コメディ・ライト小説(新)

1−前章 5話 『小屋の忘れもの』 ( No.6 )
日時: 2020/12/08 18:25
名前: ノモケマナ (ID: hDVRZYXV)

「いた……」

 どうやら一番嫌なパターンだったらしい。
 小屋の前にはロスが呆然と立っていた。ただ目を閉じて、小屋を見上げている。そこにはどこかもの寂しげな雰囲気が漂っていた。

「もう何してるのロス。早く行くよ」

 ペガは呆れ声でロスに話しかけた。それでも様子は変わらない。じっと小屋を見つめているだけだ、目は閉じている。
 
 ペガは口で大きく息を吸う。そして喉を大きく開き、腹の奥底から大声を──とそのときロスが急に声を出した。

「ペガは寂しくないのか」

「えへぇ?」

 突然の問いかけに吸いこんだ息が変に間延びし、口から漏れた。ここでいつものロスなら笑っていただろう。
 しかし今は真剣な面持ちで話を続ける。元からの穏やかな佇まいが場にさらに緊張感をもたらしていた。

「素敵ではないか。この小屋も、この村も、村の者たちも……。ここを捨てて新しい土地へと向かって本当にいいんだろうか。それでは村の者たちが今まで私らに与えてくれた優しさを仇で返しているようなものではないか」

「ロス?」

 ──ロスの様子がなんだかいつもと違う。大丈夫かな。

「……正直に言おう。私はこの村から出たくないんだ。居心地がとてもいいからだ。だからもうしばらくは……いや、ずっとここに住んでいたい」

「……」

 ペガは言葉に詰まった。どのような声かけをすればいいか分からない。ロスはただ静かにペガを見つめている。そこには哀愁が立ち込めていた。ペガは下をうつむく。

 ──ロスは行きたくなんてなかったんだ。僕が無理やり行かせようとしていたんだ。ロスがそんなふうに思っていたなんて。僕は……

 どんどん負の思考へと陥っていく。ロスはさらに悲しそうな顔をしていた。そしてペガはロスの気持ちを受け入れ始めようとして──

 ──ん? あれ? ちょっと待てよ

「ねえロス、ロスは今何がしたいのかな」

「ん?」

 ロスはペガの問いかけに首をかしげる。
 ペガはもう一度繰り返す。

「ロスはこれから何をしていきたいの」

「だから私はここで平穏に暮らしていきたいと」

 ロスがそう返すとペガは少し黙る。しかしすぐに前を向いた。強い決意を込めて。

「ロス、行こうよ。みんなと一緒に」

 ペガはゆっくりと手を前に差し出す。