コメディ・ライト小説(新)
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.1 )
- 日時: 2023/12/17 11:00
- 名前: むう (ID: F7nC67Td)
【プロローグ】
「ねえ、私呪われてるのかな?」
小学六年生のとき、近所の神主のおじいちゃんに尋ねたことがある。
いきなりのことだったので、おじいちゃんは目をぱちぱちさせながら私を見た。
「どうしたコマリ。またテストの点が悪かったんか?」
「だってどの教科ずぅーっと44点なことある!? 台風が毎回うちを直撃するし、この前の修学旅行は新築ほやほやのホテルだったのに、急に全部屋停電するし!」
まだ小っちゃかった私は、彼の袴にしがみついてわめく。
加えて運動会では未だに晴天をおがめず、誕生日に限って熱が出るし、一緒に登下校していたお友達は皆引っ越すか転校しちゃう。だからいつもひとり。
「……国語、算数、理科、社会ぜんぶ44点なの」
今回は5教科だけだったけど、家庭科でも音楽でもこうだった。
「ひとつだけ聞くけど、しっかり勉強はやったんよな」
おじいちゃんの眉間にしわが寄る。
私が馬鹿だと疑っているのだ。失礼!
「50点満点のテストだったりとかは」
「100のうちの44。もうこれ死ぬかなあ!? きちんと復習しても、塾に通っても44のままなの。めっちゃ不吉」
最初は自分の努力が足りてなかったのかなとも思ったけど、同じ成績が六年間続くと流石に努力とかそういうものではないと確信した。
授業もしっかり出てノートもきちんと取ってるし、宿題も毎日やってる。なのに点数は毎回なんとも微妙な数字。
「ね、やっぱ悪霊のしわざだよ。なんか憑いてるよぉ! おじいちゃん霊感あるんでしょ。教えてよ」
するとおじいちゃんは難しい顔になって、顎に手をあてる。
「うーん。でも、見た感じ悪霊の気配はしないんだよなあ」
霊の存在を否定された。
ってことはつまり、『おまえのせいだ』ということなのかな。
「えぇ!? ちがうよ私馬鹿じゃないよ!」
「もしかしてあれか? んー、じゃがあれはかなり確率が」
「なに? なんなの?」
神主のおじいちゃんはモゴモゴと口を動かして、言おうか数分間迷っていたけど、私の強い視線にとうとう根負けして口火を切った。
「【逆憑】何万人に一人、なるかならないかの、とんでもなく珍しい体質だ」
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.2 )
- 日時: 2023/12/17 11:02
- 名前: むう (ID: F7nC67Td)
【第1話:ヘンな同居人】
「おーいコマリ、もしかして俺のカップラーメン食った?」
学校から帰って部屋に入るなり、床に寝そべってスマホゲームをやっていた男の子がチッと舌打ちした。
黒いパーカーに、ジャージのズボンというラフな格好に、ピンクに染めた髪がなんとも似合って……ない!
本人はおしゃれと思っているようだけど、めちゃくちゃアンバランスだ。
「え、あれ? キッチンのカウンターに、『食べて下さい』的な感じでおかれてあったら、食べるに決まってんじゃん」
私は悪びれずに答えると、肩から学生鞄をおろして軽く伸びをする。
「バッカお前!! あれは俺のだっつーの」
「おいしかったー。明日も買って来てね」
「はあ!? お・ま・え・なぁ……わさびでも入れればよかった……」
とため息をつく同居人を軽く受け流すのが日々の日課。
私の名前は月森コマリ・14歳。
現役の、ちょっと変わった女子中学生です。
□■□
私は、お父さんの知り合いが経営しているアパートに住んでいる。
去年までは普通に家族と一軒家で暮らしていたんだけど、毎年毎年台風の影響を受ける家で過ごすのは、かなりお父さんたちも怖かったようで。
「というわけで、コマリはそのアパートに住みな。お父さんとお母さんはおばあちゃんちに行く。 自分のせいでこうなったって思うのもしんどいだろ」
職業柄なのか、心理カウンセラーをやっているお父さんは、娘を困らせないよう、ゆっくりと説明してくれた。
「お前の言う『ギャクツキ』がなんなのか、お父さんはわかんないし霊感もないから、力になれなくてごめんな」
「いやいや、お父さんが謝ることじゃないし……。あと毎回家を半壊しにして、ごめんなさい」
逆憑きというのは、自分の行いや行動全てが悪運を引き起こしてしまうというあまりにも迷惑な体質だった。
神主さんが言うには、悪い霊などは向こうから人間にとり憑くが、私の場合は霊が大好きな「負のオーラ」を自らまとっているらしく、それは『憑いてもいいですよー!』というサインにもなるみたい。
よって、悪運に次ぐ悪運で、負の連鎖。
自分が死なない限り、この運命から抜け出せる道はないとのこと。
(なんでそんなまた面倒な体質に———!?)
娘のせいで、家の屋根は風で吹っ飛ぶわ、雨漏れするわ。
これじゃ一生親孝行できないし、お腹を痛めて生んでくれたお母さんにも申しわけなさすぎる。
お母さん自身はのんびりした性格で、「あら~レア引いた?」とゲーム感覚で呟いてたけれど。
「お父さんの知り合いの時常さんとこの息子さん、霊感あるらしいから、同じ部屋にしたけど大丈夫かな? コマリももう14だし、さすがに男の子と一緒は……」
「ううん、大丈夫! 私恋愛マンガより少年マンガ派だもん」
「そ、そんな基準で大丈夫なのか?」
「平気!」
とまあ、こんないきさつで、現在私は(二歳上の霊感バチバチの)男の子との生活をすることになったのだった。
ちなみに時常さんちの子なので、縮めて「トキ兄」と呼んでいます。
□■□
「トキ兄さぁ……」
トキ兄がゲームをしている横で、私は今日配られた教科書に名前を書く作業を始める。
「んだよ」
「いや、自ら髪染めて校則やぶって退学とかよくやるなって思って」
時常美祢という優等生みたいな名前なのに、彼の過去はかなりぶっ飛んでいる。
小学生の時は沢で釣ったザリガニを学校に持って行って、教室を水浸しにした。
中学校の時は【ミネ・ダークネス】と自分で名乗り、恥ずかしくなってその後学校に行けなくなった。
高校生になって、高校デビューを決めようと思って髪を染めたあとで校則に気づき、現在に至る。
「馬鹿なの……?」
「馬鹿って言うな44点ガール」
「だってそうじゃん! 色々と痛いし、全然似合ってないし。黒髪に戻したほうが良くない?」
初めて会った時の衝撃ったらなかった。
エクステとか、髪の一部分だけではなく、全体蛍光色のピンクなのだ。
『わぁー……』が第一声となってしまった私も失礼だけど、あれは仕方なかったと思う。許してください。
「もう吹っ切れたからいーの。似合わねえって笑われても自分的にはかっけえと思ってるし」
こう言う人に限って時々とんでもなく良い名言を言うものだから、私はいつも反応に困る。
「………そ、それならいいけど……」
「てかお前、いつになったらマシな幽霊連れてくんの? なんか、泣きながら『一生のお願いですいい幽霊見つけて下さい頼みます』って足つかまれたの、マジ怖かったんだけど」
逆憑きの対処法は二つある。
一つ目は『死ぬこと』。
色々大変だけど、人生は楽しい。私はまだまだ生きていたいので、これはナシ。
二つ目は『いい妖怪や幽霊を見つけて、その力を借りること』。
逆憑きに惹かれて集まってきた霊の中に、もし縁起のいい妖怪とかがいればの話にはなるけれど、彼らに土下座するなりなんなりして、協力してもらう。
そうして、日々起こる危険を守ってもらうことで、安心して生活できるってわけ。
んで、霊感のあるトキ兄の力でなんとかならないかなーっと踏んでいたのですが、残念ながらそう都合よくはいかなくて。
「あのなあ、俺も霊が見えるだけで神様じゃないんだからさぁ……。ボディーガードするだけでも疲れるっつーの」
「ま、まあまあトキ兄、拗ねないでよぉ。私はトキ兄がいてくれて助かってるよぉ」
悪運強すぎる中学生と、素行悪すぎる霊感男子。
これをネタに誰かが漫画を描いてくれることを祈ります。なんてね。
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.3 )
- 日時: 2023/12/09 09:27
- 名前: むう (ID: F7nC67Td)
翌日は土曜日だったけれど授業がある日で、私は眠い目をこすりながらクラスの入り口の扉を開ける。
ガラガラッ!
