コメディ・ライト小説(新)
- Re: 治療薬は天使 ( No.4 )
- 日時: 2020/10/11 18:56
- 名前: ほずみ (ID: XLYzVf2W)
3.素因数分解
俺は驚きのあまりビクッと肩をあげる。
「へあっ…隣ですか?」
「は、はいぃ」
見たこともない…ことはなさそうだ。どこかで見覚えがある。
彼女は俺と同じ数学のテキストと数冊のノートを抱えていた。テキストは付箋だらけだ。
目を合わせることはない。すぐにそらされる。
「え…っと、どうぞ」
女子とは関わりたくないけど、大人しそうだし…何より人見知り。これなら話はできないだろう。
彼女はペコッと頭を下げると俺の真横…ではなく一席開けて座った。
え?
俺…嫌い?いや、嫌いなら横に座っていい?なんて聞かないよな…
ま、いいか、隣でベタベタくっつかれるよりはよっぽどマシだ、数学やろっ
八時二十分。
騒がしい人声の中、俺は数学に夢中になっていた。
それで、一ページが終わる。
なぁんだ、俺も本気出せば早く終わるじゃん。
自分を密かに褒め称えていた。
そしてある過ちに気づく。
解答を寮においてきた。
これじゃ丸付けができない。
最悪だぁっ…
寮は一回出たら戻れない。鍵は先生が持っているのだ。
そして俺は閃く。
隣。隣の女子に借りればいいんじゃないか…?
あっ、でも関わったら…
俺は少し考えた。
そして女子をチラッと見てみる。
目があった。確実に。
彼女は俺をじーっと見つめていた。
目があった途端に俺も彼女もそっぽを向く。
なんだろう、何かもどかしい。
……もういいか、これくらいなら大丈夫だろう。
俺は彼女に声をかける。小さい声で。
「あっ…のぉー…」
彼女は気づかない。
「えっと、あの…」
こういうときに限って気づいてくれない。
俺は肩を叩いた。
すると彼女はビクッと体を動かす。
そして下を向く。少し頬が赤みを帯びている。
「えっと、答え…持ってたりしませんか?」
彼女は素早く答えを差し出す。
「あのっ…私も今から答え合わせするんです…」
「えあっ、じゃあお先に…」
こういう時は先に譲るのがマナー。いわゆるエチケット?だったっけ…
彼女は少しかぶせ気味に答える。
「いや、一緒に…見ませんか?」
「えっ…」
「いや、嫌だったら全然…」
「いやいやいやいやいや!嫌なんてこと…ないよ」
「あ、じゃあ見ましょうか…。」
彼女はうつむいていたが、確かに嬉しそうな顔をしていた。
「六ページでいいですか?」
「あ、うん」
俺はその時は気づかなかったが、今思うと二人とも六ページだったんだなぁって。十分の一の確率が当たっていた。
そうして二人で答えを共有する。
というか…一席空いてるから遠い。見にくっ…
「席…横…おいで?」
あっ…なんか変な口調になった…
しかもいつの間にかタメ口だった…!やっちゃった…!!
「あ、あの、ごm…すみません、ついタメ口に…」
彼女はにんまり笑うと
「むしろタメ口でお願いします」
と呟く。それはしっかり俺の耳にも届いた。
そして彼女は俺の席の真横に座る。
そして答えを二人して覗き込む。
顔っ…近い近い!
こんなに異性を意識するのは初めてだ。
多分俺の顔、赤いんだろうな…
「あっ…八十かっ…」
いつもの独り言がつい口から漏れる。
彼女はクスッと笑う。
でもそれは絶対に俺を小馬鹿にしたような笑いではなかった。
「間違えた?教える…よ?」
タメッ…タメ口…!
正直キュンとした。でも、だめ。
気を確かに、しっかりするんだ俺。…よしっ。
「えっとー、じゃあお願い」
俺はノートを見せる。
二十問中正解したのは驚異の三問。
正答率…えっと………十…五かな?十五パーセント。
「数学…嫌い?」
「得意ではないよね」
俺は微笑を浮かべる。彼女もふふっと笑う。
「私は…まぁまぁいけるから……任せて」
頼もしい…。
「数学、学年何位だった?」
「一応…一位」
一位の一が聞こえた時点で俺はえぇ⁉っと少し大きな声をだしてしまった。
三年生…百四十四人中…一位?
こんなの言われたら俺の順位なんて言えない…
百三十五位…負けるのは知ってたけど流石に…
その後四十分間みっちり、間違えた十七問の解説をしてくれた。
確か、素因数分解ができてないとかなんとか。
同じ数は累乗を使うんだよとか…
頭がいい人は教え方もうまいんだなぁって。
もしかしたら国語も上位にいるのかもしれない。
俺は両思いをしてはいけない。
たとえ相手が俺に好意をもっていなくとも、俺は危機感をもたなくてはならない。
だからいつも女子と話すときはぎこちなく、許容範囲で冷たく接してきたし、あと危機感だらけだった。
でも今日は……なんだか違った。
周りの女子とは違う…というか…
胸が何かを叫ぼうと、嘆こうとしている心地とでも言おうか。