コメディ・ライト小説(新)
- Re: シナノファンファーレ! ( No.4 )
- 日時: 2022/09/10 09:59
- 名前: ぷれ (ID: tEZxFcMB)
第2話「もう一度、あの世界へ」
「咲乃、あんた部活どうすんの?」
「うーん、帰宅部かな」
咲乃は、吹奏楽の世界に戻ることはなかった。
本来、高校までやるために買ったテナーサックスは、もうケースから顔を出すことはないだろう。
「じゃあ、テナーどうすんの?」
「...どうしよ」
計画性ゼロである。
ぶっちゃけた話、吹奏楽から逃げるために玉城西を受験したにも関わらず、相棒として3年間使用したテナーを手放すには躊躇いがあった。
ーー
「おはよう藤原くん」
「おはよう月宮」
教室に入ると、同級生の月宮昭弥が挨拶をした。
「藤原くんは部活決まった?」
「いや、まだ何も...」
「そっか。じゃあ、吹奏楽部は?」
「吹部か...」
咲乃はあまり乗り気ではない。あれだけ悩み、自分で決めたことを今さら曲げるなど男として情けない。
そんな咲乃のプライドと葛藤すること数秒。
「今日、もう一度見学に行ってから決めるよ」
「本当!?」
昭弥はキラキラと目を輝かせて、教室を出ていった。
ーー
「失礼しまーす...」
恐る恐る音楽室に入ると、視線が咲乃に集中する。
「あ、咲乃くん!」
バリトンサックスを持った3年生が近づいてきた。
どこかで見たことがあるが、どうしても思い出せない。
「えっと...」
「いや~、私のこと覚えてなくて当たり前かもしれないけど」
「すいません...」
「良いって。私は高崎茜、去年ソロコンでバリサク吹いてたよ」
完全に思い出した。めちゃくちゃ上手い人だ。
にしてもなぜこの学校に居るのだろう。
「ま、君はテナーやらないの?」
「一応持ってきたんですけど...」
ケースを開けると、1年前と全く変わらない配置で置いてあった。
「おお~!セルマーのシリーズ3じゃん!しかもネック金メッキだし。リガチャーは?」
「え、えっと...ハリソンです」
「ええ!良いな~!」
こんな人だったっけと思いつつ、楽器を組み立てた。
「...うおっ、すげ」
「うん、やっぱりあの時の音と同じだ」
他の部員たちは、咲乃に視線を向けて練習など放っていた。
すると、部長が入ってきた。
「失礼しまーす。...って、あんたたちなにやってるだ、いってぇ!?」訳:なにやってんの、一体!?
「真昼!?え、えっと咲乃くんが吹き始めたらこうなって...」
なんだか咲乃まで反省したくなってきた。
ーー
「それで、咲乃くんは吹奏楽に戻るつもりは?」
「えっと...分からないんです」
咲乃は、自分がどうしたいのか、どうすれば良いのか分からなくなっていた。
「咲乃くんがもし、まだ未練があるなら戻っておいで」
「未練、ですか」
咲乃は未練が無いから辞めた。でも、彼の中で何かが引っ掛かった。
いつか、全国に出ることを目標にしていたはずなのに。今の咲乃は、自分で分かるほど腐っていた。
「......い」
「お?」
「もう一回、全国を目指したいです」
「よし!よく言った!!」
スッキリした。ようやく、自分の目標を言うことができた。
こうして、咲乃は吹奏楽部に入部届を提出した。
2話終了です。
僕のテナーのリガチャーは、セルマーの銀メッキです。マッピはS90の180です。定番ですね