ものすごい音が部屋内に響き渡った。
うちの学校・ともえ中学校は今年開校六十周年を迎える。おかげで建物のいたるところに隙間が出来ていて、冬場はけっこう寒いのだ。
「あーコマちゃん。おはよー」
「おはよー月森」
「お、杏里に大福。相変わらずラブいねぇ」
声をかけて来た、ゆるいハーフアップの穏やかな女の子が星原杏里。
幼稚園からの腐れ縁で、英語教室やスイミング、書道などたくさんの習い事をしている。くわえて吹奏楽部でフルートも吹いているので、華奢な見た目の割にめちゃくちゃタフ。
その横で、椅子ではなく机の上に腰かけているチャラそうな男の子が福野大吉。縮めて大福。
この二人、お母さん同士が友達なのもあって、一緒にいることが多い。性格的には杏里が大福に振り回されそうだけど、全然そんなことはないのだ。
よって、クラスメートの一部の人の間で、『早く甘い展開が見たいわ~。和菓子組』と呼ばれたりもしてる。
「お、そういや月森! 昨日の【怪異探偵Z】観た? エンディング変わってたぜ。チョーかっこよかったよな!」
大福が話題を振る。
怪異探偵Zというのは、少年漫画誌で大人気連載されている、漫画原作の怪異コメディアニメ。
そう、コイツと私は少年漫画好き仲間なんだ。
「ううん。私昨日は観てない……」
教室の最後尾の机にいったん鞄を降ろし、私は二人に近寄った。
さてさて、通例行事・二人の話に入るとしましょうか。
「めずらしいね。コマちゃんがテレビ観ないなんて。放課後カフェ寄ろうって言っても、『アニメやるから』ってキャンセルしてたじゃん~」
のんびり口調の杏里だからこそ、言及されると心に来るものがある。
私は言葉を詰まらせながら、そうっと視線を横にずらした。
「いやぁ、そのことはいいじゃん」
「よくない―。私わざわざ時間作って話しかけたのに」
「ご、ごめんって杏里~!」
両手を合わせて必死に頼み込むこと数分。ようやく彼女のお許しが出た。
この子、真面目で頑固だから、約束を破るとこうやって言及してくる。
私がオフの日は杏里の方で予定があり、なかなか一緒に遊べない。
大雑把な自分は、今日みたいにちょくちょく親友を無意識に傷つけてしまうことがあって。
「ふうん。じゃあお前、あの回観てねえのな。神回だったぞ」
「え、ちょっとネタバレは! ……ああ、昨日、トキ兄とちょっともめててリアタイ出来なかったんだよ」
カップラーメンを黙って食べてしまったことが逆鱗に触れたようで、あの後おつかい……ああいや、パシリに駆り出されたのだ。
ほんっと、あの人人使い荒いんだから!
「「トキ兄……?」」
杏里と大福の声がピッタリと重なる。
お互い首を傾げて、腑に落ちないって感じで腕を組んでいる。
「誰そいつ。おまえ兄ちゃんいたっけ?」
と聞かれて、私は自分のミスに気づく。
そうだった!
今日は新学年になって初めての土曜日。引っ越しやら始業式やらでバタバタしてて、同居生活のことを話し忘れていたんだっ。
(ど、どどど、どうしよう………!??)
お父さんの時のように漫画を理由には出来ないし、かといって素直に伝えたら、恋バナ好きの杏里は絶対食いついてくるだろう。
となれば大福も当然杏里と一緒に問いただしてくるから……。
「ねえねえコマちゃん」「おい月森」
あぁぁぁぁぁぁぁ! やばい、やばいよぉぉぉ。
「「もしかして、好きな人でもいるの?」」
………………は??
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.4 )
- 日時: 2023/01/19 19:40
- 名前: むう (ID: viErlMEE)
す、好きな人?
なんのこと、なんの話??
私は二人から放たれた言葉に、一瞬めんくらう。
え!? 男の子と女の子が一緒に暮らしてたら、好きな人ってことになる世の中なの? それがふつうなの?
戦隊ものやアクションバトルに毒されて育ったのが、月森コマリという人間。こういうときにどういう反応をしていいかすらわからない。
なんでみんな、色恋沙汰にしちゃうの??
「だって、知らない男の子と暮らしてるなんて、好きな人以外ありえないよね」
と、杏里は言う。
「え、コマちゃん、どんな子がタイプなの?」
勝手に風呂敷を広げないでください。
好きなタイプ? 人をパシリに使わない優しそうな子かなぁ……。
「ちちち、ちがうよ! アパートの大家さんの息子さん! ちょっといろいろあって、引っ越すことになって、その、まあ同棲ってことにはなるけど、全然、全然そんなんじゃ!」
慌てて返したけれど、残念ながらフニャフニャと萎れた声では何もごまかせず。むしろ、言い方のせいで、更に誤解を生みそうだ。
と。
「アパートの……」
まだなおも獲物を狩るハンターのように目を輝かせている杏里を、大福が止めた。
「おい杏里、もうやめようぜ」
杏里の右手を掴んで、手元に引き寄せる。不意を突かれて、杏里は足をもつれさせ、「おっとっと」とよろける。
「えぇー、この先おもしろくなりそうなのに」
「人の話に突っ込み過ぎるのもアレだろ」
大福の言葉に私はウンウンと深くうなずいた。
さっすが大福! やっぱ持つべきものは仲間だよ。
これでやっと話を終わらせることができる。
いきなり幽霊が、妖怪がなんて言ってこわがらせるわけにもいかないし、この二人とはこうやってバカやってる方がこっちとしては楽でいい。
しかぁし。
「ってことで月森、放課後こっそり俺に彼氏の写真送ってくれ」
「!??」
類は友を呼ぶ。
幼なじみの言動を背後から見守っているこの男は、杏里の行動を真似する傾向にあるのです。
キーンコーンカーンコーン
「お、朝礼始まるぜ。じゃあまた後でな!」
「ちょ、ちょっと……」
うまいこと交わされ、右手を伸ばした状態のまま固まること数分。
その間、チャイムの音に合わせて、教室の後ろでおしゃべりをしていたクラスメートが自分の席へ戻っていく。
朝の元気はどこへやら。
まだ朝礼も始まってないというのに、私のやる気はすっかり削がれてしまいました。
自分の席へと進む足取りの重いこと重いこと。
『……おまえぇぇぇ。ふざけんなよ』
制服のスカートに忍ばせていたスマホがブブッと震動する。
私は席に着くと、机の引き出しの下でこっそりとスマホを開き、その画面―テレビ通話画面を確認する。
わがボディーガードの眉間には、深いしわが刻まれていた。
嫌だいやだとあれだけ叫んでいたのに、真面目なのか不真面目なのか。
『おじさんに頼まれて、わざわざ家から電話繋いでやってるのに……おい、あそこはせめて否定しろよ!? おい、どうすんだよ!? 俺ら、そんなハートフルな付き合いじゃないってのに!』
「それは充分把握しております……」
夜な夜な、部屋にひとつしかないテレビの視聴権をかけて〈叩いて被ってジャンケンポン〉をしている仲だもんね。
『最悪だよ! 引き受けるんじゃなかった! どうするよ、お友達の中で俺らがカップルに変換されるんだぞ責任取れよ!』
「新展開ラブコメディってことにすればナントカ」
『なーに受け入れてんだお前ぇぇぇぇぇ!! ミネ・ダークネスは色々とアウトだろーがっっ』
……あーあ、ことごとくついてない。
こんなので本当に、私の人生上手く行くのかなあ!?
