コメディ・ライト小説(新)

Re: 推しはむやみに話さない! ( No.31 )
日時: 2022/05/30 13:47
名前: 狼煙のロコ (ID: hDVRZYXV)

 『#ルール説明は短くない!①』

 私たちはローリエちゃんと執事さんに連れられ、エリアを移動した。ここは……。

「ファッションエリア?」
「はい。ここで背後鬼を行いますぞ」

 ここでは『草木の町人』に登場する服やアクセサリ、キャラそのものがプリントされたもの、キャラそれぞれが持つイメージカラーやモチーフの植物に沿ったものなどが売られている。
 忘れてしまいそうだけどここはアニメイトだ。

 それにしても、前に来たときと比べて内装がなんか変わってるような?
 単純にイベントの日だから?
 あと、周りにずっと黒服さんたちがいて怖い……。

「それではルールの説明を致しますぞ」
「は、はい!」

 緊張のせいか、私は思わず背を伸ばしてしまう。
 未来ちゃんは相変わらず落ち着いていて、とても頼もしい。

「未来ちゃんも参加してくれてありがとうね」
「別にいちいち気にしないで」

 相変わらずの低い口調だ。もしかしたら未来ちゃんには別の参加動機があるのかもしれない。それでも、ゲームが終わったら巻き込んじゃったことをもう一度ちゃんと謝ろう。
 そのためには絶対に勝たないとね。

「早速お二人にあれを」

 執事さんがそう言うと、私の右横にいた黒服さんが黒くて小さなシールのようなものを渡してきた。未来ちゃんも別の人からもらっている。

「それを手の甲に貼って下さいですぞ」

 私と未来ちゃんは言われた通り、右手の甲に黒いシールを貼る。
 一見ただのシールにしか見えないけど。

「それは超高性能センサー。お二人の背中がタッチされるとそのセンサーが感知しますぞ」
「すごい本格的!」
「当然ですわ! 財閥パワー見せつけたりですわ!」

 ローリエちゃんがどやどやとしたり顔をしていた。
 これが、財閥……!

「まずこの背後鬼の特殊なところは、鬼と逃げる側の区別がないことですぞ。つまり互いに互いを追いかける、鬼しかいない鬼ごっこということですぞ」

「うーん。でもそれだと鬼ごっこが成り立たないような? 鬼同士が近づいたらただ手を伸ばしあって、先に相手に触れたら勝ちってなるだけだし。それに人数的に考えてもそっちが圧倒的有利です」

「そうならないようにしているのでご安心をですぞ」
「ご安心をですわ」

 執事さんとローリエちゃんが一緒になって腰に手を当て、得意気になる。

「まずこれは背後鬼。つまり相手の背中をタッチしなければいけませんぞ。さらに、相手をタッチする前には『タッチ!』と声に出さなければいけませんぞ。この条件で相手をタッチするには」

「不意討ちするしかない」

 未来ちゃんが答えた。
 なるほど! 背中からしかタッチできないから相手を正面から追えない。たとえ相手の背後に回れても、声を出すタイミングが早すぎたら、相手に振り向かれてタッチできなくなっちゃうんだ。
 頭イイー。

「一度『タッチ!』と言ったら、二秒以内に相手をタッチをしなければなりませんぞ。その後三十秒経つまでは、もう一度タッチすることも出来なくなりますぞ」
「無論、その間は『タッチ!』と言っても無意味ですわ」

 いつのまにかローリエちゃんも一緒に説明する流れになってる。
 なんか面白いルール説明だ。

「何度も連続でタッチすることはできないってことね」
「その通りですぞ」「ですわ!」

 やっぱ不意討ちしか方法がないのか。

「ちなみに、不意討ちの方法は?」
「自分で考えなさい!」
「ですよねー」

 うーん。どうすればいいんだろう?
 私は大袈裟に首をかしげて見せたが、問答無用でルール説明は続く。ひどい!

「ちゃんと『タッチ!』と声にしたのか、背中に触れたのか。それを確認するのがそのシールのセンサーですぞ」

 私は改めて自分の手の甲のそれを見る。

「こんなにちっちゃいのにすごい」
「財閥パワー見せつけたりですわ!」

 これが財閥……!

 どうやら執事さんとローリエちゃんの手にも同じものが貼られているようだ。

「一定以上の声量を出せばそのシールが青に変色しますぞ。それから二秒以内に相手をタッチできれば、館内の至るところにあるスピーカーからブザーが鳴りますぞ」

 ああ、やけにスピーカーが多いと思ったらそういうことだったんだ。

 執事さんに言われ、私は試しにやってみる。

「タッチ」

 ……反応しない。いつも通りの声の大きさだとだめらしい。

「タッチ! あっ」

 少し声量を上げると、黒いシールが青くなった。すご!
 私は急いで執事さんの背中をタッチした。すると……。

《ビッビーーーーーー》《ビッビーーーーーー》
  《ビッビーーーーーー》

 近くのスピーカーから一斉にブザーが鳴った。
 
「す、すごい!」
「ちなみに、私たちがタッチされたときはビッビーと二回鳴りますが、野花様と未来様がタッチされたときはビーと一回鳴りますぞ。もちろんセンサーは本人の声以外には反応しませんぞ。未来様のシールは青くならなかったでしょう?」

「ええ」

 未来ちゃんが小さく頷く。どうやら不正はできないらしい。

「……と。これが『基本』ルールですぞ。要するに声を出してから相手の背中をタッチするだけですぞ」
「以外と簡単そう? でも、私たち二人でローリエちゃんと執事さん、それに黒服さんを相手にするんだよね。うぅ」

「ああ、お二人が相手するのは実質二人。お嬢様と私ですぞ」
「え? そうなんですか?」
「ええ。ペア戦ですぞ」

 え、本当にフェアなゲームなの?
 いや、まだなんかありそうだなあ。

 だってローリエちゃんも執事さんも二ヤついてる。

「えっと、周りの黒服さんたちは?」

「彼らは」
「黒ずくめの組織ですわーーーーー! 正解はいつもおぉ!」
「お嬢様、違いますぞ!」
「間違えましたわ。失敬失敬ですわ! 見た目は大人! 頭脳も大人! その名もぉ!」
「だから違いますぞ! お二人とも申し訳ありません。お嬢様はテンションが上がっておられるのですぞ」

 執事さんが手を端正にパチっと鳴らすと、ローリエちゃんは我にかえる。

「……少し興奮してしまいましたわ」
「大丈夫だよ。ローリエちゃんといるだけで楽ししいし」
「えっ……」

 はっ! 今はローリエちゃんとは闘う相手なんだ。私おかしなこと言っちゃったかも。でも、本心だし。

 あっ! そうだいいこと思い付いた!

 ややっ! みんな私のほう見てる! と、とりあえず。

「説明の続きをどぞ!」
「このお人好し」
「あ、あはは」

 未来ちゃん視線が怖い……。目見えないけど。