コメディ・ライト小説(新)

Re: __今、染まってしまえば、本当に成れそうで ( No.2 )
日時: 2020/11/29 19:08
名前: 真朱 (ID: YAHQda9A)

#1 「私は霊媒師になるよ」


「あたしさ、櫻庭家継いで『霊媒師』なりたいんだよね。」

「…は?」


_______ガシャン!

紅虹べにの何も考えていないような爆弾発言に耳は驚き、目は開き…しまいには手からガラスのコップを落としてしまった。

落としてしまった所には___炭酸飲料が。着色料が付いているので色水を零したようになっており、その中で動く泡が少し美しい。

だが、そのせいで床はびしょびしょ。しかし、ここが自分の部屋だったのは幸いだ。もし、ここが紅虹の部屋だったら_______。そして、物音を聞いて駆けつけてきたのだろうか、髪を結った女性の使用人の1人が塵取りといくつかの白い雑巾を手に持って部屋に入って行き、すぐさま儚く光るガラスの破片を片付けた。

「はは…すいません。」

「いいえ、お嬢様。こちらにどうぞお任せ下さい。」

そう申し訳無さそうに私が会釈えしゃくすると、使用人は一礼して静かに戻っていった。


バタン。

ドアが閉まる音が部屋に響いた。




「お嬢様____ねぇ。」

「“お嬢様”、がどうかしたの?」

紅虹は楽天的な顔でこちらを覗いてくる。
彼女は片手に炭酸飲料を軽く持っており、いかにも楽の象徴と言った風貌でこちらを見ていた。

「いや…本当の娘でも無いのにそう呼ばれるなんてやっぱり違和感があると言うかさ。お嬢様って呼ばれるのは紅虹だけでいいと思うし。」

軽く溜息をつく。
溜息をつくと幸運が逃げると言うが、そんなのは迷信に決まっている。もし仮にそれが本当ならば、とっくのとうに不幸になっているはずだ。

「えええ、そんな事?確かに紅優こうは血は繋がってない訳だけど、一応書類上ではウチの娘だし!ほらっ、もっともっと櫻庭の女として胸張りな!」

彼女は私の肩をポンポンと叩く。



…そう。
私は実の娘では無い。

いつだろうか…。私が幼い頃、両親____すなわち私の実母と実父は交通事故で亡くなったらしい。私もその時一緒に居たらしいが、運良く私だけ掠り傷と痣程度の軽症で済んだらしい。そしてその後、私は櫻庭家に引き取られた。

ここ、櫻庭家は、霊媒師の名家であり、数多くの支配人がここで務めている。やはり名家らしく、屋敷は広く、私の部屋でも普通の家のリビングルームほどあるのだ。

_________…私の両親は一体どんな人なんだろう。



「でさー、話の続きなんだけど…ちょっと、紅優聞いてる?」

「…あ。ごめん。で、話の続きだっけ?」


…何でこんな所で私は両親の事を考えてしまったのだろう。

私は使用人によって新しく替えられたガラスのコップを握った。

Re: __今、染まってしまえば、本当に成れそうで ( No.3 )
日時: 2020/11/29 11:55
名前: 真朱 (ID: YAHQda9A)


#2 「話の続き」


「…で、続きなんだけどあたしは霊媒師になりたい訳よ。」

彼女は胸を張る。
ピンと通った背筋からは、『この思いは本当だ』なんて事が垣間見える。

「何で今更霊媒師だなんて。いつもの紅虹らしくないよ。ほらっ、いつも『あたしはあたしの道を行くんだぁ!』なんて言ってたまに使用人に呆れられてるでしょ?それなのに、…何か変な食べ物でも食べた?」

こんな事を楽天家が言うなんて…逆に心配になる。なんだったて、昔から紅虹は流れに身を任せるタイプであったからだ。彼女の口癖は『何とかなるさ』で、テストで赤点を取ろうが、中学生最後の体育祭で負けようが、いつもいつもその一言を口にしていた。

「ちょっとちょっと、あたしはそんなにおかしい人間じゃないんだからさ!変なもの食べようが食べなかろうが、あたしはこの信念を曲げないもんね!」

「…と言うか、何がきっかけでそこまでになったの?」

僅かなきっかけで、そこまでなるのだろうか。
もしかしたら…もしかしたら、この意志は誰かに吹き込まれたのかもしれない。元々、紅新は流されやすい__言い方は悪いが、薄っぺらい性格でもある。

