コメディ・ライト小説(新)

Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.1 )
日時: 2023/12/17 11:00
名前: むう (ID: F7nC67Td)

 【プロローグ】

 「ねえ、私呪われてるのかな?」

 小学六年生のとき、近所の神主のおじいちゃんに尋ねたことがある。
 いきなりのことだったので、おじいちゃんは目をぱちぱちさせながら私を見た。

 「どうしたコマリ。またテストの点が悪かったんか?」
 「だってどの教科ずぅーっと44点なことある!? 台風が毎回うちを直撃するし、この前の修学旅行は新築ほやほやのホテルだったのに、急に全部屋停電するし!」

 まだ小っちゃかった私は、彼の袴にしがみついてわめく。
 加えて運動会では未だに晴天をおがめず、誕生日に限って熱が出るし、一緒に登下校していたお友達は皆引っ越すか転校しちゃう。だからいつもひとり。

「……国語、算数、理科、社会ぜんぶ44点なの」
 今回は5教科だけだったけど、家庭科でも音楽でもこうだった。
「ひとつだけ聞くけど、しっかり勉強はやったんよな」

 おじいちゃんの眉間にしわが寄る。
 私が馬鹿だと疑っているのだ。失礼!
 
「50点満点のテストだったりとかは」
「100のうちの44。もうこれ死ぬかなあ!? きちんと復習しても、塾に通っても44のままなの。めっちゃ不吉」

 最初は自分の努力が足りてなかったのかなとも思ったけど、同じ成績が六年間続くと流石に努力とかそういうものではないと確信した。
 授業もしっかり出てノートもきちんと取ってるし、宿題も毎日やってる。なのに点数は毎回なんとも微妙な数字。

「ね、やっぱ悪霊のしわざだよ。なんか憑いてるよぉ! おじいちゃん霊感あるんでしょ。教えてよ」
 するとおじいちゃんは難しい顔になって、顎に手をあてる。
「うーん。でも、見た感じ悪霊の気配はしないんだよなあ」

 霊の存在を否定された。
 ってことはつまり、『おまえのせいだ』ということなのかな。

「えぇ!? ちがうよ私馬鹿じゃないよ!」
「もしかしてあれか? んー、じゃがあれはかなり確率が」
「なに? なんなの?」

 神主のおじいちゃんはモゴモゴと口を動かして、言おうか数分間迷っていたけど、私の強い視線にとうとう根負けして口火を切った。

「【逆憑ぎゃくつき】何万人に一人、なるかならないかの、とんでもなく珍しい体質だ」

 

Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.2 )
日時: 2023/12/17 11:02
名前: むう (ID: F7nC67Td)

 【第1話:ヘンな同居人】

「おーいコマリ、もしかして俺のカップラーメン食った?」

 学校から帰って部屋に入るなり、床に寝そべってスマホゲームをやっていた男の子がチッと舌打ちした。
黒いパーカーに、ジャージのズボンというラフな格好に、ピンクに染めた髪がなんとも似合って……ない! 
 本人はおしゃれと思っているようだけど、めちゃくちゃアンバランスだ。

「え、あれ? キッチンのカウンターに、『食べて下さい』的な感じでおかれてあったら、食べるに決まってんじゃん」
 私は悪びれずに答えると、肩から学生鞄をおろして軽く伸びをする。
「バッカお前!! あれは俺のだっつーの」

「おいしかったー。明日も買って来てね」
「はあ!? お・ま・え・なぁ……わさびでも入れればよかった……」
とため息をつく同居人を軽く受け流すのが日々の日課。

 私の名前は月森つきもりコマリ・14歳。
 現役の、ちょっと変わった女子中学生です。

  □■□


 私は、お父さんの知り合いが経営しているアパートに住んでいる。
 去年までは普通に家族と一軒家で暮らしていたんだけど、毎年毎年台風の影響を受ける家で過ごすのは、かなりお父さんたちも怖かったようで。

「というわけで、コマリはそのアパートに住みな。お父さんとお母さんはおばあちゃんちに行く。 自分のせいでこうなったって思うのもしんどいだろ」
 職業柄なのか、心理カウンセラーをやっているお父さんは、娘を困らせないよう、ゆっくりと説明してくれた。

「お前の言う『ギャクツキ』がなんなのか、お父さんはわかんないし霊感もないから、力になれなくてごめんな」
「いやいや、お父さんが謝ることじゃないし……。あと毎回家を半壊しにして、ごめんなさい」

 逆憑きというのは、自分の行いや行動全てが悪運を引き起こしてしまうというあまりにも迷惑な体質だった。
 神主さんが言うには、悪い霊などは向こうから人間にとり憑くが、私の場合は霊が大好きな「負のオーラ」を自らまとっているらしく、それは『憑いてもいいですよー!』というサインにもなるみたい。

 よって、悪運に次ぐ悪運で、負の連鎖。
 自分が死なない限り、この運命から抜け出せる道はないとのこと。

(なんでそんなまた面倒な体質に———!?)
 
 
 娘のせいで、家の屋根は風で吹っ飛ぶわ、雨漏れするわ。
 これじゃ一生親孝行できないし、お腹を痛めて生んでくれたお母さんにも申しわけなさすぎる。
 お母さん自身はのんびりした性格で、「あら~レア引いた?」とゲーム感覚で呟いてたけれど。

「お父さんの知り合いの時常ときつねさんとこの息子さん、霊感あるらしいから、同じ部屋にしたけど大丈夫かな? コマリももう14だし、さすがに男の子と一緒は……」

「ううん、大丈夫! 私恋愛マンガより少年マンガ派だもん」
「そ、そんな基準で大丈夫なのか?」
「平気!」

 とまあ、こんないきさつで、現在私は(二歳上の霊感バチバチの)男の子との生活をすることになったのだった。
 ちなみに時常さんちの子なので、縮めて「トキ兄」と呼んでいます。


  □■□

「トキ兄さぁ……」
 トキ兄がゲームをしている横で、私は今日配られた教科書に名前を書く作業を始める。

「んだよ」
「いや、自ら髪染めて校則やぶって退学とかよくやるなって思って」

 時常美祢ときつねみねという優等生みたいな名前なのに、彼の過去はかなりぶっ飛んでいる。

 小学生の時は沢で釣ったザリガニを学校に持って行って、教室を水浸しにした。
 中学校の時は【ミネ・ダークネス】と自分で名乗り、恥ずかしくなってその後学校に行けなくなった。
 高校生になって、高校デビューを決めようと思って髪を染めたあとで校則に気づき、現在に至る。

「馬鹿なの……?」
「馬鹿って言うな44点ガール」
「だってそうじゃん! 色々と痛いし、全然似合ってないし。黒髪に戻したほうが良くない?」

 初めて会った時の衝撃ったらなかった。
 エクステとか、髪の一部分だけではなく、全体蛍光色のピンクなのだ。
『わぁー……』が第一声となってしまった私も失礼だけど、あれは仕方なかったと思う。許してください。

「もう吹っ切れたからいーの。似合わねえって笑われても自分的にはかっけえと思ってるし」
 こう言う人に限って時々とんでもなく良い名言を言うものだから、私はいつも反応に困る。

「………そ、それならいいけど……」
「てかお前、いつになったらマシな幽霊連れてくんの? なんか、泣きながら『一生のお願いですいい幽霊見つけて下さい頼みます』って足つかまれたの、マジ怖かったんだけど」

 逆憑きの対処法は二つある。

 一つ目は『死ぬこと』。
 色々大変だけど、人生は楽しい。私はまだまだ生きていたいので、これはナシ。


 二つ目は『いい妖怪や幽霊を見つけて、その力を借りること』。
 逆憑きに惹かれて集まってきた霊の中に、もし縁起のいい妖怪とかがいればの話にはなるけれど、彼らに土下座するなりなんなりして、協力してもらう。
 そうして、日々起こる危険を守ってもらうことで、安心して生活できるってわけ。

 んで、霊感のあるトキ兄の力でなんとかならないかなーっと踏んでいたのですが、残念ながらそう都合よくはいかなくて。

「あのなあ、俺も霊が見えるだけで神様じゃないんだからさぁ……。ボディーガードするだけでも疲れるっつーの」
「ま、まあまあトキ兄、拗ねないでよぉ。私はトキ兄がいてくれて助かってるよぉ」

 悪運強すぎる中学生と、素行悪すぎる霊感男子。
 これをネタに誰かが漫画を描いてくれることを祈ります。なんてね。
 

 

Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.3 )
日時: 2023/12/09 09:27
名前: むう (ID: F7nC67Td)

 翌日は土曜日だったけれど授業がある日で、私は眠い目をこすりながらクラスの入り口の扉を開ける。

 ガラガラッ!

 ものすごい音が部屋内に響き渡った。
 うちの学校・ともえ中学校は今年開校六十周年を迎える。おかげで建物のいたるところに隙間が出来ていて、冬場はけっこう寒いのだ。

「あーコマちゃん。おはよー」
「おはよー月森」
「お、杏里あんり大福だいふく。相変わらずラブいねぇ」

 声をかけて来た、ゆるいハーフアップの穏やかな女の子が星原杏里ほしはらあんり
 幼稚園からの腐れ縁で、英語教室やスイミング、書道などたくさんの習い事をしている。くわえて吹奏楽部でフルートも吹いているので、華奢な見た目の割にめちゃくちゃタフ。

 その横で、椅子ではなく机の上に腰かけているチャラそうな男の子が福野大吉ふくのだいきち。縮めて大福。
 この二人、お母さん同士が友達なのもあって、一緒にいることが多い。性格的には杏里が大福に振り回されそうだけど、全然そんなことはないのだ。

 よって、クラスメートの一部の人の間で、『早く甘い展開が見たいわ~。和菓子組』と呼ばれたりもしてる。

「お、そういや月森! 昨日の【怪異探偵Z】観た? エンディング変わってたぜ。チョーかっこよかったよな!」
 大福が話題を振る。
 怪異探偵Zというのは、少年漫画誌で大人気連載されている、漫画原作の怪異コメディアニメ。
 そう、コイツと私は少年漫画好き仲間なんだ。

「ううん。私昨日は観てない……」
 教室の最後尾の机にいったん鞄を降ろし、私は二人に近寄った。
 さてさて、通例行事・二人の話に入るとしましょうか。

「めずらしいね。コマちゃんがテレビ観ないなんて。放課後カフェ寄ろうって言っても、『アニメやるから』ってキャンセルしてたじゃん~」

 のんびり口調の杏里だからこそ、言及されると心に来るものがある。
 私は言葉を詰まらせながら、そうっと視線を横にずらした。

「いやぁ、そのことはいいじゃん」
「よくない―。私わざわざ時間作って話しかけたのに」
「ご、ごめんって杏里~!」

 両手を合わせて必死に頼み込むこと数分。ようやく彼女のお許しが出た。
 この子、真面目で頑固だから、約束を破るとこうやって言及してくる。
 私がオフの日は杏里の方で予定があり、なかなか一緒に遊べない。
 大雑把な自分は、今日みたいにちょくちょく親友を無意識に傷つけてしまうことがあって。

「ふうん。じゃあお前、あの回観てねえのな。神回だったぞ」
「え、ちょっとネタバレは! ……ああ、昨日、トキ兄とちょっともめててリアタイ出来なかったんだよ」

 カップラーメンを黙って食べてしまったことが逆鱗に触れたようで、あの後おつかい……ああいや、パシリに駆り出されたのだ。
 ほんっと、あの人人使い荒いんだから!

「「トキ兄……?」」
 杏里と大福の声がピッタリと重なる。
 お互い首を傾げて、腑に落ちないって感じで腕を組んでいる。

「誰そいつ。おまえ兄ちゃんいたっけ?」
と聞かれて、私は自分のミスに気づく。

 そうだった! 
 今日は新学年になって初めての土曜日。引っ越しやら始業式やらでバタバタしてて、同居生活のことを話し忘れていたんだっ。

(ど、どどど、どうしよう………!??)
 お父さんの時のように漫画を理由には出来ないし、かといって素直に伝えたら、恋バナ好きの杏里は絶対食いついてくるだろう。
 となれば大福も当然杏里と一緒に問いただしてくるから……。


「ねえねえコマちゃん」「おい月森」
 あぁぁぁぁぁぁぁ! やばい、やばいよぉぉぉ。

「「もしかして、好きな人でもいるの?」」





 ………………は??

 

Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.4 )
日時: 2023/01/19 19:40
名前: むう (ID: viErlMEE)

 す、好きな人?
 なんのこと、なんの話??
 私は二人から放たれた言葉に、一瞬めんくらう。

 え!? 男の子と女の子が一緒に暮らしてたら、好きな人ってことになる世の中なの? それがふつうなの?

 戦隊ものやアクションバトルに毒されて育ったのが、月森コマリという人間。こういうときにどういう反応をしていいかすらわからない。
 なんでみんな、色恋沙汰にしちゃうの??
 
「だって、知らない男の子と暮らしてるなんて、好きな人以外ありえないよね」
と、杏里は言う。
「え、コマちゃん、どんな子がタイプなの?」

 勝手に風呂敷を広げないでください。
 好きなタイプ? 人をパシリに使わない優しそうな子かなぁ……。
 
「ちちち、ちがうよ! アパートの大家さんの息子さん! ちょっといろいろあって、引っ越すことになって、その、まあ同棲ってことにはなるけど、全然、全然そんなんじゃ!」

 慌てて返したけれど、残念ながらフニャフニャと萎れた声では何もごまかせず。むしろ、言い方のせいで、更に誤解を生みそうだ。

 と。

「アパートの……」
 まだなおも獲物を狩るハンターのように目を輝かせている杏里を、大福が止めた。
「おい杏里、もうやめようぜ」
 杏里の右手を掴んで、手元に引き寄せる。不意を突かれて、杏里は足をもつれさせ、「おっとっと」とよろける。

「えぇー、この先おもしろくなりそうなのに」
「人の話に突っ込み過ぎるのもアレだろ」
 
 大福の言葉に私はウンウンと深くうなずいた。
 さっすが大福! やっぱ持つべきものは仲間だよ。

 これでやっと話を終わらせることができる。
 いきなり幽霊が、妖怪がなんて言ってこわがらせるわけにもいかないし、この二人とはこうやってバカやってる方がこっちとしては楽でいい。

 しかぁし。
 
「ってことで月森、放課後こっそり俺に彼氏の写真送ってくれ」
「!??」

 類は友を呼ぶ。
 幼なじみの言動を背後から見守っているこの男は、杏里の行動を真似する傾向にあるのです。

 キーンコーンカーンコーン

「お、朝礼始まるぜ。じゃあまた後でな!」
「ちょ、ちょっと……」

 うまいこと交わされ、右手を伸ばした状態のまま固まること数分。
 その間、チャイムの音に合わせて、教室の後ろでおしゃべりをしていたクラスメートが自分の席へ戻っていく。

 朝の元気はどこへやら。
 まだ朝礼も始まってないというのに、私のやる気はすっかり削がれてしまいました。

 自分の席へと進む足取りの重いこと重いこと。

『……おまえぇぇぇ。ふざけんなよ』
 制服のスカートに忍ばせていたスマホがブブッと震動する。
 私は席に着くと、机の引き出しの下でこっそりとスマホを開き、その画面―テレビ通話画面を確認する。

 わがボディーガードの眉間には、深いしわが刻まれていた。
 嫌だいやだとあれだけ叫んでいたのに、真面目なのか不真面目なのか。

『おじさんに頼まれて、わざわざ家から電話繋いでやってるのに……おい、あそこはせめて否定しろよ!? おい、どうすんだよ!? 俺ら、そんなハートフルな付き合いじゃないってのに!』

「それは充分把握しております……」
 夜な夜な、部屋にひとつしかないテレビの視聴権をかけて〈叩いて被ってジャンケンポン〉をしている仲だもんね。

『最悪だよ! 引き受けるんじゃなかった! どうするよ、お友達の中で俺らがカップルに変換されるんだぞ責任取れよ!』
「新展開ラブコメディってことにすればナントカ」
『なーに受け入れてんだお前ぇぇぇぇぇ!! ミネ・ダークネスは色々とアウトだろーがっっ』


 ……あーあ、ことごとくついてない。
 こんなので本当に、私の人生上手く行くのかなあ!?

 
 
 

Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.5 )
日時: 2023/12/17 11:13
名前: むう (ID: F7nC67Td)

 テスト勉強の休憩時間に書いてます。
 テスト大嫌い! うわん。
 今回はミネ・ダークネス主役なのでお楽しみに。
 毎日投稿できなくてごめんなさい。
 -------------------------

 【第2話:誰だお前】
 〈美祢side)

 机の上に置かれたパソコンにケーブルをつなぎ、横にはペットボトルのコーラをセット。眠くなったとき用にブランケットを椅子の背もたれにかけて準備完了。
 時常美祢流・ネットワーク環境の完成だ。
 
 俺の父親の知り合いである月森さんちの娘・コマリと暮らすことになって早一週間。
 生まれながらの悪運体質によりことごとく人生を棒に振っている彼女を危険から遠ざけるべく、今俺はこうしてコマリを監視している。
 
「いやこれ一歩間違えればストーカーだろ……」

 考えたら終わりということはすでに理解済みだ。
 なにも知らない奴からしたら、電話を繋いでまで女の子と話したい痛い人間だと思われるのに違いない。

そもそもこの同居生活は、俺へのダメージがデカい。
 コマリが引っ越して一週間になるが、家のあちらこちらから変な音が聞こえたり、電化製品が次々と壊れたりと、逆憑きの影響をモロに受けている。

 明らかにお互いの得失が嚙み合っていないのだが、コマリの父は俺の父さんの大学時代からの友達。「無理です。俺の負担がでかすぎるんで」と言えたら良かったのだが、幼少期に遊びにつれて行ってもらったこともあり、彼のお願いに嫌と言うことが出来なかった。

 あー! 頼みごとを断れない自分の性格が憎い!

「えーっと。とりあえず強い霊力は今んとこないな」
 俺は小さい時から霊感があり、霊の気配を感じることができる。この能力は写真や動画など画面越しでも使える便利能力だ。

 スマホの画面を再確認する。
 コマリは授業中だというのにノートも取らず、堂々と配られたプリントで紙飛行機を作っていた。
 幸い先生は、列の間を歩かず一時間教卓前で位置固定するタイプなので、気づかれてはいないようだけど。

「アイツ…自ら災いの種をまいてやがる。逆憑きなのを怠ける理由にするとは。だから44点取るんじゃねーの?」

 カップ麺を無許可で食うわ、失言は多いわ授業はさぼるわ。
 少しはましな行動を取れないのかコイツは!

「おいコマリ。霊じゃないけど悪い気配を感じる。古典の石橋先生は怒ると怖いぞ」

 コマリの通っている中学は公立なので、俺も昔はそこに通っていた。現在コマリのクラス担任兼古典教師の石橋先生は、俺が中1だったときの学年主任の先生だ。

 ああ、あの時怖かったなあ……。
 あの先生の目の前で「必殺★ウルトラダークネススマッシュ!」と右手を突き出した思い出、今でも忘れられないぜ……。はは。

『えっマジッ? バレてる??』
「なぜバレてないと思ったんだ。一番後ろの席は意外と見えてるもんだよ。ほらほら、石橋先生が眉をしかめたぞ。早く教科書出せ」

 いつもふんわり笑顔の優しい石橋先生は、ムッとした唇を嚙んでいる。スマホ越しでもわかる不機嫌そのものの態度。
 
 ガサガサッ。
 コマリが慌てて通学カバンをまさぐったのと、石橋先生がパンパンと手をたたいたのがほぼ同時だった。

『つーきーもーりーさぁん?」
 ひどく間のびした声は、暗く重い。
『教科書140ページ開いてって言ったよね。そんなんだと、ゴールデンウイーク明けのテスト赤点になっちゃうけど大丈夫なの?』
『……うう』

 コマリは苦虫を嚙み潰したような顔になって、視線を宙にさまよわせる。
『トキ兄めえ』
『月森さん? 教科書開いてね?』

 俺の専門はお化け関連なので、これに関しては完全にお前のせいだ。
 バーカ。ざまあみろ、バーカバーカ。
 パートナーに反して、俺の心は有頂天。
 毎度毎度俺を困らせている罰だ、とっとと報いを受けろ! 

「ふふ、ふふふふふ」
「あのー」
「あはははははは、その間抜け面! あはははははは」
「あの!!!」

 と。
 パソコンに向かってニヤニヤしていた俺を、とある声が我に返らせた。甘ったるくてちょっと滑舌の回っていない幼い声。

「ぎゃああああああっっ!? だ、だ、誰ッ!? え、なに!?」
 俺は後ろを振り替え……(いいや、椅子がローラー付きだったので正しくは椅子が回転しただけだが)、背後にいたその人物の姿を視界にとどめる。

「え、えっとお。こ、こんちゃですっ」
 声の主―茶色の髪を低い位置で二つ結びにした少女は、宙に浮きながら右手を振る。

「あ、あれ、あの、えっと。うち、月森コマリって子に用があって訪ねたんですけど、お留守ですか、ね」


Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.6 )
日時: 2023/01/26 15:19
名前: むう (ID: viErlMEE)


 【お知らせ】
 2月1日までテストなので更新できないです(-_-;)
 すみません。次回をお楽しみに。

Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.7 )
日時: 2023/12/18 11:04
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

〈美祢side〉
 
 「あいつに用?」

 俺が尋ねると、ツインテール少女は「はいっ」と応じた。
 紺色のセーラー服の上に、白色のパーカーを羽織っている。首を縦に振る度、結んだ髪の先っぽが揺れた。

「うち、桃根こいとっていいます。あ、一応幽霊です」
「ちょ、ちょっと待って、何その名前」
「? おかしかったですか? わたしの母親、編み物が好きで。そこから取ったんですって。可愛いので、自分も気に入っているんですよねー」


 ももね・こいとだって?
 なんだその、漫画とかアニメとか恋愛ゲームとかに出てきそうな名前は。
 自己紹介で名乗れば『え、その名前可愛いね!』と話題になる人間じゃないか。
 え? 俺の場合は名前負けして『ミネ・ダークネス! 飯行こうぜ』といじられるようになったよ、アーメン。

 こいとは空中を漂いながら、うーんと腕を伸ばしている。どうやら幽霊なのは確かなようだ。
 華奢な身体がうっすら透けているため、対面の位置にあるドアノブが彼女を通して見える。

「まあ、会ったのも何かの縁だ。こっちも自己紹介しておくよ。時常美祢だ。よろしく」

 作業用の椅子から立ち上がり、俺は彼女の方へそっと手を伸ばした。相手は幽霊なので、握手を交わすことは出来ない。それでも、初対面で何の挨拶もしなかったら失礼だ。

 こいとは「あははっ」と楽しそうに笑い、俺の前へスーッと移動する。そして、差し出した右手のひらから少し離れた位置……を手でなぞった。エア握手。

「よろしくお願いします、美祢さん。そういえば、貴方はわたしのこと視えるんですねっ」
「生まれつき霊感があるからな。そのせいで厄介な任務を押し付けられて、迷惑してるけど」
「もしかして、コマリさんのことですか?」

 知ってるのか?
 まあ、そりゃそうか。こいつは、コマリに会うためにこの家に来たのだから。
 っていうか、どうやって家の住所を特定したんだ?

「幽霊友達に教えてもらいました」と、こいとがニッコリと笑う。
「幽霊友達?」

「はい。わたし、去年事故で死んで幽霊になったんですけど、行く宛がなくて。ブラブラと街を彷徨う生活をしていたんです。その暮らしが一週間くらい続いたんですけど、ある日、交差点にたたずんでいる女性の霊を見かけまして。意気投合して仲良くなりました。そのあともちょくちょく知り合いが増えて」

 交差点にたたずむ霊…地縛霊みたいなものだろうか?
 彼女の話から察するに、こいつの正体は浮遊霊。
 霊には、地縛霊のように一定の場所のみで行動するタイプと、浮遊霊のように自分の意志で移動できるタイプがいる。こいとの場合は後者だろう。

「はい。幽霊の間で話題になっていましたよ。月森コマリって子の近くは居心地がいいって」
「居心地がいい?」
「彼女の近くを通り過ぎた子たちが、口をそろえて言うんですよ。『あー、めっちゃふわふわする』『羽毛布団で包まれているみたい』『極楽』って」

 コマリの逆憑きって、幽霊側からそんな風に思われているのか。
 人間代表の俺は、極楽とは正反対の方向にいるんだがな。日頃の態度と怠け癖、天然発言をもう少し治してくれたら、大分こちらのストレスが減るのだが。
 
「それで、皆がそこまで言うなんて、どんな人なんだろうと気になりまして。あ、10人中10人が★5つけたんですよ」
(何その食べログみたいな反応)という本心は、心の中に閉まっておこう。

 つまりこれまでの話を簡潔にまとめると。
 月森コマリと接触したことがある霊が、彼女の逆憑きの情報を仲間である桃根こいとに伝えた。そのことによってこいとはコマリに興味を持ち始め、とうとう家を特定してしまったと。

「なるほど。大体話はわかった。分かったうえで言う。帰った方がいい」
「ほんとですかっ!ってえぇぇぇぇ!??」

 こいとは分かりやすく口を曲げ、不満の意を表す。

「なんでですかっ。せっかくここまで来たのに! せめて挨拶だけでもっ」
「コマリの逆憑きは、霊を集めるだけじゃねえんだ。アイツがいるだけで急に雨が降るし、物は壊れるし、ポルターガイストも起きる。悪霊だって寄ってくるぞ。つまりこの家・俺の部屋はヴァイオレンスなんだ」

 そんなウザい・うるさい・鬱陶しいの3Uの場所にお前を入れたらどうなると思う?
 俺の負担がまた一つ増えるんだ。ああ、頼むからこれ以上俺の頭痛の原因を作らないでくれ。
 
「なーんだ、そんなことかあ」
「そんなこと!???」

 そんなこと、で片付けられる問題ではないんだけど!?
 怪訝な視線を向けた俺には構わず、こいとは空中からカーペットに降り立つと、右人差し指をくるくると回した。
 

「わたし、実はオオクニヌシの神と体を共有しているんですっ」
「……は?」
「なので些細な運気の変化の察知とか、悪霊退治とか。お手伝いできると思いますよ!」
「いや待って? オオクニヌシって何?」

 なんか突然、分けらからん単語をぶっこまれたんだけど。
 今までの話の流れが急にグルンと曲がって、俺は目を丸くする。

「オオクニヌシは、日本神話に出てくる縁結びの神様です。実は、幽霊になる時、色々あって神様の魂とくっついちゃいまして」
「は!? なにそれ!? ご、ごめん説明が全然分かんないんだけど」

 怒鳴った俺に対し、こいとはポカンとしている。
 なんで怒られたのか理解できないらしい。

「え、だってうち、幽霊で……、魂が二つあってぇ、そんでフラフラと宙に漂ってたら、交差点でお姉さんに会って、その人のおすすめの場所が、たまたまそこがココだったっていう話じゃん」
「『じゃん』言うな。何も解決してねえんだよ。勝手に語彙力を他界させるんじゃねぇ」
 顔をしかめた俺に、こいとはなおも口を開けたまま固まっている。

 俺なりに精一杯、こいとの話を読み解くと。
 幽霊は死んだ人の魂が実体化して生まれたものだ。通常、霊の魂はひとつ。
 しかし、何らかの形で、霊へと変わるときに他の魂と融合してしまうこともある…ようだ(?)。
 オオクニヌシの魂に、違う人間の魂がくっつき複雑に絡み合ったのが、桃根こいとだ(言い方はアレだが)。ゴースト・キメラとでも呼ぼうか。
 
 内容が支離滅裂で一ミリも理解できないが、コイツはどうやら複雑な事情を抱えているようだ。
 今すぐにでも深堀りしたいが、わざと回りくどい発言をしているところを見ると、聞かれるのを避けているようにも感じられる。ここは一旦、様子見と行くか。

「うち、オオクニヌシなんで、恋愛相談とかできるし、お手伝いしたいなーって思って! 悪霊じゃないですよ。ほら、こんなにキュートでかわいいしっ」

 頬に手を添えて、流行りの小顔ポーズをし出すこいとに、俺は幻滅してしまう。
 これから俺は、コイツとコマリを会わせなくちゃいけないってことか?

 えぇぇぇぇぇ、ほ、本気で言ってます……?
 こいつが良い霊だという証拠も、この先の未来が明るくなるという期待も、全然ないんですけど。
 ってか俺の仕事(&ストレス)がどんどん増えてきてるんですが、そこんとこ理解してますかね!!

 

 
 

Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.8 )
日時: 2023/12/17 12:09
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 〈コマリside〉

 家に帰ると、知らない人が私の部屋でポテチを食べていた。
 おかげで、散らかった自室はさらに汚部屋に……。

「あ、お邪魔してまーす」

 期間限定・ポテトチップス明太子味の袋をビリビリッとやぶきながら、不法侵入者はふわふわと浮いている。
 セーラー服の上に白いパーカーを羽織っている。
 その身体はうっすらと透けており、まわりには白い靄のようなものが発生していた。

「え、誰?」
「ももねでーす。この味まじやばー。ぱなーい」

 なにこの人。めちゃくちゃハイテンションなんですけど。
 え、人って言っていいのかな? ゆ、幽霊?
 でも、霊感がない自分にも見えてるってことは、やっぱり人間? どういうこと?

 難しいことを考えるのは苦手。
 面食らってしまった私に、同じくお菓子を食べていたトキ兄が説明してくれる。

「こいつ、浮遊霊の桃根こいと。おまえの逆憑のオーラに惹かれて、この家を特定したらしい」
「と、特定って。ストーカーじゃん!」

 目に見えないから余計にこわいよ!
 陽じゃなくて陰属性の方でしたか。失礼しました……ってなるかい!
 置かれた状況について行けなくて、心の中のツッコミコマリとボケコマリが漫才を始めちゃったよ。

「ちなみに、恋愛の神様らしい」
「へっ?ど、どういうこと?」
「よーするに、二つのソウル持ってんだと。ウルトラソウルッ! ってやつよ」

 ロ●ンスの神様……? そ、それにウルトラソウルって。
 たとえがマイナー過ぎるよトキ兄。元ネタしってる私ですら、一瞬動揺しちゃったし。

「言い方ひどいですよぉ」
と、こいとは唇を尖らす。

「特定したのはリア友だって説明したじゃん~」
「リア友?」
「あ、幽霊友達でーす」

 ノリが軽すぎる。あなたほんとに神様? 
 ここまで明朗快活な幽霊は初めて見るよ。
 近寄ってくるのは、血相の悪いどんよりとした悪霊ばっかりだったし(悪い霊は霊気が強いから、たまに目に視えたりする)。


「コマリさん、悪霊に狙われてて困ってるんですよね? コマリが困る! あは、マジ卍~」
「……そう、だけども……」

 最悪だ。一番いじられたくなかったのに。体質が判明してから、この名前が正に『名は体を表す』でさ。個人的に、コンプレックスになっちゃったんだよね。
 こいとちゃんのテンションに乗れず、わたしは小さな声で返事をした。

「うちならその悪霊、倒せるよ」
「はあ? お前が?」
 トキ兄が肩眉を上げる。
 家に上がらせたはいいものの、まだ彼女のことを信用しきってはいないみたい。確かに第一印象がアレじゃ判断はむずかしいよね。


「なにその反応。塩対応かなしいなあ。んじゃあ見せたげるよ、うちのチカラ」
 こいとちゃんは自信満々に宣言すると、くるりと体制を整え床に降り立つ。

 そして、右手を頭上に突き出す。指先から、薄紅色の光の球が現れた。
 それは徐々に大きくなっていく。静電気も鳴ってるし。


「な、なになになになに!? かめ●め波?」
「必殺★恋魂球(ラブコンボール)ですっ! あ、打たないから安心して~。指パッチンで出し入れ可能。便利っしょ? 敵に打つと数メートルぶっ飛ばせて、こっちの運気はUPしまあす」

 わかりやすく説明してくれてありがとう。そしてごめん。
 必殺技の名前のインパクトが強すぎて、内容が全然頭に入ってこないです(泣)!
 ラブコンボールて。
 

 

 

 

Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.9 )
日時: 2023/02/27 20:30
名前: かのん ◆7igY4SLYdc (ID: DIeJh8tY)
参照: https://www.kakiko.cc/novel/novel7a/index.cgi?mode=view&no=2629


はじめまして。かのんと申します。

小説、とてもおもしろかったです。
台詞にも地の文にも笑える要素がたくさんあって、気づいたらあっという間に最新話まで読んでしまっていました。

キャラクターもすごく好きです。
一番好きなのはミネ・ダークネスです。いや、あらためて打つとミネ・ダークネスって…笑
彼が自称した名前はともかく笑、雰囲気がかっこよくてとても好きです。

コマリちゃんもかわいくて好きです。
授業中の素行が悪すぎて、44点実力なんじゃ…?と若干思ったりもしましたが笑、
こいとちゃんが寄ってきたので、本当に逆憑きなのね、と見直し(?)ました。

こいとちゃんも台詞が面白くて好きです。
セーラー服の上に白いパーカー羽織ってるキャラは絶対かわいい(偏見)。

すみません、長々と書いてしまいましたが、次の話もたのしみにしてます。
更新頑張ってください。

Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.10 )
日時: 2023/02/28 17:46
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 >>9 かのん様

 応援コメントありがとうございます!
 とても嬉しいです。

 コマリちゃんはやるときはやる、やらないときはとことんやらない性格です。

 小学生の時はしっかり勉強→体質により点数ダウン
 現在は「まあ逆憑きだしいっか」と自らサボっているみたいです。

 それでもなんとかギリ赤点を免れているのは、
 ミネ・ダークネス(笑うな作者)が勉強を見てくれているおかげです。
「とりあえずここの問題やっとけ」
 的な感じでしっかり教えてくれてる(コマリ談)
 なんだかんだ言って美祢は世話焼きです。

 こいとは可愛いです。
 ていうかこの作品の中で素行がいいのは、今のところ杏里だけ!?
(大福は机の上に腰かけてましたし。それでいいのか作者)

Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.11 )
日時: 2023/12/17 12:16
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 前作のカオスヘッドな僕らを見てくれた人ならわかると思うんですが
 相変わらずキャラが変な人しかいない。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 〈こいとside〉

 美祢さんがコマリさんに話をつけてくれたおかげで、うちは無事(?)彼女の協力者として家にお邪魔する権利を得た。

 ゴーストのキメラである自分は、たまに頭の中に知らない女の人の声が響くことがある。
 これが多分、恋愛の神様・オオクニヌシノカミなんだろう。

 魂が2つあるからと言って、人格がチェンジしたりすることはない。
 たとえば急に背中から羽が生えたり、後光が差したりとか。ノンノン。
 基本的には、今喋っているこの人格がメイン。あとは特殊能力的な感じで、神様のチカラを使わせてもらってるだけだ。

(……オオクニヌシノカミ?)
〈なんぞ〉

 美祢さんとコマリちゃんが買い物に出かけたのを機に、うちは心の中で相棒に問いかける。
 静かで凛とした声音で、オオクニヌシノカミは応えた。

 んもう、口調が固いなあ。
 神様だからとはいえ、いつまでもそんな冷たい態度じゃ嫌われるよ。

(なんで、うちの身体に入ろうと思ったの?)
〈何か問題でも?〉

 生まれつき、オオクニヌシノカミ(長いな。これからはクニたそって呼ぼう)と意思疎通ができてたわけじゃない。
 中学1年生で死ぬまでは、うちは普通の人間の女の子だった。

 動くことと歌うことが大好きで、アイドルに憧れていてね。
 中学校では演劇部で頑張ってたの。
 努力をすることを苦痛とは感じなかった。必死に練習して四か月後には、マシな役を貰えるようになって、先輩も同級生も褒めてくれて。好きな人も……できて。

『一緒にアイドルのライブ行こうね』って約束したんだ。
 でも。うちの夢は叶わなかった。うちの人生が終わったからだ。終わったはずだった。

 ――終わらせたはずだった。

(なんでうちを助けたの)
〈アレしか方法がなかったからじゃ。あのままではお前は、奴に吸収されていた。悲惨な最期を遂げることになってしまったんじゃぞ〉

 悲惨な最期か。
 でも、わたしは彼と一緒にいられるなら、どんな運命でも受け入れるつもりだったよ。

〈こいと。お主のその言い方はまるで、『お前さえいなければ死ぬことができた』と言ってるようなものじゃよ。勝手に自己完結するのはやめたらどうじゃ。お前には嘘が似合わん〉
「………」

〈それに、会いたい相手がおると聞いたが。それはもうよいのかの? 月森のおなごに協力するとか騙っておったが、わらわはもっと別の理由があるとみて踏んでおる〉
「……」
〈お前はそ奴に会うために、月森コマリを利用する。違うか?〉

 


 

Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.12 )
日時: 2023/03/05 21:11
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)


 お知らせ。次回の更新日は、3・6日です。
 お楽しみに。

Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.13 )
日時: 2023/12/17 12:25
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

  〈美祢side〉

 その日の夕方、俺達は夕飯の材料を買いに、近くのスーパーへ行くことにした。
 こいとの歓迎会もかねて、たこ焼きパーティーをする予定だ。
 
 俺としては、コマリの世話役が増えて安心している。あいつは何かとガサツで扱いづらい。
 その点、こいとは言動こそ荒いものの敬語を徹底しているし、真面目で素直だ。彼女になら任せてもいいだろう。女子同士だし、会話も弾みそう。

 「うわああああん、なんで急に降るのぉぉ」
 スーパーにつくなり、コマリが泣き崩れた。彼女のスウェットは、突然降りだした雨によってびしょびしょになっている。うっすら下着が……おっと、これ以上はセクハラだ……。


 「わー、すごかったですねぇ。これが逆憑き。あはは!」
 「こいとちゃん、なんで笑えるのぉぉ」
 「幽霊は天気事情とかどうでもいいので」
 「ずる過ぎるよおお」

 こいとは現在も、空中をゆらゆらと浮遊中だ。
 俺たちには高くて届かない棚の商品を、代わりに取ってくれている。
 でも俺は見逃さない。今、カートのかごの中に、じゃがりこを放り込んだな?

「さて、なんのことやら」
 こいとは『わたし、違いますよ』ってな表情だ。白々しいにもほどがあるだろ。

「返してこい。今すぐ。おまえ昼も俺のお菓子勝手に食ってただろ」
「だって期間限定ですよ!? 明太子味ですよ!」
「明太子が好きなのはわかったから、ほら、閉まって来い。店員さんに気づかれるとやばいんだよ。ちょっとは察しろ」

 一般人視点で見ると現在の状況は、かなりカオスだ。
 びしょ濡れでガミガミ説教している、桃色の髪の男子高校生。同じく頭から雫を垂らしている女の子。そして、宙に浮いているじゃかりこ(明太子味)。

「そんなんだからモテないんだよ」とかブツブツ言っていたこいとだが、目立つのは避けたかったようで、不服ながらもお菓子を棚に戻す。

「あはは、恋愛の神様に言われちゃったね、トキ兄」
 コマリはとっても、嬉しそうだ。
「ほっとけよ」
 俺はプイッと顔をそらす。
 別にモテたいとか思ってない。恋愛に時間をとられる位なら家でゲームをやってる方がマシだ。

 ……いや、でも。
 もしも自分にチャンスが回ってくるのならば、そんときは、まあ、楽しまないことも、ない。
 
 チラリとコマリの顔を覗き見る。まんまるの瞳。赤みがかった頬。
 こいつ、大人しくしとけば意外と………。
 って、何考えてんだ俺。無理無理無理。こいつと付き合うとかマジ無理。

 ん?? え、待って俺今付き合うって言った?(注:言ってません。心の声です)

「うわああああああああああ!??」
「えっちょ、トキ兄??」
「お、おま、離れ、離れろよ」
「べつに、くっついてないんだけど」
「くっつっ!?」

 待て待て待て。落ち着け。なんでこんなに焦ってんだ?
 自分でも自分が分からない。どうしちゃったんだ?

 ま、まさかまさかまさか……、こいとか? 
 あいつ確か、運気アップとか言ってたよな。恋愛魂だっけ? あれ、確か出したよな? そのせいで俺達の恋愛運が上がって、異性を意識するようになったとか? か、考えすぎ?

「なに叫んでんの? 怖いんだけど!? く、狂ったの?」
 コマリが素っ頓狂な声を出して、そっと右手を俺のおでこに押し当てる。
 すべすべした感触が、手のひらからじきに伝わってきて。

「ひゃっ」
「熱はないね。だ、大丈夫? 知恵熱? わ、私が頼りないから無理させちゃったのかな」
「うっ」
 彼女の手が、おでこから、今度は俺の右手に移る。指と指が絡まり合う。

「え、あの、え……?」
「いつもありがとう、トキ兄」
「………う……。っ??」

 なんで俺はこんなにドキドキしてるんだろう……?
 頭がフワフワして、身体に力が入らない。どうしよう。なんだこれ。マジでなんだこれ。
 コマリは何も感じていないみたいだ。ただひたすら、赤い顔をして棒立ちになっているパートナーへ、思案気な表情を浮かべている。

「こ、こいと……おまえなんか、やったのか……?」
「え、な、なんのことですか? え、ってか、すごいハアハア言っててヤバいんだけど。大丈夫そ?」

「は、はあ? おまえの能力じゃねえのかよ……」
「ち、ちがいますよ? こんなことできません。恋愛の運気も、美祢さんの場合ずっとゼロですよ」

 こいとは、疑われたことへの怒りと、俺の体調の変化への驚きで半々といった具合だ。
 もしかして、昼間盛られてた菓子になんか入れられてたか? んな、馬鹿な。

 と、不意にコツコツコツ、という靴音がした。
 目の前が暗くなる。誰かが俺の目の前に立ったようだ。誰だ……?

 身長は俺より一回りほど大きい。百七十センチ前後だろうか。やたらとサイズの大きい白衣を身にまとっており、髪色は艶のある黒。横に垂れている髪だけ長く伸ばし、後ろはウルフカットに整えられている。

「やあやあやあやあ! 久しぶりやなあ美祢」

 その男は、おかしな訛り口調でべらべらと言葉を続けた。


「随分あっさりとかかりよったけど。ボクの操心術そんな強ないねん。なんや、弱くなったんとちゃいます?」





Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.14 )
日時: 2023/12/17 12:24
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 さあて、どんどんラブコメチック&キャラの心情が入り混じるストーリー
 謎の人物とは一体?
 本日は二話投稿です♪ 新キャラも愛してね。
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 〈コマリside〉

  あれ……? 私、今まで何してたっけ?
  我に返るのと同時に、自分がトキ兄の両手を強く握っていることに気づき、困惑する。

 「え?」

  全てを理解し、私の顔は一瞬で赤く染まる。体温が上昇し、鼓動が速くなるのが分かる。
  おそるおそる前を見ると。トキ兄が、頬を紅潮させながら目を潤ませていた。
 
 「あっははははははは! こんな簡単にハマるとはなあ!傑作傑作」

  後方で、周りの人の視線も気にせず高笑いしているのは、背の高い男の子。
  歳は、トキ兄と同じ位かな。端整な顔立ちをしており、率直に言えばかなりのイケメンだ。
  彼は腹を抱えながら、ゼエハァと肩で息をしている。笑い疲れて、しんどいようだ。

 「……おまえ」

 トキ兄の口から、ぞっとするような低い声が漏れた。
 顔をこわばらせ、鋭い目つきで相手を睨んでいる。怒ると怖いのは理解していたけれど、ここまで感情をむき出しにしたのは初めてだ。


 「なんやねんミネ。いとこにそない怒ることないやろ」
 「「いとこぉぉ???」」
 「せやでー」


 私とこいとちゃんの声が揃う。この子、時常美祢のいとこなの? 
 それにしては、トキ兄への当たりがいささか強すぎやしないだろうか……。それに、操心術って。この人、一体何者なの?
  
「あ、自己紹介が遅れたわ。ボクの名前は夜芽宇月やめうづき。職業はハンター」
 彼―宇月さんは白衣のポケットに手を突っ込んだ。

「ハンター?」
「あ、知らん? うーん、君にも分かるように言い換えれば、祓い屋のことやな。霊能力を使って、霊を狩る。ボクの家系は陰陽師の末裔で、微力ながら霊能力が使えるんよ」

 れ、霊能力者って、実在するもんなんですね……。
 漫画やアニメで馴染みのある言葉ではあるけど、いざ現実に現れるとどう対応していいやら。こ、これも逆憑きの効果かしら?

「なんでここにいるんだよ宇月。おまえ、京都の大学行ってただろうが」

 トキ兄の態度は変わらず悪い。どうやら、そんなに仲はよろしくないようだ。
 無論、能力とやらで心を操られ、弱みを握られて黙っている人はいないよね。

「ちょっと大学が自分と合わんくてな、中退することになったんや。そのあと、おまえから同棲の連絡が来て。ちょうどボクもハンターの異動で東京に移る予定やったから、連絡も取れてええかなと思って。美祢は昔から口先だけであんまり動かんしな。ボクがコマリちゃんの周辺の霊倒せば、安心して暮らせるやろ?」

「俺がいるだろうが!」
「美祢は何もできんやろ」

 トキ兄の叫びを、宇月さんは冷ややかに一掃する。
 軽薄な口調の裏には、ぞっとするような圧があった。

「霊が見える。ただそれだけ。それで人を救うなんてあほらしくてしゃあないわ。パンチ一つも打てんやつが、女の子を救えるわけないやんか」

 やめて。

「ボクは、なにか間違ってることを言うてるかな? アンタには無理だから、年上に任せろ。そない難しいことやないで。なあ、大人しく言うこと聞けや」


 ……やめて。


「現に振り回されてるやん、術にもハマるし。なあ、いつまで無能さらしとるん」


 ………やめて!


「もうやめて!」

 考える前に体が動いていた。
 私はトキ兄の前に立ち、両手を広げる。足も手もガクガク震える。大きい人に怒鳴るのはこわい。でも、それでも。

「あ、あんた、何なんですか。わ、私のパートナーを、舐めないで、ください!」
「っわ」

 宇月さんの腕を強くつかむ。
 虚を突かれて、宇月さんが一歩後ろに下がった。

「わ、わたしの、トキ兄を、悪く言わないでください!!!」

 トキ兄は無力なんかじゃないよ。私のルームメイトは、ボディーガードは、とっても優秀だよ。
 毎日毎日、テレビ電話を繋いで、危険がないか調べてくれたり。宿題で分かんない所があれば、教えてくれたり。
 けだるい雰囲気を出しつつも、なんだかんだ言って彼は優しい。私もついつい甘えちゃって……。

「束縛の強い男はフラれるよ」
 こいとちゃんがポツリと呟く。
「うちもあんたのこと、大っ嫌いだから」

 宇月さんは、数秒間フリーズしていた。
 三人から敵意を向けられたことに耐えられなかったのだろうか。それとも、自分の行いを少しは顧みてくれたのだろうか。


「……おい宇月。俺も確かにおまえのこと嫌いだけどさ、昔はこんな感じじゃなかったじゃんか」
 トキ兄が縋るように言った。
「少なくても、数カ月前は穏やかだった。一体どうしたんだよお前。きゅ、きゅうに来られて、大学辞めたとか術かけたとか言われても訳分かんねえよ」

 宇月さんは、「ハァーーーーーーッ」と長い息を吐く。その息には深い哀愁を帯びていた。まるで、なにかを必死に押し殺しているような、そんな息づかいだった。

 

Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.15 )
日時: 2023/12/17 12:17
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 コロナ・39度の熱で更新が出来ませんでしたが
 ようやく熱が下がりました(まだ隔離中ですが)
 
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 〈宇月side〉

 「………ごめん。疲れとんのかな、ボク。あかんわ」

 なんで、こうも自分は極端なんだろう。
 術なんかかけたら、それこそ怒られるに決まってる。あんなきつい言い方したら、当然悪い印象になるのも分かってる。頭ではしっかりと理解してるのに、いざ対面するとこうだ。

 生意気で、口が悪くて、プライドが高くて、わがまま。
 今日もまた空回り。

「か、帰るわ。ひどいこと言って悪かった」
「お、おいちょっと、宇月?」
「……またな」

 ボクはくるりときびすを返すと、逃げるようにして出口へと歩き出した。
 くちびるが震えて、目の端からは涙があふれる。あかん、なに泣いてんのボク。泣きたいのはあちら様の方やろ。

 と。

「うわぁっ」
「おうわっ」

 うつむき加減で移動していたからか、目の前に迫ってきた客と頭をぶつける羽目に。
 ゴツン! という鈍い音が響き、ボクも相手も頭を抱えてうずくまった。

「いっっっって!? おいアンタどこ見て……ってあれ、向こうにいるのって月森……?」
「……………へ?」

 ぶつかってきた、水色のTシャツを着た中学生くらいの少年の視線が、とある人影を捉える。
 視線の先では、先ほど別れたばかりのあの三人衆が、お菓子コーナーの近くで遠巻きにこちらを眺めていた。

 

Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.16 )
日時: 2023/12/12 11:48
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 宇月さんがもし学校に居たら絶対仲良くなれないむうですが
 ある意味コイツが一番人間らしいんじゃないかなとは思ってます
 はよそのプライド捨てやぁ(親)

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 〈コマリside〉

 宇月さんを一言で表すなら、『台風の目』だ。
 突如現れ、私たちを自分のペースに巻き込み、翻弄し、そしてすぐに去る。その際に、新たな災いを引き寄せる。

 出口へ移動するのをずっと目で追っていたわたしは、彼が尻餅をついた音で肩を震わせた。
 す、すっごい音したけど、大丈夫かな……?

 この位置からじゃ宇月さんの背中しか確認できないけれど、周りのざわめきから察するに、人とぶつかってしまったようだ。
 
「すっげえ音したな」
「で、ですね」

 トキ兄とこいとちゃんも、お互い顔を見合わせる。時間の経過と共に、険しかった二人の表情は、穏やかなものに戻っている。

「あ、頭とか打ってないといいけど……」
「アイツ石頭だからな。大概の衝撃には耐えられるだろ」

 トキ兄はフンと腹を鳴らして腕を組む。
 散々ひどい目にあわされたので、こういうのは見てて気持ちいいんだろうな。

 で、でも、そんな漫画みたいなことにはならないんじゃないかなあ。
 あの感じ、わりと派手に転んでるよ……? 

「あんな奴なんかほっとけよコマリ。おまえだって操られただろ」
「それはまあ、そうだけど……」

 出会って数分しか経ってないけれど、プライドが異常に高いことは充分把握できた。ただ聞いた感じ、あれが素の状態というわけでもなさそうだ。
 なんだか話しづらそうにしていたし、声もところどころ裏返ったりかすれたり。スラスラと一定のトーンで喋る、ということがなかなかなかったように感じる。

 うーん、よく分からないなあ。
 意地悪なことは意地悪なんだけど、かといってめっちゃ悪い人でもなさそうだし……。
 それとも私の認識が甘いのかな?

 普段使わない頭を一生懸命動かしていると。
 
「あれ、月森!?」
 聞きなれた声が耳に飛び込んできて、私は反射的に顔を上げる。明るいハキハキした口調。
「だ、大福!」

 宇月さんの真ん前で倒れていた男の子が起き上がった。その人物を私はよく知っている。
 ストレートの短髪。程よく日焼けした肌。155㎝と、男子にしては若干低い身長。
 クラスメートで私の友達・福野大吉の声は、私に会えた嬉しさと驚きでいつもより大きかった。

「な、なんで大福がこのスーパーに? 地区違うのに」

 大福の家と、私が住んでいるアパートは正反対の方向。
 自転車で三十分もかかる距離なのに、なんでわざわざこっちのお店に? 支店なら大福の家の近くにあるじゃん。

「叔母さんちがこっち方面でさ。今日は親戚みんなで集まる日だったんだ。母ちゃんが叔母さんの家まで車で送ってくれたんだ。俺は食材調達係ってことで、スーパーの近くに降ろされたけどな」
「そうなんだ。杏里がいないから珍しいと思って。よくお買い物デートとかしてるもん」
「デートって言うな」

 大福は恥ずかしそうに顔をそらした。
 杏里に好意を抱いてるのはバレバレなんだから、隠さなくてもいいのにな。

「俺のことはいいんだよ。月森こそ、横にいる人って彼氏? だよな?」
「「あ」」

 ……………あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(恥辱+涙)!!
 そうだ。私たち、先日カップルと盛大に誤解されたんだったぁぁ。

「え、えっと……」
「うわ、イケメン! しかもめっちゃオシャレ~。高校生っすか? すげえ!」
「いや、その、あの」

 トキ兄の今日のファッションは、鎖やらボタンやらがたくさんついた、ゲーマー風のパーカーに黒いズボンだ。蛍光ピンクの髪と相まって、本当にプロゲーマーみたい。
 こういう服持ってるなら、着る頻度増やしたらいいのに。

(コマリ……! マジどうするよ)
 あああ、トキ兄、目で訴えかけるのやめてぇぇ。
 こちらまで居たたまれなくなってくるよ!

 ど、どうしよう。流石にこの状況では逃げられない。
 こいとちゃんはあの時いなかったから、この件をそもそも知らないし。

「どどどど、どういうことですかっ? カップルって何ですかっ? めっちゃ気になるっ! わあああ」
 大福の霊感がないのをいいことに、観戦者としてひとりで盛り上がってる恋愛の神様ゴースト
「トキマリってカップル名つけよっかなあ。萌えるなあぁ、いいなあ」
 
 宇月さんは、一瞬『何が起こった?』と目を白黒させていたが……。
 数秒後、全てを悟ったのか、口パクで「たすけてあげようか」としきりにサインを出し始めた。
 ……ほんっとうに憎たらしい。

(ど、どうするトキ兄。カップルの振りでもしてごまかしとく?)
(いや、気まずすぎるだろ。あの恋愛マスターこいとは使えないのかよ)
(ラブコンボールだよ!? お店の商品壊しちゃうよ!)

 改めてラブコンボールってひどいな、名前。
 もっと、トゥインクル★とか、トキメキ★とか、なかったんだろうか。
 
(もう真実打ち明けたほうがよくないか?)
(打ち明けてからのコレだからね。勝手に脳内でカップル変換してるからさ……)
(うう、やる、しかないのか?? マジで? さっき事故でやったばかりなのに?)

 再び宇月さんの口パク伝言「たすけてあげようか」が発令される。
 うう、なんでこの人の能力がよりによって心を操る能力なんだろう。

「彼氏となんかやったりすんの? ちゅ、ちゅーとかさ」
「!? ……え、えと………」

 ああ、大福、その純粋無垢な目をこっちに向けないで。
 そしてこいとちゃんも、私たち二人が黙ってるのをいいことに「キース、キース」とか言わないでぇぇ!! そして宇月さん、口元が震えてますよ笑わないでください!

「…………仕方ない。コマリ、ちょっと我慢しろよ」
 と、トキ兄が小声で告げる。
 な、なに? と尋ねようとした瞬間、くいっと右手を引っ張られた。

 私の指とトキ兄の指が絡まり合う。
 あっという間にわたしの右手は、がっちり握られてしまった。し、しかも、これってその、あの。
 こ、恋人繋ぎってやつ、だよね……?

(え、ええええええええええええええええええええええっっ)

 やばい、心臓がうるさい。頭が、ぼうっとして体がふらふらして。
 今、宇月さんの術はかかっていない。ということはこれは、私の……?

「そうです、俺はコイツの彼氏です。何か問題でもありますか」
 トキ兄はややつっけんどんに言うと、大福を下から見上げた。

(ちょ、ちょっとトキ兄、本気―――――――――?)

Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.17 )
日時: 2023/03/14 16:45
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 閲覧数200突破ありがとうございます!
 そして第1章は、こちらで終了となります。第2章は4月から連載します~お楽しみに!
 
