コメディ・ライト小説(新)
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.7 )
- 日時: 2023/12/18 11:04
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)
〈美祢side〉
「あいつに用?」
俺が尋ねると、ツインテール少女は「はいっ」と応じた。
紺色のセーラー服の上に、白色のパーカーを羽織っている。首を縦に振る度、結んだ髪の先っぽが揺れた。
「うち、桃根こいとっていいます。あ、一応幽霊です」
「ちょ、ちょっと待って、何その名前」
「? おかしかったですか? わたしの母親、編み物が好きで。そこから取ったんですって。可愛いので、自分も気に入っているんですよねー」
ももね・こいとだって?
なんだその、漫画とかアニメとか恋愛ゲームとかに出てきそうな名前は。
自己紹介で名乗れば『え、その名前可愛いね!』と話題になる人間じゃないか。
え? 俺の場合は名前負けして『ミネ・ダークネス! 飯行こうぜ』といじられるようになったよ、アーメン。
こいとは空中を漂いながら、うーんと腕を伸ばしている。どうやら幽霊なのは確かなようだ。
華奢な身体がうっすら透けているため、対面の位置にあるドアノブが彼女を通して見える。
「まあ、会ったのも何かの縁だ。こっちも自己紹介しておくよ。時常美祢だ。よろしく」
作業用の椅子から立ち上がり、俺は彼女の方へそっと手を伸ばした。相手は幽霊なので、握手を交わすことは出来ない。それでも、初対面で何の挨拶もしなかったら失礼だ。
こいとは「あははっ」と楽しそうに笑い、俺の前へスーッと移動する。そして、差し出した右手のひらから少し離れた位置……を手でなぞった。エア握手。
「よろしくお願いします、美祢さん。そういえば、貴方はわたしのこと視えるんですねっ」
「生まれつき霊感があるからな。そのせいで厄介な任務を押し付けられて、迷惑してるけど」
「もしかして、コマリさんのことですか?」
知ってるのか?
まあ、そりゃそうか。こいつは、コマリに会うためにこの家に来たのだから。
っていうか、どうやって家の住所を特定したんだ?
「幽霊友達に教えてもらいました」と、こいとがニッコリと笑う。
「幽霊友達?」
「はい。わたし、去年事故で死んで幽霊になったんですけど、行く宛がなくて。ブラブラと街を彷徨う生活をしていたんです。その暮らしが一週間くらい続いたんですけど、ある日、交差点にたたずんでいる女性の霊を見かけまして。意気投合して仲良くなりました。そのあともちょくちょく知り合いが増えて」
交差点にたたずむ霊…地縛霊みたいなものだろうか?
彼女の話から察するに、こいつの正体は浮遊霊。
霊には、地縛霊のように一定の場所のみで行動するタイプと、浮遊霊のように自分の意志で移動できるタイプがいる。こいとの場合は後者だろう。
「はい。幽霊の間で話題になっていましたよ。月森コマリって子の近くは居心地がいいって」
「居心地がいい?」
「彼女の近くを通り過ぎた子たちが、口をそろえて言うんですよ。『あー、めっちゃふわふわする』『羽毛布団で包まれているみたい』『極楽』って」
コマリの逆憑きって、幽霊側からそんな風に思われているのか。
人間代表の俺は、極楽とは正反対の方向にいるんだがな。日頃の態度と怠け癖、天然発言をもう少し治してくれたら、大分こちらのストレスが減るのだが。
「それで、皆がそこまで言うなんて、どんな人なんだろうと気になりまして。あ、10人中10人が★5つけたんですよ」
(何その食べログみたいな反応)という本心は、心の中に閉まっておこう。
つまりこれまでの話を簡潔にまとめると。
月森コマリと接触したことがある霊が、彼女の逆憑きの情報を仲間である桃根こいとに伝えた。そのことによってこいとはコマリに興味を持ち始め、とうとう家を特定してしまったと。
「なるほど。大体話はわかった。分かったうえで言う。帰った方がいい」
「ほんとですかっ!ってえぇぇぇぇ!??」
こいとは分かりやすく口を曲げ、不満の意を表す。
「なんでですかっ。せっかくここまで来たのに! せめて挨拶だけでもっ」
「コマリの逆憑きは、霊を集めるだけじゃねえんだ。アイツがいるだけで急に雨が降るし、物は壊れるし、ポルターガイストも起きる。悪霊だって寄ってくるぞ。つまりこの家・俺の部屋はヴァイオレンスなんだ」
そんなウザい・うるさい・鬱陶しいの3Uの場所にお前を入れたらどうなると思う?
