コメディ・ライト小説(新)
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.24 )
- 日時: 2021/09/25 16:24
- 名前: 狼煙のロコ ◆g/lALrs7GQ (ID: hDVRZYXV)
『#すぐに真実は言わない!』
コツン
厚底の靴から発せられる軽やかな音。
その音の高鳴りに、胸の鼓動が早くなる。
「ライブのお誘い感謝しますわ。野花さん」
ローリエちゃんのドレスがゆっくりと揺れる。
「でも、私がライブに行く意味は無いんですの」
金色の髪が小さく浮かぶ。
「それは、とある二つの目的でここに来たからですわ」
「目的?」
コツン
また、靴が床を叩く音。
気づくと目の前には、ローリエちゃんが無機質な笑みを浮かべて立っている。
そして、右手を前に突き出して、人差し指を立てた。
「一つ、そもそも今日このイベントを開催しているのは、私たち姫宮財閥だからですの。つまり、運営を任されていますのよ」
あ、そっか! 運営を任されている以上ライブなんて見てる暇ないってことか。こんな大人数で来ているのも納得だ。
「なるほどー。それで、二つ目は?」
明らかに変わっている空気感。私はそれを感じ取りながら、もう一つの目的とやらを聞いた。
ローリエちゃんは続ける。今度は人差し指に加え、中指も立てた。
同時に私の手に強い感触が伝わる。
見ると、未来ちゃんが私の手を握っていた。
なんだか少し震えているような。大丈夫かな?
「二つ、それは……」
私は未来ちゃんの手を握り返す。
大丈夫。きっと。
ローリエちゃんはゆっくりと息を吸った。そして、そのまま言葉を発する。
「モモちゃんとシシちゃんを探しに来たからですわーーー!」
「なるほどぉ?」
ローリエちゃんが元気な声で腰に手を当て、なぜか威張っている。
でもまた明るい空間に戻った気がした。
それにしても、なんだそんなことかー。変に心配し過ぎちゃったかな。
私に絡まる緊張の糸は綺麗にほどける。その安心感から、胸を撫でおろす。
そういえば、モモちゃんとシシちゃん探してるって……。
「もしかして、盗まれたプレミアグッズまだ見つかってないの?」
「その件はもう解決しましたわ! もちろん犯人は社会から抹殺させていただきましたわ。おーほっほっほ」
ローリエちゃん。めっちゃ悪い顔してて怖いよ。
「ってことは、今日は単純にグッズを買いに来たってこと?」
「ええ、今日という日をどれほど楽しみにしていたということか。ああ、愛しのモモシシちゃん。あなた達のグッズは買いつくしてあげますわよー!」
「わかるわかる。モモシシちゃん良いよね! 頑張ってね」
モモちゃんとシシちゃん。『草木の町人』のキャラであり、鬼胡桃 双葉ちゃんによって作られたぬいぐるみ達だ。
双葉ちゃんは『自分の作ったぬいぐるみに生命と感情を与える』能力によって、この二人を可愛がり、共に戦っている。
モモちゃんは兎、シシちゃんは虎。通常はぬいぐるみのままだけど、戦う時は獣化する。
そして、双葉ちゃんは最初敵キャラで、主人公達をかなり苦しめるんだよね。
でも、本当はすごく優しい子で戦いたくなんてなくて。自分の存在意義を見失っちゃってたんだっけ。それを見つけるために敵の手下になってたんだよね。
最初の戦いでは双葉ちゃんは不利になって結局逃げちゃうけど、二回目では見事仲間に引き込むことができるんだよね。そしてその時の主人公の名言が……と、自分の世界に入り込んじゃった。
いけないいけない。
そういえば、私はまだ未来ちゃんと手をつないでいる。
もう大丈夫だとは思うけど……。
私は未来ちゃんに笑顔を見せてみる。
でも、まだ未来ちゃんの手の震えは残っている。本当にどうしたんだろう。
「未来ちゃん、大丈夫? もしかして暑くて調子悪いとか」
「……大丈夫」
未来ちゃん、いつもより口元に元気がないよ……。
「それよりあなたはいいと思うの?」
「え、何が?」
「みんながライブに行ってる間にローリエさんはグッズを買おうとしている」
「た、確かに! それは同じオタクとして許せないような」
私はローリエちゃんのほうをまた向く。
すると、ローリエちゃんはギクッと、一歩足を下げた。
「そ、それは……」
「ローリエちゃん! ローリエちゃんが運営側だとしても、やっぱグッズを買う権利はみんな平等であるべきだよ!」
「ギクギクッですわ!」
私がローリエちゃんに軽く文句を言ってる時だった。突然未来ちゃんは言った。
「ローリエさんその茶番はもうやめて」
「え? 未来ちゃんどうしたの」
「あなたまだ気づいてないの?」
え? どういうこと?
ていうか……。なんでみんな急に真顔になってるの?
あれ、またこの妙な雰囲気。
「あら、どういうことですの? 未来さん」
ローリエちゃんは小さく首をかしげながら、不敵な笑みを浮かべていた。