コメディ・ライト小説(新)

Re: 閻魔の娘が人間界を観察するそうです。 ( No.5 )
日時: 2021/09/20 13:24
名前: 柊 (ID: r306tAcU)

第5話 『なにかを忘れているような?』


会話が終わったあと、光は慎を家へと招き入れた。
どうしても食べされたいものがあるらしい。
「……それで、一体何を食べさせてくれるのじゃ?」
慎は楽しみそうにして、目を輝かせた。
そんな様子を見て、光はクス、と笑うと冷蔵庫からケーキを取り出した。
「ケーキですっ、慎さんに是非食べて貰いたいんです!」
「けーき?」
慎は聞きなれない言葉に首を傾げる。
そうだろう。彼女は地獄の姫。言わば箱入り娘さんなのだから。
慎は恐る恐るケーキを口へと運ぶ。
「……!」
その瞬間、慎の顔がみるみる明るくなった。
「美味しい~!」
「良かったぁ……」
食べるなり黙ってしまい、口に合わなかったのかと光は心配していたが、慎の表情や振る舞いを見て安心した。
「こんなに美味しい物が人間界にはあるのか!」
慎は感激のあまり、若干涙を流した。
「これから色々食べさせてあげますからね!」
光はケーキを美味しそうに食べる慎を見て、他の料理も食べさせたいと思ったらしい。
慎も、「是非食べたいのじゃ!」と笑顔で頷いた。



_楽しい時間はあっという間。もう外は暗くなっていた。
「慎さん、また来て下さいね」
光は名残惜しそうにしつつも、慎を送っていた。
「勿論じゃ、また明日な」
慎も笑顔でそう言うと帰路へ着いた。
潜入初日、色々な事があった為か、慎はあくびをした。
「ふぁ………姫であってもやはり眠くなるものよの」
その時、慎の肩を後ろから叩く者が居た。
洋である。
「……おや、さっちゃんではないか」
「閻羅さんまでもさっちゃん呼び止めて下さい!」
洋は苦笑しつつも小さな声で怒鳴った。そして、眼鏡をクイッ、として落ち着いた声で呟く。
「その前に何故今出歩いているのですか、もう夜ですよ?」
「光の家にいたのじゃよ」
お説教が始まりそうな空気の中、慎は余裕そうに息を吐いた。
そんな様子を見て、洋は諦めたように肩を竦めた。
「……もう良いです、気を付けて帰って下さいね」
そう言って洋はスタスタと行ってしまう。
「せっかちじゃの、さっちゃんとやらも」
慎はクスリと笑うと歩き出す。
しかし、直ぐに立ち止まってしまった。
「うん?何か忘れているような?」
瞬間、慎の顔が青ざめる。
「………潜入した意味がまるでないのじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」