俺の負担がまた一つ増えるんだ。ああ、頼むからこれ以上俺の頭痛の原因を作らないでくれ。
「なーんだ、そんなことかあ」
「そんなこと!???」
そんなこと、で片付けられる問題ではないんだけど!?
怪訝な視線を向けた俺には構わず、こいとは空中からカーペットに降り立つと、右人差し指をくるくると回した。
「わたし、実はオオクニヌシの神と体を共有しているんですっ」
「……は?」
「なので些細な運気の変化の察知とか、悪霊退治とか。お手伝いできると思いますよ!」
「いや待って? オオクニヌシって何?」
なんか突然、分けらからん単語をぶっこまれたんだけど。
今までの話の流れが急にグルンと曲がって、俺は目を丸くする。
「オオクニヌシは、日本神話に出てくる縁結びの神様です。実は、幽霊になる時、色々あって神様の魂とくっついちゃいまして」
「は!? なにそれ!? ご、ごめん説明が全然分かんないんだけど」
怒鳴った俺に対し、こいとはポカンとしている。
なんで怒られたのか理解できないらしい。
「え、だってうち、幽霊で……、魂が二つあってぇ、そんでフラフラと宙に漂ってたら、交差点でお姉さんに会って、その人のおすすめの場所が、たまたまそこがココだったっていう話じゃん」
「『じゃん』言うな。何も解決してねえんだよ。勝手に語彙力を他界させるんじゃねぇ」
顔をしかめた俺に、こいとはなおも口を開けたまま固まっている。
俺なりに精一杯、こいとの話を読み解くと。
幽霊は死んだ人の魂が実体化して生まれたものだ。通常、霊の魂はひとつ。
しかし、何らかの形で、霊へと変わるときに他の魂と融合してしまうこともある…ようだ(?)。
オオクニヌシの魂に、違う人間の魂がくっつき複雑に絡み合ったのが、桃根こいとだ(言い方はアレだが)。ゴースト・キメラとでも呼ぼうか。
内容が支離滅裂で一ミリも理解できないが、コイツはどうやら複雑な事情を抱えているようだ。
今すぐにでも深堀りしたいが、わざと回りくどい発言をしているところを見ると、聞かれるのを避けているようにも感じられる。ここは一旦、様子見と行くか。
「うち、オオクニヌシなんで、恋愛相談とかできるし、お手伝いしたいなーって思って! 悪霊じゃないですよ。ほら、こんなにキュートでかわいいしっ」
頬に手を添えて、流行りの小顔ポーズをし出すこいとに、俺は幻滅してしまう。
これから俺は、コイツとコマリを会わせなくちゃいけないってことか?
えぇぇぇぇぇ、ほ、本気で言ってます……?
こいつが良い霊だという証拠も、この先の未来が明るくなるという期待も、全然ないんですけど。
ってか俺の仕事(&ストレス)がどんどん増えてきてるんですが、そこんとこ理解してますかね!!
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.8 )
- 日時: 2023/12/17 12:09
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)
〈コマリside〉
家に帰ると、知らない人が私の部屋でポテチを食べていた。
おかげで、散らかった自室はさらに汚部屋に……。
「あ、お邪魔してまーす」
期間限定・ポテトチップス明太子味の袋をビリビリッとやぶきながら、不法侵入者はふわふわと浮いている。
セーラー服の上に白いパーカーを羽織っている。
その身体はうっすらと透けており、まわりには白い靄のようなものが発生していた。
「え、誰?」
「ももねでーす。この味まじやばー。ぱなーい」
なにこの人。めちゃくちゃハイテンションなんですけど。
え、人って言っていいのかな? ゆ、幽霊?