「えーっと、ほのかに後押しされたんだよ。」

「ほのか、に?」

『ほのか』と言うのは、従兄妹の『夏越 ほのか』の事である。同い年で、今は九州の方へ住んでいると言う事だ。

「ほら、あたしは櫻庭家の次女じゃん?紅優には迷惑をかける訳にはいかないし…あたしが霊媒師になればそれでいいじゃんさ!ほのかにも「あんたには霊媒師が天職」言われたし。だからあたしには才能があると思うし。そう、思わない?」

「さあ…。」

言葉が詰まる。切羽詰まる。
この言葉で、今の心情は表せない。まるで口に含んでいた炭酸飲料が、地の底から溢れ出てくるようだ。

「義母さんには、言ったの?」

「まだ。…まずは紅優に言いたかったんだよ。何年間も一緒にいた仲、全て分かち合うのが仲良し言うもん。それにほのかが応援してくれっなら、紅優も応援してくれるかな…って思って。」


「まぁ、私も応援するけど。…本当にそれでいいの?」

「…うん。いいんだよ、それで。」

彼女は無邪気な笑顔をを私に見せた。
紅新のその明るい笑みに、私は何か隠されているかもしれない。

Re: __今、染まってしまえば、本当に成れそうで ( No.4 )
日時: 2020/11/29 19:17
名前: 真朱 (ID: YAHQda9A)

#3 「突然の電話」


3月31日。高校入学まで、残り1週間。
どうやら、中学生で居られるのは今日が最後みたいだ。

何だか心がざわつき、下のリビングへ降りてみるが…誰も居ない。姉さんは夢を追いかけて海外へ、紅虹は友達と出かけ、義父さんは亡くなっており、義母さんは霊媒師として世界中を飛び回っている…。本当にこの家は人が居ない。

そもそも、義母さんは非常に忙しく、私が8歳の頃から顔を合わせていない。彼女は腕利きの霊媒師と呼ばれ、世界中のあらゆる所から依頼が飛んでくると言う。そんな訳で彼女は家におらず、今まで私達の世話は全て使用人がしていた。

また、義姉さんの方は海外に留学しており、今は家にいない。確か…前に言っていたのだが、ファッションデザイナーを目指すために最高峰のデザイナー専門学校に在学しているらしい。

すっからかんとしたリビングで、私は溜息を付いた。



_____________♪プルル♪


電話。
突然何だろうか。

スマホを手に取ると、画面上には『ほのか』と書いてあった。

『もしもし?私だけど。』

相変わらずお気楽な声だ。
…そんな事はいいか。私はそれに応えるように、スマホにむけて口を開いた。

「ほのか?こんな急にどうしたの。」

『ん?いやぁ、この前さ、紅虹が急に『家継ごうかな』って電話で言ってきたんよ。いきなり過ぎてびっくりしたんけど…。あれって本当なん?』

「ああ…あれね。うん、本当になりたいって言ってた。珍しく。」

やはり、彼女も珍しい事だからか、驚いていたようだ。だって、あの紅虹があんな事言うなんて…あまり現実とは考え難い。

『ほぉ、そっか。…いきなりあんな事言うからさぁ。逆に心配なんだわ。』




_______…いきなり、か。


確かにいきなりあんな事言うなんて。

何だかよく分からないが、心の中にモヤモヤが残るばかりだった。

Re: __今、染まってしまえば、本当に成れそうで【改訂版】 ( No.5 )
日時: 2020/11/29 19:48
名前: 真朱 (ID: YAHQda9A)


#4 「深夜の灯に」


「眠れない…」

ただ単に、眠れなかった。
目が冴えて、白い天井を意味も無く見つめていただけ。虚しい光景が、静かに広がっていた。

溜息を付きながら、カレンダーの方へ視線を向けると…見事に明日の欄に赤丸が付けられている。

『入学式』

「…なんで明日なんだろ。」

明日高校に入学するとなると、一気に緊張の波が押し寄せてくる。そりゃあ…今まで中学生だったもの。今まで中学生だった者がいきなり一段落上に行く。簡単に言うと、『何処かの子供』から、『青春真っ只中の少年少女』に移り変わると言うものだ。

単に肩書きが変わるだけじゃないか、なんてきっと誰しも思うだろう。ただ、高校生と言うのはそれだけでは無い。

元々この近くには偏高校がいくつもある。同じ偏差値の高校が複数ある訳なので、より高みを目指す学生達でもはだいたいそこで別れてしまう。そんな訳で、同じ高校に進学する同級生はみるみる減り、残念ながら共に高校生活を送る友人は、陽和…9年来の親友の『辻野 陽和』しかいない。

