コメディ・ライト小説(新)
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.26 )
- 日時: 2021/12/30 13:08
- 名前: 狼煙のロコ (ID: hDVRZYXV)
『#さすがにこれは落ち着けない!』
「わたくしがここに来たのは、最初からあなた達の推しを暴くためだけですわ。ねえ? 『未公表派』の野花さんと未来さん」
「え、モモシシちゃんのグッズを買いに来たっていうのは?」
「嘘、ですわよ。わたくしはあなた達の推しを暴く、ただそれだけのためにここに来た。それだけのために今日のイベントを開催しましたの。すごいでしょう? これが姫宮財閥の令嬢の力ですわ!」
私たちの推しを暴くためにこのイベントが開かれたって。え、え、え?
こんな大勢の人が集まるイベントの発端が私たち?
どうして? 意味が分かんないよ!
「えっと、つまり......ローリエちゃんは、私たちは......だから......それは」
私はただ頭を抱えて、自分でもよく分からない言葉をぶつぶつと呟くしかなかった。
そうでもしないと、思考が完全に停止してしまう。
そんな私を鼻で笑って、ローリエちゃんは続ける。
「さらに、あなた達二人だけをアニメイトの中に残すためにわざわざライブまで開いてさしあげましたのよ。おーっほっほっほ!」
「ライブに向かう人波から私たちを押し出したのはローリエさん達ね」
私とは正反対に、未来ちゃんは冷静さを保っている。
どうして、そんなに平気でいられるの?
「あら、大正解ですわ。人波に流されるあなた達二人が近づいたら、人波から押し出し、鉢合わせをさせる。そしてわたくしが野花さんにぶつかることで、ここにとどめる。あとは、茶番で時間稼ぎをして、推しを暴く邪魔者がいないかを確認するだけですわ」
「じゃあじゃあ、運営のために、アニメイトの中に人がいないかの確認っていうのも嘘なの?」
言葉に出してから気づく。自分の質問が的外れであることを。
「愚問ですわね。中に人がいないかの確認は、運営のためでもあり、邪魔者の排除のためでもありますのよ」
「あ、うん......」
完全に冷静さを失っている。私はとりあえず、深呼吸をした。
落ち着いて、落ち着いて。
「ふぅう、はぁあ」
そんな私を見てか、またローリエちゃんはクスクスと笑っている。
「混乱してしまうのも無理ありませんわね、ふふっ」
私はとにかく深呼吸を続ける。
すると、私の背中に温かい感触が広がった。とても落ち着く。
見ると、未来ちゃんが私の背中をさすってくれていた。
「落ち着いて」
相変わらず低く冷たい口調だった。でも、なぜか、逆に安心してしまう。
「ありがとう、未来ちゃん。もう大丈夫だよ」
小さく笑ってみせる。だが、未来ちゃんは特に反応を見せず、そう、と一言呟いて、手を離した。
私はじっとローリエちゃんの目を見て、言った。
「どうして、そんなことをするの?」
そんな純粋な疑問が私の口からこぼれる。
私の推しがバレれば、キラキラな高校生活がまもなく終わりを告げる。
そしてまさに私の、いや、私たちの推しを暴こうとする存在が目の前にいる。
この妙な静けさのある空間の中で、一人だけ微笑んでいる。それも無邪気な幼い子供のように。
そして、あどけない笑顔を保ったまま、ローリエちゃんは言葉を返した。
「簡単に言えば、『復讐、そして恩返し』ですわ。あなた達がこの意味を知る必要はありませんわよ」
幼い笑顔には似合わない言葉が並ぶ。意味は分からないけど、それはいい。私が聞きたいのは一つだけ。
「それは、本気? 心からの想い?」
「ええ。嘘偽りの一つもございませんわ」
ああ、本当のことを言っている。ローリエちゃんの目を見れば分かる。とてもまっすぐな瞳だ。でも、『無理やりにそうさせられている』ようにも見えた。
私にはそれがなんだか分からないけど、ローリエちゃんが、自分から本気だと言っているんだ。私はそれを信じるしかない。
そして、ローリエちゃんが本気なら、強い意志があるなら、私はそれを受け入れる。
「分かった。で、どうやって、私たちの推しを暴くつもりなの?」
「あら、急に物分かりがよくなりましたわね。まあいいですわ。推しを暴くと言っても、ただ脅すだけでは面白くありませんわ。だから、とあるゲームを考えてきましたの」
「ゲーム?」
なんだか、すごいことになりそうだ。
未来ちゃんは最初から予想がついてるっぽいけど。
私はローリエちゃんに耳を向ける。
すると突然、ローリエちゃんは髪を大きくなびかせて、左手を腰に当て、右手で私たちを指さし、靴で床を叩く。
さらには大きく息を吸い、とびっきりの決め顔で、言葉を放った。
「あなた達には、私たちとアニメイトで、鬼ごっこをしてもらいますわ!!!!」