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.5 )
- 日時: 2023/12/17 11:13
- 名前: むう (ID: F7nC67Td)
テスト勉強の休憩時間に書いてます。
テスト大嫌い! うわん。
今回はミネ・ダークネス主役なのでお楽しみに。
毎日投稿できなくてごめんなさい。
-------------------------
【第2話:誰だお前】
〈美祢side)
机の上に置かれたパソコンにケーブルをつなぎ、横にはペットボトルのコーラをセット。眠くなったとき用にブランケットを椅子の背もたれにかけて準備完了。
時常美祢流・ネットワーク環境の完成だ。
俺の父親の知り合いである月森さんちの娘・コマリと暮らすことになって早一週間。
生まれながらの悪運体質によりことごとく人生を棒に振っている彼女を危険から遠ざけるべく、今俺はこうしてコマリを監視している。
「いやこれ一歩間違えればストーカーだろ……」
考えたら終わりということはすでに理解済みだ。
なにも知らない奴からしたら、電話を繋いでまで女の子と話したい痛い人間だと思われるのに違いない。
そもそもこの同居生活は、俺へのダメージがデカい。
コマリが引っ越して一週間になるが、家のあちらこちらから変な音が聞こえたり、電化製品が次々と壊れたりと、逆憑きの影響をモロに受けている。
明らかにお互いの得失が嚙み合っていないのだが、コマリの父は俺の父さんの大学時代からの友達。「無理です。俺の負担がでかすぎるんで」と言えたら良かったのだが、幼少期に遊びにつれて行ってもらったこともあり、彼のお願いに嫌と言うことが出来なかった。
あー! 頼みごとを断れない自分の性格が憎い!
「えーっと。とりあえず強い霊力は今んとこないな」
俺は小さい時から霊感があり、霊の気配を感じることができる。この能力は写真や動画など画面越しでも使える便利能力だ。
スマホの画面を再確認する。
コマリは授業中だというのにノートも取らず、堂々と配られたプリントで紙飛行機を作っていた。
幸い先生は、列の間を歩かず一時間教卓前で位置固定するタイプなので、気づかれてはいないようだけど。
「アイツ…自ら災いの種をまいてやがる。逆憑きなのを怠ける理由にするとは。だから44点取るんじゃねーの?」
カップ麺を無許可で食うわ、失言は多いわ授業はさぼるわ。
少しはましな行動を取れないのかコイツは!
「おいコマリ。霊じゃないけど悪い気配を感じる。古典の石橋先生は怒ると怖いぞ」
コマリの通っている中学は公立なので、俺も昔はそこに通っていた。現在コマリのクラス担任兼古典教師の石橋先生は、俺が中1だったときの学年主任の先生だ。
ああ、あの時怖かったなあ……。
あの先生の目の前で「必殺★ウルトラダークネススマッシュ!」と右手を突き出した思い出、今でも忘れられないぜ……。はは。
『えっマジッ? バレてる??』
「なぜバレてないと思ったんだ。一番後ろの席は意外と見えてるもんだよ。ほらほら、石橋先生が眉をしかめたぞ。早く教科書出せ」
いつもふんわり笑顔の優しい石橋先生は、ムッとした唇を嚙んでいる。スマホ越しでもわかる不機嫌そのものの態度。
ガサガサッ。
コマリが慌てて通学カバンをまさぐったのと、石橋先生がパンパンと手をたたいたのがほぼ同時だった。
『つーきーもーりーさぁん?」
ひどく間のびした声は、暗く重い。
『教科書140ページ開いてって言ったよね。そんなんだと、ゴールデンウイーク明けのテスト赤点になっちゃうけど大丈夫なの?』
『……うう』
コマリは苦虫を嚙み潰したような顔になって、視線を宙にさまよわせる。
『トキ兄めえ』
『月森さん? 教科書開いてね?』
俺の専門はお化け関連なので、これに関しては完全にお前のせいだ。
バーカ。ざまあみろ、バーカバーカ。
パートナーに反して、俺の心は有頂天。
毎度毎度俺を困らせている罰だ、とっとと報いを受けろ!
「ふふ、ふふふふふ」
「あのー」
「あはははははは、その間抜け面! あはははははは」
「あの!!!」
と。
パソコンに向かってニヤニヤしていた俺を、とある声が我に返らせた。甘ったるくてちょっと滑舌の回っていない幼い声。
「ぎゃああああああっっ!? だ、だ、誰ッ!? え、なに!?」
俺は後ろを振り替え……(いいや、椅子がローラー付きだったので正しくは椅子が回転しただけだが)、背後にいたその人物の姿を視界にとどめる。
「え、えっとお。こ、こんちゃですっ」
声の主―茶色の髪を低い位置で二つ結びにした少女は、宙に浮きながら右手を振る。
「あ、あれ、あの、えっと。うち、月森コマリって子に用があって訪ねたんですけど、お留守ですか、ね」
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.6 )
- 日時: 2023/01/26 15:19
- 名前: むう (ID: viErlMEE)
【お知らせ】
2月1日までテストなので更新できないです(-_-;)
すみません。次回をお楽しみに。
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.7 )
- 日時: 2023/12/18 11:04
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)
〈美祢side〉
「あいつに用?」
俺が尋ねると、ツインテール少女は「はいっ」と応じた。
紺色のセーラー服の上に、白色のパーカーを羽織っている。首を縦に振る度、結んだ髪の先っぽが揺れた。
「うち、桃根こいとっていいます。あ、一応幽霊です」
「ちょ、ちょっと待って、何その名前」
「? おかしかったですか? わたしの母親、編み物が好きで。そこから取ったんですって。可愛いので、自分も気に入っているんですよねー」
ももね・こいとだって?
なんだその、漫画とかアニメとか恋愛ゲームとかに出てきそうな名前は。
自己紹介で名乗れば『え、その名前可愛いね!』と話題になる人間じゃないか。
え? 俺の場合は名前負けして『ミネ・ダークネス! 飯行こうぜ』といじられるようになったよ、アーメン。
こいとは空中を漂いながら、うーんと腕を伸ばしている。どうやら幽霊なのは確かなようだ。
華奢な身体がうっすら透けているため、対面の位置にあるドアノブが彼女を通して見える。
「まあ、会ったのも何かの縁だ。こっちも自己紹介しておくよ。時常美祢だ。よろしく」
作業用の椅子から立ち上がり、俺は彼女の方へそっと手を伸ばした。相手は幽霊なので、握手を交わすことは出来ない。それでも、初対面で何の挨拶もしなかったら失礼だ。
こいとは「あははっ」と楽しそうに笑い、俺の前へスーッと移動する。そして、差し出した右手のひらから少し離れた位置……を手でなぞった。エア握手。
「よろしくお願いします、美祢さん。そういえば、貴方はわたしのこと視えるんですねっ」
「生まれつき霊感があるからな。そのせいで厄介な任務を押し付けられて、迷惑してるけど」
「もしかして、コマリさんのことですか?」
知ってるのか?
まあ、そりゃそうか。こいつは、コマリに会うためにこの家に来たのだから。
っていうか、どうやって家の住所を特定したんだ?
