コメディ・ライト小説(新)

Re: 始発線は終点をしらない ( No.28 )
日時: 2022/09/05 22:50
名前: ぷれ (ID: tEZxFcMB)

第28話「信じたくない本当」

俺は湊。
先日、星奈からの引っ越すという告白を受けて、未だに信じられない。
「(違う...そんなの嘘だ)」

とにかく今は、自己暗示で精神を保っている。
「湊...どうした、顔色が優れないぞ」
「千歳...」
このことを話そうか迷った。でも言ったところで、何かが変わるわけではない。それにみんなに迷惑をかけてしまうだけだ。
「...なんでも、ないよ」
「...そうか」

千歳のことだ、きっと勘づいただろう。
というか、星奈と一度も会っていない。会わないようにしているの方が正しいか。
星奈と会ったら、泣いてしまうから。なんて、星奈は笑うかな。

「そんなの、分かんないよな...」

だんだん、気分が悪くなる。
保健室で休もうと思い、ドアを開ける。すると、いきなり女子が出てきてぶつかってしまった。
「すいません。ですが、急いでいるので」

前にもこんなことがあったな。星奈が急に飛び出して、それで仲良くなって。
そんな感傷に浸っている暇もなく、体はすでに限界を向かえて、俺は意識を失った。

「あら、湊くん。目が覚めた?」
「ここ、は...?」
目が覚めると、眼前には保健室の天井が広がっていた。
そこから、何があったのか記憶が鮮明によみがえる。

「思い出したみたいね。湊くん、あなた疲労で倒れたのよ。何か悩みごとでも?」
悩みごと。
そうだ、俺は悩んでいたんだ。
「ええ、ちょっと...。実は、星奈が引っ越しちゃうんです」

すると、先生は驚いた顔をしたあと、クスリと笑った。
「それならさっき、本人が同じことで相談しにきたわよ」
「星奈が、ですか?」
コクリと頷いてから、
「行ってきなさい。きっと、あの子もあなたの返事がほしいと思っているわ」
と言った。

分からされた。たった5文字すら言えないほど、俺はバカだったのだと。
思い立ったときには走り出していた。ひたすらに、校舎中を。全速力で駆け巡った。

「星奈!」
「湊、くん?」

驚いた顔をして、こちらの顔を覗く。
「俺、星奈に言いたいことがある!」
距離を詰める。後ろに逃げないように、壁へ追いやる。
ドンッ!という音と同時に、逃げられないように両方を塞ぐ。

「行かないで!」
「!?」
「俺は、お前と過ごした日々が楽しくて、かけがえのないものになったんだ!」
「...私だって、私だって離れたくない!せっかく初めて好きになった人と離れるなんてイヤ!ずっと一緒にいたい!千歳くんだって、凪咲ちゃんだって、アルトくんだって、美央ちゃんだって...!湊くんだって!」

彼女は泣いていた。目から大粒の涙を流しながら。
床に黒い染みができる。
すると、星奈のスマホの着信音が鳴る。

「なに?...引っ越しの件が取り消し...?」
星奈はその場にへたれこんだ。俺は泣いていた。嬉しくて、とにかく嬉しくて。
「っ!...星奈!」
俺は彼女を抱き締めた。強く。
そして、口付けをかわした。静かに、長く。

キスの味は、少しだけしょっぱかった。