を見てレノが疑問に答えた。その言葉を聞き、頬に一筋の冷や汗が伝う。
「じゃ、俺はこれで失礼します!」
「あっ……。」
「ちょっ、あなたにはまだ聞きたいことが──」
俺はレノ達に背を向け、スキルの『身体強化』を使いその場を猛スピードで離れた。
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そこは石壁に囲まれた、小さな小部屋だった。床には魔法陣が描かれ、その魔法陣の周りには白いローブを着た人影がいくつも佇んでいる。
「教皇様、『アレ』の準備が整いました。」
「素晴らしい……。遂に人族が魔族を駆逐するときがきたのです……。正義は我々にあり!」
「「「「「「正義は我々にあり!」」」」」」
「さぁ、『勇者召喚』の儀を始めるのです!」
- 第三十五話 冒険者って一度はなってみたいよね ( No.36 )
- 日時: 2020/09/15 17:29
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「ここが冒険者ギルドかー」
冒険者ギルドは思っていたよりもキレイだった。ボロい感じも無く、小綺麗な一軒家って感じだ。
で、何でこんなところにいるかっていうと、勿論冒険者になるためだ。
レノとシフォンから逃げ出した俺は、手っ取り早く金を稼ぎ、奴隷を手に入れるために冒険者になることにしたってわけ。
ちなみに冒険者については馬車の中でシフォンに聞いた。何でも冒険者は、実力さえあれば一番金を稼ぎやすい職業なんだとか。
そのうえ身分を証明するようなものも要らず、俺にはうってつけの職業だった。
「とまぁ、うだうだ考えてもしょうがないし、中に入りますかね」
ドアを開け、ギルド内に足を踏み入れる。
……うん、めっちゃ想像通り。筋肉ゴリゴリのおっさん達が飲んだくれてたり、クエストが貼ってあるっぽいボードに人がたむろってたり、受付には美人の受付嬢がいたり。
とりあえず、受付に行って登録してくるかな。
「すみません、冒険者になりたいのですが」
「わかりました。それではこの登録用紙に記入していたただき、実技の試験を受けていただきますが大丈夫ですか?」
「試験って何をするんですか?」
「試験官と模擬戦をしてたくだけですよ。勝敗を見るのではなく、最低限の実力があるかどうかを確かめるだけですので、そんなに難しく考えなくても大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。それじゃあ、この紙に書けば良いんですね。で、名前と得意スキルと……」
登録用紙に記入し終えた俺は実技試験で圧倒的な実力を見せ、見事Sランクの称号を手に入れた……
というわけでもなく無難に試験ををクリアし、普通にGランクとなりました。君たち忘れてるかもしれないけど、俺、魔王だから。目立つわけにはいかないんだよ?
- 第三十六話 金稼ぎなんて、廃人の手にかかれば一瞬だ! ( No.37 )
- 日時: 2020/09/16 21:25
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
さて、これから俺は冒険者として金を稼ぐわけだが……どうしょうか?
受付嬢の説明を聞いた感じ、金稼ぎの手段としては『クエストを受ける』か、『魔獣の素材を売る』っていうのがあるみたいなんだよな。
クエストを受けるとなると今のランクで受けられるクエストじゃぁ報酬が少なめだし……魔獣を狩って、その素材を売るとしますか!
この先の方針を決めた俺は街の外に出るために、門へと向かった。
「……あれ、門ってどっちの方向だっけ?」
別に俺は方向音痴ってわけじゃないぞ?ほ、本当だからな!
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無事、門を見つけた俺は魔獣狩りを始めた。そしてそろそろ終わりそう……。(経過時間三分)廃人としての本能が効率を追求させたのである。
「こんなところかな……」
探知系のスキルを使い、魔獣を効率的に狩っていたのだが、そろそろ充分だろう。
うーん、ゲームやってた頃と同じ感覚で狩ってたからな……。随分と集まってしまった。
……まぁ、多いに越したことは無いだろ! 多少目立つかもしれないけど大丈夫。……俺、魔王だけど、大丈夫?
……なるようになんだろ!