「幽霊友達に教えてもらいました」と、こいとがニッコリと笑う。
「幽霊友達?」
「はい。わたし、去年事故で死んで幽霊になったんですけど、行く宛がなくて。ブラブラと街を彷徨う生活をしていたんです。その暮らしが一週間くらい続いたんですけど、ある日、交差点にたたずんでいる女性の霊を見かけまして。意気投合して仲良くなりました。そのあともちょくちょく知り合いが増えて」
交差点にたたずむ霊…地縛霊みたいなものだろうか?
彼女の話から察するに、こいつの正体は浮遊霊。
霊には、地縛霊のように一定の場所のみで行動するタイプと、浮遊霊のように自分の意志で移動できるタイプがいる。こいとの場合は後者だろう。
「はい。幽霊の間で話題になっていましたよ。月森コマリって子の近くは居心地がいいって」
「居心地がいい?」
「彼女の近くを通り過ぎた子たちが、口をそろえて言うんですよ。『あー、めっちゃふわふわする』『羽毛布団で包まれているみたい』『極楽』って」
コマリの逆憑きって、幽霊側からそんな風に思われているのか。
人間代表の俺は、極楽とは正反対の方向にいるんだがな。日頃の態度と怠け癖、天然発言をもう少し治してくれたら、大分こちらのストレスが減るのだが。
「それで、皆がそこまで言うなんて、どんな人なんだろうと気になりまして。あ、10人中10人が★5つけたんですよ」
(何その食べログみたいな反応)という本心は、心の中に閉まっておこう。
つまりこれまでの話を簡潔にまとめると。
月森コマリと接触したことがある霊が、彼女の逆憑きの情報を仲間である桃根こいとに伝えた。そのことによってこいとはコマリに興味を持ち始め、とうとう家を特定してしまったと。
「なるほど。大体話はわかった。分かったうえで言う。帰った方がいい」
「ほんとですかっ!ってえぇぇぇぇ!??」
こいとは分かりやすく口を曲げ、不満の意を表す。
「なんでですかっ。せっかくここまで来たのに! せめて挨拶だけでもっ」
「コマリの逆憑きは、霊を集めるだけじゃねえんだ。アイツがいるだけで急に雨が降るし、物は壊れるし、ポルターガイストも起きる。悪霊だって寄ってくるぞ。つまりこの家・俺の部屋はヴァイオレンスなんだ」
そんなウザい・うるさい・鬱陶しいの3Uの場所にお前を入れたらどうなると思う?
俺の負担がまた一つ増えるんだ。ああ、頼むからこれ以上俺の頭痛の原因を作らないでくれ。
「なーんだ、そんなことかあ」
「そんなこと!???」
そんなこと、で片付けられる問題ではないんだけど!?
怪訝な視線を向けた俺には構わず、こいとは空中からカーペットに降り立つと、右人差し指をくるくると回した。
「わたし、実はオオクニヌシの神と体を共有しているんですっ」
「……は?」
「なので些細な運気の変化の察知とか、悪霊退治とか。お手伝いできると思いますよ!」
「いや待って? オオクニヌシって何?」
なんか突然、分けらからん単語をぶっこまれたんだけど。
今までの話の流れが急にグルンと曲がって、俺は目を丸くする。
「オオクニヌシは、日本神話に出てくる縁結びの神様です。実は、幽霊になる時、色々あって神様の魂とくっついちゃいまして」
「は!? なにそれ!? ご、ごめん説明が全然分かんないんだけど」
怒鳴った俺に対し、こいとはポカンとしている。
なんで怒られたのか理解できないらしい。
「え、だってうち、幽霊で……、魂が二つあってぇ、そんでフラフラと宙に漂ってたら、交差点でお姉さんに会って、その人のおすすめの場所が、たまたまそこがココだったっていう話じゃん」
「『じゃん』言うな。何も解決してねえんだよ。勝手に語彙力を他界させるんじゃねぇ」
顔をしかめた俺に、こいとはなおも口を開けたまま固まっている。
俺なりに精一杯、こいとの話を読み解くと。
幽霊は死んだ人の魂が実体化して生まれたものだ。通常、霊の魂はひとつ。
しかし、何らかの形で、霊へと変わるときに他の魂と融合してしまうこともある…ようだ(?)。
オオクニヌシの魂に、違う人間の魂がくっつき複雑に絡み合ったのが、桃根こいとだ(言い方はアレだが)。ゴースト・キメラとでも呼ぼうか。
内容が支離滅裂で一ミリも理解できないが、コイツはどうやら複雑な事情を抱えているようだ。
今すぐにでも深堀りしたいが、わざと回りくどい発言をしているところを見ると、聞かれるのを避けているようにも感じられる。ここは一旦、様子見と行くか。
「うち、オオクニヌシなんで、恋愛相談とかできるし、お手伝いしたいなーって思って! 悪霊じゃないですよ。ほら、こんなにキュートでかわいいしっ」
頬に手を添えて、流行りの小顔ポーズをし出すこいとに、俺は幻滅してしまう。
これから俺は、コイツとコマリを会わせなくちゃいけないってことか?
えぇぇぇぇぇ、ほ、本気で言ってます……?
こいつが良い霊だという証拠も、この先の未来が明るくなるという期待も、全然ないんですけど。
ってか俺の仕事(&ストレス)がどんどん増えてきてるんですが、そこんとこ理解してますかね!!
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.8 )
- 日時: 2023/12/17 12:09
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)
〈コマリside〉
家に帰ると、知らない人が私の部屋でポテチを食べていた。
おかげで、散らかった自室はさらに汚部屋に……。
「あ、お邪魔してまーす」
期間限定・ポテトチップス明太子味の袋をビリビリッとやぶきながら、不法侵入者はふわふわと浮いている。
セーラー服の上に白いパーカーを羽織っている。
その身体はうっすらと透けており、まわりには白い靄のようなものが発生していた。
「え、誰?」
「ももねでーす。この味まじやばー。ぱなーい」
なにこの人。めちゃくちゃハイテンションなんですけど。
え、人って言っていいのかな? ゆ、幽霊?
でも、霊感がない自分にも見えてるってことは、やっぱり人間? どういうこと?
難しいことを考えるのは苦手。
面食らってしまった私に、同じくお菓子を食べていたトキ兄が説明してくれる。
「こいつ、浮遊霊の桃根こいと。おまえの逆憑のオーラに惹かれて、この家を特定したらしい」
「と、特定って。ストーカーじゃん!」
目に見えないから余計にこわいよ!
陽じゃなくて陰属性の方でしたか。失礼しました……ってなるかい!
置かれた状況について行けなくて、心の中のツッコミコマリとボケコマリが漫才を始めちゃったよ。
「ちなみに、恋愛の神様らしい」
「へっ?ど、どういうこと?」
「よーするに、二つのソウル持ってんだと。ウルトラソウルッ! ってやつよ」
ロ●ンスの神様……? そ、それにウルトラソウルって。
たとえがマイナー過ぎるよトキ兄。元ネタしってる私ですら、一瞬動揺しちゃったし。
「言い方ひどいですよぉ」
と、こいとは唇を尖らす。
「特定したのはリア友だって説明したじゃん~」
「リア友?」
「あ、幽霊友達でーす」
ノリが軽すぎる。あなたほんとに神様?