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 〈再びコマリside〉

 ………ホント、びっくりしたなあ。

 私はまだドクンドクンと高鳴る胸を服の上から抑えながら、家へと続く坂道を歩いている。
 右手には、スーパーのレジ袋。中にはたこ焼きで使う具材やらソースやらが一緒くたになって入れられている。

 あのあと、トキ兄の迫真の演技(?)のおかげで、私は余計な検索をされることなく大福と別れることが出来た。
 大福はすっかりトキ兄に憧れてしまったみたいで、別れ際「いやあ、ほんと、美祢さんってかっこいいな!」と手をブンブン振っていた。
「あの人に憧れて、次から髪染めてきたりしないだろうな」と苦笑いする反面、「確かにかっこ、良かったな」と納得する自分もいて。

「んじゃ、ボクもおいとまするわ。ほんとごめんな。ミネ、なんかあったら連絡しろよ。ボクが言えた話やないけどな」

 ご存知スーパー腹グロ霊能者の宇月さんとも挨拶をし、騒がしい買い物は幕を閉じた。
 思えば今日は、こいとちゃんとの出会い、宇月さんの騒動、大福との再会と、イベントが目白押しだったなぁ。
 これも全部体質が原因なら、私は〈動く死亡フラグ〉ってことか。嫌だな、こんな二つ名。

「……あのう、お二人さんソーシャルディスタンス取りすぎじゃないですか」

 と、沈黙に耐えかねて、後ろを歩いているこいとちゃんが口火を切った。
 彼女の眼の前……の人影―すなわち私とトキ兄は、一メートルほどの距離をとっている。
 お互い近くに行こうと歩幅を合わせても、無意識に体が離れてしまうのだ。

「まあ、勝手に介在してしまったうちも悪いんですけどね。いいですよ、お二人が邪魔だっていうなら出て行きますよ」
「そ、そんな!」
 ぷうっと頬を膨らませるこいとちゃんに、私は慌てて言った。

「そんなと言わないでよ。私、こいとちゃんのこと好きだよ」
 兄妹がいない私にとって、彼女の存在は本当の妹のようだった。コマリさん、コマリさんと呼ばれるたび、胸の中に温かい気持ちが溜まって行って。
 だからそんな悲しいこと、言わないでほしかった。

「そ、そうですか。あ、ありがとう……ございます」
 こいとちゃんは照れたようにうつむく。
 自分からはグイグイ行くくせに、言われるのは慣れてないらしい。ほんと、そういうところが無垢でかわいいんだよな。

 「…………トキ兄も、もう、大丈夫だよ」
 「は?」

 スーパーを出てから今までずっとだんまりを決め込んでいたトキ兄は、私の言葉で久しぶりに顔を上げた。
 相変わらず目つきの悪い相貌で、こちらを一瞥する。

 「何の話?」
 「もー、とぼけないでよ。宇月さんのときも、大福のときも。私のこと守ってくれたでしょ」

 トキ兄は一瞬なにか言いたそうに口を開いたけど、それは息となって空気に混ざる。
 彼はそっと目を伏せた。本音を隠そうとするときの、いつものクセだった。

「別に、あれは守ってない。宇月の話はどれも正論で間違いじゃなかった。コマリの同級生のときは、ああするしか方法がなかった。ただ、それだけだ」

 誤解されやすい見た目や発言をしているけど、私は知ってる。
 この時常美祢という男は、『ただ、それだけ』のことを、勇気を振り絞って実行できる人だ。
 本人にとっては些細なことかもしれない。でも私はあの時、彼に手を握ってもらったおかげで、気持ちが落ち着いたんだ。


「迫真の演技でしたね! どっかで習ってたんですか?」
「いや、あれはカン。あの数分間の思考でできることなんて限られてるしな。宇月にヘルプするのは、その、自分のプライドが許さなかったんで」

 
「あぁ……。でも、あの頬を赤らめる仕草とか、クオリティ高かったですよ。経験ある私でもドキドキしちゃいましたもん。って何そっぽ向いてんですか美祢さん??」
「うるせえ」

 見ると、トキ兄はさらにさらに私とのスペースをとり、塀と歩道ギリギリの所をわざわざ通っている。
 え、私、ついに嫌われちゃったんだろうか……? 
 っていうか、あんな塀に密着してたら服汚れるよ!


「言っときますけど、このラブリーキュートのこいとちゃんに隠しごとなんて出来ませんからね! どこに居てもあなたの運気は筒抜けなんですから。……あれ? お二人とも運気が上がってる。ふんふん……はあはあ、そういうことかあ。しめしめ」

 え、待ってこいとちゃん、ひとりでブツブツ呟かないで。しかもニンマリ笑ってるし。
 そういうことってどういうことなの??
 そしてなぜトキ兄は、あんな隅っこにいるの? か、顔も合わせてくれないし!
 
「色々と疲れたんでしょう。波乱の一日でしたし」
 こいとちゃんは淡々と答える。
 流石幽霊、私たちとはちがって、息が切れたり足取りが重いなんてことにならないのが羨ましい。

「そっか。そうだね。よしこいとちゃん! 今日は早く帰って、たこ焼き作りまくろう! ひとつだけワサビ入れて、トキ兄に食べさせたりするのもいいね、うふふ」
「おーい聞こえてんぞー」

 わいわいがやがやとお喋りをしながら帰路を辿る私たちの頭上には、満天の星空が広がっていた。



 ――第1章 END―――


 コマリ「第2章は4月1日から連載するよ!」
 美祢「第1章以上にドタバタドキドキした日常をお届けするので、楽しみにしててくれよな」
 こいと「ラブラブイチャイチャのシーンも増量予定♪」
 宇月「キャラの過去に迫るストーリーや、バトルシーンなんかも登場するで!」

 作者「それでは、次回もよろしくお願いいたします~」
 全員「ばいばーい」

Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.18 )
日時: 2023/03/31 11:43
名前: むう (ID: viErlMEE)

 むうです。第2章は4月1日からと言っておいてアレなのですが
 プロットを書いていたら、書きたい欲が抑えきれなくなってしまいまして。
 少し早いですが連載始めちゃいます! よろしくお願いします。
 
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 第5話「要らない力」

 〈宇月side〉

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 天気は曇天。灰色の絵の具をぶちまけたかのような雲に覆われて、お天道様は姿を隠していた。
 雨のせいで外出する人は少なく、家の灯だけが夕方の暗闇に映し出される。
 しかし現在、閑静とした街の空気に、ボクの地面を蹴る音と荒い息づかいが混じっていた。

「くっそ、たれ……っ!」
「ケケケケ……ケケケケ……」

 ボクは背後に迫る敵を睨みつける。蜘蛛のような風体をしている化物だ。黒くて丸い球のような体に、人間の腕が二本生えている。
 その腕を使って、地面を這うように動く。
 それはまるで有名な害虫・Gのようだ。

「なあ、おい篠木しのき! いつまで待たせんのや、とっとと来らんか!」

 ブーブーブーブー。
 白衣のポケットにしまっていた通信機器に向かって呼びかけるも、応答はない。
 今回の作戦内容は、襲って来た悪霊をボクの能力・操心術(マインドコントロール)でひきつけ、仲間が合流する時間を作り、他のハンターによって倒すというもの。

 なのにさっきから連絡は来ないし、キモい悪霊は近寄ってくるし、力の使い過ぎで頭がクラクラしてきたし。

「こ、この土壇場でドタキャンとか頭いかれてるんか……? それとも都会の能力者は、地方からやってきた奴なんてどうでもいいのか……!?」
「ケケ、ケケ!」

 もしこのまま来なかったら。悪い予感がする。
 と、化物がいきなりこちらに突進してきた。大きな腕が眼前に伸びる。魚を捉える網のように、その掌は広く分厚かった。

「っっぶな!……う゛!」

 ギリギリのところを飛んで回避したはいいものの、キーンと耳の奥が鳴った。
 能力使用の代償で、一回使うごとに体のあちこちが痛みだすんよな。
 今日はまだ頭痛だけで済んでいるけど、これ以上使い続ければ……。

「おい篠木! なあ、返事しろ! おい……、お?」
 電話の通話画面に、かわいい猫のアイコンが表示された。
 蚊の鳴くようなか細い、けれどもしっかりとした女性の声が響く。

『す、すみません夜芽様! こ、こちらも、大変戸惑っておりまして……』
「ケケ……ケケ!」

「……なかなかしぶといな。 ………この! 〈操心術:一式〉解放!!」
「グ………ァァァァ!」 

『夜芽様、どうされました?』
「……はぁ、いや、大丈夫……なんでもない」

 電話の応対と攻撃の防御とマインドコントロール。マルチタスクを頑張る自分エライ。
 あかん、体力だけじゃなく思考まで馬鹿になっとるみたいや。

 
 今は、あのG(いや化物)が戦意を消失するように操ってるけど、アイツ中々しぶとい。
 ちょっとでも気を緩めたら終わりだ。
 ボクの力はあくまでサポート専門。攻撃手段として用いるのも憚られるような、汚い能力や。

「戸惑ってるってなんや? どうかしたん」
『そ、それが、そちらに向かう道中で多数の悪霊の襲撃にあいまして。対処するのに精いっぱいで、そちらへ向かうのが難しくて……』

 ふうん。多数の悪霊の襲撃ねぇ。
 この路地の位置は、あのアパートから北西に二百メートルってとこやな。
 あらためて、すっごい効果やなあ。
 
「あー、オッケー。そういうことなら、こっちもなんとかやってみるわ。忙しいとこ悪いな」
『いやいや、そんな。でもなんでこんなに数が多いんでしょう』

 痛いところを突かれて、ボクは顔を見られているわけでもないのに視線を彷徨わせた。
「あー、あれとちゃう? 少子高齢化とか」

『そうなんですか? なんにせよ、前はそこまでじゃなかったのに変ですね。じゃ、じゃあ私戦闘に戻りますねっ。ご武運を!』
「了解。ボクもまあ、できるだけやってみます」

 ボクは携帯の電源を切って再びポケットにしまうと、深呼吸をして気持ちを静める。
 肩の力が抜けるのを実感してから、「ケケケケ」と不気味な音を立てている化物を見上げた。

 あんな体質になってしまったあの子に同情したい気持ちもあるけれど、正直、目の前の化物も篠木さんが戦っている霊の集団も、全部コマリちゃんのせいやろな……。

 美祢は「俺が守るから」とか「いい霊の力を」とか言ってるけど、ボクとしては、そんなことで治るような簡単な話ではない気がする。
 人が逆憑きになる、根本的な原因がきっとどこかにあるはず。

 それがどんなもんかは予想がつかないわ。何事もゆっくり取り組まないといけんな。
 さて、まずは目の前の敵さんから始末するとしましょか。

「退魔具使うんは慣れんけど、まあいっか」
 ボクは白衣の内ポケットから、黒色の護符を取り出す。夜芽家に伝わるこの護符は、念を籠めるだけで自由自在に形を変えるのだ。





「〈操心術:第二式〉黒呪符くろじゅふ



 

Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.19 )
日時: 2023/03/27 08:48
名前: むう (ID: viErlMEE)

  ★本編前のひとこと用語タイム★
  『黒呪符くろじゅふ』→宇月の奥義・護符に自分の邪気を籠めて戦う技。
  『恋魂球ラブコンボール』→こいとの能力。恋愛の運気を集めてエネルギーの球にして投げる
 
  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 〈コマリside〉

 「うぅ……」

 私はアパートの自室、トキ兄と共用の狭い部屋のちゃぶ台に突っ伏して、手をバタバタさせた。
 広げたノートは真っ白。隅に置いたシャーペンと消しゴムは、全く使われていない。

 季節は五月上旬。あれから時が過ぎ、みんな大好きゴールデンウイークに突入した。
 よっしゃ、休みだ! 遊ぼう!
 そんなワクワクする気持ちを冷めさせるのが、大量に出された課題の山である。

 国数英理社のワーク、一冊ずつに加えて新出単語の意味調べに、一日一作文。
 家庭科のレポート作成、連休明けテストに向けたプリントと、やることがいっぱい。
 小学校時代は頑張っていた勉強も、今は(体質のせいだと言い訳した結果)赤点回避に全力。

「どんなに頑張っても44点なんだから、勉強する意味なくない……?」
「行ける高校無くなるぞ。俺みたいになりたくないなら頑張れよ」
 私の対面に座って本を読んでいたトキ兄が、呆れて言う。

 彼が中退した高校は、市内で有数の難関校だ。
 塾に通ったことがないらしいので、この人の地頭がめちゃくちゃいいってことになる。校則さえ破らなければ、楽々進級できただろう。

「てかお前、どこがわかんないんだよ。言えよ、教えるから」
「問題の意味がわかりません……。英訳しろって言われても読めないんだもん」

 ああ、こんなことになるならしっかり勉強しとけばよかった。
 せっかくの休みだし、貴重な時間を浪費したくないよ。

「どこだよ」
「ここここ。問2の(2)」
 私は英語のワークのページを開いて、トキ兄に差し出した。

「え? 簡単じゃん。Can I help you? Can+人+動詞で~することができますか、転じて~してもいいですかって意味になる。これは直訳すると、『私はあなたを助けてもいいですか』だ」
「な、なるほど」
「でもそれだと不自然だから、この英訳は『どうしたの?』『手伝いましょうか』みたいな感じだな」

 ほぇぇぇぇ、なるほど。
 英語って進むにつれて単語数は増えるし、覚えること多くて大変だけど、分かると割と楽しいかも……?

「そのあとも同じようなやつだな。Could you~? は、Can you~の丁寧な表現だ。この調子で問2の穴埋めは全部埋めれるはずだよ」
「うわ、すごい! やっぱトキ兄に頼んでよかったぁぁぁ」

 あんなに動かなかった手が、今はするする動く。
 人に何かを教えるのって、とっても難しいらしいけれど、トキ兄の説明は簡単で分かりやすくて、しかも本人が全然苦じゃなさそうなんだ。

「私、トキ兄と学校行きたかったなあ。絶対楽しそうじゃん。一緒に登下校してさ。授業中、宿題忘れたら見せてもらえるしね」
 
 特に深い意味はなかった。
 トキ兄に勉強を教えてもらう時間が好きだから、学校に彼がいたら学校生活がもっと華やかになる気がしたんだ。

「宿題見せてもらえるってお前、俺が隣の席って前提なの?」
「へ?」
「だってそうだろ。机くっつけるお決まりの展開だろ。そんなにピンチならもっと勉強時間増やせよ」

 トキ兄は察してないみたいだけど……。
 もしかして私、今凄く恥ずかしい考えをしちゃったんじゃ。
 横に並んで通学して、しかも隣の席にいてほしいなんて、かんっぜんに私……。

(まるで私が、トキ兄のこと好きみたいじゃん)

 とくん、と小さく胸が鳴った。でもそれはすぐに収まる。
 スーパーの騒動のあと、なんだか身体がおかしい。急に息苦しくなって、脈が速くなる。
 なんだろう、これ。

「おいコマリ。手がまた止まってんぞ。具合でも悪いのか? 休憩したら?」
「いやあ、な、なんでもない。大丈夫だよ」

 あれ、なんで私、苦笑いをしちゃったんだろう。ここで苦笑いする必要、全くないのに。
 でも、一人でいる時やお風呂に入っている時、思い出してしまうんだ。あの時握られた手の温度。

「そ、そう言えばさトキ兄。この腕輪の効果、すごいね」
「? 腕輪? ああ、宇月に送ってもらったやつか」

 私の右腕には、編みこまれた赤い腕輪が巻き付いている。
 小さな銀色の鈴がついていて、腕を動かすとシャランと鳴るんだ。
 霊能力者がよく使っている魔除けのグッズで、先週これが入った封筒が、トキ兄宛てに宇月さんから送られてきたらしいの。

「私、この前国語の小テストがあったんだけど、56点取れたんだ。初40点以上だよ。ほんっとうに嬉しくて!」
「お、おう。お前だから喜べることだよ……」
 トキ兄は、どういう顔をしたらいいか分からないようだ。泣きたいのか、笑いたいのか。片方の目をキュっと細めて、口角をあげた複雑な表情をつくる。

「雨も最近降らないし、あとさ。ポルターガイストもなくなったじゃん」
「それは俺も助かってる。ドアやふすまが揺れるたびに、抑えるのめんどくさかったし」

「宇月さん、嫌味言ってたのに、助けてくれるんだね」
 魔よけの腕輪をいじりながら、私は首を傾けた。

 宇月さんは今、K区のマンションに住んでいる。私たちのアパートから西方向に車で十分。
 この近辺で活動しているハンターさんと情報共有して、悪霊退治を続けているみたい。


「あいつは成果主義だ。意味のないことはしないし、腕輪を送ったのも自分の仕事の負担が減るからとかそういう感じだと思うぜ」
「ふうん。ってあれ、こいとちゃんは?」

 やたらと部屋が静かだったのは、ルームメンバーが一人足りなかったからか。
 この面子の中で一番騒がしいムードメーカーだ。いないだけで、その場の雰囲気がガラリと変わる。

「ああ。用事があるって、さっき出て行った。行き先を聞いても教えてくれなかった。あれこれ問い詰めるのも失礼だし、そのうち帰ってくるだろ」

 ふうん。この前話してた、幽霊友達のところだろうか。
 今日は天気もいいし、遊ぶのに越したことはないよね。

(こいとちゃん、楽しんできてね)

 私は、どこかの道をあるいであろう幽霊の女の子に心の中でにっこりと笑いかけ、再び課題をやり……いいや、殺りだしだのでした。

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.20 )
日時: 2023/03/31 23:23
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 〈再び宇月side〉

「操心術:第二式、黒呪符!」

 ボクは念を込めた呪符を、通称ゴキブリ妖怪に向かって投げつける。
 シュッと紙切れが宙を切った。
 お札は一本の有刺鉄線へと姿を変え、敵の身体を縛り上げる。

「ウ……ウウ……!」
「どうや、抜けへんやろ」
「ァァァァ……アアァァ」
「夜芽家の術は地味やけど、使い手によって威力が変わる。ハンターを怒らせたせたらどうなるか、次から覚えておかんとな!」

 妖怪はジタバタと腕を動かすが、それは逆効果だ。
 縄についている棘は敵の自由を奪い、体力を消耗させる。
 人間の感情のうち、『呪い』は最も強力だ。古代からファンタジーで登場人物を苦しめる魔法として用いられる理由でもある。

「さあさあ、気分はどうや? まあ良くはないわな。なんたって呪いやもんなあ。そこらじゅう痛むやろ、苦しいやろ。楽に逝かせてあげたいけど、生憎ボクは肉弾戦が弱いもんで」

 相手の呻き声に対して、ボクの口からは笑いが漏れた。
 これは高笑いだろうか。いいや、そんなもんじゃない。

「汚い能力でごめんな。いい成績取って頭なでてもらえるような優等生が羨ましいわ」

 ……そうだ、これは自虐だ。

 
『感情を支配するなんて、なんて忌々しい』とか。
『だから、子供の性格が悪くなったんだ』とか。
 母ちゃんも父ちゃんも、友達も親戚も仕事の人も。美祢でさえ。
 いっつもいっつも、「なんでお前は」ばかり言うて。


 自分でもうっすら感づいていることを面と向かって怒鳴られるのが一番きつかった。
 空気を読む。周りと合わせる。みんなが簡単そうにやっていることが、ボクは苦手で。
 かといって自分のことはちゃんとできるかって聞かれたら、全然そうでもなくて……。
 
「こんなチカラもう要らんって思っとるのに、このチカラでお金もらって生活しないと生きていけん。あーあ、もっと気楽ーに生きれたらええのになぁ」

 両手を広げながら、怪物の周りをくるりと一周する。ボクが近づくたび、悪霊は「グ………ググ……」と苦しそうな声をあげた。

「……そんな顔せんでも、そのうち術がお前を地獄へ送るで。だからもう無駄な抵抗はやめや」
「ウ……ウウ……」
「うわ、めっちゃくちゃ頑張ってるやん。なんなん? 人様困らせたお前が命乞いなんて甚だめいわ」

 そこでボクは言葉を切った。冷や汗が背筋を伝う。
 なんやこの感覚。どこが根源か分からんけど、嫌ぁな殺気の気配がする。

「っ、まさかまた悪霊が増殖したんか?」

 念のため、白衣のポケットから呪符をもう一枚抜き取り、右手にセット。
 体制はそのままに、首だけ左右に動かす。
 協力者である篠木さんはきっと今頃戦闘中や。助けは呼べん。あかん、今回来はった彼女はめちゃくちゃ強い霊能力者なのに。こっちに移ってきたばっかりで、仲いい人もそんなにおらんし。

「ああ、もうええ! く、来るなら来い!」
 全身にグッと力を籠め、右足を一歩前に出して宙を睨んだ。
 最悪の場合、受け身でしのげばいいか。な、なんとかなるんだろうか。

 しかし予想に反して、殺気の持ち主はボクに襲い掛かってはこなかった。
 道路の右側、植え込みの陰から姿を現し、その愛らしい顔を曇らせる。
 セーラー服の襟が、風でひらひらと揺れた。

 
「なんか敵扱いされててマジ草なんですけど~」

 相手は、茶色の髪を低い位置で二つ結びにした、幽霊の少女だった。
 彼女は桃色のエネルギーの球のようなものを右手のひらに浮かべ、左手の人差し指をゆっくりとボクに突き付ける。




「わたしとちょっとお話しできませんか。夜芽宇月サン」


 

 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.21 )
日時: 2023/04/08 13:01
名前: むう (ID: viErlMEE)

  〈こいとside〉
 
「なんで、きみが?」

 宇月サンは目を見開いた。
 数秒前まで士気に燃えていた双眸も、わたしが茂みから顔を出したとたん輝きを失う。
 武器を持ったままなのは、わたしが自分に危害を与えると思っているからだろうか。
 
「桃根ちゃん、なんでここに居るん? コマリちゃんと美祢は? なんで……」

 次から次へと投げかけられる質問も、(きっと問い詰められるだろうなぁ)と頭の中で想定していた内容だった。
 あらかじめシミュレーションしていて良かった。
 アレコレ考えるのが好きなタイプじゃないから、回答をするのにも多少時間がいる。
 
 わたしは結んだ髪の先っぽをいじりながら、薄く微笑んだ。
「遊びに行くって伝えてます。まあ、嘘なんですけどね。さっきも言った通り、わたしはあなたと話したいんです。だから来たんです」
 
 なぜ宇月サンに近づこうと思ったのか。なぜ、コマリさんや美祢さんには相談できないのか。
 色々理由はある。でも一番は、目的達成のために彼の存在が必要だったからなんだ。

 この前散々悪口を言われたので、言い返してやろうかと燃えていたってのもあるけどね。
 ただ、これを言っちゃうと、美祢さんが「俺も一言言ってやらないと気が済まない」と椅子から腰を浮かせるかもしれない。
 なるべく一人で、宇月サンの元を訪れたかったのだ。

「はあ? なんで? 桃根ちゃんは、コマリちゃんのサポートをやっとったやん。あの子の側にいるのが筋やろ」

 宇月サンは身振り手振りを駆使して話し出す。
 わたしを責めていると言うよりも、自分に言い聞かせているような、そんな口ぶりだった。
 術でやっと動きを封じたのにも関わらず、敵を仕留めることも忘れて彼は喋り続ける。

「なあ、詳しく説明し……うわっ」
「ガァァァァ!」

 有刺鉄線で縛られていた悪霊が、最後の力を振り絞って抵抗してきた。
 なんとか縄の間を抜けた腕が、宇月サンの首根っこを掴む。五十キロはあるだろう彼の身体が、猫のように軽々と持ち上げられた。

「……っ! 離っ……! 今、いいとこ、やね……! ぐ……!」

 宇月サンがバタバタと両足を振っても、がたいのいい腕はびくともしない。
 右手の指に挟んでいた護符が、ふわりとアスファルトの地面に落ちた。

「くっそ、お前どんだけ諦め悪いねん! ……っ、あかん、力が入ら、な……」

 ゼエハァと肩で息をする霊能力者の男の子。
 その呼吸のリズムも、だんだんゆっくりになっていく。

 だ、ダメだ。このままだと、あの人が死んじゃう!
 聞きたいこと、話したいこと、いっぱいあるのに。
 ここであなたの命を奪わせるわけにはいかない。


 ……覚悟を決めろ、桃根こいと。今ここで、わたしがやらなきゃ。
 もう他人の死を見るのはうんざりだ!

「宇月サン伏せて!」
「……な、に……」
「必殺!!」

 技名を唱え、わたしは目をつぶる。右手を天に突き出し、深呼吸。
 人間がまとっている運気のエネルギーは、集めると規格外の威力を持つ。
 このチカラは、自分の恋愛運をエネルギーの球に変える!

 
恋魂球ラブコンボール―――――――――――――っ!!!」

 集まった霊気の球がピンク色に光りだしたのと同時に、わたしは右腕を力いっぱい振り下ろす。
 恋愛運で作られたボールはジリリリリ……と音を立てたのち、一気に爆発し、ゴキブリのような()怪物を数メートル先までぶっ飛ばしたのだった。




 
  

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.22 )
日時: 2023/09/19 10:57
名前: むう (ID: viErlMEE)

むうです。次回の更新は、4月5日(目安)です。
 よろしくお願いします!

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 〈――XXside〉

 『いとちゃん!』

 彼は、うちの全てだった。
 お日様のような明るい笑顔と、毛布のようなふんわりとした優しさを持った数少ない友人だった。

『いとちゃん、初主演おめでとう! ホラほら見て、チケット買っちゃった! 文化祭、絶対見に行くねっ』
『いとちゃんが好きなアイドルって、歌い手グループだよね。僕ボカロとかあんま知らないけど、一緒にライブ行きたい!』
『わ、この人の高音、すごく綺麗だね。かっこいいねっ』

 無邪気で純粋で、汚いもので溢れている世界を素直に美しいと感じられる性格だ。
 嘘がつけないあまり騙されやすく、ヒョイヒョイ友達を作っては裏切られていたけど、それでも本人は笑顔を絶やすことはなかった。

『人間関係って難しいねー』

 独り言のように呟いて、何事もなかったかのようにうちの前の席に座って。
 教室の窓際。日の当たる席で毎日、猫のように伸びをして。
 あまりにマイペースだから、時々彼が同学年なのを忘れてしまう。子供っぽい言動が目立つから、わたしも無意識に弟扱いをしてしまっていた。


 ―――彼も同じ人間だということをを、頭の引き出しに置いてしまっていた。


 友人の表の顔だけを見て来たわたしの眼は、彼が屋上の柵に手をかける寸前まで、その事実を受け止めきれなかった。
 

『いとちゃん。ごめんね』

 暖かい風が吹く秋空に零れた、彼の涙。
 わたしは慌てて駆け寄り、自分の小さな右手を友人へと差し出した。
 なにかが変わるわけではない。なにかを変えるわけでもない。少女の細い腕では、多分相手の苦しみは抱えきれない。


 でも、それでも。
 それでもわたしは。

 
由比ゆい! 早くこっちに来て! ……ねえ、帰ろう! 5時間目始まっちゃうよ! ねえ!」


 わたしは、あなたを。
 あなたのことが、ずっと前から。


「ぶ、文化祭、見に来てくれるんじゃなかったの!? チケット、一番最初に買ってくれて……。ライブだって当選したのに! も、もうすぐ由比の誕生日だし、一緒に遊びに行こうって……」



 ずっと。


「ねえ、由比! 戻ってきて! ねえ!」



 ずっと、好きだったんだ。




 のんびり生きていたはずのあなたが、最期の最期、『ごめんね』と宙に身を投げ出すその瞬間まで。私はあなたが大好きだったんだ……。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 〈こいとside〉

 悪霊が消滅し、捕まっていた宇月サンはドスンと床に尻餅をついた。
「~~っっっ!」と打ち付けたお尻をさすりながら、痛みに暫し悶絶する。

「だ、大丈夫ですか? 怪我は?」

 わたしは、宇月サンにそっと右手を差し出す。
 彼は申し訳なさそうに笑って、よっこらせと立ち上がり、ズボンの埃を手で払った。

「あー、死ぬかと思ったわ。ありがとうな、桃根ちゃん」
「え? いやいや。あの状況で見殺しになんかできませんって」

 あわあわと手を振るわたしを、彼は面白そうに見つめた。
 な、なんだろう。顔になにかついているのかな?
 そっとほっぺたを触ってみるけれど、別に汚れてはいない。あれ?

「なんで頬っぺたなんか触っとるん?」
「なにかついてたかなと思いまして。なにもついてないじゃん。ジロジロ見ないでくれますか」
「なんやその扱い。ボクはただ、きみが助けてくれたのが信じられなかっただけやで」

 助けてくれたのが信じられなかった。それは一体どういう意味だろうか。
 つまり、わたしが自分を見捨てると思っていたの?
 それこそ、信じられないんですけど? 自分の命を大事にしないとかマジでないわ。

 あなた流に言い換えるなら、『自分すら大事にできんのに、他人を見下すとか聞いてあきれるわ』ってことです。

「あー、そういうんやない。あの、なんて言えばいいかな。ええと」
 宇月さんは、頬を頭でかき、うーんと首をひねる。
「てっきり、敵視されてるんかと」

 そりゃあ、ボロクソ言う人がいたら誰だって警戒しますよ。
 でもわたし、神様の血が混じってるから分かるんです。かすかな気持ちの揺らぎとか、息の使い方とか。そういう些細な部分。

「え、なにそれウケるんですけど。わたし、あなたのこと結構信頼してますよー」
「あっははは、マジで?」

「うわ」
「どしたん?」
「あなたもそんな砕けた発言するんですね」
「今時しない人の方が珍しいで?」

 宇月さんはその場で「よいっしょ」と伸びをすると、戦闘で乱れた髪を手で整え始めた。
 サラサラの髪。すらりとした体型。時折見せるリラックスした表情。
 それら全てに、彼の面影を重ねてしまうわたしは、やっぱり馬鹿だ。

「それで、桃根ちゃん」
 くるりと振り返った宇月さんは、スーパーで会った時と同じように目を細める。
 何もかも見透かしたような、周りから離れて物事を俯瞰で見ているような。
 強い眼差しがわたしを射抜く。

「ボクに話したいことがあるんやったな。いいで、聞くわ。遠慮なく言ってみ」

 すうっと息を吐く。大事なことほど、しっかりした言葉で伝えたいものだ。
 唇が上手く動くかどうかを確認して、声に出そうとした単語が適切かどうか吟味して。
 長い長い時間をかけて、わたしは自分の想いを発する。


「宇月さんは、幽霊や妖怪を操れるんですよね。霊能力者は、幽霊の存在を、その目で認識できるん……ですよね」



 ――いとちゃん。いとちゃんは生きて。もうどっか行ってよ。





 ――五時間目、始まっちゃうよ。



 ――文化祭で、ヒロインやるんでしょ、いとちゃん。



「守れなかった人がいるんです。……伝えたかったことがある。言えなかった文句も、いっぱい、いっぱいあって。そいつに、あのバカに、どうしても謝りたいんです。コマリさん達に嘘をついてまで、会いたい人がいるんです。探してほしいんです、あなたに」


 死んだらもうそれで終わりだとか。死者は蘇生できないとか。
 そんなことはとっくに分かってる。

 でも、わたしはこの目で見たんだ。
 『死んだらハイサヨナラ』の常識が崩れる光景を、あの時あの瞬間。この目で。


「だからお願いします。わたしに、失った時間を取り戻すチャンスを下さい!!」





Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.23 )
日時: 2023/10/04 09:48
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 ★登場キャラクターLog★

 キャラクターが多くなりそうなので、ログをつくりました。
 また、本作品には『陣営(チーム)』設定があるのでそれもまとめておきます。
 同じ記号がついてるキャラは、協力関係にあります!

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 〈コマリチーム〉

 〇月森つきもりコマリ
 →『逆憑き』という体質の悪運強し14歳。なるべく楽しく元気よく!

 〇時常美祢ときつねみね
 →コマリと同室の霊感持ち高校生。コマリの相談役兼ボディーガード。

 〇☆?桃根ももねこいと
 →浮遊霊。オオクニヌシの魂を持つ。恋愛相談が得意。友人と再会するために奮闘中。


 〈霊能力者〉

 ☆〇夜芽宇月やめうづき
 →美祢のいとこで、心を操る霊能力者。京都府出身。別名:歩くトラブルメーカー。

  番正鷹つがいまさたか
→あだ名はバン。霊能力者の御三家の筆頭・番家の長男。
世にも珍しい〈憑依系〉の能力を使う。由比の前に猿田彦と絡んでいた人間。過去編に登場するぞ。

 番飛燕つがいひえん
 →正鷹の弟。中学1年生。活気の良い性格。怪異討伐チームACEに所属する宇月の後輩。
  運動能力が非常に高く、「運動馬鹿」と呼ばれている。使う能力は〈使役系〉。

  番飛鳥つがいあすか
 →飛燕の双子の妹で、コマリのクラスに編入してきた転校生。
  コマリに興味があるらしいが……?

 

  〈幽霊&妖怪&神様〉

  ♪由比若菜ゆいわかな
 →こいとの元クラスメートの男の子。自ら命を絶ち幽霊となる。猿田彦と行動を共にする。


 ♪猿田彦命さるたひこのみこと
 →由比にとりついている、道開きの神様。身体の乗っ取りが可能。ツンデレ。


  ? 大国主命おおくにぬしのみこと
→過去に色々あって、こいとの魂と合体した縁結びの神様。
猿田彦の知り合い。文献的には男だが、この物語では女性。

 ※ 禍津日神まがつひのかみ
 →禍の神様。封印を自ら解き復活。何やら企んでいるようだが……?

〈クラスメート〉

星原杏里ほしはらあんり
→コマリのクラスメート。穏やかで優しい性格。

福野大吉ふくのだいきち
→コマリのクラスメート。サッカー部。愛称は大福。



Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.24 )
日時: 2023/12/09 09:41
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 有言実行をしない作者でスミマセン。
 書きたい欲がまた抑えきれませんでした。
 もうこれからは告知しないようにしよう……。
 あ、今日は二話投稿です。よろしくお願いします(これは本当です)

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 〈XXside〉

 不審者の定義を聞かれたら、『危ない人』と答えるのが一般的だよね。
 学校とかで先生に習うような、黒い服に黒いズボン・黒帽子の男性をイメージする人も多いだろう。あるいはストーカーとか、痴漢とか。どっちにしろ「変なことをしているヤバい奴」というのは共通だ。

 じゃあいまこうして電柱の上に立っている僕も、変質者扱いされるんだろうか。
「ちょっと待って猿ちゃん。こっから僕どうすればいいわけ」

 なんでそんなとこに登ってんだ! とか、いやお前まずお前頭大丈夫か? とか、色々あるだろうけどひとまずは心の中にしまっておいてほしい。
 状況を整理する時間を、少しだけちょうだい。

 場所は市街地のどっかの柱。
 何とも曖昧な表現で申し訳ない。方向オンチすぎて、自分がいる方角が分かんないんだ。
 ああいや、実際は方角どころか自分の状況すら把握できていないんだけどね。

 電柱の上に立っている、というのは語弊がある。
 ごめんなさい訂正します。僕は電線の上に立っています。

 いや、人間がやることじゃねえだろと怒鳴りそうになった画面の前のきみ。その通り。
 これは人間が出来る行動ではない。電気屋さんでも、電線の上を歩こうとはしないだろうし。

「猿ちゃん! ああもう、こっから降りるのめちゃくちゃ怖いよぉ! 登って満足するのやめてよぉ……。言ったでしょ、僕高いとこ無理なんだよぉっ」

 両足がガタガタと震える。
 それでもなおバランスを崩さないこの身体は、やっぱり人離れしてると言えるんだろうなあ。
 
 さっきからまだるっこい受け答えでごめんね。
 ハキハキ話せたらいいんだけど、どうも僕は他人より動作が遅いみたい。ひとつの出来事を処理するのに、三分は使っちゃうんだ。

 ええっと。どこまで進んだっけ。
 ああ、そうそう。〈つまるところお前ってなにもんなの問題〉の話だね! コホン。
 うーんと、何と説明したらいいんだろう。複雑な事情がたくさんあって、どこから語ればいいか。
 

 と、ボフッッと音がして、僕の胸の辺りから白い煙が噴き出た。
「わっ、ちょ」

 もくもくと立ち昇る煙の中に、うっすらと人影が見える。

 中から現れたのは、背の低い和装の男の子だった。
 白い羽織に黒の袴。浅葱色の長い髪は、後ろでひとつまとめにして白いリボンで縛ってある。
 口からのぞかせた八重歯と、いたずらっ子のような目を持っていた。

 男の子は、オドオドビクビクしている僕に向かって、犬のように吠えた。
「おい由比ゆい! テメエいつまでボーッとしてんだよ! さっさと降りろ! 通報されるぞ!」

「さ、猿ちゃんが僕の身体コントロールするから悪いんでしょ? 景色いいとこ連れてってやるって言うからオッケーしたのに、こんなの聞いてないよっ」

 流石にカチンと来て言い返すが、彼―猿ちゃんは「はぁぁ?」と肩眉をひそめる。
 あ、この子の名前は猿田彦さるたひこ
 のんびりペースの僕を奮い立たせてくれるパートナーだ。

 ちなみに、なんとこの子、道案内の神様……らしい。
 口調や立ち振る舞いのせいで、いつもその設定を忘れそうになる。

 それを猿ちゃんに言って、
『設定って言うな。あと俺は猿田彦命さるたひこのみことだ。省略すんなボケ』
と返されるのが日常茶飯事だ。

「ちゃんと許可を求めただろうが俺様は! 大体なあ、テメエ幽霊なんだから高いも何もねえだろ? ヒュンと降りれば済む話をダラダラ引きずるなたわけが」
「? たわけってなに? たわしのこと?」
阿呆あほう!!」

 そ、そんなに怒らなくたっていいじゃん。知らない言葉だったんだもん。
 至近距離で叫ばれて、心臓がキュッとなる。

「はぁぁぁぁぁ。折角協力してやってんのに、モタモタしやがってよ。ったく。なんで俺様が、こんな人間なんかと。子守なんてしたことねえっつの」

 猿ちゃんは荒ぶる気持ちを落ち着けようと、頭をポリポリかく。
 折角綺麗に整えた髪が、一瞬でボサボサになった。
 こういう、ちょっと乱暴なところがまさに男の子って感じがして、僕は好きだ。

「ふふふ。猿ちゃんが優しい神様で良かったよ、僕」
「ああん? 神に優しいも何もあるかよ」
「あるよ。僕を助けてくれた。チャンスを与えてくれたじゃん」

 自分で終わらせたはずの命を、もう一度刻む機会をくれた。
 こんなふうに言い合える勇気を持たせてくれた。
 大事な人に会いたいという陳腐な願いを笑わず、なんと実現するために力までくれた。

 これを優しいと言わずして、何と呼ぼう。

「勘違いするな。俺様の目的は別にある。テメエを助けたのも、その目的を達成するための任務タスクにすぎねぇ。思い上がるなよ弱味曽」
「なんで急にお味噌汁の話? 猿ちゃん和食派なの?」

 怒るのにも体力を使うから、それでお腹が減ったのかな。
 いいよねえ、お味噌汁。
 幽霊になってからご飯は全く食べてないけど、もし食べれるならお豆腐いっぱいのやつが食べたいなあ。

「~~~っっっ! 先ずは常識を知れぇぇぇぇぇ、この白痴はくち!」
「ちょ、ちょっと、入るときは言ってって、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 猿ちゃんの身体が再び気体となり、僕の胸に入り込む。
 あ、やばい。意識が………遠のく………。
 
 一度も染めたことのない髪が、猿ちゃんの髪色である青色に変わった。
 高所に対しての恐怖心は薄れ、代わりに高揚感が高まっていく。全身に力がみなぎっていく。

 僕――いや、俺様は電線から一気に飛び降りると、空中でくるりと一回転。
 そのまま地面にスタッと足をついて着陸した。

「――さあて。頼まれてた人探しとやらを始めるとするか。今日中に見つかるといいけどよ」

 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.25 )
日時: 2023/12/05 07:46
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 由比の本名は由比若菜ゆいわかなです。実は名前ではなく苗字なんですよ。
 紛らわしいので一応説明しておくと、
 こいとに憑いている神様が「大国主命」、由比に憑いている神様が「猿田彦命」です。
 このあとも神様はいっぱい出てくるので、推し神様を見つけよう(推し神!みたいに言うな)

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 〈美祢side〉

「あー、どれがいいか分かんねえ」
 俺は、デパートの文房具屋の前で首をひねった。

 同居人である月森コマリと暮らして早一カ月。
 新生活にも慣れつつあり(&宇月の腕輪の効果でトラブルも少なくなりつつあり)、ようやくフリーな時間が取れるようになってきた。

 最近は近くをふらふら散歩したり、オンラインゲームでゾンビを撃ちまくったり、あとは趣味でファッションを研究したりと、あいている時間を自分の為に使うことが多い。

 だがある日俺は、ふと気づいたのだ。もうすぐコマリの誕生日だと。
 五月八日。ちょうどゴールデンウイーク明けの絶妙な日にちだ。
 その二日後・五月十日は、恋愛の神様・こいとの誕生日。

 迷惑をかけられてばかりだけど、あいつらが来なきゃ今頃俺は引きこもり一歩手前。
 何らかの形で感謝の気持ちを伝えたい。
 そう思い、俺は今市内のデパートで、コマリ(&こいと)へのプレゼントを選んでいるのだ。

「そもそもあいつ、何が好きなんだろ」

 文房具屋のケースにしまわれた、桃色のシャーペンを手に取る。
 こういうの、こいとは好きそうだけど……コマリはどうなんだろう。
 文房具も無地のシンプルなものばかりだよな。こだわりとかないんだろうか。

「シャーペン、消しゴム、ノート。女子なら集めそうなもんだけどな」
 ハートや星がプリントされた方眼ノートや香り付きの消しゴムの棚にも行ってみたけど、コマリがそれらを使う未来が想像できない。

「似合うとは、思うんだけどなあ」
 淡い色合いの可愛らしい小物や洋服。どうせなら何か買ってやりたいけど……。
 ああダメだ。人にプレゼントを買ったことなんてないから、何が正解か全然分かんねえ!

 俺の中の少ない知識が活用するのは、ファッションくらいか? うーん。考えてみよう。
 仮に洋服を買うとすれば、どんなコーデがいいのだろう。ガーリー系? 原宿系? 清楚系?
 アイツ、めんどくさがってパーカーとかズボンばかり着るからな。しかもダサいし。

「俺がよく着る、こういうちょっと洒落たパーカーなら喜んでくれるかな」

 前にコマリに『プロゲーマーみたい』と誉められたこのパーカーは、黒を基調とし、差し色として蛍光ピンクが使われている。
 でもあいつ、こういう派手な色苦手そうだし……ああ、決まらん!

(そもそも、俺なんでこんな必死になってんだ? 同棲してるとは言え赤の他人だぞ)

 妹でもない、幼馴染でも親戚でもない関係。親の知り合いの娘。
 彼女の体質の件がなければ、多分絡むことはなかっただろう女子。
 めんどくさがりでガサツで、不真面目で、やけにハイテンションでドジで。

 実を言うと俺は女子が苦手だ。小学校・中学校・高校と、ろくに挨拶もしてこなかった。
 でもコマリには、いつだって自然体で話せたんだよな。なぜだ。

「あー、もういい、仕方ない。気は乗らねえがアイツに聞くか……」
 俺は肩にかけたショルダーバッグの中からスマホを取り出すと、電話帳のアプリを開く。
 一番最後に記載されていた〈夜芽宇月〉の文字をタップし、携帯を耳に当てる。
 宇月は大学生だ。年上だし、ムカつくが顔もいいし、女子とも付き合いがありそうだから。


 十回のコールで、ようやく電話がつながった。
『もしもし夜芽ですが……』
「なに、お前寝てたの?」
 彼にしては珍しく歯切れの悪い口調だ。任務終わりだろうか。

『いや、ちょっと調べ物しとって。今図書館に居るんやわ』
「へぇ。本読む姿が想像つかねえ。ウェブアプリとかで済ませるタイプかと」
『なあ、君らの中でボクはどんな位置づけなん』
「俺にとっては生意気ないとこだよ」

 宇月は「はー……」とため息をついた。「確かにウェブ派やけどさ」

『それで、用件は? 美祢からかけるなんて滅多にないやん』
「あー、えっと、その……」
『なんや、話したいことがあって電話したんやろ。言わんなら切るけど』
「いや、その」

 コマリの誕生日にプレゼントを贈りたいんだけど、何買えばいいか迷ってて。
 文章に変換すれば、なんてことない一文だ。
 だが、言葉となれば別。おまけに電話の相手はあの宇月なのだ。べらべら喋って、ネタにされたらたまったもんじゃない。

 で、でも、相談したい気持ちは本物で……。
 あー、もう、仕方ない! 恥ずかしいけれど、真面目に伝えよう。


「あの、その、コマリの誕生日プレゼントを買いに来てて……」
『ほお。なら切るわ』
「え、ちょ、ちょっと!」

 話の途中だというのに、会話を中断した宇月に俺は焦る。
 こいつ、人の話を聞くってことができないのか!?

『どーせ、どれがいいか迷ってて、ボクに決めてほしいとかやろ。知らん知らん、自分で決めぇや。そーゆーのは他人が口出したらあかんねん。分かる? ま、そういうことで。またな。せいぜい頑張りー』
「ちょ、宇月てめっ」

 あっと思った時には、もう通話ボタンはオフに切り替わっていた。


 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.26 )
日時: 2023/09/19 11:02
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 Q.みんなの血液型は?
 コマリ・由比「のんびりペースのO型だよ!」
 美祢「Aと見せかけてのB型」
 こいと「マイペースなB型……ではなく、実はA型です♪」
 宇月「あんたら何なんマジで。(友達から『宇月さんは絶対AB型』と言われ続けたキャラです)」

 むう「あれ、宇月AB型じゃないの?」
 宇月「AB型やから複雑やねん!!」
 美祢「お前もう腹グロキャラやめてネタキャラに路線変更しろよ……」

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 〈再び美祢side〉

 「あんのやろう……っ」
 何かあったら相談しろと言っておいて、なんだあの態度!
 怒りが収まらない俺―時常美祢の地団駄の音が、デパートの廊下に響いた。

 確かに宇月の話は一理ある。っていうか、百パーセント向こうが正しい。
 人に贈るものについて第三者がアレコレ口を出すのは失礼だ。俺がもしそれをされたら傷つく。
 プレゼントは自分で選び、自分で相手に手渡すから特別なのだ。宇月は間違ったことを喋ってはいない。いないけど。

「あの、ちょっと小ばかにした言い草! 普通に話せばいいだろうに!」
「お客様、館内ではお静かにお願いします」
「あ、す、すみません」

 叫び声が大きすぎて、文房具屋の女性店員にたしなめられてしまった。
 同じブース内にいる他の客が、チラチラとこっちに視線を送ってくる。
 出来たばっかりの心の傷が、更にえぐられるからマジで勘弁してほしい。

「とりあえず場所を変えるか……」
 
 今いるここは二階の〈あおぞら館〉。小物を取り扱う店が多い。
 本屋もあるが、アイツは漫画しか読まないし俺も本しか読まない。自力でコマリの好みの本を推理するのは難易度が高い。

「一階の服屋に行こう。アイツに似合う服があるかもしれない」
 俺はくるりと踵を返し、エスカレーターがある西の方角へと歩き出した。

 彼の意地悪な表情が脳裏に浮かび上がって、一向に消えてくれない。
 電話するんじゃなかったと後悔するが、時すでに遅し。

 宇月とはなにかとそりが合わず、昔から口喧嘩ばかりしている。
 つい余計な一言を放ってしまう宇月と、ついつい反応してしまう俺。
 親戚の喪中など大人数が集まる場では、睨んでは睨み返され、舌打ちをしてはし返され。

「は~……」
と肩を降ろしたその時。
「あれ、時常くん?」
 
 すれ違ったブレザー姿の女の子が、くるりと振り返って俺の名前を呼んだ。
 黒くて長い髪とブレザーの紺色が良く似合っている。肩にはスクールバッグを提げていて、クマのマスコットがワンポイントとしてつけられている。

 名前を呼ばれたことと相手が女子だったことで、俺の声は上ずった。
「へっ?」
「やっぱ時常くんだ。久しぶり! あ、私のこと覚えてるかな?」

 女の子は自分の着ている制服を指さす。
 ブレザーの胸元の校章は、俺がたった一カ月で中退した葎院りついん高等学校のものだった。
 ゴールデンウイーク中とはいえJKだ。きっと、部活や生徒会活動などで登校したんだろう。
 
「えっ……と、確か、俺の前の席だった……。ほ、星野だっけ?」
「惜しい、星原ね」

 時常=た行で、星原=は行。元々出席順で並んでも、俺と彼女の席は前後だった。
 入学して最初のクラス替えと、最初で最後の高校での席替えは、星原が前になるという何とも地味な形で終わってしまった。

 女子高生―星原は、俺の元クラスメート。さっぱりした性格で話しやすい。
 クラスメートの中で、唯一関わりのあった女子。小テスト前は頻繁に俺に教えを乞うていたっけ。

「いやあびっくり! 一カ月で退学とか信じられない。クレイジーすぎでしょ」
「あ、ま、まあ」

 やめてくれ。その話だけはやめてくれ!
 心の傷が凄まじいスピードで開いていく。
 
「数週間はみんな話題にしてたよ。面白そうなやつだったのに残念だ―ってね」
「マジかよあいつら」
「でも、元気そうで良かった。今日は買い物? その恰好めっちゃイケてるね。オシャレ好きなの?」

 星原の眼が俺のパーカーに映る。これ、そんなにカッコいいのか?
 あー、普通よりちょっと高い通販のやつだから、物珍しいのかもしれないな。

「好きと言うか、趣味と言うか。まあ、人並みには」
「へえ! めっちゃ良き!」
 
 褒められると思っていなかったので、すぐに顔がほてりだす。
 どこを見たらいいか分からず、とりあえず靴の先を眺めることにする。

「星原は部活帰りとか? 何部だったっけ」
「合唱部。妹に買い物を頼まれたの。帰宅してるときに連絡来ちゃってさ。めんどくさいからそのまま直でここに来たんだ」

 合唱部か。よく透る声や華やかな表情は、部活で鍛えられたんだろう。
 葎院高校は文化部が強い。書道部・合唱部・吹奏楽部は全国大会の出場経験があったっけ。

「でも、ちょっと意外かも。時常くんって、どっちかというとインドア派な気がしたからさ。ショッピングも苦手そうだなーって思ってたんだ。ひとりで来るとか勇気あるね」
 私もちょっと委縮しちゃうなぁ。周りおしゃれな子多いし、と彼女は嘆息する。

「別に。誕プレ買いに来ただけ。そんなに驚くことか?」
 高校生となれば、ひとりで買い物に行く人も増えるだろ。
 インドア派は訂正しないけど、そんなふうに言うなよ。自分が超絶陰キャみたいじゃんか。

「自分では気づいてないかもしれないけど、時常くんって結構ギャップが激しいんだよ。最初私、『髪ピンクだ、こわ』って感じちゃった。でも話してみたら真面目だし、割とおとなしいし、じゃああの髪色は何故に? っびっくりしちゃって」

 星原は、うつむき加減だった顔をゆっくりとこちらに向ける。
 その口元はキリリと結ばれている。曇りないまなざしが何かを訴えかけているようだった。

「ねえ、時常くん。校則知らなかったって話、きっと嘘だよね。校則を理解したうえでわざと染めたんでしょ」
「……遊ぶなって言いたいわけ?」

「ううん、咎めたいわけじゃなの。遊びだとも思ってない。純粋に、聞きたかったの。なんで、またそんな大胆な行動をしたのかなって。絶対退学になるって分かってるのに、なんで敢えて先生を怒らせるようなことをしたのかなってさ」




 

 
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.27 )
日時: 2023/04/06 16:10
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

「……ちょっと、新しいことをやってみたくなったんだ」
 澄んだ目で見つめられ、俺はごわごわと口を開いた。

 星原の言う通り、俺は自分から話を持ち掛けたり友達を遊びに誘ったり、面白いギャグを言って周りの気を引かせたりすることがあまり得意ではない。むしろその逆で、出来ることならば目立たず平温に過ごせればそれでよかった。
 話しかけられたら返事をする。お礼を言われたら素直に受け取る。手伝いが必要ならば出来る範囲で助ける。だけど深く干渉しない。当たり障りのない行動をとることを重視してた。

 自分で言うのもなんだが、勉強も運動もそれなりに出来たから、それに満足していたんだと思う。
 普通でいることが大事だと思っていた。日常の変化が怖かったんだ。

「あるときふと、つまんねえなって考えちゃって。あなたは良い子ね、成績よくて偉いねって言われて苛立ってたのもあるかも。ある日、なんか吹っ切れちゃって。ちょっと馬鹿になってみたんだ」
 
 そしてそれが案外楽しい。
 みんなが不思議な目でこっちを見る。説教されたことがなかった当時の俺は、先生の説教をゲームのイベント感覚で楽しんで、変に満足していた。

「ほお。……それで?」
「でも怒られ続けるうち、そんな自分が恥ずかしくなって、いつの間にかやめてた。ちょっとふざけて、すぐ優等生に戻ってってな感じで。それすらも疲れたから、気分かえる為に。それがたまたま高校入学と重なって」

 俺は、もうすっかり色の薄くなったピンクの髪の先っぽをいじる。
 前髪がまぶたにかかって痛い。今度また美容院に行かないと。

 俺の話を黙って聞いてくれていた星原は、「なるほどね」と頷く。
 自分語りなんて対して面白くもないだろうに、彼女はこちらが話し終わるまで口を挟まなかった。こいつの飾らない優しさに、つい泣きそうになる。

「じゃあ、時常くんは逃げなかったってことだね」
 
 言葉ってのは不思議だ。目に見えないはずなのに、重さなんてないはずなのに、その言葉はやけに胸に突き刺さった。自分にも分からなかった自身の心の陰の中に、それは無遠慮に入っていく。

「……逃げなかったって、どういう」
「入学してすぐ染めたんでしょ。先生が時常くんに懲戒処分するまで、黒髪に戻す機会はいくらでもあったはずだよ。先生もきみが優秀なのを知ってるから、あえて泳がせてたんだと思う」
「それは」

 中間テスト開け、担任の先生に呼び出されたことがある。放課後、人気のない職員室の真ん中で、俺は先生にこう諭された。
『今回だけ見逃してあげるね』と。

 思えば、引き返すチャンスは沢山あった。
 それら全てに唾を吐いたのは他でもないこの俺だ。このままやめたらきっと、同じ日常を永遠と繰り返すことになるだろう。
 毎日が平穏なのは有難い。それすらも満足できないなら、いっそこのまま歴史を黒染めしてやろうと。

 お前は……星原は、こんな俺を肯定してくれるのか。
 逃げてるとしか思えない、この生き方を受け入れてくれるのか。

「すごいよ。かっこいいよ。なんでそんなに落ち込むの? 立派な理由じゃん。自分でそういうことをちゃんと口にできるのは、時常くんの感性が豊かだからだよ」
 星原は遠慮気味に笑う。
「私は、きみが元気でいてくれたらそれでオッケーだから。ねっ」

 ああ、世界には、こんな考え方の奴もちゃんといるんだ。
 引きずられてばっかりの人間を、引っ張ってくれる存在がちゃんといるんだ。

 俺は無意識に止めてしまっていた息を吐きだす。
 すごいな、言葉の力って。くるりと辺りを見回す。どこもかしこも、キラキラと輝いて、まるで別世界に迷い込んだようだった。
 
「それで時常くん。誕プレ買うんでしょ? 誰? 妹とか彼女とか?」
「妹なんていないよ。でも、まあ、似たような相手かな」

 ちなみに兄も弟もいない。ああでも妹みたいな奴だな、アイツは。
 アイツもこいとも、星原と同じく俺の価値観を受け止め、そして支えてくれる。
 べちゃくちゃうるさいから、毎晩部屋は祭りかよってくらい騒がしくなって。かといって出て行って欲しいとかでもなくて。
 
 心地よくて温かい大事な居場所を、いつも自分にくれる。


「すげーいい奴なんだよ、そいつ。俺にとって、めっちゃ大事なやつなんだよ」
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.28 )
日時: 2023/04/23 16:02
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 〈コマリside〉

 五月八日、土曜日。朝の十一時過ぎ。
 私は杏里と大福に誘われて、隣の市にある映画館に来ていた。私の誕生日を記念して、大福が見たい映画のチケットを取っていてくれたんだ。

 作品タイトルは〈怪異探偵Z ―劇場版―〉。
 数年前から追っている大人気のバトルファンタジー。週刊少年誌で連載されている漫画で、アニメ化もされている。そのアニメの続きがなんとこの度、大きなスクリーンで放送されることになったのだ。

(わあ、チケット買ってくれるなんて! ありがとう大福大好き!)

