コメディ・ライト小説(新)
- Re: もう一度。 ( No.2 )
- 日時: 2021/01/10 20:25
- 名前: ∴夏みかんの妖精 (ID: f.iAZwEP)
プロローグ
私に、ちょっとの勇気があったなら。
こんな結末は、変えられることができたのだろうか?
『中学3年生 卒業の日』
「おめでとう!告白はどっちからしたの?」
「いいなぁ!二人とも美男美女でお似合い~」
「高校に行ってもお幸せに~!」
教室に入ると、窓側の方から甲高い声が聞こえてきた。その声の中心に居る二人を、私はもう知っている。
「へへへ…。皆ありがとう。これから二人で頑張っていくぞ……なんちゃってっ」
私の親友___私の中では、もう親友だった人___の東雲華蓮が、緩みきった笑顔で皆に答える。まわりからは、どっと笑いが起きる。
私が席につくと、華蓮は私を見つけたようでこっちに駆け寄ってくる。彼氏の南昴と共に。手を繋いで。
「あっ、香澄!おはよう!そして卒業おめでとう!!」
いつものように明るい彼女が挨拶してくる。その声でさえも今の私の心には辛くのし掛かる。
「___おはよう、華蓮、南くん。今日皆に伝えたんだ。そのこと。」
作り笑いで二人に対応する。『そのこと』と隠して、繋がれた手を指さす。
「そうなの。でもさ、ありがとうね。いろいろ相談に乗ってくれて。香澄が居てくれなきゃこうやって告白する勇気もでなかったよ。さすが親友!」
そう言って華蓮は笑う。
「そうだったんだ。じゃあ北野さんはキューピッドだね。」
南くんも笑う。
ズキン、と心が痛む。そう、あれはそう遠くもない過去のこと。
『中学3年生 7月上旬』
「放課後、時間があったらあの公園で待ってて!」
そんなことが書かれた紙切れを受けとり、通学路の近くにある公園で待っていた。学級委員会が長引いているのだろうか、華蓮はなかなかやってこない。
「ごめん!待たせてるのに…。委員会長引いちゃって…」
予想的中。さすが親友って言うのかな…?息を切らしてジャージ姿の華蓮は現れた。
「大丈夫!てか、今日は改まってどうしちゃったの?こんな手紙なんか書いちゃってさ。」
ポケットからさっきの紙切れを出し、理由を問いただす。すると華蓮は急に真面目になって言い出した。
「…香澄。これは香澄にしか相談できないことなの。」
初夏の生温い風が吹く。なんだか嫌な予感がする。____予感だけなら良かった。
「私ね_昴のことが好きなんだ。」
「……え…?」
正直、信じられなかった。しっかりしていて恋愛にも興味なさそうな華蓮が、どうして。
しかも…密かに想いを寄せていた、南くんに…。
「どうして…」
声には出ていないと思っていた心の声は少しだけ漏れていた。
「もともとは塾が同じなだけの転校生…としか思ってなかったんだよね。だけどさ、関わっていくうちに…さ。」
と語尾を濁らすように話した。続けて、
「香澄は……私と昴のこと……どう思う…?」
と私の目を捉えて離さない。
なんで、そんなことするのだろうか。
私は気が弱くて、こういう質問が苦手ってこと知っているくせに。
____本当は「私だって好き」と言いたかった。
だけど、言えなかった。『気が弱い』から。
「いい…と思うよ。お似合いだよ。親友として応援するよ。」
目線を逸らして、そう言った。応援するしかなかった。もうここに居たくなかった。
「そう……。」
何故か、華蓮は悲しそうな顔をしていて。その表情だけが印象に強く残った。
_______
そんなことが脳裏によぎった。私はこんな最低な人間だから。二人に、笑顔を向けられる権利なんて…ない。だから、
『キューピッド』として、二人から離れよう。
「___おめでとう、二人とも。」
そんなことでしか私は二人を祝えなかった。
- Re: もう一度。 ( No.3 )
- 日時: 2021/01/16 16:36
- 名前: ∴夏みかんの妖精 (ID: f.iAZwEP)
二人から離れる。
そう決めた私は、なるべく二人に近づかないようにと、他の友達と写真を撮った。
「香澄、写真とろ!」
華蓮のその言葉にも気づかないふりをした。
__いつのまにか写真フォルダには、いつか華蓮たちと撮った枚数よりも多い数の写真が保存されていた。
______________
リビングにいる母に顔も出さず、私は部屋に入った。
私は、なんて、最低なんだろうか。
『私は気が弱いから』なんて言い訳をして、信頼するべき親友に本当の気持ちも伝えられないでいて、それでいて親友が悪いなんて都合よく解釈するなんて。
華蓮は、気を使ってくれていたじゃないか。あのときだって、私の気持ちを聞きたいから、あのとき問いかけてくれたんだ。だけど、私は自分の気持ちを押し殺した自分勝手な偽善者だ。
私は……どれだけ自分勝手で我が儘な人間なのだろうか。
これじゃあ親友失格だよ。南くんにも釣り合うはずもない。
流れ始めた涙は止まらない。幼児のように、感情があふれでる。
「ごめ…なさ……か……れん…。」
独り言だけれども謝る。謝らないと気が済まない。そんなことで許されることなんてないのに。
よく回らない頭で、こんなことを考え付く。思っちゃいけないし、絶対起こるはずないとは考えていても。
_____もしも。
『あの時』からやり直せたなら、私は何か変われていたのだろうか?
ああ。
「神様。」
もしも…
「もしも、願いが叶うのなら。」
「もう一度、もう一度だけ……。」
「南くんと出会ったあの日に戻れたら、いいのに。」