コメディ・ライト小説(新)
- Re: 強きおなごになるのじゃ! ( No.9 )
- 日時: 2020/11/20 17:02
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 6.Nua64i)
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その日もまた、桜綾と子豪は離宮に来ていた。今日はあれを話して、それをして。他愛もない話をしながら歩いていた。しかし、離宮に着くと、桜綾は異様な空気を感じ取った。
燈実は複雑そうな顔で、桜綾に言った。
「翠蘭様は、昨日の晩に倒れられました。息も絶え絶えで、もう……」
その瞬間、桜綾は顔面蒼白となった。呼吸が乱れ、胸の辺りを押さえる。
「行こう」
子豪は桜綾の手をとった。一刻も早く翠蘭のもとへ行かねばと思ったのだ。
手遅れになる前に。
2人は走った。ものの2分で長い廊下を走りきり、扉を開けた。
「母様!」
翠蘭は、床に伏せていた。はあはあと苦しそうに息をして、額には汗が張り付いていた。それは運動したあとのような気持ちのよい汗ではない。命を吸い取る汗だった。
「桜綾…来なさい」
桜綾の姿を見た翠蘭は、自分の近くに桜綾を呼んだ。
「良いですか? よくお聞きなさい」
桜綾はポロポロと涙を流し、首を振った。
「嫌です、母様。そんな言い方をなさらないで。まるでもう死ぬと言っているようです」
翠蘭は弱く笑った。
「その通りのようです」
ですがと翠蘭は続ける。
「だからこそ、お聞きなさい」
ごほごほと咳き込みながら、翠蘭は声を絞って桜綾に伝えた。母親として、最後に娘に言葉を残そうとしているのだ。
「強く、強くありなさい。それが母様の願いであり、遺言です」
「強く……?」
「人の世は、残酷です。辛いことはあるでしょう。ですが、立ち止まってはいけません。強く、生きなさい。母様の分まで」
桜綾はその言葉の半分も理解していなかった。しかし、母を安心させるために言う。
「分かりました、母様。私は強く生きます。だから」
そう、言いきる前に、翠蘭は、息絶えた。
美しい日の色の瞳は、2度と桜綾を見ることはなくなったのだ。
「っ……!
母、様」
いやだ。
いやだ。
桜綾が泣き叫ぶその直前。
バンッ
部屋の扉が開いた。
「翠蘭!」
その男は翠蘭を見ると、膝から崩れ落ちた。
「そんな、間に合わなかったのか」
子豪はそれが誰なのか悟り、そっと物陰に隠れた。
「父様?」