 私は高鳴る期待に胸を躍らせながら、二人と映画館の中に入った。座席を確認して、ポップコーンとチュロスを買って、あとはシアターに向かうだけ。
 しかしここでも逆憑きの効果が発動。
 なんと大福が、肝心のそのチケットを家に忘れてきてしまったのだ。

「だ、大福~!!」「大吉!」
「ごめん。マジでごめん。お、終わった。詰んだ……。俺もう友達やめる……」

 ああ、そうと分かればこんな服も来て来なかったのに。
 私はアニメの物販で販売された、原作イラストがプリントされた〈特製★探偵シャツ〉の裾を軽く引っ張る。
 
 痛い。凄く痛い。色んな所が痛い……。
 これがあれか。満身創痍ってやつなんだね。

 私と杏里からの非難の視線を受けて、大福は気まずそうに目を伏せた。
 彼は十回ほど鞄を漁っていたけど、「あれ、鞄の中にこれが」なんて奇跡は起きず。

 スタッフさんの案内に続く観客たち。
「楽しみだね」「ねーっ」とキャイキャイする彼らの後姿を、苦虫を噛み潰したような表情のまま眺める私たち。
 大福に至っては、無言でチュロスの棒を食べ進めている。


「あ、あの、ねえコマちゃん、大吉。向こうにおいしい喫茶店があったよ。た、食べに行かない?」
 場の空気がよどみ始めたのを察知した杏里が、話題を振ってくれた。
「飲食物持ち込みオッケーだって! ゴミはそこのお店で捨てればいいよ。ねっ、行こう? せっかくの誕生日なんだし」

 あ、杏里ぃぃぃぃぃ。
 幸先の悪い展開が不安で涙目になっていた私は、彼女の言葉に顔を上げる。
 オーマイゴッド! 親友が神様に見える……!
 
「ほら見てコマちゃん。喫茶店のインスタ。凄く可愛いよ! ほら大吉も見て!」
「あっ、ホントだ。かわいい!」「おぉ。すっげぇ」

 喫茶店のインスタでは、華やかなスイーツがお洒落な文章と共に掲載されていた。
 生クリームたっぷり、苺の赤とのコントラストが美しい〈春苺パフェ〉。
 とろとろぷるぷるの半熟卵が丁寧にチキンライスに重ねられた、〈ゴロゴロ野菜オムライス〉。

 何より私の目を引いたのは、白い泡でラテに絵を描く〈ラテアート〉と呼ばれるアートの写真だ。   
 うさぎ、クマ、猫のシルエットを生クリームだけで再現する。実際にラテアートを作っている動画も、リール動画として何本か投稿されてある。

「なんと文字も描いてくれるんだっ? 誕生日限定★イニシャルお書きします、だってさ。めっちゃいいじゃん。書いてもらおうぜ」
「う、うん!」

 月森コマリだから、イニシャルはT.Kかな? 楽しみだなあ。
 トラブルは発生したけれど、多分この後は順調に物事が進むはずだよね。
 私は機転を利かせてくれた杏里に感謝しながら、大福の腕を引っ張って映画館をあとにしたのだった。


   
 ーーーーーーーーーーーーーーーー

「なんでこうなるのぉぉおお」

 こんにちは。
 喫茶店・〈キャラメルガレッジ〉に到着したはいいものの、またもやトラブルに見舞われてしまったコマリ一行です。

 まず一つ目。店の外に出来た行列に三十分並びました。
 どうやら小中高生やカップルに人気の場所らしく、噂を聞きつけた学生さんが頻繁に来客するとのこと。
 休日はもちろん平日もその客足は途絶えず、『行列のできる喫茶店』としてさらに世に名を広め、新たな客を呼ぶ。幸せの無限ループだ。
 おかげでこっちは負の無限ループですけども。
 
 二つ目。これは現在進行形。
 頼んだラテアートのイニシャルが間違っていたんだ。

 私の滑舌が悪かったのかもしれない。
 しかし、「T・K」を「J・K」と間違える店員さんも店員さんだ。
 せめて「M.K」にしてくれれば写真を撮ってこいとちゃんに送れたのに。

 真顔で目の前に置かれたラテアートを凝視する私に、対面の大福がついに吹き出した。
 お腹を抱えて、ドンドンとテーブルを手で叩きながら。

「じぇw ジェーケーww 月森コマリで、ジェーw ジェーケーwww ふっw」
「もう大吉、笑いすぎ。コマちゃん般若みたいな顔になってるじゃん」
「だって杏里、考えてみろよ! コイツの本名、ジュキモリ・コマリになってるんだぞ!?」
「……………。……っ」

 数秒間沈黙していた杏里だったが、一分後、「ご、ごめんもう無理」と口元を震わす。
 両手できちんと隠してるつもりだろうけど、私にはバレバレだよ杏里。
 それにもういいんだ……。ポルターガイストや心霊写真に比べれば、イニシャルの間違いなんて些細なことだよ……(白い眼)。

「そうだよ。ジュキモリですよ私は。もういいよ、飲めば済む話だよ」

 なんだろう。私が間違えたわけじゃないのに、私が悪いみたいになってて嫌だ。
 口を尖らした私に、流石に言いすぎたのと感じたのか二人があわあわと両手を動かす。

「ちょ、ちょっとからかっただけだってば。そんな顔すんなよ!」
「ご、ごめんねコマちゃん。私、コマちゃんの気も知らずに。迷惑だったね。食べよっか」
「あはは、私もムキになっちゃったかも。ごめん。二人ともありがと」

 真の友達とは、悩み事や不安をしっかり言い合える相手である。
 小学生の時、好きだった国語の先生から教わったセリフだ。
 こうやって怒りあい、時に励まし、時にからかう。そんな関係になれて良かったと心から思うよ。

 いつか、逆憑きのことも杏里たちに話せたらいいなぁ。

 ラテの入ったグラスに手を伸ばす。杏里と大福も、それぞれ選んだパフェやパンケーキを食べる為にスプーンを握った。
「「「いっただっきま—————………」」」


 プルルルル プルルルル

 と、不意にイスの背にかけていた私の小型リュックが震動した。
 中にしまっていた携帯が鳴っているのだ。

「だ、誰だろう」
 急いで鞄の中からスマホを取り出し、電源をつける。
 通話画面に表示されたアイコン。相手は、もうすっかり聞きなれてしまった同居者の男の子だった。

「と、トキ兄!? もしもし、どうしたの?」
『――――え、っと。――に、――て』


「? 声が小っちゃくて聞こえないよ! も、もう一回。ワンモア!」
『――しちじに』

 
 



『夜の七時に、白雲公園前に来てほしい。大事な話がある』















「―――――――――――――――――え?」

 



 
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.29 )
日時: 2023/07/08 16:57
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 閲覧数400突破ありがとうございます!
 これからもよろしくお願いします!
 第7話「側にいれたら」開始です。
 ーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 〈宇月side〉
「桃根ちゃん。頼まれとったやつ調べてみたで」
 マンションの十六階、フロアの突き当りの部屋のドアを軽くノックする。
 腕に抱えた数冊の分厚い本は、先日図書館で借りた重要な資料だ。
 薄い紙を貼り合わせただけなのに、本は不思議や。悪霊退治で鍛えられたこの腕でも上手く持ち上げられない。

「あ、お疲れさまです。すみません~。無理言っちゃって」
「大丈夫やで。ボクも用事あったし。手間が省けて良かったわ」
「そ、そうですか? あ、でも、言ってくれたら荷物持ったのに……」

 気持ちは嬉しいけれど、きみは幽霊やからな。
 ボクは霊感があるから認識できるけど、一般人にとってはいないのと同じ。
 きみが図書館で本を持ってみぃ。「本が空に浮いた!?」って、みんな騒ぐやろ。

「図書館では静かにってよく言うしな。気持ちだけ受け取っておく」
「んーでも、それけっこうお高かったんでしょ?」
「あのな桃根ちゃん。本屋じゃのうて図書館! 値段とかないんよ。あーまあ、貴重品だから色んな書類書かされたけど、お金は払ってへんって」

「……あ、そっか」
 現在のパートナーである幽霊の女の子が、部屋の扉から顔だけをのぞかせる。
 相変わらず服装は紺色のセーラー服に白のパーカー。
 だたし今日はいつもと雰囲気が違う。低い位置でお下げにしていた髪が下がっているからか?

 幼さが強調された髪型に慣れとったボクは、肩口で揺れる茶色の髪に不覚にもどぎまぎしてしまった。

「めっ、珍しいな、髪結んでへんのは」
 ロボットみたいな変な声が出た。

 ベッドに腰かけている桃根ちゃんが含み笑い。
 ボクが柄にもなく挙動不審なのを察したのか、値踏みするような目でこちらを見る。

「えっ、もしかして宇月サン。かわいいとか思ってくれてるの!?」
「え、いやその違っ、いや違わんけど……、に、似合うと思うで! 大人っぽくてええね」
「うっそー、ほんとーっ? うわ意外なんですけどーっ!! あはは、なんか照れるー」
 
 口ごもりそうになったボクだったけど、なんとかテンションを持ち直した。
 あかんあかん。ボクは夜芽宇月・心を操る霊能力者! 
 この肩書がある限り絶対に言えない! 友だちが一人もいないこととか、恋愛経験が一度もないこととか!
 
「ほぉーん。うちのパートナーはツインよりロング派かぁ」
「も、もうその話はやめとこや。腕疲れて来たわ」
「ほぉーん」
 ほぉーんて。なんでそんな勝ち誇った感出しとるんや、きみは。

 ボクはそのままぎこちない足取りで部屋の中央に足を進める。木の床にドスンと荷物を降ろし、はあと一息。

(あー、重い。なんでこんな重いんや)

 図書館で借りた本はたった二冊。『古事記』と『日本書紀』。今じゃ好んで読む人も少ないマイナーな書物だ。

 古事記は日本で一番古い歴史の本で、全三巻。
 歌謡、神話・伝説など多数のネタを含みながら、天皇さんを中心とする日本の出来事が細かく記されている。
 日本書紀は全三十巻。奈良時代に完成した、同じく神話や伝説を漢文で記した史書だ。
 
 流石に合計三十三巻を一気に借りることは難しかった(腕が壊れそうだった)ので、今日は両方の本の第一巻を借りてみたんよね。

 司書さんに貸し出しを頼んだとき、不思議そうな顔をされたっけ。
「お好きなんですか?」とも尋ねられた。
 
 ボクは歴史オタクでもなんでもない、ただの一般人。好きな科目は文系だけど、社会は苦手だ。学生時代は、その時間だけ寝とったし。
 そんな奴が、なんで急に小難しい本を読もうと思ったのかというと。

「幽霊の身体を乗っ取る神様、ねえ。きみは友人であるユイくんを助けようとして、運悪く命を落としてしまった。がしかし、『大国主命』と名乗る神様に見初められて力を与えられた——」

 ボクは桃根ちゃんの頭から爪先を改めて観察する。
 霊が他の生物の身体に憑くことは珍しくない。霊能力者の中にも、〈憑依系〉といって、霊をとり憑かせて戦う人もおらはる。
 
 だけど……。幽霊と神様がくっつくなんて事象は滅多にない。
 そもそも神様って霊と同じくくりなんか? それすらも曖昧だ。

「にわかには信じられんけど、現にきみがその一例ってわけやしなぁ」


 
 


 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.30 )
日時: 2023/04/11 17:42
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
参照: https://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=2512.jpg


 憑きもん!のイラストを掲示板にあげました!
 今回描いたのはこいとちゃんです!良ければ見てみてね!
 参照のURLと、むうの雑談掲示板から見れます。

 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.31 )
日時: 2023/04/21 18:25
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 更新遅くなってごめんなさい。
 最近調子が悪くて、思うように筆が進みませんでした。
 大変お待たせして申し訳ありません。
 続きです!

 ――――――――――――――――――――――――

 〈こいとside〉

「協力してもらえるとは思っていませんでした」
 わたしはポツリと言った。

 ベッドの上で正座をしていたけど、足が疲れて来た。
体制を整えようと、腰を少し浮かして両足を伸ばす。

「ふーん。なあ、そっち行ってもええ?」

 荷物を整理し終わった宇月サンから返ってきたのは、なんとも曖昧な返事。
 自分の評価が低くて落ちこんでいるんじゃない。
ただ単に、そこまで気にしていないようで、ニッコリ笑っている。

 彼の口調につられて、ついついわたしも、「うん?」とから返事をしてしまった。
 普通こういうときは、怒るか、黙るかするものじゃないっけ。

「よっしゃ。おりゃっ」
 呆然とするわたしは気にも留めず、宇月サンはベッドに駆け寄る。
「え、あの、ちょっと!?」

そして、そのままダイブ! 
 布団の海に体を預けて、「わははははっ」と子供みたく無邪気な声を出した。

「あ~、ベッドって最高やなー。桃根ちゃんもそう思わん?」
「い、いやぁ。う、うち、アパートに住んでたので、布団の方が慣れてるって言うか」

 良い歳した大人が、子供の前で飛び込みますかね?
 ちょっとばかりの苛立ちと、自分もやってみようかなと燻る思考を抑える為に、わたしはわざと突き放した言葉遣いをとる。

「そうなん? この包容力には抗えんわぁ。あー、もう仕事したくなーい。だるーい」
「数分と絶ってないのに、この人もう堕落を極めてっ」
「ふっふっふ。これこそが寝具の力。これこそが寝具の沼やでぇ。きみもハマろー」
「寝具の沼……??」

 彼は、どこか周りとは違うような……どこかかけ離れているような、大人びたオーラをまとっている。良くも悪くも冷静で落ち着いてる。だから物事を俯瞰できる。

 しかし時々、ほんの稀だけど、こうやって子供っぽい一面をのぞかせることもあった。
 コマリさんにも、いとこの美祢さんにも隠しがちな素の表情を、わたしにだけ見せてくれる。
 なんだか自分が特別扱いされているみたいで、正直かなり嬉しい。

 ただ。
(口には出さないけどね)

 だって、わたしにとっての一番は、由比だもん。
 側にいてほしい人は、隣で笑ってほしい相手は、昔からずっと変わらない。
 由比若菜――大切なクラスメート。

 宇月サンは、わたしの—―桃根こいとの『特別』ではない。
 これはコマリさんも、美祢さんも同様。
 どうしたって彼らは由比を超えられない。わたしにとっては友達でしかない。

 それでも彼らの元を離れられないのは、協力を頼んでしまうのは、きっとわたしが弱いからだ。
 ひとりぼっちが嫌で、寂しくて、たとえ打算でも人と群れたかった。
 自分の涙を自分で守るだけの強さがなかったんだ。

「――羨ましかったんや」
 不意に、宇月さんが言った。
 いつの間にか彼は、寝転がりながら、ベッドの横の棚から取ったタブレットを操作している。
 小さい音だけどBGⅯが鳴っていることから予測するに、多分ゲームかLINEかインスタ? かな。

「何の話?」
「さっき言うてたやろ。なんで協力してくれたのかって」

 目線は画面に落としたまま、宇月さんは淡々と話を続けた。

「ボクな。昔っから人と関わるんが下手くそやったんや。今もやけど、誰かを頼ったり、逆に頼られたり、そういう経験をせんまま大人になって」
「……頼らなかったのは、なにか理由があって?」
「立派な理由ではないんやけど、まあな」


 ――誰かを頼るのは、自分が弱いって証明してるようで嫌いだったんや。

 宇月さんが膝を抱え、スンと洟をすすった。
「助けてください、しんどいんですって、ホントは叫びたかった。やけど、自分が何もできひんって相手に話したら、自分でそう認めたことになるやんか。それがずっと嫌で、だから、言えなかった」

「………」

「馬鹿やって、自分でも思ってる。ありもしないプライドで己の首絞めて、なにが得するんって。でも、気づけばいっつもその繰り返しで。いっつも、前後になにか付け足しては、それで人を傷つけとった」

 
 その言葉にハッとする。
 一年前の、あの、屋上での出来事を思い出したんだ。
 
 フェンスに手をかける友人の後ろ姿。私は聞いた。「なんで」と。「なんで、どうして」と。
 あの子は―由比は、問いかけるわたしに「ごめんね」と言って、柵に足をかけて……。
 最期の最期まで、なにがあったのかを教えてくれなかった。これは言葉に置き換えると、『墓まで持って行った』ってことだ。

 由比も、同じ気持ちだったの?
 弱い自分が、赦せなかったの?

「誰かを助けたいと必死になれる桃根ちゃんを見て、なんか、すごく情けなくなって。同時に、ボクでええんやって………やから」

 宇月さんは、そっと、こちらへと手を伸ばす。
 そして、肩の上に垂れていたわたしの髪を、指ですくった。
 
 目と目が合った。

「……っ」
(なに? なになになになになになになに?)

 驚きすぎて、身体が上手く動かない。動かなきゃ、何か言わなきゃ。頭ではしっかり考えているのに、カチコチに固まっちゃって一ミリも動かない。
 頬がほてって、頭がくらくらする。目元に涙が溜まる。

「やっぱりツインテールの方が好きやわ」
 宇月さんは、ふふっと笑った。
 いつもの、陰のある笑顔じゃなくて、心の底からの純粋な笑顔だった。

「ありがとう。ボクを頼ってくれて。……栄えある一番目のフォロワーに、なってくれて」



 ※次回へ続く!

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【4/25更新】 ( No.32 )
日時: 2023/04/26 18:29
名前: むう (ID: viErlMEE)

 公式カップリングは、
 ・トキマリ(美祢×コマリ)
 ・月恋(宇月×こいと)
 ・ゆいこい(由比×こいと)です!
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


〈コマリside〉
『夜の七時に、白雲公園前に来てほしい。大事な話がある』
 トキ兄の言葉に、私は目を見開いた。

 公園に行くことが不安なのではない。夕方、お菓子を買いにコンビニへ出かけたこともあるので、夜遅くに出歩くことには慣れている。
 私が不安なのは、その後の『大事な話』 の部分だ。
大事な話とは、一体なんだろう。

 トキ兄は数えきれない恩がある。彼がいなければ、平穏な日常を送ることはできなかっただろう。
 12年間取り続けた赤点のテストも、心霊現象も、降水確率100%の誕生日も、全て『嫌なこと』として頭の引き出しにしまわれただろう。

自分のせいで皆が泣いちゃうんだ。なんでこうなるのって、自分を責め続けていたかも。
実際、やるせなくて寝付けない夜も、食事が喉を通らない夜も何十回も経験したよ。

 でも、トキ兄と一緒に暮らすようになって。
 いつだって横で彼が横で微笑んでくれたから、喜びや悲しみを共に感じてくれたから、私は明るく毎日を過ごせたんだよね。

 逆憑きって体質も、自分の個性だって思うようになった。自分を愛せるようになったんだ。

  でも、悪い想像もたまにする。時々見る悪夢がある。
  トキ兄とこいとちゃんが、「つきあってられない」と私に言い出す夢。遠ざかる二人の背中に、泣きながら「待って」と叫ぶ夢。暗くてじめじめした路地の裏で泣きじゃくる私をあざ笑うかのように、皆が明るい陽だまりへと走って行く夢。

 前に宇月さんが言っていたセリフを、頭の中で反芻する。
『自分のことも守れんような奴には、誰かを守る資格はない』

 これの対義語があるならば、文章はきっとこうだ。
『相手に手を差しの述べられない人間は、いつまでたっても守られる側だ』

 トキ兄は私に勉強を教えてくれる。ボディーガードとして、常に私のことを気にかけてくれる。それだけではなく、掃除・料理・洗濯まですべてやってくれる。
 逆に私は何をしたんだろうか? 彼にありがとうと、しっかり言っただろうか。彼が喜ぶことを考え、実行に移していただろうか。

 ■□■


 夜の七時。私は白雲公園のベンチに座って、トキ兄を待っていた。
 白雲公園は、アパートから歩いて五分の距離にある市立公園で、ブランコとシーソー、あとは簡素なジャングルジムがある。
 昼間は小さい子がお母さんと遊びに来ているけど、夜中なのもあって、私以外に人の姿はない。

「はぁ……。別にいいって伝えたのに」
 私は丁寧にセットされた髪を、指でそっと触る。

 呼び出されたことを親友に話したのが間違いだった。親友の杏里は、たちまち「告白だよ!」と目をキラキラさせて……なんと、私のボブカットの両サイドの髪を編みこみ、桃色のリボンまでつけちゃったのだ。

 『コマちゃん、頑張って!』とグッドサインをする友達に、「ヤメテ」とは言い出せず。結局そのまま公園に来てしまった。
似合ってないなあと苦笑いしたその時。

「コマリ!」
 至近距離から馴染みのある低い声が聞こえて、私はバッと顔を上げた。いつの間にか、目の前にトキ兄の顔がある。

 足音も立てず忍び寄るなんてさては忍者!? と一瞬馬鹿な考えがよぎる。
 実際は、私がボーッとしていただけなんだけどね。

 トキ兄は両手をすり合わせる。
「寒いな。お前そんな薄着で大丈夫なのか? 最近寒暖差激しいから風邪引く……」

 そのあとは聞き取れない。
視線を地面から私へと移した直後のことだった。一瞬で、彼の顔がリンゴのように赤く染まる。滅多にないトキ兄の動揺を見て、私も口からも「はぇ?」と変な声が出た。

「そ、……っ。それ、じ、自分でやった、のか」
「ああこれ? 友だちが勝手にやっちゃったんだ。あはは、似合ってない、よね」

 フリフリのレース付きのワンピースを含め、ガーリーな色合いの洋服が私は苦手。
『今流行ってるんですよ~』とおススメされても、着ようとは思わない。自分には似合わない気がして、手を出せない。自分のイメージが崩れちゃいそうで怖かったんだ。

「わ、わたし、そ、素材って言うのかな? ブスだし平凡な顔立ちだし、今更着飾ったところでマイナスがプラスになるわけないって、伝えたんだけどさ」
 あああああ、沈黙に耐えかねた口が勝手に……!

 トキ兄は一瞬ピタッとフリーズ。そのあとの数分間、口元を金魚のようにパクパクさせては閉じを繰り返す。言いたいことがあるけど言葉が見つからない……でも伝えたい。意を決し、彼は私に向き直り……。

「………かわいい」
 蚊の鳴くようなか細い声を、必死に喉から絞り出した。
「………え?」

 え、ええぇぇぇぇぇぇぇ? あ、あの時常美祢が、「かわいい」って言った⁉ 嘘⁉
 ひっひひ、人違いだったり……? 

 失礼と思いつつも横目でチラリと相手の風貌を確認する。
 黒いコートの下に、毎度おなじみゲーマー風パーカー。耳には銀色のピアス、極めつけはピンク色の髪。

 私の同居人兼ボディーガードの男の子は、私の右腕をグイッと掴む。そして、曇りのない双眸を真っ直ぐこちらに向ける。

「充分、かわいいけど、今もすっげえ、かわいい」

 ※次回に続く!

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.33 )
日時: 2023/06/16 16:01
名前: むう (ID: viErlMEE)

学校、趣味、習い事、将来
 悩み事が多すぎる!
 ---------------------------

 〈美祢side〉

 『大事な話がある』。コマリに連絡した後、俺は思った。
 ひょっとすると、言葉の選択を間違えたのではないか、と。

 誕生日プレゼントを渡したい。
 そう説明するのが恥ずかしくて、わざと回りくどい表現をしてしまったけど……。
 『渡すものがある』でも充分伝わったはずだ。

(ぬおぉぉぉぉぉぉぉお、違う、違うんだ! 待ってくれ、違う!)

 残念ながら、発した言葉は取り消せないもので。
 補足しようと「あ、あの」と口を開いたときには、もう通話は終了してしまっていた。

「あぁぁぁぁ…」
 俺は部屋のクッションにボフンと顔をうずめる。
 ふつうに誕生日を祝いたいだけなのに、自分でハードルを上げてどうするんだ。
 ただでさえ少ない俺の対女子ライフが、どんどん減っていく……。

 ちゃぶ台の上に置いている白い紙袋を確認する。この前、デパートで買った商品だ。
 箱の中には、手のひらサイズの正方形の黒い箱が入っており、ピンクのリボンでラッピングされている。

「渡すだけ。渡すだけ。落ち着け俺。落ち着け」
 
 人生初、誕プレ。人生初、女子への贈り物。
 あれを見たら、コマリはどういう反応をするかな。「似合わないよ」って怒るかもな。
 笑ってくれるといいなあ。

 月森コマリはすごいやつだ。
 相手のことなんか興味がなかった少年を、ここまで変えることができるんだから。
 
 
 ■□■

 そして現在、俺は白雲公園で、ベンチに座っているコマリの手を取っている。

 ボブカットの両サイドはゆるく編み込んであり、結ばれたリボンが風に揺れる。ヘアアイロンを使ったのか、いつもボサボサの髪が今日はストレートになっている。服装は相変わらず無地のパーカーだが、それすらも新鮮味がある。
 
 きれい。かわいい。似合ってる。
 頭の中に浮かんだのは、自分にとってなじみのない単語。でも、そう思わずにはいられない。
 胸が苦しい。まるで、心臓を手でグーッとつかまれているみたいだ。なのになぜか、嫌じゃない。むしろそれが心地いい。

「ぎゃああああああああ!!」
 我慢できず、コマリが悲鳴を上げ、両手で俺のからだをドンッと突き飛ばした。

「おわっ」
 体勢を崩され、俺はふらつく。
 もう少し姿勢が傾いたら、ベンチ横の蛍光灯の柱に頭からぶつかるところだった。あぶねえ!

「おいコマリ、なにすんだよ」
「わ、わかんない、わかんない……」

 コマリはふるふると首を振る。

「なにがわかんねえんだよ」
「だ、だって今日のトキ兄、変なんだもん。めっちゃ素直なんだもん! わかんないよ! か、かわいいとか、滅多に言わないじゃん。そんなん反則……」
 コマリは涙目になりながら、こちらをにらんだ。鼻の頭も、頬も耳も赤く染まっている。
 
「ずるいよ。トキ兄」

 滅多に言わない、か。確かにそうだな。言ってないもん。
 心の中では、ずっと思っているんだけどな。意外とかわいいじゃん、って。

 おまえと同じだよコマリ。おまえが女の子っぽい服を着ることを躊躇するように、俺も「かわいい」と相手に伝えることに躊躇してしまうんだ。
 引かれることが怖い。笑われることが怖い。今のように、疑われることが怖い。
 だから、自分には似合わないのだと結論をつけてしまって。

 これが『ずるい』ということになるのなら、それで構わない。
 実際俺は十六年間、ずるく生きてきた人間だ。程よくバカやって、程よく真面目ぶって、その場その場で部分点を取ってきた人間だ。

 でもさっきのあのセリフは、自分に点数をつけてほしくて言ったのではない。
 単純に、俺はコマリに言いたかったんだ。
 自分をそんなふうに卑下するなよ。俺はおまえのいいところ、ちゃんと知ってるぞって。
 
 今日は、素直に想いを伝えるって決めたんだ。

「コマリ。追い打ちかけるようで悪い。これ、受け取ってくれ」
 俺はパーカーのポケットに忍ばせていた小箱を取り出し、コマリへ差し出した。

「誕生日おめでとう。似合うと思って」
「えっ……。え、え!? 嘘!」
 コマリが箱を受け取る。

「あ、ありがと。開けていい?」
「うん」

 結局、文房具の案も服の案も没になってしまった。
 というのも、俺はあのデパートでの再会のあと、星原にこうアドバイスされたのだ。

 ――最近はペアルックが流行っているみたいだよ。一緒につけれるものとか、どう?

 黒い箱には、プラスチック製へアピンが二つ入っていた。
 一個は、お化けモチーフのヘアピン。もう一つは、時計モチーフのヘアピンだ。

「わぁぁ! かわいいっ」
「お化けの方をお前にやるよ。時計の方は俺がつける。コンビ感出ていいだろ」
「うん! つけてみるね。トキ兄も、はい」

 コマリは箱に敷いてあるスポンジからピンを抜き取り、前髪につける。蛍光灯の明かりで、表面がキラリと輝いた。
 俺も時計型のヘアピンで髪をはさんでみる。前髪が邪魔だったし、これはこれでいいかも。

「ありがとうトキ兄。大切にするね」
 コマリが照れ臭そうに微笑む。その控えめな笑顔に、トクンと胸が高鳴る。

 ああ、良かった。ちゃんと、受け止めてくれた。
 俺も、ふふっと口の端を上げる。
 そして今日の締めくくりである大切なセリフを、彼女に伝える。

「お誕生日おめでとう。これからもずっと一緒にいてください」




 ※第8話完→第9話に続く!


 


 
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章へ】 ( No.34 )
日時: 2023/08/28 07:42
名前: むう (ID: viErlMEE)

 【憑きもん! 第1回アフタートーク★】
 
 むう「初めまして作者のむうです! 今回は小休憩ということで、キャラとまったり雑談したり、裏設定を公開していきたいと思っています。よろしくお願いいたします」
 キャラ一同「よろしくお願いいたしまーす!」

 むう「改めて、みんな第8話まで登場感謝。誰一人やられなくてよかったです」
 宇月「ちょ、待て待て。ボク危うく死ぬところやったけど。
 みんな覚えとるかな? 怪異に首根っこ掴まれたんですよボク」

 むう「でも、そのあとこいとちゃんが、ラブはめ破してくれたでしょ?」
 こいと「ラブはめ破って言うなしー。ラブコンボールだし」
 むう「相変わらずダサいね」
 こいと「発案者あなたですからね?」

 コマリ「まあまあ宇月さん。むうちゃんのおかげで、私たちは出会えたわけですし。作者にアレコレ言わずに、楽しく行こうよ!」
 美祢「……お前、作者になんの不満もないのかよ」
 コマリ「え?」
 美祢「この機会逃したら二度と言えないぞ」
 むう「おい美祢、余計なこと言うな」

 コマリ「まあ、あるにはあるけどさあ。それがこのお話の魅力でしょ? 逆憑き嫌ですって言って、『わかりました、直します』ってこの人が言ったら、もうそれで作品〈完〉だよ」
 美祢「メタいって」

 むう「はい、それで! アフタートーク、始めていきます!」
 一同「いえーい!」

 むう「このコーナーは一つの章が終わるごとにやっていきたいと思っています。いえーい!」
 一同「(パチパチ)」
 由比「今回は何するの~?」
 むう「今日はね。第1回目なので、公式からそれぞれのキャラに一問一答をしようかなって」
 由比「わあ! 凄い楽しそうだねっ。いいね!」

 むう「とうことで最初の質問に移ります」

【①全員の年齢と学年を教えて下さい!】

 コマリ「はーい。月森コマリ・14歳。中学二年生です!」
 美祢「時常美祢、16歳。高校1年、色々あって学校中退」
 こいと「桃根こいと。13歳、中学1年生! その後いろいろあって幽霊になったぴえん(苦笑)」
 由比「由比若菜、同じく13歳、中学1年生。ぼ、僕も色々あって幽霊になりましたっ」
 宇月「夜芽宇月。京都出身の18歳。大学行ってましたー。色々あってやめたけど」

 むう「『色々ある』を使いまわさないでください、みなさん。それでは次の質問!」
 
 【②好きな教科を教えて下さい!】
 コマリ「全部ニガテです(断言)」
 美祢「数学と物理と歴史」←難関高校出身
 こいと「音楽と美術と体育!」
 由比「全教科寝てました~」←マイペース
 宇月「英語。I like English.」

 【③好きな映画は?】
 コマリ「コ〇ン!」
 美祢「クマのプーさん」(一同「クマのプーさん!??」)
 こいと「タイタニック!」
 由比「ハリーポッターと普通の石」(一同「賢者の石!」)
 宇月「ノーモア映画泥棒」←映画じゃないぞ


 【③自分の長所と短所を教えて!】
 コマリ「長所はポジティブなところかな? 短所はガサツなところです、あはは」
 美祢「良くも悪くも神経質」
 こいと「長所は人が好きなところ。短所は流行に乗りやすいところ」
 由比「長所とかよくわかんないけど、マイペースって言われがちです~」
 宇月「猫被り……プライド高い……あれ、ボクの長所ってどこにあるんやろ。怪異倒せることしかないんちゃう? 悲し……(ぐすん)」
 むう「宇月さん、これからだから! ああ、落ち込まないでぇぇぇ」

 【④なかなか更新をしない作者をどう思ってますか】
 コマリ「勉強忙しいんだなって思ってます」←いい子!
 美祢「別に何とも」←ツンデレもういいぞー
 こいと「不定期更新ならいいんじゃない?」←優しすぎる
 由比「む、無理しないでね? のんびりだよっ」←流石、憑きもんの良心
 宇月「駄作者」←はい通常運転!

 【⑤最後に、閲覧者さんに一言お願いします!】
 コマリ「いつも見に来てくれてありがとう。これからも引き続きよろしくね」
 美祢「第3章では新キャラも出るみたいだ。さらに肩こりがひどくなりそうで怖い」
 こいと「ゆ、由比に会うまで終われません! マジで!」
 由比「あんまり登場回数多くないけど、僕も精一杯頑張りまーす」
 宇月「ボク推しの子ぉ、ほんまにありがとうな! これからもっと好感度あげてこ思いますんで(言わんでいい)、また立ち寄ってみてくださーい」

 むう「それでは、第3章をお楽しみに! ばいばーい」
 
 
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章準備中】 ( No.35 )
日時: 2023/11/30 23:48
名前: むう (ID: F7nC67Td)

 お久しぶりです。失踪しかけました、むうです。
 相変わらず多忙ですがこっちも頑張ります。
 第3章開始! 更新は遅いですがよろしくお願いします。

 ------------------------

 〈XXside〉

  雨が降っていた。
  梅雨前線と台風が重なってしまったと、今朝ニュースでアナウンサーさんが言ってたっけ。
  僕の住んでいる関東地方は特に影響はないけど、東北の県では次々に停電が起きているらしい。
  お母さんから渡されている連絡用の携帯を開く。飼い猫のアイコンから一通の連絡が来ていた。
  
  僕はメッセージアプリの個別チャットボタンに手を伸ばし……、文面を確認する。
  じっくり読んだりはしない。めんどくさいから。
 

 『早く帰って来なさい。塾に遅れるわよ。
  今日は数学の集中講座があるって、遠藤先生から聞いたわ。
  あなた、ちゃんと勉強はやってるんでしょうね?
  せっかく中学受験をさせたのに不合格。なんでいつもそうなの?
  とにかく、来週は中学最初の中間テストだから、しっかり勉強してね。頼むわよ』

  ……うざい。
  ……うるさい。
  ……黙れ。

  汚い言葉が脳裏に浮かんできて、僕はあわてて首を振った。
  乱暴なセリフを口に出してはいけない。人を傷つけてはいけない。
  だって、相手はお母さんで、僕は子どもだ。口答えしていい年齢は五歳までだ。

  僕はスマホのフリック入力で、返信欄に文字を書き込んでいく。
 『わかった。すぐ帰るね(グッジョブの絵文字)』
  そして、送信。

  お母さんの会話はこれで終わりだ。
  これ以上もこれ以下もない。
  
  反論するとキレられるんだ。「私の何が悪いの?」って、一時間ぶっ通しで質問される。
  そんなことを息子の僕に聞かれても困る。もちろん親に対しての不満はゼロではない。ただ、素 
 直に告げるとまた泣かれる。
  
  だから僕はニッコリ笑って答えるんだ。
 『何も悪くないよ。全部僕が悪いんだ』ってね。

  事実だし。
  
  五行にもわたって打たれた長ったらしい文字。
  長文メッセージを受け取ったのは、今日が初めてじゃない。昨日もそうだった。一昨日も送られ 
 てきた。その前も、その前も、ずっとこんな調子だった。
 
  僕のお母さんは、とても身勝手な人でね。
  勉強だけではなく、挨拶の仕方とか、箸の持ち方とか、友達との接し方とか。好きなマンガも好
 きなアニメも、自分が納得できるものでないと許さない。

 『その漫画、つまんないわよ。お母さんが買ってきた奴を読みなさい。この作者の人、とってもいい人なのよ。○○大学の○○学部出身でね、だから若菜も……』

  ……………僕の好きだった漫画は段ボール箱の中に入れられて、燃やされたんだ。

  誰も自分を助けようとはしてくれない。兄妹もいないし親戚もいない。
  おばあちゃんは先月空に昇っていった。
  お父さんはトラックの運転手で、ほとんど家にいない。連絡先は知っているけど、相談したら絶対心配される。なので、打ち明けられない。

  学校に行きたくないんです、という子がチラホラいる。家が落ち着くんです、ってね。
  ………いいなあって思ったんだ。家が落ち着く。僕も言ってみたいよ、その言葉。
  まあ、お母さんから逃げるために学校に行っている自分には、どうせ似合わないだろうけど。
 

  ■□■

  遠くの方から、一人の女の子がかけてくる。
  淡い桃色の傘をさして、リュックについたアクリルキーホルダーをカシャカシャいわせて。
  水たまりの水を蹴飛ばしながら、全速力でこっちに向かってダッシュ。

 「由比ー! 一緒に帰ろ~! 今日、部活雨でなくなっちゃって。体力づくりできなくてさ!」

  ふふ、相変わらずでっかい声。
  走らなくても、僕はちゃんと待ってるのに。
  せっかちで真っすぐなところ、出会った時から変わってないね。

  気を取り直して、僕は彼女に手を振る。
  できるだけ大きく。できるだけ大げさに。自然に見えるように。
  笑え、笑え笑え笑え笑え。嫌なことは考えるな。今のこの時間が、自分にとっての天国だ。

  だから笑え。どんなに苦しくても。どんなに寂しくても、笑えるならまだ大丈夫だ。
  たとえそれが作り笑いだとしても。表情を作れる時間があるのは、きっと良いことだと思う。

  …………助けてほしいと打ち明けるには、まだ早いよね。


 「いとちゃ――――ん! 部活お疲れ様――――――――――っ!」

 
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.36 )
日時: 2024/11/07 11:24
名前: むう (ID: X4YiGJ8J)

  〈由比side 12ヵ月前 5月〉


 キーンコーンカーンコーン。

 授業終了を知らせるチャイムが教室のスピーカーから鳴り響く。
 このチャイムは二回繰り返して放送されるのだけど、皆授業が嫌いなので、チャイムが鳴る五分前には、クラスメートのほとんどが教科書を片付けていた。

 教卓に立つ英語の鷲見すみ先生が、ノートパソコンをパタンと閉じる。
 そして、よくとおる野太い声で言った。

「はーい。今日はこれで授業終わり。来週単語の小テストあるから、ちゃんと勉強してくること。範囲はさっき教えた、21ページから24ページ」

 彼は、大学を出たばっかり・教師一年目の若い男の先生だ。
 朗らかで優しく、授業もわかりやすい。歳が近いのもあって、何人かのクラスメートは親しみを込めて、「鷲見先生」ではなく「亮ちゃん」と呼んでいる。鷲見亮介先生だから、亮ちゃん。

「亮ちゃーん、鬼ー」
「いっつも範囲広いじゃん亮ちゃん」
「サッカー部の試合あるんだけどー」

 生徒に反論されても、先生は全く怒らない。
 それどころか、英語が苦手な子のために、わざわざ救済措置まで取ってくれる。
「じゃー、次の授業で。ヒントは出すから、欲しいって人は職員室に来てね」

 先生は教卓の上に置いた教材を手早く籠の中に入れると、そそくさと教室の扉の奥に消えてしまった。
 

 ………というのを僕は、後ろの席の女の子に教えてもらった。

 今話したことは僕が見た内容じゃない。というか、三時間目が英語だったことも今知った。
 理由は簡単。寝落ちしたのだ。
 教科書とノートと筆箱を引き出しから出したところまでは良かったものの、その後やってきた睡魔にあらがえず、瞼はどんどん下がって行って……。当然、ノートを取ることもできなくて……。

「ええええっっ、小テスト!?」
「そうだよ。21ページから24ページの進出単語」

 後ろの席に座っている女の子は、「あんた今まで何してたの?」と机に頬杖をつく。
 この子の名前は桃根こいと。低い位置で結んだお下げがチャームポイントの、演劇部員だ。

「由比くん、なんでいつも寝てんの? ノートちゃんと取らなきゃダメじゃん」
「……えええぇ。も、桃根さん、ノート見せて」
「もー、授業中に寝るとかありえないんですけど! もうやだこの席」
 
 この学校の出席番号は、あいうえ順。
 僕の苗字である「由比」は〈ヤ行〉。彼女の苗字である「桃根」は〈マ行〉。クラスにはマ行が桃根さんしかいない。よって、彼女の席はいつも僕の後ろ。
 
 え、前じゃないのって? あはは,僕目が悪くてさ、前後逆にしてもらったんだ。

 入学式から一カ月間は出席番号順に座らなければいけない決まりになっている。
 今日は五月一日。
 入学式があった日は十日なので、ゴールデンウイークを過ぎれば僕らの席は離れることになる。その後は席替え。しかもクジ引きだ。隣同士・前後同士になる確率は極めて低い。

「僕はこの席、結構気に入ってるよ。窓側だし」

 桃根さんから渡されたノートのページをめくりながら、僕は答える。
 天気がいい日は窓からグラウンドを走る他学年生の姿が見えるし、雨の日は花壇の花びらに落ちた雨の露を確認できる。日当たりもいいから寝るのにも困らない。

「それに、桃根さんしか話せる友だちいないからさぁ。おわっ、何このノート」
「え? なに、字が汚いって言いたいの?」

 桃根さんが席から立ちあがり、僕の隣に並んだ。
 いや、字について言ってるわけじゃないよ。筆跡はすごくきれいで読みやすい。
 ただ、なんというかあの、僕が知っている英語のノートとは、少し違うような……。
 
「『村人A:おお、神よ。我に力を与えたまえ』『I went to school by bus.』会話の脈絡がないっていうか、その」

 ------------------------
 村人A:おお、神よ。我に力を与えたまえ。(天に向かって大きく手を広げる)
 〈過去形〉
 I went to school by bus.
(私はバスで学校に行きました)
 ------------------------

 な、なんで英語のノートにセリフが出てくるんだろう。
 そういう内容の話だったのかな?

 
「………あああああああ! これ、〈ひばり座〉の稽古ノートだあああ」

 自分のノートに目を通した桃根さんが、頭を抱えた。
 そして、僕の手からノートをひったくると、席に戻って筆箱から消しゴムを取り出す。
 必死にゴシゴシと文字を消そうとするが、英語の文法事項はボールペンで書かれていたので、なかなか消えない。

「ひばり座って、桃根さんが所属している演劇部?」
「そう! 部員には稽古ノートっていって、台本を読んで感じたことを記すノートが配られてるの」

 雲雀中学校の演劇部・ひばり座。部員数は50人。
 文化部で一番の人気を誇る、超キビシイ練習で有名の部活。秋の文化祭では、毎年演劇をステージで披露している。
 

 部員数が多いので、よほど演技がうまい人でないと役はもらえない。
『3年間、裏方仕事しかさせてもらえなかった』という話もよく聞く。上下関係が厳しいのだ。

「へええ、すごいねっ。女優になりたいとか?」
「ううん、そんなんじゃないんだけど……って、あー! 無理だ、もう無理! 手つかれた! 無理無理無理無理! あ~、顧問の寺内先生に新しいノートもらわなきゃ」
 
 数分間のゴシゴシ作業は、流石にきつかったようだ。
 桃根さんは真面目だけど、冷めやすい性格の持ち主。自分ができないことはあっさり諦める。
 彼女は机の上に出したままだった筆記用具を、手早く引き出しにしまいながら答えた。

「あたし、歌い手が好きなんだ。歌い手って知ってる? 人が歌った曲を、カバーする人たちのことなんだけど。そういう人たちがずっと憧れで、なれたらいいなーって思ってて。バカな話だよね」

 歌い手かあ。女の子たちが、よく話題にしてるよね。
 僕も興味があったんだけど、お母さんの目に留まると怒られるから検索できなくてさ。
 
 バカな話じゃないよ。なんでそう決めつけるの?
 僕からすれば羨ましいよ。とっても眩しいよ。

 好きなものを自分で探すことが出来て。
 好きなことを自分でやれて。
 夢に向かって努力出来て。

「……なれるわけない、って思ったら、多分一生なれないんじゃないかなぁ」
 僕は、桃根さんの右手に手を伸ばした。そのまま、その細い指を強く握る。

「応援っ、してるから! ずっと応援するから! だからっ、自分で可能性を捨てないでよ」
 
 なれるわけないって思えるのはさ、きみにまだ選択肢があるからだよ。桃根さん。
 家族と友達が、自分の夢を認めてくれるから。認めた上で批判してくれるから。
 だから、「バカな話」だって、結論付けてしまったんでしょ。

 多分僕は、無意識に自分と桃根さんを重ねている。
 彼女が自分と正反対の立場にいるから。好きなものもやりたいことも、何でも否定されるような人生とは別のところにいるから。

 この子はもう一人の自分なんだって、勝手に思ってしまっている。
 だから彼女が夢を叶えてくれたら、僕はとっても嬉しい。
 僕の代わりに夢を追いかけてくれたら嬉しい。
 
 ねえ、お母さん。何でお母さんは息子の可能性を無くしたがるの?
 僕さ、中学受験やりたくなかったよ。塾にも通いたくなかったよ。勉強だって嫌いだ。

 でもさ、意見があるなら伝えなさいって言ったのお母さんだよね。
 それで自分の気持ちを口にしたら「あなたのためを思って」って言うんだもんね。
 
 いつから僕は、この鬼畜ゲームをプレイすることに慣れちゃったんだろう。
 ……助けてすら言えないのに、僕は毎日祈っている。

 

 
 ―――――ー『神よ、我に力を与えたまえ』―――――――――
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.37 )
日時: 2023/06/16 15:47
名前: むう (ID: viErlMEE)

  
  暫くシリアスな展開が続きますがよろしくお願いします。
 
  ------------------------


  季節は変わり十一月中旬。
  時刻は夜八時三十分。職員室の真ん中で。

 「由比。この前のテストの結果は何だ」
  三十代くらいの男の先生は、眼鏡のつるを右手でくいっと持ち上げながら言った。
 
  自宅から歩いて十五分。
  駅の近くにある三階建てビルの二階が、僕の通っている進学塾〈きららゼミナール〉だ。
  実際は、きらきらの「き」の字もない場所だけど。
 
  塾で行われるテストや学校の成績でクラスが分かれる階級制。
  頭のいい子は先生から可愛がられ贔屓され、夏に行われるバーベキューなどのイベントにも参加 
 できるが、それ以外の子は申込書すらもらえない。
  
  参加したかったら、ただひたすら勉強するしかない。成績は塾のすべてだ。

  ……僕・由比若菜が所属するクラスは、通称〈Fクラス〉。
  きららゼミナール内では最下層だ。
  

 「……」
 
  黙っている僕に、先生―確か苗字は田中だ―が「はあ」と肩を降ろす。
  その表情はひどくくたびれていた。
 
 「正直に言おう。おまえの成績はFクラスの中で最低だ」

  渡された数学の小テストの点数は、十点だった。
  五十点満点ではない。百点満点のテストだ。
  回答欄を全て埋めているのにも関わらず、ほとんどの答えが赤ペンで訂正されている。

 「勉強しなかったのか」
 「……しました」

  勉強を全くしていなかったわけじゃない。学校の授業は寝ているけれど、家ではしっかりテキス
 トを開いている。なんなら予習も復習もしている。毎日、毎日コツコツ問題を解いている。

 「勉強しただぁ? 何時間? どれくらい? この点数を見て、それでも勉強したって言える
 か?」

  田中先生の声の大きさにびっくりして、僕は目をつぶる。怖い。すごく怖い。
  先生は机のふちを指でトントンと叩きながら、やりきれないと言うように首を軽く振った。

 「勉強って言うのはな。生きていくうえでとっても重要な物なんだぞ。将来、受験にも役立つし、 
 知らなかったことを知れる。なあなあにやるから、こうなるんだ」
 「………」
 「成績は全部お前に返ってくるぞ」

  …………なんだよ、その言い方。
  それじゃあまるで、僕が不真面目みたいじゃないか。

  ああそうだよ、みんなそうだ。大人はみんな、いい子ちゃんが好きだ。
  与えられた問題に丁寧に取り組み、点数を稼ぎ、結果を出せるような子が好きだ。
  相手の気持ちを理解できる、物分かりのいい子が好きだ。
  
  ああ、ほんっとうに嫌になる。
  頑張ってきたことが報われないのなら、努力って何のためにあるの。
  自分のやりたいことが出来ないのなら、進路って何のためにあるの。
  いい子って何? そんなに勉強が大事なの?
  何でぼくはこんなに惨めな気持ちになってるの? なんでこんな気持ちにさせるの?

 
 「――に何がわかるんだよ」

  無意識に、唇の端から言葉が漏れた。
  両手がわなわなと震える。拳を強く握りすぎたせいで、持っていたテストの答案用紙はしわくちゃになってしまった。
  
  先生が息をのみ、目を見開く。怯えたような表情。
 「教師に向かって、なんてことを言うんだ」

 「テメエの気持ちなんか知るかよっ」

  怒鳴ってから、僕は自分の発した言葉の重みにようやく気付く。
  どうしよう、どうしようどうしよう、どうしようどうしよう、どうしよう。
  相手は先生で、僕は生徒で、僕は怒られていて、僕はひどい点数を取って……。

  違う、違う。やばい、判断を間違えた。どうしよう、どうしようどうしようどうしよう。
  謝らなきゃ。ごめんなさいって頭を下げなきゃ。まだ間に合う、まだ大丈夫、まだ……。

  そう思うのに、なぜか言葉は止まらない。刃物のような単語が、自分の声と絡まって相手の胸を 
 打ち抜く。

 「誰も僕のこと、見てくれないじゃんかっ。頭の良さだけで決めるじゃんかっ。勝手に期待して! 勝手に子供の夢を捨てて! 勝手に道をふさぐじゃんかっ。いい大人になりなさいって教えるくせに、選択肢全部つぶすじゃなんかっ! もういい、もう嫌いだ! みんなみんな大っ嫌いだ!」

 僕はくるりと回れ右をし、教室の扉へと一目散に走る。
 後ろから先生の叫び声が聞こえてきたが、構うものか。

 建付けの悪い戸を開けて部屋から出て、リノリウムの廊下を駆け、全速力で階段を降りる。
 途中、すれ違った生徒や事務の先生が何事かとこちらを見た気がするがどうでもいい。

 走って、走って走って走って走って、走りまくって、塾の入り口を出たところでやっと足が止まる。首筋から汗がしたたる。心臓がドクンと脈を打つ。

 「あ、あははは………終わった」
 
  ついにやってしまった。いい子を終わらせてしまった。
  ひどいことを言って先生を困らせてしまった。怒られているのに逆ギレしてしまった。

  もう、塾には通えない。先生からもお母さんからも、多分見放される。
  いけない事をしたのに、心は晴れやかだ。胸の奥で渦巻いていた塊が、すうっと消えていく。

 「あー、あー………疲れたなあ。もう、全部疲れた」

  僕は終わっている。散々ひどい目にあわされたのに、まだ自分に非があるんじゃないかと思って
 いる。ホント、いつまでいい子で居る気だよ。


 「…………あ、そういやもうすぐか」
  
  僕は、肩からぶら下げているスクールバッグのポケットから一枚の紙きれを取り出す。
  白い紙に赤い字で、〈ひばり座 前売り券〉と書かれたそれは、演劇部の舞台のチケットだ。

  来週開催される文化祭で、いとちゃんは主役をやると言っていた。数カ月から練習を頑張って、ついに大きな役を任せてもらえる事になったのだ。

 『練習したから、絶対見に来てね。絶対だよ! 遅刻したら許さないからっ』
 『行くよ、絶対行く。一番前の席で見る。絶対絶対、寝たりしないから』
 『もー、信ぴょう性ないー』

  
  ………ごめんね、いとちゃん。
 近くにいてくれたのに、自分を愛してくれたのに、僕は最後の最後まで君を頼れなかった。
 助けてって言えなかった。応援するって言ったのに、応援してほしいって言えなかった。

 可能性を捨てるなって叫んだのに、自分で可能性をつぶしちゃった。実力行使しちゃった。
 自分が本当に好きなもの、自分が本当にやりたいこと、心の中にしまったまま実行しちゃった。
  
 

 今更遅いって怒られてもいい。嫌われてもいい。
 ………これだけ、最期に言わせてくれ。


 僕はいとちゃんが大好きです。
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
 由比若菜の人生はもうすぐ終わります。

 ・・・・・・・・・
 助けないでください。
  







 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 うそつきの僕を、どうか許してください。

 
 
  













 ・・・・・・・・
 じゃあ、また明日。






 さよなら。
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.38 )
日時: 2023/06/18 15:50
名前: むう (ID: viErlMEE)

 
 「契り」より〈こいとside〉

 学校の屋上のドアに、鍵はかかっていなかった。いや、正しくは違う。鍵穴に、銀色の鍵がささったままになっていたのだ。
 鍵は当直の先生が職員室で管理している。しかし先生によっては、時々、鍵を忘れて帰る人もいる。
 
 学校の先生は忙しい。ふだんの授業に加えて部活の顧問も担当している。人間誰しも完ぺきではないし、間違えることだって生きていれば多々ある。

 だけど、何も今日じゃなくても良かったのに!
 
「見晴らしのいいところでご飯食べたい」って由比が言うから。
「屋上の階段で座って食べようよ」って言うからわたし、お弁当の包みを持って教室を出たのに。

 扉のスペースに座って食べるって約束だったでしょ? 
 スマホの電波が悪くてYouTube開けないって話だったから、うち、今日こっそりスマホ持ってきたよ。フォルダにおすすめの動画、たくさん保存したよ。

 なのになんで、一緒に観ようとしてくれないの?
 なんでランチセット持ってきてないの? ご飯、食べるんじゃないの?

「いとちゃん、僕、外の空気吸いに行きたい。ちょっと行ってくる」

 箸でつかんでいたタコさんウインナーが、ポトリとお弁当箱の中に落ちた。
 わたしは慌てて立ちあがり、扉のノブに手をかけようとする由比の右腕を掴む。
 彼の筋力のない細い指の先が、ビクッと動いた。

「待って。どこ行くの」
「……外」
「外に行って何するつもりなの」
「なにって、空気吸いにいくだけだよ」

 由比は、痛いところを突かれたような顔になった。

「ねえ、もういいでしょ。外に行かせてよ」

 ドンッと突き飛ばされて、わたしはその場に尻もちをついた。
 掴んでいた手が離れる。
 ギィィィィと蝶番の音をきしませて、重い銀色のドアが外側から開いた。わたしがかける言葉を必死に探している間に、クラスメートの小さな身体は入口の向こうへ隠れてしまう。
 

 ……おかしい。 


 由比は滅多に嘘をつかない。表情が顔に出やすいことを自覚しているから。
 くわえて、彼は大人しい。人より動作が遅くて、のんびり屋で、マイペース。
 お喋りするときも、わたしが話終わるまできちんと待ってくれる。聞き役に徹しすぎるせいで、自分から話題を持ち掛けることは苦手。だから、わたしがだいたい『今日は何があったの?』って、先導してあげるんだ。

 おかしい、絶対おかしい。
 今日に限って、会話を自ら中断しようとして。乱暴してきて。
 しかも、……笑わないなんて、絶対絶対おかしい。

「ねえ、待ってよ由比! どうしたの!? ご飯、食べ………」

 わたしは、開けっ放しにされたドアをくぐって、そして。
 言葉を失った。

 人は心の底から驚いたとき、声が出なくなるものなのだと、悲鳴すら喉の奥に引っ込むものなのだと、その日初めて理解した。
 

 ――友人の表の顔だけを見て来たわたしの眼は、彼が屋上の柵に手をかける寸前まで、その事実を受け止めきれなかった。

「バカあああああ!」

 わたしは、叫んだ。
 人生初の怒号だった。人生初の悲鳴だった。

 これが悲鳴なんだ、と思った。
 後ろから抱き着かれたときに出た「キャッ」や「ひゃああッ」。
 あれは悲鳴ではなかったんだ。

 なんで、なんでなんでなんでなんで。
 嘘でしょ、嘘、絶対嘘。嘘だ、こんなの、嘘に決まってる。

「いとちゃん、風がすごく気持ちいいよ! 僕ね、ずっと空を飛んでみたかったんだ!」

 屋上の周りをぐるっと囲んでいる柵に、由比は足をかける。身体が徐々に上へ上へと持ち上がっていく。空と、身体の距離がどんどん近くなる。
 ……ついに、彼の足が手すりに乗った。その幅はわずか十センチ。制服のシャツが風でパタパタ揺れて、姿勢が少しグラグラしていて。


「ねえ、やだっ、やだよ由比! やだ、大きらいっ」

 違う、違う。うちは、あんたを怒りたいわけじゃないの。
 なにがあったのか聞きたいだけなの。一緒にお昼ご飯を食べたいだけなの!
 あんたのことが大好きだから、だから、自分の好きなものが無くなるのが嫌なの。

 あんたに見せたかったものが、あんたの行い一つで無駄になるかもしれない。
 それが嫌なの。


「由比! 早くこっちに来て! ……ねえ、帰ろう! 5時間目始まっちゃうよ! ねえ!」
「いとちゃん。僕はもう大丈夫だから、戻ってくれないかな」

  うそつき。大嘘つき。バカ野郎。
 大丈夫じゃないから、今現にこうなっているんでしょう!?
 大丈夫じゃないから、あんたはこんなに追い詰められているんでしょう?

