コメディ・ライト小説(新)
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.23 )
- 日時: 2021/09/18 15:02
- 名前: 狼煙のロコ ◆g/lALrs7GQ (ID: hDVRZYXV)
『#ローリエちゃんは髪を意地でもなびかせない!』
「心してお聞きなさい! わたくしの名前は姫宮ローリエ。あなた達と同じ夕星高校に通う美しきレディーですわー! この神秘たる美顔に敬服いたしなさい!」
ローリエちゃんは何事も無かったかのように得意げに決めポーズをしている。
そして美しいっていうより可愛い……。思わずぷにぷにしたくなるその丸い小顔が、ローリエちゃんの幼さを強調している。
その顔を覗き込むように、私は足を一歩前に出す。するとローリエちゃんは、ニヤリと不気味な微笑みで自ら顔を寄せ返してきた。
「あらあら、わたくしの美貌につい釣られてしまいましたの? いいですわ。お顔のお近づきの印に差し上げましょう1ファサア!」
「1ファサア!? 何なのそれ!」
私は目の前のローリエちゃんに小声で質問を投げかける。
そんな私を、ローリエちゃんは手のひらで静止させて、口元を私の耳に近づけた。
「ファサア」
オーマイローリエ! なんたる破壊力なの1ファサア! そのあどけない容姿からは想像できない艶やかな天使のささやき!
だめ、ここで屈しちゃう……。
「っていやいやローリエちゃん。さっきも言ってたじゃんファサアって! 髪をなびかせながら! 肝心のなびかせ要素は何処へ? 擬音語だけ残してどうすんの! 髪をなびかせないファサアなんて、空のプッチンプリンをプッチンするのと一緒だよ!」
私は右足を一歩引いて、腕を振り上げ、なびかせアンコールを繰り返す。
ローリエちゃんはそれを聞いて、上目づかいで右手のひらを勢いよく差し出した。
「その勢いだけは認めますわ。いいですわ。差し上げましょう4ファサア!」
その言葉と同時に執事さんから深い拍手が送られた。
「おめでとうございますぞ野花様! あの日本ファサア協会、通称NFKの会長を務めているで有名な姫宮財閥の長女、姫宮ローリエお嬢様から4ファサアも貰えるなんて! 4ファサアは、1スペシャルファサアと交換できますぞ!」
「ス、スペシャルファサア……! お願いします!」
普通のファサアでもあの破壊力なのに、スペシャルとまでなると一体なにが!
緊張のあまり、私の喉が大きく唾を飲みこむ。
ローリエちゃんは再び私に近づき、耳打ちを放った。
「ファサア……ファサア…ファサア…ファサア…」
お、おお……オーマイローリエ! まさかのエコーかよー! 確かにあちこちにスピーカーあるけどー。
「す、すごい。ファサアにエコーが……」
「エコー? 違いますわ。これは腹話術ですわよーー!」
「えーーーー何のために!?」
「面白いからですわーー!」
これもう腹話術の域超えてない? すごい響いてるんだけど!
それはそうとして。
「あのー、髪なびかせは無いのでしょうか?」
ローリエちゃんは一瞬、間を置く。そして、はっきりと言った。
「それは有料会員向けですわー!」
「無料会員の壁!」
そんなのって無いよ! あんまりだよ!
私は大きく膝を落として、この非情に対する失望をめいいっぱいに表現する。そんな私の背中を執事さんが優しくさすってくれた。
すると、しばらく黙っていた未来ちゃんが、私に冷たい言葉を浴びせてきた。
「なにしてるの早く立って」
「未来ちゃんが急に鬼監督になった……」
「そんなことよりライブどうするのみんな待ってる」
「あ!」
わ、忘れてたー。楓達ずっと待ってるかもしれないし急がなきゃ!
未来ちゃんもやけに焦ってる感じだし、そろそろローリエちゃんとのおふざけも止めにしないとね。
「ローリエちゃんごめん! 私たち早くライブに行かなきゃいけないの。ローリエちゃんも一緒に行かない?」
私はローリエちゃんに微笑みながら誘ってみせる。
ローリエちゃん面白いし友達になりたいしね。
でも、返答は返ってこなかった。
ローリエちゃんは横にいる執事さんに話しかける。
「しつ。そろそろ準備は整いましたの?」
「……はい。お嬢様、本当にいいのですかですぞ? 後には引けませんぞ」
「構いませんわ」
え、なに。何を話しているの。
何やら悪い予感が背筋を凍らせる。
すると、私の左手が誰かに握られた。
未来ちゃんだ。
「逃げるよ」
「え? それってどうい──」
私が全てを言い切る前に、未来ちゃんは私を引っ張り走り出す。
向かう先は前に見えるエスカレーター。
しかし、さっきまで周りにいた黒服の人達が、私たちを阻んだ。
「どういうこと!? 状況が理解できない!」
私は今、ここで何が起きているかを理解するのに精一杯だ。
だが、なぜか未来ちゃんは、この場に置いても冷静さを保っているようで、周囲を見渡している。
そこに生まれる沈黙。
……。
そして、ローリエちゃんの返答は遅れてやってきた。