先人の残した素晴らしい格言を思い出し、俺は冒険者ギルドへと向かった。
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「こ、これは……しょ、少々お待ちを!」
受付に狩ってきた魔獣の素材を出すと、受付嬢は血相を変えて奥のほうへ行ってしまった。
やっぱ、目立つか。どうしよっかなー。……最悪、どっかに逃げるか!
と、逃亡の算段をしていると、受付嬢が戻ってきた。
「ギルドマスターが呼んでいます。こちらへどうぞ」
受付嬢の案内でちょっと高級そうなドアの前にたどり着く。
「ギルドマスター、入ります」
「おぉ、入れ!」
受付嬢がドアを開けると、でかい机と椅子。そして椅子に座っている筋肉ゴリゴリのおっさんがいた。
多分、あのおっさんがギルドマスターなんだろう。それっぽい雰囲気出してるし。
「ケイと言ったか……。俺はここにギルマスのゴウルってもんだ。ま、とりあえず座りな」
椅子に腰かけると、おっさん、じゃなくてゴウルさんがベルのようなものを取り出した。
「これは『審判の鐘』と言う魔道具で、まぁ、ウソ発見器ってところだ。あんたを疑うわけじゃないんだが、立場上確かめなきゃならないんでね、気を悪くしないでもらいたい」
「大丈夫だよ。それで、そんな物持ち出したってことは、何か聞きたいってことなんだろ?」
「あぁ、まず、あの魔獣達はあんたが討伐したんだな?」
「ああ」
ゴウルさんは取り出した『審判の鐘』を見る。だが、『審判の鐘』には特に変化が無かった。
「そんじゃ、次の質問……」
とまぁ、こんな感じで俺への質問は行われていった。
- 第三十七話 魔族の危機 ( No.38 )
- 日時: 2020/09/18 19:14
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「これで確認は終わりだ。悪いな、長々と付き合わせちまって」
「いや、構わない」
ゴウルさんの質問が終わるとギルドの職員がやってきた。
「素材の査定と買取金の用意が終わりました」
そう言って職員の人は、机の上にいくつかの袋を置いた。
「あぁ、おつかれさん。……で、これが素材の代金だ」
俺は頷き、袋をバックにしまった。
「ちなみに、お前さんはこれからどうするんだい?」
「そうだな……。金も集まったし、故郷に帰るさ」
「そうなのか? 良い儲け話があるんだけどな……」
「儲け話?」
「あぁ、何でもローレンツ神聖王国が魔族の殲滅をしようと動き出していてな。腕に自信のあつヤツを集めてるんだとさ」
「魔族の……殲滅⁉」
「そうだぜ。勇者召喚までやったって話だし、あの国も本気で魔族を潰す気だぜ」
「…………そうか」
「どうしたんだい、兄ちゃん。顔色悪いぜ?」
「もう用は終わっただろ? 帰らせてもらう」
「あ、あぁ……」
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俺はゴウルさんの言っていた、魔族の殲滅について調べることにした。
そして調べ始めてから約三十分が経った。
……結論から言うと、ゴウルさんの言っていたことは正しかった。ローレンツ神聖王国という国が、魔族を倒すために強者を集めているらしい。
いや、それはまだ良い。俺の作った魔獣達や四天王もいる。だが……問題は勇者だ。
勇者召喚によって呼び出された勇者。アイツだけはダメだった。
だって、アイツは……元の世界での知り合い、鳴月 莉奈。
『彼女』を、ベルを失った俺に寄り添ってくれた恩人なのだから……。
- 第三十八話 少女の一言 ( No.39 )
- 日時: 2020/09/19 01:31
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
俺には大切な人がいた。ベルという名の大切な少女がいたのだ。
だけど、彼女とはもう二度と……。俺の偽善で、高望みで、彼女は犠牲に……。
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取り巻きを連れた少年は、まだ幼いケイを罵倒していた。
「バカだなー! 正義の味方なんて、ホントにいるわけないだろ?」
「い、いるさ! ぼくがなるんだ。ぼくが正義の味方になって、みんなを助けるんだ!」