 桃根こいとは信じない。演劇部員の名に懸けて、こんなエンドロールは絶対に信じない。
 ここであんたの物語を、暗転させたくない!

 ………ねえ、由比。あんたっていっつもそう。
 肝心なこと、何にも話してくれないよね。
 
 自分のこと、家族のこと、習いこと、夢のこと。
 わたしはたくさん話したけれど、あんたのことは何も知れてない。
 フェアじゃないと思わない?

「わたしがなんかしたの? わたし、無意識にあんたを苦しめちゃった?」
「……違うよいとちゃん。 いとちゃんは悪くない。全部、全部僕のせいなんだ。だから僕が全部やらなきゃダメなんだ」


 暖かい風が吹く秋空に零れた、彼の涙。

 わたしは慌てて駆け寄り、自分の小さな右手を友人へと差し出した。
 なにかが変わるわけではない。なにかを変えるわけでもない。少女の細い腕では、多分相手の苦しみは抱えきれない。
 
 でも、それでも。
 それでもわたしは。


「そんなことないよ! 言ってくれたらわたしも一緒にやるよ! 今までずっとそうしてきたよ! だからこれからもそうする! ずっとずっと側にいるから! ずっとずっと応援するから!」

 わたしに迷惑が掛かると思ったの? わたしが自分の側を離れると思ったの?
 そんなわけないじゃん。


 桃根こいとは、由比若菜という物語において最重要人物でしょ?
 いい? 物語っていうのはね、キャラとキャラが心を通わせることで進むものなの。
 全部一人で抱え込まないでよ。友だちでしょ?


「………いとちゃん。ありがとう。 でもごめん、もう疲れたんだ」


 由比が右足を一歩前に踏み出す。足が空を滑る。
 小さな身体は重力にあらがえず、コンクリートの地面へと真っすぐに落ちていった。
 風すら掴まずにどんどん落ちて行った。






  

  ………ドンッ。





















 ………ドンッ。

  
 







  ------------------------

 〈ゆ※&■〉


  ――ねえ、いとちゃ、………なんで。


  ――なんで、……なんで飛ぶんだよ。


  ――僕、言ってない。助けて……な、んて………。ひ、とこと………も………。



 『―――大好きだよ』



  ――僕の手、血だら、け。


 『ううん、離さないよ』


  ――いとちゃん、もういいよ。……もう、どっか、行ってよ……。


 『じゃあ、一緒に連れてって』


  ――地獄だろ。


 『天国に決まってるじゃん』


 ――何しに行くの。


 『神様に頼みに行く。ハッピーエンドにしてくれって怒りに行く。桃根こいとと由比若菜を叱ってもらう。そして、最期にはくっつけてもらう』


 ――くっつけるって、なにそれ。僕たち結ばれるの?


 『そうだよ。だってうちら、【こいと】と【ゆい】だよ。
  ほどけても、また絶対結びなおせるよ』




 









Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.39 )
日時: 2023/12/17 12:29
名前: むう (ID: F7nC67Td)


 展開の都合上とはいえ自分のキャラを死なせるのは胸が痛いよお(泣)
 みんな、由比みたいに抱え込んじゃだめだからね!
 ちゃんと相談するんだよ……。

 ------------------------

 〈XXside〉

 「おい、いい加減にしろよテメエ。どこへ行く気だ」
 
 一人の少年が、歩道の真ん中で声を荒げている。
 白いカッターシャツの上に紺色のパーカーを着ている。
背丈は160センチ前後。
 彼は手を広げて、相手がこれ以上先を歩くのを阻止していた。
 
 「どこへって、にえの様子を見に行くだけですが」

 答えたのは、サスペンダー付きの黒い短パンを履いている、十歳くらいの男の子だ。
 髪型はおかっぱ。猫のような大きな瞳の奥は、怪し気にゆらゆら揺れている。
 
 「あなたこそその恰好は何なんですか、猿田彦命さるたひこ
 「……俺の宿主だ。新しい身体だよ。てめえこそなんだその姿は」
 「あなたと同じですよ。我も見つかったのです、新しい器が」
 「なんだと? ――貴様、わざわいの神の分際で、何を」

 おかっぱの少年は、禍津日神まがつひのかみと呼ばれる、悪神と呼ばれる存在だった。
 火事・洪水・公害・疫病。
 彼がいる場所では様々な被害が発生する。人々は神の力に抗えず、次々と死に絶える。
 神という名がついているが、実際のところは妖に近い。神になろうとしたが、人を殺し過ぎたせいでその資格を得られなかった……という説もある(この町一帯に伝わる話だ)。

 この町は霊的エネルギーが非常に強く、霊や妖怪にとって非常に過ごしやすい土地らしい。
 禍津日神は恐ろしいことに、日本全国を支配できる大量の霊力を持っていた。しかし、彼はその力を敢えてこの東京―D町のみで用いたのだ。
 平安時代、この町一帯を治めていた陰陽師が禍津日神を祠に封印するまで。

 昔の人は日照りや干ばつが続くと、『禍神様が怒っておられる』と顔を青ざめさせたとのこと。
 畑でとれた農作物を祠の前に置いたり、酷い話だが生け贄を捧げたりすることもあったという。

 猿田彦は同じ神として、禍津日神の事をよく知っていた。
 何十年、何千年と悪行を続けた神。この神界隈でも嫌われており、(神様たちに界隈と言うのもアレだけど)封印されるのも仕方ない、むしろずっと眠ってくれと思っている神々がほとんどだった。猿田彦も、その一人だった。

 

 「というかお前、いつ封印を解いたんだッ」
 「当時は難しい術だったかもしれませんが、今は違います。どんなに高度な技術も、時間がたてば廃れるもの。幸い時間はたっぷりありましたので、ゆっくり解除方法をはかっておりました。意外と脆かったですよ」

 少年―禍津日神は、くつくつと喉を鳴らしわらった。

 「あなたこそ、いつ自由に動けるようになったのですか?」
 「力が戻ってきたんだよ。神の力は人間の気によって常に変化するからな。おまえと違って俺は、いい神・優しい神。無駄に岩の中に閉じ込められたり、クソ面倒な拘束をされることもない」

 「ふふふふふふ、相変わらず口が悪いようで」

 お前も大概だろ、と猿田彦は思ったが、声には出さない。
 片や道開きの神様、片や禍の神様。
 ここで歯向かったら最後、彼の右手が自分のお腹に貫通する。

 オーバーすぎる? いや、事実だ。
 この男は平気で人を殺す。自分が祀られている場所で人が死んでも、『自分のための贄だ』と喜ぶ有様だ。

「最近の人間はどうも勘違いしている。我々神々が住む場所は天界ではない。俗世ぞくせだ。人間と同じ目線、同じ立ち位置で世界を視ている。天界から降りてこない奴も中には居るけれど」
「テメエには俺らを愚弄する権利はない! 散々人間を痛めつけておいて偉そうにすんな!」

 猿田彦は眉をしかめ、さっきよりも強い口調で詰め寄る。
「胸糞悪い再会だが、会えてよかったぜ。道開きの神として、ここから先は絶対に行かせねえ! てめえが贄だと呼んだ人間も、必死に生きてんだよ馬鹿野郎ッ」

 猿田彦は両目をつぶる。瞬間、彼の身体を青白い光が覆った。
 それは、どんどん強さを増していく。
「ふ、馬鹿め。貴様では我を倒せまい!」と禍津日神は胸をそらす。


 それでも、いい神代表・猿田彦は手を止めなかった。

「――本当はずっと言いたかった。ずっとずっと俺様は言いたかったんだ! いいか、この場所はな!本当は俺の縄張りなんだよ! 自分が守るべき人が、勝手に入ってきた野良猫に殺される無念、貴様には到底わからねえだろうがな!」

 猿田彦はそのまま禍津日神の懐に飛び込むと、その胸倉をガシッとつかんだ。


「貴様のせいで進む道が消えるやつらの事、考えたことあるのか! 生きてきた道が、貴様の言葉一つで無意味になる。必死で命を散らした奴の事、考えたことあんのか!」


 ……時代が移り替わり、神々の力は以前よりもずっと弱くなってしまった。
 身体の自由が利かなくなり、出来ることが限られていく中で、神々は状況を打破できる名案を思い付いた。
 人間の身体に乗りうつることで人の世を生きようとしたのだ。
 

 あるものは、命を救えなかった少女の身体に。
 あるものは、想いを伝えられなかった少年の身体に。








 そして、禍の神の力は『逆憑き』へと変わり、ひとりの平凡な少女へと降りかかるのだった。
 

 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.40 )
日時: 2023/06/21 19:04
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)


 〈作者の補足〉


 ★神による、取り憑き方説明★
 ①良さそうな人間を探します! 

 猿田彦「子どもが一番取り憑きやすいぞ。説得しやすいからな」
 由比「助けてくれてありがとう猿ちゃん」
 猿田彦「回想シーンではまだ助けてねえからネタバレすんな!! 
 こっから助けに行くから待っとけ!」

 由比「い、いい神…………………猿ちゃん大好き………!!」
 猿田彦「あっそ(顔を逸らして)」
 
 
 ②取り憑いてもいいか確認します。

 
 禍津日神「説得など要りません。取り憑かれた人間は自我を失います。時間の無駄ですよ」
 猿田彦「おい、テメエの身体…それ、まだちっこいガキじゃねえか!」
 禍津日神「ええ。なのでとても動きやすい」
 大国主命「……此奴は確かに放っておくわけにはいかむな。てかこの作品コメディだったはずじゃが。どうなっておる」
 むう「メインはラブコメです。シリアスの後はライトに戻るのでもうちょい待っててー!」

 (禍津日神はこういう性格です。今まで書いてきたキャラの中で一番のクソ野郎です。
「マガっちヤバすぎるだろ」と思いながら書いております)
 
 
 ③人間さんの体にお邪魔して、生活をエンジョイします
 ④飽きたら違う子に乗り移ります。終わりです。

 禍津日神「おい作者。先程から説明がやけにキャッチーなのだが。我々を舐めているのか」
 むう「ひいっ!禍の神こっわ! チ、チガイマス! チガイマスヨ!舐めてません!」
 禍津日神「本当か?」
 むう「もうちょいキャピキャピしてくれたら愛着湧くんだけどな、とは思ってますが!」
 禍津日神「……はあ?(ギロリ) やっぱり舐めているな。先程我のことを『マガっち』と呼んでいたし」

 むう「名前長いんだもん!! 漢字打つの疲れるもん! こんな日常疲れます〜〜〜!!」


 【次回予告】

 美祢「次回は猿田彦と由比の出会い、そして俺と宇月の過去編だ」
 宇月「めっちゃむうちゃん深掘りするやん。ボクらそんな積もる話ないで!」
 むう「いや、この2人はめっちゃくちゃ過去が………」
 宇月「ああああネタバレはあかんて!」

 コマリ「わ、私はしばらく出番ないよー!トキ兄ばっかりずるい!」
 美祢「おまえずっと語り手だっただろ!」

 一同「それでは次回もお楽しみに〜!!バイバイ!」
 

 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.42 )
日時: 2023/08/28 07:56
名前: むう (ID: viErlMEE)

 禍「どうもーっ! 暗黒の禍神ヴァイオレンス・ゴッド、もとい禍津日神ことマガっちでーす!
 今日はついについに、猿田彦が人間の由比くんとこいとちゃんを助けに行くよっ。あ、時間軸は
 メインストーリーの一年前だから、よろしくねーっ。ということで本編……ってなんだこの台本はああ!」

 むう「すごいマガっち。ちゃんとキャピキャピできてる」
 禍「やめろっ! 『この時期テストでみんな疲れてると思うから、悪役ボケで読者の疲れを癒そう』など、おかしなことを言いおって貴様! 作者だからって何でも許されると思うな。いいか、今度舐めた真似をしたらお前の魂をあの世に送るからな(胸倉をつかんで)」

 むう「トゥンク」
 禍「なぜときめく」

 むう「最近の子って、ギャップに萌えるのよ。一見ツンツンしてる子が時折見せるデレに、キュンってするもんなのよ」
 禍「ほう。そうか。つまりこの小説の読者は我を前に恋に落ちると……。ふ、貴様は馬鹿か? 神が両手ピースで目をキュルキュルさせる世界線がどこにある」

 むう「HERE(ここ)」
 禍「………………よし、今すぐあの世に送ってやる」


 ------------------------

 〈由比side〉

 僕は屋上のフェンスから身を投げて、空を飛んだ。
 やっとこれで解放される。やっとこれで楽になれる。
 痛いこともつらいことも苦しいことも、もう終わりだ。

 やり残したこともない。僕は充分頑張ったよ。
 お母さんの前ではいい子を演じて。友だちの前ではのんびり屋さんを演じて。
 塾では、流石に嘘はつけなかったけど、それでも毎日足を引きずりながら生きたよ。

 そうだ、生き切ったんだ。だから何も悲しくなんてないんだよ。
 つらくない、苦しくもない、痛くもかゆくもない。
 この命がこぼれたとしても、それは自然の摂理で。
 
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、いとちゃん、いとちゃんいとちゃんいとちゃんっ………」

 …………どうしようもないくらい、最期まで僕は馬鹿だった。

 僕は、震える足を必死に動かしながら、ほふく前進で彼女の元へ行く。
 自分の横、中庭の地面に仰向けで倒れているひとりの女の子の元へ。
 砂利を濡らしているのは、自分のあごから滴る汗と、額から流れる大量の血と、そして友だちの生きた証である、赤い、赤い何か。

 全身が鉛のように重い。体温が徐々に下がって行く。それでも僕は視界を使って、なんとか、なんとか前へ進む。

 よし、もうちょっと。あと少し。……ついた。
 僕は涙でぐしょぐしょに濡れた顔を、堂々と相手に見せつけてしまった。

「………ゆ、い…………あはは、だい、じょう、ぶ?」

 いとちゃんは掠れる声でそう呟き、右手をそっと上げる。日々の運動で、ほどよく日焼けしていた肌は、枯葉のような真っ青な色へ変わっていた。
 爪の中に血の塊が入っていて、ううん、セーラー服の襟元もスカートも、赤一色で。
 きみの身体は、比喩でも何でもなく、黒々とした赤に染まっていて。

「い、いと、いとちゃ………っ」

 僕はそのあと、何も言えなくなってしまった。
 何を叫んでも、すべて言い訳になりそうで。何を伝えても、すべて無意味になりそうで。
 だから、だから僕は、最期の力を振り絞って、いとちゃんの指に自分の指を重ねた。
 目と目を合わせて、体と体をぴったり寄せ合って、お互い弱くなる心拍数を、合わせた。

「…………ゆいの、せいだ。ゆいが、……『死にたい』なんて思わなければ、うちも、飛ばなかった」
「…………っ」

 いとちゃんの言葉をかみしめる。
 そうだ、その通りだ。今の現状に終止符を打とうしたから、いとちゃんは僕を止めようとしてくれたのだ。僕が何も言わなかったから、僕が何も話さなかったから、彼女は『一緒に飛ぶ』ことを選んでしまったのだ。

 飛んで何が変わったか。
 明るい未来が待っていたか? 痛い思いをしなくて済むようになったか? 解放されたか? 楽になれたか? 苦しくなくなったか?

 …………何も変わらなかった。だって、飛んだのは自分ひとりじゃなかったから、
 横にきみがいたから。きみが横にいてくれたから、僕は飛ぶことを躊躇してしまったんだ。
 そして今、きみの命がこぼれていくのを理解して、苦しくてたまらない。


「でもね、ゆい……。自分を責めないで……。ゆいは、何も、なにも、悪くないんだから……」
「ちが……。ちが――っ。ゴホッ。ゴホッゴホ」

 喉の奥からせりあがった血で窒息しそうになる。
 僕らに遺された時間は、あとどれくらいだろうか。

「わかってるよ、ホントは、ホントは、とっても生きたかったんだよね……」

 いとちゃんは、薄く笑う。そして、横に倒れている僕の髪を、空いている左手でそっと撫でた。教室で同じように髪をいじられたことがあったが、今回は状況が違う。いとちゃんの右手は、ぶらんぶらんしていて、ちょっと力を抜いたらすぐに崩れそうなくらい、動作が危なかっかしくて。

「いき、たかった……?」
「そうだよ。いきたかった、でしょ? ほんと、は。いきたい、から、しのうと……したんでしょ」


 お母さんに干渉されることなく、日々を過ごしたい。そう思っていた。
 お母さんなんか大きらいだ。お母さんのせいで僕の世界はこうなった。
 ずっとそう感じていた。


 でも、心の中では……いや、昔から僕は、お母さんのことが好きで。
 感謝の気持ちは本物で。母親と息子の愛は本物だと思っていて。

 そうだ、僕が求めていたのは、「死」ではない。
 僕は、生きたかった。この世界を、もっともっと楽しみたかった。

 成績とか頭のよさとかキャリアとか、そんなものではなく、もっと、もっと単純に、自分を認めてほしかった。それさえクリアできれば、後は自力で乗り越えられる気がしていた。
 それだけでよかった。シンプルで複雑な、愛情ってもんが、ただただ欲しかった。

 
 無理だった、けど。


  
「いき、たかった……」
「うん、わかってる」
 
 視界が暗くなる。

「あいされたかった。……あい、したかった」
「うん、そうだ、よね。わかってる。だから、……最期まで、うちはゆいの……そばに……る」


 全身の力が抜ける。 
 

「ぶんかさい、いちばんまえ……で……みたかった」
「うちも、みて……もらいたかった」


 確か演目は『バラとイバラ』。
 どんな内容なのかわからないけど、いとちゃんがやるなら、絶対神作品。



「ら――せは、いっしょに、……みに……いこう」
「うん、ぜ、ったいね」


 痛みが、消えていく。
 あ、ダメだ。右耳が聞こえなくなってきた。

「ねえ、さいご……言いた………ことがあったんだ」
「………き……よ」

 自分の声もなかなか聞こえない。
 いとちゃんの声も、あんまり聞こえない。


 唇の動きで、なんとか推測できる。
 さっき言ったのは多分、「遅いよ」とかかな。


「………ぼ……は」


 ああ、無理だ。左耳も機能しなくなるなんて。
 血がどんどん外に流れていく。
 言わなきゃ、さいごに……さい、ごに、これ………け…………は。


「……………だい、すき」




 ――――――――あ。死んだ。




 ------------------------------------------------

「うわ、血生臭ッ。こいつらまさかあの高さから飛んだのか? 嘘だろ。……魂と体の分離が始まってんな。さて、どうしたものか。自ら死を望んだものに介入するのはご法度だ。……どうする、偶然の再会その2」

 猿田彦は、由比とこいとが通う中学校の上空に浮いていた。
 目線を前に向けたまま、後ろにいる相手に呼びかける。
 

「――なんじゃその変な呼び名は」と、相手は渋い顔。
「おい、睨むんじゃねえ。わかった、言い換える、言い換えるから!大国主オオクニヌシ、な」
「ふん。それで良い」

 答えたのは、長い黒髪の女性だった。若葉色の着物を着て、白い帯を締めている。
 縁結びで知られる、日本の有名な神様であり、猿田彦の古い知り合いである。
 …………さきほど偶然出会った。

「なにやら慌てておるが、どうしたんじゃ」
「おう。つまりだな。『道開きの神、ラスボス退けて人間救助! ~旧友と再会したんで協力たのんでなんとかします!~』って流れだ」

「なぜ、ライトノベルのタイトル的にまとめるんじゃ。緊迫感に欠ける」
「なにって、ライトノベルにおいて神の存在は不可欠だろ」

 長年人の世にいたせいで、猿田彦も大国主命も、人間に関する知識がかなり豊富だ。
 その気になればパソコンだって使いこなせる。ネ○フリだってみようと覚えば見れる。
 取り憑く相手が子供なので、彼らに影響されたのだろう。

「はあ。まあいい。状況は自力で理解する」
「かなり複雑だが大丈夫か」
「………大丈夫じゃ、なんとかなる。さて、なるべく早急に済ませるぞ。奴が来る前に」



 ※次回に続く!

 






 






Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.43 )
日時: 2023/12/05 08:29
名前: むう (ID: F7nC67Td)

 〈拡長編:本編前のキャラトーク!〉
 ※本編に組み込んだら長くなりそうだったので、拡長編にしました。
 今度のストーリーを分かりやすくするための用語などを、キャラがお話します。
 それでは、どうぞ。

 宇月「ご無沙汰してますメインストーリーの方の夜芽宇月と!」
 美祢「同じくメインの世界線の時常美祢だ……って、なんでコイツと一緒なんだ(舌打ち)」
 宇月「それはこっちのセリフ。なんでこんな奴と一緒やねん。マジで意味わからへん。って違う違う違う違う、あああああ、まーたボクはいらんことを……」

 美祢「え、お前俺と一緒がいいの?」
 宇月「ま、まあ、別に? 隣に居ってやってもええかな、とは、その、まあ、はい」
 美祢「…………………え、なんか変な虫でも食った?」
 宇月「なあ、むうちゃん。美祢が懐いてくれへんのやけど」
 
 (日頃の行いがなあ)

 むう「おい美祢、『協力しよう』って言ってたでしょ」
 美祢「まだ過去編だろ」
 むう「まーたおまえはそうやってメタ発言をする……。そんな子に産んだ思えはないぞ」
 美祢「知らねえよ」

 むう「本当は好きなくせにぃ」
 美祢「好きじゃないし」
 むう「尊敬してるくせにぃ」
 美祢「してねえって」

 むう「はい、ここに取り出しますは時常美祢の日記帳」
 美祢「……はっ!? お、おいどこから持って―」
 むう「『5月6日 また宇月とうまく話せなかった。本当は一緒にゲームしたいのに』」
 美祢「うわああああああああああっ! 返せ、早く返せっ(真っ赤になりながら)」
 宇月「………………(同じく真っ赤になって黙り込む)」 
 美祢「何か喋れよ!」 
 

 宇月「は、はいはーい(手を叩いて)。それでは本編前のキャラからの挨拶やってくでぇ」
 美祢「はぁ、はぁ。おい、お前今すぐテーブルの角に頭ぶつけて忘れろ」
 むう「無理。もう録音しましたので」
 美祢「………………………死にたい…………」


 (禍「なら我が冥府へ送ってさしあ……、お、おい貴様なにをする、我の手を気安く触るなっ」)
 (猿「ここは俺が食い止めるから早く進行しろっ!」)


 宇月「えーっと(台本を開く)。『霊能力者について説明せよ』? え、ボクに言うてる?」
 むう「(口下手なもので上手く説明できません。お願いします、の視線)」
 宇月「……はあ。しゃあない。OK。んじゃ、説明していくで。今回は今後のストーリーにもかかわってくるから、みんなついてきてな」


  ★宇月さんによる霊能力者講習会★

 宇月「霊能力者は主に三つのパターンに分けられる。憑依系・使役系・操術系や」
 美祢「なんだそれ」
 宇月「詳しく見ていくで~」

 【使役系】
 ・妖怪、幽霊と契約し共に戦う

 宇月「まず初めに使役系や。このスタイルが一番多いで。代々続く家柄だと、共闘する怪異も決まっとったりする。最近は自由に選べるようになっとるかな」
 美祢「具体的に何人くらいいるんだ?」
 宇月「せやなあ。霊能力者が全国に3000人ほどおるから、うーん。6割はこれやな」
 むう「へえ。けっこう多いんだね」

 宇月「最近知り合った子ぉの一人が使役系やな。あの子、変な性格やけど腕前は確かなんよな……。なにか収穫が得られるかもしれんし、今度コマリちゃんらに会わせてみよかな(小声)」

 宇月「みんなに分かるように言い換えるならば、吸血鬼との契約とか、悪魔との契約とかみたいなもん。使役系の霊能力者は、共闘する怪異に対価を支払うで。血液とか、お供え物とか」
 美祢「妖怪はどんな奴らなの?」
 宇月「一番多いんは、動物の霊。猫、犬、狐、狸なんかは有名やな。こっくりさんってあるやろ? あれで狐の霊がよく出んのは、それだけ扱いやすいって事や」

 【操術系】
 ・自分の特殊能力を使って霊を祓う戦闘スタイル

 宇月「お次は操術系。これは全体の3割。ボクのマインドコントロールもこれに当たるな」
 むう「特殊能力って、霊能力のこと? 霊能力者は全員能力もってるんじゃないの?」
 宇月「それが違うねん。霊能力は、操術系の人しか持ってへん。つまり、霊能力をもって生まれたら、絶対そのチカラを使って戦わんとあかんってことや。使役系や憑依系は、能力とは言わん。『体質』って言い換えられるな」

 美祢「だからお前、本編で『こんなチカラいらん』とか言ってたのか」
 宇月「あ。一応、霊視とか、乗っ取りの耐性とかはみんな持っとるで~」

 むう「こちらは何が有名なんですか、宇月先生」
 宇月「人の数だけ術があるから、あんまり把握しとらんけど……。【光の使者】は強いな」
 美祢「光の使者?」
 宇月「古来より、光には闇を祓う力があるとされとる。よって、光系統の霊能力を持つ霊能力者は、最強とうたうわれがちや」


 【憑依系】
 ・自分の身体に霊を憑依させ、自分の代わりに戦わせる戦闘スタイル

 宇月「最後は憑依系や。霊能力者の中ではめちゃくちゃ希少。割合はわずか1割や。やから、憑依体質がわかったら、こちらも強制的に討伐に参加させる決まりや」
 むう「霊能力者界隈、めっちゃシビア……」
 宇月「あまりに珍しいから、『~様』とか、『~姫』とか呼ばれとる。ボクはそういうのはあんまり好きやないけどな」

 美祢「ちなみにお前、憑依系の人に会ったことあるの?」
 宇月「京都ではない。こっちに移ってきてからは、二人。一人は上司の篠木さん。でもあの人、いい人過ぎて逆にこっちに様付けするんよ」

 むう「篠木さん……今度登場させようか迷ってるけど、宇月さん的にはどう?」
 宇月「え、ここで聞くん? あーそうやな、ピンチの時は頼るかもしれんな」


 -------------------------

 宇月「ということで、霊能力者のタイプ、わかってもらえたかな?」
 美祢「わざわざこんなコーナー作ったってことは、出るんだな? この先、新しい霊能力者が」
 むう「さあ、どうでしょう」

 美祢「まあ、とりあえず今は禍津日神VS猿太彦・大国主命がバチバチだから、そこをなんとかしねえとな」
 宇月「せやな。そこがないと、ボクらのおる未来に繋がらんし。むうちゃん、頼んだで」
 むう「まっかせなさい!」

 (猿・大「頼む相手こっちだろうが!」)

 むう「それでは次回もお楽しみに! 講習会のお相手は作者のむうと、」
 美祢「ボディーガード役の時常美祢と、」
 宇月「霊能力者の夜芽宇月でした!」
 一同「ばいばーい!」


 -------------------------

 ??「あ~。なっかなか登場出来ねえな。早くカッコいいとこみせてえのに! 推しの配信も我慢して、ずっと待機してんだけどな。あ~~、早く観てえ!」
 ??「……ねえ、………僕も観たいから、………先、観ないでね……」
 ??「はいはい。わぁーったよ」


 ※次回に続く!

 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.44 )
日時: 2023/08/25 23:15
名前: むう (ID: viErlMEE)

 〈猿田彦side〉

 俺—猿田彦は、13~14歳くらいのガキんちょの身体を乗っ取っている。
 名前は確か……「バン」とか言ったか。苗字なのか名前なのか、どんな字を書くのか分からないが、彼の友達がそう呼んでいたので、自分も同じように呼んでいた。

 バンを一言で表すなら、「変な奴」だな。
 コイツはとにかくお喋りで、こちらが口を挟まない限り、会話をやめない。いったいいくつネタを持っているんだと引くくらい、めちゃくちゃ喋る。こっちは、息をつく暇もない。
 
『へ? 乗っ取り? ああいいよいいよ、なんか少年漫画みたいでおもろいし俺一応霊能力持ってるし、憑依系だしこれくらい余裕余裕』

 な? 句点どこ行った? って思うだろ。
 だが正直な話、説明する手間が省けて実に助かった。彼の家が霊能力者の御三家であること、彼が妖怪幽霊を取り憑かせて戦う「憑依系」であることが、道開きの神を安堵させた。
 
 俺たちは、互いに助け合うことを第一条件とし、同じ身体を共有する仲間として仲良くなった。
 こうしてみると、ガキの癖に妙に達観しているなと思う。良家のお坊ちゃんという生い立ちが、子供をそうさせているのかもしれない。
 

 ……さて、話を戻そう。
 現在俺は、ある中学校の上空を飛んでいる。人間を助けるために。

 神である俺らは、人間の生死のタイミングが分かる。
 一つの個体がいつ、どうやって生まれるか、どのような人生を生きるか。そして、どう死ぬかを予見できる能力を持つ。
 ただし、視えるだけ。運命を変えようとする者はまずいない。よほどのことがない限り、俺らは力を使わない。これは神々における暗黙のルールだった。

 今どきの若者言葉で、分かりやすくまとめるならば。
「万物を生み出したせいで体力切れたわ、ぴえん」
「生かすも殺すも結局そいつ次第じゃね? 生きようと思えば人は生き、死のうと思えば人は死ぬ。そういうもんっしょマジで」
「あ、じゃあ俺ら、しばらく傍観者になっていいってこと? マ?」
「えー、神やん」
 って感じだ。だいぶギャルくなってしまったが、かなり伝わった気がする。たぶん。
 

【神頼み】という言葉があるが、俺からすれば「自分で何とかしろよ」って話。
 あれ、神様ってこんなゆるい生き物だったっけ……。まあいい。

 そんなこんなで人々の生活を陰から応援していた俺様だったが、ある日ふと違和感に気づいた。
 ――人が死に過ぎている。

 例えば、20代の女性とすれ違ったとする。
 俺の目には、その女性が今後どのような人生を送るかが映る。日々平穏に過ごしていたが、七月の○○日にトラックに撥ねられて死亡、とかな。

 そして自分の予見は、一度も外れたことがなかった。
 しかしここ数日、急に運命が変わる人間の数が増えてきていた。なんなんだ、この不快感。全身にまとわりつく、ねっとりとした憎悪の念……。間違いなく近日中に何かが起こる!

「そして出会ったのが、あの禍野郎ってわけだ。これで疑いが晴れた。アイツは絶対何か企んでるぞ」

 俺は空中でバランスを取りながら地上へ降りる。
 風の流れを利用して体勢を整え、両足に全意識を集中。着地の衝撃を最小限に抑え、学校の中庭の地面に右足をつける。

 ストッ。

「あの鬼神か。昔からコソコソコソコソ、鼠のように闇に隠れておったが……」

 続いて着陸した大国主が、形のいい鼻を鳴らす。
 着物の裾をたくしあげ、血だまりで濡れないように注意しながら足を進める。

「敵に回すと厄介じゃな」
「ああ、まったくだ」

 俺は肯(うなず)く。

「こいつらの未来を視た。ガキ二人とも、禍の神の贄として吸収される。復活後の最初の餌として」

 地面に倒れているのは、二人の子供だ。
 白いシャツを着た少年と、セーラー服の少女。
 両方とも、服と顔を、血と泥で汚していた。



 なるほど、少年は家庭環境と勉強の不安に板挟みされ、逃げたくても逃げられず自殺。
 友人の少女は彼を助けようと、後追いで命を絶った……か。

 なんとも哀しい最期。彼らが救われる未来は、なかったのだろうか。
 ………いや、あった。俺様がみて見ぬふりをしなければ。

「俺のせいだ」
「おぬしのせいではない」

 肩を降ろした俺に、大国主が言う。
 その端正な顔を、悲哀の色で染めながら。
 
「お主は定められた規則をしっかりと守っただけじゃ。道はこれから切り拓けばよい。最悪はこれから訪れる。わしらはそれを止めるのじゃ」

 ――自らの選んだ死を、他人に利用されてはならぬ。
 ――闇の中に取り残すわけにはいかぬ。

 と、彼女は言葉を続ける。

「……なぜ奴は、こんな若造を狙うのじゃ? なにか解るか、猿田彦」
「負のオーラが強いんだろうな。死は、奴の好物だ。子供は経験が浅いがゆえに、物事を大きくとらえがちだ。綺麗なものを綺麗と言える純粋さを持ち合わせているのと同時に、一度醜いと決めつけた物はどこまでも醜く映る」

 禍津日神は、穢(けが)れから生まれた存在。その本質はどこまでも悪だ。
 どこを切り取っても、あの神には肯定できる箇所が無い。存在そのものが、我々にとっては悪でしかない。禍をつかさどる者として、当然のことかもしれない。与えられた使命を全うしているだけかもしれない。

 でも、他人の正義が必ず善とは言い切れない。

「それで、どうする。何か策はあるのか」
 大国主は俺を見上げる。

「――こいつらの身体に乗りうつるのはどうだろう。いや、こいつらの身体から発生した霊魂と合体する,と言った方が正しいのか?」
「は!?」

 大国主は、ぽかんと口を開けた。
 そりゃ、そうなるわな。横で友人が真面目な顔でおかしなことを言ったのだから。逆にこれで「わかった! うむ!」とOKされたら困る。

「正気か貴様? 通常、霊魂というのは現世に留まるものではない。乗りうつろうとする前に、体から離れた魂は冥府へと送還される。だいたい、我々も霊体みたいなものじゃろう。霊と霊が合わさって、いったい何になるというんじゃ」

 俺の提案は100パーセント無理ゲーだ。
 前例も成功の実績もない。バカな神が思いついたヘンテコなアイディアだ。もしかしたら、そもそも論理から間違っているかもしれない。

 でも、それでも。何事もやってみないと分からないだろ。
 俺だってどうやればいいかわかんねえ。言ってみただけだ。
 けれど、俺らは神だ。万物を生成し、国を作り、命の概念を作り出した神だ! 
 だから、ひょっとして……となんの根拠もないのに希望を持ってしまう。これもいけるんじゃないか?って。


 それに。お前さっき言ってたじゃん。

「道はこれから切り拓いていくんだよ! いいか、時に大胆に、だ。渡ればとにかく道になるんだ。たとえそれが獣道だったとしてもな。俺はやるぞ。おまえが何を言おうとやるぞ!」
 
 やり方はこれから神スピードで考える。とにかくやるんだ。
 やれるって思うんだ。神が自信を失ったら、いったい誰が二人の人生を肯定するんだ?



 と。ふと、ビュウウンと強い風が吹いた。
 はっとして後ろを見る。


 「おやおや。ずいぶんと楽しそうではないですか。我も入れてくださいよ」
 

 おかっぱの小柄な少年は、あごに手を当てながら静かに云ったのだった。
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.45 )
日時: 2023/08/25 23:20
名前: むう (ID: viErlMEE)

 
 閲覧数1000突破ありがとうございます!
 今後ともよろしくお願いします!
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「おやおや。ずいぶん楽しそうじゃないですか。我も入れてくださいよ」

 禍津日神はぞっとするような低い声で言い、両手を広げた。
 彼の身体からは黒い靄が発生しており、空気の流れに合わせてゆらゆらと揺れている。おそらくこれが、けがれというものなのだろう。

「旅は道連れというでしょう。ねえ、猿田彦? 同行してくれる仲間がいると、旅がより一層楽しくなる。貴方の仲間に混ぜてください」
と、奴は右手をこちらに差し出す。

「我とて独りぼっちは嫌なのですよ」

「……入れるわけねぇだろ! このクソ野郎!」
「おや、悪い子ですね」
「このっ。ああ云えばこう云いやがって!」

 俺—猿田彦は彼をキッと睨みつけ、怒鳴った。腹の底から、沸騰した湯のように、ふつふつと怒りが湧いてくる。
 俺たちは今、敵対関係にある。人間を守る側と、人間を殺す側。その手を握る訳にはいかない。


 敵意を向けられた禍の神は、めんどくさそうに首の後ろに手を回そうとし……俺の横にもう一人、神がいることに気づき、僅かに唇を開いた。

「まさかまさか、貴方ともう一度会うことになるとは。大国主」

 これは面白い展開ですね、と少年の姿をした人殺しは嗤う。
 彼は屈んで、グラウンドの土についていた血を左手の人差し指ですくう。そして指を口元まで持っていき、真っ赤な舌でペロリと舐めた。

 ………汚ねェな。
 と思ったが、お約束。声には出さない。

 っていうか、なんで呑気に脳内実況なんてしてるんだ俺様は。
 これから戦いの火ぶたが切って落とされるのだから、集中しろ!
 
「貴方ような美しいお方の顔を血で染めたくはありません。どうでしょう、お戻りになられては」
と、大国主の艶やかな黒髪にそっと指を絡める。

 こいつ、俺に対しては冷たいくせに、大国主相手になると機嫌を取ろうとするな。

 ああいや、昔からそうだった。彼は、能力の有無で人をはかる部分があるのだ。強い者は敬うべき存在なので、親密な関係を築き、「こいつは自分の事を見てくれている」と安心させてから始末。弱い者は即始末。人間を殺すときも、最初に狙うのは女子供。力の強い敵が、女たちを守ろうと背を向けたところに一撃。そういう神だ。

 まあ、大国主に比べれば道開きの神の能力は劣るのは事実だが。
 
「貴様は自分が見えてないようじゃな」

 しかし大国主は、その手を自分の右手のひらでバシッとさばいた。そして、汚いものでも見るような表情になり、ずいっと禍津日神と距離を詰める。

 そして、「え」と驚いた彼の額に、人差し指を突き付けた。

「綺麗な言葉を吐いたところでお主の性質は変わらぬ。つくならもっとマシな嘘をつけ。穢れを身にまといながら、血をなめながら云うなら、尚更のことじゃ」

 禍津日神は、数分間固まっていた。何を言われたのか分からず、理解が追い付いていないようだ。もしくは、事実を指摘されて悔しかったのだろうか。

 しばらく、場は静寂に包まれた。
 夕焼け空を渡っていくカラスの鳴き声と、五時間目の終了を告げる校内チャイムが虚しく響く。風が中庭の砂と血の匂いを運んでゆく。

「ふはははははははははははははは!!」

 静寂を作ったのが彼なら、静寂をやぶるのもまた彼だった。
 突然、両手で顔を覆い、ケタケタと笑い出した神に俺と大国主は顔を引きつらせる。右足を一歩前に出し、臨戦態勢を取った。

「あはははははははははははは………言ってくれるじゃないですか……。先刻、彼から受けた傷よりも此方の方が何倍もきつい」
 
 禍津日神は片腕を抱えながら、よたよたとこちらに歩み寄ってくる。
 背中を丸めて、ゆっくり、ゆっくりと。それはもう、じりじりと。

「あははははははははは、そうそうそうそうそう! その通りです! 我は全ての悪を管轄し、全ての闇を総べる者! 血と死が我の栄養。我の糧。闇から生まれし存在、それが我だ……」

 そこで彼は言葉を切り、口元を歪ませる。また笑う。嘲る。

「この空腹! この乾き! すべてを奪うことで満たすのみ! あはははははははははははははははは! さあ愚かな神ども、我の前にひれ伏せ!」

 と同時に、彼の身体をまとっていた黒い靄が、彼が伸ばした右腕に集中した。血の毛がない真っ白な肌が、握りしめた拳が、一瞬で黒に覆われる。

「大国主、後ろに下がってガキを守れ。遺体は絶対奴に渡すな。必ず死守しろ。頼むぞ」
 俺は敵を見据えたまま、小声で後ろにいる大国主に指示する。

「了解した。猿田彦はどうするっ。奴を止めるか? 奴は貴様ひとりで敵うような相手ではないぞ!」
 ガキの元へと走りながら、大国主が叫ぶ。

「………そんなこと、とうにわかってる!」

 中学校へ向かう前、俺は禍津日神を退けることに成功した。身体の中に溜まっている、ありったけの霊力を使って、なんとか彼の体力を一時的に消耗させた。

 だが……。
 片眼でチラリと相手の様子を窺い見る。シャツやズボンに土汚れがついているものの、特に目立った外傷はない。あの数分間でもう身体を修復しやがったのか。

 身体……。神様(俺たち)にとっての、器。
 こいつが乗っ取っているガキは、見たところまだ10歳くらい。服装から察するに、裕福な家で過ごしているボンボンだ。

 いきなり乗っ取られて。自我を失って。
 今、どんな気持ちなのだろうか。

〈―――バン、聞こえるか〉

 俺は意識を脳に集中させる。同じ身体を共有している俺とバンは、念話で意志の伝達が可能だ。
 心の中で問いかけると、聞きなれた甲高い声が頭の奥で鳴った。

『おっひさ猿! どしたどした? てかもう夕方? というからお前いつから乗っ取ってる? は? 二時間? 下校の時から? うっわだる。 俺この後塾なんだけど。乗っ取りは一時間までって約束じゃん』

 はーいめちゃくちゃうるさい。
 というかお前、その呼び方いい加減やめろよ。
「おい猿!」って普通に悪口だからな。せめて『猿田彦』だろ。流石に中学生で「おい猿」呼びはないだろ。泣くぞ。

『猿も俺のこと「バン」って呼んでんじゃん。あのな、それ友達が言ってるだけだから。「つがい」って呼べよ猿』

 だーかーらー、猿って言うなっつってんだろ!

〈協力してほしい。討伐したい奴がいる。おまえの力を貸してほしい〉
『え? なにその急展開。え、どんくらい? 幽霊なの妖怪なの? 雑魚だったらまあ倒せるけどていうか急すぎないどした』
 
 おい、聞こえない。早口すぎて何言ってるか全然わからん。
 いいかバン。道開きの神は千年以上生きているんだ。
 じいちゃんなんだ。耳が悪いんです、ゆっくり喋ってください。

〈…………いや、神なんだけど〉
『はあ、神? 神を倒せと? おまえ毎回毎回厄介案件思ってきすぎ! この前倒した八尺様もかなりやばかったんだからね分かってる?』

〈いいかバン。今から乗っ取り解除する。前に敵がいる。俺の力はすべて使っていい。とにかく助けてくれ〉

 お前しかいないんだ。おまえだけが頼りなんだ。
 霊能力の家系の筆頭。世にも珍しい『憑依型』の霊能力者。
 神を取り憑かせることができる、特異な体質の持ち主。

『あー、なんか知らんけどヤバそうね。……仕方ねえなあ。ホントに全部使っていいのね? 出力100でもいいのね?』

〈いい。全部使って構わない。その代わり絶対に死ぬな。相手は強敵だ。………ごめん、バンにしか頼めないんだ。いいか、解除するぞ〉

『りょ。ま、お互い大切なもんがあるってことっしょ』
かい!!!!〉

 俺は乗っ取りを解除する。頭からつま先にかけて、ぞわぞわとした変な感触が走り、意識が遠のく。フッと全身の力が抜けていく。俺は―いいや、学ラン姿の少年は、その場にしゃがみこむ。


 ――――後は頼むぞ、バン。


「りょー」

 少年が、ふらりと起き上がる。
 身長は160センチ前後。オレンジ色の天然パーマの髪。半分閉じかかった瞼の奥の瞳で、襲い掛かってくる禍の神の姿をとらえる。

「初めまして敵サン、猿田彦に代わっておしおきよ~。なんつって。あー自己紹介先にした方が良い感じ? おっけおっけ」

 少年はスッと腰を落とし、すうーはぁーと深呼吸をして気持ちを静めると、さっきとは打って変わった静かな調子で名を名乗る。

「俺の名前は番正鷹つがいまさたか。またの名を『鳥神様』。人間だけど仲良くしよーね。禍神サマ?」


 ※次回に続く!

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.46 )
日時: 2023/07/18 15:20
名前: むう (ID: viErlMEE)

 【お知らせ】
 これから戦闘開始! となる予定だったのですがスミマセン。
 テスト勉強で、8月末まで更新できません。
 お詫びとして、閲覧1000突破記念にキャラトークを書き下ろしました!
 それではさっそくいってみましょう!

 〈閲覧1000感謝★キャラトーク第2弾!〉
 今回のテーマ:性格新聞

 むう「おーいみんなー。ちょっとこれ見て(スマホを差し出す)」
 美祢「は? なんだよむう」
 むう「【性格新聞】ってサイトが今流行っててさ。自分の性格を新聞にしてくれるんだー」
 コマリ「あ、それ知ってる! 学校でも話題になってたよ」
 宇月「結構当たるって話やんな」

 むう「そうですそうです。というわけで今日の企画! 『憑きもんキャラで性格新聞やってみたら果たして一致するのか』!ドンドンパフパフ」
 キャラ一同「………」
 むう「およ? なんでみんなどんよりした顔してんの?」

 コマリ「いや、なんか悪いこと書かれてたらヤダなあとか……」
 美祢「元厨二病の古傷が開いたら嫌だなぁとか……」
 宇月「これ以上印象悪なったら立ち直れへんのちゃうかなとか……」
 こいと「完璧作者の趣向入ってるよなあとか」
 由比「みんながつまんなそうだから僕もやめとこうかなとか」
 禍津日神「そもそも神に性格新聞ってどうなんだよとか……」

 むう「はい、やっていこー!(ガン無視)」


 〈① 月森コマリ〉
 【謙虚で明るい人柄の裏に「ギラつきを秘めている」との指摘も】
 記者「似ている生物はミズクラゲ。自然に景色になじみ、エネルギッシュではないが柔らかな性格」

 ・友達としては最も付き合いやすい人間
 ・彼女の部屋は掃除ロボットではどうにもならない
 ・遅刻しても笑顔で登場する人です
 ・中身はないが話す量は少なくない

 美祢「確かにコイツの部屋はルンバでも片付かん。ていうか俺と相部屋だけど。……おいコマリいい加減掃除してくれ頼む」
 こいと「堂々と授業をさぼれるバイタリティーの持ち主だよね」
 宇月「あたってるやん。コマリちゃん人当たりいし喋りやすいし」
 由比「いいなあ。僕もコマリさんみたいな性格になりたいなあ!」

 〈② 時常美祢〉
 【ぶ厚い理論武装と気持ちを隠す性格に「心が要塞化してる」】
 記者「たとえるならリクガメ。パワフルさは全然ないです。心に甲羅はありますけど」

 ・ニュアンスやテイストを肌で感じ取れる人
 ・全然目を見て話してくれないね
 ・無表情やと怒ってるみたい
 ・カラオケ連れて行ったけどずっとスマホ見てたね

 宇月「うっは! 美祢おまえめちゃくちゃおもろいねんけどwww なんやねん心の要塞化てww あーお腹痛いwww」
 美祢「おまえがほぼほぼ俺の心のドアを閉ざしてるぞ分かってるか」
 コマリ「確かにトキ兄、エスパーかな? って思っちゃうくらい人の気持ちに敏感だよね。言ってもないのに私が思ってること伝わるし」
 こいと「カラオケでスマホ見てるは分かりみが深い。歌うイメージが全然ないですよね」

 〈③ 桃根こいと〉
 【謙虚で明るい人柄の裏に「ギラつきを秘めている」との指摘も】
 記者「イメージは動物のふれあいコーナーにいるヤギ。恐ろし気な感じではないけれど、かなり欲に溢れている」
 
 ・カラオケ出て30分は最後の曲歌っているようです
 ・皮肉に気づかず笑顔でいる無敵な人
 ・落ち込んでからの回復は早い方だと思う
 ・優しいけど何かを背負ってまで優しくする方ではないね

 由比「……最後だけ訂正したいなあ」
 宇月「それなあ。っていうかそっか、桃根ちゃんの過去知っとるのはボクとユイくんだけやっけ」
 由比「あーでも、『生きろ!』って鼓舞するんじゃなくて一緒に飛ぼうとしてくれるとこは、優しくないかもなあ。あ、優しいよ? 優しいんだけどね!」
 コマリ「なるほど。こいとちゃんと私はギラギラしてるのか……」

 〈④ 夜芽宇月〉
 【必要ならば失礼なことも平気で言い放つ姿勢に賛否両論】
 記者「シュモクザメみたいですね。自分の領域を犯す相手には獰猛でパラフルな攻撃性があります」

 ・実はだらしないし日向が似合わない人
 ・彼が寝てないとか風邪ひいたとか言っても大したことない
 ・カワイイ子の顔しか覚えていない
 ・会うたびに「顔変わった?」「太った?」って言ってきます

 こいと「そうかきみはそんな奴だったんだな」
 宇月「エーミールやめてぇ! 少年の日の思い出ちゃうねん」
 むう「もうあんたフラグ回収王でいいよ」
 コマリ「逆に当たりすぎてちょっと怖いよ! でも、宇月さん第一印象怖いけど喋るとけっこう会話は弾むよね」
 美祢「人は選ぶけどな。俺らがOKなだけで、何も知らない奴からすれば嫌な人だと思うぜ」
 宇月「よしわかった! これから気を付けますごめんなさい!」

 〈⑤ 由比若菜〉
 【人への警戒センサーが利きすぎて「鳩を超えた」と話題に】
 記者「たとえるならコアラ。エネルギーもなく動きも鈍い」

 ・苦労しているけど、それだけ自分と戦っている
 ・盗聴器を仕掛けたけど、裏の顔もなく誠実な人だった
 ・年齢の割に世間知らずな感じがするんやけど…
 ・お金があったら贅沢じゃなくて平穏を買うタイプ

 こいと「コアラ! なんてぴったりなたとえ!」
 猿田彦「あー。わかる。こいつ、『気軽~に話してくださいね』オーラを無理して出そうとして、自分に圧かけてんだよ」
 むう「憑きもんキャラの中で一番の苦労人で繊細さんだよなあ」
 美祢「優しいけどその分闇もあるんだよな。でもマジで優しい。ただ何を言っても『そうですよね』しか言わないからちょっと心配になる」
 由比「あははは……うん、世間知らずだな……」


 〈⑥ 禍津日神〉
 【高い雑談スキルを持つも人に壁を作る珍種を発見】
 記者「この人もシュモクザメですね。夜芽さんよりさらに攻撃力が高いのが特徴です」

 ・ヤなやつヤなやつヤなやつ
 ・動物ふれあいコーナーで食えるかどうかの話するのやめて
 ・性格が丸くなるのに40年かかる
 ・彼が語る理屈には人の血が通っていない感じがする
 ・Gを素手でパンチ!

 他キャラ一同「いやこの人、人間じゃないんです(震え)」
 コマリ「血も涙もない性格がそのまんま診断されたんだね」
 美祢「ヒールを全力でやってるようなキャラだからな」
 宇月「おー、禍さん、あんたボク以上に嫌われとるやん。見て? 新聞に直接『ヤなやつ』って書かれとるよ」
 禍津日神「ふん。人間の診断などどうでもいい。嘘を書いていないところは褒めましょう」

 むう「いやー笑ったわぁ。『Gを素手でパンチ!』『アウトプット至上主義』『適職一位・資産家』て」
 猿田彦「資産家はマジでやめろ?」
 こいと「この人に資産家をやらせると悲惨なことになるよ……」

 ------------------------

 むう「という訳でいかがだったでしょうか性格新聞。サイトで気軽にできるので、自分や創作のキャラの名前を入れて試してみるのもいいかもしれませんね! ちなみにむうは」

 【他人を大事にして自分を大事にしない本末転倒ぶりに驚嘆】

 むう「でした! 繊細の由比とは一番話が合うそうです!それでは、テスト勉強頑張ります。次回の更新日は、8月31日! まるまる一カ月(以上)かかりますが、把握お願いします。ではでは!」
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.47 )
日時: 2023/07/18 19:11
名前: りゅ (ID: KNtP0BV.)

文章力が素晴らしいと思いました!
更新頑張って下さい(⋈◍>◡<◍)。✧♡
むうさん!

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.48 )
日時: 2024/01/26 23:50
名前: むう (ID: F7nC67Td)

 >>47 りゅさん
 うわ! りゅさん! こちらこそ。いつも作品読ませてもらっています。ありがとうございます(泣)。これからも頑張ります。

 -------------------------

 お久しぶりです。むうです。テスト勉強その他もろもろに追われていて
 更新が止まってしまいました。残り試験科目があと一教科だけになり余裕が出来たので更新します!(相変わらずの不定期更新ですがお許しください! そして内容を作者がほぼ忘れています←おい)

 余談。他サイトの小説コンテストの中間選考を突破しましたっ。
 向こうもこっちもマイペースに頑張りますっ。よろ!(軽い)
 それでは、約一カ月ぶりの本編。どうぞ。
 都合により戦闘はまだはじまりません(始めろよ)
 -------------------------

 〈バンside〉

 やっほー。皆さんこんにちは。霊能力者のバンこと番正鷹つがいまさたかっす。いきなり登場して、読者さんも「え?」ってなっていると思うから、まずは簡単に俺の生い立ちについて説明していこうと思う。

 あ、いちおうこれだけ言っておく。自分、マジ難しい話苦手なんで、言葉の使い方とか間違ってたらごめん。
 
 まずは番正鷹が何者なのかって話。平べったく説明するならば、『ちょっとイカれた中学3年生』だ。こう言うと、一部の読者さんからは厨二病を疑われそうだなあ。
 え、訂正しないのって? ……厨二なところも多少あるから否定は出来ねえな。

 さらに単語を付け加えるのなら、うーん。
『ヤンキーぶっているイカレれた霊能力者兼中学3年生』かな。

 俺の生まれた家—番家は霊能力者の家系の筆頭……。いわゆる御三家と呼ばれる立ち位置だ。
 昔に比べると多少の数は減ったものの、『除霊』という職業はまだこの世に実在している。最近は変わった術式を持つ物も増えており、戦い方の多様化がところどころ見える。

 実際3年前、カースト下位の家系に生まれたチビッ子術者がオリジナルの戦法を編み出し、これまで誰も到達できなかった【一カ月間の駆除数:1万】を達成した、というニュースが界隈の中で一時期話題になっていた。
 
 これには、年々・【歴代最強の術師】を生み出してきた番家も唖然とし、そして。
 
『まあこっちにはマサ様がいるからな』
『霊能力者の中でも希少な〈憑依系〉。しかも、高位の霊—果てには神をも従える強力な霊力を持っておられる』
『ぽっと出がいくら威張ろうが、我々には関係のないことだ』
『ですよねマサ様!』

 なぜか俺の存在を必要以上に称えた。

 褒められることには慣れている。名家の長男であること、数少ない術式の使い手だということ。生まれ・能力・実績・人脈。全てが他の奴より勝っていた。
 通り過ぎるものは皆自分に頭を下げたし、三つ下の妹と弟も、兄に対しては常に敬語を用いた。だから、一度として『おにいちゃん』と呼ばれたことはない。

 
 幼少期は、特に違和感を感じなかった。称賛されるのが素直に嬉しかった。
 ただ、今は違う。期待、羨望、憧れ。あんなに好きだったものが、全部鬱陶しく感じる。その理由は、彼らが自分に向けている感情の根幹に少なからず『番家の人間だから』という不毛な動機があるからだ。

 もっと自由に生きたい。
 誰とも比べられたくない。
 決めつけられたくない。
 ありのままに動きたい。

 でも、言えない。
 与えられたものの価値が大きすぎて、体から剥がせない。

 
 そんな自分を救ってくれたのは、ある一人の神様だった。

 決まりの多い家での生活が嫌で、俺は中学2年生の後半から下校時刻を過ぎても学校に残ることが増えた。
 クラスメートにも先生にも、能力の事は秘密にしていた。とにかく、現実から逃げられる居場所が欲しかったんだ。

 傍から見れば、声だけ無駄に大きいお喋りな奴に思われたかもしれないけど、こっちはその状態をずっと望んでいたわけで。

『バン! 今日帰ったら《スメブラ》しね? 俺今日塾休みなんだわ』
「だから、バンって言うなっつーの。音読みやめろよ」

 アイツに出会う数時間前も、大声で叫びながら友達と帰ってたっけ。

 -------------------------
〈回想 3か月前〉

「えー、いいじゃん。BANGって感じでかっこよくね? いや、音読みじゃなくても普通にかっこよくね? お前の名前」
「だよなあ。ハンネでも使えるし」
 クラスメートは、少し離れた場所を歩く俺に言う。

「お前も珍しいだろ。あいる」

 ハンネの話題を持ち掛けたのは、クラスで隣の席の斎藤だ。斎藤藍琉さいとうあいる。俗に言う、キラキラネームをつけられた、チャラい性格の男子だった。

「オレはやだよ。なんか女子みたいでダッセー」
 藍琉は名前にそぐわない、苛立った口調で返す。

「うちの親は、外国っぽい名前にしたら将来留学した時にいろいろと役に立つって言ってたけどさ。留学とかしたくねえし、普通に迷惑なんですけど」
「まあまあ、まあまあ」

 右手を振り上げて憤慨する藍琉をたしなめたのは、前髪をセンター分けにした、黒縁メガネの少年。彼は榛原はいばら。学級委員長をしている、頼れる真面目くんだ。
 席が近いことから、俺は二人とよくつるむようになった。血液型も性格もバラバラだが、なぜか波長が合う。不思議だ。

「そんなことでケンカすんなよ」
「「そんなことってなんだよ」」
 俺と藍琉の声がハモった。

 藍琉は不満げな表情になって、ムッと下唇を突き出す。
「いーよな榛原は。榛原和樹。ふつーの、ありきたりーな感じで」

 ふつう。ありきたり。
 ………胸が、チクリと痛む。
 
「まあまあ、まあまあ」
「お前ずっと『まあまあ』しか言ってねえじゃんっ」
「はいはーい、いったん落ち着きましょうね斎藤くん」
「名前で呼べよ!」
「……えっ」

 A型の榛原とB型の藍琉のテンポのいい漫才を後ろで聞きながら、俺はゆっくりと足を進めた。
 歩道の白線だけを通る遊び。変だな、いつもはテンションが上がるのに、今日はマジでつまんねえ。
 まあ、中3で『白いとこだけ通る遊びー!』と喜々として喋っていた俺にも問題はある、少しは成長したってこ――。



 《おい》


 ふいに、声がした。声変わり前の子供のような、高くも低くもない絶妙な音域。
 バッと後ろを振り返る。がしかし、そこには何もない。道路の傍らに、木造の二階建てアパートがひっそりと建っているだけだ。

「あっれ……?」

 おかしいな。変な声がした気がするんだけど。
 立ち止まって首を傾げた俺を、榛原が不思議そうに見つめる。

「どしたー?」
「いやなんか、声がした気がするんだけど……」
 戸惑いながら答えると、榛原は途端に「げえ」と顔をしかめた。

「おっまえ、マジでそういうのいいから。いい加減やめろよ廚三病」
「誰がうまいこと言えと。じゃなくて、本当に声がするんだって」

 《おい、そこ》
 また来た。脳に直接響く、謎の音声がまた。

「いや、マジで聞こえるって!」
「いい。いい! マジでこわいからやめて。殴るよ?」
「いやいやいや、ホントだってホントだって俺嘘言ってねえって」
「お前がベラベラ喋る時ってのは嘘ついてる時なんだよぉ!」

 斎藤は俺の肩を両手で強くつかむ。はあはあと息を切らし、必死の形相で、こちらを睨んでくる。

「マジでやめろ」
《おーい。おーい、聞こえてんだろ人間。おーい》

 彼の心からの訴えにかぶせて、甲高い声が再び鼓膜を震わせた。


 (次回に続く!)


Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.49 )
日時: 2023/08/27 21:40
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 テスト終わったあああ!
 9月はオール休みなので、たくさん更新できると思います。
 9月中に過去編を終わらせたいなあ。お前ら鈍ってないかあ?
 
 ~コマリチームの今~

 コマリ「課題が終わらないよお! 助けてトキ兄……! 税の作文って何書けばいいのおおおお」
 美祢「コツコツやれってあれほど……」
 こいと「コマリさん、ぐずぐず言ってないで手を動かしてください。明日登校日でしょ!」

 (コマリは夏休みの課題の処理に追われているようです)

 ~宇月の今~
 
 宇月「もー!何べん言ったらわかんのや! 手の動きがちゃう!もっと腰を落とす! そんなんで兄ちゃんなんか越えられんで!」
 ??「ううううう……もう配信始まってるかなあ」
 宇月「見たいならもっと頑張り! 術式が強いのは確かなんやから。そら、 もう一本!」
 
 (宇月は誰かと手合わせをしているようです)

 ちなみに憑きもん!キャラの今のところの組み合わせは
 ●コマリ組(コマリ×美祢×こいと)

 ●秘密共有組(宇月×こいと)

 ●いとこ組(美祢×宇月)

 ●神友組(こいと×由比)
 
 ●霊能力者組(正鷹×宇月)

 ●子供組(コマリ・こいと・由比)

 ●(若干)大人組(美祢・宇月・正鷹)

 です。
 
 --------------------------


 ――俺・バンは、おかっぱ頭の少年をチラリと横目で見ながら、猿田彦との出会いを思い出していた。

 急だったし焦ったよなあ。声がするもんで友人に言ったら、みんな「何も聞こえない、知らない」って首を振るんだもん。
 で、こりゃ一体どういうことだ、と顔を上にあげたら、道路脇のアパートの屋根の上にアイツがいたわけよ。

 職業柄、摩訶不思議な出来事や心霊現象には慣れていたから、神だと名乗られた時もさほど驚きはしなかった。これまでにも付喪神つくもがみや土地の神とは関りがあったし、彼らの力を借りて悪霊を祓っていたからだ。

 藍琉や榛原と一緒だったのがまずかったな。
 あいつらは霊感もねえから、こっちが何を言っても信じないし、嘘つき扱いするし。
(もっと早く、状況を理解していたら、余計な誤解を生まずに済んだのに。危うく俺の秘密がばれてしまうとこだったわ)

 そんな俺でも、彼が「お前の体を乗っ取りたい」と口にした時は内心かなり驚いた。というのも、位の高い妖怪や神様はプライドが高く、滅多に自分から頭を下げないからだ。
 今まで共闘してきた幽霊や妖怪に関しても同じだ。水の神、火の神、座敷童、ぬらりひょん……。彼らは、俺が何度も頭を下げ、必死に頼み込んでようやく契約を得た相手だった。

 いやーあれは笑ったよなあ。古事記にも名を遺す偉大な神が、わざわざ人間の前で腰を折ったんだぜ? イザナギやイザナミと並ぶような神様だぜ?

 でも、彼のその態度を目で見て、俺は思ったんだ。
 こいつが、俺の望んだ人物なのかもしれないって。隣に立ってほしかった人なのかもしれないって。
 自分が神でも、俺が超強い能力者でも。どんな相手に対しても敬意をもって接してくれる、優しいやつなんだって。

 『いいよ。いつでも乗っ取れよ。一蓮托生ってやつだうわー、すっげえテンション上がるなジャ〇プの漫画みたいじゃね? 知ってる?』
 
 家では流石に怒られるなと思って言えなかったけど……。
 自分の体に他の人の魂が入るって、めっちゃワクワクすんな。

『知らないなら教えてやるよ!俺も家が厳しくてあまり堂々とは見れないんだけどこっそりスマホのアカウント作ってウェブ漫画とか読んでてさ、〈魂★神〉っていう漫画の主人公が憑依系の能力者で無意識に自分と重ね」
『あーあーあーあー、落ち着け。とりあえず落ち着いてくれ』

『ンで俺の推しキャラは兵馬ひょうまってんだけど、そいつの相棒が加治木かじきって名前で、羽織着てて、めっちゃお前に似てるなって、マジで盛り上がってきたな俺お前めちゃくちゃ気に入ったわ』
『わかった。わかったから一旦、深呼吸してくれ』

 猿田彦は羽織の裾で顔を覆い、苦笑していたな。懐かしいぜ。

 出会った日、俺たちは約束を二つほど交わした。

 一つ。お互い隠し事はナシ。同じ肉体を共有する者同士交流を深めるため、どんなにつまらないことでも意識的にシェアすること。楽しかったこと、うれしかったこと、悲しかったこと、辛かったこと。全て包み隠さず話すこと。

 二つ。片方が困っていたらたすけあうこと。それぞれがお互いにとっての右腕となるよう日々努力を重ねること。

 体を乗っ取られている間、人間の意識は朦朧とする。それは俺も同様だ。暗い暗い闇の中に放り投げられたような感覚。両目はしっかり開いているのに視界は絶えず暗く、両手は空いているのに何もつかめない。ふわふわとした精神状態でありながらも、ちゃんと脳は働く。

 そんな中聞こえた相棒の言葉。
 ――〈協力してほしい。討伐したい奴がいる。おまえの力を貸してほしい〉
 いつも冷静な彼に似つかわしくない、上ずった声。
 
 何が起こっているのかを一瞬で理解することはできない。
 しかし何を自分に求めているのかはすぐに把握できた。

『あー、なんか知らんけどヤバそうね。……仕方ねえなあ。ホントに全部使っていいのね? 出力100でもいいのね?』
 
 あの日の約束の2番、〈片方が困っていたら援けあうこと〉。
 なぜかは知らんが猿田彦は今ヤバい状況で、かなり追い込まれている。だから俺を頼っている。

 説明はそれだけで十分だぜ、猿。あ、猿って呼ぶと怒るんだっけ?
 あいにく、俺は育ってきた環境の影響で、細かいことが苦手だ。
 俺は俺らしく大雑把に、好きなようにお前の意思をくみ取る。

 オッケー、要約すると「とりま援けて」だな。了解っと。
 さあさ皆様ご覧あれ。ここに君臨するは番家長男・番正鷹。
 別名:鳥神様。神を取り憑かせ、彼らの持つ異能を自由自在にコントロールする、〈狂瀾怒濤〉の戦法がウリであります。
 以後、お見知りおきを。ではここらで舞台暗転といたしましょう。

 --------------------------

「鳥神様だと?」
 禍の神は猫のように鋭い瞳をさらに細めて言った。
「貴様、何者だ。只者ではないな」

「そんな怖い顔すんなって。かわいい顔が台無しだぜ」
 俺は右手を広げ、胸を広げる。
「俺のモットーは大胆に・簡単に。だから説明も手短に済ませるぜ。ようく聞けよ」

 大きく息を吸い、肺に空気を送り込む。血液を循環させ、体の各部位の機能精度を高め、次の動作に入るためのエネルギーをためる。

「お前を倒すやべー奴だ、よ!」

 右足を一歩後ろに引き、左足を前に出す。腰を落とし、右手を銃の形に組む。左手を右手首にそっと添え、狙いを定め。

「番流憑依術第一式:魔矢引まやひき

 瞬間、どこからともなく無数の矢印が発生した。大きさは様々。針のように細いものもあれば、こん棒のように太いものもある。
 矢印は俺を囲む形で空中に浮かび、矢先を禍津日神に向けた。

「………霊能力者か。忌々しい!」
 禍津日神が両手を前に出し、防御態勢をとる。
 がしかし、その口から術名が唱えられることはなかった。

「BANG」
 
 鳥神の声に合わせて、数百本の巨大な矢は弧を描いて飛んでいく。その速度はまちまちで、時に遅くなったり、かと思えば空を切ったり。

 そしてついに。
「………かはッ……ヴッ」

 切っ先が鋭利な一本の矢印が、背後から禍の神の胸を突いたのだった。


 (※次回に続く!)



 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.50 )
日時: 2023/08/30 09:42
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 レス数が50になりました!こんなに続くとは思ってなかった。
 たくさんの応援ありがとうございます。
 これからもよろしくお願いします。
 --------------------------
 〈禍津日神side〉

「……かはッ!」
 
 我は腹に手を当てて、その場にうずくまった。
 羽織の下に着ているシャツの胸元が、じんわりと赤く染まる。体内の血液が一気に外へと流れていく。

 なんなんだ、この術式は。長年人間界にいたが、このような戦術は見たことも聞いたこともない。この我ですら、攻撃を防げなかった!

「……おのれ……よくもっ……」

 まずはこの矢をどうにかしなくては。
 我の体から発生する黒い靄はけがれと言い、体を修復する作用がある。一旦まずはこれで……。

 がしかし、与えられたダメージが大きいせいか、四肢に力が入らない。頭がくらくらする。呼吸が浅い。

「はあ……はぁ……人間風情が、………神に向かって………くそっ! くそくそくそくそっっ! 許さない、許さないからな……」

 普通は、こうはならない。
 どんな相手と対峙しようが、相手は自分を越えられない。威勢よく果敢に飛び込んでくるのだが、たいがいはこちらの反撃で重傷を負う。

 それなのに、それなのに! この人間! このわらべ
 勝手に我々の話し合いに首を突っ込み、会話を中断しただけではなく、この我を小物のように扱いおって。

 早く立たなくては。早く贄を取り込んで、以前の力を取り戻すのだ。
 幸い今日は二人の餓鬼が死んだ。我が来るのを待っていたかのように。早く、早く立て。早く立て!


 胸を貫いている、長い矢の根元を右手でつかみ、力を籠める。
 両目をつむり、肩に力を入れ、我はそれを一気に引っこ抜いた。
 瞬間、鋭い痛みが走る。じんじんなんてもんじゃない。例えるなら、全身を鞭で叩かれたような鈍い痛みだった。

「…………っっっ!」
「あっれー、もう降参? 神のくせにケッコー弱いんだね」
 地面に膝をついた我を、橙色の髪をした細身の少年が上から見下ろす。口元には、嘲るような笑みが浮かんでいた。

「雑魚乙でーす」


 これが舐めプというやつなのだな。電子機器ごときで表情を変えるなどつまらぬ、と思っていたがなるほど。
 実際に体験してみてわかったぞ。舐められて腹を立てない者などいないのだな。確かにこれは頭にくる!
 
 我はその質問には答えず、首だけを後ろに回す。猿田彦と大国主が今何をしているのかを探るために。
 番正鷹が戦いに割り込んできた以上、彼だけに注意を向けてはいけない。戦況が一変した、これからはすべてに警戒しなくては。

「よくやったバン! こっちは大丈夫だ! 今んとこは! 気にせずどんどんやってくれ!」

 猿田彦は数メートル離れた中庭の端で、片膝をついている。ずいぶん時間が経っているが体調は良くなっておらず、むしろさらに悪化している。胸ではなく肩で呼吸しているのがその証拠だ。

「大国主ー、そっちはどうだ……! ガキは守れてるかー!」
「結界――。これで暫く――」
 
 視界の隅で何かが白く光った。
 大国主のいる場所はここから遠く、何をしゃべったのかまでは聞き取れなかったが、文脈から察するに、贄を保護するための結界を貼ったのだろう。

「よくやった! そのまま粘ってくれ! バン、無茶だけはすんなよ」
「言われなくてもやるよ~猿……じゃなかった、オッケー猿田彦ー」

 大国主の結界は他の神が作るものより強度が強く、ちょっとやそっとの力じゃ破れない。
 だが、こっちは悪をつかさどる神。我の神通力に比べれば、バリアなど飾りにすぎない。力を使えばあんなもの木っ端微塵……。

 我は胸に右手の掌を押し付ける。傷口を通して、ねっとりとした赤い血が肌に付着した。

「おーい。めっちゃ汚れてるけど大丈夫ー?」
 軽薄な口調でさらに煽る正鷹。我はフッと鼻で笑う。
「禍の神を前に『汚れるな』と?」
 なんとも笑える話だ。

「え、なに? マガっちは心も体も真っ黒クロスケじゃないと落ち着かないタイプなの?」
「貴様、言葉に品がなさすぎやしないか」
 弱いだの雑魚だの乙だの。本当に、どこまでも楽観的な男だな。

「縛られるの大嫌いなんだよね。それに事実じゃん。禍の神なのに攻撃くらってるし。ガードしたならそりゃあ、俺も別の言葉使うよ?」
 ……相変わらず、口だけはよく回るな。

「正鷹と言ったな。先ほどの攻撃、お見事だった。避けるべきタイミングを見失ったぞ」
「まあな。これくらいやんないと御三家で生き残れないし」
「御三家?」
「俺んち霊能力者のやつら全員管轄してる、すげー家なんよ」

 ほお。御三家ね。
 数百年前我を岩の中に封印した陰陽師もかなりの腕前だった。もしかしてこの人間、あの術師の子孫だったりするのだろうか? 

 まあ、それは今考えるべきことではない。

「さあ鳥神よ。今度はこちらの番だ。神を怒らせたらどうなるか、次からちゃんと学べ!」


 禍津日神の術の威力は、負のエネルギーに比例する。恨み、怒り、悲しみ、叫び……あるいは人の死、人の血、人の魂。エネルギーを集めれば集めるほど、我は強い力を編み出すことができる。

禍火かび円玉えんぎょく
 シュルンッッ!

 朱色に染まった右手の指をパチンと鳴らすと、黒々とした半径三十センチもあろう巨大なボールが現れた。
 これを大国主のいる方角へと投げる。球は地面を削り、暴風を巻き起こしながら彼女の前を通過するだろう。竜巻のようなものだ。そのようなものの前で真っすぐ立っていることは難しい。

「なッ。こいつ、自分の血液を代償に詠唱しやがった!」
 猿田彦が目を見開く。

 我はゆっくりと右手を振り下ろす。
 これだこれ。人の笑顔が完全に消え去るこの瞬間が、狂おしいほど好きだ。さあ、反撃の幕開けだ! この空間は再び我のものとなるのだ!

「ふははははははは! ふははははははは! おい見たか童! 我を倒すなど百年早い!」



 ・・・・・・・・・・・・・・・




 「へー。アンタ俺より痛いやつだね。あ、今は物理的に?」



「―――――――は? ………なッ!」

 振り下ろしたつもりだった右腕が、いつの間にか正鷹の右手にがっちり掴まれていることに困惑する。
 なぜだ? 確かに手を振り下ろしたはずななのに。
 正鷹とは数十メートルほど距離を取っていた。こいつ、どうやってここまで距離を詰めた? 足音すらしなかったが。
 
「離……離……ッ」
「はーいロミジュリ、ロミジュリ」
 何故だ、細い腕なのにびくともしない!

 我の背中に左手を回し、正鷹はそのままぐいっと力を籠める。
 必然的に胸に飛び込む流れになってしまった。顔を離そうとするけれど、頭の上から更に手の甲を押し付けられ、抜け出すことができない。

 離れようとしても、体がうまく動かないのだ。
 まるで、磁石のように。

「何故……何故ッ」
「アイツ、変な能力使うんだよね。矢印出したり、未来予知したり、相手を引き寄せたり、離したり。正直俺にはなにがすごいのかわかんない。めっちゃ地味だよ、道開きっつーのはさ」

 道開きだと……? そういえばコイツ、猿田彦の器だったな。
 乗っ取り先が霊能力者。そしてその霊能力者が用いる術は……。
 嫌な予感がする。こいつの能力はもしや。

「あー、説明してなかったな。俺の戦闘スタイルは〈憑依系〉。自分の体を霊に乗っ取らせ、代わりに一定の条件で術を使わせてもらう。ただし、こちとら、他の憑依系とはちょいとわけが違う」

 正鷹はふふんと胸をそらし、高々と宣言した。

「俺は乗っ取った霊が持つ能力を自分好みにカスタマイズできる、超希少な〈憑依特化型〉だ! チートって言われるの嫌だから弱点も話すぜ。一時間しか持たねえ」



 --------------------------



「こっからはチキンレースだ。どっちがいち早く自分の霊力を使い切るか。勝負と行こうぜ」

(※次回に続く!)
 
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.51 )
日時: 2023/12/05 19:38
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

閲覧数1400突破ありがとうございます!
 今回はその記念に、キャラクターの誕生日や血液型などをギュッとまとめたものを掲載します。
 キャラクターLogよりも詳しいものになっています。あなたと近い誕生日のキャラはいるかな?
 イメソンも書いたので、よかったら聞いてみてくださいね。
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 〈月森コマリ〉
 性別:女 年齢:14 身長:155㎝ 血液型:O型
 誕生日:5月8日
 好きな食べ物:卵料理 苦手な食べ物:からいもの
 好きな科目:なし 苦手な科目:全部
 座右の銘:明るく楽しく元気よく
 趣味:少年漫画誌を読むこと
 特技:授業中に紙飛行機をつくれます!
 自分を五文字以内で紹介してください!:悪運体質
 最近あったトラブル:トキ兄の伊達メガネを割ってしまいました。(美祢『コマリいいい!』)
 
 ♪イメージソング:【人生は最高の暇つぶし/ハニーワークス】

 〈時常美祢〉
 性別:男 年齢:16 身長:164㎝ 血液型:B型(本人曰くA型よりのB型らしい)
 誕生日:7月14日
 好きな食べ物:グラタン 苦手な食べ物:スウィーツ(特に生クリーム)
 好きな科目:理系全般 苦手な科目:音楽
 座右の銘:冷静沈着
 趣味:ゲーム(特にフォー〇ナイト)
 特技:ファッションコーディネート(最近はコマリをモデルに研究中)
 自分を五文字以内で紹介してください!:元厨二病
 最近あったトラブル:コマリの漫画を読んだらは想像以上にはまってしまい、自分でもびっくり

 ♪イメージソング:【エリート/Chinozo】

 〈桃根こいと〉
 性別:女 年齢:13(享年)身長:148㎝ 血液型:A型
 誕生日:5月10日(こいとの日で覚えてね!)
 好きな食べ物:チーズ!パフェ!ババロア!ケーキ! 苦手な食べ物:ピーマン
 好きな科目:音楽と体育 苦手な科目:数学
 座右の銘:振り向くな、後ろには夢がない(byシェイクスピア)
 趣味:Youtubeでボカロを聞くこと
 特技:演技、声真似、カラオケ
 自分を五文字以内で紹介してください!:ミーハー
 最近あったトラブル:特にはないかなっ

 ♪イメージソング:【好きだから。/ユイカ】

 〈由比若菜〉
 性別:男 年齢:13(享年) 身長:150㎝ 血液型:O型
 誕生日:10月22日 
 好きな食べ物:卵サンド 苦手な食べ物:トマト
 好きな科目:なし 苦手な科目:全部
 座右の銘:平穏無事
 趣味:これといったものは何も。しいて言うなら空を眺めること
 特技:うーん、なんだろう。考え中。
 自分を五文字以内で紹介してください!:えーっと、えーっと、え、もうタイム切れ?
 最近あったトラブル:猿ちゃんが僕の体を乗っ取りすぎて体力が落ちてきた

 イメージソング:【死にたいわけじゃなくて/MIMI】【孤独な夜をあといくつ/傘村トータ】

 〈夜芽宇月〉
 性別:男 年齢:18 身長:175㎝ 血液型:AB型
 誕生日:2月29日
 好きな食べ物:ジャンクフード 苦手な食べ物:抹茶
 好きな科目:英語 苦手な科目:国語
 座右の銘:なんとかなるんちゃう?知らんけど。
 趣味:人間観察(あんまり人に気い許してへんからなあ。でも最近はだいぶ改善されてきたで)
 特技:バク転できるで(この前思いっきり頭うったから、もう二度とせんけどな)
 自分を五文字以内で紹介してください!:京都弁
 最近あったトラブル:美祢に「アンタほんまはボクのこと好きなんちゃう?』と言ったらlineをブロックされた

 ♪イメージソング:【素直じゃなくてごめんなさい/青谷】

 〈禍津日神〉
 性別:男 年齢:??? 身長:今の体は140㎝くらい 血液型:なし(AB型っぽい)
 誕生日:???
 趣味:人間観察
 特技:バトル(物理)
 自分を五文字以内で紹介してください!:拒否する。
 最近あったトラブル:………過去編はいつ終わるのだろうか(シャラップ)

 ♪イメージソング:【フィクサー/ぬゆり】
【デーモンロード/Kanaria】【アウターサイエンス/じん】

 
 〈番正鷹〉
 性別:男 年齢:14 身長:162㎝ 血液型:AB型
 誕生日:3月31日
 好きな食べ物:寿司! 苦手な食べ物:家で定期的に出されるお高い定食料理。
 好きな科目:体育(評定5) 苦手な科目:英語(評定1)
 座右の銘:簡単に、かつ大胆に! BANG!
 趣味:料理。親父と母さんが忙しいからな。キッチンは俺のテリトリーだ!
 特技:悪霊退治(これ特技っていっていいのかな? ま、いっか)
 自分を五文字以内で紹介してください!:多分最強
 最近あったトラブル:いつになったら俺、『つがいくん』って呼ばれんだろ

 ♪イメージソング:【Blooming the Tank-top/ヤバイTシャツ屋さん】
 
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.52 )
日時: 2023/09/05 18:58
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 創作キャラクターは全員友達みたいなものです。
 私の大切な友達。全員大好き。

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 三歳下の弟と妹は、いつも俺のことを「お兄ちゃん」と呼ばなかった。
 幼児期の初めに覚えた言葉が「おかあさま」と「おとうさま」。周りの人間が常時、両親を様づけで呼んでいたので、無意識に頭に入ったのだろう。小さいときに植え付けられた世界観というものは、時が経ち体と心が大きくなっても中々変わってはくれない。
 
 ある朝のことだった。俺が朝食を作ろうと台所へ向かうと、もうテーブルの上には食事が置かれていた。
 高級な陶磁器の皿に盛られた、卵の黄色が鮮やかな目玉焼きと焼き鮭。その隣には茶碗と汁椀。
 ただし、出来栄えは散々だ。メインディッシュは二つとも焦げて黒い塊になっているし、お豆腐の味噌汁はなぜか紫色をしている。

「なんだこれ」

 何事だと目を見張る俺の声を聴き、流し台で食器を洗っていた弟が振り向いた。喜色満面の笑み。

「兄様! おはようございます!」
と、近くに駆け寄ってくる。

「おう、おはよう飛燕ひえん。これはいったいどういうことなんだ」
「? 食事のことですか? 今日は仕事がたくさん入っていると父上に聞いたので、兄様の代わりにオレが朝食を作ろうかと」

 弟はえっへんと胸を張った。彼の背丈は去年から一気に伸びて、現在小学6年生にして既に兄と同じ目線だ。

「お前が?」
「はい。小学六年生でも、目玉焼きくらいひっくり返せますよ」
 いやいや、結果が伴ってないから。目玉焼きが炭焼きみたいになってるから。

「誰か手伝ったか?」
飛鳥あすかがちょこっとだけやってくれましたよ」

「ああ、飛鳥が一緒だったのか。にしては完成が偉い雑だな。あいつキッチリしてるのに」
「宿題を片付けたいとか言って、ボウルだけ用意してくれました」

 妹の役割それだけかよ!

 すごいな、よくやったな、と褒めてほしいのだろうか。弟は目をキラキラ輝かせ、俺の返事を待っている。気遣いは嬉しいんだけど、アレを食べるのはちょっと勇気がいるぞ。

 ため息をついた俺に、弟はキョトンと首を傾げた。
「どうされました? 体調がすぐれないのでしたら薬を持ってきます」
「……違う。違うんだよ、そういうことじゃなくて」
「なんですか?」

 俺はもう一度深く息を吐くと、両手を広げ、彼の小さい体をそっと抱きしめた。
 背丈はあんまり変わんないけど、まだ筋力はないな。手も足も細くて、輪郭も丸い。外見だけなら、ごくごく普通の小学生の男の子だ。明るくて活発で、人当たりがよさそうな。

「………ごめん」

 お前は、何も知らなくていいのに。周りの真似なんか必要ないのに。敬語の使い方とか、正しいお辞儀の仕方とか、目上の人に対する所作とか。見ない振りしとけよ、そういうのは俺が全部やるから。

「なんで謝るんですか? 兄様、顔を上げてください。貴方は頭を下げなくていいんですよ。下げるのはオレらの役目なんで」
「……そっんなこ……」

 唇を閉ざす。

「どうしました?」

 そんなに他人行儀に振舞わなくてもいいんだぞ。
 お前はお前らしく喋れよ。「やべー」とか「すげー」とか、年相応の荒い言葉使えよ。
 なんか、兄弟なのに距離が遠くて嫌だよ。


 なんて、答えられるわけがない。
 俺が疑問に感じていることは、こいつにとっては当たり前のことで、彼は何の不満も抱いていない。そうするように教えられてきたから。そうすることが優しさだと信じているから。
 これは違う、これはおかしい。口にしてしまえばそれは、弟の価値観を壊すことになるのだ。

「お前はこの家のこと好きか?」
「? え、ええはい。大好きです!」
「そっか」

 ……お前、この家が好きなのか。すげえな。
 なんで俺は好きになれないのかなあ。なんで現状に満足できないんだろう。

 仕方ない。この気持ちは胸の中にしまっておこう。
 どうあがいても俺は『兄様』で『最強』なんだから。普通の生活なんて、できないのだ。
 これは過去の自分への戒めだ。勇気が出ず、弟と妹に「お兄ちゃんと呼んでもいいんだよ」と言えなかった自分への戒めだ。
 
「ううん。何でもない。ありがとな」
 俺は無理やり笑顔を貼りつけて、弟の髪をわしゃわしゃ撫でた。
 そのあと、「けど、おまえは相変わらず不器用だな。この番正鷹を食中毒にでもするつもりか。仕事に支障が出たらどうすんだよ」とわざと毒を吐いてみる。

「すすす、すみません。い、要らないですよねこんなもの。焦げたものを兄様に出すなんて、常識がなさすぎますよね。す、すぐに片しますね。も、申し訳ないです」
 弟はペコペコ頭を下げ、食器を手に取った。

 と、俺は彼の指に巻かれている絆創膏の存在に気づく。
 右手の親指と人差し指、左手の中指。両手の甲にも貼られている。
 そのまま視線をずらす。着ているエプロンの胸元は零した調味料や液体でドロドロになっていた。

(料理とか一回もしたことないのに、わざわざ俺のために――)

「おい飛燕、それこっちに持ってこい」
 俺は弟の背中に向かって言った。
「食べないなんて一言も言ってないだろ。作ってくれてサンキュな。お兄ちゃん嬉しいぞ」


 --------------------------
 
 なんで昔のこと、思い出してんだ。
 最初から分かりきっていたことだろう。何をいまさら。

 震える身体を必死に動かす。
 あっれ、俺の視界ってこんなに暗かったっけ。俺の手ってこんなに汚かったっけ。
 なんで頭が痛いんだ? なんで意識がぼやけるんだ? なんで息が続かないんだ?



 ――ああそうか。これ、もしかして走馬灯か。






 

 
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.53 )
日時: 2023/09/07 23:24
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 飛鳥あすかは弟の飛燕の双子の妹だった。
 友達を連れて外へ遊びに行くのが好きな飛燕に対し、内気で消極的で口数少なく、よく家にいた。クラスでうまくやれているのか、友達はいるのかと聞いても何も話してはくれず、ただただ俺の隣にいることを望んだ。

 飛燕と違っていたところは、彼女が俺と同じように、現状に満足していないことだった。
 だから飛鳥は親父と母さん、そして召使の人たちがいない時間を見計らい、俺の部屋へよく来た。その時間だけ、彼女は自分の本音を兄に言える。兄に甘えられる。敬語を取り、自然の女の子でいられる。
 でも、兄の呼び方はずっと『兄様』だったけどな。

「お兄様! 見て!」
 
 飛鳥はその日も兄のもとを訪れた。
 先週母親に貰った桃色のノースリーブのワンピースの裾を両手で持って、照れくさそうに笑う。

「おお、似合ってる似合ってる。誕生日プレゼントのワンピース。すげえな、お姫様みたいだ」
「へへへ、へへへ。ねえ、今からクルッて回ってもいい? 写真撮ってほしいの!」
「あー、ちょっと待ってな。よいっしょ」

 机に向かって宿題をしていた俺は、教科書をぱたんと閉じ、椅子から腰を浮かした。戸口の前に立っている妹のほうへと、足を動かす。

「にーさまー、早くうー」
「今行くから焦んなよ」

 飛鳥は可愛いものが大好きだった。淡い色のリボンやシュシュ、スカート、フリルを多用したドレスなどを好んで身に着けた。学校で体育がある日も、遠足の日も、山登りの日だって平気でスカートを履いていた。どうやらズボンが嫌いらしい。
 仕事に出る前、俺はコイツに何度も「髪を結って!」とせがまれたし、妹も兄に髪をいじってもらえる朝を楽しみにしていた。
 時々、『ねえ、三つ編みがロープみたい。下手』と文句を言われたが。

 ただ、早朝は俺も登校準備だったり、武器の手入れをしたりで忙しい。たまにめんどくさくなって『飛燕にやってもらえよ』と言うこともある。そういう時、飛鳥はとてもいやそうに口を曲げる。 『あいつ、お兄様より不器用だからムリ』らしい。

 俺は飛鳥のそばへ行くと、スマホのカメラアプリを開き、動画のボタンを押す。
 写真でもいいんだけど、こいつはカメラ向けるとすぐ動き回るからな。そういうとこは、飛燕とそっくりだ。
 
 「ねえ、可愛い? 可愛い? 撮ってる?」
と飛鳥はカーペットの上でくるくる回る。
「撮ってる撮ってる。はは、やべえ。お前回りすぎ、全然顔認証されねえんだけどw」

 画面内の黄色の枠が現れたかと思ったら、すぐ消える。その間、2秒。こらえきれなくなって吹き出すと、飛鳥は踊るのをやめてプウッと頬を膨らませた。

「兄様の馬鹿。ちゃんと撮ってよお。私、卒アルの白いとこにその写真貼る予定なの!」
「猶更ヤバいだろうが」

 アルバムの白いとこ……寄せ書きページだろうか。
 書いてくれる友達はいないのだろうかと思ったけれど、言葉には出さない。それはたぶん、こいつが一番気にしていることだから。

「アルバムに貼るならもっとマシなポーズとれよ。お前、残像化してんだよ。今流行りの小顔ポーズとか、ピースとかでいいじゃん」

 お前は上下に引き伸ばされた自分の顔を印刷するつもりか? 
 せっかく綺麗な顔してるんだから、もうちょっと考えろよ。小学校の卒業式だぞ? プリントアウトした後、みじめな気持ちになってもお兄ちゃん何も言わねえからな!?

「だって、だって、さっきピースの練習してたら、飛燕のやつが『かわいこぶってて気色悪ぃ…』って言ったんだもん! あいつが揶揄うんだもん!」

 飛鳥はビャーッと喚く。
 両足で地団駄を踏んだが、幸い下はカーペットだったので、他の部屋に音は響かなかった。あぶねえ。

「あいつ、兄様の前では優等生ぶるくせに、私を前にすると途端に悪ガキみたいになるの。兄様は知らないだろうけど、学校でもすっっっごく悪名高いんだから! この前なんか、学年一頭いい鈴木さんの髪を引っ張って……」

 彼女のおかげで、飛燕が兄に隠そうとしていることは、いずれ全て暴かれるようになっている。何も知らない彼には申し訳ないが、これは今夜しっかり叱らねば。
 まあ、だけど。

「飛鳥は本当の飛燕のこと、ちゃんと見てるんだな」
「むかつくけど、双子だから。それに、むかつくけど、あいつがあいつのままで居られないのは、妹として辛いから」

 飛鳥はフンと鼻を鳴らし、横目でチラリとこちらを流し見る。
「ねえ。このこと、あいつには言わないでよね。あの馬鹿兄、絶対からかうもん」と腕を組んで見せる。

「ふっは。あははははは、あははははははは」
「笑わないでよ」
「いや、あっはっは。わかった、わかった。秘密はちゃんと守るってば」
 

 お前が飛燕と違っていて良かった。飛鳥が素を見せてくれなかったら、多分俺は今よりもっと自分の境遇を憎んでいたからさ。それか、自分に己惚れて、大事なものを見落としていたかも。

 飛鳥、お前が「私、この家のこと好きじゃないんだよね」と打ち明けてくれて、俺がどんなに助かったか。お前が飛燕のことを誰よりも心配してくれていて、どんなに嬉しかったか。

「ということで今日の秘密会議は解散だ。もうすぐ親父が帰ってくる。さあ、行った行った」
「はぁーい。明日はちゃんと動画撮ってよ! 今度は回らないから」
 飛鳥は部屋のドアノブに手をかけ、拗ねたように言う。
 
「はいはい、見つかると怒られるぞ。俺もそろそろ巡回行く。夜は怪異が出やすいからな」
「わかった。……ねえ、じゃあ最後に、一つだけ質問してもいいかな」
「? まあ、いいけど」

 なんだ、急に改まって。
 俺は目を丸くする。
 飛鳥は左手を扉の縁に添えたまま、先ほどとは違う冷淡な口調で尋ねた。

「いやだいやだって思ってるのに、どうして兄様は仕事をやめないの?」
 それはシンプルで、かつ深い質問だった。彼女は俺にこう告げているのだ。そんなに嫌ならやめればいいじゃないか、って。

 至極もっともな答えだ。心が悲鳴を上げているなら、無理して頑張る必要はない。

「愛想笑いをずっと続けるの、つらいんでしょ。お父さんとお母さんから過度に期待されるのも、本当はすっごく怖いんでしょ。飛燕の優しさだって痛みになるって、昨日私に言ったじゃん。私、兄様がなんでそこまで頑張るのか、全然わかんないの」

 なんでそこまで頑張るのか、か。
 そういやそんなこと、今まで考えたこともなかったな――――。

「うーん。難しいな……。俺もそこんとこ、よくわかってないんだ。なんで逃げねえんのかって、よく自分で思う。……ただ」

 だけど、質問に対しての明確な答えは持っていないけど、一つだけ確かなことがあるんだ。
 だからそれをお前の問いの答えに変えても、いいかな。

「―――この家のことは嫌いだけど、この世界のことは割と好きなんだよ、俺」


 -------------------------

 俺は、名前も年齢も知らない奴のために拳を振れるほど強くない。
 最強なんておごってはいるが、実際は内心ビクビクしている。失敗が許されない世界で、弱さを見つけてもらえない世界で、持って生まれた才能だけが自分の救いであり足枷だった。

 それでも自分が武器をとれたのは、その世界の中にわずかな光があったからだ。完全な真っ暗闇ではなかった。双子の弟と妹、学校の友人、そして身体を共有してくれた優しい神様がいたから、俺は俺らしく人生を歩むことができた。


 って、なーにシケたこと、考えてんだよ……。
 まだ、「ありがとう」を言うタイミングじゃ、ねえだろうが。

「………は、ははは。ごめん、さっき言ったこと取り消すわ。お前、強すぎんだろ」
 右腕に受けた傷を左手で庇いながら、よろよろと起き上がる。腕が痛い。足が痛い。割れた頭から流れる血が、制服のシャツを濡らしていく。
 敵の顔もまともに見られない状態の中、俺はなんとか唇から空気を吸う。

「おーい猿……あと、どんくらい持ちそう? もうほとんどの術も霊力も、使っちゃったけど……」

 あーあ。番家最強の術式、行ったと思ったんだけどなあ。調子に乗ってバンバン使って、余裕ぶるんじゃなかったわ。
 奴の姿が消えたと思ったら、直後真上からでっけえ黒い球が降って来たもんな。そのまま数メートルぶっ飛ばされて……あのあと消えたはずの神サマが現れて、俺の胸を一突き……。 
 どーんな戦い方だよ、クッソ。うっぜーな。

「バン――――――――――ッ! もういい、もういいんだ、! あとはオレがやるから、お前の代わりにオレがやるからっ……」

 後方で、砂利の地面に座り込んでいた猿田彦が叫ぶ。その声は怒鳴りというより、悲鳴に近い。
 宿主に力を吸わせすぎて、すっかり身体が透明化している。あの状態で戦っても、更に傷を負うだけだ。

「いや、いいよ。……勝手に、終わったって決めつけないで、もらえますかね……?」
「はあ!? だってお前、そんなっ、死ぬぞ!」

 猿田彦のセリフにかぶせて、アイツの声が響く。
 おかっぱの髪。血の気がない、青い白い肌。ワイシャツを身にまといサスペンダーつきの黒いズボンを履き、今は朱色になっている黒い羽織を重ね着した、小さな少年の声が。

「ふはははははは! そんなボロボロの状態で、我にとどめを刺せるわけがないだろう!」
「………っ」
「学習が足りないようだな番正鷹。我は確かに貴様に情報を提示したぞ。『禍津日神の術の威力は、負のエネルギーに比例する。恨み、怒り、悲しみ、叫び……あるいは人の死、人の血、人の魂。エネルギーを集めれば集めるほど、我は強い力を編み出すことができる』と」

 

 
 ―――勝利の天秤は、初めから我のほうに向いていたのだ。

 
 (次回に続く!)

 
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.54 )
日時: 2023/09/11 17:13
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)



 ★祝・憑きもん! 小説大会(コメディ・ライト版):銀賞受賞!★

 拙作に投票してくださった皆さま、本当にありがとうございます。
 本作品は、他作品(公募用)執筆の息抜きに書き始めたものです。
 自分が書いて楽しいと思えるような作品、それでいて読者に楽しんでもらえるような作品を作りたい!という想いから、のんびりプロットを書き始めました。

 前まで書いていた小説が『夢の世界』を舞台にしたゴリッゴリのファンタジーものだったので、
 今度は『現実の中の夢(=現代ファンタジー)』を書いてみよう、と筆を取りました。
 
 現代は「疲れやすい世界」。勉強・部活・恋愛・人間関係。一筋縄ではいきません。
 だからこそ人生は面白い。年齢も性別も、悩みも人それぞれ違う。だからこそ目線が重なった時、人生が動くのかもしれません。

 憑きもん!の登場キャラもまた、色んな意味で憑かれています。私もたまに落ち込みます。
 それでも、この作品を通して皆様の疲れを癒せるよう、これからも精進して参ります。

 ということでっ。キャラたちにマイクを渡していきましょうっ。

 ---------------------

 コマリ「みんな、久しぶりー! 過去編に入ってから、出番激減。月森コマリだよ! たくさんの投票、本当にありがとう! 主役として、とっても嬉しいです」
 美祢「俺とコマリとこいとの初期メンで暫く回してたけど、新キャラが加入して更に賑やかになったよな。彼らの活躍に感謝してる」
 こいと「ふっふん! この恋愛マスターこいとちゃんにかかれば、どんな奴もメロメロですよ」
 美祢「なんで俺の周りはこうも自信たっぷりなんだ」

 宇月「おいコラ美祢。その鋭い視線をこっちに向けんなや。ボクが何したっていうねん」
 美祢「今日は何もしてないな」
 宇月「はあ? その減らず口ふさいだろか? そもそもお前は年上にもっと敬意を払うべきや」
 美祢「そのセリフそっくりそのまま返してやる。先にそっちが敬意を払うべきだ!」

 こいと「まーた始まっちゃいましたねえ、いとこケンカ」
 コマリ「あの二人いつ仲良くするのかなあ」

 由比「僕ら過去編組も、今大会の結果をとっても喜んでるんだ。ありがとうね皆」
 猿田彦「急にシリアスになったが、ちゃんと続きを見てくれて嬉しかったよな。なあ大国主」
 大国主「うむ。貴様も何か言ったらどうだ霊媒師!」

 正鷹「え、言っていいの? 俺喋ったら止まらなくなるけど大丈夫?」
 猿田彦「あー、大国主。バンをあまり刺激するな。こいつの話の長さはテンションに比例する」
 禍津日神「ならばこの人間の代わりに我が感想を述べましょう」
 正鷹「できんのマガッち」
 禍津日神「どいつもこいつも、マガッちマガッち言いおって……(怒)」

 むう「ということで締めの言葉、マガっちどうぞ!」
 禍津日神「敵というポジションをこれほど憎んだのは初めてだ。嬉しい反面とてつもなく苛立っている。今すぐにでもこの鬱憤を晴らしたい」

 コマリ「ということで、私たちの感想は以上になります! これからもよろしくお願いしますっ」
 むう「あ、今日は本編も更新予定ですのでお楽しみにっ。なお、過去編は10月までに終わらせたいと思っています。把握お願いしますっ」
 全員「それでは、また次回の更新でお会いしましょう。またねー」

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.55 )
日時: 2023/09/20 23:58
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 Q:激しい戦いをしているのに、なぜ学校の先生たちに見つからないのですか?
 A:大国主が結界を貼っているからです

 ---------------------」

 〈再び正鷹side〉

 「――勝利の天秤?」
 俺は頬についた汚れを手の甲で拭いながら、掠れる声で言った。
 「そんなの知らねえ。皿がどっちに傾こうが、俺は諦めない」
 
 こちらが劣勢だということは、もちろん理解している。自分の身体がボロボロなことも、とても自分が適うような相手ではないってことも、ちゃんと把握している。
 最強だと言われた自分の能力が、実は全然大したことなかったってことも。自分が勝手に己惚れていただけだということも。

 「諦めない、ねえ。昔、同じことを云ったやつがいた」
 禍の神は淡々と告げた。
 「守りたいものがあるとか、やらなきゃいけないことがあるとか――。彼らは我を前にしてペラペラと希望を語った。そして、脆く儚い夢と一緒に散っていった」

 あるものは、愛する人と再び会いたいと願い、あるものは、自分の力で世界を作り変えたいと願った。武器を持たず、装備もないまま立ち向かったものもいたし、その者たちを庇い自らを犠牲にして戦線に出た人間もいた、と彼は続ける。

「つくづく思った。人間は何も学んじゃいないと。力の差は分かりきっているだろう。未来を予知することはできずとも、予測することはできる。なのになぜ挑もうとするのだ。なのになぜ立ち向かおうとするのだ。なにが貴様らを奮い立たせる?」

 ポツン。何かが鼻の先に当たった。生ぬるい感触。雨だ。
 上を見上げる。分厚い雨雲が空を覆っていた。確か夕方にかけて冷え込むって、昨日ニュースでやってたっけ。降水確率は70%だったっけな。

「――お前、雨は嫌いか?」

 突然違う話をし始めた俺に、禍津日神は呆気にとられた顔になった。からかおうと、右手の人差し指を俺の鼻先に突きつけようとしたが、その手はブランと垂れ下がる。長時間の戦闘は、精神疲労につながる。傷口は塞げても、心の疲れは癒せない。

「チッ」と小さく舌打ちをし、彼は苛立ちを隠すかのように声を荒げた。

「嫌いだ! 雨は血が流れるからな! それがどうした!」
「そうか、俺と一緒だな。俺も昔は雨が嫌いだった!」
 つられて俺の声も大きくなる。

 どんなに天気が悪かろうが、家業は休めない。曇天時、悪霊退治に出かける前、いつも俺は召使いに、雨合羽を着せられた。風邪をひかれては困るという理由で。
 プラスチックの独特のにおいが嫌で、俺は毎回彼らの手をはねのけた。だけど召使の人は、「これが仕事ですから」と、一向に手を止めようとはしなかったんだ。

 でも飛燕と飛鳥が、俺の誕生日に紺色の傘を買ってくれてさ。
 合羽は嫌だったけど、傘をさすのは全然苦じゃなくて。むしろ楽しくて、嬉しくて。それ以降は、水たまりを蹴飛ばして任務地へ赴けたのだ。

「今は割と好きだ! むしろ降ってくれって思うよ。雨の良さに気づけたのは、それを教えてくれた人がいたからだ!」
「――貴様は何が言いたいんだ」と禍津日神。

「何が自分を奮い立たせるかわかんねえなら教えてやるよ! 人の愛と優しさと強さだ! テメーが脆く儚いものだと決めつけたものすべてだ!」

 ――兄様、これ、飛鳥と小遣い貯めて買ったんだ。良かったら貰って。
 ――これで、ウキウキルンルンでお外歩けるね!

 長方形の白い箱に、綺麗にしまわれたプレゼント。
 生地に縫い付けられた【HAPPY Birthday】の刺繍糸の色は、俺が好きな赤色だった。
 正義のヒーローの色。悪いやつをやっつけ、弱い人を助ける、カッコいいヒーローの色。

 ――わあ、すっげえ。すげえすげえすげえ! わあああ! ありがとう、飛燕、飛鳥! 俺、すっげえヒーローになって、すっげえやつになるっ。

 ……ああそうだよ。俺はずっと、赤いマントに憧れていたっけ。
 随分回り道をした。随分と沼に足を取られた。
 やっとだ。こういう形で実現するとは思わなかったが、それも人生っつーわけで。


 「結局人生っていうのは、自分が生きる道なんだ。何を好きと感じるか、何を嫌いと感じるかは、その人次第だ。だから」


 俺は、すぅーはぁーと息を吸う。肋骨が折れているせいだろうか。あまり多くは吸えないが、精神を落ち着かせるのは基本中の基本。
 ……多分この術を使えば、俺はもう……。

 ううん、迷うな。信じろ。お前は最強の霊能力者、番正鷹だろ。
 お前のモットーは何だ。お前が本当にやりたかったことはなんだ。
 自分に嘘はつかない。俺は俺が守りたいものを、俺が信じたいものを愛する。

「だから道は、自分で切り開く! 後ろを歩く奴らが迷わないように、俺が先に拓いてやる!」
「ふん、バカバカしい! 禍火かび竜玉りゅうぎょく!」

 禍津日神の両手から、二つの黒い球が発生する。数分前に防いだ球に比べて、直径が長い。
 ざっと1メートル以上ある。防げるか?

 …………いや、できる。俺ならやれる!
 この一撃にすべてをかける。何を失ってでも、あの二人の未来は絶対に渡さない。
 
「番家流憑依術:奥義!!」
 
 両手を再び銃の形に組む。集中しろ、集中しろ、集中しろ。
 万が一の為にと取っておいた最後の霊力を一点に集める。指先が徐々に熱くなっていく。凄まじい威力のエネルギーが、全身を駆け巡る。

 この奥義は、術者の死期が早まった時にしか発動できない。奥義と名がつくものは大体そうだ。

 そうだろ猿田彦。口に出さずとも伝わるぜ。
 お前が乗っ取りを解除した本当の意味は、俺にすべてを預けた訳は。
 
 ああそうだよ、道開きの神様の最大の能力は、未来予知だった。
 神様が人の死に介入することはご法度だった。
 
 つまり、そういうことだろ。
 お前は本当に優しいな。俺が悲しむと思って、黙ってたんだから。


 (気づいてほしくなかった)

 頭の中に響く友人の声。彼は俺の背後にいる。
 その表情を直接見ることはできないが、声色でなんとなく伝わるよ。さては泣いてるな。

 〈よく言うぜ。猿は俺が気づくとこまで読んでるのに〉
 (お前に教えてもらったんだぜ。ネ〇フリもジャ〇プもYoutubeも)

 俺は両手を組みながら、フフッと笑った。

 〈お前、何でもハマったよな!〉
 (バンのトークが上手いのが悪い。あんなの好きになるしかないだろ)
 〈うっわ逆ギレ? 言っとくけど俺は全部見させてもらえなかったからな。猿は贅沢もんだぜ〉

 

(お前はほんと変わんねえな。普通、こういうシチュエーションは、綺麗な言葉を交わすもんだろ)
〈俺は、つまらない言葉が一番きれいだと思ってるから。あ、やべえ。そろそろ術が発動するわ。最後に言いたいことなんかあったっけ。ちょい待って〉

 
 (もっと緊張感出せよ、ったく……なんで……お前はいっつも)
 〈おっけおっけ。まとめる。簡潔にまとめる。よし、決めた。めっちゃ簡単に言う。お前はその意図をくみ取ってくれると信じてる〉
 (は?)





  


 〈空で待ってる〉







 「番家流憑依術・奥義! 滅式! BANG!!」
 「吹き飛ばせ、禍火!」



 ―――小さな霊能力者の右手から放たれた霊力の塊と、禍の神の両手から放たれた負のエネルギーは、この日一つに混ざり合い、大きな音を立てて爆発した。
  



 (次回へ続く!)








 



 
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.56 )
日時: 2023/09/18 22:54
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 長かった過去編はこれにて終了になります。
 10月は、小説の更新を休載します
(学業がとっっっても忙しい時期なのです。また失踪するかもしれません。ごめんなさい!)
 
