コメディ・ライト小説(新)

Re: ちいさないのち ( No.4 )
日時: 2022/02/19 09:41
名前: 月雲瑠依 (ID: Ryt8vfyf)

「ゆうきの おにいちゃん」

出逢いは彼が5歳の時。巡り、めぐり、巡り会う。

キーボード。5歳の誕生日プレゼント。巡り逢う。

出逢いは春。運命さだめられた私と彼の軌跡の物語。


悠輝ゆうきくん、それが私の、このキーボードの付喪神つくもがみの愛するもちぬしの名前。

ー悠輝くん、誕生日おめでとうー

お母様のそのセリフと共に彼の手に渡された物こそ、この私、キーボード。悠輝くんは私を気に入ってくれたようで。毎日毎日使ってくれた。

最初はチューリップのような簡単なものから。次第に悠輝くんの成長と共に弾ける楽曲数も増えていった。

その度に悠輝くんからの私への愛も、私からの悠輝くんへの愛も、溢れていく。

悠輝くんとは沢山の愛を育みました。
楽曲おんがくを、私の身体キーボードを通して。

彼はいつしかピアニストを志しました。キーボードとは似て非なるもの、ピアノ。
バンドとかなら分かるけど、なんでピアノなのかはちょっと気になる。…でも、ピアニストになる事を志したからでしょうか。

少しだけ、ちょっぴり、意思疎通ができました。とても嬉しい出来事なのです。えへへ、これからもこうして一緒に……。

ある日悠輝くんとこころを繋げながら、絵本を読んでいました。それはたしか…10歳の頃だったような…?

その絵本には幸せになる方法が描かれていました。私たち付喪神の存在も明記されてて。

………幸せの日々は崩れ去る。
………幸せな時間は戻らない。
………幸せって、何だろうか。
………幸せ、愛、キセキの印。
………幸せを求むは、私の心。

愛し愛される事だけが"それ"ではない。本当に愛してるの?愛されてるの?

幸せになる方法、教えます。
付喪神。"それ"を壊しゆくモノたち。
____________________
愛。愛。幻想。幻。幻。泡沫。夢。
崩れ去る。泡のように。いつか消え去る。
儚いものだ。その存在は形を留められない。
____________________

私は危惧しました。危険を感じました。
あのかんなぎの少女…様子がおかしい。
巫ってあんなものだったか…?あのチカラ以外は普通の少女と変わらないはずなのに。

いいえ、放っておいても良いでしょう。だって私には悠輝くんがいれば良い。

音を奏でられなくなった私。壊れ狂った私。…それでも、でもでも、愛し続けてくれたのは悠輝くん。

だから…私もそばに居て守り続けるわ。




……

………

…………ゆうきくんっ…!



時は流れゆく。時代は移りゆく。
悠輝くんはもう25歳になる。

嗚呼ああ、この空はなんと素敵なんでしょうか。私の心は空っぽになってしまった。

この、空の蒼を心にいくら詰め込んでも…私の心は空っぽだ。私のもちぬしは…いない。
だから私、もうすぐ…。

この…美しい蒼を、私の愛した人と…

見たかった。
私は消えない…まだ…だって…

るいちゃんがまだ、そばにいる。
るいちゃん、見捨てないで、お願い…
アナタの兄のように捨てないでっ!

私!アナタのパスケースの付喪神と違ってまだまだ働けるわ!……いいえ、無理もあるよね…私、もう…音を奏でられない。

やっぱりいい。私、消えるわ。
ありがと、ごめんね、るいちゃん。

…だけどせめてお願い。るいちゃんにも幸せになってほしいけど…あの子も…悠輝くんも幸せになってほしいの。

だからたまには彼の事見守っててほしいなぁ、だなんて…思ったり…してるわ…。

私は消えゆく。消え去っても日々は変わらない。この世で誰かが死んだって、日々が変わらぬのと同じ事。

私の心は空っぽ…身体もからっぽ。
あたまもからっぽ。

あいして…くれて…あり………と…。
ゆう……く………ん……。

私が消える時、チカラを感じた。
いつか一度出会った、かんなぎの女の子のチカラを、微かに。
…けど、神様のチカラも感じていた。
………巫の子に…憑依でも……してたのかな。

付喪神は光の粒子となり、天に姿を隠した。



こうして1人。また1人。付喪神が消えた。

愛に依存したキーボードは可哀想な結末…だと思う?ねぇ、蒼空そうくうの元逝けるのは名誉あることよ?巫の私があなたも、いつか導くわ。
この日記を読み、悪魔つくもがみについて周りに広めてくれるならね。

…キーボードの付喪神が、私の事に気づきかけたのは焦ったけど、無事に他の人に伝わる前に消せてよかったわ。

さぁ、早く次を巡りなさい。次のページへ進みなさい。今は見えずとも、いつか開かれるわ。この物語の最終回まで。付き合って。