ケイの言葉に彼らは黒い笑みを浮かべる。
「ふーん。ならさ、正義の味方っていうぐらいだから、お前は強くなきゃいけないよなぁ?」
「ま、まあね」
「なら、お前の強さを俺達が確かめてやるよ!」
「なっ! ケンカはよくないって先生が……」
「はぁ~ん! 自分のことを正義の味方とか言っときながら、度胸は無いのか! なさけねぇな~!」
「──っ!」
少年の煽りにカッとなったケイは思わず殴り掛かる。
だが、飛び出したケイを取り巻き達が羽交い絞めにした。
「な、何するんだよ! 放せ!」
残念ながら、この少年は一対一で相手をしてやろう、と考えるほど優しい性格をしていなかった。典型的ないじめっ子気質だったのだ。
「正義の味方なんだろ? 何とかしてみせろよ!」
「ぐぅぅぅ!」
ケイは必死にもがき、羽交い絞めから脱出しよとするが取り巻き達に二人かりで抑えられ、それすらもできなくなる。
「ははっ! 情けねぇな!」
少年の目は、獲物を見つけた肉食獣のように細められる。
その目を見て何をする気か悟ったケイは、痛みを覚悟して目を閉じた。
そのときだった。自らの無力感に打ちひしがれていたケイは声を聞いた。
「おやめなさい」
たったその一言でその場が凍り付いた。その鈴がなったような声色に聞きほれたのか、あるいはその声色に含まれた威厳のようなものを恐れたか。
ただ一つそのときケイに言えたことは、その言葉を発した少女の姿がどうしようもなく美しかったということだけだった。
- 第三十九話 さみしいでしょ? ( No.40 )
- 日時: 2020/09/20 20:32
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「何なんだよ、お前! 急に出しゃばってきやがって」
「その状況を見かねただけよ。多対一で弱者を虐げる。これほど見苦しいものはないわね」
少女の目は鋭い光を宿し、少年を威圧していた。
「……クソッ、行くぞお前ら!」
ジッと見つめてくる少女の目に耐えかねたのか、少年と取り巻きはケイを突き飛ばし、回れ右をして去っていった。
それを見届けた少女はこちらに振り向き、ケイに向かって手を差し伸べた。
「大丈夫?」
差し伸べられた手を取り、少女の顔を見上げたケイは改めてその美貌に見惚れた。
髪は夜空に浮かぶ満月のような薄い金色。
瞳は大粒のアメジストをはめ込んだかのような紫。
それらの整ったパーツを緻密に組み立て上げた顔立ちは、まさに一種の芸術と言っても過言ではなかった。
「私の顔に何かついているのかしら?」
どうやら、まじまじと見すぎてしまったらしい。ケイは少女に心配そうな顔をさせてしまった。
「ううん、そんなことないよ。」
ケイは慌てて否定する。
「とりあえず……助けてくれてありがと!」
「見苦しかったから、口出ししただけよ」
当たり前のことをしただけ、という調子で少女は答えた。その顔には誇らしさや照れもなく、ただつまらなさそうな表情を浮かべており、ケイを困惑させた。
「君は……怒ってるの?」
「そういうわけではないけど……」
「じゃあ、なんでそんなつまらなさそうな顔をしているの?」
「……同族嫌悪ってやつかしら。力で弱者を虐げることが端から見ているとどれほど醜いものだと実感したのよ」
「ふーん。何かすごいねー」
ケイの見当違いな答えに少女は呆れた顔をする。
「わからないなら、わからないと言えばいいのに……」
「そしたら、さみしいでしょ」
「寂しい?」
「うん。自分を理解してくれる人がいないのは、とってもさみしいことなんだよ」
ケイの言葉に少女は目を見開く。
「ってメタルマンが言ってた」
続く言葉に見開かれた目は呆れたように細められた。
「一応聞くけど……メタルマンって誰?」
「日曜の十時に悪い怪人をやっつける正義のヒーローだよ!」
「あ、うん。大体わかったわ」
「そして、ぼくはメタルマンさえ超える正義のヒーロー、佐藤 ケイだ!」
「そ、そう……」
「それで、君の名前は?」
「……ベル」
「よろしくね、ベル!」
名前を呼ばれた少女──ベルはくすぐったそうに笑った。
- 第四十話 ベルの年齢って…… ( No.41 )
- 日時: 2020/09/22 16:55