だが霊媒師目線から見ると、新学期と言う物はよく霊が溜まりやすい季節。就職先や学校での不安や、1つ上の学年に上がった事による下級生からのプレッシャー、見知らぬ人が職場や学校に入ってくる緊張…。こうした精神の不調に霊は入り込みやすい。霊媒師としては少し依頼が増えるのである。

ドタン

私はベットに力を入れた。
…そんな中でも、ただ私は、春の陽気に満たされながら明日を待ちわびていた。

Re: __今、染まってしまえば、本当に成れそうで【改訂版】 ( No.6 )
日時: 2020/11/30 16:56
名前: 真朱 (ID: YAHQda9A)


#5 「目を擦ればセーラー服」


今日は入学式___なのに、眠い。まぶたが重い。
原因は恐らく、昨日はそこまで眠れなかったからだ。何だか足元が少しふらつく。

服装は既に着替えており、いつでも家を出発できる程だ。…ワイシャツは漂白剤に漬けたようなぐらい真っ白。そして紺色のスカートとブレザー。おまけに紅色のネクタイ。ネクタイには、謎のかっこいい紋章が刺繍されている。

「おはよ_______」


少し趣のある階段を降りていき、リビングへ足を運ぶと、セーラー服姿の紅新____だけ。使用人達はまだ寝ているようだ。

「今日、義母さん帰ってくるんじゃなかったっけ。」

やる気の無さそうな声で少しばかり聞くが、「あー…。何か急に依頼が来て帰れなくなったってー。」とぼやけた返事しか帰ってこなかった。




________…今日は入学式なのに。



これが子供の願いである。
どんな時間でさえも、やっぱり一緒に居て欲しい。そう言うものだ。それでもしょうがない。義母さんはとにかく忙しい。義父さん____彼女の夫を亡くして間もない頃だって、悲しみを隠し霊媒師として生きてきた。そこにはもはや、感謝しかない。

この前も言ったが、義母さんは腕の良い霊媒師だ。毎日依頼が殺到し、商売の目で見れば『超黒字』である。だから、いきなり依頼が入るのも日常茶飯事なのだ。

食卓に目を向けると、使用人達が作った豪華な食事。味噌汁、米、ベーコンエッグ、野菜炒め、食後のゼリー_____。何故ここまで朝食を用意するのか…。とりあえずそこは気にせず、私は気怠く頬張った。


Re: __今、染まってしまえば、本当に成れそうで【改訂版】 ( No.7 )
日時: 2020/12/01 17:02
名前: 真朱 (ID: YAHQda9A)


#6 「1時間半前」


7時00…。
入学式まで残り1時間半を切った。

「_____っ。____優。」

何か聞こえる。
何か________

「紅優。」

「…えっ。」

「スマホ。鳴ってる。」

自分のスマホを見ると、何か着信していた。



______…私、こんな時間にぼーっとしてたのか…。

スマホの画面を覗くと、『紅優、そっちの家行くね〜。8時頃に呼び鈴押す。』と言う文字。

どうやら15分前に来たものらしく、発信元は陽和だった。

今は7時50分。
…と言う事は、約束の時間まであと10分程度である。

_______…急がなきゃ。

朝食を一気に食べ終えると、皿をキッチンの方にキレイに置いておき、勢いよく歯を磨いた。

そしてその後、私はかばんも持ち、準備万端。
…と思いきや、紅虹は口を開いた。

「…紅優。少し話があるんだけど。」

少し戸惑う。
そりゃ、約束の時間までもうすぐなのだから。出来るだけ早く済ませて欲しいのだが…。

こちら方向を向いてきた紅新は米を頬張っていて、少し子供っぽい。セーラー服のネクタイは少し緩いし、スカートは「邪魔くさいから」という理由で少し翻されていた。

何か真剣な物を語るのか、彼女は米粒を口に付けながら姿勢を改めた。

あんな能天気な彼女がいきなり、どうしたのだろう。いつものように、奇想天外な行動は飲む事が出来るがここまで改まった表情は___見た事が無い。もしかして、悩みでもあるのだろうか_____

「紅優。もし高校で、良い男子見つけたら紹介してよねっ。あ、私もう出るから。」

「…は?」

そう言うと、彼女は皿を片付けぴょいっと行ってしまった。

やはり能天気なのは変わらない…そう思う途中で、呼び鈴が聞こえてきた。

Re: __今、染まってしまえば、本当に成れそうで【改訂版】 ( No.8 )
日時: 2020/12/01 19:48
名前: 真朱 (ID: YAHQda9A)


