コメディ・ライト小説(新)
- Re: 色褪せた僕は、 ( No.43 )
- 日時: 2022/09/02 18:22
- 名前: ぷれ (ID: tEZxFcMB)
8話「境界線」
「叶望が事故に!?」
『はい...。私が車に轢かれそうになったときに、庇って...』
相当、夕姫は焦っている。郁が電話に出たときは既に意識がなかったという。
「...すぐ行く」
「晴夏ちゃん、行くよ」
「はい」
晴夏は比較的冷静だった。叶望を信じているから。
郁も冷静だった。一人だけでもまともじゃないと、収集が追い付かないから。
ーー
「ここ、は...?」
いつか見た、真っ白な空間と同じだ。しかし、体は動く。
「車に轢かれたはず...」
「そうだよ」
俺と同じ声。姿は見えなくとも、恐怖心なんてものはとうの昔に消えている。
- Re: 色褪せた僕は、 ( No.44 )
- 日時: 2022/09/02 21:04
- 名前: ぷれ (ID: tEZxFcMB)
「いやはや、君がここに来るとは思ってもなかったよ」
「お前は誰だよ」
実体がでてくる。
そこに居たのは俺だった。
「僕は君だよ」
「俺、だと...?」
大体分かってはいたが。しかし、奴の目的が分からない以上、何をされるか分からない。
「目的は簡単だよ、君の体を僕に渡して欲しいな。もちろん、僕が君との殺し合いで勝ったらね」
「殺し合いだと?悪いが、そんなことに付き合っている暇はn」
俺の横の壁が吹き飛んだ。
「君がここで死ねば、現実でも死ぬことになる」
「てんめえ...!」
俺はありったけの力を込めて殴った。何度も、何度も。
「そんなことをしていて、英治は死んだね」
「っ!?」
奴は立ち上がって、俺に近づく。
「君が守れなかった英治は、君のせいで死んだ。君が動かない体を必死に動かそうとしても、その間に英治は血を流し、肉を抉られ、苦痛に襲われていただろうね」
「黙れ」
「それなのに君は、怒りに任せて殴った。そんなことじゃ、英治は助からない」
「黙れ...!」
「いつまで逃げるつもりだい?」
「黙れぇ!」
首を締める。強く、なるべく早く息の根が止まるように。
ギチギチと音を立てながら、指が首にめりこんでいく。
「僕は君なんだ。当然、痛覚だって同調している」
「あっ...カハッ...!」
苦しい。息ができない。
「なぜだ、なぜ手を離さない」
「どうせ死ぬなら...てめえも、道連れだぁ...!」
さらに強く締める。そして、意識が朦朧とする。
ーー
___ピー
病室に甲高い音が鳴り響く。
心拍数は、0。
「叶望!」
夕姫はナースコールを押す。
「どうされました!?」
「心臓が、止まって...」
すぐに医師は駆けつけた。
「AEDを使用します。下がって」
チャージの音が鳴ったあとに、ドスンという音とともに叶望の体が反り上がった。
「バイタルは!?」
「変わりません!」
「もう一回!」
ーー
「お前だけは...!」
「この、人間風情が...!」
お互い、限界がきていた。俺も気を抜けば死ぬ。
「僕はぁ...こんな場所でぇ...!」
「いい加減諦めろ!」
「こんなところで...!」
ようやく終わると思った。
腹部に鋭い痛みが走る。
「なっ...てめえ...!」
「ふっ、はははははははっ!!バカだなあ、こんなことも想定していないのかい?」
包丁が腹に刺さっていた。血が滴り、目の前の外道は笑っている。
「...はははははっ!死ねえぇぇぇぇぇぇ!!!」
その包丁を抜き、奴の腹部に突き刺した。抜けないように、苦痛を知ってもらうために。包丁で掻き回す。
「貴様ぁぁぁ!!」
「うあああああ!!」
奴は消えた。俺が勝ったんだ。
ーー
「どうだ!?」
「バイタル...回復...!蘇生が成功しました!」
「......ここ、は?」
俺は目を覚ました。隣には、安堵する医師と看護師。そして、泣いている夕姫と晴夏、肩を撫で下ろす郁さん。
「叶望!」
抱きしめられた。強く、優しく。
晴夏は依然として泣いている。
「ごめんな...心配かけて」
「うん...!私を庇ってくれて、ありがとう!」
どんなに辛くても、痛くても、守るべきものができたから。絶対に守りきってやらなきゃ。
8話終了です。
ちょっとうるっときちゃいました...