ここまで明朗快活な幽霊は初めて見るよ。
近寄ってくるのは、血相の悪いどんよりとした悪霊ばっかりだったし(悪い霊は霊気が強いから、たまに目に視えたりする)。
「コマリさん、悪霊に狙われてて困ってるんですよね? コマリが困る! あは、マジ卍~」
「……そう、だけども……」
最悪だ。一番いじられたくなかったのに。体質が判明してから、この名前が正に『名は体を表す』でさ。個人的に、コンプレックスになっちゃったんだよね。
こいとちゃんのテンションに乗れず、わたしは小さな声で返事をした。
「うちならその悪霊、倒せるよ」
「はあ? お前が?」
トキ兄が肩眉を上げる。
家に上がらせたはいいものの、まだ彼女のことを信用しきってはいないみたい。確かに第一印象がアレじゃ判断はむずかしいよね。
「なにその反応。塩対応かなしいなあ。んじゃあ見せたげるよ、うちのチカラ」
こいとちゃんは自信満々に宣言すると、くるりと体制を整え床に降り立つ。
そして、右手を頭上に突き出す。指先から、薄紅色の光の球が現れた。
それは徐々に大きくなっていく。静電気も鳴ってるし。
「な、なになになになに!? かめ●め波?」
「必殺★恋魂球(ラブコンボール)ですっ! あ、打たないから安心して~。指パッチンで出し入れ可能。便利っしょ? 敵に打つと数メートルぶっ飛ばせて、こっちの運気はUPしまあす」
わかりやすく説明してくれてありがとう。そしてごめん。
必殺技の名前のインパクトが強すぎて、内容が全然頭に入ってこないです(泣)!
ラブコンボールて。
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.9 )
- 日時: 2023/02/27 20:30
- 名前: かのん ◆7igY4SLYdc (ID: DIeJh8tY)
- 参照: https://www.kakiko.cc/novel/novel7a/index.cgi?mode=view&no=2629
はじめまして。かのんと申します。
小説、とてもおもしろかったです。
台詞にも地の文にも笑える要素がたくさんあって、気づいたらあっという間に最新話まで読んでしまっていました。
キャラクターもすごく好きです。
一番好きなのはミネ・ダークネスです。いや、あらためて打つとミネ・ダークネスって…笑
彼が自称した名前はともかく笑、雰囲気がかっこよくてとても好きです。
コマリちゃんもかわいくて好きです。
授業中の素行が悪すぎて、44点実力なんじゃ…?と若干思ったりもしましたが笑、
こいとちゃんが寄ってきたので、本当に逆憑きなのね、と見直し(?)ました。
こいとちゃんも台詞が面白くて好きです。
セーラー服の上に白いパーカー羽織ってるキャラは絶対かわいい(偏見)。
すみません、長々と書いてしまいましたが、次の話もたのしみにしてます。
更新頑張ってください。
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.10 )
- 日時: 2023/02/28 17:46
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
>>9 かのん様
応援コメントありがとうございます!
とても嬉しいです。
コマリちゃんはやるときはやる、やらないときはとことんやらない性格です。
小学生の時はしっかり勉強→体質により点数ダウン
現在は「まあ逆憑きだしいっか」と自らサボっているみたいです。
それでもなんとかギリ赤点を免れているのは、
ミネ・ダークネス(笑うな作者)が勉強を見てくれているおかげです。
「とりあえずここの問題やっとけ」
的な感じでしっかり教えてくれてる(コマリ談)
なんだかんだ言って美祢は世話焼きです。
こいとは可愛いです。
ていうかこの作品の中で素行がいいのは、今のところ杏里だけ!?
(大福は机の上に腰かけてましたし。それでいいのか作者)
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.11 )
- 日時: 2023/12/17 12:16
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)
前作のカオスヘッドな僕らを見てくれた人ならわかると思うんですが
相変わらずキャラが変な人しかいない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈こいとside〉
美祢さんがコマリさんに話をつけてくれたおかげで、うちは無事(?)彼女の協力者として家にお邪魔する権利を得た。
ゴーストのキメラである自分は、たまに頭の中に知らない女の人の声が響くことがある。
これが多分、恋愛の神様・オオクニヌシノカミなんだろう。
魂が2つあるからと言って、人格がチェンジしたりすることはない。
たとえば急に背中から羽が生えたり、後光が差したりとか。ノンノン。
基本的には、今喋っているこの人格がメイン。あとは特殊能力的な感じで、神様のチカラを使わせてもらってるだけだ。
(……オオクニヌシノカミ?)
〈なんぞ〉
美祢さんとコマリちゃんが買い物に出かけたのを機に、うちは心の中で相棒に問いかける。
静かで凛とした声音で、オオクニヌシノカミは応えた。
んもう、口調が固いなあ。
神様だからとはいえ、いつまでもそんな冷たい態度じゃ嫌われるよ。
(なんで、うちの身体に入ろうと思ったの?)
〈何か問題でも?〉
生まれつき、オオクニヌシノカミ(長いな。これからはクニたそって呼ぼう)と意思疎通ができてたわけじゃない。
中学1年生で死ぬまでは、うちは普通の人間の女の子だった。
動くことと歌うことが大好きで、アイドルに憧れていてね。
中学校では演劇部で頑張ってたの。
努力をすることを苦痛とは感じなかった。必死に練習して四か月後には、マシな役を貰えるようになって、先輩も同級生も褒めてくれて。好きな人も……できて。
『一緒にアイドルのライブ行こうね』って約束したんだ。
でも。うちの夢は叶わなかった。うちの人生が終わったからだ。終わったはずだった。
――終わらせたはずだった。
(なんでうちを助けたの)
〈アレしか方法がなかったからじゃ。あのままではお前は、奴に吸収されていた。悲惨な最期を遂げることになってしまったんじゃぞ〉
悲惨な最期か。
でも、わたしは彼と一緒にいられるなら、どんな運命でも受け入れるつもりだったよ。
〈こいと。お主のその言い方はまるで、『お前さえいなければ死ぬことができた』と言ってるようなものじゃよ。勝手に自己完結するのはやめたらどうじゃ。お前には嘘が似合わん〉
「………」
〈それに、会いたい相手がおると聞いたが。それはもうよいのかの? 月森のおなごに協力するとか騙っておったが、わらわはもっと別の理由があるとみて踏んでおる〉
「……」
〈お前はそ奴に会うために、月森コマリを利用する。違うか?〉
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.12 )
- 日時: 2023/03/05 21:11
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
お知らせ。次回の更新日は、3・6日です。
お楽しみに。
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.13 )
- 日時: 2023/12/17 12:25
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)
〈美祢side〉
その日の夕方、俺達は夕飯の材料を買いに、近くのスーパーへ行くことにした。
こいとの歓迎会もかねて、たこ焼きパーティーをする予定だ。
俺としては、コマリの世話役が増えて安心している。あいつは何かとガサツで扱いづらい。
その点、こいとは言動こそ荒いものの敬語を徹底しているし、真面目で素直だ。彼女になら任せてもいいだろう。女子同士だし、会話も弾みそう。
「うわああああん、なんで急に降るのぉぉ」
スーパーにつくなり、コマリが泣き崩れた。彼女のスウェットは、突然降りだした雨によってびしょびしょになっている。うっすら下着が……おっと、これ以上はセクハラだ……。
「わー、すごかったですねぇ。これが逆憑き。あはは!」
「こいとちゃん、なんで笑えるのぉぉ」
「幽霊は天気事情とかどうでもいいので」
「ずる過ぎるよおお」
こいとは現在も、空中をゆらゆらと浮遊中だ。
俺たちには高くて届かない棚の商品を、代わりに取ってくれている。
でも俺は見逃さない。今、カートのかごの中に、じゃがりこを放り込んだな?
