コメディ・ライト小説(新)
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.2 )
- 日時: 2023/12/17 11:02
- 名前: むう (ID: F7nC67Td)
【第1話:ヘンな同居人】
「おーいコマリ、もしかして俺のカップラーメン食った?」
学校から帰って部屋に入るなり、床に寝そべってスマホゲームをやっていた男の子がチッと舌打ちした。
黒いパーカーに、ジャージのズボンというラフな格好に、ピンクに染めた髪がなんとも似合って……ない!
本人はおしゃれと思っているようだけど、めちゃくちゃアンバランスだ。
「え、あれ? キッチンのカウンターに、『食べて下さい』的な感じでおかれてあったら、食べるに決まってんじゃん」
私は悪びれずに答えると、肩から学生鞄をおろして軽く伸びをする。
「バッカお前!! あれは俺のだっつーの」
「おいしかったー。明日も買って来てね」
「はあ!? お・ま・え・なぁ……わさびでも入れればよかった……」
とため息をつく同居人を軽く受け流すのが日々の日課。
私の名前は月森コマリ・14歳。
現役の、ちょっと変わった女子中学生です。
□■□
私は、お父さんの知り合いが経営しているアパートに住んでいる。
去年までは普通に家族と一軒家で暮らしていたんだけど、毎年毎年台風の影響を受ける家で過ごすのは、かなりお父さんたちも怖かったようで。
「というわけで、コマリはそのアパートに住みな。お父さんとお母さんはおばあちゃんちに行く。 自分のせいでこうなったって思うのもしんどいだろ」
職業柄なのか、心理カウンセラーをやっているお父さんは、娘を困らせないよう、ゆっくりと説明してくれた。
「お前の言う『ギャクツキ』がなんなのか、お父さんはわかんないし霊感もないから、力になれなくてごめんな」
「いやいや、お父さんが謝ることじゃないし……。あと毎回家を半壊しにして、ごめんなさい」
逆憑きというのは、自分の行いや行動全てが悪運を引き起こしてしまうというあまりにも迷惑な体質だった。
神主さんが言うには、悪い霊などは向こうから人間にとり憑くが、私の場合は霊が大好きな「負のオーラ」を自らまとっているらしく、それは『憑いてもいいですよー!』というサインにもなるみたい。
よって、悪運に次ぐ悪運で、負の連鎖。
自分が死なない限り、この運命から抜け出せる道はないとのこと。
(なんでそんなまた面倒な体質に———!?)
娘のせいで、家の屋根は風で吹っ飛ぶわ、雨漏れするわ。
これじゃ一生親孝行できないし、お腹を痛めて生んでくれたお母さんにも申しわけなさすぎる。
お母さん自身はのんびりした性格で、「あら~レア引いた?」とゲーム感覚で呟いてたけれど。
「お父さんの知り合いの時常さんとこの息子さん、霊感あるらしいから、同じ部屋にしたけど大丈夫かな? コマリももう14だし、さすがに男の子と一緒は……」
「ううん、大丈夫! 私恋愛マンガより少年マンガ派だもん」
「そ、そんな基準で大丈夫なのか?」
「平気!」
とまあ、こんないきさつで、現在私は(二歳上の霊感バチバチの)男の子との生活をすることになったのだった。
ちなみに時常さんちの子なので、縮めて「トキ兄」と呼んでいます。
□■□
「トキ兄さぁ……」
トキ兄がゲームをしている横で、私は今日配られた教科書に名前を書く作業を始める。
「んだよ」
「いや、自ら髪染めて校則やぶって退学とかよくやるなって思って」
時常美祢という優等生みたいな名前なのに、彼の過去はかなりぶっ飛んでいる。
小学生の時は沢で釣ったザリガニを学校に持って行って、教室を水浸しにした。
中学校の時は【ミネ・ダークネス】と自分で名乗り、恥ずかしくなってその後学校に行けなくなった。
高校生になって、高校デビューを決めようと思って髪を染めたあとで校則に気づき、現在に至る。
「馬鹿なの……?」
「馬鹿って言うな44点ガール」
「だってそうじゃん! 色々と痛いし、全然似合ってないし。黒髪に戻したほうが良くない?」
初めて会った時の衝撃ったらなかった。
エクステとか、髪の一部分だけではなく、全体蛍光色のピンクなのだ。
『わぁー……』が第一声となってしまった私も失礼だけど、あれは仕方なかったと思う。許してください。
「もう吹っ切れたからいーの。似合わねえって笑われても自分的にはかっけえと思ってるし」
