コメディ・ライト小説(新)

Re: 雨が降り続ける世界で、猫と少女は傘をささずに走る。 ( No.1 )
日時: 2021/06/08 06:59
名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ ◆GHap51.yps (ID: 0bK5qw/.)

 1 ユキが喋った

 ザー……ぽつ………ぽつ……
 雨の音が少し遠くに聞こえる中で、少女――アメはテレビを見ていた。
 皿洗いを終えた母親が、アメに話しかける。
「アメ、歯磨きちゃんとした?」
「したー」
「そう。じゃあ早く寝なさい。もう十時よ?」
「えぇ!? いーじゃぁん、これ結構前から楽しみにしてたんだよ?」
 と後ろを振り返り、眉間にしわを寄せつつそう言う。
「録画してあるからいいでしょ? 早くユキと一緒に寝なさい。明日学校なんだから」
「あっ!」
 持っていたリモコンを取り上げられ、テレビを消され、更にアメではまだ手が届かない高いところにリモコンを置かれてしまった。
「お母さんのバカ!」
「はいはい、早く寝なさい」
 仕方なしに膝に寝かせていた猫のユキを抱っこし、子供部屋に向かう。ガチャリと扉を開け、イライラした気持ちをぶつけるように、バン! と大きな音を立てて扉を閉める。
 ユキを枕の辺りに寝かせ、一度扉まで行ってから走ってベッドに飛び込む。ユキを抱き上げ、話しかける。
「ユキはお母さんが悪いと思うよね?」
「にゃぁ~」
「なんて?」
 何度か、ユキの言葉を理解しようと、本を探してみたものの、そういう本は漢字ばっかりで、九つのアメには分からないものばかりなのだ。よって、一度諦めてみることにした。
 ――今日は、雨で外で遊べなかった。誕生日に買ってもらった、可愛い傘は大好きだけれど、雨は少し嫌いだった。
「……明日は晴れるといいなぁ……てんきよほーあたれこんにゃろう……」
 窓が雨で濡れているのを見ながら、アメはゆっくり目を閉じた。

   ☂

 ピチャッ……ポタ……ザーザー……
 ――また、雨……?
 憂鬱な思いを抱えながら、ゆっくりと体を起こす。
「……ここ、どこ?」
 視界がハッキリしてくると、ここが家じゃなく、外で、全くもって見覚えが無い場所だということが分かった。服もパジャマからワンピースに変わっており、靴まで履いていた。更に、手にはお気に入りの傘まで握られていた。
「あ、ユキ」
 アメの寝ていた隣で、ユキも寝ていたことに気が付いた。声をかけながら、お腹の辺りをつつく。ようやく起きると、気だるそうに背中を伸ばしながらこう言った。
「うるっさいにゃぁ……ボクは猫だよ? 猫は寝るもんにゃの……」
「ユキが喋った」
 いつもにゃんにゃん言っているのに、今はハッキリと、人の言葉で、ユキが話している。これは、アメにとって、衝撃な出来事だった。
「ハァ? ボクが喋るわけにゃ……」
 そこまで言って自分の手を見、次にアメを見て、そしてまた自分の手を見る。
「……喋ったよ?」
「喋ったにゃ」
 驚いた様子のユキに、アメは思わず吹き出した。
「アハハ! ユキが喋るなんて変なの!」
「にゃんだとぉ!? ……てか、ここどこにゃの?」
 アメに飛びつき、ひっかいてやろうかと思ったが、やっと今いる場所が家じゃないことに気付き、アメに問いかける。
 少し、楽しい気分から、急に悲しい気分に引き戻される。
「……分からない。どこだろうここ」
「す、少し歩いてみるにゃ!」
 暗い顔になったアメを励ますためか、ニコリと笑ってそう言うユキ。
「うん、そうだね。誰か人いるといいけどなぁ……」

 次回、ずっと雨。次の話も読んでください! よろしくお願いします!