「さて、なんのことやら」
こいとは『わたし、違いますよ』ってな表情だ。白々しいにもほどがあるだろ。
「返してこい。今すぐ。おまえ昼も俺のお菓子勝手に食ってただろ」
「だって期間限定ですよ!? 明太子味ですよ!」
「明太子が好きなのはわかったから、ほら、閉まって来い。店員さんに気づかれるとやばいんだよ。ちょっとは察しろ」
一般人視点で見ると現在の状況は、かなりカオスだ。
びしょ濡れでガミガミ説教している、桃色の髪の男子高校生。同じく頭から雫を垂らしている女の子。そして、宙に浮いているじゃかりこ(明太子味)。
「そんなんだからモテないんだよ」とかブツブツ言っていたこいとだが、目立つのは避けたかったようで、不服ながらもお菓子を棚に戻す。
「あはは、恋愛の神様に言われちゃったね、トキ兄」
コマリはとっても、嬉しそうだ。
「ほっとけよ」
俺はプイッと顔をそらす。
別にモテたいとか思ってない。恋愛に時間をとられる位なら家でゲームをやってる方がマシだ。
……いや、でも。
もしも自分にチャンスが回ってくるのならば、そんときは、まあ、楽しまないことも、ない。
チラリとコマリの顔を覗き見る。まんまるの瞳。赤みがかった頬。
こいつ、大人しくしとけば意外と………。
って、何考えてんだ俺。無理無理無理。こいつと付き合うとかマジ無理。
ん?? え、待って俺今付き合うって言った?(注:言ってません。心の声です)
「うわああああああああああ!??」
「えっちょ、トキ兄??」
「お、おま、離れ、離れろよ」
「べつに、くっついてないんだけど」
「くっつっ!?」
待て待て待て。落ち着け。なんでこんなに焦ってんだ?
自分でも自分が分からない。どうしちゃったんだ?
ま、まさかまさかまさか……、こいとか?
あいつ確か、運気アップとか言ってたよな。恋愛魂だっけ? あれ、確か出したよな? そのせいで俺達の恋愛運が上がって、異性を意識するようになったとか? か、考えすぎ?
「なに叫んでんの? 怖いんだけど!? く、狂ったの?」
コマリが素っ頓狂な声を出して、そっと右手を俺のおでこに押し当てる。
すべすべした感触が、手のひらからじきに伝わってきて。
「ひゃっ」
「熱はないね。だ、大丈夫? 知恵熱? わ、私が頼りないから無理させちゃったのかな」
「うっ」
彼女の手が、おでこから、今度は俺の右手に移る。指と指が絡まり合う。
「え、あの、え……?」
「いつもありがとう、トキ兄」
「………う……。っ??」
なんで俺はこんなにドキドキしてるんだろう……?
頭がフワフワして、身体に力が入らない。どうしよう。なんだこれ。マジでなんだこれ。
コマリは何も感じていないみたいだ。ただひたすら、赤い顔をして棒立ちになっているパートナーへ、思案気な表情を浮かべている。
「こ、こいと……おまえなんか、やったのか……?」
「え、な、なんのことですか? え、ってか、すごいハアハア言っててヤバいんだけど。大丈夫そ?」
「は、はあ? おまえの能力じゃねえのかよ……」
「ち、ちがいますよ? こんなことできません。恋愛の運気も、美祢さんの場合ずっとゼロですよ」
こいとは、疑われたことへの怒りと、俺の体調の変化への驚きで半々といった具合だ。
もしかして、昼間盛られてた菓子になんか入れられてたか? んな、馬鹿な。
と、不意にコツコツコツ、という靴音がした。
目の前が暗くなる。誰かが俺の目の前に立ったようだ。誰だ……?
身長は俺より一回りほど大きい。百七十センチ前後だろうか。やたらとサイズの大きい白衣を身にまとっており、髪色は艶のある黒。横に垂れている髪だけ長く伸ばし、後ろはウルフカットに整えられている。
「やあやあやあやあ! 久しぶりやなあ美祢」
その男は、おかしな訛り口調でべらべらと言葉を続けた。
「随分あっさりとかかりよったけど。ボクの操心術そんな強ないねん。なんや、弱くなったんとちゃいます?」
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.14 )
- 日時: 2023/12/17 12:24
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)
さあて、どんどんラブコメチック&キャラの心情が入り混じるストーリー
謎の人物とは一体?
本日は二話投稿です♪ 新キャラも愛してね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈コマリside〉
あれ……? 私、今まで何してたっけ?
我に返るのと同時に、自分がトキ兄の両手を強く握っていることに気づき、困惑する。
「え?」
全てを理解し、私の顔は一瞬で赤く染まる。体温が上昇し、鼓動が速くなるのが分かる。
おそるおそる前を見ると。トキ兄が、頬を紅潮させながら目を潤ませていた。
「あっははははははは! こんな簡単にハマるとはなあ!傑作傑作」
後方で、周りの人の視線も気にせず高笑いしているのは、背の高い男の子。
歳は、トキ兄と同じ位かな。端整な顔立ちをしており、率直に言えばかなりのイケメンだ。
彼は腹を抱えながら、ゼエハァと肩で息をしている。笑い疲れて、しんどいようだ。
「……おまえ」
トキ兄の口から、ぞっとするような低い声が漏れた。
顔をこわばらせ、鋭い目つきで相手を睨んでいる。怒ると怖いのは理解していたけれど、ここまで感情をむき出しにしたのは初めてだ。
「なんやねんミネ。いとこにそない怒ることないやろ」
「「いとこぉぉ???」」
「せやでー」
私とこいとちゃんの声が揃う。この子、時常美祢のいとこなの?
それにしては、トキ兄への当たりがいささか強すぎやしないだろうか……。それに、操心術って。この人、一体何者なの?
「あ、自己紹介が遅れたわ。ボクの名前は夜芽宇月。職業はハンター」
彼―宇月さんは白衣のポケットに手を突っ込んだ。
「ハンター?」
「あ、知らん? うーん、君にも分かるように言い換えれば、祓い屋のことやな。霊能力を使って、霊を狩る。ボクの家系は陰陽師の末裔で、微力ながら霊能力が使えるんよ」
れ、霊能力者って、実在するもんなんですね……。
漫画やアニメで馴染みのある言葉ではあるけど、いざ現実に現れるとどう対応していいやら。こ、これも逆憑きの効果かしら?
「なんでここにいるんだよ宇月。おまえ、京都の大学行ってただろうが」
トキ兄の態度は変わらず悪い。どうやら、そんなに仲はよろしくないようだ。
無論、能力とやらで心を操られ、弱みを握られて黙っている人はいないよね。
「ちょっと大学が自分と合わんくてな、中退することになったんや。そのあと、おまえから同棲の連絡が来て。ちょうどボクもハンターの異動で東京に移る予定やったから、連絡も取れてええかなと思って。美祢は昔から口先だけであんまり動かんしな。ボクがコマリちゃんの周辺の霊倒せば、安心して暮らせるやろ?」
「俺がいるだろうが!」
「美祢は何もできんやろ」
トキ兄の叫びを、宇月さんは冷ややかに一掃する。
軽薄な口調の裏には、ぞっとするような圧があった。
「霊が見える。ただそれだけ。それで人を救うなんてあほらしくてしゃあないわ。パンチ一つも打てんやつが、女の子を救えるわけないやんか」
やめて。
「ボクは、なにか間違ってることを言うてるかな? アンタには無理だから、年上に任せろ。そない難しいことやないで。なあ、大人しく言うこと聞けや」
……やめて。
「現に振り回されてるやん、術にもハマるし。なあ、いつまで無能さらしとるん」
………やめて!
