コメディ・ライト小説(新)
- Re: シナノファンファーレ! ( No.5 )
- 日時: 2022/09/10 21:28
- 名前: ぷれ (ID: tEZxFcMB)
第3話「さよなら相棒」
先日、入部を決めた咲乃は仮としてテナーを吹くことになった。
「こんちゃ、藤原くん」
「こんにちは、北見先輩」
楽器庫から、自分の楽器を取り出そうとすると、後ろからゆいが話しかけてきた。
ケースの軋む音が微かに聞こえる。かなり使い込んであるケースなので、結構きている。
ーー
「みなさん、こんにちは。新しく顧問になりました、岸上夏希です。よろしく。それでは、僕から一つだけ皆さんに決めてもらいたいことがあります。この部活をやるにあたって、全国を目指して厳しい練習を取るか、それとも楽しく大会など気にせずにやるのか。皆さんに、おっと失礼。決めていただきたいのです」
チョークと黒板が擦れる嫌な音で、思わず顔をしかめる。
全国か、楽しいか。全国を取れば、また咲乃は押し付けられる。楽しいを取れば、目標は遠のく。
「私は全国に行きたいです」
「俺も」
「あたしも」
次々と、全国を目標にしたい部員が手を上げる。ついには、全国を目標に掲げる部員は全員になった。
「それでは、決まりですね。良いでしょう、全国に行くことを目標に掲げたのならば、僕も尽力させていただきます」
玉城西高校吹奏楽部は、全国出場を目標にして活動することになった。
「それでは、準備ができ次第、合奏をしてください」
「曲はどうするんですか?」
「そうですね。こちらで決めても構わないのであれば、春風をお願いします」
春風は、マーチの定番だ。そこまで難しくはない曲なので、気負う必要はないだろう。
「じゃあ、チューニングB♭」
チューニングB♭はピアノで言うシの♭だ。
「...OK?」
全員の音程が合ったことを確認してから、夏希は指揮台に乗った。
「それじゃあ、やりましょう。...3,4」
始まったのは良いが、同じパートのはずなのに音はバラバラ。裏拍のトロンボーンは、表のベースと重なってる。
そして極めつけは、テンポに合っていない。
「...そこまで」
夏希はニコニコしながら途中で曲を止めた。
「今のが、みなさんの本気ですか?わざとミスを繰り返したのですか?」
部員たちは黙ってしまう。
しかし、夏希の冷徹な言葉は止まらない。
「正直、この程度の完成度では地区大会突破すらもできません。僕は、こんなことをするために顧問になったのではありません。この時間が無駄ですよ」
夏希が音楽室を出ようとすると、甘那が引き止める。
「待ってください!森の音楽祭の出場はどうするのですか!?」
森の音楽祭とは、小海町で行われる音楽イベントのことだ。去年から、東信の中高が集まって合同バンドを組んで出場している。
「みなさんがそのレベルになったら、考えましょう。みなさんが、もっと上を目指すのであれば来週のこの時間にもう一度合奏をしましょう」
夏希は音楽室を後にした。
「...本当に、ヤな人」
ーー
「えっ...?」
楽器の片付けをしていると、楽器に異変が起きていた。
「オクターブキーが、取れた...?」
オクターブキーが取れてしまった。修理することも考えたが、あくまで仮の担当なので備品を使うことにした。
それでも、中学を共に歩んだ相棒の死は少し心が痛んだ。
「そんなこともあるよ。また、新しい出会いを見つければ良い」
ーー
「ただいま~...って、母さん!このデカイのなに!?」
「ああ、おかえり。お父さんから」
咲乃の父親からの荷物。
咲乃の父親は、有名なサックス奏者で年に一度帰ってくるか来ないかである。
「バリサク...?」
荷物はバリトンサックスだった。他にも、リードやマウスピースにネック、ストラップまでご丁寧に入っていた。
「手紙?『咲乃へ。久しぶりだね、私は今鹿児島にいるよ。君が吹奏楽部に入ったことは、岸上くんから聞いている。そこで、君のテナーは限界に近いからこのバリトンを君にあげよう。大事に使ってやってくれ』」
少し、泣きそうになった。
父親からの、滅多にないプレゼントを貰えるなんて、光栄以外の何物でもない。
2話終了です。
バリサク楽しいんですよね。特に最低音出したときが