 -------------------------

 〈由比side〉

 「――というわけで、俺はお前を助けたんだ。バンを犠牲にして」
 空中に浮きながら、袴姿の男の子は言った。
 幽霊の僕・由比若菜は歩道を歩きつつ、「ふうん」と相槌を打つ。

 幽霊の身体は疲れない。この体質をいかして、僕は町を散策しながら日々を過ごしている。
 会いたい友達がいるんだ。
 笑顔が可愛くて、明るくて、おしゃれな女の子。自分を最期まで信じ、愛してくれた大事な人。飽きっぽいくせに真面目で、正義感が強くて。寝癖をつけたまま登校してしまう、ちょっと抜けたところも魅力的で。

 今だから言えるけど、彼女のことが好きだった。友達としてもだけど、恋愛的な意味でも大好きだった。勇気がなくて、アプローチできなかったけど。
 だけど僕はその子に、たくさん迷惑をかけてしまった。だから謝りたい。謝ることで解決する問題ではないけれど、それでもちゃんと想いを伝えたい。

 しかし僕は方向音痴で、土地勘がない。なので頼れる助っ人である道開きの神様・猿ちゃんにナビをしてもらい、人探しを進めている。
 人が多いから、もしかしたら居るのではとデパートへ向かう道中、彼がふいに過去の話をし始め、今に至る。

「その、正鷹さんはどうなったの? 犠牲って……」
「アイツはあの後、爆発でまたぶっ飛ばされて……禍津日神の身体に吸収された。最初の贄として」

 禍津日神の放った負のエネルギーの球と、正鷹の放ったエネルギー砲がぶつかり、大きな爆発が起こった。俺様と大国主命は発生した爆風に吹っ飛ばされる過程で、一縷の望みをかけてお前らの魂と融合したんだ。魂が実体化してくれることを願ってな。
 正鷹は俺らが逃げられるよう、必死に時間を稼いでくれたけど――。

 猿ちゃんはやり切れないというように、首を振る。
「………そのあとは分からねえ。少なくとも、この世にいないのは確かだ。正鷹は自分の命と引き換えに、お前たちを守ってくれたんだよ。そして、託してくれた」
「託す?」
「お前を守ることをな」

 僕は去年の秋に、学校の屋上から身を投げ命を絶った。
 成績至上主義のお母さんとの二人暮らしが嫌で。世界に適合しない自分が嫌で。何をやっても怒られて、否定されて、頼んでもないのに価値観を押し付けられた。おまけに習い事に行ったら、「勉強しろ」「ちゃんと学べ」「なんでお前はこうなんだ」と言われる始末。
 
 
 自分に何の価値もないと思っていた。自分を助けてくれる人は、いないんだと思ってた。
 でも、そんなことはなかったんだ。
 みんな、僕の為に命を張ってくれた……。僕の幸せのために、自分の未来を預けてくれたんだ。


「――僕は人殺しだ。僕のせいで、いとちゃんも、正鷹さんも……全員……っ」
 足を止め、僕はうつむく。両目から、生暖かい水滴が零れ落ちた。
 ダメだ、もう後悔しないって決めたのに。後悔してばっかりだ。
 パーカーの裾で、乱暴に顔をぬぐう。
 
「全員、僕が殺したようなものじゃんか……。僕が、もっと、もっと強かったら二人はっ」
「由比、おい由比」

 猿ちゃんは、僕の両肩に手を置いた。
 背丈はこっちのほうが高いので、背伸びする形になっちゃった。

「お前は悪くない。お前はあの時辛かったし、苦しかったんだろ。けど、一生懸命耐えてた。誰でもできることじゃない」

 言葉ってすごい。彼のセリフは、冷え切っていた心をじんわりとほぐしていく。おかげで、せっかくぬぐった涙が再び目からあふれる。押し殺そうとしていたものが、嗚咽とともに外に流れていく。
 ああ、体が透明で良かった。路上でわんわん泣いたら、絶対目立っちゃうもん。

「俺は由比が好きだ。優しいお前のことが大好きだ。お前と出会えてよかったって、心から思ってる!」

 彼は僕の身体を、強く強く抱きしめる。体温のない半透明の、この身体を。

「猿ちゃん……」
「生きている時に助けられなくてごめん。沢山我慢させてごめん。こうなるってわかってたのに、何もできなくて、ごめん。俺だって、沢山後悔してる。だけどバンが言ったんだ。空で待ってるって。人々の強さを信じているって」
 
 空で待ってる。
 自分の命が尽きることを、正鷹さんはそう訳したのか。

 人々の強さを信じている、か。
 僕は視線を空に向ける。群青色の空に悠々と浮かぶ白い雲。
 あの向こうに、正鷹さんはいる。今を生きる僕らのことを、遠い位置で見守ってくれている。

「お前が友達を探しているように、俺も友達を探している。もともと俺様はそいつに会うために旅をしてたんだ」、と猿ちゃんは言葉を続ける。「あの胸糞悪い出会いさえなければ」
 

「そいつと合流して、力をつけて、絶対にあの禍野郎を倒す。そんで大声で叫んでやる。『お前が思ってるよりずっと、人間は強いんだぜ』って。『まだ死んでねえ!』ってな!」

「……死んでるよ。幽霊だもん」と僕は言う。
「死んでるのに生きてるって、不思議だね」

 ――お前が思っているより、人間は強いんだぜ。

 僕はいとちゃんと会うまでに、さらに強くならなくてはいけない。ちょっとしたことで泣くようでは、再会した時100%からかわれるからね。
 それに、猿ちゃんと話して気づいた。いとちゃんは、まだこの世界に存在しているんだ。大国主さんの魂と融合したのなら、彼女も自分と同じ状態ってことだ。

 いとちゃんはもう、この世にいないんじゃないか。僕が特殊なだけで、全員が幽霊になるわけじゃない。 ひょっとしたら、彼女とはもう二度と会えないんじゃないか。
 何度そう思ったことか。なんどその思いを否定したことか。

 僕は会えるんだ。まだ、可能性があるんだ。
 
「――ありがとう猿ちゃん。僕、頑張る。正鷹さんの代わりに、猿ちゃんを守れるようになってみせる」
「おう、期待してるぜ。んじゃ、行くか」

 前を歩く友達の背中を、僕は必死に追う。右足を恐る恐る前に出して、拙い足取りで。
 それでも確実に、一歩一歩進んでいく。

 これは疲れた僕ときみの話。
 何もかも失った。だから今度は、すべてを手に入れて見せるよ。

 



 □◆□

 「ヒエ~、そっちの水筒取ってくれん?」

 八畳ほどの広い部屋の隅に設置された木製のベンチに、ボク・夜芽宇月は座っている。
 ここは町のはずれにある、閉店したスポーツセンターの体育館だ。本来は館内立ち入り禁止だが、霊能力者には特別に使用許可が出されていた。

 
 ジャージの裾で汗をぬぐう少年の横に座っているのは、水色の髪をした少年。左耳にはピアス、膝小僧には絆創膏。程よく日焼けした肌も相まって、THE・運動系男子といった出で立ちである。
 コイツはボクの後輩。霊能力者が所属できる『ACE』という討伐チームに、最近加入した新任・ヒヨッコの霊能力者だ。

「自分で取ってよ、宇月センパイ」
 後輩は分かりやすく片眉を下げ、貧乏ゆすりをする。苛立った時に彼が見せる癖だ。

「無理。筋肉痛がきつくて歩けへん。模擬戦100本は頭いかれてる。なんでお前平気なん。こんなんやってたら精神がやられてまう」
「すんません。今テスト期間でストレスたまってんの」
「なんや、本当に運動馬鹿か」
「センパイ、ほんと口悪いよね」


 強くなりたいから、練習に付き合ってほしい。
 そう頼まれ、ボクは仕事終わりに後輩とこの体育館で練習をしている。がしかし、コイツの謎の熱量に対応しきれず、教える側なのに毎回へとへとだ。

「………そいえばセンパイ。オレ、センパイに聞きたいことあるんすよ」
「は? なに? なぜ5歳差の年下に18歳がやられんのかって? 単純にお前が狂ってるからや」
「あー違いますね」





「センパイ、禍の神についてなにか心当たりありませんか?」




 ※過去編完結。→第4章へ続く。

 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第4章準備中】 ( No.57 )
日時: 2023/09/20 17:52
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 【第2回★憑きもん!アフタートーク】

 むう「お久しぶりです。絶賛スランプ中・テンションdown気味のむうです。休載期間中ですが、第3章完結を記念して、今日だけ浮上しておりますお願いします! 私が登場したということはそうっ」
 キャラ一同「本編前の小話でーす」
 むう「違いますアフタートークです。本編前の小話もあるけれども!」

 こいと「むうさんって本編前いきなり語り出しますよね。癖なんですか?」
 むう「やめてー。痛いとこをつかないでぇ」
 美祢「わかった。小話で文字数稼いでんだろ。お前1話の平均文字数3000字だもんな」
 むう「やめてえ執筆の裏事情を暴露しないでえ。うわーんコマリちゃん、二人がいじめるよお」

 コマリ「ちょっとトキ兄! 意地悪言わないで」
 美祢「オレは事実を伝えてるだけだ。悪く言われる筋合いはない」
 むう「(コマリに耳打ち)」
 コマリ「トキ兄。もしかして宇月さんの真似してる? いや、いいんだよ。私はいとこ組の仲を応援してるからさ」

 美祢「おいむうっ。テメエふざけんな、だるいからかい方すんなっ」
 むう「美祢も初期に比べてだいぶやんちゃになったよねえ。あ、もとから厨二だったか」
 美祢「ブンッッ(キッククリーンヒット★)」
 むう「ゴフウ!!」

 ---------------------

 
 由比「て、てことでここからは、数メートルぶっ飛ばされたむうちゃんに代わって、僕こと由比若菜が司会進行をしていきまーす……。む、むうちゃん大丈夫かな」
 宇月「大丈夫なんちゃう? 知らんけど。念のためすぐ起き上がれるように術かけとこか?」
 由比「お、お願いします。で、では皆さん、第3章お疲れさまでした!」

 猿田彦「めーっちゃ大変だったな。収録スケジュール長かったぜ。なあ大国主」
 むう「……収録って……言うな猿……(地面に倒れこみながら)」
 猿田彦「おいお前今猿っつったか!? おいっ」

 大国主「わらわはあまり活躍シーンはなかったんだがな。結界を貼って攻撃受けて乗り移っただけだ。猿田彦に比べれば大したことはしていない」
 こいと「クニたそがいなかったらとっくに私吸収されてたよ。そんな風に言わないで」
 大国主「お、おう。ありがとうな、こいと」

 美祢「俺と宇月の過去シーンもあったが、あれ必要だったか?」
 宇月「美祢がボクと仲よくなりたいっちゅうことを書きたかったんやろ。もー、お前ほんま素直じゃないな。もっと自分の気持ち曝け出さんと」
 美祢「お前にだけは言われたくないんだが」

 由比「むうちゃんのメモによると、たまたまその時はいとこ組を書きたかったんだそうです」
 宇月「気分かーい! ボクがめっちゃ嫌な奴になっとるんやけど―――。ほんま作者ボクのこといじりすぎやで! あとで覚えとけよ!」
 由比「やばいやばいやばいやばい。宇月さん落ち着いてっ」

 正鷹「おーいおいおい。過去編と言えば鳥神様だろ。俺にもマイクを渡してくれよ」
 コマリ「バンさんっ! わああ、本物だああっ」
 正鷹「え。なに。俺実在しないと思われてんの?」

 むう「バンは文字通り、悪に立ち向かったヒーローだからね。現代組のあこがれなんだって」
 正鷹「マジで? え、めっちゃ嬉しいんだけど! あとでサイン書くわ。多分このあと出番ないだろうし、やれることはやっとかなきゃな」
 キャラ一同「やったあああああああ」

 宇月「正鷹さんは霊能力者の間でも有名だからなあ。第4章以降はボクに任せてください! キャラをしっかり護衛しますんで」
 正鷹「つっきー、頼む!」
 由比「(つっきーって呼んでるんだ……。キャチーだなあ)」

 宇月「あ、美祢は次章こそしっかりコマリちゃんのボディーガードしろよ。パソコン越しに観察って、ストーカーやからな。基本的なことは教えたるから、ちゃんと好きな子守り」
 美祢「お、おう……って、好きな子ってなんだよ。お、俺は別にコマリなんか好きじゃないしっ」
 宇月「ほーお?」

 コマリ「こいとちゃんは好きな子いるんだよね」
 こいと「? そんな話しましたっけ」
 コマリ「第1章で言ってたじゃん。『経験ある私でもドキドキした』って。そういえば私、こいとちゃんの過去とか全然知らないなあ」
 こいと「ま、まあ、そうですね。話してないですね」
 コマリ「いつか教えてくれたらいいなって思ってる。けど、ゆっくりで大丈夫だからね」
 こいと「あ、ありがとうございます」

 猿田彦「バン、お前はいたのか? 好きな女性とか」
 正鷹「家が恋愛禁止だったからなあ。ソシャゲで好きなキャラとかはいたけど、現実で浮いた話はなかったよ。ああ、欲を言うならモテたかった」
 むう「十分モテてるから自身もちなよ」
 こいと「そうそう。バンさんの恋愛運、めっちゃ高いんですよ! 自信持ってください」
 正鷹「ありがと。って俺もうバンで固定なんだ……。ま、いいけどさ」
 
 美祢「かくいうお前はいないの? 好きな子」
 宇月「ボク? え、えぇーっと、うーん……(こいとのほうをチラリと見る)」
 こいと「?」
 宇月「(ものすごい勢いで目をそらす)お、おらんと思うけど……」
 美祢「………???」

 ★現在の恋愛事情はこんな感じです★
・コマリ←?→美祢
・こいと←〈両想い〉→由比
・宇月→こいと→由比

 第4章からはラブコメ要素も増やしていくのでよろしくお願いします!
 

 由比「ということで第3章のアフタートークはここまでです。マガっちは現在どこにいるのかわからない状況のため、お話を聞けませんでした。今後お話にどうかかわってくるのか、楽しみですね」
 
 
 コマリ「第4章には、バンさんの双子の兄妹である飛燕くんや飛鳥ちゃんも登場します! 大きくなった二人とどんな感じで会えるのか、ワクワクするね!」
 美祢「お待ちかね。次回からは俺がようやくボディーガードに回るぞ。実は現在、宇月から秘密の特訓を受けてて。それが結構きついんだよな……」

 宇月「怪異・妖怪まわりはボクが引き続きサポートしていくで。たまーにグサッとえぐるかもしれんけど、そこはご容赦くださいな」
 由比「僕と猿ちゃんも、少し離れたところで行動するから、良かったら由比ルートも追ってほしいな。正鷹さんと大国主さんはここで退場ってことで」

 大国主「そうだな。わらわは正鷹と一緒に、物語を応援する立場に回ろう」
 正鷹「お前ら、飛鳥と飛燕をよろしくな」
 
 むう「ではでは、今回もお読み頂きありがとうございました。次回の更新は10月。最新話でまたお会いしましょう。せーのっ」
 キャラ一同「お憑かれ様でした――――ーっ!」

 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第4章開始!】 ( No.58 )
日時: 2023/10/28 19:29
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 10月から本編更新予定でしたが、プロットを書いてたらまたまた書きたい欲が抑えきれなくなってしまいました(確か第2章開始時も同じこと言ったような気がする)。
 ということで、ちょっと早いですが始めちゃいます。よろしく!

 ---------------------

 〈コマリside〉
 
 ゴールデンウイークが終わった。
 溜まっていた宿題も(トキ兄の手助けのおかげで)無事終わった。

 私は今、ともえ中学校2年3組の扉の前に立っている。廊下側の窓から流れ込んだそよ風が髪を揺らす。数日間通っていなかっただけなのに、なぜかとても懐かしい気持ちになる。

 さてさて。それではさっそく。
「おっはよぉ!」
 ガラガラッと、扉を開け、大きな声であいさつをする。
 何事もあいさつが大事だからね。落ち込んでいる時も、返事だけは明るくしようって思っているんだ。

 何人かの生徒が、「おはよう」と返してくれる。その中には、幼稚園からの幼馴染である杏里あんりと大福(福野大吉だから大福ね)の姿もあった。

「おはよう月森さん。今日も元気だね~」
「委員長!」

 扉のすぐそばに立って、黒板けしを掃除していた鈴野すずのさんが、のんびり言う。
 肩まで伸びた長い黒髪。鼻先にちょこんと乗せた黒ぶち眼鏡。スカートの丈も、キッチリひざ下。
 彼女はこの教室で、実行委員を務めている。私と鈴野さんは同じ図書委員で、毎週水曜日に図書館で本の整理をしているんだ。

「あれ、委員長焼けた? 珍しい」
「そうなの。G県に住んでいる大学生の姉の家に行ったんだけど、そのあと海に連れ出されてね。そんながらじゃないんだけど……」

 お姉ちゃんのことを『姉』と呼ぶところが、まさに優等生って感じでカッコいい。

「良かったね。いいなあ、海。私ずっとアパートにいたよ。宿題が終わんなくて」
「言ってくれたら教えてあげたのに。LINEも一応繋がってるでしょう? 家も比較的近いし、良かったらまた一緒に勉強会をやりましょう」

 学年首位に教わる勉強かあ。実際彼女に教えてもらったクラスメートの子が、『短時間の勉強会だったけど、要点を抑えて解説してくれて、すっごくわかりやすかった。正直、塾の先生よりわかりやすかった』と絶賛してたっけ。これは期待できそう。

 うーんでも、トキ兄の説明もちょっと……いや、かなりわかりやすいんだよなあ。逆憑きの効果で点数は下がるものの、この前の中間テストの数学テストは56点取れたし。

「ありがとう。また考えとくね」
「うん。いつでも待ってるから」

 鈴野さんはフフッと上品に笑い、黒板のほうに向きなおった。
「まあ、とりあえず鞄をおろしてきたら? 星原さんと福野くん、ずっと待ってるよ」

 あ、そうだね。話は荷物を片付けてからだよね。

 教室に入り、自分の席に向かう。
 3組は先月席替えをし、出席番号順の並びからランダムな並びに変わったんだけど、どうやら休みの期間に配置が直されたようだ。一番左の列の最後尾だった私の席の位置は、中央列の前から二番目(つまり教卓から一番見える場所)になっていた。

「うっわ。またあそこかぁ……。これじゃ授業サボれないじゃん」

 仕方ない。次の席替えまで我慢しよう。
 私は机の横のフックにリュックの紐をひっかけ、椅子に腰かける。直後、このタイミングを見計らったかのように、教室の後ろにいた大福が駆け寄ってきた。彼の隣にいた杏里も、嬉しそうに席の近くへ来る。

「おっす月森」「コマちゃんおはよー」
「おはよう二人とも。って、なんでそんなにウキウキしてるの?」

 二人は頬を真っ赤に染め、どこかうずうずしている。大福の両手はさっきからブンブンブンブン揺れてるし、大人しい杏里も今日は声のトーンが高い。久しぶりに友達に会えた喜びで、というわけは無さそうだった。

「それがさ。どうやら今日、この組に転校生が来るって噂なんだよ。俺日直でさ。職員室に名簿持っていくとき、偶然聞いてしまって」
「えっ? 転校生? この時期に?」

 珍しい。そういうのって普通、始業式の日とか学期の初めと被せるんじゃないっけ。
 ゴールデンウイークはある意味、休み明けだけど……。ってことはあの連休中に引っ越してきたのかな。

「それ、男の子なの? 女の子なの?」と聞くと、
「さあ。詳しいことはわかんねえけど、仲間が増えるのは素直に嬉しいよな」
「そうだね」

 2年3組の生徒は、男子13人女子13人の計26人だ。他のクラスの人数は30人。隣のクラスの騒めきに比べると、こっちのクラスは静か。時間の進み具合も、周りと比べてゆっくりな気がする。
 
 どんな子が来るんだろう。お友達になれるかな。
 私はワクワクしながら、のんびり朝の会の開始時刻まで杏里たちと喋ったのでした。

 --------------------

 キーンコーンカーンコーン。
 朝の会の開始を告げるチャイムが鳴り、担任の河合かわい先生が教室に入ってきた。
 河合先生は国語担当の若い女の先生で、学年でも人気が高い。

「皆さんおはようございます。朝の会始めるよー。鈴野さん、号令」
「はいっ」

 朝の会の司会進行を担当する委員長が、席から立ち上がる。

「きりーつ、礼。着席。お願いします」
「「「お願いしまーす」」」

 クラスのみんなは既に大福から転校生の話を聞いており、一様に浮かれている。着席したあとも、隣の席の子とコソコソ話をしたり、チラチラと廊下を確認したり。
 私は先生の目の前なので、やりたくてもできない。

「それでは今朝の業務連絡です。1限目はショートホームルームで、課題の提出と係決め。2限の国語の時間は、連休明けの小テストを行います。範囲は中間試験でやった『少年の日の思い出』。長文読解と漢字中心に出題するから、しっかり解くことー」

 その後もどんどん話が進み、ついにその時がやってきた。

「じゃ、皆にサプライズです。今日から3組の仲間になる、転校生の紹介です。入ってー」

 来たっ。来た来た来た来たっ。
 クラスメートの視線が、廊下側の扉へと集中する。

 扉がスルスルと横にスライドし、待ちに待った転校生が廊下から教室に入ってきた。

 生まれつきかな。ウルフカットに整えられた髪は淡い栗色をしている。学校指定のワイシャツの上に、黒いセーターを着ていて、黒いネクタイを締めている。下に履いているのはスカートではなく、スラックス。身長は150センチ前後で、かなり小柄。
 くっきりとした二重まぶたに、ぱっちりとした目元。女の子のようだ。

「女子でズボンなんだ。めっずらしい」
 横の席に座る遠山さんが呟く。

 確かに。性の多様化を受けて、ズボン・スカートの選択権を導入したともえ中学校だけど、女の子でズボンを履いている子は今までいなかったよね。
 
「じゃあ、自己紹介宜しくね」
「はい」と女の子が答える。高くてかわいらしい声だった。

 転校生ちゃんは先生から渡された白いチョークを右手に持ち、黒板に自分の名前を書き記す。書道の先生かと疑うような、丁寧で正確な筆運び。

 番 飛 鳥

「何て読むんだろ」と再び独り言を呟く遠山さん。
「バン? とぶ……」

 女の子は私たちのほうに向きなおると、ハキハキとした強い口調で名乗った。
「つがい、あすか、です。よろしくお願いします」
 
 へえ。あの漢字、『つがい』って読むんだ。初見じゃ絶対に読めないや。
 古風で素敵な名前、いいなあ。私の場合はお母さんが語感の良さだけで決めちゃったから。

「じゃあ、飛鳥さんの席はあそこね。月森さんの前」
「わかりました」
「月森さん、番さんに色々教えてあげてね」

「は、はい」
(へっ!?)

 反射的にうなずいちゃったけど、頭は軽いパニックを起こしていた。

 わ、私の前??
 あ、そうか。出席番号順だもんね。『つがい』と『つきもり』は同じタ行だし、『つがい』が前だ。

 飛鳥ちゃんはスタスタと私の前の席まで行くと、ストンと席に腰かけた。そして、首だけをくるりと後ろに回す。


「よ、よろしくね、飛鳥ちゃん」
 慌てて返事をする。
 何事もあいさつが大事だからね。落ち込んでいる時も、返事だけは明るく……。

「あなたが月森さん?」
 飛鳥ちゃんは値踏みするような目で私を見ると、フフッと妖艶に笑った。

「これからは嫌なこと、起こらないといいね。よろしく」

 ………? 嫌なことって何だろう。
 私、逆憑きのこと誰かに話したっけ………?



 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第4章開始!】 ( No.59 )
日時: 2024/02/12 06:41
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: M2UOh4Zt)

 休憩時間になると、飛鳥ちゃんはすぐに大勢のクラスメートに囲まれた。
「誕生日はいつ?」「兄弟いる?」「好きな教科と嫌いな教科は?」「好きなアーティストは?」。投げかけられる質問に、彼女は一つ一つ真面目に答えてる。

「誕生日は4月1日。エイプリルフール。誕生日に嘘言っても……例えば『1万円欲しい』って言ってもバレねえから結構便利」
「兄弟か。双子の兄がいるよ。うざくて僕は嫌いだけど」
「好きな教科は生物。嫌いな教科は社会。くそ眠くなるから嫌」
「洋楽のバラードが好き。え、知らない? マジか。めっちゃおすすめ」

 飛鳥ちゃんは男の子っぽい喋り方をする。カラカラと明朗快活に笑い、今どきの若者言葉もスラスラ話す。かといって表立って目立つ性格ではないみたい。外見・服装・口調。全部を含めて見ても、今まで居なかったタイプの女子って感じ。

 私は彼女の後ろの席に突っ伏して、会話を盗み聞きする。
 あの輪に入るのは、陰キャの自分には無理そう。まずは会話のきっかけになるような共通項を、やり取りの中から見つけていこう。
 こんなやり方で申し訳ない。許してくださいませ。

「えー、飛鳥ちゃんってカッコよ。あとでLINE交換しようよ」
 と言ったのはツインテールのギャルっぽい女の子。 
 クラス女子カーストの上位にいる、高峰さんだ。

「あ、実際は校内に携帯持ってきちゃダメなんだけどさ。ルールとか知らんわって、皆こっそり持ってきてんの。これ、先生には内緒ねっ」
 
 背が高くてスタイルが良くて、何より小顔で可愛い。読者モデルをしていて、週2日ほど学校を中退し、レッスンに行っている。現役バリバリの、芸能人中学生として校内でも人気だ。
 くわえて、学級副委員長でもある。副委員長がそんなこと言っていいのかなあ。

「? えっと、あなたは……えっと、高峰、えっと、下の名前なんて読むの?」
 高峰さんの名札に視線を移した飛鳥ちゃんが、きょとんと首をかしげる。

「うち、副委員長の高峰静杏たかみねせあ。あっは、やっぱ初見じゃ読めんよね。キラキラネーム同士仲良くやろうぜっ」
「僕の漢字、キラキラネームじゃないと思うけど」
「でもさ、サイトで検索したら結構順位低かったんよ。『番』」
「そんなサイトあんの」

 すごいなあ。転校初日なのに、もうクラスになじんでる。
 ちなみに先生から聞いた話なんだけど。飛鳥ちゃん、実年齢は13歳だそうだ。
 じゃあなんで中学2年生のクラスにいるのか。その理由が、めちゃくちゃオドロキなの。

 彼女が前通っていた学校は、県内トップレベルの難関中学・律院高校附属中学校りついんこうこうふぞくちゅうがっこう
 トキ兄も元・律院高校生。つまり飛鳥ちゃんは私の同居人と同じくらい、とても優秀な生徒なのだ。

 しかし私立中学に進学したものの雰囲気が合わず、学校を休みがちになった。そしてこの度、家から近い公立のともえ中学に編入してきたのだ。

 私立は公立に比べて授業の進みが早く、もう中1の学習は終わったらしい。そこで彼女は先生と相談して、一つ上の学年―中学2年生のクラスに、飛び級で所属することになったとのこと。

 日本で飛び級ってあり得るんだ………。。
 前後の席なのに、なぜこんなにも遠いんだろうか。
「ちょっと勉強教えてよ」さえも、言い出しにくい存在だよ。

 
「飛鳥さんはご自分のことを『僕』って言われるんですね」
 と尋ねたのは、委員長の鈴野さん。からかっているわけではなく、純粋な疑問のようだ。
 眼鏡のブリッジに右人差し指を添え、位置を直しながら委員長は飛鳥ちゃんと視線を合わした。

「なにアンタ。別にいいだろ、一人称がボクでも俺でもさ」

 否定されたと思ったのか、飛鳥ちゃんは語尾を強めた。
 机に頬杖を突き、足を組んで、ぞんざいな態度を取る。

「そうだよね。個人の自由だよね」と高峰さんも同調。「鈴野さん、もうちょっと言葉の使い方を気をつけたほうがいいよ。今のはあたしもどうかと思うよ」

 飛鳥ちゃんは長いまつ毛の奥の目を光らせながら、棘のある口調で言った。
「それともなに。アンタも前の学校のクラスメートみたいに、痛いとかヤバいとか言って個性を否定するの?」
「す、すみません」
 委員長はかぶりを振る。

「嫌な気分にさせてごめんなさい。そうですよね、個人の自由ですよね」
「そんなに謝らなくても大丈夫だよ。僕だって好きでズボン履いているわけじゃないし。色々あって、仕方なく履いているだけだから」
 
 えっ??
 私は思わず顔を上げた。

 そうなの? ズボンのほうが落ち着くから履いているんじゃないんだ。
 じゃあ、なんでわざわざそんな恰好しているんだろう。って、アレコレ検索するのは失礼か。

「本当に、失礼をおかけしました」
「もう気にしてないから。大丈夫だって」

 なおもペコペコ頭を下げる委員長を、飛鳥ちゃんは慌ててたしなめる。
 相手への気遣いとか所作とか、言葉の使い方がすごく上手い。頭のいい学校へ行くと、そういう礼儀も先生から教えてもらうのだろうか。

 キーンコーンカーンコーン。
 休憩時間終了を知らせるチャイムが、スピーカーから鳴り響く。
 
「あ、もう3限始まっちゃう。じゃあLINEはOKってことでいいよね? じゃああとでパスワード教えるよ。2年3組のグルラあるから、番さんもぜひ入って。あ、あとタメでもいいかな?」
「いいよ。好きに呼んで」
 
 一体何を食べたら、高峰さんのようにハキハキした受け答えができるようになるんだろう。
 短時間で、自己紹介からLINE交換の約束までの流れを作った副委員長のトーク力に、ただただ感心するよ。

「ねえ。そのLINEって、月森さんも入ってる?」
「「「えっ!?」」」

 突然飛鳥ちゃんの口から自分の苗字が発されたので、私・委員長・高峰さんはそろって素っ頓狂な声を上げた。
 学級委員の二人は、(なんでここで月森さんの名前が出てくるの?)の「えっ」。私は、(なんでそんなに私にかまうの?)の「えっ」だ。

「月森さんも、やってるよね? あんまり浮上してないけど……」
 高峰さんは私に確認を求めようと、話を振った。私は反射的にうなずく。

「や、やってるよ、私。LINE」

 放課後はパソコンでゲームをしているから、あんまりスマホは開かないけど、ちゃんとグループには入ってる。夕暮れの森の写真を丸くかたどった、シンプルなアイコンを使ってる。

「え、なに? 番さん、もしかして月森さんに興味あるの?」
「うん。席前後だし、仲良くしてーなって。あと、めっちゃ可愛くね?」

 可愛い!? わ、私が?
 わ、私と飛鳥ちゃんじゃ月とスッポンだと思うけど。メイクもしてないし、髪も寝癖直しただけのボサボサヘアだし。
 あ、もしかしてアクセサリーのこと?トキ兄に貰ったお化け型のヘアピンのことを言ってる?

「か、可愛いってどういうことですか……」
 精一杯の勇気を振り絞って聞くと、飛鳥ちゃんは「小動物みたいで」とカラカラ笑う。
 うっ。しょ、小動物かあ。マスコット的な可愛さってことですか? なんか舐められてる?

「もしかして月森さん、年の近い兄貴とか姉貴とかいるんじゃない? 妹オーラが出てんぜ。僕も一番下だから、気が合いそうだなって思ったんだ」
「お、お兄ちゃんはいないけど、お兄ちゃん的存在はいる」

 もしかして飛鳥ちゃん、エスパーだったりするのかな。それとも勘がものすごく鋭いだけ? 
 さっき初対面で『嫌なこと起こらないといいね』って言ってたし……。
 
「ま、似たようなもんだね。僕、マジカルパワーが使えんだ。そんで、その力が教えてくれたの。月森コマリって女の子が、どんな人物なのかってね」
 
 ど、どういうことなんだろう。年相応の厨二病って考えでいいのかな??
 転校初日のプレッシャーで、少し頭がおかしくなってるって認識でいいのかな??


 (次回に続く!)


 
 

 


 


 
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第4章開始!】 ( No.60 )
日時: 2023/09/28 20:35
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

Q:さてはあなた、オカルトマニアですね?
 A:はい。妖怪幽霊大好きです。

 Q:好きな妖怪とかいるんですか?
 A:さとり。猿の妖怪です。逸話が面白くて好きです

 Q:憑きもん!に登場させたい妖怪はいますか?
 A:くだん雲外鏡うんがいきょうは今後出てきます。

 ----------------

 〈――1年前:飛鳥side〉

 一年前、私は家族を亡くした。三歳上の兄だった。
 正義感が強くて、お調子者で、優しくておしゃべりな自慢の兄だった。

 死因はまだ解明していない。死体も見つかっていない。
 確かなのは、市内の中学校の中庭に、兄の制服が落ちていたこと。そしてその制服が赤黒い血で染まっていたことだけだ。

 番家は霊能力者の家系で、怪異の討伐を家業にしている。
 だが霊能力者は、政府非公認の職業だ。『霊能力者の子供が行方不明になりました』と真実を伝えれば、視聴者は訳が分からず唖然とするだろう。
 当主である父親は知り合いの記者さんと交渉して、一連の事件を非公表とすることを約束させた。「息子の失踪の原因究明は霊能力者側が行う」って条件を付けてね。

「飛燕、飛鳥。あとはこっちが上手くやっとくから、向こうで遊んで来なさい」

 初めは皆、捜査に協力的だった。
 そりゃそうだ。番家の長男―最強の術者がいなくなったんだから。
 階級関係なく、多くの霊能力者が任務を遂行する傍ら兄を探した。遠見の術を使って地形を調べる人もいたし、あやかしに協力してもらい情報を収集した人もいた。

 でも―。調査は、三か月後にぴたりと止んだ。情報がえれなかったからだと言う。
 どれだけ時間をかけても、何の成果も得られなかった。なのでもう、正鷹のことは諦めよう。誠に残念だけど。

 その言葉を父親から聞いた私は、頭から熱が引くのを感じた。
 なにそれ。なんで、終わりにしようとするの。残念って何がなの。なんで今絶望してるの。なんで希望を持たないの。ねえ。

「……なんで、諦めるの」
「――仕方ないんだ」
 やり切れないというように首を振る父親。

 私は腹の虫がおさまらず、股の下に敷いていた座布団を彼に思いっきり投げつける。

「仕方ないってなによ! お兄ちゃんを勝手に死なせないで! お兄ちゃんはまだ死んでないっ。責任取るって言ったのはお父様でしょ!? 責任者が役目を放棄するなんて絶対ダメよ!」

「落ち着け飛鳥! 父さんの気持ちも少しは考えろ!」
 横に座っている双子の兄・飛燕が、私の左腕を掴んだ。
「………皆つらいんだよ。わかんだろ。必死にあがいて、それでも無理だったんだ。感情論だけじゃどうにもならないこともあんだよ」と、三白眼でギロリとこちらを睨む。

「なら有理になるまで努力するしかないでしょう!」
 私は飛燕の手をブンッと払いのけ、ドンッと彼を押し倒した。
 なによ、あんたも逃げるの。あんたもお兄ちゃんの存在を無かったことにしたいの。

「約束された結末でも、私はハッピーエンドを信じたい。お兄ちゃんを信じたいの。お兄ちゃんは、無意味に命を絶つような人じゃない。絶対、絶対に何か理由があるのよ。……そうしなければならなかった理由が」

「どっちだよお前。生きてるって肯定してえのか、死んでるって否定してえのか。どっちかにしろよ! なあ!」と声を荒げる飛燕。
「正解は片方しかないんだからさあ!」と、自分に言い聞かせるように叫ぶ。
 
 「正解がないから、迷ってるの。そんなことも分かんないの? 飛燕っていっつもそう。私が何が言ったら決まって反論して! 本当は私と同じ気持ちなのに、いっつも環境のせいにして自分の気持ちを押し殺す!」

 私知ってる。
 お兄ちゃんに『家のこと好きか?』って聞かれた時、愛想笑いしながら『好きです』と返したこと。使用人さんの下駄を、この前こっそり盗んだこと。図書館から借りる本が、家族の日常や絆を描いたものばっかりってこと。

「………私は自分の気持ちから逃げない。皆が無理だって言うなら自分一人でやるわ。自力で事件の真相を暴いて見せる」

 お兄ちゃんは逃げなかった。どんなに辛い任務があっても、決して仕事をサボらなかった。弱音を吐くことは何回かあった。でも決して泣かなかった。いつも「大丈夫だよ」って、歯を見せて笑ってくれた。

『お前らがいるから頑張れてるよ』って。
『いつもありがとうな』って、目を見て言ってくれた。

 自分が一番しんどいはずなのに、お腹を空かせる妹と弟の為に毎日欠かさず料理を作ってくれた。誕生日プレゼントは、全部自分のお小遣いから出してくれていた。私たちのことを常に想ってくれていた。

 だから次は、私の番だ。今度は私が、お兄ちゃんを助けるんだ。
 周りが味方をしてくれなくても別にいい。無理だ、綺麗ごとだと笑われても構わない。私は自分が正しいと思ったことをするまでだ。自分には何もできないとは、思いたくないのだ。

 私は大広間のふすまをピシャッと開け放つと、そそくさと自室に向かった。
 言いたいことは全て言った。これが私のすべてだ。このまま進み続けてやる。
 ----------------

 「お、お前どうしたその髪。あとその服装」

 夕食を取ろうと一階に戻ってきた私を見て、飛燕は目を丸くした。
 冷蔵庫の扉を開けたまま、数秒身体を硬直させる。右手に握られているのは先日買い替えた醤油さしだ。

 長く伸ばしていた私の髪は、今ではバッサリ、ショートカット。服装は黒いシャツにカーキ色のズボン。愛着していたドレスなどの服は全てクローゼットに閉まった。もう着ることはないだろう。

 飛燕は食卓の上に醤油を置くと、再びコチラをまじまじと見つめる。その後、自分の手をそっと私の頭へと伸ばしてきた。指先に妹の髪を巻き付け、物珍しそうにいじる。

「……自分でやったの? あのロリータファッションも、もういいの? こんなに短くしたら、もうヘアアレンジできないよ。お前、可愛いの好きだろ」

「いい。強くなりたいから。しばらくは要らない」

 私はキッパリと言い切る。
 守ってくれる人がいない以上、自力で強くなるしかないのだ。もう、誰かに守ってもらう年齢ではない。自分のことは自分が一番よく知ってる。

 飛燕はハアとため息をつき、頭をわしゃわしゃと手で掻いた。ぶすっとした表情で。
「………わかった。そこまで言うなら俺も協力する」
「――え?」
「わかったら返事してよ。独り言みたいじゃん」

 い、いいの? 乗り気じゃなかったのに。
 疑惑の念を込めて兄の表情を伺う。何かを我慢するように、彼の唇はきつく結ばれていた。

「決志の為に髪切るとか、どんだけだよ。お前はジブリのヒロインか」
「なんだよそのたとえw」
「渾身のギャグを笑うな馬鹿」

 飛燕は呆れながら、フライパンで焼いた目玉焼きをお皿に盛りつけたのだった。


 ----------------



 〈現在:飛鳥side〉

 中学校の二階・女子トイレの個室で、僕はズボンのポケットに隠しておいた携帯を取り出し、耳に当てた。


 「ご協力ありがとうございます。宇月先輩。おかげで無事、月森さんに接触できましたよ」
 『……悪者みたく扱うんは別にええけど。ボクかて人伝で聞いただけやから、そない期待はせんでな。あと人が仕事してる時に電話かけんといてくれます? こっちも忙しいねん』

 「コマリさんは逆憑きということですが、先輩は兄の死に彼女がかかわってると思ってるんですか?」
 『いいや。それは何とも言えん。ただあの子の周りでは何かと奇妙なことが起こる。妖怪や幽霊もわんさか寄ってくる。君の立ち回りを考えての判断や。どうするかは任せるわ』


 「それは失礼しました。でもびっくりですよ。まさか先輩から、兄に対する情報が聞けるなんて。こんなことありえますか。情報を集めてくれた飛燕には感謝しかありません」

 『あいつ、やり方が汚すぎる。クタクタに疲れさせてから問い詰めるなんて性格が悪い。まあ、せやな。ボクも人から頼まれとんねや、その事件について調査してーってな。だから力になれることがあるなら何でもするで。ま、お互いの目的はちゃうけどな』

 
「僕は兄の仇を打つために、禍の神の居場所を知りたい」
「ボクは知り合いの友達を探すために、事件の詳細が知りたい」


「『月森コマリの存在は、双方とって重要な鍵になる』」

 (次回に続く!)



Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第4章開始!】 ( No.61 )
日時: 2023/12/05 09:09
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 〈宇月side >>56の続きから コマリsideと同時刻〉

 黒女くろめ市立体育館は、市街地のはずれにある県立体育館である。築50年。剥がれた塗装や、窓ガラスに貼られたガムテープが建物の劣化を物語っている。昔は多くの市民が訪れたようだが、現在館内に居る人間は二人のみ。体育館前の道路は歩行者はおろか、車も通っていない。

 体育館は二階建て。一階はバスケットボールのコート、二階は室内プールとなっている。
 少子高齢化による利用者激減を受けて、この体育館は数年前に使用禁止になった。建物自体が古いので、遊ぶとケガをするかもしれない。無くなるのは嫌だけど、安全が一番大事だ。当時の館長はそう考え、建物の撤去を求めたらしい。

 しかし、とある理由で工事は中断。よって建物はまだ、この閑静とした農村の中にある。
 現在一階はトラテープで封鎖。プールの水は全て抜かれ、代わりに何の品種かもわからない植物の葉が底に溜まった。取り壊しを事業者に相談した年以来、何と一度も掃除されていない。


「やから、住民さんは皆汚い言うて、近う寄れんのやって。小学校低学年の子は、興味方位でたまに来るけど、怖なって途中で帰りはるって」
「へえー。確かにジメジメしてますね。センパイの心みたいだ」
 
 さて、ボクこと夜芽宇月は先ほど、黒女体育館が使用禁止だと言った。それなのに、後輩を連れて堂々と体育館のベンチに座っている。
 なんなら数分前、倉庫から取ってきたバスケットボールをゴールの中に放り込んだ。そのあと後輩がダンクしようとして、思いっきり頭をぶつけてきた。

 ベンチの隣に座り、首にかけたタオルで汗を拭いている水色髪の少年が、ボクにぶつかってきた後輩だ。名前は番飛燕つがいひえん。ボクと同じ怪異討伐組織に所属する、新人の霊能力者。

 怪異討伐組織・ACEは、都内の霊能力者およそ1000人が所属している、霊能力の教育機関だ。
 霊能力者は単独での任務が基本だが、ひとりで怪異を討伐するには訓練が必要だ。小学生から高校生までの術師は一人前になるまで、この組織に入って技を磨く。組織を出た人間も、希望書を出せば再所属することができ、その場合は講師として後輩の指導につく。

 地元である京都にもACEの支部はあったけど、ボクは一度もACEに入ったことがない。
 というのもボクの扱う〈操心術〉は霊能力者の間で嫌悪されている能力だ。くわえてその術を使う少年は、意地が悪いことで有名だった。
 よって、面接どころか招待のチラシさえ回ってこなかったのだ。自業自得なんやけど。

 昔のボクは「集団行動なんか知らん。嫌いたいなら嫌ってください。ボクもお前らのこと嫌いなんで」と一匹狼を気取っていた。その名残か、今も多少、人付き合いの面で苦労している。
 前と違うことは、そんな自分を認められなくなったことだ。このまま進んでいったら、ろくな大人にならへんなと急に実感した。遅すぎやろ。
 ということで心機一転、自分にも他人にも優しい術使いとして更生するため、講師という形で再スタートを切ったのだ。

 それなのに、まさかこんなことになるとは。
 ボクはぷっくりと腫れあがった額のタンコブを手でさすり、大声で怒鳴る。

「~~ッ。お前が身長低いのにダンクシュートしようとするからやアホ! あんなん、勢い余って倒れるにきまっとるやん。見てコレ。こんなに赤なって! ゴツン言うたで。ゴツンて」

「いや、ゴツンじゃなくて、ゴッッッッでしょ」
「余計あかんやんけ! ほんまええ加減にせえよ。普通の18歳はな、模擬戦100本終わった後に質問攻めに合うたら瀕死になんのや。なのにお前は気にせんとウッキウキでバスケを勧めた。狂ってるでほんま。もう辞めたろか。教えるの、もう辞めたろか!!」
 
「うわガチギレかよ。こわ」
「ちょっとは反省しろやこのクソガキッッ! マジで辞めたるからな! 辞表出すでほんまに!」
「うわ、ごめんって、ごめんなさい! 腕を振りあげないで怖いっ。175㎝に見下ろされんのマジで怖いから。悪かったからああああ」

 彼―飛燕は霊能力者全体を取り締まってきた御三家の人間だ。年齢差や経験値の違いはあれど、実力はボクと変わらない。ほぼ互角だ。小柄な体格の彼から繰り出される技の威力はすさまじく、また動体視力や危機察知能力の数値も極めて高い。


『うちの息子を宜しくお願いする』と番家の親父さん―当主さんに頭を下げられたときはめっちゃくちゃビビった。

 指導係を担当することになったボクは、先月飛燕の家に挨拶に行った。飛燕のお父さんは柿色の着物を身にまとった大柄な男性だった。眉がシュッとしてて、凛々しくて、厳格そうな性格の。
 軽口とか叩いてもいいんですかねとおずおずと尋ねたボクに、親父さんは言った。

『お前の執拗さを見込んで頼んでいるのだ。バシバシ鍛えてやってくれ』
 うわんボクの悪評、御三家にまで届いてますやん。喜んでいいのコレ。ダメだよね。
 が、頑張ろ。良い噂を立ててもらえるように頑張ろ。
 
「はぁー。それで、教えた情報はアレでええの?」
 ボクはタオルをリュックの中にしまうと、うーんと両手を伸ばす。
「ああ、あの禍の神の話ですか」と飛燕は顎に手を当てると、「OKっす。十分すぎます」とニカッと笑った。

「てかヒエ、どこから禍津日神の話を知ったん? 普通に調べても、そんなの出てこんやろ。禍の神の文献を読んでも、それが兄の死に関わってるなんて誰が知るん。それこそボクみたいに当事者から聞かんことには何もわからんで」

 桃根ちゃんの過去話から始まった、霊能力者失踪事件。なんだか、どんどん深い話になって来たな。桃根ちゃんとユイくんが死んで、 二人を狙って悪い神様が暴れて。それを止めようと、道開きの神様と契約してた番家の長男が命かけて。いい神様は人間の霊魂と合体して。そんで今、女の子の方はボクのすぐそばにいる……。うわ頭痛なってきた。

「あー。言ってませんでしたっけ。そうっすね、さっきの模擬戦も受け身の練習でしたもんね」
 ヒエは首の後ろを手で掻きながら、ぼそぼそと続けた。

「番家の子供はそれぞれ、皆使う能力の系統が違うんです。兄ちゃんは〈憑依系〉。妹はセンパイと同じ〈操術系〉。俺は〈使役系〉を使います」

 使役系術士は、あやかしや霊と契約を結び、友に戦闘する能力者だ。一度交わした契約は術士が死ぬまで消えない。使役する怪異とは常に従属関係を持つ。使役対象は犬や猫、狐などの低級霊から、高位の妖怪まで多岐にわたる。

「へえ。使役系か。どんな怪異と契約しとるん? そうやなあ、ボクがこれまで会うてきた人は、猫・猫・猫・猫……あかん猫ばっかりや」
「一番付き合いの長いのは雲外鏡のじいちゃんっすね」
「う、うんがいきょう!?」

 雲外鏡は、未来を予知できる鏡の妖怪だ。付喪神つくもがみと同じで、鏡に取りついた霊がそのまま雲外鏡になったとされている。
 ボクが驚いた理由。雲外鏡は妖怪カースト上位に君臨する高貴な妖怪だからだ。いくら御三家の次男といえど、そう簡単に契約できる相手ではない。

「はい、そうです。3歳の時―まだ術のコントロールもできなかった時期に、誤って契約してしまいまして。彼に頼んで、予知をしてもらいました。だいぶ老いぼれてるんで、1日1予知しかできないんすけどね。あはは」

 いやいや、「あはは」で終わらせんといてくれます? ツッコミが追い付かんから。
 誤って契約した……? 3歳で? ボクだって術の発現は小学校入ってからだったのに?
 正鷹さんといい飛燕といい、御三家ってやっぱエリートなんやな。

 じ、自分なんかが気軽に教えてええんかなあ……? 心配になってきたわ。
 あー、やば。頭がさらに痛くなってきた。あとでコンビニ行って頭痛薬を買おう。

 


 

 


 
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【15話更新しました!】 ( No.62 )
日時: 2023/10/11 08:01
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 〈コマリの登校日の翌日、美祢side〉

 ヴ―ッヴ―ッというスマホのアラーム音で目が覚めた。
 携帯の画面を開く。ホーム画面には、〈6:30〉の文字。朝だ。
 俺はまぶたをこすりながら、もぞもぞと布団から這い上がった。

「ふわぁぁぁ」
とあくびをかます。
 
 高校を中退し、バイトも習い事もしていない俺。日中にやることといえば、家事や読書やゲーム。たまに外出もするが、モールに行って貯めていた小遣いを崩して服を買う程度。
 しかし今日は珍しく朝に用事があった。外出の用事だ。早めに朝食を作り置きしなければ。

 俺は自分の布団・シーツ・枕をまとめて腕に抱え、奥にある脱衣所にそれらを運ぼうとし。
 ふと足を止めた。

 左横の布団で、同居人であるコマリが寝ている。すうすうと穏やかな寝息を立てていた。本来ならばもう起きる時間だけど、残念ながら俺は優しい人間ではない。

 夢でも見ているのか、時々「うみゃぁ、おかーさん、お団子そんなに食べるとパンダになるよお」と訳の分からない呟きが耳に飛び込んでくる。なぜ団子を食べるとパンダになるのか全く分からない。生地の中に特殊な薬が混合されているんだろうか。怖いな。

「……幸せそうな顔しやがって。つーか寝相ヤバすぎだろ」

 コマリは両手をダラーッと上に持ち上げ、股を開くと言った誠におかしな体制をとっている。
 世間一般の女子の寝相がどうなのかは知らないが、流石にこれはダメだ。流石の俺でも擁護できん。こいつは、女子が本来持っている何かをお腹の中に落としてきたのかもしれない。

 脱衣所に向かった俺は、ドラム式洗濯機の中に洗濯物を放り込んだ。そして、外に誰もいないことを確認してから扉を閉め、そそくさと着替えを始める。

 うちのアパートは、ひとつの階に五つの部屋がある。部屋は全て1LⅮK。リビング・ダイニング・キッチンがキュッと、一つの部屋に詰め込まれている。子供部屋などない。当たり前だが脱衣所はワンルームに一つだ。

 すると何が起こるか。注意を怠ると、同居人に着替えを見られる可能性がある。

 しかもアイツの寝起きはひどい。脳が上手く働いていない状態で朝の準備を始める。「いただきます」すら満足に言えず、一昨日は「食うべからず頬張ります」と食べるのか食べないのかどっちなんだよ、という謎の言語を発していた。後にこの言語はコマリ語と名付けられる。

『トキ兄ー? トキ兄はお醤油、ご飯にふりかけたほうが好きだっけ』
『ふりかけは30回降ってから箸でまぜるとおいしいよ』
『今日の7時間目は放課後だよー』

 なので時常美祢は毎朝、同居人が起きるまでの約三十分の間に準備をすます。
 なんで忙しい朝にタイムアタックしないといけないんだよ。

 脱衣所の床に設置している籠の中からTシャツとズボンを出して大急ぎで着替え、寝間着は洗濯機へin。洗剤を入れて、洗濯機のスイッチオン。そのあとすぐに台所へ向かい、冷蔵庫の中から冷凍ご飯と味噌玉(みそ汁の具をラップで丸めたもの)を取り出す。ご飯は電子レンジであっためてから茶碗に盛る。味噌汁も同様。ふりかけをかけて納豆を添えてお盆にのせて。

 ここまでに使った時間はおよそ十五分。はぁ、はぁ。今日も何とかなった。
 後はメモ帳に出かける趣旨を書いて、机の上に置いとけばいかな。

「ふわああ、あ、おはようございまふ美祢さん」

 声のしたほうを見やると、同居人ナンバー2である浮遊霊の少女・桃根こいとが宙に浮いていた。 
 抱き枕として使っているのだろうか。大きなクマの人形をもっている。服装は桃色の可愛らしいルームウェア。頭にはナイトキャップ。トレードマークである二つ結びの髪は降ろされて、肩口に垂れている。

「おはよ。お前、いつもどこで寝てるの? てか、いつ入ってきた」
「ふふーん。美祢さん、幽霊に扉を開けるという概念はありませんよ。壁も窓も床も、するするーってすり抜けるんですから。……私こいとちゃん、今あなたの後ろにいるの……」

 怖い顔で凄んで来たところ悪いけど、早朝なので全く怖く感じないぞ。

「驚かすんだったら服装から整えるんだな」
「ちぇっ。少しは乗ってくださいよお」

 こいとは最近、アパートに来なくなった。来るとしても一週間に一、二回といったペースだ。話し相手がいなくなったコマリは毎日のように俺に彼女の居場所を尋ねてくるが、こちらも何も知らされていない。だから答えられない。

 こいとはブスッとむくれながらも、素直に質問に答えてくれた。
「どこで寝てるか? 知り合いのところです。仲いい人がいて、その人に身の回りのお世話をしてもらってるんですよ。ご飯作ってもらったり、寝る場所与えてもらったりね」

「そいつ、男?」

 なんとなく気になって聞くと、幽霊の女の子は「だったらなんだって言うんですか」と不服そうにくちびるを尖らせる。
 肯定した。へえ、コイツ男と一緒に寝てるんだ、と内心驚く。

 そうだ。この調子で更に情報を引き出してみるか。
 隠し事されるの嫌いだし。経験上こういうのを放っておくとろくな目に合わない。アパートに来れない理由を教えてもらえれば、コマリも安心するだろうし。
 幸い出かけるまでの時間も、たっぷりある。

 俺は寝癖でくしゃくしゃになった髪を手櫛でとかしながら、冷静に聞こえるように出来るだけ意識して口火を切った。
 
 
「つまり年上か。年の近い子―例えば前に言っていた幽霊友達なら、知り合いではなく『あの子』とか『友達』って言葉を使うのが普通だ。それなのにお前は敢えて『知り合い』といった」

「なっ」

 こいとは、痛いところを突かれたような顔になり、口元を手で覆った。
 なるほど図星か。俺の推理は的外れじゃなかったってことだな。よしよし。
 さて、年上の男で幽霊友達じゃないとすると、人物はかなり絞られてくる。

「ここで仮説その一。つまりお前と相手の心の距離はあまり近くない。だが、知り合いと呼ぶくらいなら何かしら接点がある人物だ」
「……」

「仮説その二。そいつは俺とコマリがよく知っている人物だ。なぜか。こいと、お前は俺らに行き先を公表していない。『知り合いの○○さん』と伝えることもできるのに、それをしなかった。つまり名前を明かす行為はお前にとってハードルが高いということ。俺らに『なぜアイツとつるむのか』と問い詰められるのが怖いから」

 俺が左手の指を一本ずつ立てる度、こいとの表情は暗く沈んでいく。

「仮説その三。相手は霊感がある人物。浮遊霊に飯をやったり家の場所を教えたりできる人間は、霊が視えなきゃいけない。そして、この三つの情報を照らし合わせると、条件の合うやつは一人しかいない」

 初対面で俺とコマリに術をかけ、疑似恋愛をさせて反応を楽しんでいた薄汚い人間。
 プライドが高くて気取ってて、飄々としていて、つかみどころがない猫みたいな人間。
 昔から顔を突き合わせるたびに喧嘩ばっかりしていた人間。
 才能があって傲慢で、俺がずっと憧れていた大っ嫌いな人間。

 なんでお前、あんなやつと協力してるんだ。
 なんで今まで黙ってたんだ。
 お前らは俺たちに隠れて、何をやろうとしてる?


「お前の協力者は宇月だ。お前は幽霊友達に会いに行くって嘘ついて、隠れて宇月と会っていた」
 こいとは反論しなかった。ただ忌々し気に俺を見上げ、軽くうなずいた。

「いずればれるだろうなとは思ってたけど、まさかあなたに暴かれるとはね」
 幽霊の少女は、悲しいような嬉しいような、複雑な顔で笑ったのだった。

(次回に続く!)
 
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【15話更新しました!】 ( No.63 )
日時: 2023/10/25 20:18
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 
 〈翌日、美祢side〉

「どういうことだよお前!」
 郊外にあるビルの一階、受付の前で俺は声を荒げた。
「全部聞いたぞ! 隠そうとしても遅いからな!」

 視線の先には、「は?」と目を白黒させている宇月がいる。彼の今日の服装は無地のTシャツに長ズボン。いつも長い白衣を着ているので、ラフな格好は珍しい。
 
 何事かと目を見張るカウンターのお姉さんに頭を下げた宇月は、「あんなあ」と眉を寄せた。
「何に対して怒っとるんか知らんけど、まあ落ち着きぃや。ここロビーやぞ。あと、これから面接やぞ!?」

 ----------------------
 
 俺が今いる場所は、霊能力者の教育機関である〈ACE〉の事務所だ。
 こちらの建物、表向きは廃ビルとなっている。外にある看板に〈旧黒女市ダンススクール〉とあるが、これはカムフラージュ用だ。ビルの周りには強力な結界が張られている。
 能力を持たない民間人の立ち入りを防止しているらしい。

 何故俺がこんなところにいるのかというと。
 先日、いとこである宇月に言われたのだ。「好待遇のバイトがあるんやけど、やらん?」って。

 時給10000円~。半日勤務可能、シフト要相談。昼食つき。
 仕事はちょっとキツイが、優しい人が多く、働くには絶好の場所とのこと。

 16歳、高校中退。アパート生活。親の経営するアパートなので家賃はタダ、光熱費や水道代は親からの仕送り。同居人は中学生女子(+幽霊)。
 
 俺は部屋主として、同居人たちの食費と生活費を自力で稼がなければならない。
 バイトの文字が脳裏をチラつくことは、今までに何回かあった。
 頼れる大人はいない(一人いるがウザくて無理)。家族に幽霊が、逆憑きがなんて言ったら頭の病気を疑われる(一人だけ信じてくれる奴がいるがウザくて……以下略)。

 バイトしなきゃなあと思いながらも、なかなか実行に移せないでいたのだ。
 実は、俺はバイト未経験者ではない。高1の初め、一か月だけ本屋のバイトをしていた。しかし、先輩—バイトリーダーと気が合わず、直ぐに辞めてしまった。

 『好待遇のバイトには絶対裏がある。前バイトしてたとこも同じやり口だった。フラットな職場って書いてあったのに、陰で社員のいじめが起こってたから』
 『大丈夫やって。ボクが勤めてるとこやし。知人紹介で色んな特典もつくから』

  特典という特別感あふれる単語に軽く流されそうになる。
  って、お前が働いているところかよ!? やっぱり裏があるじゃねえか。

  俺はスマホを耳から離し、通話終了ボタンを押そうとして。
  画面の向こうから聞こえてきた声に、手を止めた。
 
 『宇月だから嫌いとか、宇月だからウザいとか。いい加減哀しくなるわ。……まあ、それだけボクが人様に迷惑かけたってことなんやけどさ』

 微かだが、すすり泣きのような音も混じっている。
 俺のいとこは演技が上手いが、演技にしては声量が小さいような気がした。何かを演じるとき、人は無意識に声を張り上げ、大げさな態度をとる。しかし彼の言葉は一貫して同じトーン。

 『なあ美祢。少しだけで良いから、手伝いに来らん? 報酬はずむで。 コマリちゃんのボディーガードすんの、大変やろ。受け身とか、簡単な護身術くらいなら、ボクも教えられるから――』
 宇月はスウッと息を吐き、さっきよりも強い口調で言う。

『償わせてほしいんや。今までやってきたこと謝る。お前に言うたこと全部撤回する。やから、ボクのこと苦手でええから、せめて嫌わんどってくれへん?』

 俺は、思わず口をぽっかり開けてしまった。あまりにも突飛な発言だったから。
 何だお前。苦手以上嫌い未満? なんだそりゃ。

 だってお前は昔から、事あるごとに誰かを見下してた。人の失態をネタにして、自分の失態は隠して。上手く立ち回って、巧みな言葉で人をだまして、味方につけて。
 夜芽宇月はそうやって生きてきたんだろ? 全部自分で決めたんだろ? なんでそんな、泣きそうな声を出すんだよ。なんで被害者気取りなんだよ。

 ……そこまで考えて、ハッとする。
 もしかしたら、俺が宇月の首を絞めていたんじゃないか? 
 宇月は変わろうとしていた。変わりたいと願っていた。なのに、俺が「嫌い」とか「無理」とか言ったから。突き離してしまったから、彼は勘違いしたのではないだろうか。
 
 ――自分は、嫌われて当然の人間なんだって。
 ――変わる権利すらないんだって。

 会うたびに指をさされる。考えを否定される。本当のことを話したのに嘘つき扱いされる。
 俺はこれまで、宇月の話を真剣に聞いたことがあっただろうか。
 彼に笑い返したことがあっただろうか。

『しゃーない。嫌なもんを無理やり押し付けるのはあかんしな。んじゃ切るわ。おやす――』
『面接の時間と日程は?』

 いとこのセリフに被せて俺は言った。
 何をするにしても、まずは自分から動かないと。
 稼ぐ稼がないは置いといて、とりあえず、見学だけ行ってみよう。そこで職場の雰囲気や、作業環境を確認しよう。


 そう思ってたのに。


 ----------------------

「なんで言ってくれなかったんだよ!」

 人目を避けるべく。俺は宇月と一緒に一旦建物を出、裏へと回った。
 ビルの裏にある駐輪場のトタンの壁に、いとこの身体を思いっきり押し付ける。ガシャンッと大きな音が響いた。

「なんでこいとのこと、俺に教えてくれなかったんだよ! なんでもかんでも、一人で決めようとすんなよっ、馬鹿野郎!」

 俺は今朝、こいとに持っている情報を一つ残らず吐露してもらった。なぜ彼女がコマリに近づいたのか、なぜ神様の力を持っているのか、過去に何があったのか、なぜ宇月と協力しているのか。

 こいとは最初淡々とした口調で話していたけど、当時のことを思い出したのか急にしゃっくり上げ、話が終わる頃には赤い顔で洟をすすっていた。
 俺はその後、「助けたかっただけなんですぅぅぅぅぅ」「叱らないで……怒らないで……」と頭を下げる幽霊の少女の身体を、そっと抱きしめた。冷たかった。体温がないから、冷たかったよ。

「俺がお前を嫌いな理由、教えてやろうか。めんどくせーからだよ!」
 俺は、宇月の両腕を掴む手のひらにグッと力を籠める。宇月は「ぐえッ」と呻いた。

「本当は構ってもらいたいくせに、ひとりになろうとする! 痛いときに痛いって言えない! 寂しいときに寂しいって言えない! だから自分をひたすらに強く見せようとする。平気で噓をつく。平気で愛想笑いする。全然平気じゃないのに、平気なふりをする。孤独と不安が自分を強くさせると勘違いしてる。そういうところだよ! そういうところが嫌いだ!」

「うっさいわ!」
 突然、宇月が叫んだ。俺の拘束を振り払い、思いっきり右足を振り上げる。
 厚底ブーツのスパイクが、俺の腹にめりこんだ。

「ボクのこと見んかったくせに! ボクのこと嫌いだったくせに! お前に何がわかるん、お前が何を知るん。頭悪い性格悪い能力汚い。そんなん、自分をだまして生きるしかないやろ! 成績優秀・真面目・素直なお前に何がわかるん! なあ!」


 (次回に続く!)
 