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「また来たの……」
ベンチに座っていたベルは溜息をつく。その原因は言わずと知れたケイであった。
「そんなに呆れ顔しないでよ……」
「するわよ。あなた、ここに何回来る気なの? 別に楽しいことなんてありはしないのに」
「君に逢えれば充分だよ」
「……どこで聞いたの、そんなセリフ?」
「莉奈が持ってた少女マンガ」
「…………」
ベルはこの数日間で、ケイが感化されやすい体質だということを学んでいた。
そして意味もわからず、聞きかじってきたセリフを使うケイを少し心配もしていたのだ。
「ケイ、そういう言葉は、本当に好きな人のためにとっておきなさい」
「……ぼくはベルのこと好きだよ?」
「そういう『好き』ではなくて、もっと、こう、女性に対する好意とか……」
「ベルって女の子じゃないの?」
「…………そう見えるなら心外ね」
どうやらケイへの教育は、難航を極めるようである。
----------
「何かさー、ベルってすごく大人っぽいよね」
「どうしたの、藪から棒に」
「だってベルってぼくと同い年に見えるのに、すごくむずかしいこと言うんだもん」
不思議そうに言うケイを見てベルは少し戸惑った後、からかうように笑う。
「まぁ、こう見えてあなたの何十倍も生きているもの」
「何十倍⁉」
「えぇ、そうよ」
「ベルっておばあちゃんだったんだねー」
ケイの無邪気な一言にベルの表情がピシリと凍る。
「あ……。ごめんね?」
「だ、大丈夫。悪気が無いのはわかっているから」
ベルは引きつった笑みを浮かべる。
「おばさんとかのほうが良かったよね!」
……がケイの『悪気はない』一言でその笑みすらも掻き消えた。
────その後ケイがどうなったかはあなたのご想像にお任せしよう。
- 第四十一話 もう一人の少女 ( No.42 )
- 日時: 2020/09/25 23:10
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「ねぇ、ケイ。遊ぼうよ!」
ケイを誘うのは可愛らしい少女。
ボブカットの茶髪をふわりと揺らし、クリクリとした目でケイを見つめている。
小首を傾げているその可愛らしい姿は、男を虜にする美少女としての才能の片鱗を見せている。
……まあ、ベルというスーパー美少女に慣れ始めてるケイとしては、特に意識するようなことでも無いのだが……。
「遊ぶのはいいけど……。そうだ! せっかくだし、莉奈もベルに会ってみない?」
「ベル? 知り合い?」
「そう! ぼくを助けてくれた正義の味方だよ!」
「……女の子?」
「そうだよ。すっごく綺麗な……ってどうしたの?」
ケイの言葉に莉奈は不満そうな顔をする。
「別にっ! ……いいもん。私もそのベルって子に会ってみるから」
「うん、それがいいと思うよ。ベルって友達いなさそうだし」
「……ケイって無邪気にえげつないこと言うよね……」
「え?」
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「ケイ、その子は?」
いつものごとく現れたケイに、ベルは困惑した顔を見せた。
「ぼくの友達の莉奈だよ!」
「よろしくね、ベルちゃん」
「よろしく……」
ベルは差し出された手を取り、困惑気味に握手をした。
「それじゃ、遊ぼうよ! まずは……」
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「そういえば、今日出てた宿題ちゃんとやったの?」
聞かれたケイは怒った風に頬をふくらませた。
「むー、バカにしないでよ。ちゃんとやったに……き、ま……」
ケイの顔がだんだんと青くなり、目が泳ぎだす。
「やってなのね……」
ベルの溜息に絶望したような表情を浮かべるケイ。
「ちょ、ちょっと今からやってくる……」
「そうしさなさい。私のことは気にしなくていいから」
「あ、私もベルちゃんと話したいことがあるし、残ってるからー」
「うん、わかった。それじゃあ、また明日ー!」
「別に無理して来なくても良いのよ?」
「わかってるよ、ぼくが来たくて来てるんだから!」
ケイが走り去り、その場にはベルと莉奈の二人が残る。
「それで、話したいことっていうのは?」
「うん、それはね……」
