コメディ・ライト小説(新)

第三十八話 少女の一言 ( No.39 )
日時: 2020/09/19 01:31
名前: あお (ID: ikU4u6US)

 俺には大切な人がいた。ベルという名の大切な少女がいたのだ。

 だけど、彼女とはもう二度と……。俺の偽善で、高望みで、彼女は犠牲に……。


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 取り巻きを連れた少年は、まだ幼いケイを罵倒していた。

 「バカだなー! 正義の味方なんて、ホントにいるわけないだろ?」

 「い、いるさ! ぼくがなるんだ。ぼくが正義の味方になって、みんなを助けるんだ!」

 ケイの言葉に彼らは黒い笑みを浮かべる。

 「ふーん。ならさ、正義の味方っていうぐらいだから、お前は強くなきゃいけないよなぁ?」

 「ま、まあね」

 「なら、お前の強さを俺達が確かめてやるよ!」

 「なっ! ケンカはよくないって先生が……」

 「はぁ~ん! 自分のことを正義の味方とか言っときながら、度胸は無いのか! なさけねぇな~!」

 「──っ!」

 少年の煽りにカッとなったケイは思わず殴り掛かる。

 だが、飛び出したケイを取り巻き達が羽交い絞めにした。

 「な、何するんだよ! 放せ!」

 残念ながら、この少年は一対一で相手をしてやろう、と考えるほど優しい性格をしていなかった。典型的ないじめっ子気質だったのだ。
 
 「正義の味方なんだろ? 何とかしてみせろよ!」

 「ぐぅぅぅ!」

 ケイは必死にもがき、羽交い絞めから脱出しよとするが取り巻き達に二人かりで抑えられ、それすらもできなくなる。

 「ははっ! 情けねぇな!」

 少年の目は、獲物を見つけた肉食獣のように細められる。

 その目を見て何をする気か悟ったケイは、痛みを覚悟して目を閉じた。

 そのときだった。自らの無力感に打ちひしがれていたケイは声を聞いた。

 「おやめなさい」

 たったその一言でその場が凍り付いた。その鈴がなったような声色に聞きほれたのか、あるいはその声色に含まれた威厳のようなものを恐れたか。

 ただ一つそのときケイに言えたことは、その言葉を発した少女の姿がどうしようもなく美しかったということだけだった。