コメディ・ライト小説(新)
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.2 )
- 日時: 2021/03/16 13:29
- 名前: 狼煙のロコ (ID: hDVRZYXV)
『#私の朝は変わらない!』
「野花ー、もう学校行く時間だけど大丈夫なのー?」
「もう行くよー」
ドアを通貫してくるお母さんの声に、私はいつもみたいに五字の返事をする。
「忘れ物しないでねー」
「分かってるよー」
はぁ……、うるさいなあ。まったく、小学生じゃあるまいし。
私は少し頬を膨らませてみせた。
バッグを肩に掛け、部屋の時計を見る。
7時10分
毎日見る数字だ。カチカチ、と無機質な音を立てるこの時計は、次私に見られるまでに、また同じ位置まで二本の針を走らせるんだろうね。
……無限ループってこんな感じなのかな。
そんなことを考えて今日も部屋の扉を開く。そこにはお母さんがいた。
「あ、野花。ほら、ハンカチとティッシュ」
これもいつもと同じ。そしてハンカチとティッシュの柄を見ると……、
「やっぱり女郎花か」
「やっぱりってなによ、キレイじゃない」
「主張が激しいんだよなあ」
そう、激しい、激しすぎるんだよ! ちっちゃくて可愛いらしいはずの黄色い女郎花、それがハンカチとティッシュにすき間なく敷き詰めてプリントされてる。しかもどアップで!
ここまでくると、もはやただの真っ黄色ハンカチでしかないよ。
これをお母さんが作ったと聞いたとき、あまりのショックで日曜は学校に行けなかった。
「もぉー、そんな嫌味な性格じゃだめよ」
母はぷくーっと頬を膨らませる。
自分で言うのもなんだけど、さすが親子だなあ。
「それじゃ行ってくるね」
「気をつけてね」
昨日と同じ挨拶を交える。そして玄関ドアのノブに手をかけ……。
──あっ!
「忘れてたぁあああああ」
「何よ、急に大きな声出して……」
毎朝の習慣、一つ忘れてた。絶対忘れちゃだめなのに。
私は靴を脱ぎ、急いで自分の部屋に戻る。
机の引き出しから、ひょっこり顔を覗かせる男の子の人形が見えた。
私の愛しの推しだ。
「ああぁ……、ごめんね六間くん、忘れてたよ」
暗い雰囲気を纏うその人形が、なんだか悲しそうに見える。
二度とこんな過ちは繰り返さないようにしよう!
お母さんは何事かとやってきたけど、すぐになんだとため息をつく。
「六間くんに挨拶してなかったのね、ちゃっちゃとしちゃいなさい」
「うん!」
「それにしても野花ってほんと物好きよねぇ、私は紫ちゃんが好きよ」
「別に誰が好きだろうが私の自由でしょ! あとお母さんの推しは知ってるし。いつも話してるじゃん」
「ふふっ、どの口が言ってんだか」
やれやれとでも言いたげに、お母さんは手のひらを上に向け、首を横に振る。
っと、お母さんに構ってる余裕はなかった。すぐに六間くんに行ってきますの挨拶をしなければ。
六間くんをぎゅっと手でハグして、最高の笑顔を贈る。
「行ってきます。六間くん」