コメディ・ライト小説(新)

1−前章 7話 『大丈夫』 ( No.8 )
日時: 2020/12/18 17:00
名前: ノモケマナ (ID: hDVRZYXV)

 僕はもう耐えられなかった。
 失敗ばかりして、いつも怒られる日々に。
 怖かった。
 自分を必要とされなくなることを。

 だから逃げてしまった。二度目。しかも今は……。

《ペガ様、もう少しでパッシュ村です》

 僕はチューオシティから逃げて、今パッシュ村に向かっている。ピーコを連れて。
 
 チューオシティとパッシュ村をつなぐ道は二本ある。今通っているのはその一方。周りには家や店が多くて賑やかだ。
 もう片方の道は何もない。絶マ地だから。唯一あるのは刑務所くらい。
 だからこっちを通ったけど……。

「いらっしゃい」「今日はカレーだって」「最近は大変ですわねえ」「八百屋さんまで競走だ」「あははは、おかしい〜」

 本当に明るい場所だな。

「道、間違えたかな……」

《え? こちらであっていますよ》

「あ、ごめんね独り言」

 活気的なこの道を通るとなんだかさらに孤独感が増す。

《ペガ様、大丈夫ですか?》

「え?」

《なんだかぼーっとしていらっしゃるので》

「ああ、ごめん。大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

 少し前までは本当に独りだった。でも今はピーコがそばにいてくれる。嬉しいけど罪悪感のほうが強い。 僕なんかのそばにいたらピーコも大変なはずなのに……。そうピーコに言ったことはあったけど。

 ──何を言っているんですか。私はペガ様のそばにいたいのです。

 ピーコも独りなのかな。だから僕と一緒にいてくれるのかな。だったらもっといい人がいたらきっと……。

 ──お前はもう必要ない。

「……っ!」

《ペガ様大丈夫ですか!?》

「大丈夫。ありがとうピーコ……本当にごめんね」

 また思い出してしまった。忘れたいのに忘れられない。この言葉に必死に抵抗して頑張った。でもだめだった。

「またやらかしたのかペガ! すぐに片付けろ」「そんなの頼んでないけど」「ありがとねえ、でもちょっと違うかもしれないわ」「さっさとやれ、遅いぞ」「えーつまんなーい」

 えっ? ここでも……。

 ──逃げたい。

 レストランの店長、客、街で会ったおばさん、別のレストランの店長、街で泣いてた女の子。

 ──逃げなきゃ。

 お皿を壊して、間違った料理を出して、頼まれものとは違うもの買ってきて、皿洗いが遅くて、泣き止ませようと変顔して。

 ──みんなが僕を睨んでる。僕の失敗を恨んでる。
 
 ──逃げたい。

 ──逃げなきゃ。

 逃げなきゃ!

《ペガ様!》

 あ……。
 
 何やってるんだ僕。大丈夫。まだ大丈夫。ここではまだ失敗してない。

「ありがとうございました」「えー。人参やだあ」「まあでも夫が言うにはねえ」「家まで競走だ」「あははは、おもしろ〜い」

《ペガ様……。村についたらすぐに宿で休んでくださいね》
 
「ピーコは心配しすぎだよ。まだ大丈夫だから」

《……》

 そうだよ。大丈夫だよ。大丈夫大丈夫。

「あ、村がもう見えるよピーコ」

《はい……》

「楽しみだなあ、どんな場所だろ」

 今度は失敗しちゃだめだ。そしたら……。

《ペガ様、辛いことがあればピーコに相談してくださいね》

「ありがとう、でも大丈夫。ピーコは優しいね」

 ピーコもそばにいてくれる。だから大丈夫。

 大丈夫大丈夫。