コメディ・ライト小説(新)
- 1−前章 4話 『百歩進んでふりだしへ』 ( No.5 )
- 日時: 2020/12/04 02:27
- 名前: ノモケマナ (ID: hDVRZYXV)
「ペガ、準備できたぜ」
フェニーは二十分ほどで準備を終わらせたようだ。そして急に様子が変わる。
こんな速く終わらせた俺を褒めてくれと言わんばかりに胸を張り、誇り高らかにしたり顔。要するに調子に乗っていたのであった。
「それじゃいこっか」
ペガはフェニーの褒めてアピールをサッとスルーして最終確認をする。居間、台所、バルコニー、トイレ、クローゼットの中……と丹念な点検を終えるとすぐに荷物を持ち、小屋から出発し始めた。
「あーあ、結局褒めてくれなかったか、今でもいいんだぜ」
フェニーはまだ諦めていなかった。
「もう、いつまで戯れ言言ってんの。そもそもそんなキャラじゃないでしょ」
ペガはさっさと話を済ませる。だがフェニーは諦めない。今度はわざとらしく目を潤ませ、羽を垂らして悲しそうな雰囲気をだし、ペガをじーっと見つめる。
「もう馬鹿なことしてないの」
ペガはそんなことには構わず急いで目的地へ向かう。
じーーっ
「ほら、もうすぐ着くよ」
徐々に目的地の丘に近づく。黄色やピンクで染まった花々が美しく咲き誇っていた。優しい風が花一枚一枚を揺らし、ペガ達を歓迎しているようだ。
ペガは前に進むにつれ気持ちが高ぶってゆくのを感じて、心を踊らせる。自然と足取りが軽くなり、口元が緩み始める。
じーーっ
フェニーは諦めずにペガを見つめ続ける。さらに瞳に涙をためて。
だがペガにはフェニーに付き合う余裕などもうないようだ。口元の緩みを必死に抑え、気迫を込めて二人に伝える。いや、伝えるというよりは自身への再確認。これから起こることに喜びのあまり気を失わないための注意喚起と言えよう。
「フェニー、ロス、もう着くよ!」
嬉しさや楽しさ、喜びや開放感が一つになった言葉の塊がフェニーにぶつかる。
しかしもう一人に当たることはなかった。そう……
「ロスがいない!」
じーーっ
「えっと、え? とりあえず速く準備できてすごいすごい……って違う!」
衝撃的な状況のためかペガは思わずフェニーを褒めてしまった。
フェニーは途端に満面の笑みを浮かべる。
「やったぜ、俺は決めたことは最後までやり遂げる男だからな」
フェニーは羽を高く広げ、胸を張り、得意な顔をしている。
「そんなことよりロスがいなくなっちゃったよ!」
ペガはあたりを見回す。だが映るのは一面に咲く花々だけだった。
「とりあえず今来た道を戻るよ。フェニーはこの荷物持って先に行ってて」
荷物を下ろし、体を真後ろに向ける。
「んじゃ待ってるぜ。実は小屋に忘れちまったとかな、ははは」
フェニーは冗談まじりなことを言い、馬鹿みたいに笑い声をあげている。
「一番嫌なパターンだよ」
それに対しペガはおおきく気落ちする。
「それじゃ行ってくるね」
戻ろうとすると花々は必死に行くな行くなと揺れている。だが立ち止まっている場合ではない。
そんなことを考えながらペガは全速力で花道を駆け下りていった。