こう言う人に限って時々とんでもなく良い名言を言うものだから、私はいつも反応に困る。
「………そ、それならいいけど……」
「てかお前、いつになったらマシな幽霊連れてくんの? なんか、泣きながら『一生のお願いですいい幽霊見つけて下さい頼みます』って足つかまれたの、マジ怖かったんだけど」
逆憑きの対処法は二つある。
一つ目は『死ぬこと』。
色々大変だけど、人生は楽しい。私はまだまだ生きていたいので、これはナシ。
二つ目は『いい妖怪や幽霊を見つけて、その力を借りること』。
逆憑きに惹かれて集まってきた霊の中に、もし縁起のいい妖怪とかがいればの話にはなるけれど、彼らに土下座するなりなんなりして、協力してもらう。
そうして、日々起こる危険を守ってもらうことで、安心して生活できるってわけ。
んで、霊感のあるトキ兄の力でなんとかならないかなーっと踏んでいたのですが、残念ながらそう都合よくはいかなくて。
「あのなあ、俺も霊が見えるだけで神様じゃないんだからさぁ……。ボディーガードするだけでも疲れるっつーの」
「ま、まあまあトキ兄、拗ねないでよぉ。私はトキ兄がいてくれて助かってるよぉ」
悪運強すぎる中学生と、素行悪すぎる霊感男子。
これをネタに誰かが漫画を描いてくれることを祈ります。なんてね。
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.3 )
- 日時: 2023/12/09 09:27
- 名前: むう (ID: F7nC67Td)
翌日は土曜日だったけれど授業がある日で、私は眠い目をこすりながらクラスの入り口の扉を開ける。
ガラガラッ!
ものすごい音が部屋内に響き渡った。
うちの学校・ともえ中学校は今年開校六十周年を迎える。おかげで建物のいたるところに隙間が出来ていて、冬場はけっこう寒いのだ。
「あーコマちゃん。おはよー」
「おはよー月森」
「お、杏里に大福。相変わらずラブいねぇ」
声をかけて来た、ゆるいハーフアップの穏やかな女の子が星原杏里。
幼稚園からの腐れ縁で、英語教室やスイミング、書道などたくさんの習い事をしている。くわえて吹奏楽部でフルートも吹いているので、華奢な見た目の割にめちゃくちゃタフ。
その横で、椅子ではなく机の上に腰かけているチャラそうな男の子が福野大吉。縮めて大福。
この二人、お母さん同士が友達なのもあって、一緒にいることが多い。性格的には杏里が大福に振り回されそうだけど、全然そんなことはないのだ。
よって、クラスメートの一部の人の間で、『早く甘い展開が見たいわ~。和菓子組』と呼ばれたりもしてる。
「お、そういや月森! 昨日の【怪異探偵Z】観た? エンディング変わってたぜ。チョーかっこよかったよな!」
大福が話題を振る。
怪異探偵Zというのは、少年漫画誌で大人気連載されている、漫画原作の怪異コメディアニメ。
そう、コイツと私は少年漫画好き仲間なんだ。
「ううん。私昨日は観てない……」
教室の最後尾の机にいったん鞄を降ろし、私は二人に近寄った。
さてさて、通例行事・二人の話に入るとしましょうか。
「めずらしいね。コマちゃんがテレビ観ないなんて。放課後カフェ寄ろうって言っても、『アニメやるから』ってキャンセルしてたじゃん~」
のんびり口調の杏里だからこそ、言及されると心に来るものがある。
私は言葉を詰まらせながら、そうっと視線を横にずらした。
「いやぁ、そのことはいいじゃん」
「よくない―。私わざわざ時間作って話しかけたのに」
「ご、ごめんって杏里~!」
両手を合わせて必死に頼み込むこと数分。ようやく彼女のお許しが出た。
この子、真面目で頑固だから、約束を破るとこうやって言及してくる。
私がオフの日は杏里の方で予定があり、なかなか一緒に遊べない。
大雑把な自分は、今日みたいにちょくちょく親友を無意識に傷つけてしまうことがあって。
「ふうん。じゃあお前、あの回観てねえのな。神回だったぞ」
「え、ちょっとネタバレは! ……ああ、昨日、トキ兄とちょっともめててリアタイ出来なかったんだよ」
カップラーメンを黙って食べてしまったことが逆鱗に触れたようで、あの後おつかい……ああいや、パシリに駆り出されたのだ。
ほんっと、あの人人使い荒いんだから!
「「トキ兄……?」」
杏里と大福の声がピッタリと重なる。
お互い首を傾げて、腑に落ちないって感じで腕を組んでいる。
「誰そいつ。おまえ兄ちゃんいたっけ?」
と聞かれて、私は自分のミスに気づく。
そうだった!
