コメディ・ライト小説(新)

Re: 始発線は終点をしらない ( No.14 )
日時: 2022/08/31 16:42
名前: ぷれ (ID: tEZxFcMB)

【夏の特別編】第12話「夏祭りがゆえ」

俺、湊は夏祭り前日でとてもワクワクしている。年に一度の大イベントなのだから。
俺はいてもたってもいられなくなり、コンビニに行った。

「いらっしゃっせ~」
店内に入ると、芯の抜けたような店員の声が耳に入る。
何かを買いに来たわけではないが、入ってしまったものは仕方ない。買って帰るとしよう。
「...ん?凪咲じゃないか」

雑誌コーナーを見ていたのは、紛れもない凪咲だった。
「湊くん?どうしてここに?」
「いや、俺はちょっと明日が楽しみで、いてもたってもいられなくなっちゃって...」
「私もそうなんだ。楽しみで仕方がないよ」
すると凪咲はファッション雑誌を手に取り、レジへ向かおうとした。

「じゃあね湊くん」
「ああ、じゃあな」
凪咲は会計を済ませ、帰宅してしまった。
俺も、飲み物を一本買って家に帰った。

「ん...?凪咲からグループのメッセが来てる」
スマホのロックを解除し、メッセージを開く。

凪咲:明日はコンビニに7時50分に集合ね?私と千歳くんは5分前に集合
千歳:分かった
湊:OK!楽しみだなぁ
星奈:そうだね。じゃあ、また明日

相も変わらず、千歳の返事は素っ気ない。
「星奈...」
不意に口にした、意中の相手の名前。何か意図があったわけではない。
どうして、こんなにも彼女のことを思ってしまうのだろう。

当日。
時間通りに来たが、千歳と凪咲の姿が見当たらない。
すると、凪咲からの個人でのメッセージが入った。

凪咲:星奈ちゃんをよろしくね

これが一体何を示しているのか。
「お待たせ~」
スマホから顔を上げると、浴衣姿の星奈が立っていた。髪も結っており、とても可愛らしかった。
「どう、かな...?」
「その、すごく似合ってる」
星奈は千歳と凪咲のことは言わずに、嬉しそうに笑った。二人の事情を知っているのだろう、という自己解決になった。

「そう?ありがとう!じゃ、行こう?」
「あ、ああ」
とは言っても、花火までの時間がない。集合時間の設定もあったのだろうが、走らないと間に合わない。
「星奈、走ろう!花火まで間に合わない!」
「うん!」
星奈はそれでも下駄だ。いくら運動神経が良かろうが、走りにくいことに変わりはない。
そんな心配も束の間、案の定転んでしまった。

「大丈夫か!?」
「ちょっと、無理...」
足を見る。恐らく捻挫だろう。
しかし、彼女が捻挫で走れるはずがない。ならばーー
「星奈、しっかり掴まってろよ」
おんぶだ。これなら、花火までに間に合う。
「...ごめん、湊くん」
「いいって。走らせた俺も悪かった」
そう思いながら、必死に走ることだけを考えた。

「ぜえ、ぜえ...何とか、間に合った...!」
俺たちがついた頃には、ちょうど始まるときだった。
俺は安堵して、星奈を降ろす。
「...綺麗だね」
「そうだな...本当に綺麗だよ」
しばらくの沈黙。聞こえるのは、人々の会話と花火の轟音だけ。
「ねえ、こっち向いて」
沈黙を突き破った星奈は、要求する。
俺が従うと、顔をガシッと掴んで一瞬で自分の顔にくっつける。

「んむっ...」
何が起こっているのか、分かっていながら理解することを脳は拒んでいた。
「ぷはぁ!...私のファーストキス、どうだった?」
ファーストキス、ようやく理解した。俺は、接吻をしたのだと。
一気に顔が熱くなる。羞恥心に駆られ、彼女を直視できない。
「...私、湊くんのこと大好きだよ」
声すらも、花火の音すらも遠くに聞こえる。
俺は、現実逃避を始めていた。