コメディ・ライト小説(新)
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.18 )
- 日時: 2021/07/28 19:40
- 名前: 狼煙のロコ ◆g/lALrs7GQ (ID: hDVRZYXV)
『#美知留ちゃんのコーナーになかなか辿り着けない!』
ほえー。やっぱり夕星アニメイトはすごいなあ。一つのエリアの一階だけでも、こんなに広いなんて。
今私がいるのは、夕星アニメイトの五つのエリアの一つ、フィギュアエリアの三階。
ここに美知留ちゃんの梅雨コスを買いに来た訳だけど、なかなかそのコーナーに辿りつけない。人がごった返しているからだ。なんせこの階は美知留ちゃんともう一人、双葉ちゃんがいるのだ。
まあ『草木の町人』の人気女性キャラ二位と三位だし。一緒の階にしてボロ儲けという大人のわるーい魂胆だろう。
一人で一つの階を牛耳る一位の永音はやっぱし別格ということか。
まあ、愚痴なんて言っても仕方ないか。少しずつ近づこう。
にしても、美知留ちゃんのコーナーに進んでいる間、特にすることがない。せいぜい出来ることと言えば、今流れている『草木の町人』のアニメのOP曲を聴くくらい。
アニメイト内にいくつも設置されている大きなスピーカーから、女性の歌声と共にかっこいいメロディーが響いている。
さすが神曲、聴き飽きることがない。中毒性があるよね。とある小学校の給食の放送で一週間連続で流れたほどだし。
ん?
突然、曲が途切れた。
ええぇ~。サビ入るとこだったのにー。萎えるよーもう。
これには思わずため息が漏れてしまう。と、思っていたその時、スピーカーからアナウンスが流れた。
《ただいまより、館外の夕星駅前にて、『草木の町人』の緊急生ライブを開催いたします。その準備のために、各エリアの一階を使わせていただきます。館内におられるお客様にはご迷惑おかけしますが、二十分以内に館外に出てもらうようお願い申し上げます。商品のご購入に関してはまた後ほどお願い致します。繰り返します……》
えーーー! は、早く行かないと! オタクたるもの、グッズより生ライブを優先させるべき、だもんね? 楓たちもすぐ来るよね。と、とりあえず入り口に戻らなきゃ。
あまりにも衝撃的な内容だ。周りもざわつき始めている。
「おい! 特等席取るぞ! 急げ急げ」
男性のその言葉によって、人だかりが一気に外に走り向かっていく。
ああ、押し流される~~~~。
私はすぐに横に飛び出て、荒ぶる人波から抜け出した。
はあ、危なかったぁ。押しつぶされるかと思ったよ。これがほんとの人波ってやつ?
にしても、あっという間に人がいなくなっちゃった。今なら普通に美知留ちゃんの梅雨コス買えそうだけど、ダメなんだよね。
もう、ビッグウェーブに乗り遅れちゃったよ。しょうがない。とりあえず入り口に行こう。みんなに怒られちゃうかな……。
私はエスカレーターに小走りで向かう。全速力でいかないのは私の性格の悪さだろうか。少し卑屈になっているのだろう。
そんなことを思いながら、顔を前に向けると、なんと驚くべき人がいた。
「え……未来ちゃん?」
「どうしてあなたがここに……」
目の前にいるのは確かに未来ちゃんだった。前髪で両目を隠しながらも伝わる冷たい目線が論より証拠というやつだ。
少し気まずい間があった。
そして、先に口を開けたのは未来ちゃんだ。
「まさか私の推しを暴くつもり?」
「え、いやいやいや。そんなことないって。偶然だって!」
未来ちゃんはわざとらしくため息をつく。
もしかして怒ってらっしゃる?
「ご、ごめん。まさか同じとこにいるとは思わなかったもんで」
「……」
未来ちゃんは何も言わずに黙っている。
そ、そうだよね。未来ちゃんはここに来るのにわざわざ遠回りしてるんだよね。近くのエスカレーターを使わないで、わざわざ反対側のエレベーターを使って。
それだけ、誰にも推しをバレたくなかったってことだ。なのに今私は、未来ちゃんと鉢合わせてしまった。
そりゃ未来ちゃんは怒るよね。そもそも私が一緒に来ようと誘ったんだし。
ああ、どうしよう!
私はとにかくこの雰囲気をどうにかする何かが欲しかった。
そして、その想いは叶った。
一人の女の子の叫び声によって。
「モモちゃーーーん! シシちゃーーーーん! どこですのーーー!!」
あれ? どこかで聞いたことあるような声とセリフ。誰だっけ?
思考停止した私の頭の中では、それが一番に思いついた。