コメディ・ライト小説(新)
- Re: 強きおなごになるのじゃ! ( No.11 )
- 日時: 2020/11/29 12:02
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: nnuqNgn3)
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梓宸はそのまましばらく泣き続けた。このように皇帝が感情をさらすところは珍しく、侍女たちもどうしてよいかわからず、ただ不安そうな顔で皇帝を見つめている。
それからまたしばらくした頃、梓宸はおもむろに顔を上げた。
「そろそろ出てきたらどうだ、少年よ」
子豪の心臓がドクンと脈打った。その音はあまりにも大きく、梓宸にも聞こえていたかもしれない。
子豪はあせる気持ちをひたすらおさえ、息を殺した。口を両手で必死におさえ、深呼吸を繰り返す。
この離宮に男である自分がいること。ただの民間人である自分が皇帝らしからぬ梓宸の姿を見たこと。その両方が、梓宸が死刑を迫るに相応しすぎる罪だった。
「出てこいと言っているのだ!」
梓宸が怒鳴った。このまま隠れていても、侍女たちにばらされ、どっちにしろ命はないだろう。ならば、堂々と出ていってやろうじゃないか。
子豪は半分やけくそで、梓宸の前に立ち、そして、跪いた。
「お初にお目にかかります、皇帝陛下。子豪と申します」
これであってるよな? と、内心ヒヤヒヤしつつ、何とかスムーズに用意していた通りの言葉を述べた。
「なぜ、一般の民がここにいる?」
子豪は言葉に気を付けながら、ゆっくりと質問に答えた。
「ふとしたことで、桜綾様と知り合い、ここに連れられました」
「ふとしたこと、とはなんだ?」
「それは、たとえ皇帝陛下でも、口が裂けても言えません」
まさか、盗人と間違えて取っ捕まえたとは言えない。あれは子豪にとって苦い思い出なのだ。いくら後ろ姿が似ていて走っていたからとはいえ、この国の姫を盗人と間違えるとは。桜綾は、自分と仲良くすることを条件に、この件を黙ってくれている。
はじめはそんな理由で一緒にいたが、いまでは気心の知れた友人になっている。が、それも口が裂けても言えない。なぜなら、本来ならばおそれ多いことだからだ。
「我の質問に答えぬとは、いい度胸だ」
ビリビリとした圧を感じる。
「ついてこい」
梓宸はそう言うと、翠蘭の部屋から出た。子豪はゴクリとたまっていた唾を飲み込み、翠蘭の遺体に礼をしたあと、梓宸についていった。
(おれ、どうなるんだろう……)
留まることの知らない不安が、子豪をじわりじわりと支配した。