#7 「ドキドキしてるからさ」

「ちょっと早くないかな?」

玄関先から軽快に足を運ばせると、目の前には陽和が澄まし顔で立っていた。少しイラッとくるかもしれないが、彼女は憎めないものである。
まぁ、元々。入学式の日は8時前後に集合と言っていたので遅れているわけではないし、早すぎるわけでもない。

「えーっと。なんかドキドキ感ってやつじゃない。ほら。気分が上がるというか。」

「まぁ、支度が終わってたから別にいいんだけど。」

しょうがなく愉快そうな陽和に付いて行く。
何も悩みが無いと言うのは、こういう事なのか_____?

春。
…言わなくても分かるか。辺りは桜一面であり、見惚れるものだった。本当に、白いキャンバスに絵の具が落ちてしまうような____美しさと儚さだった。
辺りを見回すと、やはり高校生たちで溢れかえっている。私はただ不安感を抱えながら、高校の事を想像していた。

話が少しズレるが、『稔川高校』について。
地元では有名な“稔川”流域のすぐ近くにある。
ここらへんでは毎年夏祭りが開かれ、日に日に伝統そのものに成りつつある。
流れは緩やかであり_____いや、緩やかすぎるからか、夏になると子連れの大人や小学生の溜り場へと変貌を遂げる。

「もう稔川見えてきたね。もうすぐじゃない?」

陽和が横手にあった稔川を指差す。
その風景はやはりいつも通り。幼い頃、夏祭りで綿飴を買った風景と変わっていなかった。

とにかく、この川。微風が心地良い。
悩みがある時にここへ訪れると、周りの風景が心を包み込んでくれるよう…。そして悩みらしき何かが飛んでいく。この後予定がないなら、ここで一日中過ごしていたい気がある。

「そう言えば、知ってる?稔川の話。」

「稔川の話…?聞いた覚えがないけど。」

地元民の私でさえ知らない。
“話”と言うのは、伝説や言い伝えなのかもしれない。幼い頃から稔川についての話はよく聞いてきた。稔川の周辺には霊が住み付かないとか____4月4日には女性の声が聞こえる_____どれもオカルト関係だが、それしか聞いたことがない。

「知らないの?…ほら、晴れてる日に川の流れが遅いと、良い事があるんだよ。」

「いい事…かぁ。」

彼女を耳にしながら、稔川に視線を向けると晴れ空の下で緩やかな水を流している稔川が見えた。

Re: __今、染まってしまえば、本当に成れそうで【改訂版】 ( No.9 )
日時: 2020/12/02 17:25
名前: 真朱 (ID: YAHQda9A)


#8 「クラスは?」



厳かすぎた入学式。
辺りは驚くほどしんとしており、息の音が漏れるのも申し訳ないくらいだ。高校とあってか、新入生の数はとてつもなく多く、言い方は悪いが『黒ごま』がどっぷり流れているのか____と思うほどであった。

此処、『稔川高校』____『稔川高等学校』は部活動共にイベントが盛んな高校である。最寄駅は『稔川駅』、『新稔駅』…と言う感じであり、他の地区からの生徒も多数入学してくるそうだ。高校の近くにはショッピングモールや有名チェーン店、ゲームセンター、カラオケが多数あり、放課後に友達とブラつく生徒が多い。

偏差値は、平均偏差値からほぼほぼ高い程度。簡単に言えば、偏差値60程度の上位校である。稔川高校はここらへんでは珍しい公立であり、だいたいの中学生がそこを志望校として選ぶようだ。それだからか、同じ中学の仲間と新学期早々テンションを上げていく生徒も結構居るらしい。

________新入生結構居るな…。


今年の新入生は、なんと310人越えであり通常の新入生より20人ほど多い。クラスの数は6クラスらしい。








入学式も遂に終わりを遂げると、新入生の雪崩はクラスが書かれた掲示板へ向かっていった。この状況、どの視線で見ても混んでいるとしか思えず仲良しと同じクラスになった___ならなかったで嘆いたり喜んだりしている生徒が何人か居た。

