コメディ・ライト小説(新)
- Re: ハッピーバイバイバレンタイン ( No.4 )
- 日時: 2022/02/14 23:09
- 名前: 永久 知音 (ID: hDVRZYXV)
「はぁ、笑った笑った。そうだ、呪いといえば爪だ」
「今度は爪か。嫌な予感がするな」
もはや転校でもバレンタインの話題でもないことは華麗にスルーする。
「昔、恨みがある人の切った爪を盗んで、呪いをかけるのが流行ったんだってよ」
「へぇ、怖いな。っておい。なにカバンごそごそしてんだ?」
サクが何やら、肩から下げたカバンに手を入れ探し物をしている。ほんの数秒であったあったと呟いて、一つの透明な小袋を取り出した。
「そういえばテルにバレンタインのお菓子渡してねえなって。ほら、クッキー」
そう言ってテルの手元に小袋を置く。中には手作りと思われる、一口サイズのきつね色のクッキーが入っていた。
「お、サンキュー。まさか男から貰えるなんてな。今日はバレンタインだぞ?」
「別にいいだろ。今日でお別れなんだしせっかくだ。ほら、テル、甘いのあんま好きじゃないだろ。だから甘さ控えめにしたぜ」
「おお、正直助かる。新幹線の中で食うわ」
小袋の中のクッキーは、小腹を満たすのにちょうど良い量で、まさに長年一緒だった親友だからこそできる気遣いといえる。
「そんなにチョコやらなんやら甘いもんばっか貰って大変そうだな。ぷぷっ、全部食えよ?」
意地悪な顔でからかうサクにテルは頭を掻きながら答える。
「わーってるよ。女子から貰ったもんを粗末にするわけねーだろ」
「さすが俺の親友! ははは!」
サクの笑顔にテルも笑い返す。
と、ここでテルは気づいてしまう。
「ってか、なんか良い雰囲気みたいになってるけど、さっきの爪の話はなんだったんだよ」
「ああ、そういえば確かに。んじゃまたまた知ってるか? 爪って食うと五年は体に残るんだと」
「へぇ、そうなのか……。ん? おま! まさかこのクッキーに!?」
思わず小袋のクッキーを凝視する。
だが、どうやらクッキーに爪は入ってないらしい。
テルが安堵したのも束の間、サクは今度は何かを包んだ黒い布をテルに差し出す。
恐る恐る開くと……。
「ぎゃーーー!! 爪! つめ! なんで別で渡すんだよ! てか誰の爪だよこれっ」
テルは爪を一本つまみ上げて、まじまじと見る。
まさかこの爪はサクのなのか。この爪を食べさせて、
「五年は一緒だね♡」
とでもやるつもりなのか。
思考を素早く回転させてみるが、サクからさらにトンデモな事実を告げられる。
「それ、テルの爪」
「はあぁあ!? まじかよ、うわっ! 俺の両手の指の爪十本全部が深爪にっ! 俺の爪になんてことを!」
「それを食べれば、五年は自分を見失わないね♡」
想像の何倍も気持ち悪い答えに思わず絶句。
「てか、いつ俺の爪切ったんだよ!」
サクは腕を組み自慢げに言う。
「お前が先週の水曜、昼休みに寝てるときだ。気持ち良さそうにしてんのをスパッとな。『音速の爪切り師』とは俺のことよ」
サクは親指と人差し指で爪切りのジェスチャーをとる。
そんな親友をテルは半ば呆れながら見る。
「お前、やばい奴だったんだな」
「それほどでもだ。なんたって俺はお前の親友だからな!」
「ほめてねー! てかこんなのいらねー!」
テルが布の包みごと投げようとするのを、サクが慌てて制止した。
「おいおい、親友からのプレゼントを粗末にするのか!? 女子のは大切にすんのにっ。お前はそういう奴だったのか!」
「うるせー、てかこれ俺の爪だろがい!」
あーだこーだ、そーだどーだと言い合っているうちに、新幹線の発車を告げるベルが、駅のホームに鳴り響く。