コメディ・ライト小説(新)

第二話 話したい事 ( No.3 )
日時: 2020/10/07 18:10
名前: あお (ID: ikU4u6US)

 「屋上ってこうなっていたんですか。初めて見ました」

 人目に付くのを避けるため、俺は七枝さんを連れて屋上に来た。

 ちなみに屋上は本来は立ち入り禁止で、扉に鍵も付いているのだが、何かあったとき(修羅場が起こりそうなとき)の避難場所として鍵を開けておいたのだ。

 それで、何で鍵を開けられるのかというと、昔、危険生物ヤンデレに監禁されかけたことがあるから。あの時試行錯誤を繰り返し、手探りでピッキングの方法を見つけたのだ。死ぬ気で。いや、比喩表現とか一切無しに、ガチの死ぬ気でね。あの時ピッキングに成功しなかったら、間違いなく死んでいただろう。

 まあ、今はそんな話はどうでも良くて、七枝さんの用というのが大事なのだ。

 「それで、話たいことっていうのは?」

 俺は地べたに座り込み、弁当を広げ始めた七枝さんに問いかけた。

 「パクッ、モグモグ……ゴクン。ああ、それはですね──」

 弁当の卵焼きを口に放り込み、彼女は告げた。

 「あなたのことが好きです。付き合ってください」

 ……せめて、告白ぐらいは食前にしようか。

 「色々聞きたいことがあるんだが……」

 「待ってください」

 「何?」

 「返事を。私の一世一代の告白なんです。まず、返事が聞きたいです」

 お前、告白より卵焼き食うこと優先してたよな?

 「無論、お断りさせてもらう」

 「がーん、そんなー。私の何が悪かったというのですかー」

 台詞だけ聞くと残念がっているように聞こえるが、実際は卵焼きをパクつきながらの発言であり、とても残念がっているようには見えない。

 「何がっていうか、全部だろ」

 「まさかの全否定ですか……モグモグ」

 「……とりあえず、卵焼きを食べるのは後にしようか」

 というか、コイツの弁当卵焼きしか入ってなくね? え、何コイツ怖いんだけど……。

 「卵焼き、あげませんよ」

 俺が弁当箱を見ているのに気付いたのか、彼女は弁当箱を背中に回して隠した。

 「いや、いらんけど」

 「そうですか、モグモグ……それで、私の告白はお断りされてしまったわけですが……モグモグ」

 「あ……話戻すんだ」

 まだ卵焼き食い続けてるんだけど……コイツの卵焼きに対する情熱は何なの?

 「ええ。まぁ、無理ということですので妥協案を提示します」

 七枝さんは箸を置き、真剣な顔を俺に向ける。

 「私と、お友達になっていただけますか?」

 「……それがお前の本音か?」

 「……気づいていたのですか」

 さすがに、卵焼き食べながらの告白を信じる程バカじゃないなぁ。

 「それで、ご返事は?」

 「勿論、NOだが?」

 「は?」

 「いや、だから無理だって」

 「何故ですか? 私のどこに問題があるのです?」

 存在全部じょせいであること

 「こんな綺麗な美少女と知り合いなんて緊張するから(棒読み)」

 さすがに本音は言えなかった。

 「なら、顔を隠せば良いのですね?」

 「え?」

 「そうですね……マスクでは隠し切れませんし、仮面でもかぶれば大丈夫でしょう」

 お前の頭が大丈夫じゃないんだが?

 「幸い、この学校の校則ではアクセサリーは許可されていますし、仮面をかぶって登校しても問題無い筈です」

 周囲の反応という点を除けばな。

 「さあ、これで問題は解決されました。ですので、私とお友達になってください」

 「嫌だね。全力で拒否する」

 「まだ問題があるのですか?」

 「当たり前だ。むしろ増えた」

 間違いない。コイツ、アホだ。俺が苦手なタイプのヤツだ。

 「何が問題だというんです?」

 「色々あるが……まず、俺と女子おまえが関わると、間違いなく修羅場が生まれるからだよ」

 「修羅場……?」

 「自分で言うのも何だが、俺はモテるんだよ」

 「えぇ、知ってますよ」

 「そんでもって俺に好意を持っている女子は大量にいる。今でこそ女子達は互いに牽制し合って俺への干渉をしてこないが、俺とお前が知り合いにでもなろうものなら、団結して妨害して来る筈だ。つまり、修羅場が生まれるってこと」

 「確かにそれは困りますね……」

 「だろ? じゃあ、そういうことでこの話は終わりで」

 自然に話を断ち切り、その場を去ろうとすると七枝さんに引き留められる。

 「それなら、良い解決方法があります」

 「は?」

 「性転換って知ってます?」

 コイツ、本気マジか……?

 「いやいや、知ってるけど、流石に無いって」

 無いよな? 無いって言って?

 「大丈夫ですよ。法律では性の自由が認められています。面倒な手続きはあるかもしれませんが、どうにかなるでしょう」

 「…………」

 ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバいーーーー‼ どうすんのコレ⁉ コイツ俺の所為で性転換しようとしてるよ⁉ 流石にそれはマズイだろ! 

 「それでは、性転換の手続きについて調べてきます」

 立ち上がった七枝さんはドアノブに手をかける。その目はいたって真剣で、間違いなく本気で性転換する気である。

 「待て」

 俺は彼女の腕を掴み、断腸の思いで告げる。

 「…………友達になろう」

 「……はい!」

 七枝さんは、花の咲くような笑みを浮かべたのだった。