コメディ・ライト小説(新)
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.11 )
- 日時: 2021/04/16 19:34
- 名前: 狼煙のロコ ◆g/lALrs7GQ (ID: hDVRZYXV)
『#私たちからは逃げられない!』
ふふっ。あの子はいい仕事するわねえ。
まあ、『会長』くんに選ばれたんですものね。それなりの働きはしてもらわないと。
それじゃ、あの子の活躍を会長くんに報告しましょうか。
手に持つスマホの画面を見る。そこには四人の女の子たちが仲睦まじくはしゃいでいる様子が写っている。
ふふっ。可愛そうに。あなたが推しを隠していなければ、こんな面倒くさいことにはならなかったのよ。
ねえ、大柴 野花ちゃん。
スマホをカメラから、通話の画面へ切り替える。会長くんに電話をかけようとしたが、ちょうど向こうからかかってきた。
ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ
ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ
スマホから発せられる可愛らしい小鳥のさえずり。私と会長くんの間でどんな会話が繰り広げられるのかも知らずに、ただただ無垢に、純真に鳴き続ける。
ピヨピヨ、ピ──
こんなに健気で愛おしい鳴き声も、私の人差し指一つで残酷に断たれる。いつか私に用がある人が現れない限り、小鳥はもう一度歌うことを許されない。
まあ、そんなことどうでもいいけれど。
早速、スマホに向かって唱える。
「他人の秘密は百合の味」
これが、組織の一員であることの証明となる合言葉。この言葉を唱えない限り、会長くんと話すこともできない。
「もしもし。俺だ。何か進展はあったか」
「ええ、あったわ。それも大きな」
ああ、会長くんの低音ボイスはいつ聞いてもいいわあ。痺れちゃう。
「詳しく」
もお、せっかくのかっこいい声も使わなかったら、宝の持ち腐れなのに……。
会長くんは口数が少ない。そのおかげでこの組織が部外者にバレず、三年間も守り続けられたのでしょうけど、それでももったいないと感じてしまうわ。
「どうやら今週の日曜、夕星駅前のアニメイトに行くらしいわ。ここまで絶好のチャンスもないわね。で、どうするの? 確実に仕留める?」
イエスの返事を期待していた私だったが、会長くんからは意外な返事が返ってきた。
「いや、今回は一年生に任せる」
「え? それはなんで」
「……俺たちはもう三年だ。もうすぐで卒業もする。今のうちに教育をしておかないと、この組織が潰れてしまうだろ」
へえ、会長くんったら自分が卒業した後もこの組織があり続けて欲しいのね。さすが。
でもそれだけなのかしら?
「他に理由はないの?」
「もちろんある。お前も知っている通り、今年は未公表派の一年生が多い。その分この組織に入るのも増えたがな」
「ええ、そうね。そうしないとこの組織の活動が、思うようにいかなくなってしまうものね」
私たち組織は、未公表派の推しを暴く活動をしている。だって、わざわざ夕星高校まで来て、推しを秘密にするなんて……その裏にはすごく面白そうな事情がありそうじゃない。
まあ、あくまで私の考えだけれど。会長くんの真意は分からないのよね。
会長くんは話を続ける。
「それでだ。もしも初っ端から二、三年生が一年生の推しを暴きに来たらどうなる。他の奴らに不審がられるだろ」
「あら? 今までもそうだったんじゃない? まさか気づいてなかった? ふふっ」
「……」
あらあら黙っちゃって。かーわいい~。まあなんだかんだで、この組織は守れているんだから大丈夫だとは思うけれどね。三年生になって不安になったのかしら。
「まあいいわ。要するに一年生に任せればいいんでしょう」
「そうだ。指揮は俺が執るがな」
「分かったわ。それじゃ私は引き続き情報収集をするわね。大柴 野花ちゃんの件はよろしくねぇ、会長くん。ふふっ」
「ああ、それじゃ切るぞ」
会長くんは終始淡々とした口調で話し続けて、通話を切った。
それにしてもまだ六月なのにねえ。野花ちゃんはほーんと可愛そう~。
後はあなたの運よ。頑張ってね。ふふっ。
そういえば、会長くんが期待の新人が入ったとか言ってたわね。もしかしたら……ふふっ。楽しみだわ。
私はもう一度、野花ちゃん含めた四人の女の子たちの写真を見てから、スマホをバッグにしまった。
そのまま、次に推しを暴く子を誰にしようか考えながら、家に向かう。