コメディ・ライト小説(新)

Re: 推しはむやみに話さない! ( No.16 )
日時: 2021/06/16 18:42
名前: 狼煙のロコ ◆g/lALrs7GQ (ID: hDVRZYXV)

 『#今日は苦も雲もありゃしない!』

 ああ、今日はどうしてこんなにも清々しい気分なの。
 空には雲一つなく、一面が青く染まっている。太陽も華やかに輝き、私の心をポカポカに暖めてくれる。今が梅雨の時期だなんて到底信じられない。
 とにかく今日は最高の日なのだ! なんてったって、そう。ついに来てしまったのだ。
 今日は、六月二十日、日曜日の今日は……

「みんなとアニメイトに行く日だーーーーー!!」

 ああ、なんて甘美な響き、アニメイト。これほどまでに心を躍らされるなんて。
 足元がいつもより軽い。リュックも軽い。六間むつのまくんグッズを中に大量投入するため!
 逆に重いのは私の財布! お年玉を解禁したんでね、ええ。

 今日の私、本気ですよ?

 っと、そろそろ待ち合わせ場所の夕星駅に着く頃だ。時間は問題なし。この新品の腕時計があれば、私は無敵だ。一秒の狂いもないし、それに可愛い。なんと『草木の町人』の女性人気投票で一位、二位、三位の永音えいね美知留みちるちゃん、双葉ふたばちゃんがデザインされているのだ! 
 去年の私の誕生日の、お母さんからのプレゼントである。だが、私が六間むつのまくん推しだと知っていての行為だったから、今でも少し複雑な気分だ。

 まあ、今日はそんなこと気にせず、楽しむぜぇ。

「おーーい! のーちゃーん!!」

 前からかえでの声。見ると、駅の前で大きく手を振っていた。私もそれに答えるように手を振り返す。
 その後、私が駅まで全速力で走ったことは言うまでもない。

「はぁ、はぁ。おまたせ」
「おはようのーちゃん! そしてお疲れー」

 かえでの軽い笑いに続き、三人の声も耳に入ってきた。

「お、おはようございます。大柴おおしばさん。大丈夫ですか」
「まあ、のっちーなら大丈夫でしょ。はいはいおはよー。元気出してこー」
「おはよう」

 小麦こむぎちゃんに、キキに、未来みくちゃん。みんな来るの早くね? あとは私の陽キャ師匠、久留くるちゃんが来てないのか。
 ビリにはならなくて良かったと安堵していた私だったが、かえでからすぐに衝撃的事実を告げられた。

久留くるちゃんは今日急用で来れないんだって。うぅ、残念」
「し、仕方ないですよね」

 まあ、一緒に行くってのも急だったし、こういうこともあるんだろう。けど、これは本当に偶然に急用が入ったからなのか。もしかしたら。
 私は、未来みくちゃんの方に視線をやる。うん、やっぱり怒りのオーラが出てるね。知ってた。

「私を釣るなんていい度胸」

 小さくそう呟いた未来みくちゃんに飛びついたのは、キキだった。

未来みくーーーー!! 今日は来てくれてありがとう。嬉しいよお!! 久留くるに協力してもらって本当によかったー。聞いたよ聞いたよ。私と一緒にいるの、いつも最高に嬉しいんだって!? まさかそんな風に思ってくれてたなんて……。ああぁ。神様、仏様、久留くる様。感謝感激ヤマアラシ。あいらぶゆーー未来みくーーーー!」
「そんなこと一言も言ってないベタベタくっつかないで離れて」

 キキが過度の愛情アタックを繰り返し、未来みくちゃんが冷たくあしらう。いつもと同じのどかな風景だ。
 小麦こむぎちゃんはまだ慣れていないので、慌てふためき、頑張って止めようと試みていた。しかし、次第にパニックに陥り、リボンを大きく揺らしながら、地面にへたり込んでしまったのだった。それをかえでは大きく笑いながらただただ見ていたのだった。

 ま、なんだかんだで賑やかで、楽しい友達だ。だが、駅前で行われている喜劇を、周りの視線に耐えながら見るほど精神は図太くないので、私が幕を下ろしてやった。

「それじゃ、アニメイトにレッツゴーゴー!」
「おーー!」

 楓の掛け声に合わせ、みんなで空に拳をあげる。

 つっても、アニメイトは目の前にどでかく建ってるんですけどね。