 

 



Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【最新話更新しました!】 ( No.64 )
日時: 2023/12/05 09:22
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 Q.なんでそんなに更新が遅いのですか?
 A.別サイトの小説執筆と掛け持ちしているからです。スミマセン。

 Q.美祢と宇月はよく喧嘩しますが、喧嘩ップルなんですか?
 A.喧嘩ップルですね。お互いツンデレのツンが強く意固地ですが、リスペクトしあっています。
 ただ、『大好きだよ』と言うのが恥ずかしいだけなんです。デレる方法を知らないんです。

 ----------------------

 〈宇月side〉

 ボクは、自分のことが大嫌いだ。小学校の時からずっと嫌いだ。
 普通に会話をしているつもりでも、気づけば誰かを泣かせていて。謝ろうとしたら、また深く抉ってしまって。呆れられて、怖がられて、見放されて。ごめんなさい、を許してもらえなくて。

 家に帰ったら怪異払いの仕事。
 人と怪異の心を操り、主導権を奪い、一匹また一匹と倒していく。無心で祓う。ちょっと笑う。
 無理やり、笑顔を張り付ける。アンタは街の平和を守るカッコいいヒーローなのだと、自分に言い聞かせる。だから笑え、泣くな。
 
 『お前はもう、何もしゃべるな』と、父ちゃんに言われたことがあった。
 『そんな子に産んだつもりはない』と母ちゃんに言われたことがあった。

 中学生くらいから、家族内でも評判が下がっていった。
 明るかった母親は、一緒に食事を取らなくなった。父親は、あからさまにボクを拒絶した。
 両親とは元からあまり話さなかったが、流石にこれは堪えた。

 そして、思ったのだ。遠いところに行きたい。この場所から逃げ出したい。
 ボクなんか、いないほうがいいやろって。
 その一心で、家を抜け出した。高校も大学も、寮つきの学校を選んだ。やけくそだった。大学在学中に、家族からメールが送られてきたが全部未読無視した。内容を見るのが怖かった。

 『ばぁちゃぁぁぁぁぁぁん!!!』
 小学校の時、クラスの女の子が転校した。夜芽宇月の揶揄いに耐え切れんくなって。
 彼女が転校することを知った日の夜、ボクは逃げるように家に帰って、キッチンで洗い物をしていた祖母の腰にしがみついた。

 『ばあちゃん、そのハサミ、ボクに貸してぇや! なあ!』
 ばあちゃんは、キッチンバサミで昆布を切っていた。味噌汁の出汁の準備中で。
 『どしたん宇月。えらい慌てて』
 目を丸くする祖母に、ボクは何の説明もなしに、こう叫んでしまった。
 『それ使ったら楽になるんやろ!?』って。

 ばあちゃんは更に目を丸くした。
 ボクは彼女に全てを話した。人をいじめてしまったこと。人を悲しませてしまったこと。今回だけではなく、毎日誰かを泣かせていること。改善しようとしているけど、なかなか上手くできないこと。周りと違う自分が大嫌いだということ。

 『もう無理や。ボクもう無理や。悪人になってもうたぁぁぁ! もう全部真っ黒や』
 ばあちゃんは、暫く何も言わなかった。喚く孫の頭を、ゆっくり撫でるだけだった。何かを発しようとして、すぐに口を閉じてしまう。どう返答していいか、困っているようだった。

 何分、経っただろうか。
『アンタは、私の光や』
 しわがれた、聞きなれた声が頭上から降って来た。
 そっと顔を上げる。ばあちゃんはキュッと目を細め、静かに笑う。

『……ちゃう。だってボクはっ、全然っ』
『せやなあ。アンタは小っちゃい頃から問題児やったからなあ』

 家のコンセントは勝手に抜くし。野良猫は手で追い払うし。母親と父親にアッカンべして、良く怒られとったな。いとこの美祢にも、ちょっかいかけとったやろ。今もか。先生にもしょっちゅう呼び出されとったし、成績表のコメントも毎回悪い文章ばっかやったな。

『――気にしてもらいたかったんやろ』
 不意に、ばあちゃんが言った。丸眼鏡の奥の瞳を光らせながら、ゆっくりと告げる。
『注意を引いたら、みんな寄ってくるからな。寂しさが紛れてええよなあ』

 寂しいと思うことは、ダサいと思っていた。悲しいと泣くことは、ダメだと思っていた。
 これまで沢山人に迷惑をかけてきた。自分より、相手が泣いた数の方が圧倒的に多い。
 だから、ボクが弱音を吐くのは違う気がした。言う権利なんて、ない気がしたんや。

『………せきにん、とらんといけん、気がして』
 つっかえながら、ボクは説明する。ばあちゃんの前でだけ、素直になれた。
『人を泣かせたやつが、シクシク泣いとったら、感じ悪いやろ? 「悪かった、友達になろう」って言っても怖がられるやろ。……笑ったら、裏があるってなるやろ。泣いたら、演技やってなるやろ。やから、ずーっと、悪い奴でおった方がええんじゃないかって、その。でも、寂しくて、その』

 
 誰にも言えなかった。演技って思わんどいてって、言えんかった。
 コロコロ表情を変えてしまうのは、迷っているからだって、言えなかった。
 
『宇月。大丈夫。周りの子は、アンタのことなんてこれっぽちも考えてない』
 言いたいことは分かるけど、それはそれで悲しいな。
 ボクはススンと洟をすすって、「ぼっちやな」と少し強い口調で返した。
 
 ばあちゃんは「せやな。みーんな、ひとりぼっちや」とカラカラ笑う。
『やから、もしアンタのことを知りたいって人が現れたら。それは自分が愛されてる証拠なんや』

 宇月は、悪い子やと私も思うで。愛してくれた人の気持ちを、踏みにじっとんのやからな。
 素直になったらあかんとか、泣いたらあかんとか、思わんでええから。人様泣かした分以上の幸せを、見つけなさい。

 これは、二人だけの約束。つらいときは思い出してな。
 
  ----------------------
 
 「――痛ってえなぁ!」
  蹴られた腹をさすりながら、美祢が起き上がった。Tシャツの胸元は、泥で茶色くなっている。
  いとこの少年は口に入った砂をぺッと吐き出し、その視線をこちらに向けた。

  そして。
  こちらに近寄り、ボクの体を思いっきり抱きしめた。
  身長はこちらの方が十センチほど高い。必然的に美祢は背伸びをせざるを得なかった。細い足
 が、プルプルと震えている。

 「はっ? なにキモイことやっとるんや! 離れろっ、おいっ」
  必死で腰をよじるけど。あかん、力強い! 
  小・中・高と帰宅部だったくせに! ヒョロヒョロのモヤシ体系のくせに!

 「……俺、お前のことめっちゃ好きだよ」と美祢はボクを見上げる。
 「え? な、なんっ……な、なんっ」
 「尊敬してるよ。昔からずっと。ずっと好きで、嫌いなんだよ」
  顔が赤く染まる。心臓がうるさい。

 「なんやねん! 嫌い嫌い言うてたやろ! ツンデレか?」
 「ツンデレだよ! 好きな奴に意地悪したくなるあれだよ! これで分かったか! 俺はお前のことずー―――っと見てんだよ! お前は俺の光だからな」

  美祢は一呼吸ついて、話を続けた。
  嫌いって言ってたのは、置いておかれそうで怖かったからだよ。お前が憧れだったんだよ。
  いつも自信たっぷりで。頭の回転が速くて。自分の力で何かを救うことが出来て。
  中途半端で、人の機嫌を取ってばかりの俺とは違う。お前の自慢話が嫌いだったよ。
 
  年を重ねるごとに、相手の考えていることが薄っすら分かるようになってきてさ。
  お前の行動から、打算的に生きていることが読み取れて。自分を嫌っていることが分かって。
  すっごくムカついたんだ。俺の期待を返せよって。期待させたくせに何なんだよ。

  腹に一物抱えたまま笑うお前が嫌いだった。
  自分が信用されていないことが嫌だった。
 
 「今までごめん。嫌いって言ってごめん。相談相手になれなくてごめん。でも、見てるよ、ちゃんと。だからお前もちゃんと見ろよ。こっちを見ろよ! 昔みたいに、肩並べて話そう! 俺も素直になるから、だから信じてくれ!」

 
  ――気にしてもらいたかったんやろ。 
  ばあちゃんの言葉を思い出す。

  そうやけど、そうやったけど!
  ボクはもう成人済みなわけで。いとこ同士とはいえ、ボディタッチは恥ずかしいわけで。しかも
 ここ、職場の裏やしっ。

  あぁぁぁ、もう。なんやねんお前。毎回毎回。
  そういうところ、ほんまに。ほんまに。


  大っ嫌いや。


 「……好きって言えなくて、ごめん」
 「許す」美祢はフフッと笑った。


 「……寂しいときに、寂しいって言えなくて、ごめん。泣きたいときに、泣きたいって言えなくてごめん。しんどいって言えなくて、ごめん。助けてって言えなくてごめん。笑ってごめん。嘘ついて、ごめん。今までずっと、相談でできなくて、ごめん」

  両目から、熱い水滴が零れ落ちた。それは顎を伝い、床にしみ込んでいく。
  言ってしまったら、もう止めることはできなくて。

  ボクは美祢の背中に両手を回す。子供体温やなあ。あったか。
 「ごめんって言えなくてごめんな。ありがとうって言えなくて、ごめんな」
  



 (次回に続く!)
  
  

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【最新話更新しました!】 ( No.65 )
日時: 2023/11/13 20:04
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

【閲覧数2100突破記念★特別編】

 こんにちは、こんばんは。作者のむうです。
 次回の更新は一月ですと言っていたのですが、私実は現在メンタル絶不調で療養してまして。
 その一つに手の震え……って言うのがあるんですよね。
 なので、長いお話を書けなくて。
 リハビリで少しずつ、短い文章から書いていきたいなと思っています。

 今回の特別編は、台本形式になります。
 地の文じゃなくてごめんなさい。
 二次創作版の『ろくきせ』を知っている方は、馴染みのある書き方かな。
 よって、本編は一旦置いといて、特別編を書きます。
 ご了承くださいませ。それでは行ってみましょう。

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 〈特別編★○○しないと出られない部屋〉

 美祢「作者に『この部屋でステイしといて』って言われたんだが」
 コマリ「しかも私とトキ兄だけ。こいとちゃんや宇月さんはいないし……」

 ~トキマリペア in白い部屋~

 美祢「だだっ広い部屋だな。ドアは正面に一つだけか。出られたりするのかな」
 コマリ「わ、私見てくるっ(ドアの近くへ駆け寄って)」

 コマリ「(カチャカチャ)ダメだ、鍵がかかってる」
 美祢「つまり、閉じ込められたってことか!?」
 コマリ「そうみたい。でもなんで、むうちゃんがそんなことを?」

 美祢「分からねえ。分からねえが作者は、いつも妙な行動をとる。キャラの仲を勝手に引き裂いたり、カップルを爆誕させたり、敵キャラを乱入させたり、やけに複雑な設定作ったり」
 コマリ「納得」
 美祢「つまり今回も作者のおふざけによるものと見られる。……ったく」

 コマリ「おふざけって言っても、どうすればいいんだろう。ど、ドア蹴ってみる?」
 美祢「やめとけコマリ。お前の足が折れる」
 コマリ「でも、だって……」

 ~コマリ、くるりと部屋を見回して~

 コマリ「? トキ兄、壁に張り紙がしてあるよっ」
 美祢「ん? ほんとだ。なになに」


 【○○しないと出られない部屋】

 コマリ・美祢「○○しないと出られない部屋ぁ??」
 コマリ「えーっと。『アナウンスが流れるので、それに従ってお題をクリアしてください。全問クリアできれば、ドアが開きます。せいぜい頑張ってください』だって」
 美祢「はぁ!?」

 コマリ「あ、最後の行に『むうより』って書いてある。ご丁寧に似顔絵まで」
 美祢「あいつ、いったい何を考えてるんだ? お題ってなんだよ」
 コマリ「し、知らないよ私に聞かれてもっ」

 ~ピロン(アナウンス)~
[お題其の1。手をつながないと出られない部屋]


 美祢「は? 手?」
 アナウンス「制限時間―二分以内に手をつないでください。クリアすれば、部屋の鍵を差し上げます。さあ早くいちゃつきなさい。タイマーぽち」

 コマリ「ちょっ。やばい、タイマーの音してる。始まってるよ!」
 美祢「いちゃつくって……。(チラリとコマリを見る)」

 コマリ「ま、まあ手をつなぐくらいは何とかできそうだよねっ。はいっ(右手を差し出す)」
 美祢「お、おいコマリ!?」
 コマリ「やだなー、トキ兄。いくら私でも手くらい洗ってるよ」
 美祢「いや、そういうことじゃなくて」

 コマリ「トキ兄、早くしないとクリアできないよ。さっさと終わらせて帰ろうよ」
 美祢「(うぉおおおお、こいつマジか? なんで平気そうなんだよ! 天然なのか!?)」
 コマリ「とーきーにーいー(不満そうに口を尖らす)」
 美祢「だぁああああ、もう! ……ん」

 ~美祢、コマリの右手を取り、指を絡ませる~

 美祢「あったかいな、お前の手(ぬぉおおおお、何話せばいいんだ。だ、大丈夫だよな? 気持ち悪いって思われてないよな? 怖えええええええ!!)」
 コマリ「う、うん。杏里からもよく言われる(う、なんか恥ずかしくなってきた。手つないだことは今までに何度かあるけど、いざやるってなったらちょっと……)」

 アナウンス「ブッブー。誰が普通に手をつなげって言いましたか?」
 美祢「――――――は?」
 アナウンス「こういうのは恋人つなぎがセオリーでしょう」

 美祢「知らねえよ。 なんだよそれ!」
 アナウンス「最近はシリアス展開多めでラブを書けていなかった。そもそも私が恋愛経験が乏しいから中々筆が進まなかった。でも今なら書ける気がするんだ。シチュエーションに頼れば書ける気がするんだ!」
 美祢「すっげえ嬉々として喋るなコイツ。うぜえ」
 コマリ「トキ兄が心の底から呆れてる……」

 アナウンス「無駄口をたたいていいのかい?、あと30秒だぜ?」
 コマリ・美祢「!!」
 コマリ「ど、どうしようトキ兄っ」

 美祢「(なんで俺らが作者の嗜好に付き合わねえといけねえんだよ! あああ、このままじっとする訳にもいかねえし、時間は過ぎるし。緊張で汗ヤバいしっ!)」
 アナウンス「あと20秒。ほらほらー、早くうー」
 コマリ「トキ兄、急がないと閉じ込められちゃ………わっ」

 ~キュッ~

 コマリ「…………え、その、トキ兄?(ゆっくりと美祢を見る)ぐむっ」
 美祢「こっち見んな馬鹿(コマリの顔を右手で覆って)」
 コマリ「ちょ、ちょっと! やめてよ前見えな」

 ~コマリはそこで言葉を切る。美祢の顔がリンゴのように赤い~

 コマリ「(耳まで真っ赤だ。手をつなぐだけなのに。そういやボディタッチ苦手だったっけ)」
 美祢「~~~~っ。お、おいこれでいいかっ?(天井を見上げ)」

 アナウンス「尊、じゃなかった。おめでとう!レベル1クリアです!」
 コマリ「今何か言いかけてなかった?」
 アナウンス「作者っていいなって思ったら、本音が」
 美祢「お前にはオブラートに包むって概念がないのか?」

 アナウンス「ということで、部屋の鍵を開けましょう!」
 コマリ「やった! どっかから鍵が出てくるのかな? (きょろきょろ)」

 ~ウィ――――ン。(ドアが横にスライドされる)~

 コマリ「あ、あれ、自動で開いた。ど、ドアノブついてるのに横に滑った」
 アナウンス「あ、これオートロックなのよ」
 美祢「じゃあなんでドアノブついてんだよ……」
 アナウンス「設計ミs、じゃなかった。カムフラージュ用。 密室じゃなきゃ意味がないからね。決して業者がアホで組み立てミスったって話じゃないの!」

 美祢「おーおーおー、全部言っていくな。そんな奴に委託するなよ」
 アナウンス「ところで君らはいつまでお手手をつないでいるのかい?」

 美祢「えっ? っっ!!(バッと手を放し、目をそらす)」
 コマリ「あはは、トキ兄挙動不審すぎー」
 美祢「……うるせー! とっとと次行くぞっ。早く帰ってイベランしたい。昨日徹夜でチーム編成してたんだよこんなことに時間取られてたまるか」

 アナウンス「ゲーム何やってんの」
 美祢「フォ〇ナ!!」

 ~美祢、逃げるように部屋の外へ~

 コマリ「むうちゃん、さては書くの楽しくなってきてない? 昔の書き方が書きやすすぎてニヤニヤしてるでしょ」
 アナウンス「なぜバレたs、じゃなかった。さあコマリちゃん、君も美祢の跡を追いなさい。私はトキマリのイチャイチャを見れてテンション爆上がりしたから」

 コマリ「全てを曝け出すね!? わ、わかった。じゃあまた後でねっ(タタタッ。扉の奥へ)」
 アナウンス「ふっ。てえてえな!」
 コマリ「何も隠し通せてないよ!!」


 ※次回に続く!
 
 
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【最新話更新しました!】 ( No.66 )
日時: 2023/12/22 11:47
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 [特別編 第2話]★天敵組★

 猿田彦(体は由比)「どうなってんだよこの部屋っ! 出られないとかおかしいだろォ!」
 禍津日神「なんで我が此奴と一緒にされなければいけぬのだ。甚だしい」

 猿田彦「こっちのセリフだ! はぁ、はぁ。ダメだ、開かない(ドアノブから手を放す)」
 禍津日神「どけ。替わる(猿田彦を後ろに下がらせて)」

 禍津日神「――禍火かび炎玉えんぎょく!」

 ~マガっちの手のひらから、黒い球が発生する~

 禍津日神「これを扉に投擲すれば、何とか脱出できるだろう」
 猿田彦「ぉおおおい待て待て待て待て! 正気か!? 壊れたらどうすんだよ!」
 禍津日神「誰にモノを言っている。我は禍の神だぞ。何が壊れようと此方の知ったことではない」
 猿田彦「ちょっ、待てって!(マガっちの手を掴んで)」

 禍津日神「なんだ貴様。わざわざ戸を開けてやろうとしているのに、無礼な奴だな」
 猿田彦「世の中には、力で解決できねえ問題もあるんだよ! それにお前がそれを投げれば、俺の体も吹っ飛ぶし!」

 禍津日神「……チッ。なら貴様も策を講じろ(術を解いて)」
 猿田彦「はぁ、はぁ。なんだか、反抗期の餓鬼の相手をしてるみてぇだ」
 禍津日神「奴らと一緒にするな。我は万物を創造する神だぞ」
 猿田彦「なら『力を使ったらどうなるか』もちゃんと想像しろよ馬鹿垂れッ」

 禍津日神「というか貴様、未来予知ができるのではなかったか? なのになぜこんなところで右往左往している?」
 猿田彦「熱出て体調崩してんだよ。だから思うように力が出せないんだ。俺が乗っ取り解除したら、由比はお前と二人きりになっちまう。流石にそれは、かわいそすぎるだろう」
 禍津日神「風邪か? ちゃんと薬は飲ませたのだろうな? 安静にさせろ戯けが」

 猿田彦「絶対言わなさそうな言葉が本人の口から出たんだが」
 禍津日神「勘違いするな。我は優しくない。完璧なものを壊すことにやりがい感じるから、ここでくたばって欲しくないだけだ。近い将来、お前ら二人を吸収してやる。本編でな」

 猿田彦「はあ。一瞬でも期待した俺の純情を返せよ。とりあえず風邪薬を飲ませたけど、まだあまり効いてねえな。頭が痛え」
 禍津日神「数が足りぬのではないか? いっそ全部ぶち込んだ方が」
 猿田彦「お前に『優しさ』という感情がないことは、よーくわかった」
 
 
 ~ピーンポーンパーンポーン~

 アナウンス「やあやあやあやあ。お久しぶりだね二人とも」
 猿田彦「なんだこの声。って、むうじゃねえか!」
 アナウンス「だ、誰そいつ。知らないですよ」

 禍津日神「カキコ作家・むうを知らないだと? ならば我が教えてやる」
 アナウンス・猿田彦「へ?」
 禍津日神「むうは17歳、通信高校に通う学生だ。学業と並行して執筆活動を行っている。性格は陰気で思慮深く繊細。これらを三十秒以内にしっかり脳に叩き込め」

 アナウンス「短ッ。ていうかマガっち何? あなた、むうのガチ勢かなんか?」
 禍津日神「我はむうの創作物だ。ガチ勢ではない」
 猿田彦「間違っちゃいねえけど、いいのそれで!? っうぉ、頭が……痛っ、うわっ(ふらっ)」

 禍津日神「何やってるんだ貴様は――」
 由比「ゴホッ。ゴホゴホッ。ちょっと猿ちゃん、また僕の体乗っ取って、ゴホ」 
 アナウンス「おっとここで、猿田彦選手、由比選手と交代か―――っ」
 禍津日神「実況アナウンスをウキウキルンルンでやるな! 状況を簡潔に説明しろ!」


 由比「えーっと、ここどこ。何この部屋。ってか、あなたは誰」
 禍津日神「禍津日神だ」
 由比「ッ!? (バッと身を引いて)な、何が目的ですか」

 禍津日神「我に聞くな。答えは放送者に聞け。此方も突然閉じ込められて、意味が分からぬのだ」
 由比「アナウンス?」

 アナウンス「由比くんこんばんは。本日の司会進行を務める天の声です」
 由比「えっと。むうちゃん、だよね? ひ、久しぶり。ゴホッ。ごめんね、風邪ひいてて」
 アナウンス「わ、わたしはむうではないって何度も言ってるじゃないですか」

 禍津日神「何故だ。その聞き取りにくい音量と声質。むう以外の何者でもない」
 アナウンス「ひどくない?」
 由比「ま、まあ。アレだよ、設定だよ。ここは乗ってあげよう(コソッとマガっちに耳打ち)」
 禍津日神「……仕方ない。このまま話が進まないのも癪だ(コソコソ)」

 アナウンス「あ、じゃあ天の声ってことで。あのですね、今企画で特別編をしてましてね」
 禍津日神「今企画って云ったぞ。やはり貴様」
 由比「も、もしかしたらどっかの会社の社員さんかもしれないよ! 企画会議とかあるじゃん。き、きっとそれだよ。ねっ(必死のフォロー)」
 アナウンス「そ、そそそ、そうだよー」
 禍津日神「無理がありすぎる気がするが」

 アナウンス「そんで、2人をペアにして、密室に閉じ込めたんですよ。魔法で」
 禍津日神「神が扱う力は魔法ではなく神通力だが」
 アナウンス「細かいことは置いといて(スルー)。なので今、別の部屋でも君たちと同じように、誰かが閉じ込められてるよ」
 
 由比「な、なんでそんなことを? ゴホッ。」
 アナウンス「君たちの連携力を試したくてね。私がお題にクリアすれば、次の部屋の鍵がもらえるしくみになっているよ。順番に部屋を回っていって、どのペアが一番乗りするかっていうゲームなんだ」

 禍津日神「我以外にも参加者がいるのか」
 アナウンス「ちなみにペアは、コマリ×美祢のボディーガード組、宇月×こいとの秘密共有組、飛燕×飛鳥の双子組、そして君たち妖怪組だね」

 由比「そ、そんなに閉じ込めちゃったの? つ、捕まるよっ!?」
 アナウンス「ピュアやね君。大丈夫よ、私作者だもん」
 禍津日神「………今、自白したな。貴様はもう、むうで確T」
 アナウンス「このゲームの作者ってことね!!(必死)」

 アナウンス「ということで、クリア頑張ってください~。私はモニターで各チームの様子を確認します。優勝者には豪華特典があります」
 由比「豪華特典?」

 アナウンス「題して〈視点変更権〉。自分が主役でやる回を、作者に書かせる権利です!!」
 由比・禍津日神「やっぱり君(貴様)はむう(ちゃん)では」
 アナウンス「天の声です!!!」

 next→次回は宇月×こいとペアの様子をお伝えします! 次回もお楽しみに。

 ★そして今回のお話は閲覧数に応じて、優勝ペアを決めようと思っています。
 閲覧数が偶数→美祢ペア、宇月ペアから ランダムに選定
 閲覧数が奇数→双子ペア、妖怪組、全員一斉クリア からランダムに選定
 
 

 
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【最新話更新しました!】 ( No.67 )
日時: 2023/11/18 21:07
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 閲覧数2300感謝! これからも憑きもんをよろしくお願いいたします♪
 ----------------------
 [特別編 第3話]★秘密共有組★

 宇月「あかん、美祢の奴スマホの電源切っとるわ(携帯をポケットにしまう)」
 こいと「困りましたね。これじゃ連絡が取れないです。脱出ゲームってアナウンスの音声は言ってたけど、全然問題出す気配ないし」

 宇月「『ちょっと待って』って言うて、そのまんまやねんな。アイツの話からすると、美祢たちも閉じ込められとるようやから、そっちの相手しとるんかもしれんな」
 こいと「あ、こうも言ってましたよ!『マガっちやばいから対処してくるわ』って」
 宇月「そんな軽い感じで言われても困るんよこっちは」
 こいと「ですよねえ(宙にふわふわ浮きながら)」

 ~しーん~

 宇月「あ、あの、ごめんな。秘密のこと、美祢に話してしもて(静寂に居たたまれなくなり)」
 こいと「え? ああ、全然。いつか暴かれるだろうなとは思ってましたから。平気です。それに、お二人は仲直りできたんでしょ? なら大丈夫ですよ」
 宇月「でも、その。せっかく頼ってくれたんやし。その」

 こいと「……大丈夫ですって(宇月を後ろから抱きしめる)」
 宇月「――ふぁっ!? ちょ、桃根ちゃん……離っ」
 こいと「この恋愛マスターこいとちゃんを言い負かそうなんて、良い性格してますねえ宇月サン」
 宇月「~~~っ、君はほんまに、ほんまにっ」
 こいと「ほんまに、なんですか?(二ヤリ)」

 宇月「は、離せ!!(ググッと力を込めて、こいとを自分の体から引きはがす)」
 こいと「あらら。もーなんですか、柄にもなく照れちゃって」
 宇月「う、う、うっさいわ! あ、あんたはユイくん一筋なんやろ。ぼ、ボクの反応なんかいらん方がええんとちゃう?(白衣についた埃をはらって)」

 こいと「もちろんわたしは由比推しですよ! 宇月サンはアレです、オカズです」
 宇月「オカズて。多大な誤解を生みそうな発言やめぇや」
 こいと「あなたの反応をオカズにして、こいとは日々生き生きと霊生を送ってますよ!」
 宇月「あかーんこの子素直すぎるわ――――っ!」

 アナウンス「ふぅー、ふぅー。お、お待たせしましたああ(ゼエハア)。遅れてすみません!」
 こいと「あ、謎の声さん。さっきぶりです~。なんでそんなに息切れしてるんですか?」
 アナウンス「ま、マガっちが、その、術をね、ぶっ飛ばそうとしてまして。あと数秒遅れれば、扉が木端微塵になるところでした……」


 宇月「マガっち? ってあんた、ラスボスも部屋に閉じ込めとるんか!?」
 アナウンス「由比・猿田彦と一緒に閉じ込めました★ 使えるものは何だって使う、それが俺だ」
 こいと「由比と!? ちょ、ちょっとなにしてくれてるんですかっ、やめてくださいよ!」
 宇月「あーあー、あー、もうどうなっても知らんで……。猿田彦サン、頑張って……(同情)」

 アナウンス「ということでお待たせしました、お題発表に移らせていただきます!」
 こいと「何が来るのかな」
 アナウンス「では発表します、ばばんっ」

[お題其の1。壁ドンしないと出られない部屋]

 宇月「―――は? か、壁ドン?」
 アナウンス「はい。そこの壁でお願いします。男の子が女の子を壁ドンしてください。制限時間は無いですので、心の準備が出来たらしてもらう形で」
 宇月「いや、ちょ、ちょい待って?」

 アナウンス「なんですか? 情報は全部伝えましたよ。悪いですが私、このあと双子たちに同じ説明をしなければいけないので失礼させてもらI」
 宇月「あ、あんた鬼なん??(壁に取り付けられている魚眼レンズに近づいて、小声)」
 アナウンス「は?」

 宇月「やから、鬼なんかって。ボク、恋愛経験ないで? ほんまに言うてるならこのレンズ殴るで?」
 アナウンス「やだなあ。これは序の口ですよ。直接接触しないだけマシじゃないですか。美祢はコマリちゃんと恋人つなぎしてましたからね(小声)」
 宇月「こ、恋人つなぎって……、え、美祢はマジでやったん?」

 アナウンス「ええ。この目でしっかり確認しましたよ。貴方のいとこは、ちゃーんと真面目に女の子とお手手つなぎましたよ(語尾を強めて)」
 宇月「あ、あいつマジか!?」
 アナウンス「何なら見ます? 私のスクショ」

 宇月「――ほんまアンタ……、じゅ、、術使ってやるのはアリなん?」
 アナウンス「何言ってんですか。ナシ寄りのナシですよ。人の心惑わせるなんて最低だよ」
 宇月「あ――――っ、ほんまに作者って良いご身分やなぁぁ!!」

 ~と、後ろからこいとが駆け寄ってくる~

 こいと「どうしたんですか宇月サン。独り言、気持ち悪いですっ(ニコッ)」
 宇月「この子の素直さは時に心をえぐるんやけど」
 こいと「もうお互い隠し事もないですし、素で行きますよ」
 宇月「……やっぱ女の子ってようわからん。はぁ――――――っ(盛大な溜息)」

 宇月「(いや待て落ち着けボク。これはあれや、恋愛ゲームやと思えばいいんや。そうや、今までさんざん女の子を落として来たやろ。ゲームでやけど。やからその時と同じような感じで適当になんだかんだやればええんやっ、落ち着け!)」

 
 ~考えに反して、宇月の鼓動は速まる~

 こいと「宇月サン? どうしたんですか俯いて。 頭でも痛いんですか?」
 宇月「………」
 こいと「あ、わかった。壁ドンとか言われて焦ってるんでしょ~。もー、本当にこういうのよわいですよねえ」
 宇月「……好き放題言うなあ、君も」
 こいと「だってそうでしょ? 貴方は本当は臆病で弱虫っ……ひゃっ」

 ~こいと、宇月に肩を掴まれ、そして~

 宇月「(ドンッと壁にこいとを押し付ける)」
 こいと「あ、あの、ちょっと。え? あ、あの///」
 宇月「よくもまあ、ペラペラペラペラと(こいとの顔の横に手をついて)」

 こいと「あ、あの、宇月サン、ちょっ」
 宇月「………これでもまだ弱虫だって思うん?」
 こいと「ひゃっ、あ、あの、ちょっ」

 ~ピンポーン~

 アナウンス「はーい、お題クリアでーす! お疲れさまでした――――っ」
 宇月「ふーっ。よっしクリアぁ(壁から離れて伸びをする)」
 こいと「え、は? え、どういう」

 宇月「本気なわけないやろ、バーカ(ニィッと口角をあげる)」
 こいと「なッ。な、な、あ、あなたまさか、このこいとちゃんをはめてっ」
 宇月「ハーイ引っかかった引っかかった! 素で行けって言われたからな。満足した?」

 こいと「~~~~~っ、も、もう知りません! 宇月サンのあんぽんたんっ(声にならない叫び)」
 アナウンス「ホントにアレは素だったのか?」
 宇月「素に決まっとるやん。本気であんなことできるはずないやん。さ、桃根ちゃん次の部屋行くで。わはははは、顔メッチャ真っ赤やん。かわいいーw(逃げるようにその場を後にする)」


 アナウンス「宇月さん、隠そうとしてもバレバレですよ。あーもう、あの人自分の素がなにかも分かっていないのね。めんどくさいねえ。ま、作者なんですけど」


 ※次回に続く! 次は飛鳥&飛燕のペアです!お楽しみに~!!
 

 
 

 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【最新話更新しました!】 ( No.68 )
日時: 2023/11/22 19:29
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 こんばんは、明日は祝日ですね!
 むうは描いているイラストを進めようと思っています。
 メンタル状況は、ぼちぼちかなあ。書くスピードは、ちょっと戻ってきました。
 続き行きます。

 ----------------------
 [特別編:第3話]★双子組★

 飛鳥「飛燕、どう? 扉開きそう?」
 飛燕「うーん。おっかっしいなあ。アニメでは探偵が針金で簡単に開けてたんだけど(クリップで扉をガチャガチャ)」
 飛鳥「アレはフィクションだよ。無理そうなら諦めよう」

 飛燕「あーあ。なんかこの部屋おかしいよな。俺らの術も発動しねえ。妖怪を使役して、助けてもらおうと思ったんだけどなあ(軽く伸びをしながら)結界でも貼られてるのかな?」
 飛鳥「どうだろう。微かな霊気は感じるけどね」

 飛燕「それより問題なのはお題だよな。アナウンスの声に従わないと出れないんだろ?」
 飛鳥「そうみたいだね。えーっと、最初のお題は何だっけ?」
 飛燕「……ポッキーゲームだよ。ほら、あそこの棚にあるじゃん、ポッキー」

 ~双子がいる部屋の中央に、小棚がある。その上には皆さんおなじみのチョコ菓子~
 [お題其の1:ポッキーゲームしないと出られない部屋]

 飛燕「俺らあれじゃん。双子じゃん。血のつながってる兄妹じゃん」
 飛鳥「そうだね」
 飛燕「出来るわけねーだろ!?? 気まずすぎて蕁麻疹じんましんでるわ!!(くわっ)」

 飛鳥「アナウンスが言ってたね。『ラブコメなのにラブを書けてない。特別編で取り返す』って」
 飛燕「にしても、チョイスおかしいだろ?? 霊能者2人いるんだからさあ、悪霊退治とかでいいじゃん!」
 飛燕「悪霊退治は無理だけど、確かに別のお題ならいくらでもあるよね(はあ、とため息をついて)」

 飛燕「……妹よ。この状況をどう考える?」
 飛鳥「クッソめんどいと思う」
 飛燕「だよな!? くっそめんどいよな!? 双子でポッキーゲームやって萌えるのは、顔面が良い奴とお互い好き同士の奴だけだよ」

 ~飛燕、床に座り込む~

 飛鳥「あ、連絡来た(スマホを開いて)」
 飛燕「連絡?」
 飛鳥「他のチームのお題を、スマホを通して共有する仕様になってるんだって」
 飛燕「へー。あ、俺、宇月センパイが何したのか知りたいっ。頼りになる人の行動を参考にした方がいいだろ? 見せて見せて」

 【夜芽宇月は 桃根こいと と 壁ドンしました】

 双子「ゑ(は)?」
 飛燕「あのセンパイが異性と壁ドン?? う、嘘だ。絶対嘘だ」
 飛鳥「あ、あの、『恋愛はゲームやから』とか変な言い訳してた先輩が?? 信じられないっ」
 飛燕「た、頼りになる人の行動を参考に――」

 飛鳥「無理無理無理無理ッ。ポッキーのチョコの部分しか食べない奴とやりたくない!」
 飛燕「無理の基準そこかよ!? 割と最初のところだぞそれ。今躓くところじゃないよね??」
 飛鳥「映画館のエンドロール最後まで見ないとか有り得ない」
 飛燕「それは今関係ねーだろ!? 長時間ずっと席に座るの嫌いなんだよ!」

 飛鳥「あとさあ。先週、【妖視あやみはゐな】ちゃんの配信録画してなかったでしょ! 7時間目がある日だから、撮りわすれないでねって言ったじゃん!(床に置いていたリュックをブンッ)」
 飛燕「ゴフッ。待って? ポッキーのチョコしか食べない兄にここまで情緒乱す妹いないと思うんだけど」

 飛鳥「あ、あやみんのゲーム配信、リアタイしたかったあああああああ(泣) だいたいさ、お兄ちゃん私のプリン食べたでしょ! あれカラメルいっぱい乗ってて楽しみにしてたのに! あ、あとこの間の期末テスト、『副教科の総合点は俺の方が高い』とか言ってドヤってきたよね。あれうざいからやめて欲しかった! あと、あと!」
 
 飛燕「すっごい! ここぞとばかりに不満が出てくるっ。そういうのは当日に言って!? あと、ちょっとしたアクシデントですぐ取り乱すのやめて?? いつもの強気はどうした」
 飛鳥「……兄ちゃんとポッキーゲームするとか死ねる……生理的に無理……」
 飛燕「反抗期の娘を持つ父親の気持ちが今ようやく分かったぜ。お父様はこんな心境だったのか」

 飛燕「だいたいなあ。散々言ってくれたけど、俺もお前の言動には飽き飽きしてんだよ」
 飛鳥「ふぇ?(目をこすりながら)」

 飛燕「ちょっと頭の出来が良いからって、胸そらすのやめろ! あと自分で勝手に髪切るのなおせ! 切りそろえてやってるのに嫌な顔すんじゃねえ! 二人になったから家事分担しようって発案したくせに、全部兄に押し付けるのマジでやめてくれ! 推してるVtuberが被ったからってしょげんな! 準一卵性双生児ですって、プロフ帳でアピールすんな!身の丈に合わん覚悟はダサいからな! 推しのランダムグッズの開封を兄に任せておきながら、推し以外が出たら俺のせいにする癖なんとかしろッ」

 飛鳥「うぉ、言葉のナイフが胸にッ(ゴフゥ!)。で、でも準一卵性双生児は誇っていいでしょ。0.000ウン%しかいないんだから――ッ」
 飛燕「はぁ―――……すっきりした。って、うわ、ポッキーのチョコ溶けてる!」
 飛鳥「あんだけ長々と喋ったらそりゃあ溶けるよ」
 飛燕「お前に呆れられてもな。んっ(ポッキーを全本口に入れる)」

 飛鳥「あ――――っ!なんで全部口に入れるの!? 溶けてない奴もあったでしょ!?」
 飛燕「どうせお腹に入るんだから一緒だろ。ん。ん、ゴホッゴホッ」
 飛鳥「もー、言わんこっちゃない。………んっ(飛燕の口からはみ出たポッキーをくわえる)」

 飛燕「!? ちょ、やめてマジ辞めてポッキーゲームは俺も生理的に無」
 飛鳥「(バキッッッッ)」
 飛燕「あ(スンッ)。なんだろう、とてつもなく嫌だったのに、いざ突き放されると心にくるものがあるような、ないような」


 
 ※Next→トキマリコンビ2巡目! 次回もお楽しみに!

 【おまけ:飛燕と飛鳥の推しⅤtuber:妖視はゐなについて】
 妖視はゐなは、ゲーム実況・歌ってみたを中心に活動するヴァーチャルライバー。
 妖怪や幽霊・UⅯAが大好きな女子高生・16歳。ちなみにリアル年齢も16歳。
『くじろくじ』という大手Ⅴtuberグループに所属している。
 髪色は白。ボブヘア+、髪の左右にはお団子がついている。インナーカラーはオレンジ。
 服装は巫女装束。
 ボーカロイドマニアでもある。好きなボーカロイドは『再音クミ』(憑きもん世界のミクちゃん)
 ちなみに桃根こいとも生前、妖視はゐなちゃんを推していた。
 

 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【特別編更新しました!】 ( No.69 )
日時: 2023/11/24 20:54
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 [特別編:第4話]★トキマリ組・二巡目★

 〈脱出ゲームの舞台裏〉

 むう「ふぃー。全グループに企画説明するの疲れたぁ。あー、誰か代わりにやってくれないかなあ。やってくれたら、とっても嬉しいなあ(チラリ)」
 正鷹「交代してほしいなら最初から言ってくれ」

 むう「だって、君がアナウンスやったら、文字通りの天の声じゃん」
 正鷹「それでもいいよ。頼って欲しいよ。今後、本編登場しないんだから。特別編で喋らせてよ」
 むう「むー。でもそしたらバレそうじゃん。声の主がむうだって。途中でキャラ追加できるの作者しかいないし(テーブルの上にあった午後の〇茶をゴクゴク)」
 正鷹「大丈夫だ、もうバレてるから(ニコッ)」

 正鷹「むうは体調不良なんだから休んどけよ。あとは俺がチャチャッとやるから。こう見えて、小中と放送委員会だったんだぜ。トーク力には自信がある」
 むう「そこまで言うなら、頼ろっかなあ。はいこれ、ヘッドホンと台本」
 正鷹「メタいから台本って言うのやめろ。オッケー、じゃあ二巡目お互い頑張りますか!」

 
 ----------------------

 〈再びトキマリ組〉

 美祢「今回の部屋は一面が黄色いな。目がチカチカする」
 コマリ「またしても、何もないね。正面の壁に扉が取り付けてあるだけだ」

 美祢「なるべく簡単なお題にしてほしいんだけど、相手はむうだ。期待はしない」
 コマリ「もー、トキ兄。むうちゃんをそんなに敵視しちゃダメでしょ」
 美祢「だって見て見ろよ、このスマホの文章」

 【夜芽宇月 は 桃根こいと と壁ドンしました
  由比若菜(猿田彦)は禍津日神と第1の部屋にステイしています
  番飛燕と番飛鳥はポッキーゲーム 未クリア】

 美祢「壁ドンとか恋人つなぎとかポッキーゲームとか。恋愛系ばっかり。つーか宇月壁ドンしたのか。マジか。信じられない。ここ夢?」
 コマリ「現実だよ! あと、宇月さんをからかわないの! トキ兄だって私と恋人つなぎしたじゃん!」


 美祢「ふぁ(顔が一瞬で真っ赤に)」
 コマリ「? ………あ(ワンテンポ遅れて赤面)」

 美祢「~ッ、~ッ(声にならない叫び。無言でコマリの頬をつねる)」
 コマリ「いだッ。いだいって、やめひぇよ~」

 美祢「ふーっ。はぁ。いいかコマリ。今日のことは後日ちゃんと忘れろ。約束だ」
 コマリ「え、ええ――――っ。無理ゲーすぎるよ!」
 美祢「頼む忘れてくれ。そうしないと黒歴史になる。俺の黒歴史がまた一つ増える」
 コマリ「元から厨二じゃ……いだい! 悪かったからつねらないで!」

 コマリ「………はあ。まあ、この作品ラブコメだからね。今までシリアスが多かったけど」
 美祢「でも、こういう形を俺は望んでない。やるなら最初から本編でやってほしい」
 コマリ「いや、本編でもちょっとはあったよ? ほんとにちょっとだけど……」

 ~ピーンポーンパーンポーン~

 天の声「ってことで始まりました! 〈憑きもん特別編〉のお時間です!みんな上手くやってるかー? 上手くやれてないコンビも、まだまだ時間あるから気張ってこー!」
 美祢「なんだこのアナウンス!?(テンション高めの放送に驚く)」
 コマリ「やけに明るいBGMがバックで流れてるね。あと、むうちゃんの声じゃない。けどこの声、どっかで聞き覚えがあるような」

 天の声「あ、申し遅れました。前アナウンス主に代わり、実況を務めさせて頂きます私・番正鷹と申します。何卒よろしくお願い申し上げます!」
 美祢・コマリ「ええええええええええええ、バンさん!???」

 美祢「え、待って待って。なんで正鷹さんがアナウンスしてるんだよ。おかしいだろ」
 天の声「本編の展開の都合で登場できないので、無理言って特別編に参加させてもらいましたー」
 美祢「噂には聞いていたが、この人もめっちゃくちゃ声でかいな。やりづれえ」

 天の声(正鷹)「あ、でっかかった? ごめんごめん、ボリューム下げまーす。あ、恋人つなぎお疲れ。あ、あと申し訳ないんだけど、お題箱見る限り全部恋愛系で固めてるっぽいからご容赦ください」
 謎の声「ちょっ、それは公表しない約束でしょ!(ガサゴソ)」
 天の声(正鷹)「そーだっけ。悪い悪い」

 美祢・コマリ「(ま・じ・で・す・か)」
 天の声(正鷹)「大丈夫。過激そうなのは俺が外しとくからさ。ここ全年齢対象版だし。上手いことやるから安心して(小声)」

 美祢「まあ、正鷹さんが監修してくれるなら平気か」
 コマリ「う、うん。すごいね。不安が一気に軽くなったよ」
 天の声(正鷹)「んじゃあトキマリ組、2番目のお題発表するよーっ」

 [お題其の2:お互いの好きなところを10個言い合う]

 天の声(正鷹)「題して、お互いの好き語りだ。ちゃんと相手の目を見て話すこと!」
 コマリ「うーん。こ、恋人つなぎよりは比較的簡単かな?」
 美祢「よ、良かった(ホッ)。じゃ、コマリ先でいいぞ。手早く済ませよう」

 コマリ「わかった。え、えーっと(美祢を見つめて)。えーっと」
 美祢「うっ!?(あ、あれ。難易度は簡単だって分かってるのに、なんでドキドキするんだ?)」
 コマリ「えーっと、トキ兄の良いところは(指を折る)」

 コマリ「①寝起きが良い ②頭の回転が速い ③料理が上手い ④人の話を笑わない(※一部例外を除く)⑤たまに見せるリラックスした表情が好き ⑥意外と歌が上手い」
 美祢「おぉぉぉい待て待て。一部例外を除くってなんだ。変なもんを入れるな」
 コマリ「じゃあ反論をどうぞ」
 美祢「ぐっ……。は、早く続きを言え」

 コマリ「⑦冷静 ⑧大事な物事に対して熱くなれる ⑨相手のことを一番に考えてくれる」
 美祢「う。は、恥ずかしいなコレ……(ふにゃあ)。じゅ、十番は?」
 コマリ「⑩たまに見せる笑った顔が好き」
 美祢「んんんんんっ(あー、反則だろそれ!)」

 天の声(正鷹)「月森ちゃんありがとー。お次は時常くん、行ってみよう!」

 美祢「あー。んーっと。え、えっと。①優しい」
 コマリ「ふんふんふん。次は?」
 美祢「え? えと、②毎日ワクワクで過ごせる ③食べ物を美味しそうに食べる ④ポジティブ」
 コマリ「へえー。ってトキ兄、顔赤いけど大丈夫?」

 美祢「部屋が暑いんだよ! ⑤ハマったものはとことん推す ⑥人見知りしない ⑦信用出来るやつにはめっちゃ心開く ⑧声が可愛い ⑨菓子をほおばる仕草が小動物みたい」
 コマリ「小動物かあ。飛鳥ちゃんにも同じこと言われたな」
 美祢「⑩笑顔が可愛い、で」
 コマリ「!!」

 ~ピンポーン~

 天の声(正鷹)「おめでとうございます! お題クリアです! よく頑張った二人とも。って、なんでそんな気まずそうな顔してんの?」


 コマリ「(それはずるいよトキ兄……! やだ、顔火照ってきた。ばれない様にしないと)」
 美祢「(人のこと褒めるって、なんでこうも恥ずかしいんだ。ぐぬぉおおおおおおおおお)」
 双方「………………………………」

 
 天の声(正鷹)「え? 待って、もしかしてこれ俺が悪い? ちょっとむう、俺恋愛のことよく分かんねえ! こういう時ってどんな声かけりゃいいの?(困惑)」
 

 ※Next→天敵組・二巡目! 次回もお楽しみに。

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【特別編更新しました!】 ( No.70 )
日時: 2023/11/28 21:28
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 [特別編:第5話]★天敵組・二巡目★

 禍津日神「おい小童こわっぱ!」
 由比「ひゃ、ひゃいっ。な、なんですか」
 禍津日神「他の班員が次々とお題をクリアしている。しかし我々はまだ第一関門も突破していない。そこでヘラヘラする暇があるなら、スマホのシャッターとやらを切れ」

[お題其の1:お互いの写真をSN〇Wでいい感じに加工しろ]

 由比「ででで、でもマガッちさん」
 禍津日神「禍津日神だ」
 由比「マガさん」
 禍津日神「はあ。もういい、好きなように呼べ。ったくどいつもこいつも」

 由比「あ、はい。あの、僕携帯にあまり詳しくなくて。加工とか言われても何をしていいか」
 禍津日神「そこの猿は何か知らないのか」
 猿田彦(霊化状態)「何故俺様が知っていると思うんだよ。こちとら神だぞ」
 禍津日神「お前、人間の影響でアニメやコミックに詳しいだろう」
 猿田彦「それは乗っ取り先がバンだったからだ。あいつは写真加工なんか興味なかった」

 アナウンス(正鷹)「興味なくはねえよ!? 妹がいるからな。苦手なだけで嫌いじゃないぜ」
 禍津日神「当然のようにアナウンスをしている番正鷹にもツッコミたいところだが」
 アナウンスを(正鷹)「久しいなマガっち! 俺から出番を奪った罪は重いぞ」
 禍津日神「この我に『手をハートの形にして決め顔しろ』と言ったお前も大概だぞ」

 
 ~天の声・マガっち。モニター越しにバチバチ状態~

 由比「ちょ、ちょっと二人とも喧嘩はやめて! 僕頑張るからっ。それでいいでしょ?」
 猿田彦「でも由比、お前幽霊だろ。スマホとか持てるのか?」
 由比「指先だけ一時的に実体化させるから大丈夫だよ。猿ちゃんにこの間実体化のコツ教えてもらったし」

 猿田彦「お前手先だけは器用だよな……」
 由比「えへへへへへへ」
 猿田彦「褒めてないぞ。メンタルケアもしっかりやってくれ」

 禍津日神「ふん。早急に遂行しなくてはな。由比とやら、早く我を撮れ」
 由比「あ、はい! いきますよー、はいチーズ!(カシャッ)」
 禍津日神「チッ(指は―と+ウィンク)」
 由比「うわ」
 禍津日神「おい、これ見よがしに引くんじゃない」

 アナウンス(正鷹)「ブフッ。マガっち最高――――――っ。おいむう、見ろよこれ。やばい。めっちゃやばい。マジうけるんだけど。あー、今まで溜まっていた鬱憤が消えていく。清々しい~」
 禍津日神「…………此奴ッッ(わなわな)」


 ~天敵組、お互い顔を近づけて加工アプリを見る~

 
 猿田彦「よし。素材は取れたし、こっから加工だな。このどキツイ素材をオシャレにしよう」
 由比「猿ちゃんってホントに神様? 一番ウキウキしてるね」
 猿田彦「道開きの神たるもの、流行は徹底的に抑えておきたいんだ」
 由比「へえ。よく分かんないけど、まあいっか。うーん、加工、何から始めればいいんだろ」

 禍津日神「この『エフェクト』というのは何だ? 童、タップしろ」
 由比「えっと、なんか全体にキラキラつけたり出来るようです。ハートのフレームとか、レトロ風とか、パウダーとか。いろいろできるみたいですね」
 禍津日神「ならばこの【暗黒】をつけろ。画像一面が黒塗りされ、我の存在が引き立つからな」

 由比「それだとマガさんの髪色と同化しちゃって、生首だけ浮かんでいるみたいになりますよ」
 猿田彦「それはそれで面白いな。ネタ画像にして送ろうぜ」
 由比「もー猿ちゃん。嫌いだからって、そんな言い方はないでしょ!」
 猿田彦「相手は敵だぞ。お人よしもここまでくると心配だぜ。って、俺は父ちゃんか何かか?」
 

 由比「じゃ、じゃあこの【小顔効果】はどうですか? 顎がシュッとなって、凛々しくなると思います!」
 禍津日神「元々童顔だから問題ない。見ろこのツルツル肌」
 猿田彦「宿主の身体が子供だから当たり前だろ。自分の手柄みたいに言うんじゃないよ」

 
 由比「じゃあ、これは?【チーク】。頬に赤みが出ますよ。マガさんの顔、血の気がないから。赤みを足せば、ハートポーズのきつさもちょっと和らぐ気がします」
 禍津日神「ほお。任せよう」
 由比「はいっ。(ウキウキで加工)」

 猿田彦「由比、お前にっこにこ笑顔でかなり辛辣なこと言ってるぞ。自覚あるか?」
 由比「ん?」
 猿田彦「ダメだこいつ。色々と鈍感すぎる」
 由比「(カチャカチャ)で、できましたチークっ。どうですかね?」

 ~由比、スマホを猿田彦と禍津日神に向けて~


 禍津日神「なんだこの怪Bっ、ぐっ(猿田彦に口をふさがれて)」
 猿田彦「やめろ、由比の夢を壊すんじゃないっ。ただでさえメンタル豆腐なんだからっ(小声)」
 アナウンス(正鷹)「ぶっ、ふはははははは、傑作傑作!」
 猿田彦「バンもちょっとは自重しろ!!」

 由比「ど、どうかな。チークって女の人が良く使ってるイメージだから、たくさん塗れば可愛くなるかなって思ったんだけど」
 猿田彦「あー、すっごい健康そうな色になったよ(当社比)」
 由比「ほんとっ? 良かったぁ。他になにか修正しなきゃいけないところあるかな?」

 禍津日神「我としては一番に自身の色彩感覚wっ、ぐむっ。だから離せ!」
 猿田彦「(再度口をふさいで)あー、そうだな。吊り眉になってるから、垂れ眉にしたら可愛くなるんじゃないかな。あと口紅とか、ネイルとかも塗ってあげて」
 由比「わかった! ゴホッゴホ」

 猿田彦「風邪ひいてるんだからムリすんなよ」
 由比「はーい」
 アナウンス(正鷹)「(お父さんというより、最早お母さんじゃ)」

 ~由比、ウキウキルンルンでスマホを操作~
 
 禍津日神「おい猿田彦。貴様っ」
 猿田彦「ごめん可愛い由比の泣き顔を見たくないんだ。ここは我慢してくれ。あとで俺の写真好き放題やって良いから」

 
 禍津日神「なら言葉に甘えて、顔色を悪くしてやる。エフェクトは闇。炎のステッカーもつけて、ポーズは目の前にいる者を殴る感じでどうだ」
 猿田彦「ジャ〇プの悪役みたいで、めっちゃカッコいいじゃねえか」


 ~天敵組、一向に進まない~
 
 ※Next→秘密共有組の3巡目! 次回もお楽しみに。


 【おまけ:憑きもん!キャラ 技名辞典①】
 ・恋魂球ラブコンボール
 →こいとの技。恋愛の運気をエネルギーの球にして投げる
 
 ・黒呪符くろじゅふ
 →宇月の奥義。呪符に呪いの念を込めて投げる

 ・謁見えっけん
 →飛燕の術。位の高い霊・妖を召喚し使役する。

 ・番家流:憑依術ひょういじゅつ
 →正鷹の術。取り憑いた霊が持つ能力を自分好みにカスタマイズする

 
 禍火かび
 →禍津日神の術。負の感情をエネルギーの球にして投げる
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【特別編更新しました!】 ( No.71 )
日時: 2023/12/03 22:17
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 小説大会宜しくお願いしますっ。
 無理のない範囲で頑張ります!
 
