コメディ・ライト小説(新)

Re: 推しはむやみに話さない! ( No.29 )
日時: 2022/02/05 16:11
名前: 狼煙のロコ (ID: hDVRZYXV)

 『#それでも未来ちゃんは受け入れない!』

「ちょっと待って」

 ローリエちゃんの言葉の直後、未来ちゃんが言った。

「わ、わたくしの折角の決めゼリフが!」

 今の決めゼリフだったんだ......。

 決めゼリフに横槍を入れられて悔しいのか、大きく頬を膨らませている。
 ついさっきまで存在した闇のようなものは、完全に消え、幼さと可愛さだけがローリエちゃんの顔に残っていた。

「私はあなたのゲームに参加するなんて一言も言っていない」

 確かに、ローリエちゃんが推しを暴くことを受け入れたのは私だけ。
 未来ちゃんはアニメイトに誘った時から一貫してそれを嫌っている。

「第一私たちがゲームに参加する理由がない」

 未来ちゃんの言う通りだ。私たちがローリエちゃんのいうゲームに参加する意味は全くない。
 嫌だと言えばそれでいいのかも知れない。無理やり暴くなんてことも出来ないと思う。

 ただ、ローリエちゃんにその言葉は想定済みらしい。
 ローリエちゃんは上目遣いでこちらを見つめて言った。

「んー、まあ、至極当たり前な考えですわね。むしろ野花さんが簡単に受け入れたほうが驚きですわ」

「ローリエちゃんが本気で推しを暴くつもりなら、私は受け入れるよ」

 私は正々堂々と立ち向かうことを伝える。ローリエちゃんも私に強い意志を返した。
 未来ちゃんにはそれが信じられないようだ。

「私は野花のように甘くない下手な茶番には付き合えない」

 そりゃそっか。未来ちゃんが嫌ならそれでいいと思う。そもそも今、未来ちゃんが巻き込まれているのは私のせいなんだ。だから私一人が頑張ればいい。

 そんなことを考えていると、突然ローリエちゃんは笑った。わざとらしく、大きな声で。

「おーっほっほっほ! 未来さん。確かにあなた達がゲームに参加するメリットなんてないですわ! なら──参加しなかった時のデメリットを作ればいいだけですわ! おーっほっほっほ!」

 デメリット? どういうこと?

 可愛らしい声から発せられる残酷な言葉に、未来ちゃんの口がわずかに開いていた。
 だがどうやら、私のほうが激しく焦りを見せていたらしい。

「あらあら野花さん。あなたはゲームに参加するのですから、そんな慌てる必要はありませんわよ?」

「ロ、ローリエちゃん! デメリットは私が受けるから、未来ちゃんは解放してくれない?」

「野花......」

 私が誘ったせいで、未来ちゃんの推しが暴かれるなんてことあっちゃだめだ。

 未来ちゃんが何か言おうとしたが、その前に私が言葉を放つ。
 
「未来ちゃん大丈夫だよ! 私一人でも頑張るから!」

 その時だった。ローリエちゃんが私にとびっきりの笑顔を見せた。

 もしかして私のお願い、聞き入れてくれたのかな!

 だけど、その希望はすぐ裏切られることとなる。

「あら、野花さん。未来さん一人がデメリットを受ける心配なんて必要ありませんわ。デメリットを受けるのは、今日このイベントに来た人達、全員ですのよ! 『デメリット、みんなで受ければ痛くない』ですわね!」

「へ? どういうこと?」

「これもまた簡単な話ですわ」

 そう言って告げられたデメリットの内容は、あまりにも簡単とは言い難いものだった。

「あなた達がゲーム参加を拒否すれば、今日は誰もこのアニメイトに入れない、ライブも緊急終了。要するに今日のイベントは、お・し・ま・いですわ!」

「そ、そんな......。そんなのって!」

「嫌なら未来さんもゲームに参加すればいいだけですわよ。そうすれば今日のイベントは大成功ですわね!」

「み、未来ちゃん。どうする?」

 そう口にしてから気づく。今の私の言葉には、『未来ちゃんにゲームに参加してほしい』という意味が込められていることを。

 私は、未来ちゃん一人よりも、今日アニメイトに来た多くの人を優先させた。
 それが私の結論なのだ。
 友達に対して、あまりにもひどいことを言ってしまった。

 そうして自分を心の中で戒めながら、それでも私は期待してしまう。
 未来ちゃんの『イエス』の一言を。

 私は、私は最低だ......。
 
 未来ちゃんは考える素振りを少しも見せずに、そしてはっきりと言う。

「私はゲームに参加しない」