「もうやめて!」
考える前に体が動いていた。
私はトキ兄の前に立ち、両手を広げる。足も手もガクガク震える。大きい人に怒鳴るのはこわい。でも、それでも。
「あ、あんた、何なんですか。わ、私のパートナーを、舐めないで、ください!」
「っわ」
宇月さんの腕を強くつかむ。
虚を突かれて、宇月さんが一歩後ろに下がった。
「わ、わたしの、トキ兄を、悪く言わないでください!!!」
トキ兄は無力なんかじゃないよ。私のルームメイトは、ボディーガードは、とっても優秀だよ。
毎日毎日、テレビ電話を繋いで、危険がないか調べてくれたり。宿題で分かんない所があれば、教えてくれたり。
けだるい雰囲気を出しつつも、なんだかんだ言って彼は優しい。私もついつい甘えちゃって……。
「束縛の強い男はフラれるよ」
こいとちゃんがポツリと呟く。
「うちもあんたのこと、大っ嫌いだから」
宇月さんは、数秒間フリーズしていた。
三人から敵意を向けられたことに耐えられなかったのだろうか。それとも、自分の行いを少しは顧みてくれたのだろうか。
「……おい宇月。俺も確かにおまえのこと嫌いだけどさ、昔はこんな感じじゃなかったじゃんか」
トキ兄が縋るように言った。
「少なくても、数カ月前は穏やかだった。一体どうしたんだよお前。きゅ、きゅうに来られて、大学辞めたとか術かけたとか言われても訳分かんねえよ」
宇月さんは、「ハァーーーーーーッ」と長い息を吐く。その息には深い哀愁を帯びていた。まるで、なにかを必死に押し殺しているような、そんな息づかいだった。
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.15 )
- 日時: 2023/12/17 12:17
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)
コロナ・39度の熱で更新が出来ませんでしたが
ようやく熱が下がりました(まだ隔離中ですが)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈宇月side〉
「………ごめん。疲れとんのかな、ボク。あかんわ」
なんで、こうも自分は極端なんだろう。
術なんかかけたら、それこそ怒られるに決まってる。あんなきつい言い方したら、当然悪い印象になるのも分かってる。頭ではしっかりと理解してるのに、いざ対面するとこうだ。
生意気で、口が悪くて、プライドが高くて、わがまま。
今日もまた空回り。
「か、帰るわ。ひどいこと言って悪かった」
「お、おいちょっと、宇月?」
「……またな」
ボクはくるりときびすを返すと、逃げるようにして出口へと歩き出した。
くちびるが震えて、目の端からは涙があふれる。あかん、なに泣いてんのボク。泣きたいのはあちら様の方やろ。
と。
「うわぁっ」
「おうわっ」
うつむき加減で移動していたからか、目の前に迫ってきた客と頭をぶつける羽目に。
ゴツン! という鈍い音が響き、ボクも相手も頭を抱えてうずくまった。
「いっっっって!? おいアンタどこ見て……ってあれ、向こうにいるのって月森……?」
「……………へ?」
ぶつかってきた、水色のTシャツを着た中学生くらいの少年の視線が、とある人影を捉える。
視線の先では、先ほど別れたばかりのあの三人衆が、お菓子コーナーの近くで遠巻きにこちらを眺めていた。
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.16 )
- 日時: 2023/12/12 11:48
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)
宇月さんがもし学校に居たら絶対仲良くなれないむうですが
ある意味コイツが一番人間らしいんじゃないかなとは思ってます
はよそのプライド捨てやぁ(親)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈コマリside〉
宇月さんを一言で表すなら、『台風の目』だ。
突如現れ、私たちを自分のペースに巻き込み、翻弄し、そしてすぐに去る。その際に、新たな災いを引き寄せる。
出口へ移動するのをずっと目で追っていたわたしは、彼が尻餅をついた音で肩を震わせた。
す、すっごい音したけど、大丈夫かな……?
この位置からじゃ宇月さんの背中しか確認できないけれど、周りのざわめきから察するに、人とぶつかってしまったようだ。
「すっげえ音したな」
「で、ですね」
トキ兄とこいとちゃんも、お互い顔を見合わせる。時間の経過と共に、険しかった二人の表情は、穏やかなものに戻っている。
「あ、頭とか打ってないといいけど……」
「アイツ石頭だからな。大概の衝撃には耐えられるだろ」
トキ兄はフンと腹を鳴らして腕を組む。
散々ひどい目にあわされたので、こういうのは見てて気持ちいいんだろうな。
で、でも、そんな漫画みたいなことにはならないんじゃないかなあ。
あの感じ、わりと派手に転んでるよ……?
「あんな奴なんかほっとけよコマリ。おまえだって操られただろ」
「それはまあ、そうだけど……」
出会って数分しか経ってないけれど、プライドが異常に高いことは充分把握できた。ただ聞いた感じ、あれが素の状態というわけでもなさそうだ。
なんだか話しづらそうにしていたし、声もところどころ裏返ったりかすれたり。スラスラと一定のトーンで喋る、ということがなかなかなかったように感じる。
うーん、よく分からないなあ。
意地悪なことは意地悪なんだけど、かといってめっちゃ悪い人でもなさそうだし……。
それとも私の認識が甘いのかな?
普段使わない頭を一生懸命動かしていると。
「あれ、月森!?」
聞きなれた声が耳に飛び込んできて、私は反射的に顔を上げる。明るいハキハキした口調。
「だ、大福!」
宇月さんの真ん前で倒れていた男の子が起き上がった。その人物を私はよく知っている。
ストレートの短髪。程よく日焼けした肌。155㎝と、男子にしては若干低い身長。
クラスメートで私の友達・福野大吉の声は、私に会えた嬉しさと驚きでいつもより大きかった。
「な、なんで大福がこのスーパーに? 地区違うのに」
大福の家と、私が住んでいるアパートは正反対の方向。
自転車で三十分もかかる距離なのに、なんでわざわざこっちのお店に? 支店なら大福の家の近くにあるじゃん。
「叔母さんちがこっち方面でさ。今日は親戚みんなで集まる日だったんだ。母ちゃんが叔母さんの家まで車で送ってくれたんだ。俺は食材調達係ってことで、スーパーの近くに降ろされたけどな」
「そうなんだ。杏里がいないから珍しいと思って。よくお買い物デートとかしてるもん」
「デートって言うな」
大福は恥ずかしそうに顔をそらした。
杏里に好意を抱いてるのはバレバレなんだから、隠さなくてもいいのにな。
「俺のことはいいんだよ。月森こそ、横にいる人って彼氏? だよな?」
「「あ」」
……………あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(恥辱+涙)!!
そうだ。私たち、先日カップルと盛大に誤解されたんだったぁぁ。
「え、えっと……」
「うわ、イケメン! しかもめっちゃオシャレ~。高校生っすか? すげえ!」
「いや、その、あの」
トキ兄の今日のファッションは、鎖やらボタンやらがたくさんついた、ゲーマー風のパーカーに黒いズボンだ。蛍光ピンクの髪と相まって、本当にプロゲーマーみたい。
こういう服持ってるなら、着る頻度増やしたらいいのに。
(コマリ……! マジどうするよ)
あああ、トキ兄、目で訴えかけるのやめてぇぇ。
こちらまで居たたまれなくなってくるよ!
ど、どうしよう。流石にこの状況では逃げられない。
こいとちゃんはあの時いなかったから、この件をそもそも知らないし。
「どどどど、どういうことですかっ? カップルって何ですかっ? めっちゃ気になるっ! わあああ」
大福の霊感がないのをいいことに、観戦者としてひとりで盛り上がってる恋愛の神様。
「トキマリってカップル名つけよっかなあ。萌えるなあぁ、いいなあ」
宇月さんは、一瞬『何が起こった?』と目を白黒させていたが……。
数秒後、全てを悟ったのか、口パクで「たすけてあげようか」としきりにサインを出し始めた。
……ほんっとうに憎たらしい。
(ど、どうするトキ兄。カップルの振りでもしてごまかしとく?)