でも、霊感がない自分にも見えてるってことは、やっぱり人間? どういうこと?
難しいことを考えるのは苦手。
面食らってしまった私に、同じくお菓子を食べていたトキ兄が説明してくれる。
「こいつ、浮遊霊の桃根こいと。おまえの逆憑のオーラに惹かれて、この家を特定したらしい」
「と、特定って。ストーカーじゃん!」
目に見えないから余計にこわいよ!
陽じゃなくて陰属性の方でしたか。失礼しました……ってなるかい!
置かれた状況について行けなくて、心の中のツッコミコマリとボケコマリが漫才を始めちゃったよ。
「ちなみに、恋愛の神様らしい」
「へっ?ど、どういうこと?」
「よーするに、二つのソウル持ってんだと。ウルトラソウルッ! ってやつよ」
ロ●ンスの神様……? そ、それにウルトラソウルって。
たとえがマイナー過ぎるよトキ兄。元ネタしってる私ですら、一瞬動揺しちゃったし。
「言い方ひどいですよぉ」
と、こいとは唇を尖らす。
「特定したのはリア友だって説明したじゃん~」
「リア友?」
「あ、幽霊友達でーす」
ノリが軽すぎる。あなたほんとに神様?
ここまで明朗快活な幽霊は初めて見るよ。
近寄ってくるのは、血相の悪いどんよりとした悪霊ばっかりだったし(悪い霊は霊気が強いから、たまに目に視えたりする)。
「コマリさん、悪霊に狙われてて困ってるんですよね? コマリが困る! あは、マジ卍~」
「……そう、だけども……」
最悪だ。一番いじられたくなかったのに。体質が判明してから、この名前が正に『名は体を表す』でさ。個人的に、コンプレックスになっちゃったんだよね。
こいとちゃんのテンションに乗れず、わたしは小さな声で返事をした。
「うちならその悪霊、倒せるよ」
「はあ? お前が?」
トキ兄が肩眉を上げる。
家に上がらせたはいいものの、まだ彼女のことを信用しきってはいないみたい。確かに第一印象がアレじゃ判断はむずかしいよね。
「なにその反応。塩対応かなしいなあ。んじゃあ見せたげるよ、うちのチカラ」
こいとちゃんは自信満々に宣言すると、くるりと体制を整え床に降り立つ。
そして、右手を頭上に突き出す。指先から、薄紅色の光の球が現れた。
それは徐々に大きくなっていく。静電気も鳴ってるし。
「な、なになになになに!? かめ●め波?」
「必殺★恋魂球(ラブコンボール)ですっ! あ、打たないから安心して~。指パッチンで出し入れ可能。便利っしょ? 敵に打つと数メートルぶっ飛ばせて、こっちの運気はUPしまあす」
わかりやすく説明してくれてありがとう。そしてごめん。
必殺技の名前のインパクトが強すぎて、内容が全然頭に入ってこないです(泣)!
ラブコンボールて。
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.9 )
- 日時: 2023/02/27 20:30
- 名前: かのん ◆7igY4SLYdc (ID: DIeJh8tY)
- 参照: https://www.kakiko.cc/novel/novel7a/index.cgi?mode=view&no=2629
はじめまして。かのんと申します。
小説、とてもおもしろかったです。
台詞にも地の文にも笑える要素がたくさんあって、気づいたらあっという間に最新話まで読んでしまっていました。
キャラクターもすごく好きです。
一番好きなのはミネ・ダークネスです。いや、あらためて打つとミネ・ダークネスって…笑
彼が自称した名前はともかく笑、雰囲気がかっこよくてとても好きです。
コマリちゃんもかわいくて好きです。
授業中の素行が悪すぎて、44点実力なんじゃ…?と若干思ったりもしましたが笑、
こいとちゃんが寄ってきたので、本当に逆憑きなのね、と見直し(?)ました。
こいとちゃんも台詞が面白くて好きです。
セーラー服の上に白いパーカー羽織ってるキャラは絶対かわいい(偏見)。
すみません、長々と書いてしまいましたが、次の話もたのしみにしてます。
更新頑張ってください。