コメディ・ライト小説(新)

第一話 急ぎの予定だから ( No.2 )
日時: 2020/10/06 18:02
名前: あお (ID: ikU4u6US)

 『放課後、屋上で待ってます』

 引き出しに入っていた一枚の手紙には、そう書かれていた。その綺麗な筆跡は男性のものとは思えず、使われている便せんはハートで縁取られていて、ラブレターらしき雰囲気を醸し出している。

 「雰囲気っつーか、こんな手紙が引き出しに入ってたら、ラブレターに決まってるよな……」

 そして俺は、手紙ラブレターを片手に放課後の予定について悶々と悩み続けた……




 なんてことは全く無く、学校終わったら速攻で昇降口に向かったのであった。どうも、空野 ハルです。

 え? 何で昇降口に向かってるかって? そんなの手紙ラブレター無視して帰るために決まってるけど?

 何? クズ過ぎる? これだから素人は……。いいか、俺にとって、女性と関わる=修羅場だ。まして告白なんて一大イベント、面倒なことになるのは目に見えているのだ。

 「早く帰って寝よ」

 俺は面倒なことは忘れ、夢の世界に逃避行エスケープすることにしたのだった。


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 翌日、俺が教室に着くと、何やらクラスの奴らが一か所に集まって何か話していた。……いや、集まっているといるよりも、誰かを囲んでいるのか?

 まぁ俺には関係無い事だし、とりあえず自分の席に座ろうと思い集団の近くを通ると、会話の内容が聞こえてきた。

 「具合悪そうですけど、大丈夫ですか?」

 「保健室に行って休んできたらー?」

 「あ、それなら僕が付き添い──」

 「バカヤロー! 抜け駆けはさせねーぞ!」

 「チッ」

 会話の内容が気になって、チラリとそこに目を向けると、集団の中心には俺でも知ってる有名な優等生がいた。

 彼女の名前は、七枝ななえ メイ。

 クラスどころか、全校にファンが存在するクール系美少女であり、その生真面目な性格から、「優等生系ヒロイン」、「デレた姿が見てみたい」、「踏まれたい」、「『醜い豚が!』と罵倒̪して欲しい」と言われている。

 またその容姿は、「生きた人形のよう」と評され、一種の芸術と認識する人々もいるらしい。

 そしてその秀麗な顔は熱っぽく、どことなく気力も無さそうで、確かに不調であることは間違いなさそうだった。

 ……俺にとってはどうでもいい話だが。具合が悪いなら欠席なり、早退なりすれば良い話。生憎、この程度のことを心配するような善性は持ち合わせていないのだ。

 俺は向けていた視線を戻し、自分の席に座って次の授業の準備を始めた。


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 「じゃ、今日の授業はここまでー」

 教師の間延びした声が、昼休憩の開始を告げる。俺は昼食を食べるために、いつものように男子トイレへ向かおうとした。だが……

 「昼食、ご一緒させてくれませんか?」

 我らが美少女様七枝さんに、昼食のお誘いを受けてしまったわけだ! やったね! (全然嬉しくないけどな!)

 「ごめん、予定あるから」

 そう言って俺は足早に去ろうとした。が、腕を摑まれ阻止されてしまう。

 「お待ちください、少し話したいことがあるだけですので。お時間はとらせません」

 「急ぎの予定だから、ホントに無理だから」

 「そうですか……。ちなみにどうのような予定なのか、お聞きしても?」

 「急ぎの予定だから」

 「どのような予定なのですか?」

 「急ぎの予定だから」

 「……その予定、本当にあるのですか?」

 「急ぎの予定だから」

 「昼食、ご一緒させていただきますね?」

 「急ぎ、急ぎの予定だから……」

 「とりあえず、食堂に行きますか」

 掴まれていた腕を引っ張られる。マズい、このままでは食堂に連行されてしまう。せめてもの抵抗にその場で踏ん張ってみるが、七枝の力は思ったよりも強く、力ずくで引きずられてしまう。

 「何の用なんだよ、俺とお前じゃ接点なんか無かったろ?」

 引きずられながら俺が問いかけると、七枝はこちらに振り向いて答えた。

 「昨日手紙を渡した者、と言えばお分かりですか?」

 「…………」

 何やってくれてんの、昨日の俺。やっぱダメだったんだよ! 流石にラブレター無視はマズかったんだよ! マズい、ここは白を切って乗り切るしかない!

 「いやー、き、記憶に無いなー」

 こんな美少女と昼食一緒なんてしたら、あっという間に噂になること間違いない。会話の内容聞こえてない筈のクラスの奴らだって、少し騒いでるし。そして、噂になる=修羅場!

 「寒空の中、あなたをずっと待ち続けて、風邪を引きかけたののですよ?」

 「ウッ……」

 いや、お、俺の所為では無い。セーフ、セーフだから、アウトよりのセーフだから……

 「クシュン!」

 小さなクシャミをして、俺を恨めし気に見る七枝。

 「……昼食は屋上で頼む」

 俺はとうとう諦め、未来の修羅場をどう避けるか考え始めた。あ、後、明日風邪薬持ってこないとな。