(いや、気まずすぎるだろ。あの恋愛マスターこいとは使えないのかよ)
(ラブコンボールだよ!? お店の商品壊しちゃうよ!)
改めてラブコンボールってひどいな、名前。
もっと、トゥインクル★とか、トキメキ★とか、なかったんだろうか。
(もう真実打ち明けたほうがよくないか?)
(打ち明けてからのコレだからね。勝手に脳内でカップル変換してるからさ……)
(うう、やる、しかないのか?? マジで? さっき事故でやったばかりなのに?)
再び宇月さんの口パク伝言「たすけてあげようか」が発令される。
うう、なんでこの人の能力がよりによって心を操る能力なんだろう。
「彼氏となんかやったりすんの? ちゅ、ちゅーとかさ」
「!? ……え、えと………」
ああ、大福、その純粋無垢な目をこっちに向けないで。
そしてこいとちゃんも、私たち二人が黙ってるのをいいことに「キース、キース」とか言わないでぇぇ!! そして宇月さん、口元が震えてますよ笑わないでください!
「…………仕方ない。コマリ、ちょっと我慢しろよ」
と、トキ兄が小声で告げる。
な、なに? と尋ねようとした瞬間、くいっと右手を引っ張られた。
私の指とトキ兄の指が絡まり合う。
あっという間にわたしの右手は、がっちり握られてしまった。し、しかも、これってその、あの。
こ、恋人繋ぎってやつ、だよね……?
(え、ええええええええええええええええええええええっっ)
やばい、心臓がうるさい。頭が、ぼうっとして体がふらふらして。
今、宇月さんの術はかかっていない。ということはこれは、私の……?
「そうです、俺はコイツの彼氏です。何か問題でもありますか」
トキ兄はややつっけんどんに言うと、大福を下から見上げた。
(ちょ、ちょっとトキ兄、本気―――――――――?)
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.17 )
- 日時: 2023/03/14 16:45
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
閲覧数200突破ありがとうございます!
そして第1章は、こちらで終了となります。第2章は4月から連載します~お楽しみに!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈再びコマリside〉
………ホント、びっくりしたなあ。
私はまだドクンドクンと高鳴る胸を服の上から抑えながら、家へと続く坂道を歩いている。
右手には、スーパーのレジ袋。中にはたこ焼きで使う具材やらソースやらが一緒くたになって入れられている。
あのあと、トキ兄の迫真の演技(?)のおかげで、私は余計な検索をされることなく大福と別れることが出来た。
大福はすっかりトキ兄に憧れてしまったみたいで、別れ際「いやあ、ほんと、美祢さんってかっこいいな!」と手をブンブン振っていた。
「あの人に憧れて、次から髪染めてきたりしないだろうな」と苦笑いする反面、「確かにかっこ、良かったな」と納得する自分もいて。
「んじゃ、ボクもおいとまするわ。ほんとごめんな。ミネ、なんかあったら連絡しろよ。ボクが言えた話やないけどな」
ご存知スーパー腹グロ霊能者の宇月さんとも挨拶をし、騒がしい買い物は幕を閉じた。
思えば今日は、こいとちゃんとの出会い、宇月さんの騒動、大福との再会と、イベントが目白押しだったなぁ。
これも全部体質が原因なら、私は〈動く死亡フラグ〉ってことか。嫌だな、こんな二つ名。
「……あのう、お二人さんソーシャルディスタンス取りすぎじゃないですか」
と、沈黙に耐えかねて、後ろを歩いているこいとちゃんが口火を切った。
彼女の眼の前……の人影―すなわち私とトキ兄は、一メートルほどの距離をとっている。
お互い近くに行こうと歩幅を合わせても、無意識に体が離れてしまうのだ。
「まあ、勝手に介在してしまったうちも悪いんですけどね。いいですよ、お二人が邪魔だっていうなら出て行きますよ」
「そ、そんな!」
ぷうっと頬を膨らませるこいとちゃんに、私は慌てて言った。
「そんなと言わないでよ。私、こいとちゃんのこと好きだよ」
兄妹がいない私にとって、彼女の存在は本当の妹のようだった。コマリさん、コマリさんと呼ばれるたび、胸の中に温かい気持ちが溜まって行って。
だからそんな悲しいこと、言わないでほしかった。
「そ、そうですか。あ、ありがとう……ございます」
こいとちゃんは照れたようにうつむく。
自分からはグイグイ行くくせに、言われるのは慣れてないらしい。ほんと、そういうところが無垢でかわいいんだよな。
「…………トキ兄も、もう、大丈夫だよ」
「は?」
スーパーを出てから今までずっとだんまりを決め込んでいたトキ兄は、私の言葉で久しぶりに顔を上げた。
相変わらず目つきの悪い相貌で、こちらを一瞥する。
「何の話?」
「もー、とぼけないでよ。宇月さんのときも、大福のときも。私のこと守ってくれたでしょ」
トキ兄は一瞬なにか言いたそうに口を開いたけど、それは息となって空気に混ざる。
彼はそっと目を伏せた。本音を隠そうとするときの、いつものクセだった。
「別に、あれは守ってない。宇月の話はどれも正論で間違いじゃなかった。コマリの同級生のときは、ああするしか方法がなかった。ただ、それだけだ」
誤解されやすい見た目や発言をしているけど、私は知ってる。
この時常美祢という男は、『ただ、それだけ』のことを、勇気を振り絞って実行できる人だ。
本人にとっては些細なことかもしれない。でも私はあの時、彼に手を握ってもらったおかげで、気持ちが落ち着いたんだ。
「迫真の演技でしたね! どっかで習ってたんですか?」
「いや、あれはカン。あの数分間の思考でできることなんて限られてるしな。宇月にヘルプするのは、その、自分のプライドが許さなかったんで」
「あぁ……。でも、あの頬を赤らめる仕草とか、クオリティ高かったですよ。経験ある私でもドキドキしちゃいましたもん。って何そっぽ向いてんですか美祢さん??」
「うるせえ」
見ると、トキ兄はさらにさらに私とのスペースをとり、塀と歩道ギリギリの所をわざわざ通っている。
え、私、ついに嫌われちゃったんだろうか……?
っていうか、あんな塀に密着してたら服汚れるよ!
「言っときますけど、このラブリーキュートのこいとちゃんに隠しごとなんて出来ませんからね! どこに居てもあなたの運気は筒抜けなんですから。……あれ? お二人とも運気が上がってる。ふんふん……はあはあ、そういうことかあ。しめしめ」
え、待ってこいとちゃん、ひとりでブツブツ呟かないで。しかもニンマリ笑ってるし。
そういうことってどういうことなの??
そしてなぜトキ兄は、あんな隅っこにいるの? か、顔も合わせてくれないし!
「色々と疲れたんでしょう。波乱の一日でしたし」
こいとちゃんは淡々と答える。
流石幽霊、私たちとはちがって、息が切れたり足取りが重いなんてことにならないのが羨ましい。
「そっか。そうだね。よしこいとちゃん! 今日は早く帰って、たこ焼き作りまくろう! ひとつだけワサビ入れて、トキ兄に食べさせたりするのもいいね、うふふ」
「おーい聞こえてんぞー」
わいわいがやがやとお喋りをしながら帰路を辿る私たちの頭上には、満天の星空が広がっていた。
――第1章 END―――
コマリ「第2章は4月1日から連載するよ!」
美祢「第1章以上にドタバタドキドキした日常をお届けするので、楽しみにしててくれよな」
こいと「ラブラブイチャイチャのシーンも増量予定♪」
宇月「キャラの過去に迫るストーリーや、バトルシーンなんかも登場するで!」
作者「それでは、次回もよろしくお願いいたします~」
全員「ばいばーい」