- 第四十二話 少女の質問、決まる覚悟 ( No.43 )
- 日時: 2020/09/26 00:26
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
「それで話したいことっていうのは?」
「うん、それはね……ケイのこと、どう思ってるのか聞きたいんだ」
「ケイのことを、どう思ってるか……?」
「そうだよ。ベルちゃんがどう考えてるのかは知らないけど、ケイにとってあなたは大切な存在なの。……そう、私よりも……」
「大切な、存在。私が?」
「ケイにとってあなたは憧れの存在であり、愛慕の対象であり、かけがえの無い親友でもある」
莉奈は胸の内にため込んだものを吐き出すように、言葉を発する。
「何を言って──」
ベルの困惑した顔を余所に莉奈は言葉を吐き出し続ける。
「きっと私がいなくなってもケイはケイとして存在し続ける。だけど、あなたを失ったら、ケイは何かを失くす。ケイのとってあなたは自らを構成する部品の一つなのだから」
「…………」
莉奈の吐き出した言葉を受け、ベルは茫然となる。
「私が……彼の……大切な……人」
「だから、ベルちゃんがケイのことをどう思ってるか知りたいの」
「私は……私にとってケイは……大切な子、かしら……」
「大切な子?」
言葉を探すかのように視線を宙に彷徨わせ、頷くベル。
「あの子の笑顔を見ていると、悩んでいたこともどうでも良くなるの。何も考えずに笑ってられるあの子が羨ましい……違うわね、守りたい、かしら」
「守りたい……」
「あの子にはこのままでいて欲しい。あの無邪気に笑ってる、あの笑顔を守りたい。私のように、暗い面に染まることなく歩んでほしい……」
「そっか……。ベルちゃんって良い人なんだね」
「良い人? ……そんなことを言われたのは初めてね」
「え? ……まぁ、いいや。私はこれで帰るね。変な質問だったけど、答えてくれてありがとう!」
そう言って莉奈はベルの前から走り去る。
「本当に、ありがとう。覚悟が決まったよ」
……少女の呟きは、ザワリと吹いた一筋の風に流されていった。
- 第四十三話 最悪の選択肢 ( No.44 )
- 日時: 2020/09/28 22:41
- 名前: あお (ID: ikU4u6US)
別れ(それ)はデパートでの出来事だった。
ケイの希望で、ベルとケイはデパートにいた。別段、深い理由があったわけではない。莉奈がデパートで買ったというお菓子が美味しかった、というだけであった。
「ケイ、あまりキョロキョロしないの」
「えー、だってここすごく広いんだもん」
「デパートに来たことぐらい、何回もあるでしょ?」
「むー、ベルといるとまたちがうんだもん」
「…………」
「どうしたのベル? 顔が赤いような……」
「いいから、早く行くわよ!」
「わ、待ってよー!」
そのとき、聞き慣れない甲高い音が鳴り響いた。その直後、デパートの数か所から火の手が上がった。
「か、火事だー‼」
だれかが叫んだと思うと、人々は我先にと逃げ始める。鳴り響く警戒音アラートは人々の混乱をさらに加速させていた。
「ケイ、私達も逃げないと!」
「う、うん!」
ベルはケイの手を引き、出口へと向かっていく。だが、火はどんどんと燃え広がっており、退路が断たれるのも時間の問題だった。
「どうしよう、ベル。火が……」
「……大丈夫」
ベルはそう言って手を前にかざす。
「え?」
一瞬、ベルの手が光った。そのままベルが前に進むと、道を開けるかのように炎が退いていった。
「これって……」
「話はあと! 早く進むわよ!」
「う、うん……」
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「あそこを出れば、外に出られる筈よ!」
「…………待って」
「え?」
「声が聞こえた気がする……」
「向こうからかな」と言ってケイは来た道を指す。
「何言ってるの! 戻ったら火に囲まれてケイも死ぬわよ! 私の力だって万能じゃないんだから!」
ベルの言ってることは正論だった。
ケイの聞いた声とてあくまで、『気がする』なのだ。いない可能性もあるし、もう手遅れの可能性だってある。
「……ぼくは正義の味方になるって決めたんだ」
だが、ケイは告げた。愚かで、偽善で、無知な、最悪の選択肢を取った。……取ってしまった。