コメディ・ライト小説(新)

Re: 推しはむやみに話さない! ( No.15 )
日時: 2021/06/07 18:13
名前: 狼煙のロコ ◆g/lALrs7GQ (ID: hDVRZYXV)

 『#ここが大好きで仕方がない!』

 ひいらぎ先輩の合図と同時に、未公表派のみんなが待ってましたと言わんばかりに雑談を始めた。

「なあなあ! はじめも『草木の町人』の最新話読んだっしょ?」
「おやおや太一たいちくん。それは愚問だね。僕は、『草木の町人』博士だよ? どんな情報だって一番に嗅ぎつけるのさ」
時幻じげん様がちょーかっこよかったっしょー!!!」
「まさか、強敵五人をもまとめて蹴散らしてしまうとはね。彼の意志には僕も痺れてしまったよ」

 太一たいちくんとはじめくんは時幻じげん様の話をしていた。二人ともとにかくはしゃいでいてなんだか可愛い。
 はじめくんは、今週の話の伏線なんかも語っている。
 時幻じげん様派のりりり先輩もこんな感じなんだろうか。いや、それ以上だな。
 興奮したりりり先輩を、周りのみんなが落ち着かせようとしている様子を想像すると……わ、笑わずにはいられない……くくっ。

「なに笑ってんの気持ち悪い」
「あ、ごめんごめん未来みくちゃん。思い出し笑いっていうか、今想像笑いっていうか……くくっふふふ」
「気持ち悪い以上に怖い」

 前髪で両目を隠している未来みくちゃんから、冷たい視線を送られていることがなぜだか分かる。
 やめて! そんな目で私を見ないで!

「まいいけどそれより話ってなに?」

 未来みくちゃんは言葉の間に間髪入れずに、私に質問をぶつけてきた。
 そうだ、話をするって言ったんだった。いっけね~忘れてた~。てへぺろりん!
 
「えっとさ。キキから日曜日にアニメイト行くの誘われた?」
「誘われたけど断った一人で行くから」

 まるで当たり前のようにそう言った。まあそりゃそうだ。未公表派だからね。誰かと一緒に行ったら推しがばれてしまうだろう。私が言えないことだけどね。
 そう軽い相槌を打っていると、もう一人の女の子が割り込んできた。
 なんと私の憧れし陽キャの中の陽キャ。くるくるパーマの久留くるちゃんだ。

「えー! 未来みくちゃん断ったのー? 一緒に行った方がいいって。キキという恋人がいるし」
「それはキキが勝手にそう言ってるだけ」
「冷たいこと言わないのーーー。本当は嬉しいんでしょう。このツンデレめ」
「うざいうるさいやかましい」
「おやおや否定はしないのかな? つまり……ふぉっふぉっふぉ」
「……ちっ」

 未来みくちゃんから飛ばされる罵倒に久留くるちゃんは物怖じせずに、ひたすらに誘い続ける。
 さすが久留くるちゃん! これが陽キャのウザ絡みっすね! 私も見習うっす!
 私も未来みくちゃんを誘うぞ!

「そうだよ未来みくちゃん! みんなと一緒に行った方が楽しいって!」
「そういうあなたは推しがバレない様にする方法でもあるの?」
「ふふん。一応ね」

 そう。あるんだよ。推しがバレない方法。なんてったって夕星ゆうずつアニメイトなんだから。今から私が説明して進ぜようぞ。

夕星ゆうずつアニメイトは広いでしょ? つまりお店の中じゃみんな別行動になるんだよ」
「でも結局一緒に帰るんでしょその時に何買ったか聞かれたり見られたりしたらどうするわけ」
「大丈夫! みんな優しいから!! そんなことしないって」
「雑で単純」

 そう。雑だ。単純だ。でもこれでいいのだ。実際いつもこれでなんとかなってるし。
 私の説明に久留くるちゃんもうんうんと頷いていた。

「のーちゃんの言う通りだよ。私も一緒に行くからさー。ねー行こうよー未来みくちゃん。キキとアニメイトデート楽しみなよー」
「もう分かった一緒に行くから」

 久留くるちゃんの強い後押しがあってか。未来みくちゃんは半ば諦め気味にOKをした。
 
「ってことでー。私と未来みくちゃんも一緒に行くから。よろしくのーちゃん!」
「オッケー」

 さすが久留くるちゃん! まさか未来みくちゃんにお誘いOKさせるなんて。しかもさりげなく自分自身も行くことにしてる。やっぱすごいっす! 私も見習って未来みくちゃんを、YESマンならぬOKガールにしてみせます!

「おやおや。君たちも日曜日アニメイトに行くのかい。奇遇だね。僕も太一たいちくんと一緒に行くんだよ。もしかしたら会えるかもしれないね。楽しみだ」

 聞き耳を立てていたのか。はじめくんが細やかな笑みで近づいてそう言った。太一たいちくんも後ろで手を振っていた。
 そうか。やっぱりみんな推しの梅雨コスは欲しいんだよね。こりゃ急がないと、目当ての物が売り切れちゃうかな? つってね。まあ私は大丈夫だろう。

 それにしても……。

 周りを見ると、みんな楽しそうに話している。本来あるはずの推し会議は、自分たちの推し派を増やす計画や今後の推し関連イベントの出し物を決めるものだとかえでが言っていた。
 ここではそんなことをしない。みんなが自由にこの時間を過ごしている。この高校に入ってわざわざ未公表派に入るなんて、みんなの冷たい視線に晒される。そんな風に思っていたけど、思ったより全然楽に過ごせるのだった。

 本当にこの高校に来てよかった。

 そして、これからも、こんな風にのんびりと過ごせたら良いなと思う私であった。

 うん! 日曜日のアニメイトは本当に楽しみ。かえでにキキに小麦ちゃん。さらに未来みくちゃんに久留くるちゃんも一緒に行くことになった。もしかしたら当日はもっと色んな子に会えるかもしれない。

 よっし! 六間むつのまくんのグッズ、沢山買うぞーーーーー!!!

 
 しばらくして、今日の推し会議も終わりを迎えた。