コメディ・ライト小説(新)
- Re: 推しはむやみに話さない! アニメイト編開幕! ( No.13 )
- 日時: 2021/06/15 00:28
- 名前: 狼煙のロコ ◆g/lALrs7GQ (ID: hDVRZYXV)
『#前萌ちゃんは分からない!』
「みんな早いよね~。まあ~。推し会議だもんね~」
「そうそう。みんな推し会議大好きだからね。もちろん私も! 前萌ちゃんも早く行かなくていいの?」
私は明るく笑顔で前萌ちゃんに接する。
まあ、険悪なムードにはしたくないし。何より、推しを暴こうとしてるなんて、私の思い込みかもしれないからね。
前萌ちゃんは小さく笑った。まるで私の言ったことがおかしかったかのように。
改めてこの子の顔を見てみる。
丸く整った顔。キメの細かい肌。ほのかに赤い頬。薄い桃色の瞳……。
くっ! 割と可愛い。私が言える立場じゃないけど……。
あと特徴的なのは髪型だろうか。少しくせ毛の茶髪。ボリュームがあり、髪で小さなリボンを四つも作っている。
くっ! ちょっと可愛い。
制服の首元に花のブローチがついている。何の花だろう? 分かんないけど、まあ……可愛いね。
なんてこった。やっぱり推しを暴こうとしてるなんて私の思い過ごしで、本当はただ可愛いだけなのか?
「ね~。そんなにじろじろ見てど~したの~」
前萌ちゃんがクスっと笑いながらこちらを見てくる。
「いや。なんでもないよ!」
「え~~。そう言われると逆に気になるな~」
「いや、ほんとに大したことないから」
前萌ちゃんは口元をにやつかせ、顔を近づけてきた。
冷や汗が私の頬をつたう。
「まあ、いいや。ごめんね~急に呼び止めちゃって~」
前萌ちゃんは私から離れて、身体ごと後ろに向けた。
ふぅ。危なかった。もし君可愛いね~なんて言ったら最後。ドン引かれからの険悪ムード発生だ。
うん。やっぱり前萌ちゃんは可愛い! 私の推しを暴くなんてことしない! 二十回くらい、いやそれ以上に暴こうとしていた感あったけどそれでも違うはず。
私が敏感になってただけだ。
そう考えるほうがこの先、楽だよね。
私が心の中で自己完結していると、前萌ちゃんがまたこちらを振り向いた。
まだ何かあるのか、わざとらしくにやけている。
「それじゃ、あんまり話せてないけど、推し会議に行こっか~。紫ちゃんのこと、いっぱい語ろう~」
「そういえば、前萌ちゃんは永音派だったね~」
「そ~。ていうか野花ちゃんは紫ちゃんを名前で呼ぶんだね~。珍し~~」
目を大きく開いて、意外そうな顔をしている。まあ、理由なんて単純なんだけど。これくらいは言ってもいいかな~。
「あー。それは──」
「まあ、いいや」
おん? また「まあ、いいや」カットか。地味に傷ついたぞ前萌ちゃん!
“まあ、いいや”。やっぱり言わないほうがいいのかもしれないし。
前萌ちゃんは続ける。
「それより野花ちゃんの推しは~~。えっと~~~~。なんだっけ~?」
あっ……。
「未公表だよ」
自分でも怖いくらいに無機質な声だった。
やっぱりこの子は。
「そうだった~~~。まだ公表してないんだ~~。へ~」
前萌ちゃんは一歩二歩と軽快に、また私に近づく。
「ねえ。それってずっと言う気はないの~?」
「ないよ」
今、この子また笑った。悪質な笑い。心の中が思わず表に出たんだろうか。
だけど、ぶりっ子の腹黒とかそういうのではない。実際ぶりっ子じゃないし。
よく分からない。分からないけど、一つ言えるとすれば、
この子は絶対に何かを隠している。
「ね~ね~。それって野花ちゃんにとっても、大変だしつらいんじゃない~?」
「ないかな」
「同士と推し語り合えないんじゃな~い?」
「そうだね」
「独りぼっちな気持ちにならな~い?」
「ならない」
前萌ちゃんに色々質問される。それに対して私はイエスとノー。その二つをまるで、ロボットのような口調で乱用していた。
「そっかそっか~。色々聞いちゃってごめんね~。あ、さすがに時間やばいかな~。私そろそろ行くね~~。またね~~」
あ、終わったんだ。
「うん! バイバイ!!」
私は前萌ちゃんからのお別れの挨拶を聞いて、すぐにそう言った。
それもとびっきりの笑顔で。毎朝、六間くんにしているように。
教室から走って出ていくのに大きく手を振る。
うーーーーーーん!!! スッキリしたーーーー!!
私も早く行こっと。
前萌ちゃんが出ていってから、少し時間が経ってから私も教室を後にした。
中央階段で三階まで上って、第三多目的室に向かう。
少し遅れちゃってる? いや、時間は大丈夫、なはず!
第三多目的室の前に着いたので、まずは一息ついた。
そして、扉を思いっきし、開ける!!
「こんにちはーーーーー!! 大柴 野花。ただいま参上です!!」
ふっ。今日も決まった。これが陽キャってやつやで。
しばらく自惚れていると、奥から男の先輩が歩いてきた。
「おーおー。元気だなー。野花」
「こんにちは! 柊先輩!」
この人は三年、柊 真夜先輩。未公表派の代表だ。
柊先輩は歯を出してニーッと笑う。すごく、清々しい笑顔だ。
それから先輩は手を叩いて、みんなに大きな声で告げる。
「よし! 野花来たから、推し会議始めるぞーー」