コメディ・ライト小説(新)

Re: ハッピーバイバイバレンタイン ( No.5 )
日時: 2022/02/14 23:14
名前: 永久 知音 (ID: hDVRZYXV)

「なんだかんだでお前と毎日過ごせて楽しかった。今までありがとな、サク」
「……ああ」

 笑顔に徹していたサクの口から、小さなため息がこぼれた。
 やはり親友との別れは辛いのだろうか。今に思えば、いつも通りの明るさでいたのも、別れとは程遠い話をし続けたのも、もしかしたら、そんなむなしさを実感したくなかったからなのかもしれない。

 下をうつむくサクに、テルは優しく、だけど力のこもった声で、言の葉を紡いでいく。

「そんな顔すんな。きっといつかまた逢える。それに言ってたじゃねーか。別れ際に親友に見せんのは笑顔なんだろ?」

 サクは少しの間、黙ったままだったが、親友の言葉を深く噛みしめながら、ある決心をする。顔を上げて、一心にテルを見つめ、口を開いた。

「やっぱ今言っとかないと、俺、後悔する。長い間会えなくなるんだ。だからここで伝えたい」

 とても真剣な表情のサクに、テルも誠意を持って瞳を向ける。

「テルはきっと向こうでもすげーモテるし、友達もたくさんできる。だから……だけど、俺のこと、忘れてほしくねーんだ! 俺という存在がお前の心の中でいつまでも生き続けててほしい!」

 そう言い切ると、サクは照れ臭そうに歯を見せ、笑う。
 サクの秘めていた想いに少し驚きはしたものの、テルはすぐに笑顔で返す。

「十二年一緒にいて忘れるわけねーだろ。俺ら、親友だぜ?」

 当たり前のように言い放ったテルの言葉に、サクはとびっきりの笑顔を見せずにはいられない。

 十二年、ともに過ごした親友、サクの顔に映る、あまりにも純粋で、それでいて危うい、サクという人物像そのものが具現化されたような笑顔。
 その笑顔は、テルの心の奥底までもを満たす、かけがえのないモノとなった。

 こうして、親友との最後の別れは、最高の笑いへと変化を遂げた。

 新幹線の扉が、とうとう閉まる。