今日は新学年になって初めての土曜日。引っ越しやら始業式やらでバタバタしてて、同居生活のことを話し忘れていたんだっ。
(ど、どどど、どうしよう………!??)
お父さんの時のように漫画を理由には出来ないし、かといって素直に伝えたら、恋バナ好きの杏里は絶対食いついてくるだろう。
となれば大福も当然杏里と一緒に問いただしてくるから……。
「ねえねえコマちゃん」「おい月森」
あぁぁぁぁぁぁぁ! やばい、やばいよぉぉぉ。
「「もしかして、好きな人でもいるの?」」
………………は??
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.4 )
- 日時: 2023/01/19 19:40
- 名前: むう (ID: viErlMEE)
す、好きな人?
なんのこと、なんの話??
私は二人から放たれた言葉に、一瞬めんくらう。
え!? 男の子と女の子が一緒に暮らしてたら、好きな人ってことになる世の中なの? それがふつうなの?
戦隊ものやアクションバトルに毒されて育ったのが、月森コマリという人間。こういうときにどういう反応をしていいかすらわからない。
なんでみんな、色恋沙汰にしちゃうの??
「だって、知らない男の子と暮らしてるなんて、好きな人以外ありえないよね」
と、杏里は言う。
「え、コマちゃん、どんな子がタイプなの?」
勝手に風呂敷を広げないでください。
好きなタイプ? 人をパシリに使わない優しそうな子かなぁ……。
「ちちち、ちがうよ! アパートの大家さんの息子さん! ちょっといろいろあって、引っ越すことになって、その、まあ同棲ってことにはなるけど、全然、全然そんなんじゃ!」
慌てて返したけれど、残念ながらフニャフニャと萎れた声では何もごまかせず。むしろ、言い方のせいで、更に誤解を生みそうだ。
と。
「アパートの……」
まだなおも獲物を狩るハンターのように目を輝かせている杏里を、大福が止めた。
「おい杏里、もうやめようぜ」
杏里の右手を掴んで、手元に引き寄せる。不意を突かれて、杏里は足をもつれさせ、「おっとっと」とよろける。
「えぇー、この先おもしろくなりそうなのに」
「人の話に突っ込み過ぎるのもアレだろ」
大福の言葉に私はウンウンと深くうなずいた。
さっすが大福! やっぱ持つべきものは仲間だよ。
これでやっと話を終わらせることができる。
いきなり幽霊が、妖怪がなんて言ってこわがらせるわけにもいかないし、この二人とはこうやってバカやってる方がこっちとしては楽でいい。
しかぁし。
「ってことで月森、放課後こっそり俺に彼氏の写真送ってくれ」
「!??」
類は友を呼ぶ。
幼なじみの言動を背後から見守っているこの男は、杏里の行動を真似する傾向にあるのです。
キーンコーンカーンコーン
「お、朝礼始まるぜ。じゃあまた後でな!」
「ちょ、ちょっと……」
うまいこと交わされ、右手を伸ばした状態のまま固まること数分。
その間、チャイムの音に合わせて、教室の後ろでおしゃべりをしていたクラスメートが自分の席へ戻っていく。
朝の元気はどこへやら。
まだ朝礼も始まってないというのに、私のやる気はすっかり削がれてしまいました。
自分の席へと進む足取りの重いこと重いこと。
『……おまえぇぇぇ。ふざけんなよ』
制服のスカートに忍ばせていたスマホがブブッと震動する。
私は席に着くと、机の引き出しの下でこっそりとスマホを開き、その画面―テレビ通話画面を確認する。
わがボディーガードの眉間には、深いしわが刻まれていた。
嫌だいやだとあれだけ叫んでいたのに、真面目なのか不真面目なのか。
『おじさんに頼まれて、わざわざ家から電話繋いでやってるのに……おい、あそこはせめて否定しろよ!? おい、どうすんだよ!? 俺ら、そんなハートフルな付き合いじゃないってのに!』
「それは充分把握しております……」
夜な夜な、部屋にひとつしかないテレビの視聴権をかけて〈叩いて被ってジャンケンポン〉をしている仲だもんね。
『最悪だよ! 引き受けるんじゃなかった! どうするよ、お友達の中で俺らがカップルに変換されるんだぞ責任取れよ!』
「新展開ラブコメディってことにすればナントカ」
『なーに受け入れてんだお前ぇぇぇぇぇ!! ミネ・ダークネスは色々とアウトだろーがっっ』
……あーあ、ことごとくついてない。
こんなので本当に、私の人生上手く行くのかなあ!?