「紅優____。」

振り返ると、陽和が手を振っていた。
そしていつの間にか私は、磁石に引き寄せられるように彼女の元へ向かっていた。

「ごめん、ちょっと混んでてはぐれた。入学式の席、何処だったの?」

陽和の近くにつくと、まずは声を発した。
すると彼女はこっちを見て、口を開き始めた。

「2列目の1番左。紅優はどうだった。」

「ん…1番後ろかな。ちょっと見えにくかった。…あ。そう言えばクラス名簿確認した?」

「まぁ、一応。5組。そっちは?」

陽和が尋ねる。
このクラス発表のドキドキ感は毎年一緒だ。この容赦ない体験を小学1年生の頃からやってきたのだが…まだ慣れない。

私は恐る恐る、掲示板に近付いた。

Re: __今、染まってしまえば、本当に成れそうで【改訂版】 ( No.10 )
日時: 2020/12/05 17:30
名前: 真朱 (ID: YAHQda9A)

#9 「見たくないけど見たいんだけど…」


掲示板。
ここには、クラスごとの名簿が

「紅優?」

「____あ。ごめん、ボッーとしてた。」

陽和は心配そうにこちらを見つめてきた。
彼女は私よりしっかり者である。きっと彼女なら、新しいクラスで友達が居なくてもすぐさま作ってしまうだろうに_____。

「まだ見つかんないの?紅優って前の方じゃない?」

「あっ。そっか…。」

気が動転したのか、上の方ではなく下の方を見てしまっていたようだ。気を取り直して、左端の1年1組から名前を見ていく。




_____… 担任 津野 真理 
青木、新井、新木、飯塚、井口、江原、大野、金森…………………。

艷やかな目を動かしても、まだ見つからない。
それに『お』から『か』へ移り変わっているということは、このクラスに私はいないという訳である。

そして横にズレて2組。
そもそも出席番号1番目から『か』で始まっている訳であり、ここにも____いない。

更に横にズレて3組。
岩城、小野、加濃…。これまた居ないのである。
そもそも、『櫻庭』なんて結構目立つものなのだからすぐ見つかるはずなのだが_____。

「と言うか、今何組まで見た?」

「…3組。」

弱音を吐いてもしょうがない…。
そんなでは、毎回新学期に心が潰れてしまうであろう。そして残念ながら、こんな苦しい塊と、社会人になるまで闘わなければならないのだ。

「____じゃあ。4組飛ばして5組のとこ見ればいいじゃん。」

「…は?」

「時間の無駄だし。いいんじゃない、それで。」

そのような肝を潰すことなど出来るのだろうか。
しかし、早く結果を知りたい気持ちもあるし早く教室へ向かいたいという気持ちもある。

私は覚悟を決めて、5組の欄に目を飛ばした。

『5組 担任 日田 香音 …鵜飼、卯月、恩田、櫻………………』


その瞬間、何かが抜けたような気がした。

『櫻庭 紅優』

Re: __今、染まってしまえば、本当に成れそうで【改訂版】 ( No.11 )
日時: 2020/12/05 17:30
名前: 真朱 (ID: YAHQda9A)

#10 「メモだけだった」


今日はメインイベントはクラス発表だけだった。だがその後、各生徒教室に入るというものがあった。だが…教室に入ったものの、教室においてあったアンケート用紙に記入しただけだった。

その後、私は陽和と共に自宅に帰ろうと思ったが残念ながら中学時代通っていた予備校へ挨拶_____と。予定があるらしい。少し残念だが、今日は1人で帰ることにした。

高校生ではあるけれど、独りで帰るなんて少し寂しい。それだからか、私はいつもより小走りで自宅へ足を早めた。

本当なら放課後、高校近くの“稔通り”に身を寄せるというスケジュール稔通りと言うのは、数々の店が集まるもので、言わば『繁華街』のようなものだ。だが独りで行くのもアレであるから、通りではなく自宅側に方向転換せざるを得なかった。私は少し息を吐き、通り側を見てみると、案の定賑わいを見せていた。その光景からまは、少し羨ましさを感じる。







「ただいま_____。」

「お帰りなさいませ。」

玄関で靴を脱いでも、使用人の声の他に何も聞こえない。…紅新がいるはずなのだが。少し疑わしさを感じた足取りで、リビングに向かうと_____もぬけの殻だった。

紅虹が気に入っているソファにも、いつもアイスクリームを漁っているキッチン付近にも、人気ひとけは全くしなかった。

「あれ、紅虹はどこへ行ったんですか?」

「さあ…分かりませんが、帰宅するなりすぐお外へお出かけになりました。」

「ああ…そうですか…。」

__________…使用人も分からないのか…。

要件も伝えないで外に出るなんて、珍しい。紅虹はいつも要件を伝えてから外へ出るのに…。

「あれ…紙…?」

辺りを見回していると、偶然紙を見つけた。




『ちょっと友達と遊んでくる 紅虹』