コメディ・ライト小説(新)

第八話 無理だよ ( No.9 )
日時: 2020/08/25 19:08
名前: あお (ID: ikU4u6US)

 「そ、そんなこと、やってみないと──」

 「無理だよ。お前の夢は理想でしかない。」

 「な、何で! 何でそう言い切れるの!」

 「いいか? 俺の夢とお前の理想は違う。俺の夢はあくまで『争いを無くす』ことだ。けど、お前の理想はその先、『人間と魔族が協力しあう』。争いをやめるのと協力するのじゃわけが違う。」

 「けど、それは……。」

 「いいか、お前の夢は──」

 「嫌! 聞きたくない! ──っ何で皆、わかってくれないの……。」

 きっと、この少女は優しいのだろう。いや、優しすぎると言ってもいい。それはまるで、『あの時の自分の』ようで──

 「……俺は人間と魔族の間にどんな因縁があるのか知らん。でも、これだけは言える。」

 「え?」

 「どれだけ優しかろうが、どれだけ賢かろうが、どれだけ力があろうが、多くを望みすぎれば、できるものもできなくなる。何かを成し遂げるために必要なのは力じゃない、『見極め』だよ。自分が本当に守りたいものは何なのか、そして……、

 ──守りたいものを守るために、何かを削ぎ落とす『覚悟』だ。」

 そうだ、『あの時の自分』にそれさえあれば……

 「なっ……!」

 「誰だって全知全能の神じゃないんだ。何かを成し遂げようと思ったら、どこかで妥協しろ。その覚悟が無いなら、お前は必ず何かを失う。…………俺みたいにな……。」

 そう、彼女はもう二度と──

 「人間と魔族の協力は望みすぎだと、言うのですか……。」

 「ああ、そうだよ。どちらかが裏切ったときのリスクが大きすぎる上に、必要な事が多すぎる。成立する筈の無い夢物語だ。」

 「それは……。」

 ……って俺は子供に何言ってんだか。ついつい、『あの時の自分』を思い出して余計な事を口走ってしまった。

 「……ま、別に夢を見るのは自由だし、好きにすれば良いだろ。」
 
 「…………。」

 「…………。」

 ……急に無言にになられると、気まずいんだけど。どうしよ。まぁ、俺の自業自得ではあるんだけど……。

 「魔王様、そろそろ人間の領地に近づきます。」

 「あぁ、わかった。」

 そして俺は目立たないところにクロを降ろさせ、街道まで王女を送った。

 「空からみた感じ、あっちに行けば関所があったから。」

 「……えぇ、分かりました。」

 「お、おぅ。じゃ、俺は帰るからー。」

 「……それでも私は、諦めませんよ。」

 「は?」

 「私は、私の夢が叶う日が来ると、信じます。」

 王女の目には強い光が宿っていた。あの日から何かを諦めた俺の目とはまるで違う目。現実を突きつけられても、折れない心を持った目だ。

 「どーにも、複雑だな……。」

 「へ?」

 「何でも無い。ま、頑張れよ、王女様。」

 「……王女なんて名前ではありません。私の名前は『レノ』です!」
 
 「う、うん……。」

 「じーっ。」

 「わ、分かったって、頑張れよ、『レノ』。」

 「はい!」