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コメディ・ライト小説(新)
- Re: ハッピーバイバイバレンタイン【前日譚】 ( No.7 )
- 日時: 2022/04/01 18:38
- 名前: 永久 知音 (ID: hDVRZYXV)
──バレンタインから少し前
「俺、引っ越すことになった」
それはあまりにも突然に告げられた。
いつもの帰り道の何気ない会話が、いつの間にか静寂を迎えている。
人間、本気で驚くと声すら出ないと言うのはどうやら迷信ではないらしい。
深く染まる夕焼けの中では、サクの顔に広がる薄い青色がとてもよく目立つ。
十二年を共に過ごした親友、テルが淡々と紡いだ、あまりにもあっさりとした言葉。
それが親友への別れの伝え方なのか。もっと情緒を含むことはできなかったのか。
様々な感情が交錯する中でも、特に強く感じたものは、悲しみでも、驚きでもない。
──冷めた怒りだ。
それでもサクは、その憤怒の想いを決してあらわにすることはなかった。
親友には分かるのだ。テルが今どんな思いで、歩き続けているのか。
思えば、最初から様子はおかしかったのだ。
朝、一緒に登校していた時も、学校で駄弁っている時も、そして今も。
笑顔ではあったが、どこか遠くを見ているような、気の抜けた様子だった。
そしてなにより、別れを告げるその短い声がわずかに震えていた。
それだけでサクには、テルが必死に隠そうとしている心の辛さが分かってしまったのだ。
自分はテルに何を言えばいいのだろう。
サクは停止している思考を無理やりに動かすが、すぐにその答えは出ない。
「......そ、そうか」
結局サクも、テルと同じ単調な言葉で返事をする。
それがまた、テルの心にもチクッとした痛みを感じさせていた。
二人の間の静かな空気を破ったのは、夕焼けを泳ぐカラスの乾いた鳴き声だった。
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