 -------------------

 [特別編:第6話]★秘密共有組・3巡目★

 宇月「だああああああ、何なんあれ何なんあれ(猛ダッシュ)」
 飛燕「俺に聞かれてもしりませんよおおおおおおお」
 こいと「ちょ、ちょっと飛鳥さん先先行かないでくださいっ」
 飛鳥「無理いいいいいいいいいいっっ」

 ~宇月&こいとチーム、飛燕×飛鳥チームと合流~

 宇月「この状況マジ意味わからん。次の部屋へと続く廊下を歩いとったら、曲がり角からめっちゃ巨大なロボットが出てきて、ボクたちに襲い掛かって来たんやけど」

 ロボット「お掃除シマス お掃除シマス」
 飛燕「しかもここ、術が発動しない場所ですから攻撃も出来ませんよね?(ダダダダダダッ)」
 宇月「ど、どうなんやろっ。はぁー、はぁー、はぁー。も、桃根ちゃん、一回技撃ってみてくれんかな?」

 ロボット「お掃除シマス お掃除シマス」
 こいと「わ、分かりました。(足を止めて)。ロボットさんちょっと失礼します! 必殺・恋魂球ラブコンボール―――――っ!」

 ~こいとの手のひらからピンク色のエネルギーの球が発生~
 ~ロボットに向かって飛んでいく~

 ロボット「(カキンッ)」
 飛鳥「なっ。跳ね返した!?」
 宇月「術は効いてるっぽいけど、ロボットさんの強度が強いせいではじかれてまうんやろな」
 こいと「嘘でしょ? 結構なエネルギー持ってますけど……」

 飛燕「あー、やべえ。こんなことになるなら一番目の部屋にとどまっておいた方が良かったよ」
 飛鳥「もう二度としないから。レモンのお味とか嘘だった」
 双子「………(気まずそうな顔)」

 こいと「ちょ、お二人さん敵来てますから! 足を止めないでくださいっ。幽霊の私が言うのもなんですけど!(宙にフワフワ浮きながら)」
 宇月「全くや。って、あかんこの通路行き止まりやっ。こっから先行かれへんっ。シャッターが下ろされとる」
 飛鳥「確か反対側の通路も行き止まりでしたよね?」

 
 ビーッ


 宇月「なんやこの音? ブザー音?」
 アナウンス(正鷹)「今からこのあたり一帯を覆っていた結界を解きます。あ、これは霊能力者の能力が使えなくっつーアレね」

 双子「お、お兄ちゃんっ!?」
 飛燕「な、なんで死んだはずのお兄様の声が……? おい誰か録音してんだろ! やり方が汚いぞ!」
 アナウンス(正鷹)「え、ちょっと」

 飛燕「情報って言うのは無闇に共有・拡散しちゃいけねえんだ! プライパシーの権利とかなんとか。が、学校で習ったんだからな!」
アナウンス(正鷹)「必死に説明しているけどゴメン弟よ。すっげー説得力がないよ。あと俺の話を聞いて?」

 アナウンス(正鷹)「細かいことはあとで。とにかく、結界を解いたから、このフロアにいる限りみんなの術は発動するぜ。自分のスキルを活かして目の前のロボット(むう作)を倒してくれ。これが今回のミッションだ!」

 [共通お題:目の前の敵を討伐せよ]

 宇月「あのー、全部恋愛系で固めてるとか言うてませんでした?」
 アナウンス(正鷹)「ごめん、このお題入れたのむうだから文句は彼女に言って。霊能力者と幽霊そろえば何とかなるんじゃねって思ってるから」

 ロボット「お掃除シマス お掃除シマス(どんどん迫ってい来る)」
 こいと「と、とりあえず協力してあのロボ倒す感じですかね?」

 飛燕「そうっすね! てか今思ったんだけど、このロボってなんかその、ゴキブリに似てないですか? 無駄に触角とか生えてるし、テラテラしてるし」
 飛鳥「やめて!? 考えないようにしてたんだから」
 アナウンス(正鷹)「むうの自信作・『討伐Gメンロボ』です」
 宇月「ダブルミーニングするのやめてもろて」

 飛燕「ま、倒したもん勝ちってことすね。俺の技まだ本編で出てないんで、説明時間短縮になっていいかもですね」
 宇月「なんでこの小説はこうも曝け出すん?」

 こいと「ってことでまずは私が先陣を切ります! 皆さんサポートお願いします! 恋球球―――――ーっ!」
 ロボット「ギャウッ(ふらついて)」
 
 飛燕「んじゃあ俺も行きますか。術展開・【謁見えっけん】!」

 ~飛燕が右手を掲げると、妖が二体出現する~

 狐の妖怪「ヒャハハハ! 呼んだかのう! 呼んだかのう! 要件は何じゃ? 今宵は何をするのじゃ?」
 飛燕「紹介します。こいつは九尾の炎狐えんこ。人間の姿に化けることができます。炎も吐けますよ」

 蜘蛛の妖怪「おい炎狐、五月蠅うるさいぞ」
 飛燕「この蜘蛛のじいちゃんはアラクネっていう妖怪です。とっても強いんですよ!」

 こいと「わ、すごい。召喚系の術をつかうんですね」
 飛燕「そうっす。俺、使役系術士なんで!」
 蜘蛛「おいトビ。制限時間リミット代償コストを頼む。今宵はどれくらい暴れればいいかの?」

 飛燕「そうだな。とりあえず30分で。(カブリと手の甲を噛む)」

 ~血液がポタポタと地面に流れて~

 飛鳥「これが代償です。使役術士は使役した妖怪に対し、一定量の何かを支払う必要があります(こいとに小声で説明)」
 こいと「なるほど!(攻撃をさばきながら)」

 飛燕「炎狐、蜘蛛爺、頼む! センパイ、今です!」
 宇月「あーはいはい。わかりましたよっと。【操心術・第一式】解放!」
 飛燕「うっ(グラッと姿勢が傾く)」

 飛鳥「宇月先輩、一体何を?」
 宇月「何って、使役系術士は術使っている間無防備になるやん? その間、ボクがヒエの体操って攻撃防げばいいんちゃうかって話。ボクは肉弾戦が弱い。ヒエは頭脳戦が弱い。お互いの欠点を補いあうのが戦法や」

 こいと「な、なるほどっ、うわっ(攻撃を避けて)」
 炎狐「ガアアアアアア!(口から炎を吐く)。どうじゃわらわの炎は! 熱いじゃろう! 熱いじゃろう!!」
 ロボット「お、お掃除……オソ……お掃除…」

 飛燕「オーバーヒートしたか?30分長すぎたかな(よろよろと起き上がって)」
 蜘蛛「待てトビ。何か様子がおかしいぞ」

 ロボット「戦闘用ソフトウェアをアップロード しマス」
 宇月「は? アップロードって何や……うわっっ、気持ち悪!(ロボットのアームが一メートルくらい伸びる)」
 ロボット「アップロードを完了シマした。攻撃に移りまス」

 一同「こいつグレードアップするんか―――――――い!」
 

 こいと「そんなの聞いていません! あんなものにラブはめ派打ち続けたりなんて出来ませんよ」
 飛燕「俺の術も……沢山使えばその分血液を消費するから……長丁場は避けたいな。飛鳥、お前の術は使えないか?」

 こいと「飛鳥さんも術が使えるんですよね? どんな術を使うんですか?」
 宇月「飛鳥ちゃんのはかなり詠唱のハードルが高いからなあ。本人のモチベーションと気力がないとなかなか出来ん。それらがピッタリ合わさったら強いんやけどな」

 こいと「つまりなんなんですか?」
 宇月「ほら飛鳥ちゃん、言うてみ。自信の能力(攻撃をジャンプでよけながら)」


 飛鳥「僕の能力は【転写】。今まで出会った人の外見・体重・身長・能力などを一言一句間違えず唱えれられれば、その人のステータスを模倣することが出来ます」
 こいと「す、すごい! つまりその人に変身できるってこと?」

 飛鳥「はい。そして、間違えれば」







 飛鳥「身体の機能の正常値が一ずつ減っていきます」
 こいと「………………え?」


 ※Next→トキマリ組×天敵組! 次回もお楽しみに。
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【特別編更新しました!】 ( No.72 )
日時: 2023/12/08 18:20
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 [特別編:第8話]★トキマリ組×天敵組★

 猿田彦(霊化状態)「ふう、ふう。やっと次の部屋ついた。やべえ、脱出する前に俺様の気力がなくなりそうだ」
 由比「カッコよく編集してもらえて良かったねえ(ほわほわ)」
 禍津日神「貴様、熱が上がってきているのではないか? ふらふらしていて危なっかしい」

 由比「んー? だい、りょーぶ(ぐらっ)」
 猿田彦「っぶねえ! おい由比、おい由比。あとは俺がやる。お前はちょっと寝ろ」
 由比「へーきはよ。だってぇ、上手くいけばいとちゃんに会えるかもしれないんれしょー」

 猿田彦「そんな状態で行っても向こう大変だろ。ってことで体貸せ」
 由比「んぅー、猿ちゃん大丈夫だってば……うぉわっ、あ、意識が……なくなる………(スゥ)」

 由比(猿田彦)「よし、交代完了。うわ、頭すっげえ重い。こりゃ三十九度くらいあるんじゃねえか?」
 禍津日神「また貴様と二人か。チッ」
 由比「てめー少しは俺の宿主のことも案じろよ」

 ~と、向こう側から美祢とコマリがやってくる~

 美祢「はー、はぁー、何だアレ。マジ意味わかんねえ」
 コマリ「なんか変なロボットが襲って来たね!?」
 美祢「とりあえず近くにあったこのモップでバコーンやったけど。また来るかもしれねえな」

 コマリ「力技すぎるよトキ兄」
 美祢「アレ以外にどうしろっていうんだよ! 俺は小中高と帰宅部だったんですけど?」
 コマリ「ご、ごめん」

 禍津日神「何やら騒がしいな。ん? あれはこの小説の主人公ではないか?」
 由比「いい加減名前覚えようぜ」
 禍津日神「我はあの娘と、まだ本編で出会ってないからな。名前を言えと言われても無理な話だ」
 由比「……なんでこの小説はこうも曝け出(以下略)」

 コマリ「あ、トキ兄。あそこに人がいるよ!」
 美祢「本当だ。って。とんでもねえ面子と再会してしまったよ俺ら」
 コマリ「確かに。幽霊+神様+神様だもんね」
 美祢「ここにこいとが居れば、あいつの目的【完】で一件落着なのに……はぁ」

 コマリ「ど、どっちから声かける?(ガクガクブルブル)」
 美祢「いやお前が行けよ主人公だろ(ガクガク)」
 コマリ「その主人公がなんかあった時にサポートするのがボディーガードでしょ!」
 美祢「いかなる時でも笑顔とプライドを捨てないのが主人公だろ?」
 両者「(ぐぬぬぬぬぬぬ)」

 両者「さいしょーはグー。じゃーんけーん」
 コマリ「(パー)」
 美祢「(グー)」
 コマリ「ということでボディガードよろしくう!」
 美祢「なんでだああああああ」

 禍津日神「おい見ろ猿田彦。ピンク髪のチンピラ小僧が現れたぞ」
 美祢「あ、あのう。禍津日神さんです、よね(もみ手)」
 禍津日神「いかにも」
 美祢「よ、横の人は、その」
 由比「あー。猿田彦だ。こっちの体は由比若菜。よろしく」

 美祢「あ、よろしくお願いしますう」
 コマリ「(トキ兄って初対面だとあんな感じなんだ……)」
 

 アナウンス(正鷹)「はい再びこんにちは! 天の声のバンでーす。おおっとそっちも合流した感じ? ヤバいなこの展開」

 禍津日神「おい番正鷹! 貴様いい加減にしろ。SNОWで加工などしたことがないわッ」
 アナウンス(正鷹)「知ってるよ。あれは俺からのご褒美だ。楽しめたようで何よりじゃねえか」
 禍津日神「そうだった。此奴も煽りスキル高いんだった!」

 アナウンス(正鷹)「てことで折角両サイド出会ったわけだし、そっちにも共通お題を発表するぜ」
 コマリ「共通お題って何ですか?」

 アナウンス(正鷹)「二つのチームが合同になってクリアを目指すお題だ。秘密共有組と俺の兄妹が今まさにこれをやってる。まあ、あっちは体力勝負のお題だけどね」

 美祢「秘密共有組って……宇月とこいとか。うお、向こうは霊能力者三人か!」
 コマリ「人外3人がいいか能力者3人がいいかってことか。で、私たちは人外の方になったと」
 

 アナウンス(正鷹)「今回のお題はこれです! ばばん」

 [共通お題:回答一致するまで終われま10!]

 美祢・由比「急に大喜利みたいになったんだが」
 アナウンス(正鷹)「神様2人居るこの状況で意見がそろうことなどまずない。ってわけで、今からアナウンスでお題出すから、それに各自答えて行ってな。回答が一度でもそろえばクリアだ」

 コマリ「こっちは三人ともあんまり関りがないから難しいね」
 美祢「そうだな。勘で行くしかない。向こうは多分こちらに合わせないと思うから、俺たちが向こうに合わせるしかないぞ」
 コマリ「つまりヴィラン側の気持ちになって考えるってこと? できるかなあ」
 
 由比「いやだから悪役はこの禍津日神だけなんだってば」
 アナウンス(正鷹)「ということで終われま10ボタン、ぽち」

 ~第1問:憑きもんメンバーの中で一番人気があるのは誰?~

 一同「一番人気??」
 美祢「んなもん、集計取ってないからわかんねえだろうが」
 コマリ「んーでも、いとこ組が好きって声はよく聞くよね」

 由比「過去編が夏の大会と重なったことで、みんな結構読んでくれたから、案外俺ら幽霊組も人気かもしれない……」
 禍津日神「愚問だな。我が一位に決まっている。30スレにも渡って相手を煽ってやった(ドヤ)」
 美祢「うーん。正鷹さんは誰が人気だと思いますか?」

 アナウンス(正鷹)「俺も一応登場人物なわけで。あ、そうだ。そういう時にこの人よ。むうーっ」
 むう「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン。むうです。そうですねえ。この問題は要するに、私が一番気に入っているキャラを答えればいいのです」

 美祢「まあそうか。視点が多く書かれているキャラは認知されやすいもんな」
 由比「っ、それだと由比と俺がかわいそうだろおおおおおっ。俺ら数えるほどしか視点奪ってねえぞ!」
 コマリ「でも猿田彦様は、過去編で見せ場たくさんあったじゃん」
 美祢「長く本編に出てたのは、コマリと俺か」
 一同「う―――――――ーん」


 アナウンス(正鷹)「それでは回答どうぞっ」

 コマリ「私がナンバーワン!だって主人公ですから」
 美祢「なんだかんだ言って冷静な奴が勝つ。つまり俺だ」
 由比「頑張っているキャラや過去編が重いキャラは愛されやすい。俺は自分の功績を称えて由比に入れるぞ」
 禍津日神「ふん。我に決まっているだろう」

 アナウンス(正鷹)「第1問、無事失敗—————————!」
 むう「あかんコイツら自我が強い………」
 
 Next→秘密共有組×双子組vs討伐Gメンロボ(グレードアップver)
 次回もお楽しみに。
 皆さんは憑きもんキャラで誰が好きですか?
 良ければまたコメントしてね。ではでは。

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【特別編更新しました!】 ( No.73 )
日時: 2023/12/10 20:59
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 ★憑きもんに対するFAQ★

 Q1:コマリの逆憑きは現在どうなっているのですか?
 A:宇月から貰った魔除けの腕輪の効果で、ポルターガイスト&曇天日が月1くらいになっています。

 Q2:美祢が通っていた高校の偏差値はどれくらいですか?
 A:75です

 Q3:物語の舞台はどこですか?
 A:20XX年の東京・黒女くろめ市です

 Q4:なぜ美祢は宇月のいとこなのに霊能力が使えないのですか?
 A:時常家のご先祖様が疫病により命を落とし、術が途絶えました。

 Q5:コマリの本来の学力はどれくらいですか?
 A:必死に勉強すれば全教科50点くらいは取れます

 
 Q6特別編終わったら、地の文章に戻りますか?
 A:はい。本編進めます

 Q6:時系列の順番を教えて!
 A:Prologue→過去編→本編1~4章→特別編へと繋がっていきます
 初見さんは目次の通り読むのをお勧めします

 Q7:更新日は?
 A:決まっていません。不定期連載です

 --------------

 〈特別編:第8話〉秘密共有組×双子組

 >>71の続きより

 飛燕「センパイ! とりあえず一旦撤収して作戦を練りましょう。このままだとジリ貧です!」
 ロボット「がガガガガガガ(ジリジリと四人に迫る)」

 宇月「……せやな。桃根ちゃん、飛鳥ちゃん。逃げるで」
 こいと・飛鳥「了解です!」

 ~一同、全速力で来た道を引き返す~
 ~曲がり角の陰に隠れる~

 ロボット「目標を見失いマしタ。見失いマしタ」
 一同「ふぅー」


 こいと「一旦状況を整理しましょう。わたしたちが対処するのは、むうちゃん作のロボット【討伐Gメンロボ】です。あのロボットには戦闘用ソフトウェアが入っていて、自動的にグレードアップします」

 飛燕「こっちは霊能力者3人に幽霊一人。俺とこいと先輩がアタッカー、飛鳥とセンパイがサポーターですね」
 宇月「桃根ちゃんとヒエは術の多用は避けるべし。飛鳥ちゃんは発動のリスクがでかい。ボクも使いすぎると体調が悪くなる」

 飛鳥「僕等の主な戦闘方法は、こいとさんと飛燕が攻撃。先輩がサポート。僕が状況分析でしたね」
 宇月「さて、どうしたものか。って炎狐サン、貧乏ゆすりすんのやめてくれん?」

 ~宇月の隣で、少女に化けた炎狐が舌打ちする~

 炎狐「ウム? 戦わないのか? わらわはいつでも準備オッケーじゃが。折角代償コストを貰ったのに。このままだとわらわは、制限時間リミットまで時間をつぶさなければならん」
 飛燕「ごめん炎狐。状況が変わったんだ。少し我慢してくれ」

 こいと「あの、思ったんですけど、アナウンスをしている正鷹さんに協力を頼むのはどうでしょう。確か、結界を制御しているのは彼ですよね。うまいことやってくれないでしょうか」

 アナウンス(むう)「バンはいまコマリ陣営の説明中だから、手が離せないよ。あと私と彼は今回運営側だから。ごめんね」


 一同「うーーーーん」
 ロボット「お掃除しマス お掃除しマす(一同の横を通り過ぎる)」
 一同「ひぃっ」

 宇月「現段階で考えられるのは、誰か一人がロボットを引き付けて隙を作り、あとのメンバーが追い打ちをかける感じで攻撃とかやろか」
 飛燕「でも、奴はソフトウェアを更新しますよ。学習能力を持った相手に俺らが適いますかね」

 宇月「与えられる情報がないと学習できんやろ。やから、学習するまでの一瞬で攻撃を決めないと。強烈なやつだったら、相手をひるませることができるかもしれん」

 
 こいと「わたしの能力は同じ技を繰り返すだけですから……飛燕さん、他に召喚できる妖怪とかいませんか?」
 飛燕「ずっと試してる!(右腕を突き出して)」

 ~飛燕の右腕から血がポタポタ零れ落ちる~

 飛燕「試してるんだ。体に影響がない範囲で、コストを支払ってる。けど今日は調子が悪い。契約してるやつらは他にもいるのに、全然応答しねえ……!」

 こいと「そんな……。な、なにかないんですか? 正鷹さんまでとはいかなくとも、強い攻撃持ってないんです……あ」
 飛鳥「どうしました?」
 こいと「わ、分かりました! 状況を打破する方法!」

 宇月「ほんまか!? なんやそれは」
 こいと「(頬を上気させて)飛鳥さん、家族はどうですか! 年齢も性別も能力の詳細も把握してる、長い付き合いの人間ですよ」
 飛燕「つまりお兄様に変身するってことか? できんのお前?」

 飛鳥「確かに。お兄ちゃんの術は私たち兄妹が一番近くで見てきた。なんとかなるかもしれない」
 宇月「でも正鷹さんの憑依術は、霊を取りつかせんと――あ、まさか飛鳥ちゃん、やっちゃうんか?(こいとのほうを振り向いて)」

 飛鳥「そうです! お兄ちゃんは超希少な憑依特化型! 取りついた霊の能力を自由自在にカスタマイズできる!」
 宇月「うおおおおおおおおお、御三家すげえええええええええ」

 こいと「え? え? つまり飛鳥さん、変身した状態で私を取りつかせるってことですか?」
 宇月「それ以外に突破方法がない。頼む桃根ちゃん、どうなるかは分からんけど、君の力が必要なんや! ボクとヒエが上手いことサポートしたるから、頼む!」

 こいと「え、ええ……人間に取りついたことなんてありませんけど」
 飛鳥「頼みますこいとさん。やりましょう。飛燕とセンパイのサポート力は僕が保証します。二人は強いです」
 
 こいと「しょ、しょうがない、かあ。わ、分かりました。よろしくお願いしますっ。(どちらにせよ私も、もっともっと強くならないといけないんだ!)」

 飛鳥「それでは行きますよ! 術式展開:【転写】! 対象:番正鷹! えーっと3月31日生まれAB型、性格は面倒見がよく時に大雑把、饒舌、好きな食べ物はお寿司で嫌いな食べ物は家で出される高い定食料理、特技は料理(以下永遠に続く)」

 ~ボフンッと煙が上がって~

 正鷹(飛鳥)「よし、上手く行った! 慣れない身体で歩きづらいけど。うわ、めっちゃジャンプできる(ぴょーん)」
 飛燕「お兄様の体で遊ぶんじゃねえ!」
 正鷹(飛鳥)「よし、こいとさん、どうぞ! 思いっきりタックルしてもらって構いませんよ」

 こいと「は、はい。うおおおおおおおおおおおおおお!っひゃ(スイッ)」
 宇月「どうや?いったか?」
 正鷹(飛鳥)「うん、良い感じです。こいとさん、ちょっと僕技出してみますね」


 正鷹(飛鳥)「(思い出せ。お兄ちゃんがやってた、術の発動方法。体の使い方を……!」

 飛鳥は手を銃の形に組み、そっと腰を落とした。
 スウ、ハアと息を吐く。全身に、力がみなぎっていく。
 これが霊能力者最強(だった)兄の力。何という霊力。


 正鷹(飛鳥)「お兄ちゃん、ありがとう。行くよ!」






 正鷹(飛鳥)「番家流・憑依術! BANG!!!!」
 宇月「うわっ」


 飛鳥の右手のひさし指から発生したエネルギーの球は、正面にいた宇月の髪スレスレを飛んで行った。
 バコンッッッッッッッ!という凄い音が響き渡った。球が着地した地点のトタン板が、円形状に沈没している。

 

 宇月「こっわ! ボク! ボクの手と指ちゃんとついとる!? ちゃんと立ってる? こ、怖! 当たったら即死やったんだけど。ひぃいいいいいいいいっ」



 飛燕「…………な、懐かしいぜ。この桁違いの術の感触……。そうだったこんな感じだった。そりゃあ、拳一振りで300体倒すわ……」
 こいと(うわああああああ、何ですかあれ、何ですかあれ! なんかすっごい音したんですけど!??)


 
 正鷹(飛鳥)「はぁ……はぁ………はぁ………。OK、感覚はつかめた。これは、行けるっっ」
 宇月「ゴメン、今ので腰抜けてしもた。も、もうちょっと時間くれへん? た、タンマ」


 ※Next→終われま10!のクリアを目指すトキマリ組&天敵組!回答一致なるか。次回もお楽しみに。


 





 
 
 

 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【特別編更新しました!】 ( No.74 )
日時: 2023/12/18 11:11
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 [特別編:第9話]★トキマリ組×天敵組★

 【回答一致するまで終われま10! 継続中】

 お題bot「第18問~。問題:『体の大きい哺乳類と言えば?』open!」
 
 コマリ→熊
 美祢→シロナガスクジラ
 禍津日神→知らぬ
 由比→ゾウ

 美祢「だああああああ、おいマガ野郎! なんだこの回答は!」
 禍津日神「フン。我は過去に多くの動物を創造した。何万、何千もの種族を生み出した。いちいち覚えていられぬ」
 美祢「意地でも思い出せっ。次っ!」

 お題bot「第19問。問題:『パスタの具と言えば?』」
 
 コマリ「うーん。私は王道のアレが好きだけど、トキ兄はあっさりした味が好きだよね」
 美祢「ああ。良く作るな。潮の味がしておいしい」
 由比「あ、僕分かった。ど、どっち行きますか?」
 美祢「ここは王道で決めよう」
 由比「ま、マガさんは分かりましたか?」
 禍津日神「勿論」

 お題bot「open!」

 コマリ→ミートソース
 美祢→ミートソース
 由比→ミートソース
 禍津日神→知らぬ

 猿田彦「おおおおおおい戦犯! マガっち!」
 禍津日神「我は人間の血しか口にせぬ」
 美祢「ダメだこれ。おい由比、コマリ、この神の回答に合わせるぞ」
 コマリ・由比「はいっ」

 美祢「スマホの情報によると、宇月たちは順調らしい。俺らも早くタスクを終わらせないと」

 お題bot「第20問! 問題:『敵が膝をついて倒れています。貴方ならなんと声をかけますか?』」

 由比「(僕だったら『大丈夫?』になるけど、マガっちさんはそんなこと言わないよな)」
 美祢「(あいつは人の気持ちなんて考えていない。簡潔、それでいて冷酷な一言を考えろ)」

 コマリ「(えええええ、分かんないよお。『どうした、立てないのか?』とかかな? あ―ダメだ、どうしても読んでいるマンガのセリフになっちゃう)

 お題bot「open!」

 コマリ→フッ。愚かだな人間
 美祢→雑魚め
 由比→人間風情が
 禍津日神→どうした、大丈夫か

 一同「なんで!??」

 禍津日神「合わせろと言われたので合わせたまでだ」
 コマリ「マガっちさん、もう合わせなくていいんですよ。私たちが合わせますから。話ちゃんと聞いて下さい!」
 美祢「せっかく俺らが合わせに行ったのに、なんで逆を行く??」
 由比「キャラに合わない言葉書いちゃったよ……」


 美祢「あああああああ、もう! イライラしてきた! おいbot、質問ジャンルの変更とか出来ねえのかよ」
 bot「出来ます」

 一同「できんの!?」
 bot「皆さんが答えやすいお題ですと、憑きもんに関するものがございます」

 美祢「よし。それでいこう。特別編から俺らのことを知ってくれた読者の為に」
 コマリ「私たちで宣伝して好きになってもらうってことね!」
 由比「でも、合わせちゃいけないと!」
 禍津日神「フン」

 お題bot「第21問。『憑きもんのイメージソングを答えてください』」
 美祢「イメージソング???」
 コマリ「むうちゃんがYouTubeに保存して、よく聞いてるよね。モチベになるからって。つまりそれを答えるってこと?」

 由比「これは一致するんじゃないかなあ? むうちゃんから皆、話を聞かされているからね!」
 美祢「それじゃ、宣伝もかねて行ってみるか。せーのッ」

 コマリ→プライド革命
 美祢→プライド革命
 由比→プライド革命
 禍津日神→人間っていいな

 美祢「なぁんでだよッッ!なんでそれなんだよッ」
 禍津日神「人間のことを唄にした曲で、真っ先に思い浮かんだのがこれだったのだ。これをイメージソングにすれば、皮肉っている感じがして非常に気持ちいい」
 美祢「それはお前の感想ですよね!?」
 由比「マガさんの流行り曲は、昭和で止まってるんだね」

 コマリ「ってことで、憑きもん!のイメージソングはHoneyWorksさんのプライド革命だよ!キャラごとのイメソンは、【キャラ深堀紹介】に記載してあるから是非聞いてみてね!」

 お題bot「第22問!」
 美祢「いい加減決めたい……。おい、みんなラスボスの気持ちになるんだ。いいな!」
 コマリ・由比「はいっ」

 美祢「そんでおまえは意見を曲げないこと! 頭に浮かんだものをそのままフリップに書け。いいな!」
 禍津日神「御意」

 お題bot「22問。『憑きもんで一番強いのは誰?』」
 コマリ「来たっ、ラッキー問題! これはあれでしょ!」
 美祢「おい禍の神。自分を貫けよ頼む」
 由比「もうほぼ答え言っちゃってますよ美祢先輩」
 
 お題bot「open!」

 コマリ→禍津日神
 美祢→禍津日神
 由比→禍津日神
 禍津日神→我

 お題bot「パンパカパーン! クリアです! 皆様には次の部屋の鍵をお渡ししましょう!」
 美祢「よっしゃああああああああああああ!やっと出られるっ(ガッツポーズ)」
 

 コマリ「長い道のりだった……。ラスボスの気持ちになるって、難しいんだね」
 由比「うんうん。まさか、童謡が来るとは思わなかったよ」
 お題bot「それでは鍵をお渡ししますね」

 ~天井の通気口から、銀色の鍵が落ちてくる~

 一同「いや適当すぎる!!!」
 美祢「うおおおおおおおおっ、誰か拾って!」

 由比「任せて!右手だけ実体化させて……。(スイィと飛行移動。パシッ)キャッチ!」
 コマリ「おおおお。流石幽霊」
 由比「えへへ。この鍵を鍵穴に差し込んで」


 ~カチャカチャ~
 ~ギィィィィィィッ~


 由比「! 開いたっ。みんな早く外へ!」


 ~一同が、部屋の外に出ると~
 扉の先は、広い廊下だった。幅は一メートルほどだろうか。左手にある突き当りの壁は行き止まり。右手側は、シャッターで封鎖されている。

 どっちに行けばいいんだ、と辺りを見回した美祢。
 その視界に突然、ある人影が映り込んだ。

 宇月「うわ、ちょ、なんでここに居るん!?」
 美祢「! 宇月!? ま、まさか俺たち、戦闘組のすぐ近くで終われま10やってたってことか?」

 宇月「なんやよう分からんけど今取り込み中やねん!巻き込まれんのが嫌なら、はよ逃げや!」
 美祢「へ? うわっ、あれはさっきの、ゴキブリロボ!?」
 宇月「知っとるんかいな!」

 振り向いた先に、鉄製のゴキブリ型ロボットがいた。目を赤く光らせ、ホース状のアームを伸縮させている。
 それは間違いなく、美祢が数分前モップでバコーンと倒した、例の敵だった。

 コマリ「宇月さん!? なんでこんなところに居るんですか?」
 宇月「そのセリフまんま返すわ。なんでこんなところに居るん? ちょ、今マジでやばいから動かんどってな」

 コマリ「? うわ、何あのロボットッ」
 宇月「コマリちゃんがたちが何のお題やったかは知らんけど、ボクらの共通お題はアレを倒すことやねん。やから、ほんま動かんどってな」


 宇月「【黒呪符】!」
 ロボット「ウ゛ッ」

 宇月は、白衣のポケットから一枚の黒いお札を取り出し、それをロボットに向かって投げつけた。
 呪符はシュッと空気を切り裂いて、有刺鉄線の縄へと姿を変える。
 縄に右足をグルグルに縛られ、ロボットは大きくよろけた。

 宇月「今やヒエ!」
 飛燕「了解っすセンパイ! どりゃああああああああああああ!」

 曲がり角に隠れていた水色髪の少年が、宇月の掛け声を受けてバッと飛び出した。
 リスのような素早い動きで、敵の背後に回る。右足を踏み込み、軽々と彼は地面を蹴って空を舞った。

 ロボット「対象を確認シまシタ。攻撃にうつりまス」
 飛燕「今だ飛鳥! 撃て――――――ッ」


 

 
 


 飛鳥「【番家流:憑依術】……」





 ウルフカットの少女・飛鳥が術を発動しようとした0.001秒前。
 扉の隙間から顔をのぞかせたおかっぱの少年が、右手のひらから黒い球を発生させていた。





 禍津日神「なんだ、敵か」


 ※Next→憑きもんだよ、全員集合!(違う)。特別編はあと2,3話で終了になります。最終話公開時の閲覧数に応じて、誰の視点で本編を再開するかを決めます。よろしくお願いいたします。
うーん。カオスになる予感しかしないわね。


 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【本編・修正作業中です】 ( No.75 )
日時: 2023/12/19 12:53
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 
 [特別編:最終話]★憑きもんメンバー全員集合!★

 禍津日神「なんだ、敵か(技を発動させようとして)」
 由比「ちょっ、ちょっと待って!(禍津日神の前に立ちふさがる)」

 廊下の通路に取り付けられている扉から顔を出しかけた禍津日神を、白髪の少年が咄嗟に制した。
 白色のニットに、薄水色のシャツを着た彼の体は透けており、宙にフワフワと浮いている。

 禍津日神「なんだ童。退け。前が見えぬ」

 禍津日神は心底嫌そうに肩を回した。
 いきなり脱出ゲームに参加させられる、嫌いなものと一緒に同じ部屋に入れられるなど、ストレスの多い展開が今日は続いていた。
 これでやっと、自分の本来の目的――敵を排除すること―を行えそうだったのに。

 由比「こ、ここで術を発動すると、今戦っている人たちにも攻撃が当たっちゃいます! そうすると、貴方以外全滅する可能性もあります」

 俯き加減でボソボソと喋る由比が、珍しく大きな声で話し且つ自分を睨んできたので、禍津日神は目を丸くする。自己主張をせず、相手に合わせるだけの人間だと思っていたが、どうやら違うようだ。

 禍津日神「つまり一旦ここは奴らに任せろと」
 由比「はい。それに、この話が終わったら本編が再開します。人を死なせるわけには行きませんっ」
 禍津日神「成程なるほど。確かに。我としても遊び相手がいないのはつまらぬ。貴様の考えには納得できるな」

 由比「あと戦いの場では、自分の立ち位置を把握するのも重要です。僕たちが、あの場所でも戦えるかと問われれば……」
 美祢「まあ無理だろうな。俺はコマリのボディーガードとして、コイツの隣にいるのが最善策だろう」
 コマリ「そうだね。つまり私たちは宇月さんが言った通り、ステイするのが良い」

 コマリ「だけど……他の人たちが戦っているのに、何もできないのはなんか嫌だなあ」

 宇月たち霊能力者組は、現在もロボット―討伐Gメンロボと対峙中だ。禍津日神の発言のせいで、飛鳥が攻撃を発動するタイミングがずれてしまった。

 飛鳥はロボットの攻撃を回避することが出来ず、鉄製のアームによって数メートル先に飛ばされる。彼女が立ち上がるまでの時間を稼ぐため、宇月と飛燕がロボットに立ち向かっていた。

 ロボット「ガァアアアアアアアアアアア」
 宇月「【操心術!】」
 ロボット「!? ……(飛燕の方に向かっていく)」
 宇月「よし。って、いだああああああ!!??」

 宇月の能力である操心術は、長時間使い続けると頭痛や腹痛を引き起こしてしまうと言うデメリットがある。頭の中を駆け巡る鈍い感覚に、宇月は顔をしかめた。

 飛燕「大丈夫っすかセンパイ!?」
 宇月「……なんとか……ヒエ、そっち行ったで!」
 飛燕「ハイ!」


 ロボット「お掃除……しマす!」
 
 飛燕はロボットの攻撃を右に飛んで回避すると、ダッと右足を踏み込んで再び空を舞う。そして着地点が敵の頭上と重なると、両腕を前に突き出した。

 飛燕「【謁見】!髑髏!」

 シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!
 
 飛燕が詠唱すると同時に、黒い靄が彼の体から発生する。その靄から出てきたのは、体長約二メートルもある大きな骸骨だった。
 骸骨はガシャガシャと骨を鳴らしながら空中から落下。物理的に押しつぶされたロボットの頭部は破損。空いた穴から中の絡繰りが出てくる。

 ロボット「ブッ……ブスブスッ……」
 飛燕「飛鳥、いいぞ!」
 飛鳥「OK(よろよろと起き上がって)BANG!」

 飛鳥の指の先から発生したエネルギー砲が、ロボットにトドメの一撃をくらわす。正面から攻撃を食らった鉄の塊は、その後起き上がることはなかった。


 ★ミッション・コンプリート★

 アナウンス(正鷹)「お、やるぅ。みんなお疲れ! これにてすべてのミッションが達成されました! 突き当りのシャッターを上げます。出口はその先にあるから、安心して通ってください!」


 霊能力者一同「ふぅー」
 傍観者一同「ふわああああああ(感嘆のため息)」
 

 コマリ「すご……すごいよトキ兄! あの人たち、あっという間に敵を倒しちゃった!(目をキラキラさせて)」
 美祢「そ、そうだな。あっという間にじゃなかったけど、皆強いな」
 コマリ「漫画の登場人物みたい。いいなあ、かっこいいなあ! 後でサイン貰おっかなああ」
 美祢「なんで芸能人扱いなんだ。って、そんなに身を乗り出すなコマリ。まだいいって言われてないだろ!」

 こいと「はー、何とかなりましたねえ飛鳥さん!わ、わたし上手にできていましたかっ?(飛鳥の体から出る)」
 飛鳥「うん。ばっちりだったよ。僕の方こそごめんなさい、無理言って。ありがとうございました」
 


 飛燕「はぁ、はぁ、はぁ。やっと呼び出せた! ったく、見ろよこの手!(両腕を髑髏に見せる)」

 飛燕の両腕には、肘から手首にかけて血の線が引かれていた。

 飛燕「さっきから貧血でフラフラするし…もっと早く来いや……。炎狐と蜘蛛爺は制限時間切れでもう呼び出せねえし……。なんで今日こんな遅かったんだ?」
 髑髏「誰ガ行コウカッテ、モメマシタ」

 どうやら、飛燕と契約している妖が、謁見権を競い合っていたらしい。最初に出現した炎狐は周りの意見を聞かず飛び出してしまったようだ。蜘蛛爺は長年の付き合いなので、あっさり召喚できたが。
 
 飛燕「はぁ……って、う゛!?(頭を押さえて)い、痛ッ」
 宇月「あ、ごめん。ヒエに術かけてたから、それ解いたんや。どう? 体調とか平気か?」
 飛燕「は、はい。なんとか。平気っス!」

 美祢「(待って、あの骸骨喋れるんだ。すげえな)」

 ~憑きもんメンバー、全員でシャッターへと向かう~

 コマリ「お、お疲れ様です皆さん! す、すごかったです!(扉から出て)」
 宇月「おーコマリちゃん。美祢と恋人つなぎしたんやって? どうや、上手く行ったか?」
 コマリ「え、えと、まあ、はい。ていうか宇月さんも壁ドンしてませんでした?」
 宇月「あ、あぁー……うーん(目をそらす)」


 由比「い、いとちゃんっ! ぼ、僕のこと覚えてるかな」
 こいと「!? 由比っ」
 由比「ごめんね、いとちゃん。沢山言いたいことがあるけど、伝えるのはまだまだ先になりそう。いつかちゃんと、本編でも話すから」

 こいと「ううん、ううん。(ブンブンと首を振って)由比が元気そうでよかった! 待ってるよ、わたしも頑張るからっ」
 由比「うん、約束。お互い頑張ろう。指切り」
 こいと「ふふふ。また、一緒に笑えますように(小指を重ねる)」

 飛燕「あーあ、これ終わったらまた怒涛の毎日だぁ。うわ、冬休みの課題あるじゃん。マジだるいんだけど……しかもACEの研修もあるし」
 飛鳥「僕も色々やることが増えそう。はぁ」

 美祢「まぁ、たまにはこういう日も悪くないな」
 コマリ「そうだね。皆に会えたのも、逆憑きの効果かな。はは、だったら全然嫌な体質じゃないね」
 美祢「俺は迷惑してるけどな」


 アナウンス(正鷹)「それではみなさん、お憑かれ様でした――っ。次からは本編に戻りますので、またよろしくお願いします!」

 むう「只今本編修正中です。ちょっと文章が変わってたりするから、ご了承ください。話の展開はあんまり変わらないから安心してね。それではまた次回! ばいばい!」


 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【特別編終了&本編修正中】 ( No.76 )
日時: 2023/12/25 16:45
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 視点変更ルーレットをやった結果、コマリ視点になました。
 書きやすいし良かったかも(・・?
 あと本編修正・終了しました。変更した個所は、第一章です。
 今冬なのに、本編ではまだゴールデンウイーク明け。
 本編再開です。
 ―――――――――

 〈コマリside〉

 番飛鳥つがいあすかちゃんが転校してきてから早一週間。私は彼女と一緒に行動することが増えた。
 席が前後なので授業では頻繁にペアになるし、選択科目は同じだし。その上、なんと委員会や掃除場所まで一緒になっちゃったの。

 先生は「たまたまだよ」って笑っていたけれど……。うむむ、これも逆憑きの効果かしら。
 でも、最近私の悪運体質はだいぶ落ち着いているんだよね。

 というのも一か月前、私は同居している高校生・トキ兄のいとこから、魔除けの腕輪を貰ったんだ。お風呂に入る時以外はつけとけって言われてたので、毎日肌身離さず持ち歩いているんだけど。

 この腕輪、本当にすごい。毎日起きていたポルターガイストはぴたりと止み、突然雨が降ることも知らない人に突然声をかけられることも無くなった。よって、比較的安定した生活を送れているんだ。

 でも、私は『嫌なことが立て続けに起こる』のが普通だったわけで。未だ、些細な出来事も「これって……」って疑ってしまうんだよね。

 さて。話は変わまして。
 私は現在学校から歩いてニ十分ほどの距離にある自習OKのファミレスに、飛鳥ちゃん、そして幼なじみである杏里たちと来ている。

 今日は土曜日だったんだけど、学校がある日でね。午後は授業がないから、皆で勉強会も兼ねてご飯を食べに行こうってことになったんだ。
 ちなみに中学生は家族の同伴がないと買い食いできないため、杏里のお母さんが同行してくれている。ありがとう、おばさん。

「コマちゃん、そこの古文の読み方間違ってるよ?」
 対面に座る杏里が、テーブルに広げた私のノートを指さす。

「え? どこどこ?」
「上達部。うえたつべ、じゃなくて上達部かんだちめって読むんだよ。この前の授業でやったじゃん」

 もう、と頬を膨らませる杏里に対して、私は真顔。横に置いていた筆箱の中から消しゴムを取り出し、無言で回答を消していく。
 なんで部で『め』って読むんだろう。うーん謎だ。

「福野くんも、そこの英作文間違ってる」

と言ったのは、私の右隣でオレンジジュースを飲んでいた飛鳥ちゃん。  
 腰に巻いた学校指定のセーター、緩めた黒色のネクタイ。半袖Tシャツの下には紺色の薄手のヒートテックを着ている。

「え、どこ?」
「ほらここ。I going to play game this weekend.これ、なんて書こうとしたの?」
「え、『私は今週末ゲームをする予定です』って」

 飛鳥ちゃんは真剣な顔。

「be動詞が抜けてるよ。be+going to~で、○○するつもりだ・○○する予定だになる。このままだと『です』部分が抜けていることになっちゃう。Iとgoingに入る単語を考えてみて」
「えーっと。そうだ、am忘れてた」
「正解。よくできました」

 流石、元律院附属中。教え方が丁寧で無駄がない。彼女のワークブックや教科書は、テーブルの奥に閉じて重ねてある。
 なんとこの子、ファミレスに来てから数十分で今日出された課題を全部解いちゃったの。全教科合わせて、六つくらいはあったのに。

「飛鳥ちゃんすごいね。難しい問題もスラスラ解けてさ。先週やったゴールデンウイーク明けテストも満点だったじゃん」

 私はシャーペンの頭で頭を掻きながら、ちょっと不貞腐れて言う。
 自分もあれくらい素早く問題を解けたらいいのになあ。一問解くのに三十分かかるようじゃ駄目だよね……。

「そんなことないよ。僕の場合は友達が居なくて、ずっと勉強してただけだから」と飛鳥ちゃんは笑い、顔の前で両手を振った。

「人付き合いが苦手でさ。小1から小6まで、友達が出来なかったんだよね。その寂しさを埋めるために勉強してたの。中学入って話す人は出来たけど、あんまり気を許してなかったな」

 そういえば転校した日、学校に馴染めなくて公立中学に移ったって言ってたっけ。勉強が好きだから点数が取れているのかなと思っていたけど違ったんだね。

「そうなんだ。ごめんね、なんか」
「いいや。大丈夫だよ。今はちゃんと話せる友達がいるしね」
 飛鳥ちゃんの笑顔には、暗い影が落ちていた。
 
 ——小1から小6まで、友達が出来なかったんだよね。

 私も、同じような経験をしたことがある。
 逆憑きの対処法も分からず、頼れる人間もいなかったあの時期、自分の世界は黒一色に染まっていた。
 仲良くなった友達は、ほとんど引っ越した。運動会や遠足、体育祭、卒業式は全部雨だった。娘のせいで家の修理代は馬鹿ならない。自分が存在しているだけで、周りの人間が不幸になる。

 いっそ、死のうかな。と考えた日もあった。
 だけど今年の春、お父さんがアパートを紹介してくれて。トキ兄と出会って。私の生活は変わった。

『お願いします! 私の逆憑きを直してください! いい妖怪見つけてくださいお願いしますううううう!』

 トキ兄と初めて会った日、私は部屋の扉を開けた彼の足にしがみついて、泣きながら頼み込んだ。

『っ!? 何だお前!? はなれっ、はなっ』
『迷惑をかけるのは重々承知をしているのですが、わが家を倒壊させるわけにもいかないんですうううううううううう! この後このアパートも半壊させるかもしれませんけど……』

『なにそれ怖ッ。ちょ、半壊させる奴と一緒は流石に無理なんだが』
『う。うぅ……』
『うわ。泣くな! 分かった、分かったから。とりあえず話聞くから!』
 
 想えば、トキ兄には色々と我慢させてしまっているよね。幸い台風が直撃することはなかったけど、ポルターガイストが起こるだけでも十分怖かっただろう。
 
「私も沢山の人に迷惑かけてるから、その気持ちは分かる」
「そっか。月森さんも色々苦労してるもんね」
 飛鳥ちゃんはトレーに並べられたフライドポテトを頬張る。

 ………って、あれ? 今の発言、なんかおかしくなかった?
『月森さんも色々苦労しているもんね』。色々苦労しているんだね、じゃない。『苦労しているもんね』だ。

 飛鳥ちゃんはこんな風に、まるで私の過去を知っているかのような口ぶりで話すことが度々ある。
 転校初日にも、『嫌なことが起こらないといいね』と言っていた。図書当番で一緒になった日は、私に妖怪大辞典をお勧めしてきた。

 これは、偶然? それとも彼女は、私のことを知ってる?
 もしかして過去に会ったことがあるのかな。珍しい苗字と名前。一度会ったら忘れることはなさそうだけど……。

「ねえ、飛鳥ちゃん。私と飛鳥ちゃんって、昔会ったことあったっけ?」
「なんで?」と飛鳥ちゃん。
「だって。いかにも私のことを知ってそうな言い方だったじゃん。ちょっと不思議だなって思ってさ」

 幼稚園が同じだったとか? いや、一個下の学年にも知り合いはいたけど、番なんて苗字の子はいなかった。
 転校した友達ではないよね。そもそも歳が違うし。
 スーパーやデパートで見かけたとか? けど、それだけで私が苦労していることが分かるものなのだろうか。もしそうならエスパーとしか……。

 恐る恐る右隣を見る。
 飛鳥ちゃんは、「ふふっ」と妖艶に笑い、テーブルに頬杖をついた。綺麗に磨き上げられた爪に照明の光が当たる。

「どっちだと思う? ていうか、どっちなら月森さんは安心するの?」

 

『うん』でも『いいえ』でもない返答に、私はただただ目を白黒させるしかなかったのでした。

 ――――――――――
 
 ※次回に続く。
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【本編再開!】 ( No.77 )
日時: 2024/01/06 11:16
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 【お知らせ】
 テスト勉強であまり更新できません。
 よろしくお願いいたします。

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【本編再開!】 ( No.78 )
日時: 2024/01/06 11:18
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)

 〈コマリside〉

 「なんてことがあったんだよね」

その日の夜。家に帰った私は夕ご飯のチャーハンを頬張りながら、今日のことをトキ兄に相談した。
トキ兄は私のボディーガード。よって、私は彼に少しでも違和感を感じる出来事があれば遠慮なく話すよう言われている。こいとちゃんの件もあり、私たちは前以上に会話をするようになっていた。


「ふーん。つまりその、飛鳥ってやつが怪しいってこと? うわ、なにこの豆腐!? なんで三角形なんだよ」
「半分に切れって言われたから」
「斜めに切ろうとするやつ始めて見た。うわ、ネギも繋がってるし!こっちの大根は短冊みたいだし。お前なあ……」

 
 トキ兄はお盆の上に置かれた味噌汁を飲む。ちなみにこの味噌汁に入っている具は私が切ったものだ。おかげで無残な形になったけれど、結局食べるんだから問題ない。問題ない、はず。


「そういえば、俺が今バイトしてるAⅭEって事務所に、飛燕っていうやつがいるんだけど。番って苗字だったよ」
「え、そうなの?」
「確か双子の妹居るって言ってたっけ。待って。どっかに書類が」

 トキ兄は茶碗をお盆の上に置くと、部屋の後ろの方へかけて行く。部屋が狭いので、棚に入らなかったモノが奥に散乱している。彼はそこをゴソゴソ漁り、一冊の冊子を取って戻ってきた。

 灰色の表紙で、タイトルには『AⅭE メンバー表』とある。
 トキ兄はメンバー表をペラペラとめくり、一番最後のページを開いて私に差し出した。

 社員さんの顔写真が紙面いっぱいに印刷されている。例えるなら、卒業アルバムみたいな。

「ほら、ここ。番飛燕つがいひえん
「あ、ほんとだ。漢字も一緒」

 トキ兄の知り合いだと言う飛燕くんは、活気の良さそうな顔をしていた。童顔で肌が白い。水色の髪の先っぽは寝癖で外側に跳ねている。

「宇月の後輩らしくてさ。アイツと一緒に話しているのをよく見かけるよ。バイトに行った時も『こんにちは!』って大きな声で返してくれてさ。なんか、犬みたいだよな」

「ふうん。飛鳥ちゃん、双子のお兄ちゃんいるって転校初日に言ってたし……。飛燕くんの妹なのかな? 」

 あ。AⅭEっていうのは、霊能力者の育成施設らしい。政府非公認の組織で、一般人にその情報は公表されていない。AⅭEの事務所には結界が張られており、関係者以外の侵入を防いでいる。

 トキ兄は宇月さんの紹介で、AⅭEのお手伝いに行くことになったらしくてね。週三回、いとこさんと電車に乗ってバイトに行くんだ。

 バイト内容は部屋の掃除や書類整理、結界の調整とかだったかな? 結界の調整って、どうするんだろう。聞きたいけれど、企業秘密で詳しいことは教えてくれないんだ。

「飛燕と一応LINE繋がってるけど、聞く?」
「でもなんて答えればいいの? 下手なこと言ったら私まで怪しまれちゃうよ」
「妹さんがお世話になってます、でいいんじゃね? そこから徐々に質問して情報を引き出していこう。怪しくなかったらそれでいいし」
「そ、それでいいのかなあ……」

 トキ兄は自分のズボンのポケットからスマホを取り出し、私を見る。スマホケースも蛍光色のピンク。触れていいのかダメなのか、未だに分からない。ピンク好きなの?って、言っていいのかしら。

 トキ兄の指が、通話ボタンに当たる。プルルルル……プルルルル……とコール音が三回なった後、電話の奥でブブッとノイズ音がした。

『はい。番です』
「あ、飛燕くん? 俺、美祢だけど」

『お――――――ーっ、時常センパイ! どうしました?』
「お前、何してた?」
『俺すか? 任務終わりで、今事務所のシャワー室出たところです!』

「……そうなのか。悪いな、いきなりかけて」
『いえいえ!もうドライヤーも使いましたんで!』

 飛燕くんの声は、私にも聞こえるほど大きかった。声量が大きいのと、良く声が通るのと、口調が明るくハキハキしているのとで、とても聞きやすい。

「ちょっと話がしたくて」
『? あ、シフト合わなかったですか?』

「いや、シフトはいいんだけど。知り合いがお前と話したいって言ってて。なんでも、お前の妹と同じクラスらしいんだよ。それで、世話になってるって挨拶したいらしくて」

『あ、そうなんスねすいません! わざわざ!』
「OK。じゃあ、変わるわ」

 トキ兄はスマホを耳から離すと、私に差し出し軽くうなずいた。
(よ、よし。行くぞ)と、ゴクリとつばを飲み込む。
 怪しまれないように、自然に会話をするんだ。頑張れ私!

「あ、あの、こんにちは。わ、私、月森コマリと言います……。あ、あの、妹さん……飛鳥ちゃんに、お世話になってます」

『―――――』

「あ、あの? き、聞こえてますか……??」

 ―――――――――

 次回に続く。



 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【本編再開!】 ( No.79 )
日時: 2024/01/06 11:32
名前: りゅ (ID: vHHAQ2w4)

素敵な小説ですね!(⋈◍>◡<◍)。✧♡
更新頑張って下さい!

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【本編再開!】 ( No.80 )
日時: 2024/01/11 18:32
名前: むう (ID: F7nC67Td)

……(つд⊂)ゴシゴシ
……( ゚д゚)ハッ!
……(;つд⊂)ゴシゴシ


え??????
夏の大会と冬の大会どっちも入賞してる??

更新全然してないのに? 嘘…
あ、ありがとうぅぅううう!!!

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【本編再開!】 ( No.81 )
日時: 2024/01/13 16:29
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)


 【コンテスト入賞!ありがとうございます/重要なお知らせ】


 こんにちは、こんばんは。または初めまして。むうと申します。
 この度、2023年冬★小説コンテストで拙作「憑きもん!」が銀賞を受賞しました。
 本当にありがとうございます。

 実はわたくし・むうは現在、長時間小説を書くことが出来ません。
 過去に色々ありまして、小説を書くこと・何かを想像すること・自分の力で発表することがトラウマになりました。

 その色々というのが、昨年の9月くらいからポツポツと発生しまして。
 その時は、丁度夏の小説大会が開催されていましたね。
 夏をカキコで過ごして、乗り越えられるかな?と思ってましたが、現実はそう簡単に進まない。

 下がるメンタル、欠如していく想像力、湧かない気力。
 プロットを作る気力も、現在はありません。

 「あれ、私って今までどうやって小説書いたっけ?」と藻掻く毎日。
 文字を打つけれど、すぐに疲れて途中で断念してしまいます。本編を読んでくださった方ならわかると思うのですが、第3章→第4章で文字数がグンと下がっています。

 実は特別編公開あたりからこんな感じなんですよ。
 なので、もしかすると前作・「カオスヘッドな僕ら」のように、途中で更新を停止するかもしれません……。

 むうは、嬉しかったです。
 しんどいしんどいって言いながら書いてるのに、まだ見て下さる方がいて。

 小説書くのやめようかなーとも、考えていたんですよ。
 というのも私は通っている精神科の心理テストで、「性格の気質上、こういった公の場で活動することが極端に苦手である」「先が見えないものを想像する力は同年代の子供と比べて極端に低い」と判断されたんです(泣)

 マジで向いてねえなって、凹みました……。
 でも一度憧れてしまったから、諦めることが出来ないんです。


 小説を書きたい。
 上手くなくても良いから楽しんで書きたい。
 動け右手っ(叫び)

 
 申し訳ございませんが、しばらく小説更新ををお休みさせてもらいます。
 その期間に多くの物事を経験し、メンタルを強くしたいです。
 現在、様々な方に協力を頂いて、ゆっくり精神状態を回復させている状況です。

 続きを書けるかどうかは分かりませんが、更新してたら『むうが一生懸命書いたんだな』と思ってください。1000字書くのも辛いんです!

 小説は書けないけれど、文章を打つことは好きなので、たまに雑談掲示板の自スレで独り言を呟いています。良ければそちらもよろしくお願いします。

 
 2024年1月13日 むうより